ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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177話 二年越しの伝言

 対策委員会の部室は人数だけなら、普段と同じに戻っていた。

 

 カヤツリとノノミちゃん。それと先生が居なくて、広かった空間は同じ人数で埋められていたからだ。

 

 

「十六夜ノノミが攫われた。ねぇ……」

 

 

 空いたノノミちゃんの席で、マトちゃんが遠い目をしていた。

 

 

「よほどネフティスは切迫しているのね……」

 

 

 そして、カヤツリの席ではヒナちゃんが目を閉じて、何ごとかを考えていた。

 

 正直言って、色々ありすぎて追いつけない。だから、全て知っているだろう人間に聞く事にした。

 

 

「説明してよ。先生。全部知ってるんでしょ? ヒナちゃんたちがここに居る理由も、……カヤツリがここに居ない理由も」

 

 

 自分の席に座る先生に、静かに問いかける。先生がここに居る以上、ネフティスが語った事は間違いだった事になる。なら、カヤツリだってここに居ていいはずだった。

 

 でも、カヤツリはここに居ない。答えを知りたくて仕方がない。さっきまで静かになっていた不安がまた暴れ出していた。

 

 

「うん。今から話すよホシノ。対策委員会の皆にも。その為に私はここに来たんだ」

 

 

 そう言って、先生はあの時にあった事。電話が切れた後の事を話し始めた。

 

 

 □

 

 

 先生である自分が最初にやった事は、吸い込んでしまった粉塵を吐き出そうと咳き込む事だった。

 

 いつの間にか、座っていたデスクからは大きく吹き飛ばされて、壁に寄りかかっていた。今更ながら、打ち付けただろう背中の痛みが襲ってくる。

 

 

『大丈夫ですか!?』

 

 

 自分の持った端末。シッテムの箱から、アロナが自分へと呼びかける。アロナには珍しく切羽詰まった声で、それで何か尋常でない事が起きたのは分かった。

 

 

「何が起きたの……」

 

『爆発です。先生。爆弾が爆発したんです』

 

「爆弾……?」

 

 

 思わず、アロナが言った言葉を繰り返す。

 

 確かに、辺りは粉塵が舞っているし、窓ガラスは内側から吹き飛んだ様に無くなっているから、何かが爆発したのは確かだ。

 

 

「でも、前に皆が点検してくれた時は、何も無かったって……」

 

 

 カイザーにシャーレが占拠された後、生徒たちが総力を上げて点検した筈だ。誰にだってミスはあるが、あの場の全員が見逃したなんて事があり得るのだろうか。ただ、アロナが展開するバリアの上からここまでのダメージを与える爆弾だ。相応の大きさのはずだ。

 

 

『一部肯定。この部屋で爆弾が爆発したわけではありません』

 

「プラナ……?」

 

 

 シッテムの箱から、もう一人の声が響く。向こう側のアロナ。プラナが疲労と困惑が入り混じった顔で自分を見ていた。

 

 

『未だ確認が不十分で使用禁止になった部屋。その全てから爆発が発生しました。威力がこの部屋に集中する位置とタイミングで』

 

 

 不運にも程があるタイミングだった。本当に運が悪い……

 

 そう思ったところで、さっき聞いた言葉を思い出して固まる。

 

 

『先生も不審に思いましたか? プラナちゃんも言いましたが、何かおかしいです! さっきのガス管もです!』

 

「ガス管? さっきも、そう言ってたね?」

 

 

 ついさっきのプラナの言葉が確かそうだった。

 

 

『はい。一瞬だけ、異常を検知しました。その時だけ、ガス管の配置が変化していました』

 

「その時だけ?」

 

『はい。彼の言葉と同時に異常は無くなり、直後に爆発が発生しました』

 

「カヤツリは? カヤツリはどうしたの!?」

 

 

 プラナの彼という言葉で、ガス管の事など頭から吹き飛んだ。

 

 カヤツリも一緒の部屋にいた。自分と同じように爆発に巻き込まれたはずだ。

 

 しかし、荒れ果てた部屋には自分以外の気配を感じない。最悪の想像が過ぎり始めた自分に、プラナの声が響く。

 

 

『彼は今、戦闘中です』

 

「戦闘中? 誰と!?」

 

 

 シッテムの箱の画面が切り替わる。そこは、シャーレの一階。玄関に入ってすぐのロビーだった。

 

