ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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191話 セトの憤怒

「……図ったかのように出てきて、何様の台詞?」

 

 

 セトちゃんは、現れたテラノへ向かって怒声を浴びせかけて来た。

 

 タイミングがタイミングだ。疑われても仕方がない。しかし、こちらにも事情がある。

 

 

「ここまで歩いて来た訳じゃなくてね。シロコちゃんに連れてきてもらったんだよ。便利だよね」

 

「……この嫌な気配は色彩? それで? 何しに来たの? そんな余裕はないんだけど」

 

 

 固まったまま動かないホシノを警戒しながらのセトちゃんは、殊更に機嫌の悪さを隠そうともしない。

 

 

「あー。そうだね。シロコちゃんが来るまで時間は稼ぐよ。ほら」

 

 

 このままでは話が進まないから、テラノは片手を振る。とんでもない強さの砂嵐が辺りを覆った。

 

 砂嵐がホシノを捉えて、彼方へと吹き飛ばしていく。それを見たセトは大体の事情を察したらしかった。

 

 

「向こうのカヤツリから力を借りたね? 二人分がグチャグチャに混ざってる。それで、空のアレも君をホルスと上手く認識できない。そして、小鳥遊ホシノも私と君を上手く判別出来ない……どうやったの?」

 

「違うよ。私は押し付けられただけ。ずっと、こっちのカヤツリを探してるの」

 

 

 二人の住居を整えて、こっちのシロコちゃんにも会わないとね。そんな話をした矢先だ。

 

 即席の住居で目覚めれば、カヤツリの気配は無くて。枕元に手紙が一つだけ。

 

 

 ──野暮用で少し空けます。目は借りていくので、代わりのものを置いておきます。

 

 

 だから、これまでずっと、テラノはカヤツリを探していた。どうやったのかは分からないが、カヤツリは力のほとんどを置いて行った。あれでは存在が不確かで、幽かな幽霊と変わらない。薄いつながりを辿るが、途中で消えてしまう。

 

 その最中に、こっちのシロコちゃんに会って、ここまで連れて来られた。不思議なことに、その瞬間からあの鳥でなくて、この姿で居られている。

 

 

「それで? こっちの事情も知らないんでしょ?」

 

 

 よほどテラノの事が嫌いなのか、セトちゃんは怒り心頭だ。

 

 

「その顔で、そんな事言わないでよ……」

 

「前にも言ったけど。私だって、好きでこんな顔な訳じゃ無い。君には悪いけどね」

 

 

 セトちゃんの顔は、ユメ先輩に似ていた。そっくりという訳では無いが、姉妹というくらいには似ている。身体の方は似ても似つかないが。余りに薄い。

 

 セトちゃんの今まで会った時と顔が違う。どちらかといえばカヤツリ似だったが、それは多分、いじっていたのだろう。よっぽどユメ先輩が嫌いらしい。

 

 でも、今のセトちゃんは生身だ。カヤツリの代わりにセトちゃんが出て来ている。相手が相手だから、そんな余裕がないのだ。

 

 

「事情だっけ? 大体分かるよ。カヤツリが眼帯ちゃんの自爆に巻き込まれた。違う?」

 

「は? 何を言って……」

 

「私の時とは違って、ギリギリ助かったみたいだけど? 違うの?」

 

 

 テラノは不思議そうに首を傾げる。自分の所ではそうだったのだが。

 

 

「何だったかな……ああ。砂漠横断鉄道に私募ファンドとネフティスが絡んできて、手帳の事で喧嘩して……」

 

「全部説明するから待ちなさい。まさか、あっちで先生がああなったのは……シャーレは爆発した?」

 

 

 その言葉に顔を顰める。あれが無ければマシだったかもしれない。

 

 

「したよ。ガス爆発だって。それで、先生は昏睡状態になった。だから、カヤツリは全部やったの。一人でね……」

 

「一人? 理事だとか、黒服だとか、三大校は?」

 

「先生が意識不明の重体だよ? それどころじゃない」

 

 

 あの時は、大騒ぎだった。その時にシャーレビルにいたのがカヤツリだけというのも良くなかった。

 

 

「カヤツリが犯人扱いされてね。勿論、ヒナちゃんとかの知り合いは、そんな事はないと信じてくれたし、鎮火に動いた。でも、そのせいで、アビドスを手助けをする余裕はなかった」

 

 

 セトちゃんの顔が真っ青になっていた。最悪の気分で、テラノは起きたことを思い出しながら口に出す。

 

 

