ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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173話 三つの選択肢

「ただいま……」

 

 

 部室の扉を開けると、中は電気が付いていないままだった。まさか、誰もいないのかと不安がよぎる。

 

 

「あ。お帰りなさい。シロコ先輩……」

 

「セリカ……」

 

 

 聞き覚えのある声に顔を向ければ、疲れた顔のセリカが立っている。きっと、自分も同じ顔をしているに違いなかった。

 

 

「何か、見つかった?」

 

「ううん。何も。シャーレの近くまで行ってきたけど……封鎖されててどうしようも無かった」

 

 

 自分の報告を聞いたセリカの顔が曇る。セリカの報告も似たようなものなのだ。

 

 

「こっちもダメよ。知り合いに当たったけど……何も分からないみたい」

 

 

 予想通りの回答に、セリカ自身もウンザリなのか、弱音が口をついて出てくる。

 

 

「こんな時に、カヤツリ先輩が居てくれたら……」

 

 

 その呟きに自分は何も返せなかった。その通りだったからだ。

 

 セリカや自分の知り合いはヒフミや便利屋たちだ。彼女たちが決して役に立たないと思っているわけでは無いが、カヤツリ先輩の伝手はレベルが違う。

 

 各学園のトップたち。彼女たちの力があれば、自分たちが直面している事態も進展が見えるだろうから。

 

 でも、今カヤツリ先輩は居ない。そして、先生も。二人とも連絡が全く取れないのだ。行方も分からない。

 

 

「何よ……シャーレの爆発事故って……」

 

 

 セリカの零した言葉が全てを物語っていた。

 

 アヤネが先生に電話して暫くして、ホシノ先輩の電話が鳴った。通知先はカヤツリ先輩で、ホシノ先輩はそれに飛びついた。

 

 でも、コール音が一度鳴っただけで切れてしまった。ホシノ先輩が掛け直しても全く繋がらない。それどころか電源が切れていると言う。

 

 その時、全員に嫌な予感が走ったのを覚えている。

 

 カヤツリ先輩はそんな嫌がらせのような、意地の悪い悪戯のようなことはしない。特に、今のホシノ先輩相手にするとは考えられない。

 

 アヤネが、再び先生へと連絡した。先生も繋がらない。

 

 全員が何があったのかを調べるために行動した。

 

 セリカは知り合いに連絡を取ったし、アヤネとノノミは端末を使っての情報収集。自分とホシノ先輩は自慢の足で、シャーレまで走った。

 

 そして、自分は移動中に。クロノスの速報で何が起こったのかを知ったのだ。

 

 

『シャーレで爆発事故が発生しました』

 

 

 そんな話が聞こえたから、もう必死で走った。おかげですぐに着いたが、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 周りを侵入禁止のテープで囲まれたシャーレの建物からはいくつか黒煙が上がっていた。爆発事故という割には、建物の全貌は残っていて、そこだけ見れば大したことは無さそうだった。

 

 ただ、その黒煙の上がるフロアが問題だった。複数個所から上がっているが、そのフロアはいずれも中からの爆発でガラスが吹き飛んでいた。

 

 そして、自分は知っている。先生がいつも仕事をしているフロアがどこか。当番で何回も行ったからだ。ホシノ先輩もそうだろう。

 

 先生の仕事場であるフロアから黒煙が上がっていた。

 

 

「ッ」

 

 

 それは、最悪の事態を想像させた。でも、もしかしたらエデン条約の時みたいに瓦礫の下に埋まっているのかもしれない。

 

 そんな微かな希望に縋るように。現場へ足を踏み入れる。ホシノ先輩も同じようで、止めもしないどころか率先して中に入ろうとしていた。

 

 

「まだ危ないから入らないで!」

 

 

 テープを潜ろうとした自分たちを、ヴァルキューレの制服を着た生徒が止める。

 

 

「ん! 離して! 先生が、カヤツリ先輩が、まだ中に居る!」

 

「居ませんよ! 誰も!」

 

 

 制止を振り切って、中に入ろうとする自分にしがみつきながらの言葉に身体が固まった。

 

 

「嘘……」

 

「嘘じゃありませんよ! 爆発からどれくらい経ったと思うんですか! とっくに捜索済みです!」

 

「じゃあ、搬送先を教えてよ。ここに居ないって話でしょ? 病院は何処なの?」

 

 

 静かなホシノ先輩の声に我に返った。確かに、もう見つかって病院にいるなら、ここに居ないというのも納得だった。

 

 