 そこにカヤツリが、近場のソファやテーブルで即席のバリケードを作って、陣取っている。

 

 監視カメラからの映像なのか、角度の問題でカヤツリが発砲している相手は見えない。

 

 

『爆発の後、先生より先に彼は目を覚ましたようです。先生にそれを着せたのは彼です』

 

 

 気付けば、スーツの上から何かを着せられている。

 

 

「これって……」

 

『耐爆装備です。彼は自分が着用しているものを先生へ譲渡しました』

 

 

 見た目では分からなかったが、制服の下に着こんでいたのだろうか。更なる爆破を警戒して着せてくれたのだろう。画面を見直せば、ようやくカヤツリが戦っている相手が映り込んでいた。

 

 

「ヴァルキューレ!? なんで!?」

 

 

 丸い防弾盾とショットガン。ヴァルキューレの標準装備と制服を着た集団が隊列を組んでいる。彼女たちは盾で防壁を作り、ショットガンを撃ちながら少しずつ前進してきていた。

 

 カヤツリは何とか弾幕を張ってはいるが焼け石に水だ。拳銃弾では彼女たちの盾を抜けない。

 

 

『彼女たちはヴァルキューレじゃありません! ヴァルキューレの名簿と彼女たちの顔を認証に掛けましたが、誰一人として一致しませんでした!』

 

 

 アロナの言葉に、最近あった事件を思い出す。護衛だと言って現れたヴァルキューレに誘拐された事件だ。あの、空が赤く染まった事件の日の事。ヴァルキューレに変装したカイザーPMCに拉致された時と同じだ。

 

 

『爆発の後に彼女たちは襲撃してきました。彼は先生が意識を失っている間、対処をしてくれています』

 

「今すぐ加勢しないと! 二人も手伝って!」

 

 

 カヤツリはじりじりと追い詰められていた。ロビーからは撤退して、階段まで下がっている。このままでは限界が来る。自分の指揮があれば巻き返せるはずだった。でも、画面の二人は首を横に振る。

 

 

『先生! ここは場所が悪すぎます! またいつどこで爆発が起こるか分かりません! 先生は退避を優先してください!』

 

『救援要請は彼の指示した先へ要請済みです。そのための時間稼ぎです。ここで戦うのではなく、彼と一緒に一度退くべきです』

 

 カヤツリの判断は正しい。自分が意識を失っている間に、必死に考えたのだろう。

 

 このシャーレビルは危険極まりない。調べていない部屋が爆発したと言う事は、他の部屋も爆発する可能性があると言う事だ。カヤツリが自分へ対爆装備を着せてくれたのもそうなのだろう。

 

 そして、カイザーPMCは下から攻めてきている。彼らの目的は置いておくにしても、逃げ場がない。この部屋の高さから飛び降りても、二人が障壁を張って守ってはくれるだろう。

 

 だが、それまでだ。そこで包囲されればどうしようもない。攻撃は防げても、物理的な拘束は防げないからだ。

 

 

「分かった。ひとまずは退こう。ただ、カヤツリのサポートをお願いできるかい?」

 

『了解しました。シャーレ保管庫のロックを解除。そこまで彼を誘導します』

 

 

 見たところカヤツリはまともな武装を持っていない。部屋の隅を見れば、カヤツリのライフルが転がっていた。恐らく爆発で使い物にならなくなったのだろう。サブアームであろうハンドガンだけでは無理がある。

 

 

「カヤツリ! 保管庫まで行って! そこの武器なら何でも使っていいから!」

 

『助かります!』

 

 

 早速カヤツリは進路を変更して、保管庫に向かっている。カイザーPMCはアロナたちが防火シャッターを駆使して、時間を稼いでいた。

 

 シャーレ保管庫には銃の他にも、自分には無害だが生徒には危険な物も保管してある。が、それは自分しか知らない。だから自分以外には単純に倉庫になっている部屋だ。

 

 

『いいです! 巻き返せてます!』

 

 

 アロナの嬉しそうな声に画面を見れば、保管庫から機関銃を引っ張り出したカヤツリが、PMCに向けて掃射を繰り返していた。時折、手榴弾やロケットランチャーを叩き込んでいる。

 

 

『後方より敵部隊増援です』

 

 