「私は、何もできなかった。一生懸命追いかけたけど、追いついた時には全部終わってた。私のカヤツリとの最後の会話は、ユメ先輩の時と一緒だった」

 

「……それで、こうなったって? 憶測だけで、キヴォトス全てが敵に回ったようなものか。あっちの私が怒り狂うわけだ……その後は?」

 

 

 引きつった顔で聞くセトちゃんに、簡単に答えた。

 

 

「死んでしまったカヤツリを見た私は、一瞬で完全に反転した。それで、こっちの半死半生のセトちゃんと戦闘になった。その時に、アレが乱入してきたの」

 

 

 上空では、アレが滞空したまま全く動かないでいる。ホルスの気配が二つあるから、機能不全でも起こしているのだ。

 

 

「アレはセトちゃんでしょ?」

 

「私の大元の前のテクスチャー。名もなき神々に大立ち回りしてた時のね。別アカウントみたいなものとはいえ、私がまだここにいる以上は、出てこない筈。中身が無いから、逸話通りにしか動かない」

 

 

 おかしいとセトちゃんは首を捻っているが、どうしてかは分からない様子だった。

 

 

「私の方のカヤツリが、何かやったのかも。私が、この姿なのも、アレがでたのも」

 

 

 最近は、テラツリの方が表に出て来ていた。住居の整備の為だと、勝手に納得していたが、大間違いだったのかもしれない。

 

 

「黒服の所にも顔を出したけど、留守だった。……黒服なら、私とカヤツリの繋がりをどうにかできてもおかしくない」

 

「……君は、そっちのカヤツリが何を考えていると思っているの」

 

 

 セトちゃんの方で起こった事を聞いて、少しテラノは考えて、憶測を口にする。

 

 

「知りたいんだと思う。どうして、あの時にああなってしまったのかを」

 

 

 箱舟の件が終わって、テラノとテラツリはあの鳥みたいな姿で行動していた。混沌の領域ではないから仕方がない。

 

 そのせいで、テラノには、テラツリの内心は筒抜けだった。

 

 

「ずっと、自分を責めてた。自分のせいで、皆がああなったって。私には何にも言わないけどね」

 

 

 テラノからしても、仕方なかったと思う。でも、そんな事を言っても救われない事は、お互い分かっている。

 

 でも、それでは皆に失礼だと思うのだ。

 

 だから、テラノは割り切ろうとしていた。そんな事は出来ないのは分かるが、そうするしかない。

 

 

「黒幕を探してるってこと? どうやって?」

 

「それは分からないけど。私の時とは流れが違う。先生は無事だし、そっちの私は踏み止まってる」

 

 

 テラノはホシノの事が羨ましかった。テラノ自身、今の状態が悪いとは思わない。

 

 お互いの心は分かる。何をせずとも一緒。盗られる心配はない。死ぬまで、死んでも、ずうっと一緒。かつての望みが叶って万々歳だ。

 

 でも、いい事ばかりではない。何もかもが筒抜けというのがそれに当たる。

 

 日々に驚きがない。分からないからこそ良いのだ。むしろ、それが当たり前で、だからこそ人の為を思った行動に価値がある。

 

 嬉しくないとは口が裂けても言わないが、物足りなさはある。

 

 

「……ああ、来たね」

 

 

 気がつけば、いつの間か転移門が開いていた。そこから、次々と見覚えのある顔触れが現れる。

 

 彼女たち、対策委員会とゲヘナの二人だ。先生と、最後にシロコちゃんが、ドレスを靡かせて降り立った。

 

 

「じゃあ、私は空のアレを相手するから。シロコちゃん達は、あっちの私をお願いね?」

 

「ん。分かってる」

 

 

 シロコちゃんの返事を背に、砂嵐を解除する。それと同時に、自身の気配を全開にした。

 

 

「──────!!」

 

 

 上空のアレが、テラノを見つけて、吠えた。先程と同じような砂嵐が辺りを覆う。

 

 これで、横槍は入らない。シロコちゃん達は向こうの自分に集中できる。

 

 

「まだ、何も無くしてないんだから。早く戻ってきなよ。その資格はあるんだから」

 

 

 砂嵐の向こうの自分へ問い掛ける。聞こえないだろうが、そうせずにはいられなかった。

 

 

「最後の最後で踏み止まる事が出来た。シロコちゃん達を置いて行かなかった。自分がされて嫌だった事をしなかった。それだけで十分なんだからさ」

 

 

 それはテラノが出来なかった事だ。なら、結末まで同じである必要は無い。

 

