ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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195話 神話大戦アビドス

「よかった……」

 

 

 先生は盾で対策委員会への攻撃を防いだホシノを見て、安堵のため息をついた。

 

 ホシノはもう、あの赤黒い燐光を纏った姿ではなくなっていた。普段通りの生徒の姿で、対策委員会と共に立っている。

 

 カヤツリは、セトが居た場所に立っている。そして、全員が、宙に浮かぶセトの憤怒を見上げている。

 

 

「あれは、ホシノが戻ったら退去するんじゃ?」

 

 

 先生は、いまだに雷を振りまき続けるセトの憤怒を訝し気に見つめるが、消える気配は全くない。むしろ、さっきよりも猛り狂っているのか、落ちる雷の量と風の勢いが増している。

 

 

「ふむ……これは一体……私の仮説が間違っていた? しかし、彼は戻ることができている」

 

 

 黒服の指摘通りに、テラツリはもういない。ホシノが戻るなり、すぐさま地上へと戻っている。戻ることが出来ている時点で、黒服の仮説は部分的には当たっているのだろう。

 

 

「……あのセトの憤怒が、反転したホルスをトリガーとして降臨したのは間違いないはず。現に彼が戻れている。つまり、この世界との縁は多少とはいえ薄くはなっている」

 

 

 ブツブツと黒服は呟く。

 

 

「だからこそ、縁、アンカー、この世界との接続点であるホルスが消失すれば、縁を失ったセトの憤怒は、この世界から退去せざるを得ない。そのはずなのですが……実に、興味深いですねぇ」

 

 

 とても困ったように見えるのに、黒服の全身からは歓喜しているのが分かるほどの興奮が発されている。

 

 

「アレとホシノさんとの縁は薄い。少なくとも、別世界の彼よりは。……別世界? ……そもそも、あのセトの憤怒は、どこから来たのでしょう」

 

「……あの子達みたいに、別世界からじゃないの?」

 

 

 恐る恐ると言った先生の仮説を黒服は一蹴する。

 

 

「それは違います。幾ら、セトとはいえ、箱舟無くして安全な世界移動などできません。別世界のカヤツリ君が出来たのは、箱舟に乗ったアヌビスを追う事が出来たからです。そして、それも契約でそうなるように仕向けての事。そして、平行世界から他者を呼び出せる程、地下生活者の誘導は強力ではありません」

 

 

 細かい専門知識は分からないが、何となくは分かった。黒服の考えでは、来れる筈がないのだ。言われてみれば確かにそうだ。シロコ・テラーも箱舟を使わなくてはここまで来れなかった。それだけでなく、プレナパテスとプラナ、二人の協力あっての奇跡なのだろう。

 

 

「それなら、なんでテラツリは戻れたの? 二つしか席はない筈だよね」

 

 

 カヤツリの説明ではそうだった筈だ。だから、向こうから来た、ホシノやシロコも大手を振って暮らせるようになるのだと。

 

 でも、今の地上には三柱のセトがいる。どうにもおかしい。

 

 

「……完全なセトで一枠を使用する? だから、テラツリがここにいる時は含めない。なら、今は? 二人は戻ってる」

 

「恐らく、セトの憤怒の方が不安定なのでしょう。いえ、最初からそうだったのかもしれません」

 

 

 何か思いついたのか、黒服は興奮した口調だ。

 

 

「なぜ、不安定であるのに退去せずに済んでいるのか。それは、この世界から来たからでしょう」

 

「でも、カヤツリはここにいる」

 

 

 黒服の言うセトとカヤツリは同じなのだろう。そうなると黒服の言うことはおかしい。カヤツリが二人いることになる。

 

 テラツリは分かる。別世界から来たからだ。

 

 

「そうです。だから、以前のテクスチャーを被っている。ここにカヤツリ君がいるから、そうするしかなかった。まぁ、向こうもそれは願い下げでしょうが」

 

 

 黒服が言っていることの、本当の意味が分からない。黒服自身にしか分からないように話している。多分、詳しく分かりやすく説明する。それほどの余裕が黒服にもないのだ。

 

 

「最初の切っ掛けは誰でも良い。地下生活者でも、カイザーでも、それこそ、私でも。ホルスが出現し、そこにセトが降臨する。そして、誰かに倒される。この結果があればそれでいい。そうでなければ、もう辻褄が合わない。だから消えないと。クックックックッ……全く、そういうことだったのですね」

 

 

 黒服はひとしきり笑った後、先生の方を向いた。あんまりにも様子がコロコロ変わるので、先生は一歩引いていた。

 

 

「先生。解決策は一つです。アレを、セトの憤怒を撃破して下さい。そうすれば、全て丸く収まるでしょう」

 

 

 そんな黒服の声に、答える声があった。勿論先生ではない。

 

 

「ヒヒヒ……それなら、やはり、小生の勝ちは揺るがない。誰も、万星の星座。セトの憤怒を止める事など出来ない……!」

 

「地下生活者……!?」

 

 

 まさかと思う。まだ何かをして、この事態を悪化させる可能性が出てきたからだ。

 

 

「地下生活者は放って置いて問題はありません」

 

「でも、黒服」

 

「ただの強がりです。悪足掻きとも言いますが。一目で分かります。彼はもう何も……いえ、ダイスくらいは振れるでしょうが。もう遅い。セトの憤怒に頼るしかない」

 