「だから、最初から言ってるじゃないですか!? 誰もいないっていうのは! 誰も見つからなかったって事です!」

 

「は……? そんなわけ……」

 

 

 ホシノ先輩もこの答えは予想外だったのか、言葉に詰まっていた。自分も混乱して言葉が出てこない。

 

 

「私は何も聞いてません! そのカヤツリとかいう人は兎も角、先生が巻き込まれたなら、今頃大騒ぎですよ!? そんな風に見えますか!?」

 

 

 確かに現場は静か過ぎた。テープが境界線のように張られているだけだ。

 

 さっさと追い返したいのか、ヴァルキューレの生徒は理由を叫ぶ。

 

 

「先生が不在で幸いでしたが、何が爆発したのかまだ分からないんです! 中はボロボロで! 未使用と熱で暴発しただろう弾薬が沢山転がっていました! なら! それらが保管されてるシャーレの危険物保管庫の近くにも火が回ったか、そこから爆発したかもしれないんですよ!? もしかしたら、また爆発するかも知れません! だから! 安全が完璧に確認できるまで! ここは通せません!!」

 

「でも……!」

 

「でもも、何も! 無いものは無いんです! 現場保全と安全確保の私たちの仕事を邪魔しないでください!」

 

 

 話は終わりだと言うように、ヴァルキューレの生徒は持ち場に戻っていった。

 

 さっきは気がつかなかったが、装備も良い物を使っている。そして、それらは煤や煙で薄汚れていた。所々が凹んでもいるし、相当危険だったのだろう。

 

 更に、さっきのヴァルキューレの仲間なのか。すぐ側の場所から複数人が、こちらを睨んでいる。

 

 そして、隣でホシノ先輩が泣き声を漏らしたのを最後に、自分たちはその場を離れるしかなかったのだ。

 

 

「ホシノ先輩は……? 大丈夫なの……?」

 

 

 心配そうなセリカの声で我に返る。その質問の答えは分かりきったものだ。

 

 大丈夫なわけがない。

 

 

「あの生徒会室に閉じこもって出てこない……」

 

 

 中で何をしているのかは分からない。でも想像はつく。だって聞いてしまったから。

 

 

 ──嫌だ。嫌だ。いやだよ。あの時と同じなんて……そんなことになったら、わたしは……

 

 

 その事を思い出して胸が痛くなった。もう何時ものホシノ先輩の姿はなかった。あの部屋にいるのは、きっとカヤツリ先輩か、梔子ユメ先輩しか知らないホシノ先輩なのだ。

 

 字面は良く見えるが、全くもっていい事では無い。ホシノ先輩が普段から先輩をやってくれているのは分かっている。きっと一年の自分がやって来てから、そうなのだ。

 

 それが出来ないという事は、それほどまでに追い詰められているという事だ。もう普段の先輩の皮を被っていられないほどに。

 

 きっと泣いているに決まってるのだ。だって出来ることは何も無い。ただ待つ事しか出来なくて、いい未来など想像も出来ない。

 

 だって同じだからだ。

 

 過去のホシノ先輩と梔子ユメ先輩の状況と同じだ。

 

 ホシノ先輩はカヤツリ先輩と喧嘩した。酷い言葉をホシノ先輩は言って、カヤツリ先輩はもう電話しないと言った。

 

 それは、過去に梔子ユメ先輩に怒ったホシノ先輩と同じだ。

 

 そして、ホシノ先輩と梔子ユメ先輩はそれが最後の会話になった。

 

 さっきもカヤツリ先輩の電話をホシノ先輩は取れなかった。

 

 これで、カヤツリ先輩に何かあれば、もうダメだ。まるっきり過去と同じだ。このままなら、ホシノ先輩は過去の過ちを繰り返すことになる。

 

 

「……どうして、あんな事を……」

 

 

 後悔の言葉が自分の口から溢れる。結局は自分の所為なのだ。自分が、生徒会室を、漁ろうなんて言わなければ。あのロッカーを開けなければ。好奇心を抑えていれば。カヤツリ先輩の事をちゃんと考えていれば。

 

 こうはならなかった。そして、それを取り返す事も出来ないのだ。

 

 

「今戻りました……」

 

「アヤネ……ノノミも……」

 

 

 部屋のドアが開く音と共に、二人が帰ってきた。

 

 

「あ。何か分かった?」

 

「ううん。セリカちゃん。詳しい事は何も。ただ、爆発が起こった事だけ……」

 

 

 その答えにセリカはガックリしたように俯いた。

 