 内心のそんな言葉は、激しい砂嵐に呑まれて消える。

 

 

「私も見たいんだ。あんな結末だけが待っているだけじゃないって。私たちだって幸せになっていいんだって! だから、ここは通さないよ!」

 

 

 そう言って、テラノは獰猛に笑った。

 

 

 □

 

 

「は? ……チートだ! チートォッ!!」

 

 

 地下生活者の口から、怒号が放たれる。重大なチート行為。ズルを目撃したからだ。

 

 

「色彩!? アヌビスとホルスが二柱!? それに、なんだあの防壁は!? 名もなき神々の王女から? あり得ない! コデックスに反している! そんなの……そんなのチートだ!」

 

 

 あり得ない事が連続で起きていた。同一存在がいる事も、それが排除されていない事もそうだが。名もなき神々の王女が、セトに贈り物? よりにもよって、必ず一回は命を守る代物だ。そんな物を宿敵に渡すなど、信じられない。

 

 

「あり得ないことはあり得ない。地下生活者。貴方が散々利用した概念ではありませんか。今になって、自分が不利になってから文句を言うのは感心しませんね」

 

「匿名の行人め!! あの役立たずが!! あんな存在がいるなら、先に言えよッッ!!」

 

「言う前に、お前が撲殺したんじゃないか……? 縛りプレイか何かだと思っていたんだが……」

 

 

 煽るような二人の言葉に反応する余裕は地下生活者には無かった。焦燥感が全身を襲っていて、考えが纏まらない。

 

 

「そういえば。あれにサインした時どんな気分だったんだ?」

 

「ああ、あれですか。私の場合は、面白そうでしたから。非常に興味深いと思ったのですよ」

 

「面白い? あの紙を持ってきたことが?」

 

「いえ。私は、彼を拾った時の事を思い出しただけです。契約の通りに、彼は見つけたのでしょうね。私の予想を超えてきた。案外、成長を見守るのも悪くない。一人増えましたしね。それは貴方の所も同じでは?」

 

「……俺はそれを渡せなかったからな」

 

「……何を渡したのです?」

 

「……退部届と退学届」

 

「ああ。それは良くない。その選択は分かりますが、彼女と同じではないですか。この世界に来て、彼女に暫く絞られたでしょう?」

 

「あの日の事を思い出したよ。説得に失敗したら、ああなったんだな」

 

「彼女にとって、家族は貴方ともう一人しかいませんからね。そうする気持ちは理解できるのでは?」

 

「今のこれも怒られる。きっと、しばらく出られない」

 

「クックックックッ……貴方も大変ですねぇ」

 

「五月蠅い!!! 思策の邪魔だ!!!」

 

 

 あまりにも二人の会話が耳障りで、地下生活者は怒鳴るが、それで、名案が浮かぶわけでは無い。

 

 このままでは負けかねない。そう地下生活者が思った時に世界が揺れた。

 

 

「オオオオオオッ──! ホルスの神格に応じて!? セトの憤怒が!? これなら──」

 

 

 世界を裂いて現れた存在に、地下生活者は歓声を上げた。これなら、何とかなるかもしれない。しかし、その地下生活者の期待は儚く消えた。

 

 

「クソが! 中身が空っぽだ! これでは何の意味もない!!」

 

 

 この異常事態の不具合か何だか知らないが、セトの憤怒は期待外れだった。

 

 全く神威を感じない。あれではガワだけだ。肝心の中身がない。一応はガワがガワだから、多少はやるだろうが。ホルスに歯が立つとは思えない。

 

 現に今も完全に足止めされている。そして、反転しかけのホルスも、アヌビスと他の生徒に抑え込まれ始めていた。しかも、ホルスに近づく先生のシッテムの箱が不吉な光を放っている。ホルスに直接何かするつもりだ。

 

 

「マズイ、マズイ、マズイ……何とかして、セトの憤怒を完全体にしなければ……その手段は……待て。何故、混沌の領域が地上に展開している? 小生は、そんな事をした覚えは……」

 

「ああ、それは、俺がやった」

 

 

 そう対戦者から発された言葉に、地下生活者は怒髪天を突いた。

 

 

「貴様!! 小生の許可なく勝手なことを!! これは不正行為だ!!」

 

「ふざけてるのはテメェだ。ダブスタクソ野郎。今のお前の立場はプレイヤーだろうが。何をGM気取りに話している。何度も俺は言っただろう。だから、混沌の領域を展開した。そうしないと、ここまで来れないからな。こういうゲームは、面と向かってするもんだろ?」

