ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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18話 アビドス本館

 砂漠の夜は冷える。流石に息が白くなると言ったほどではないが、昼の服装のままではつらいものがあった。そんな中で、カヤツリは車を校庭に出して先輩を待っていた。ホシノには秘密にすると言った以上、昼間の行動は封じられていたからだ。

 

 

「ごめんね。待ったかな」

 

「待ちましたよ。何でこんなに遅いんですか」

 

 

 先輩が校舎から出てきた。いつもの服装に盾と大きな荷物を持っている。コンパスやら通信機の類だろう。カヤツリは受け取った荷物を荷台に乗せようとして、想像以上の重さに驚いた。

 

 

「何が入ってるんですか。やたら重いんですが」

 

「えっとね。着替えでしょ。食料に、お水に、寝袋に……」

 

「ちょっと待ってください。泊まり込む気ですか」

 

 

 カヤツリは口をぱくぱくさせて荷物を指さした。女性の荷物だから中を覗くようなことはしないが、大きさからして一日分の大きさではない。幾ら今日が金曜日で明日、明後日と休みになるとはいえ、話が急すぎる。ホシノがいない間に相談した内容は何だったのだろうか。

 

 

「先輩。昼間に話した内容ってなんでしたっけ。アビドス本館まで行って、過去の地質調査の資料を見つけるので合ってましたよね」

 

「そうだよ。砂に埋もれてるから、簡単には見つからないと思うよ。それに移転も何回かしているから、そこも当たらないと」

 

「それを先に言って下さいよ。ああもう。すぐに準備しますから待っててくださいよ」

 

 

 カヤツリは日帰りのつもりだったのだ。それ相応の準備しかしていない。すぐにカヤツリは荷物を纏めて出発したが、今回の調査は出だしから大きく躓いていた。

 

 

「ん~。楽しいね。風も気持ちいいし、きれいな星空だよ」

 

「景色に見惚れてないで案内はちゃんとしてくださいよ。本館の詳しい場所は知らないんですから」

 

 

 星明りの下、車で砂漠を疾走する。車を出すのはビナー退治以来だが、あの時とは違って追われているわけでもないため、それなりのスピードで運転していた。

 

 周りは何もなく風の音しかしない。進行方向を見ても薄く闇が広がっているだけだ。あとどれだけ走らせれば着くのかカヤツリには見当もつかなかった。

 

 

「どれくらいで着くんですか」

 

「えーと。このペースだと30分くらいかな」

 

 

 隣で地図を見ながら答える先輩は楽しそうだった。ドライブみたいなものだから楽しくはあるのだろう。外を見れば、空一杯の星に静かな砂漠が広がっている。観光ツアーでも組めそうなロケーションだった。

 

 

「そういえばホシノちゃんと最近どうなの?」

 

「今、運転中なんですけど!」

 

 

 先輩が急にオーナーみたいなことを言い出した。ビナー退治が終わってから、時々オーナーも同じようなことを聞くのだ。”ホルスとどうですか”とかなんとか。ホルスなんて名前の奴は聞いたことがなかったし、そいつが誰かなんて聞く気もなかった。どうせ興奮してまたぞろわからない単語を連発されるのだ。

 

 

「なんですか。先輩はいつも見てるでしょう。見たまんまですよ」

 

「ふーん」

 

 

 先輩はにやついた顔でこっちを見ていた。何か言いたげな表情だった。こういう時の先輩もカヤツリは苦手だった。相手をするのが非常に面倒くさいからだ。

 

 ──早く着いてほしい。カヤツリの心中はそれだけだった。ちらりと腕時計を見るが5分も経っていなかった。あと25分もこれに耐えるのは辛かった。

 

 

「ホシノちゃんとおんなじこと言うんだね」

 

「ホシノにも聞いたんですか」

 

「うん。随分前にね。今とはずいぶん状況が違うけど」

 

 

 その随分前というのがいつかは分からなかったが、そういったことがあったらしい。水族館の時に察した通り、どうも知らないところで色々動いてくれたようだった。

 

 

「まあ、仲良くやってるならいいかな。これからもホシノちゃんをよろしくね」

 

「それを先輩が言うのは変じゃないですかね」

 

「私は先輩だからいいの」

 

「何ですかそれ」

 

 

 今日の先輩はなんか感傷的だった。自分が卒業した後の事でも考えて、そんな気分になったのだろう。本当に分かりやすくて面倒くさい先輩だった。この空気感のままいたくなかったカヤツリは、少し意地悪な言い方をした。

 

 

「そんな感傷的にならなくても、別に会えなくなるわけじゃないでしょう?そんなに嫌なら留年でもなんでもすればいいじゃないですか」

 

「そんな事を繰り返してたら二人と同学年になっちゃうでしょ」

 

