ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
ガチャガチャと音を立てて、部室のロッカーから自分の愛銃を取り出す。
愛用のドローンやグレネード各種も忘れない。
もう相手は、ホシノ先輩は校庭で待っている。着の身着のままで、盾とショットガンだけ持って。
「……ホシノ先輩」
実に癪だ。あれは本気の装備ではない。しかも、自分の提案の後直ぐに校庭へ出て行った。
ホシノ先輩にとって、自分はそのくらいの脅威でしかないのだ。
「シロコ先輩!」
「ん……何。セリカ」
セリカの声が、準備と戦闘のシュミレーションに夢中になっていた自分の意識を引き戻した。
自分を呼んだセリカの顔は不安で一杯だった。
「本当に、ホシノ先輩と戦うの?」
「それ以外の方法がない」
バッサリとセリカの質問を切り捨てるが、セリカは食い下がる。
「でも! 意味が無いじゃない! 何で、ホシノ先輩とシロコ先輩が戦わなくちゃいけないのよ!」
ガシリとセリカは自分の制服を掴んで、尚も言い募る。
「ホシノ先輩は、私達に傷ついて欲しくない! シロコ先輩はホシノ先輩に傷ついて欲しくない! だったら、話せば分かる筈よ!」
「ダメだよ。もう遅い」
「遅いって何よ! まだ遅くもなんとも──」
「私達の所為なの!」
自分の大声でセリカは黙った。セリカが言う事が正しいのは分かる。普段のホシノ先輩なら、話を聞いてくれただろう。
「私とノノミの所為なの……」
ただ、それはもう遅い。今のホシノ先輩には、もう遅い。
「今のホシノ先輩は普通じゃない。もう限界なんだよ」
あの選択は、普段のホシノ先輩なら絶対に出さない選択だった。冗談で、ゲヘナみたいなことを言うことはあっても、本気で言うことはなかった。
ただ、あの時のホシノ先輩は本気だった。つまりは普通の状態ではない。表面上は普通に見えてもそうじゃない。その理由は明白だった。
「私が、ホシノ先輩を追い詰めたんだよ……?」
興味本位で、カヤツリ先輩が隠していたモノを掘り返した。
それは、ホシノ先輩とカヤツリ先輩の二人を傷つけた。そして、二人は喧嘩して、その後カヤツリ先輩と連絡が取れなくなった。
ホシノ先輩にとって、それは過去の辛い思い出を思い出させるものだ。
かつて、梔子ユメ先輩と喧嘩別れして、それが最後の言葉になった。その思い出と。
「今の状況は、ホシノ先輩にとって昔と同じ。でも、一つだけ違うことがある。まだ、カヤツリ先輩は生きてる」
それならば、まだ間に合う。間に合わせるためなら、ホシノ先輩はなんだってやるだろう。
今ならまだ、取り返せなかった後悔を取り返せる。そうしなかったら、あの辛い思いをもう一度味わう事になる。
「だから、ホシノ先輩は待てない。私がホシノ先輩をそうしたんだよ……」
「だからって、力ずくで言う事を聞かせるの!?」
「でも、そうしないとホシノ先輩は!」
きっとホシノ先輩は遠くに行ってしまうだろう。自分とて、カヤツリ先輩や先生がどうでもいいわけではないが。ホシノ先輩のやり方は力づくが過ぎる。まるで、私募ファンドのやり方だ。
それでも、セリカは自分をしっかりと見つめて言うのだ。
「それで、シロコ先輩がホシノ先輩に勝ったとしても! ホシノ先輩はどうなるの!?」
「あ……!」
それは、良くないかもしれない。
それは、今度こそ、ホシノ先輩の心を砕いてしまうのではないだろうか。
ホシノ先輩は強い。自分などよりもずっと。そして、ホシノ先輩はそれしか取り柄がないと思っている。その取り柄すら失くなってしまったら……。
「でも、どうすれば良いの……?」
「言葉で言うしかありません。シロコ先輩」
今まで黙って何事かを考えていたアヤネが口を開いた。
「でも、さっきは全然聞く耳を持たなかった」
「それでもです。シロコ先輩。力ではきっとホシノ先輩には届かないと思うんです。力量の話ではなくてです」
アヤネは、手の端末を強く握りしめて、自分へ言う。
「きっと今回の事態は、お互いの距離が近すぎたがゆえに起こった事態です」
そうだ。自分は甘く見ていたのだ。先輩たちは優しいから。ずっと、そうだったから。
心のどこかで、何をやっても許してくれるなんて思っていたのだ。