 だが、きりがない。プラナが言うように、増援がいくらでも湧いてくる。自分の指揮も投入するが人数の差はいかんともしがたかった。

 

 

「マズいね。どんどん近づいてきてる」

 

 

 前線はじりじりと下げられ続けて、もう自分たちのいる階まで詰め寄られていた。もう部屋の外から爆音が聞こえる。遂には割れた窓の外からも音が聞こえ始めた。

 

 

「ヘリが……」

 

 

 音の正体は戦闘ヘリだった。機首をこちらに向けた戦闘ヘリが窓の外に居る。機体の下の機関砲が此方を向いていた。

 

 

「アロナ!」

 

 

 このままではハチの巣にされる。そう思って声を上げるが、二人は落ち着いていた。

 

 

『大丈夫です! 先生! 助けが来ました!』

 

 

 聞き返すより前に、ヘリの機関砲が火を噴いた。弾は自分を狙わずに壁を障子紙のように突き破り、カヤツリと戦っているであろうPMCをなぎ倒していく。

 

 そのまま戦闘ヘリはシャーレビルを一周し戻って来る。その時には、ヘリのドアは開いていて、見覚えのある生徒が自分の所へと飛び移ってきた。

 

 

「先生。助けに来たわ。早くヘリに!」

 

 

 ヒナの指示に従ってヘリへと飛び移る。操縦席にはマトが居て、自分へと指示を飛ばしてくる。

 

 

「あんまり時間が無いよ! 早く回収して撤退する!」

 

 

 焦っているようなマトに急かされながらも、シッテムの箱で呼びかける。

 

 

「カヤツリ! 助けが来たよ! 戻ってきて!」

 

 

 けれど、カヤツリから応答はなかった。確かにカヤツリの携帯は壊れているが、短距離通信可能なインカムは持っているはずだ。だからこそ、保管庫への指示が出せたのだから。

 

 

「カヤツリ……?」

 

 

 奥からは何の音も聞こえない。銃撃の音すら聞こえない。耳をすましても、端末から聞こえるのはカヤツリの息遣いだけだ。

 

 

『先輩……?』

 

 

 聞こえてきたそんな呟きに、嫌な予感がした。そして、続けての言葉に悪寒が走った。

 

 

『ああ……そういう事か。…………投降する。好きにしろ』

 

 

 最後に聞こえた打撃音と共に通信は切れて、そのまま自分たちは三人で撤退するしかなかったのだ。

 

 

 □

 

 

「それで、ゲヘナで先生の身体の様子を見た後、ここまでやってきたの。それがここまでの経緯よ」

 

 

 ヒナちゃんが先生の話を締めくくるが、自分の頭は上手く動いてくれなかった。聞きたいことがあり過ぎて、情報の海で溺れていた。

 

 

「なんで? なんでカヤツリは投降なんか……」

 

 

 分かり切った答えを呟く。カヤツリの先輩という呟きと状況から考えて、結論は分かり切っているのだ。

 

 

「梔子ユメ先輩……やっぱり……」

 

「え? アヤネちゃん……?」

 

 

 アヤネちゃんだけでは無かった。シロコちゃんもセリカちゃんも、何か覚えがあるかのような反応だった。シロコちゃんが目を伏せて、申し訳なさそうに自分へと言う。

 

 

「さっきホシノ先輩に謝った時。まだ話していない事があるって言った。それは、ノノミがどうして一人で出て行ったのか。その理由」

 

「待って、まさか……」

 

 

 自分の縋る様な言葉に、シロコちゃんは頷いた。

 

 

「梔子ユメ先輩が校門に居た。私は良く見えなかったけど、ノノミははっきり見たんだと思う。どこか変だとは思うけど」

 

「カヤツリ先輩が、今まで匿っていたんじゃないかって……」

 

 

 シロコちゃんとセリカちゃんの言葉に崩れ落ちそうになる。アヤネちゃんが考えたであろう仮説は衝撃が大きかった。

 

 

 ──ユメ先輩は生きていた? カヤツリが匿っていた? 自分には黙っていた? ユメ先輩を人質に取られて捕まった?