「そしたら先輩呼びが出来なくなりますね」

 

「はぅ……それはちょっと嫌だよ」

 

 

 それを想像したのか先輩は小さくなっていた。カヤツリはくつくつ笑った。

 ちらりと、再び時間を確認した。大して時間は経っていなかった。

 

 

「そういえば、先輩はどうやって生徒会長になったんです?」

 

 

 今思えば、生徒会が三人だけと言うのも可笑しな話だった。なんだかんだ多少の特権はあるからだ。まさか生徒会に一人しかいないから、生徒会長なんていう詭弁が通じるとは思っていない。だから先輩がいつ生徒会長になったのかは知らないが、多少の興味があった。

 

 

「えっとね。挙手投票で決まったんだよ。役員の皆が私に投票したの」

 

「へぇ、人望あったんですね」

 

「次の日には、誰も来なかったんだけどね」

 

 

てへへと笑う先輩に、カヤツリは目を伏せた。それがどういう事か分かっているのだろうか。

 

 

「先輩はもう少し怒ってもいいと思いますよ」

 

「でも、私は自分で受け入れたの」

 

 

 真面目な顔でいう先輩を見て、気持ちが落ち着かない。

 

 ──聞かなきゃ良かった。カヤツリのハンドルを握る力が強くなった。

 

 それはただのスケープゴートではないか。やりたい放題やって、先輩一人に責任を押し付けて逃げ出したのだ。前生徒会の奴らは。

 見捨てられた過去とダブって、カヤツリは虫の居所が悪くなった。

 

 

「生徒会長になったら、アビドスを守れると思ったんだけど、上手くいかないね。今もカヤツリ君を付きあわせてる」

 

 

 何か乾いたような顔で先輩が言った。自信を失ったような顔だった。カヤツリはただ先輩がそんな顔しているのが、無性に腹が立った。

 

 

「先輩は頑張ってますよ」

 

「え?」

 

「今だって頑張ってるじゃないですか。何で人にはそんなに甘い癖して、自分にはそんな風なんですか」

 

 

 カヤツリはハンドルを強く握り過ぎて手が白くなっていた。

 

 確かに先輩はポンコツだ。だけどそれだけじゃないことをカヤツリは知っていた。そうじゃなかったらカヤツリはここにいなかった。

 

 だれがたった一人で戦い続けられるのだろうか。先が見えず希望もない中でずっと。

 

 ビナー退治の時だってそうだ。直接戦うよりも、それを見守る事が辛い事だという事を、先輩に叱られた時にカヤツリは思い知ったのだ。

 

 逃げ出したやつらよりもずっとアビドスのことを考えていた。生徒会長はそういうものなんじゃないのか。

 

 だったら先輩はそれを誇るべきなのだ。人には博愛主義のくせして、自分はその範囲に入っていない所がカヤツリは嫌いだった。

 

 

「先輩がずっと頑張っていることぐらい知ってますよ。だから先輩はアビドスの生徒会長なんですよ。ですから、もうちょっとだけ自分に優しくしても罰は当たらないはずです」

 

 

 唖然とする先輩にそこまで言い切ってから、カヤツリは急に逃げ出したくなった。感情が昂ると突発的に何かするのは、ホシノのことを笑えなかった。

 横目で盗み見ると、先輩はくすくす笑っていた。

 

 

「ふふふ。カヤツリ君はそういう所、直した方がいいね。たぶん苦労するから。でもいいこと聞いたから、これも書いておこうかな」

 

 

 先輩は荷物から帳面を取り出すと何かを書き付け始めた。たぶん先輩が普段から何か書いているやつだろう。それよりも聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。

 

 

「今のを書き残すって言いました?」

 

「そうだよ?」

 

「人の黒歴史を書き残すなんて、どんな酷いことか分かってるんですか。しかもそれ、先輩が生徒会長手帳とか言ってるやつじゃないですか!」

 

 

 カヤツリは運転中で手は出せない。先輩が嬉しそうに、手帳に文字を書き連ねていくのを見る事しかできなかった。

 

 最悪だった。何時かホシノの手に渡った時になんて言われるか。というか、代々の後輩にもみられることになるのでは?いつかの未来を想って憂鬱になった。

 

 さっきとは打って変わって機嫌がよさそうな先輩を隣に、不貞腐れて運転を続けたカヤツリだが、走行中のタイヤの感触が固いものに変わったのに気がついた。そろそろ目的に近づいてきたようだった。遠くの方に星明りに照らされている建物が見えた。先輩はそれを見て頷いた。アビドス本館へはもうすぐだった。

 

 

「ホントに埋まっているんですね」

 

「前来た時より酷くなってるね」

 

 