 

 

 手前勝手な理屈を並べる相手に、地下生活者は食い下がるが、どうにもならない。

 

 

「いいか。これは小生のキャンペーン! 勝手は──先生! 貴様!」

 

 

 地下生活者が、意識を外した瞬間に、地上のシッテムの箱が一際強く光り輝く。そして、少女の声が響いた。

 

 

『準備完了です! 先生! 対象はホシノさんの深層! そこへ生徒の皆さんの声を転送します! 展開された混沌の領域。ここからなら、絶対に届くはずです!!』

 

「待て──!」

 

 

 地下生活者の叫びも虚しく、地上の反転途中のホルスの動きが止まったのが分かった。

 

 

「しかし、しかし! 他者の心は理解できない! 反転は不完全とはいえ、戻せるはずがない! そんな事は不可能だ!」

 

 

 尚も食い下がる地下生活者だったが、自身の背中に何者かの気配を感じた。

 

 

「お前の本来の対戦相手が来たみたいだ。ようやくキャンペーンの開始だな。どうした。そんな焦った顔して。お前の好きなキャンペーンだぞ。それとも、まさか、相手と正面切っての戦いは初めてか? 戦場童貞」

 

「あり得ない! お前は唯の負け犬のはずだ! 何故、ここにいる先生!!」

 

 

 ここに現れた先生に、地下生活者は叫ぶ。もう、先生との勝負は終わったはずなのだ。後は、ホルスの反転を待つだけだ。それだけで、この男には何もできることは無いはずなのに!

 

 

「初めましてだね。地下生活者。早速で悪いけど、君に会いに来たわけじゃないんだ」

 

「なら、何をしに来たと言うのだ! 小生の邪魔をしに来たのだろう! 小生に勝つために来た! それが邪魔でなくてなんなのだ!!」

 

 

 叫ぶ地下生活者に、先生は強く言い返したりはしなかった。ただ、淡々と事実を述べただけだ。それだけの事が、地下生活者には何よりも効いた。

 

 

「ただ、私は自分の生徒を助けに来ただけだ。君に勝つためじゃないし、そもそも勝負を仕掛けられた覚えもない。ここに来たのだって、誰かの助けを借りてだし、必要なことだからだよ。君に会いに来たわけじゃない」

 

「貴様……!」

 

 

 それは、地下生活者にとって、何よりも屈辱だった。ゲマトリアを追い出された時以上かもしれない。この男は地下生活者を路傍の石扱いしたのだ。

 

 

「対戦相手がキャンペーンの参加を拒否したな。だったら、このキャンペーンは解散だ。メンバーが足りないんじゃ成立しない」

 

「待て! やめろ!」

 

 

 それは、マズイ。そんな事をされてしまえば、地下生活者は本当に何もできなくなる。制止の声を上げれば、キャンペーンの中止は中断された。しかし、まだ終わったわけでは無い。何か弁明をしなければならない。

 

 

「いや、待て……ヒヒヒヒッ。やはり小生の勝ちだ!」

 

 

 必死に頭を回転させる地下生活者に天啓が舞い降りた。ホルスやアヌビスが二柱。それなら、セトが二柱いてもいいのではないか?

 

 そもそも、張りぼてのセトの憤怒。アレが現れたのは、ホルスとアヌビスが二柱いたからではないだろうか。現れたはいいが、セトが居るから張りぼてになった。席が無くて、中身だけは、来たくとも来れなかった。片方が完全なら、もう片方は不完全である必要がある。

 

 だってホルスとアヌビスを観察すれば、なんてことはない。全く同一ではない。ホルスは反転途中とそうでないもの。アヌビスは反転しているのと、していないもの。

 

 そして、今。セトも完全ではない。きっかり半分が反転途中のホルスの中にある。さっきとは違う。

 

 だから、今なら喚べるはずだ。完全なるセトを。暴虐の化身。セトの憤怒を。逆転の手段はこれしかない。

 

 

「最後の攻略法! チートにはチートで対抗する!」

 

 

 あのチートがどういったモノかは分からない。だが、関係ない。ここは混沌の領域。何でもありの空間だ。過去だろうと未来だろうと、別世界からだろうと、何でも呼び寄せられる。

 

 

「ヒヒヒヒヒヒッ。これで、終わりだ! これで世界は滅亡する! 黒服! これが、貴様の見たかった光景。世界の滅亡だ!!」

 

 

 先ほどとは比べ物にならない神威を放つセトの憤怒を眼下に、地下生活者は勝ち誇った。

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