 

 

 自分の足元が、ガラガラと崩れていくような気がした。そのまま、意識が遠くなって……

 

 

「違うよ。それは絶対に違う。絶対にありえない」

 

「先生……?」

 

 

 先生の声で現実に引き戻された。その声は強くて、とても確信に満ちていた。

 

 

「私の口から言うのは違うんだけど……あの喧嘩の電話の後、カヤツリと話したんだよ」

 

 

 先生はあの喧嘩。電話を切った後の事を話してくれるらしかった。先生が言い淀んでいることからして、カヤツリの本心なのだろう。自分だけでなく、後輩たちやゲヘナの二人も耳を傾けていた。

 

 

「カヤツリは悩んでた。苦しんでた。梔子ユメさんを自分が死に追いやってしまった事に。直接でなくても、間接的にでも関わってしまったことに。そして、梔子ユメさんの事を何も分かっていなかったことを」

 

「だろうね……私のせいでもある」

 

 

 マトちゃんが沈んだ顔をしていた。きっと仕事を紹介したのはマトちゃんなのだろう。だから、ここに居るのだ。

 

 

「だから、カヤツリが匿っていたなんてことはあり得ない。私が言って良いのはここまで。だけど十分だと思うよ」

 

 

 先生の言う事は分かった。でも、カヤツリがそうでなかったとしても、ユメ先輩が居たのは変えられないのではないだろうか。

 

 

「じゃあ、どうして、ユメ先輩は私に会いに来てくれないの……」

 

 

 その呟きには先生でなく、マトちゃんが答えてくれた。

 

 

「それはね。梔子ユメはもう居ないからさ」

 

「でも、シロコちゃんとノノミちゃんは見たって……!」

 

 

 写真を見たから、後輩たちはユメ先輩の姿を知っている。見間違いは考えにくかった。

 

 

「梔子ユメが、もし本当にアンタとカヤツリを恨んでいて復讐したいなら、そうでなくとも生きているのなら。どうして今まで現れないんだい? 目の前に現れて、罵詈雑言の一つでも浴びせれば済む話じゃないかい? どうして今までコソコソ隠れて、後輩の前にしか、自分を良く知らない人間の前にしか現れないんだい? それはね? 完成度が低いからさ。梔子ユメを知っているアンタやカヤツリには通用しない完成度しかないからさ」

 

「え……」

 

 

 それじゃあ、まるで。ユメ先輩の偽物が居るような言い方だった。そして、マトちゃんは頷くのだ。

 

 

「偽物だよ。少なくとも、十六夜ノノミとシャーレビルでカヤツリの前に現れたのは違う。だからこそ、カヤツリは投降した」

 

 

 余計に分からなくなった。それなら、投降する必要はない。先生と合流すればいいのに、カヤツリはそれをしなかった。

 

 

「カヤツリは分からなかったの……?」

 

「それも違う。本物じゃないと、偽物だと。そう分かったからこそ、カヤツリは投降した」

 

 

 マトちゃんは一呼吸置くと、写真を取り出して机に置いた。

 

 

「カヤツリは苦しんでたと、先生は言ったね? それは、今のアンタと同じなんだよ。カヤツリは見つけてしまったんだよ」

 

「あ……ユメ先輩……これも偽物?」

 

 

 それは写真だった。アビドス郊外だろう廃墟の中で、後ろを向いて佇んでいるユメ先輩の姿が映っている。

 

 これも、偽物なのだろう。でも、自分には本物にしか見えなかった。このクオリティなら、カヤツリが騙されるのも無理はなかった。

 

 

「いいや。これは本物さ。これに映っているのは本物の梔子ユメだよ。だから、カヤツリは苦しんだ」

 

「どういうこと? だって、カヤツリは一ヶ月前の写真だって……」

 

 

 今度は先生が、信じられないような反応になった。マトは首を横に振る。

 

 

「カヤツリも信じたくなかったんだろうね。私にこの写真の元データ。監視カメラの映像を調べて欲しいって頼んできたんだよ」

 

 

 マトちゃんは今度は懐から、端末を取り出した。電源が入れられると、その写真のシーンの動画が映っていた。

 

 

「確かに映像の劣化は酷かった。あの写真は唯一まともに映っているシーンの切り抜きさ。だが、ゲヘナの情報部を舐めちゃいけない。最高の機材があれば復元はできる。時間はかかるけどね」

 

 

 そして、映像は流れ出す。懐かしい、もう聞けないと思っていた声が流れ出した。

 

 

『うーん。これで大丈夫かな。ちょっと落としちゃったけど、壊れてないよね……うん』

 

 

