ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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185話 怒り

「貴様! いったい何をした!」

 

 

 プレジデントがカヤツリに向かって怒声を挙げていた。プレジデントはさっきからずっと怒鳴っている。怒鳴らせて、小さな音に気がつかないように誘導したとはいえ、カヤツリは彼の喉が今更ながらに心配になってきていた。

 

 だから、プレジデントの質問に答える。きっと、声は小さくしてはくれないだろうが。

 

 

「俺は、貴方には何もしてないよ。勿論、貴方の高そうな時計にも」

 

 

 カヤツリが企んだことは単純だ。時計を十分遅らせただけ。

 

 ただ、態々プレジデントの時計に細工したわけでは無い。そんな時間も、そんな手段もカヤツリは持っていない。ただ、この場の全員を騙すのだ。一つ一つの時計を弄るのは骨が折れる。

 

 

「俺が弄ったのは、弄るように頼んだのは、大元の方。正確にはその中継地点。最近は大体が電波時計だからな。大元の時計はそのままに、送信される時刻を十分ずらしてもらった」

 

 

 電波時計は、大元の時計。恐ろしく正確な時計から、時間を受信して時刻を表示する。

 

 だから、理屈の上では、それを弄ることが出来れば、全員の時計。電波時計に限るが、表示時刻を弄ることが出来るのだ。

 

 

「ただ、チャイムだけは誤魔化せなかった。あれだけは、大元と直接つながっているし、弄る時間もなかったからな。ここの会場の時計も、全部調べるのは大変だったんだぜ」

 

 

 昨日の間に、会場の時計を調べるのは大変だった。アナログであれば調整しなければならないからだ。幸いにもそんな事は無かったのだが。

 

 

「標準時刻をずらしたと言うのか? 誰にも悟られずに? そんな事が、出来るはずがない! あれは、連邦生徒会管理の……」

 

「そうだな。俺にはそんなことはできない。だから、出来る人間に頼んだのさ」

 

 

 カヤツリの頭に、ミレニアムの二人の生徒の姿が思い浮かぶ。頼むときに、どちらが先に頼まれたかで一悶着あったが、彼女たちはカヤツリの頼みを了承してくれた。

 

 カヤツリは、彼女たちなら出来ると信じていたし、彼女たちは実際にやってのけたのだ。リオとヒマリ。それとヴェリタスの彼女たちには感謝しかない。

 

 

「きっと貴方なら。奥の手くらいは用意してる。正直幾つか候補はあったが、共通するのは契約を反故にすることだった」

 

 

 カヤツリの権利は、ユメ先輩の契約あってこそ。前提であるあの契約が失効すれば、カヤツリは手が出せなくなる。

 

 

「きっと、正午前に何かやってくると思った。だから、ずらしたんだ」

 

「貴様。だから、あの時、十分前に……!」

 

 

 そうだ。カヤツリだけは知っている。時計が十分遅れている事を知っている。

 

 だから、十分前に代理人の権利を主張した。本当の時刻である正午の一分前に。

 

 あそこで宣言を妨害する事。それが、あの状況下でのプレジデントの勝ち筋だった。できるはずが無いが。

 

 

「貴方には、色々と聞きたい事があるんだ」

 

 

 カヤツリは、理事の方へ一歩踏み出す。態々、こんな面倒な手順を踏んだのは理由がある。

 

 プレジデントには、表舞台へ上がって貰う必要があった。彼に聞かねば分からないから。

 

 そして、先輩の偽物を使って貰わなければならなかった。そうしないと全部が分からないから。

 

 聞かなければならない。何故、あんな事をしたのかを。

 

 一歩一歩、プレジデントへ近づいていく。

 

 プレジデントも、逃げればいいのに。律儀にそのままの場所で待っている。何故だか、ピクリとも動かない。まさか、怯えているわけではあるまい。

 

 だって、自分は。こんなにも落ち着いている。落ち着いて、カイザーをどう処理するか、考えられている。

 

 別に、頭以外要らないからと、バラして聞こうとなんてしていない。先輩に怒られる。

 

 

「何で、先輩を騙った? よくもまぁ、そんな事が出来るな。恥を何処かに置いてきたのか?」

 

 

 プレジデントは、何も言わない。ステッキを持ったまま固まっているだけだ。そのステッキで殴りかかってくればいいものを。そうすれば殴り返せるのに。

 