 

「ホシノ先輩は……ごめんなさい……」

 

 

 ノノミが部屋に居ないホシノ先輩を探すが、居ないという事実から理解したみたいだった。自分と同じ結論に達したのだ。

 

 

「……何か、変です。動きが無さすぎます! 先生が行方不明なんですよ!?」

 

 

 そして、ノノミは我慢の限界だと言うように叫びだした。

 

 動きが無さ過ぎる? そんな筈は無い。だって自分は確かに、黒煙が上がるシャーレを見た。ヴァルキューレも出動していたし、大騒ぎになっている筈だ。

 

 

「どういうこと? アヤネ?」

 

「各学園の動きが何も無いんです……連邦生徒会からの発表も、先生は業務中だと……クロノスだけです。クロノスだけが、何時ものように憶測混じりの放送を繰り返すだけなんです」

 

「は!? 何でよ!? シャーレが爆発して、先生が行方不明なのよ!? 今まで、散々助けて貰ったクセに! 面倒だから放置ってワケ!?」

 

 

 セリカの言うような事は無いと信じたい。ただ妙な感じがする。

 

 

「ただの爆発事故ではないのかもしれません」

 

 

 アヤネが、俯いた顔を上げていた。

 

 

「何か、私たちの知らない何か。それが動いていて、先生は身を隠しているのかもしれません」

 

 

 とりあえずは先生が無事だと言う前提で話をすることにしたらしい。ただ、その場合はカヤツリ先輩はどうなった?

 

 

「カヤツリ先輩は? 一緒に行動してるってこと?」

 

「……分かりません」

 

 

 アヤネの声か暗くなる。表情もだ。

 

 

「さっきのカヤツリ先輩の電話が気になります。ホシノ先輩に伝えたいことがあったから電話をかけた」

 

「ん。そのはず。カヤツリ先輩は悪ふざけはしない」

 

 

 セリカもノノミも頷いている。アヤネもそうだと思っているだろう。だからこそ、今の状況は異常だった。

 

 

「だったら、また連絡が来るはずです。爆発に巻き込まれたなら、安否の連絡が来るはずなんです……それが無いってことは……」

 

 

 その先は誰も何も言えなかった。言わずとも知れたことだからだ。

 

 

「ホシノ先輩に、何て言えばいいんですか……」

 

 

 ノノミの言葉に全員が黙り込む。どうしようもない。カヤツリ先輩から、連絡か情報が来るまで、ただ座して待つしかない。

 

 

「……そして、私達は考えなくてはならない事があります」

 

 

 アヤネが本題だと言うように、重い口調で切り出した。

 

 

「砂漠横断鉄道の、シェマタの事です。カヤツリ先輩が行方不明の今。アレをどうするかを決めなくてはいけません」

 

 

 全員がハッとした。そうだ。明日の正午の総会に、カヤツリ先輩が間に合わなければ、砂漠横断鉄道は私募ファンドの物になってしまう。

 

 彼らの目的は、ネフティスの言う通りにシェマタなのだろう。彼らがそれを手に入れればどうなるか。きっといい結果にはならないように思う。

 

 

「カヤツリ先輩や先生を信じて、私たちは何もしない。そんな選択もありますが……」

 

「ありますがって、私たちは何もできないじゃない。向こうが指名したのはカヤツリ先輩。私たちじゃないのよ」

 

 

 セリカの答えは真っ当だった。自分たちに出来る事は何もない。でも、そんな事はアヤネはとっくに分かっているはずだ。アヤネがそれでも言葉に出すと言う事は、方法があるのだろう。

 

 

「二つ、方法があります……」

 

 

 とても言いにくそうに、アヤネは言った。

 

 

「一つは、誰かに頼る事です。それも、大きな力を持った誰かに」

 

「誰かって、誰よ。カヤツリ先輩の伝手は使えないわ。先生もいない。一体誰の力を借りる……まさか。ダメよ。絶対ダメ!」

 

 

 セリカはノノミの表情を見て、大声で否定した。

 

 

「ネフティスの!? ネフティスの力を借りるつもり!? アイツらがカヤツリ先輩になんて言ったか忘れたの!?」

 

「ノノミ。連絡が来たの?」

 

 

 ノノミの様子はおかしくて、その理由は今のセリカの言葉に対する反応で分かった。自分の問いに、ノノミは悲しそうに笑って頷いた。

 

 

「シロコちゃんにはバレちゃいますか……。はい、さっきメールが来ました。一人で指定の場所まで来るようにと」

 