 さっそく先輩の案内で本館に着いたが、想像以上の荒れ様だった。文字通り砂に埋もれている。屋根らしき部分は見えるが、そこから下は砂で見えなかった。埋もれているという話は本当だったらしい。

 

 

「これ、入り口を掘り返すんですか?」

 

「ううん。こっちに来て」

 

 

 先輩が手招きをするのでついていく。見渡す限り砂まみれでどうにも場所の感覚がつかめないが、先輩は勝手知ったるという風にすいすい進んでいく。

 しばらく進み、何の変哲の無い場所に着いた。先輩はスコップで足元の砂をどかすと、すぐに何か鉄の蓋のようなものが見え始めた。

 

 

「秘密の入り口か何かですか。まるで要塞じゃないですか」

 

「ふふん。すごいでしょ。他にもあるんだけど、これは最近見つけたの」

 

 

 先輩は鼻を高くする。蓋をどかせば、下まで梯子が続いていた。これは倉庫か何かの入り口なのだろう。上の方を見ればクレーンの残骸が見える。これで吊り下げて荷物を下ろしていたに違いない。

 

 下に降りれば、そこは想像通り倉庫だった。何かが積み上げられて迷路のようになっていた。先輩は先ほどまでのようにすいすい進んでいく。先輩を見失ったら遭難してしまうだろう。カヤツリは急いで後を追いかける。

 

 

「ここが、資料室だよ」

 

「室って規模じゃないでしょう。館じゃないですか」

 

 

 先輩が鍵で扉の一つを開けると、広大な部屋だった。まるで図書館のように棚が並んでいる。ただ歯抜けがやや目立った。移転で置いていかれた資料なのだろう。

 

 早速、先輩と確認を開始する。あらゆるところが砂と埃塗れでマスクか何かを持ってくればよかったと後悔した。やはり、置いていかれた資料だけあって碌なものがない。カヤツリが今見ている資料なんか、列車砲のスペックが書かれているが随分と盛り過ぎなように見える。500㎞の射程でプラズマ化した砲弾を飛ばすとか書いてあるのだ。大艦巨砲主義にもほどがあるだろうに。

 

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

「足音しませんか?」

 

 

 カヤツリの耳に変な音が届いた。カツンカツンと規則正しい音だった。誰かが階段を下りているような。こんなところに先輩とカヤツリ以外の人間がいるはずがない。異常事態だった。

 

 

「ひぃぃぃぃん。やめてよカヤツリ君。冗談だよね」

 

「冗談ならいいんですけどね。生憎俺はそういうの嫌いなんですよ。速く部屋の鍵を閉めてください。速く!」

 

 

 いくら夏だからとはいえ幽霊というものをカヤツリは信じていない。今の状況なら人が来ている方が自然だった。此処が砂に埋もれている本館でないのなら。しかも今は夜中だ。碌な人物でないのは確かだった。

 

 先輩が急いで鍵を閉めた後、しばらくしてからドアノブが激しい音を立てて回った。ドアも開けようとしているのか激しく動いていたが、諦めたのか静かになった。先輩は悲鳴を上げそうになっていたが、カヤツリは先輩の口を手で塞いで防止していた。

 

 足音が遠ざかっていく。足音が聞こえなくなってからカヤツリは先輩を開放した。先輩は恐怖と寒さで震えている。

 

 

「ひぃん。なんだったの。幽霊?」

 

「たぶん人ですね。バレてないといいんですが」

 

 

 先輩から鍵を借りて、ドアの外の様子を見る。暗闇が広がっていてもう足音もしない。持っているライトで床を照らすと、砂まみれの床の上に先輩とカヤツリとは別の足跡が見えた。カヤツリや先輩よりも小さい。しかも靴の跡だからロボではなく人だろう。それに実体があるということは、幽霊ではない。

 

 

「先輩。前にもこんなことはあったんですか。ここに来るのは初めてじゃないんでしょう?」

 

「うう。無いよ。怖いよぉ。一人にしないでぇ」

 

 

 先輩はとても怯えていた。時間も時間だ。無理もない。ただ今すぐここを出るのはよした方が良かった。鉢合わせする可能性があるからだ。外の車はバレないように隠して停めてあるから心配はいらなかった。

 

 

「先輩。一応この中の資料を全部漁ってから出ますよ。今出たら鉢合わせします」

 

 

 先輩は涙目でこくこく頷いた。

 結局、資料室では目当ての物は見つからず、移転先のいくつかの分館を当たる必要があることが分かった。先輩を連れて車まで戻ってきたが、別の入り口から入ってきたのか足跡は見つからなかった。

 

 先輩を見ると怯えてしまっていて、今夜はもうお終いにしたほうがよさそうだった。明日以降の事を思いカヤツリはため息をついた。

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