カヤツリ先輩は間違えないと思っていた。ホシノ先輩はずっと冷静だと思っていた。
でも、決してそんなことはなかった。
考えてみれば、自分と一年しか違わない。二人だって、そんな完璧じゃないのだ。
それなのに自分は、二人に頼りきっていたのだ。二人が自分たちに見せている姿が、そのままの二人だと。そんな馬鹿な事を考えていた。
「悔しいですが、私たちはまだ一年も経っていません。だから、シロコ先輩しかいないんです」
「どういうこと……?」
アヤネの言葉の意味が分からない。この事態は年数の問題ではない。
「私達はホシノ先輩やカヤツリ先輩の事をあまり知りません。今の二人の姿しか。でも、シロコ先輩は私達よりも知っているでしょう?」
「でも、アヤネ。そのせいで、私は二人に酷いことをしたんだよ。今も、力づくで何とかしようとしてる」
まだ後輩二人の方がいいのではないか。そんな思いが強い。きっと今さっきみたいに、冷静な二人の方がいい。
でも、アヤネは首を横に振る。
「だからこそ、シロコ先輩しかいないんです。ノノミ先輩もカヤツリ先輩も、先生も。ここには居ないんですから」
「私達じゃ、さっきみたいな事しか言えないの。正論しか言えないのよ……。でも、シロコ先輩は違うはずよ」
セリカは悔しそうに唇を噛んでいる。
「シロコ先輩は二年生の時のホシノ先輩を知ってるんでしょ? だから、ホシノ先輩の気持ちが分かる。違う?」
それにはしっかりと頷く。過去の話。自分がここにやって来る前の話も必要だったが、今のホシノ先輩の気持ちは分かる。
「私達とシロコ先輩の気持ちは一緒よ。ホシノ先輩に傷ついて欲しくない。ホシノ先輩もそう。私達に傷ついて欲しくない。でも、私達じゃ、そうとしか言えないの」
「シロコ先輩にとって、ホシノ先輩は特別なんですよね?」
「ん。ホシノ先輩とカヤツリ先輩。それとノノミ。あの三人と私で対策委員会は始まったから」
それは大切な思い出だった。何も無かった自分が、初めて手に入れたかけがえのないモノ。
「なら、ホシノ先輩にとっても、シロコ先輩は、カヤツリ先輩もノノミ先輩も特別なんじゃないんですか?」
アヤネも、セリカと同じ顔になっていた。悔しそうに唇を噛んでいる。
「勿論、ホシノ先輩が私達を蔑ろにしている。そんな意味ではありません。ホシノ先輩が私達を大事に思っていることは伝わりますし、ホシノ先輩もそんなつもりは全くないはずです」
「でも、ホシノ先輩にとっては、ノノミ先輩とシロコ先輩は特別なのよ。カヤツリ先輩とは別枠のね」
セリカは窓の外。校庭のホシノ先輩をチラリと見た。
「ホシノ先輩にとって、シロコ先輩とノノミ先輩は、初めての後輩だったはずよ。だから特別だって言ったの。その気持ちが、シロコ先輩なら分かるんじゃないの? シロコ先輩にとっての私達が、ホシノ先輩にとってのシロコ先輩とノノミ先輩なのよ」
漸く、二人が悔しそうにしているのが分かった。二人は正論を言えても、ホシノ先輩に響く答えを言っても意味はないと思っているのだ。
ホシノ先輩にとっては、アヤネとセリカは別枠なのだと。
それはある意味正しいのかもしれない。でも、二人が悔しそうにする必要はない。その必要がないことは分かる。
「ホシノ先輩は、アヤネとセリカも特別だと思ってると思う」
二人に、言い聞かせるように自分の想像を話す。
「私とノノミは最初の後輩だけど。ここに来たのは成り行き。それはカヤツリ先輩だってそう。自分の意思でここに来たのは、アヤネとセリカの二人だけ」
あの時の事はよく覚えている。
──何か手伝わせて下さい。私達もアビドスの為に何かしたいんです。
そう言ってやって来たのが二人だった。
二人が帰った後、ホシノ先輩は喜んでいた。口には出さなかったけれど、確かに喜んでいた。
「戦うんじゃなくて、ホシノ先輩と話そうと思う。でも、私は上手く話せないかもしれない。だから、二人も一緒に行って欲しい」
それは、あの時に学んだことだった。
あの空の上で、アトラ・ハシースの箱舟の中で、もう一人の自分の前で。
一人で勝てないなら、皆で勝てばいい。
それは、勝負事以外もそうなのだ。
自分だけなら、説得は無理かもしれない。でも、三人なら。さっきみたいにバラバラじゃなくて、協力すれば。ホシノ先輩の心に声が届くかもしれない。