「絶対ダメよ! このタイミングだもの。何か知ってるし、企んでるに決まってるわ!」

 

「ん。間違いない。何か企んでる。行っちゃだめだよ。ノノミ」

 

「昨日のホシノ先輩も言っていました。罪悪感に付け込んでくると。私も、止めた方が良いと思います」

 

「そうですよね。分かりました。無視することにします」

 

 

 全員から止められて、ノノミは安心したように笑っていた。

 

 きっと、ノノミも分かっているのだ。それが、罠であることくらい。でも、自分のせいでこうなったようなものだから。罪悪感に塗れて辛いに違いなかった。

 

 

「ん。その案は却下になったけど、もう一つの案って?」

 

「……あまりいい手ではないです。特に、今の状況では」

 

 

 気になった自分はアヤネに尋ねると、アヤネは妙なことを言った。それは、前ならいい手だった様な言い方だったからだ。

 

 

「私募ファンドはカヤツリ先輩を指定しました。それは、契約書で代理人としてカヤツリ先輩が指名されていたからです」

 

 

 そのことについて不審な点は無い。私募ファンドの言い分は真っ当だった。そこで、ふと思い返す。そのことについて、アヤネが何か言っていたような気がしたのだ。

 

 

「確かに、私募ファンドの言い分は正しいんです。しかし、それは明日の正午以降。カヤツリ先輩が代理人になってからの話なんです」

 

「ネフティスの時に言ってた話? カヤツリ先輩じゃなくてもいいとか……」

 

「はい。シロコ先輩。その時の話です」

 

 

 自分の記憶は確かだったようで、アヤネは神妙に頷いている。確か、あの時はカヤツリ先輩でなくてもいいみたいな話だった。

 

 

「まだ今の時点では、最初の契約が生きています。最初の契約は、梔子ユメ先輩がアビドス生徒会名義で結んだ契約です。ですから、アビドス生徒会の人間なら、契約に口を出す権利があります」

 

「カヤツリ先輩じゃなくても良いってこと? じゃあ、その人に……」

 

 

 セリカは火が消えたように、また黙り込んでしまった。アヤネが、その権利がある人の名前を言う。

 

 

「はい。梔子ユメ先輩がいない以上。その権利があるのは、前アビドス生徒会副会長。……ホシノ先輩です」

 

 

 全員がまた、押し黙った。アヤネが言った意味が理解できたからだ。

 

 ホシノ先輩に権利があるのは分かる。そして、そうするのが最善だと言う事も。

 

 ただ、そのことを今のホシノ先輩に頼めるだろうか。

 

 生死不明のカヤツリ先輩の代わりに、総会に出てくださいと。

 

 今のホシノ先輩はもう限界だ。自分たちのせいで、限界なのだ。

 

 かつてのホシノ先輩がやってしまった事。梔子ユメ先輩に八つ当たりし、それが最後の会話になったこと。先輩の言葉を、真意を知れなかったこと。

 

 さっきのホシノ先輩がやってしまった事。カヤツリ先輩に怒り。それで、さっきの電話をとれなかった。カヤツリ先輩とはまだ連絡が取れないままで、安否も分からない。カヤツリ先輩が何を思っていたのかも分からない。

 

 それを、もう一度突きつける事になる。だって、自分たちが言うのはこういう事だからだ。

 

 

 ──カヤツリ先輩が死んでしまったかもしれないので、代わりにカヤツリ先輩の仕事をやって下さい。

 

 

 どの口で、そんなことを言えるというのか。全ては自分が、余計なことをしたせいだと言うのに。

 

 自分が、あの手帳を見つけなければ、生徒会室を漁らなければ、ホシノ先輩とカヤツリ先輩は喧嘩しなかった。

 

 ホシノ先輩が、生徒会室に篭るような事態にはならなかった。

 

 元凶である自分たちが、被害者たるホシノ先輩に無理を強いるのか?