 それは雑音が混じって、画面もノイズが走っていたが、確かにユメ先輩の声だった。

 

 

『あのね。カヤツリ君。早く帰ってきたところ悪いと思うし……たぶん、机の上のメモか、ロッカーの手帳を見たから、これを見つけたと思うんだけど……』

 

 

 映像のユメ先輩は、どこか気まずそうだった。何か叱られるのが分かっているような子供の様な反応が懐かしい。

 

 

『ちょっとホシノちゃんと喧嘩しちゃって……予定の日は先なんだけど、先に行こうと思うの。やっぱり、実物があればホシノちゃんも喜んでくれるし、仲直りでき──』

 

 

 そこで、映像はノイズに飲まれてしまった。マトちゃんがバツが悪そうに頭を掻く。

 

 

「復元できたのはここまでだね。もう少し時間を掛けて、機械の調子が治れば完全に復元できる。ミレニアムにでも頼めば確実だろうね。全く……あのポンコツ機械のお陰でここまで時間が掛かったよ」

 

 

 マトちゃんの言葉は耳を素通りしていく。嬉しさがこみあげて、涙が止まらない。

 

 ユメ先輩は、自分と仲直りしたいと言っていた。それだけで嬉しかったから。

 

 

「何でこんな回りくどい方法をとるのよ。普通にメモか何かを残しておけば、こんなことにはならなかったじゃない」

 

 

 セリカちゃんが、少し怒ったかのように言うが、ヒナちゃんがそれを否定した。

 

 

「砂漠横断鉄道の契約は機密だった。それもあるでしょうけど、きっと。梔子ユメはホシノに知られたくなかったんでしょう。それが確定するまでは秘密にしておきたかった」

 

 

 宙を見つめて、さらにヒナちゃんは呟く。

 

 

「でも、ホシノと喧嘩してしまった。さっきの映像でも言っていたけど、梔子ユメは予定を早める事にした。謝る手土産が欲しかったのと、出来るだけ早く仲直りしたかったんでしょうね」

 

「なら、それこそメモで……」

 

「よく考えてみて。ホシノが自分が出掛けている間に帰ってくるかもしれないのよ。カヤツリだけに分かるように、先に出発したことを伝達する必要があった。手帳とかメモの意味は分からないけど、この映像までたどり着いた理由なら分かる」

 

 

 それは、自分も分かった。後輩たちも分かるだろう。

 

 

「帰ってきて梔子ユメの姿が無かったら、カヤツリは捜索をするはずよ。その場合、まず確認するのは、カヤツリがアビドス中に配置した監視カメラ。そこなら、カヤツリしか見ない。しかも、カメラの設定を弄れば不具合だと思って、そのカメラをまず確認するでしょうから……」

 

「設定を弄ったって……」

 

「監視カメラはね。容量の問題があるから、時間で過去データが消えるようになっているの。カヤツリは一ヶ月にしてる。でもこの映像だけは消えないように本体から設定してあった。そして梔子ユメが設定する時に壊したのか、カメラの日時設定がリセットされていたのよ。だから、順番が一番古いこの映像をカヤツリは一ヶ月前の物だと誤認したの」

 

 

 ヒナちゃんの話が終わって、静まりかえった部屋の中。本題だと言うようにマトちゃんが口を開いた。

 

 

「だから、カヤツリは投降した。目の前に現れただろう梔子ユメが偽物だと。そう確信したから。後はもう分かるね?」

 

 

 ここまで言われれば分かる。

 

 カヤツリは悩んで苦しんでいた。ユメ先輩が生きているかもしれなかったから。この映像を見ればそう思う。だって本物だから。

 

 それで、目の前に偽物の先輩が現れたら。カヤツリならすぐに見破ったに違いない。

 

 

「……カヤツリは怒ってるんだね? それも、私が知らないくらいに。誰も知らないくらいに」

 

 

 だから、投降したのだ。全部確かめるために。どんな目的で、どんな動機で、そんな事をしたのか。全部明らかにするつもりだ。

 

 

「そうよ。私と初めて会った時よりもずっとね」

 

 

 ヒナちゃんは何かを思い出したのか、ブルリと震えた。そして、はっきりと言った。

 

 

「だから、カヤツリを止めないといけないの。行きつくところまで行ってしまう前に。偽物の梔子ユメをどうにかしてしまう前にね」

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