「お願い。私を助けて。セリカ。アヤネ」
二人は力強く頷いた。悔しそうな表情はもう、どこにもなかった。
□
「遅かったね。シロコちゃん」
随分と待たされた。戦闘の緊張感を維持するのも楽ではないのだ。
セリカちゃんとアヤネちゃん。そしてシロコちゃんが、自分の目の前までやって来ていた。
武装しているのはシロコちゃんだけで、後の二人は丸腰だ。せめて近くで見届けたいというつもりなのかもしれない。
「うん。じゃあ、やろうか。開始の合図はシロコちゃんが決めていいよ」
「ん。始める前に、言いたい事がある」
はてと首を傾げつつも了承する。すると、シロコちゃんは頭を下げた。
「ごめんなさい」
「……何のつもり? 頭を下げたからって……」
「違う。これで、諦めて貰おうなんて思ってない」
顔を上げたシロコちゃんの目に諦めの感情は見えなかった。まさか、正面から戦って勝てるつもりなのだろうか?
確かにシロコちゃんの資質は自分に並ぶ。このままいけば、いつか追い抜かれる日がやって来る。けれど、それはまだ先のはずだった。その事はシロコちゃんも理解している筈だ。
だから、さっき喧嘩を申し込んだ時、確かに目の中に諦めがあったのだ。それが綺麗さっぱり無くなっている。
「悪いことをしたら謝る。ホシノ先輩が教えてくれた事。だから、先に謝っておこうと思って」
「何? 言ってみてよ」
シロコちゃんは、バツの悪い顔をして、口を開いた。
「生徒会室を漁った事。カヤツリ先輩がホシノ先輩の為を想って隠したものを暴いた事。そして、そのせいで二人が喧嘩したこと。まだ言ってないことがある事。……最後に、ホシノ先輩をここまで追い詰めた事」
「……それで? もう始めていいの?」
シロコちゃんの謝罪に返事はしなかった。二つの気持ちがあったからだ。
一つはシロコちゃんがここまで真剣に謝ったんだから許すべき。
もう一つは、純粋な憤り。自分の大切な場所を踏み荒らされ、見たくもないものを突き付けられたことに対するもの。
それが自分の中で喧嘩していて、はっきりとは答えられなかった。
シロコちゃんと言えば、そんな自分に気がついているのか、いないのか。変わらない様子で立っている。
「ん。準備は出来た。何時でもいいよ。言いたいことを言って良い」
「……何を言ってるの? シロコちゃんが言ったんでしょ。喧嘩しようって。それは何のつもりなの?」
殺気立つ自分とは対称的に、シロコちゃんは銃を下ろしていた。自分へ対する敵意は感じなかった。
シロコちゃんは飄々とした顔で言ってきた。
「喧嘩は喧嘩でも、口喧嘩。さっきの謝罪はこのため」
「何それ、カヤツリみたいなこと言うね。いいよ。シロコちゃんがそのつもりなら、勝手にいくよ」
こんなのに付き合っていられなかった。こっちの覚悟を踏みにじられた気がした。ほっとする自分もいて、気分が悪い。もう、ぐちゃぐちゃだった。
踵を返そうとした背中に、シロコちゃんの声が投げかけられる。
「ん。そうするなら、私はホシノ先輩の跡を追いかける。私ならホシノ先輩に追いつける」
向けた背中を元に戻さざるを得なかった。後輩を巻き込まないために一人で行くのに。それでは、自分一人で行く意味が無くなってしまう。
「……シロコちゃん達を納得させろってこと?」
「ん。そう。私とセリカとアヤネ。全員が納得出来たら、諦める。もうホシノ先輩を止めない」
ふざけた話だった。シロコちゃん達に有利が過ぎる条件だった。納得などさせられないに決まっている。納得させられても、口ではどうとでも言えるからだ。苛立ちを隠せないで叫ぶ。
「じゃあ、どうにかする方法を教えてよ! ノノミちゃんもカヤツリも先生も! 誰も犠牲にならずに何とかする方法をさ!」
「そんな方法はないわ」
今度はセリカちゃんが答えた。答えの内容とは裏腹に表情は真剣だったが、肝心の内容が片手落ちだった。
「なら──」
「今の段階はです。ホシノ先輩」
次はアヤネちゃんだった。次の答えは簡単に分かる。
「だから、待てって言うの!? でも、さっきも言ったように、時間が無いんだよ!」
「はい。ホシノ先輩の言う通りに、
そうだ。この問題に対して、絶対的な答えはない。あったなら、自分がこんな選択をしなくて済んだ。後輩相手に怒鳴り散らすなんてことをせずに済んだ。