 

「おい、何とか言ってみろよ。さっきの威勢はどうしたんだよ。また、滑稽に踊ってくれよ」

 

 

 もう、後数歩で手が届く範囲まで来た。胸倉を掴もうと、手を伸ばそうとしたカヤツリの耳に、モーターの音がした。

 

 

 目を横へと向ければ、ヘリの機銃かこちらを狙っている。モーターの音はこの音だったらしい。すぐさま拳銃で機銃を破壊する。

 

 しかし、カヤツリが意識を逸らした瞬間、プレジデントは走り出していた。さっきとはえらい違いだ。

 

 思わず、良いところで邪魔が入って舌打ちが出る。

 

 そんなカヤツリに、偽物の手を借りて、ヘリに飛び乗ったプレジデントは言い放つ。

 

 

「……ハァ……ハァ……この私を脅したな。ならば、その報いを受けて貰おう」

 

 

 プレジデントは、多分、怒りで震える声で、端末に話し掛ける。

 

 

「カイザーの全勢力を動員する。アビドスに侵攻を開始しろ」

 

 

 プレジデントへ端末を仕舞い、カヤツリへと話し掛ける。もうヤケクソなのが、態度で分かった。

 

 

「聞こえていただろう? これから、カイザーの全勢力。カイザーコーポレーションだけではない。カイザーの系列グループ全てが、ここにやって来る」

 

「……血迷ったか? プレジデント。そんな事をすれば……」

 

 

 呆れたような理事の言葉を、プレジデントは意にも解さぬ様子で肯定する。

 

 

「そうだ。建前の理由も何もない。完全な私情によるアビドスへの侵攻だ。失敗すれば、カイザーコーポレーションは甚大な被害を受けるだろう」

 

 

 プレジデントの選択は、今までのカイザーからは考えられないものだ。

 

 今まで、カイザーが失敗しつつも逃げ切ってきたのは、建前があったからだ。建前を盾に、タコの足切りならぬトカゲの尻尾切りで、リスクを最小限にとどめる。

 

 基本的にはゴリ押しだが、リスク回避は完璧。それがカイザーのやり方だった。今は、まるで真逆のやり方だ。

 

 

 怒りの興奮か、後がない事への逃避か。プレジデントはカメラアイをギラギラと輝かせる。

 

 

「ここで退けば生き延びられる。だが、それに何の意味がある? 次はいつだ? 私はもう充分に耐えた。私にとって、これは最後のチャンスだ」

 

「プレジデント……」

 

 

 理事の言葉に、憐れみの感情が乗ったのが分かった。

 

 しかし、プレジデントは、意にも介さない。

 

 

「私は待った。待ち続けた。漸くだ。漸く、チャンスがやって来たのだ。超人も、先生もいない。貴様のような図に乗った子供だけだ。今なら、何とでもなる」

 

 

 プレジデントは、カヤツリ達を睨みつける。それは、思い通りにならない事に憤慨する子供のようにも見えた。

 

 

「貴様らを排除すれば、シェマタが手に入る。あれさえあれば、キヴォトス全てを敵に回そうとも、勝つ事が出来る。私の夢が、私の生きた証が、漸く手に入る。貴様らなんぞに、邪魔はさせん!」

 

 

 プレジデントは、全てを力押しで何とかする事にしたらしい。カイザーの全勢力がここに押し寄せれば、幾らカヤツリとて、タダでは済まない。

 

 それは、ここまで来れればの話だが。

 

 

「何のつもりだ? 携帯を取り出して。助けてとでも、誰かに縋る気か?」

 

 

 プレジデントが嘲るが、気にもならない。黙ってカヤツリは、ノノミ後輩から借りた携帯の再生ボタンを押す。流すのは決まっている。

 

 

『えー、皆さんこんにちは。こちらクロノスニュースの時間です。早速、お昼のニュースを放送します』

 

 

 それは、昼のニュースだった。正午過ぎだから、当然の話でもある。ローター音が響く中、場違いなクロノスのレポーターの声が、やけに大きく聞こえる。

 

 

『今朝のファウストからの予告状に、トリニティが声明を発表しました。”模倣犯の可能性があるとはいえ、毅然とした対応を心がける”とのことです。これまで、三大校からの声明は共通しています』