 

 

「私たちには三つの選択肢があります」

 

 

 アヤネが冷静を装って、事態を纏める。

 

 

「一つは、ノノミ先輩に頼んで、ネフティスの力を借りる。大企業ですし、ハイランダーとも協力関係です。私募ファンドと敵対する理由もある。きっとノノミ先輩が頼めば力を貸してくれるでしょう」

 

 

 しかしと、アヤネは口調を厳しくする。

 

 

「彼らは対価を求めるでしょう。きっと大きなものを。そして、彼らが砂漠横断鉄道を手に入れる結果に終わるはずです。その場合に何が起こるか分かりません」

 

 

 それは、現状を打開できるが、敵対する相手が変わるだけの話だった。むしろ、弱みがある分立場が悪くなる。余り選びたくはない選択肢だった。

 

 

「二つ目はホシノ先輩に頼むことです。こちらは対価は必要なく、ホシノ先輩という時点で信頼性はバッチリです」

 

 

 でもと、アヤネは気まずそうな顔になる。

 

 

「ホシノ先輩が限界です。これ以上の負担を負わせたくありません。それに、私募ファンドもネフティスも、総会の出席を妨害するはず。それを跳ね除けられるかが問題です」

 

 

 さっきとは違って、今度は安心感のある方法だった。ホシノ先輩は強いし、妨害も自分たちが協力すれば何とかなるかもしれない。でも、一番は自分たちが頼める立場ではない事と、ホシノ先輩の状態だ。あまり気の進まない選択肢だった。

 

 

「三つ目。最後ですが。何もしない事です。カヤツリ先輩が何か考えていると信じて、何もしない事」

 

 

 アヤネは不安そうな声になる。

 

 

「カヤツリ先輩の事ですから、何か手は打ってあるでしょう。連絡がつかないのも計画の内かもしれません。問題点としては、あの爆発と私たちと連絡が取れないことが想定外だった場合です」

 

 

 その場合。砂漠横断鉄道は私募ファンドに奪われるだろう。シェマタも一緒にだ。何も分からない今。その手段を選ぶのはリスクが高すぎる。

 

 

「全部ダメよ! 八方塞がりじゃない! ネフティスには頼れない! ホシノ先輩は限界! 何もしないって判断するにも情報が無さ過ぎよ! どうしろって言うのよ!!」

 

 

 セリカがもう我慢できない。そんな風に叫びだす。

 

 

「出来ることをするしかありません」

 

「まさか、アヤネちゃん……」

 

「はい……ノノミ先輩。私とセリカちゃんだけで、ホシノ先輩に頼みに行きます」

 

「それは……!」

 

 

 それは、ダメだった。それではまるで、謝れない子供の様ではないか。代わりに後輩を謝りに行かせるなど、道理が全く通らない。

 

 

「ダメ。私たちも行く。私たちが頼まなくちゃダメ。私がやってしまった事だから」

 

 

 ホシノ先輩はどんな反応をするだろう。怒るだろうか、泣くだろうか、無視するだろうか。それでも、向き合わなければダメだと思うのだ。

 

 

「それで、ホシノ先輩が断るなら仕方がない。そうしたら、別の方法を考えよう。もしかしたら、カヤツリ先輩か、先生から、連絡が来るかもしれない」

 

 

 それは、希望的観測だった。そうなる保証は全くない。後輩二人に行かせた方が丸く収まるかもしれない。でも、それは違う。

 

 それは、唯の保身だ。逃げだ。それを選んだら、自分は二度とホシノ先輩を先輩と呼べなくなる。それなら、自分が辛い思いをする方がマシだ。

 

 

「……そうですね。シロコ先輩。皆で行きましょうか。謝るのと、今の話をしにいきましょう。きっとその方が良いんです。さっきの話は忘れてください」

 

 

 アヤネは憑き物が落ちたかのような顔になっていた。アヤネもアヤネなりに悩んだのだろう。その気持ちは嬉しかった。

 

 ホシノ先輩の待つ生徒会室に行くために、重い足を動かす。ノノミにも声を掛けた。

 

 

「ノノミ。一緒に行こう……ノノミ?」

 

 

 ノノミは、いつの間にか、窓の外を見ていた。正確には校門の方を。そっちを見たまま動かない。目を見開いて、信じ難いモノを見た様な、まるで幽霊でも見た様な顔だった。

 

 

「ノノミ? どうしたの?」

 

「まさか……!」

 

 

 ぶつぶつと、呟いたノノミは、勢いよく扉を開けて、外へと出て行ってしまった。

 

 

「ノノミ先輩!? 急にどうしたのよ!?」

 

 

 セリカが驚いて、廊下に向かって声を掛けるが、返事はない。どうにも昇降口の方へ向かっているように見える。

 

 

「ノノミ!!」

 

 

 急いで部室の窓から校庭へ叫べば、ノノミはもう校門の近くを走っていた。自分の声には全く反応しない。

 

 そして、自分は確かに見たのだ。

 

 校門の影へと消えた。アビドスの制服を。そして、あのロッカーの中から見つけた写真と同じ、緑の長い髪を。

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