「でも、どうして、ホシノ先輩だけが行く必要があるんですか?」
「それは言ったじゃない! 皆の事を守りたいんだよ! 皆には幸せになってほしいって! ちゃんとした学校生活を送ってほしいんだよ!」
そうあってほしいのだ。それが先輩の役目だから。自分に付いていったら、マトモな生活を送れないだろう。私募ファンドとネフティスに付け狙われる。
「それは違うよ。ホシノ先輩」
シロコちゃんは、さっきとは違う悲しそうな目で自分を見ていた。
次の台詞は分かる。さっき言われたからだ。後悔したくないからだと。そう言うのだろう。
「私たちは嫌だよ。ホシノ先輩が居なきゃ嫌だ。ノノミやカヤツリ先輩や先生だけじゃなくて。ホシノ先輩も居なきゃ嫌だ!」
さっき迄の飄々とした様子は消え失せていた。我儘を言う子供の様に、シロコちゃんは言い募る。
「嫌だよ。皆が居るアビドスが私の全てなんだよ。どうして、皆の中にホシノ先輩だけが入ってないの。どうして、ホシノ先輩はそう思うの!? 私にとって、ホシノ先輩はそんなに軽くない!!」
「それは……」
「そう、言われたからですか? 先輩は後輩を守るモノだと。そう言われたからですか?」
どきりとした。アヤネちゃんは静かな口調で切り込んできた。
「だから、自信が無いんですか? 他人から言われて、そうしていたから。自分でそう思ったわけじゃないから。自分でそうしようとしたわけじゃないから。だから、そうやって、自分を顧みないんですか?」
その通りだった。
自分はユメ先輩の言葉に従って生きてきた。ユメ先輩は正しかったからだ。いつも自分は間違いばかりだったからだ。自分が選んだ選択はいつも碌な結果にならなかったからだ。
自分に自信? そんなもの持てるはずがない。持てるのは戦闘関連だけだ。
だから、ずっとユメ先輩やカヤツリの後追いだった。今までやったことはカヤツリと一緒だった。自分一人だけで成し遂げたことなど一つもないのだ。
そんな自分が、どうして自信を持てるだろう。
「だって、私は……失敗ばかりなんだよ。なら、正しい事をして何がいけないのさ……。私が頑張れるのは、結果を出せるのはこれしかないし、これが一番被害が少ないんだよ」
「ふざけないで下さい!!」
アヤネちゃんが激怒しているのは初めて見た。唖然とする自分にアヤネちゃんは更に怒鳴った。
「私たちの事を見くびらないで下さい!! 最初はそうだったのかもしれません! ホシノ先輩自身がそう思ったわけでは無いのかもしれません! 誰かの真似をしていたのかもしれません! でも、そんな人に私たちはここまで着いていきません!! 私たちのホシノ先輩の事をバカにしないで下さい!」
言いたいことを言い切ったのか、アヤネちゃんは息切れしていた。そして今度は、おずおずとセリカちゃんが言う。
「私たちは知ってるもの。ホシノ先輩は良い先輩だって。ちゃんと先輩をやってるって。失敗しないから、私たちを助けてくれるから、ホシノ先輩が好きなわけじゃないわ。私たちが一緒に居たいから居るのよ。だから、一人で行かないでよ。一人で決めつけないでよ。ホシノ先輩」
もう、どうすれば良いのか分からなくなっていた。
正しさが欲しかった。自分のやったことが合っていると言う実感が欲しかった。
それを教えてくれたカヤツリやユメ先輩は居ない。だから、今は一人で決めなければならなかった。
あの三人を失うなんて耐えられなかったから、力づくの方法を選んだのだ。それが一番自信があって、皆に迷惑を掛けなくて、失敗しても泥を被るのは自分だけだから。
「私の先輩は、ホシノ先輩とカヤツリ先輩だけなんだよ。私は嫌だ。全員が居ないと嫌だ。居なくなったホシノ先輩の事を思って日々を過ごすのは、そんな皆を見るのは嫌だ! そんなの幸せなんかじゃない!!」
「あ……」
目に涙を浮かべて叫ぶシロコちゃんと誰かが重なって見えた。
その誰かは、とてもよく知っている人間だった。
自分だった。過去の、先輩が居なくなった直後の自分。
あの時の自分はずっと泣いていた。ユメ先輩を失った事が悲しくて、それが自分のせいであることが苦しくて。部室に帰る度に居ないユメ先輩を思い出して泣いていた。
──それは、今のシロコちゃんが言った事と同じなのではないのか?