 

 

 カヤツリを除く全員が、訳の分からない顔をしている。面白いのはここからなのだ。

 

 

『前のおもちゃを使って、ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの銀行を襲う。以上がファウストの予告状の概要ですが、三大校は、自治区の入り口に検閲所を設置するとのことです。ファウストのあの演説から──』

 

 

 良いところで再生を切って、ノノミ後輩に携帯を返す。

 

 

「これがどうしたと言うのだ。たかが調子に乗った犯罪者の戯言ではないか」

 

「分からないのか。理事は分かってるみたいだけど」

 

 

 理事は、”本気か?”そんな顔で、カヤツリを見ていた。プレジデントが理解してくれないと、話が進まないので、カヤツリは一から説明してやることにした。

 

 

「あの日に演説をぶち上げたファウストの予告状だ。アレでかなり有名になったから、無視するわけにもいかない。検閲所や銀行に警備を置くのは仕方ないだろうな」

 

 

 箱舟がやって来たあの日の演説。あれで、ファウストには妙な人気が出た。そこを利用して、模倣犯を演出した。

 

 

「野次馬も多く集まるのも予想できる。それの統制のためにも、ファウストを警戒するのにも、人数は必要だ。今日一日は、各自治区は警戒態勢になるんじゃないか」

 

 

 ここまで言ったところで、プレジデントの顔が青くなった。ようやく気がついたらしい。

 

 

「アビドスからは、カイザーPMCを撤退させただろ。だから、今ここにいる部隊以外は、自治区の外から来るしかない。それで? どこを通って来るんだ?」

 

 

 三大校は警戒態勢。アビドスはゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、ワイルドハント、ヴァルキューレの自治区に囲まれている。かなり、遠回りすることになるのではないだろうか。

 

 

「強引に通るか? 三大校の敷地を。多正面作戦がしたいなら、好きにしろ」

 

 

 カイザーとはいえ、三大校相手の戦争は避けたいだろう。それに、()()()()と予告状に追加しておいた。ファウストがおもちゃと言った存在はカイザーPMCただ一つ。そんな警戒態勢の中で、武装したPMCが通れるはずがない。

 

 カイザーのアビドス侵攻は、初速が命だ。シェマタを早く確保しなければ、建前のない侵攻を危険視した他の自治区や企業に潰される。

 

 だから、初速を潰してやった。遠回りしても死ぬ。強引に突破しても死ぬ。侵攻を諦めれれば、何とかなるが。末端がどこまで言うことを聞くか。

 

 これを提案した時、やたらとセイアだけは渋ったのを思い出した。なんだか、カヤツリのことを心配していたが、無視した。ミカとサオリの時だのなんだのと、ぶつぶつ言っていたような気がする。でも、言うことを聞いてくれたから、良しとする。

 

 

「ああ、そこの先輩にも礼を言っておいてくれ。顔出しありがとうってな。おかげで、手が読めてありがとうって」

 

 

 それを聞いたプレジデントの反応は劇的だった。どうして、ここまで作戦が読まれて、対策されたのか。その理由を察したからだろう。

 

 

「貴様! 貴様!! 貴様!!! お前のせいか! 勝手に行動したのか! その姿で! 私の作戦を! 夢を! 悲願を! よくも台無しにしてくれた!」

 

 

 プレジデントは、今にも掴みかかりそうな勢いで、偽物に怒鳴っていた。

 

 やっぱりとカヤツリは思う。ここまで面倒な手順を踏んだ甲斐があった。そして、対処する人数が一人増えた。

 

 ここまでやったのは、偽物のスタンスが知りたかったからだ。

 

 ただ、カイザーに利用されていただけならば良し。そうでないなら。悪意を持って、先輩を利用したなら、対処する必要があった。もう、二度と。そんな事ができないようにする必要があるからだ。 

 

 まずは、カイザーには思い知ってもらった。プレジデントはカイザーそのものだと言う。だったら、カイザーをボロボロにしてやる。お前が人生を掛けて積み上げたモノを突き崩してやる。それも、自分の手でだ。

 

 そっちだって、同じことをしようとした。お互い様だ。

 

 殺しはしない。それよりも社会的に死んでもらう。だって、そっちの方が苦しい。死ねばそれまでだ。

 

 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。自分が犯したミスと、それで全てが台無しになるのを。その後悔を噛み締めればいい。とても苦い味は保証する。後悔とはそういうものだ。かつて、自分が味わって。今も味わっている気持ちを味わえばいい。

 

 それは、偽物に対しても、同じ末路を用意している。

 

 

「……貴様! 何のつもりだ!」

 

 

 心の中で色々考えているうちに、プレジデントと偽物にも新たな展開が起きていた。

 

 偽物は、プレジデントの胸倉をつかみ上げ、何かを奪い取っていた。

 

 

「あれは……ゴールドカード……!」

 

 

 ネフティスの執事が、悔しそうに呟いている。きっと制圧された時に奪われたに違いなかった。それを偽物は奪い取ったのだ。そして、それだけでは終わらなかった。偽物はプレジデントの胸を思い切り突き飛ばしていた。

 

 

「な!?」

 

 

 その場の全員が、プレジデントが発した言葉と同じことを思った。彼らが居たのはヘリの中だ。搭乗口へプレジデントは突き飛ばされた。その答えは簡単だ。ヘリから落ちる。

 

 汚い叫び声をあげて、プレジデントは地上へ落下していく。数秒後に、鈍い音が響いた。

 

 態々覗き込みはしない。ここは高層階だ。あの鋼鉄のボディで死にはしないだろうが、大怪我だろう。

 

 

「兎馬カヤツリ」

 

 

 偽物は、ヘリのパイロットに銃を突き付けていた。そして、前髪で見えない顔でカヤツリに向かって告げる。

 

 

「ゴールドカードは頂いた。返してほしくば、シェマタの場所まで来い」

 

 

 そう言い残して、ヘリは飛び去ってしまった。往生際の悪さに溜め息しか出ない。

 

 

「理事。足を貸してくれ」

 

 

 即座に理事に声を掛けるが、理事は、どこか言い淀む。

 

 

「それは構わんし、外に車両があるが、カヤツリ。どうするつもりだ? 奴の言いなりになる必要はあるまい。シェマタは奴一人で動かせるようなモノでもないだろう」

 

「動く」

 

「その根拠は? 長年放置されていたのだぞ? 幾ら、プレジデントが場所を把握していたとはいえ都合よく、シェマタの準備がされているとでも?」

 

 

 理事の言葉に、カヤツリは力強く頷いた。普段なら、鼻で笑って、あの要求を無視しただろう。でも、この件は妙だ。カヤツリにとって都合の悪い事だけが頻発している。最悪の事態を想定した方が良い。

 

 

「待ってください! 一人で行ってどうするつもりなんですか!? きっと先生たちが来るはずです!」

 

 

 ノノミ後輩が、しっかりとカヤツリの肩を掴んでいた。まるで、行かせないとでも言うように。

 

 

「それで?」

 

「それでって……皆で行った方が良いじゃないですか。それに、カヤツリ先輩。あの人が、偽物さんが現れてから、怖いです」

 

 

 理事も、神妙に頷いて、ノノミ後輩に続く。

 

 

「もう、すぐそこまで、先生は来ているぞ。巻き込まれたハイランダーの救援のために離脱し、私が先行したが、そんなに時間はかからんだろう」

 

「それで? アレを許して終わりか?」

 

 

 もう、カヤツリは我慢の限界だった。だって、気がついてしまったからだ。

 

 ノノミ後輩からも、アビドス校舎に現れたことは聞いた。その時も姿だけだった。自分の時もそうだ。そして、あの契約破棄の宣言を聞いた時に確信したのだ。

 

 

「アイツは知らないんだよ。ユメ先輩の事を、俺たち三人の間に、何があったかを知らないんだ。知らないで、あんなことをした」

 

 

 もし、知っているなら、ユメ先輩の口調を真似たはずだ。その方が効果的だし、シャーレの戦闘の時も、カヤツリに対して効果抜群のはずだろう。

 

 でも、しなかった。本当はしなかったのではなく、できなかったのだ。

 

 あの偽物は、ユメ先輩の事を何も知らない。

 

 悪意があった方がまだマシだった。それをする重みを知って、それでも、叶えたいことがある。その覚悟があるなら、まだ我慢することが出来た。それか、プレジデントに騙されただけなら良かった。