──自分と同じ思いを後輩たちに味わわせる事になるのではないのか?
それは、正しくない事だと分かった。何よりも、自分の心が嫌だと叫んでいた。その苦しみは良く知っているからだ。あれを後輩たちに味合わせるわけにはいかなかった。
でも、どうすればいいのか分からないのだ。もう何も分からない。
カヤツリやノノミちゃんの件は不確定要素の塊だ。確かに時間はないかもしれないが、全くないという訳でもないのだ。だから、待つくらいはできる。
でも、その選択が怖かった。さりとて、ここまで言う後輩たちを無視することもできない。
──ねぇ、ホシノちゃん。もしもホシノちゃんに後輩ができたら。絶対に守ってあげるんだよ。先輩は後輩を守るものだからね。
これまで自分を支えてくれたユメ先輩の言葉が、不具合を起こしていた。
ノノミちゃんを助けに行けば、シロコちゃん達が悲しむ。シロコちゃん達を優先すれば、ノノミちゃん達がどうなるか分からない。答えを出さずに保留することはできない。
「……シロコちゃん達は行ってほしくないんだね?」
ならば、自分の心に従うしかない。後輩たちは、それが良いのだと言う。今までの、失敗ばかりで、自分一人では何一つできなかった自分が良いのだと言う。
「……アヤネちゃん。ここから総会の会場まで行くのに、いつまでに出ればいい?」
「明け方までです。その時間までに出れば間に合います」
自分が居ない対策委員会よりも、自分がいる方が良いのだと言う。今までのような生活でなくとも、その方が良いのだと。
「分かった。待つよ」
「……!」
三人の顔が輝いた。ただ無制限に待つわけでは無い。
「最悪の事態に備えて総会には行かなきゃいけない。だから、明け方まで待つ。その間に何も解決策が出ないなら、私は一人で行くよ」
それが、自分に出せる妥協点だった。ただ、それでも三人にとっては十分だったらしい。大きく満足そうに頷いていた。
「……決めちゃった」
今更になって恐怖が押し寄せてくる。自分で決めてしまった。最初から全部自分で決めてしまった。この選択の結果は全部自分で受け止めなければならない。
怖い。怖くてたまらない。もうユメ先輩は助けてくれない。でも、どこか安堵と喜びも感じている自分もいた。
もう自分が分からなくて、現実逃避に空を見上げる。もう暗くなった空に戦闘ヘリが見えた。
「あれは、何処の……?」
後輩たちも、訝しげに空を見上げる。戦闘ヘリは真っ直ぐに此方へ向かっている。機体側面のロゴは見えず、何処の所属か分からない。
たが、近づくにつれ、何処の所属かはハッキリ分かった。
「ゲヘナ……? ゲヘナが何の用事があって……?」
校庭の、自分たちの上空にホバリングするヘリの側面のロゴ。ゲヘナ学園の特徴的なロゴがハッキリ見える。
そして、そのロゴが脇にスライドしていく。ゆっくりと、ヘリの扉が開かれようとしていた。
「あ……」
扉が開いた先には、信じられない、此処には居ないはずの人が立っていた。シロコちゃんが、喜びの声でその人を呼んだ。
「先生!」
いないはずの、私募ファンドに捕まっているはずの先生が、そこに立っていた。