 

 でも、違うのだ。あの偽物は、目的があってプレジデントに協力していた。そして、ユメ先輩の事を知らないままに、ユメ先輩の事を冒涜した。

 

 つまるところ、あの偽物には、覚悟なんてものは無いのだ。たかが便利な恐喝の道具位にしか思っていないのだ。ユメ先輩の事なんか、軽い事にしか思っていない。そんな程度の気持ちで、ユメ先輩の死を利用した。

 

 その点、プレジデントはまだマシだ。それの危険性を知って、その手を最後まで切らなかった。偽物の、軽々しく姿を見せる。その行為自体にも軽さが滲み出ていて、怒りが止まらない。

 

 

「それで? 先生に投げてどうなる? またやるぞ。今回の件は、奴にとって……そうだな。多少悪い事をした。それくらいの重みしかないんだからな」

 

 

 先生は、きっと許すだろう。あの人は甘いから。そこが、先生の良いところでもあるが、この場合は最悪だ。

 

 許された偽物は、きっと同じことを繰り返す。自分のやったことの重みを知らないからだ。どれだけの事をしたのか分かっていない。また、何かの拍子に同じことをやるだろう。

 

 

「だから、思い知ってもらう。自分が何をしたのかという事を噛み締めてもらう」

 

「何をするつもりですか。まさか……」

 

 

 小さな声でノノミ後輩は言う。カヤツリはそれを聞いて笑った。

 

 

「なんで、そんなことをしなくちゃならない。嚙み締めてもらうって言ったじゃないか。帰る場所を失くしてやるだけだよ」

 

 

 偽物の正体は予測がついている。目的はよく分からない。でも、完全に心をへし折る必要がある。

 

 

「これは、ノノミ後輩たちを守る事にも繋がる」

 

 

 ノノミ後輩が止める事は分かっていた。カヤツリだって、自分らしくない事は分かっている。でも、我慢できないのだ。自分の大切な思い出と、その人を汚され続けている。

 

 プレジデントのように、知っていて覚悟があるなら良かった。ノノミ後輩のように、知らなくても、後悔しているなら良かった。

 

 あの偽物にはどちらもない。それを知らずに、ユメ先輩の願いを踏みにじり、塞がっていた傷口をほじくり返した。もう、我慢がならない。

 

 

「カヤツリ先輩! 待ってください!」

 

 

 だから、ノノミ後輩の叫びを無視して、引き留める手を振り払って、カヤツリは部屋から飛び出した。

 

 

 □

 

 

「生徒会の谷まで飛ばせ」

 

 

 ぐりぐりと、パイロットのこめかみに銃を突きつける。パイロットは指示に従いつつも、バカにしたような顔で言う。

 

 

「お前。自分が何をやったか分かっているのか? もう、お前に安息は訪れない」

 

 

 そんな事は分かっている。プレジデントを裏切って、危害を加えたのだ。あの男の事だから、自分の事を草の根分けても探すだろう。パイロットの言葉通りかもしれない。

 

 でも、自分に失うものは無い。自分は空っぽだ。アイツのせいで空っぽになったのだ。アイツが居るから上手くいかないのだ。カヤツリに勝つまでは、そんなものは無いのだ。カヤツリに勝てれば、全部うまくいくのだ。

 

 ようやく、過去のカヤツリが戻ってきた。あのプレジデントを見つめる無感動な目。プレジデントが怯えて動けなかったほどの殺気。あれこそ求めていたモノだ。

 

 あれを倒せれば、アレの上に立てれば。自分はようやく過去を振り切れる。ようやく前に進むことが出来るのだ。

 

 ちゃんとシャーレから、噂の秘密兵器も奪ってきた。本当にあるとは思わなかったが、あれだけ厳重に保管されていたのだ。生徒を一撃で戦闘不能にする代物という噂も本当だろう。これさえあれば、自分は勝てる。

 

 偽物は懐に仕舞った物を確認する。

 

 それは、何の変哲のない爆弾のように見える。でも、それは偽物にとっては、勝利の鍵だ。

 

 

「黙って、言う通りにすればいい。余り口答えをするなら、プレジデントと同じ目に遭う事になる」

 

 

 そう言って、遠くに微かに見える生徒会の谷を見て。偽物は、これからの戦いを思って身震いした。

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