 

 黒服の言う通りに、地下生活者は口だけだ。手足は痙攣するだけで、全く思う通りに動かないらしかった。

 

 そんな地下生活者だが、勝ち誇るのを止めない。得意そうに、掠れた声で、先生の弱点を論う。

 

 

「貴方は指揮に限界がある。前衛が四人、後衛が二人。合計六人が限界だ。それ以上は統率が乱れる」

 

 

 それがシッテムの箱の限界だった。そして、それは今まで気にしたことはなかった。

 

 先生は、戦う為にキヴォトスに来たわけではない。先生として来てほしいと言われたから来たのだ。だから、そんなことは気にしたことはない。

 

 だが、今回は気にせざるをえない状況だ。アレは、セトの憤怒は、あの時のシロコ・テラーよりも強大だった。

 

 地上の全員が有効打を放てていない。全く攻撃が効いていない。

 

 そんな様子を見て、地下生活者は高笑いする。

 

 

「確かに、先生。貴方は手強い。ただ限界はある。神性がいるとはいえ、たかが六人で、名もなき神々を打ち払ったセトの憤怒を倒せるものか!」

 

 

 生徒たちを見下ろして、天空のセトの憤怒が咆哮する。吹き荒ぶ風が、嵐が、雷が。全てを薙ぎ払っていく。それは荒ぶる神そのものだった。

 

 

 □

 

 

「……どうする? ヒカリ」

 

「うーん。考えちゅー」

 

 

 そんなのんきな双子の声をBGMに、スオウは遥か遠くの光景を眺めていた。

 

 何か巨大なモノが、アビドス砂漠の上空。恐らくは大オアシスの地点に鎮座している。それはとても良くない気配がするのが、遠く離れたここ。生徒会の谷からでもよく分かった。

 

 

「監督官ー……行きたいの?」

 

「何をバカな事を……行ってどうすると言うんだ」

 

 

 ヒカリからの言葉に、すげなく返す。もう、スオウの出来る事は何もないのだ。何が起こったかは定かでないが、自分がシャーレから盗み出した爆弾でああなったことは分かる。

 

 先生から、連絡先を教えられて。そこで待てと言われて此処にいる。スオウがあの場所に行きたがっている? バカも休み休み言ってほしい。

 

 そう、続けて反論しようとして、言葉が上手く出てこなかった。そんなスオウに、ノゾミの方がもう一度聞いてくる。

 

 

「じゃあ、どうしてずっと、アレを見てるわけ? 先生にそう言われた訳じゃないよね」

 

 

 どうしてだろうと、ふと思う。どうして、スオウは未練たらたらでこうしているのだろう。

 

 カヤツリに勝ちたい? 違う。

 

 他人に褒めて欲しい? 違う。

 

 強くなりたい? 違う。

 

 しばらく考えて、答えとも言えないようなものを、ようやくスオウは絞り出した。

 

 

「アレは、私のせいだ。それなのに、ここで他の誰かが解決するのを見ているだけなのは気分が良くない」

 

 

 それは、今までと同じなような気がするのだ。上手くいかなかったからと、途中で放り出している。

 

 だから、何時までも満たされなかった。途中で放り出したから、何も得られなかった。失敗すらできなかった。

 

 逃げなかったのは。いや、逃げられなかったのは、ハイランダーだけだ。だから、スオウはハイランダーで何かを手に入れたのだ。

 

 でも、スオウには何もできない。だから、とてつもなく気分が良くない。

 

 

「へぇー……監督官も、見かけによらず、熱いところがあったんだ……パヒャヒャッ!」

 

「チッ。しかし、我々には何もできん。我々はアビドスでなく、ハイランダーだ。この騒動に対して、介入の建前も手段もない」

 

 

 ノゾミの揶揄いに仏頂面になりながらも、スオウは懸念を口にする。正直言って、どちらも思い浮かんではいるのだ。建前だけなら何とかなる。原因がスオウ自身だからだ。しかし、手段だけはスオウのみではできない。二人の助けがいる。

 

 

「監督官さ。シェマタだっけ。それを使おうとしてるでしょ」

 

「……そうだ。よく分かったな」

 

 

 あの宙に浮かぶモノが何なのかは分からない。ただ、シェマタを撃ち込めば手傷くらいは負うのではないだろうか。

 

 列車の操作は腐ってもハイランダーだ。スオウだってできる。そして、シェマタを起動するゴールドカードはスオウの手の中だ。問題はないように思えるが、問題は幾つかある。

 

 まずは、このシェマタの権利が宙に浮いている事。無断で使えばどうなるか分からない。

 

 次に、威力が分からない。ネフティスグループは爆弾を飛ばすと言っていたが、カイザーはプラズマだのなんだのと、また違うことを言っていた。無暗に打ち込めば、先生たちに被害が及ぶだろう。

 

 最後に、信用してくれるかどうかだ。スオウはずっと裏切り続けてきた。実績としては下の下だ。

 

 

「何をしている! やめろ!」

 

 

 橘姉妹は、歩き出していた。それもシェマタの方に。それだけはさせられないとスオウは叫ぶ。

 

 

「お前たちが動く必要はない! それは、私の役目だ!」

 

「監督官さ。運転しながら、狙いを付けられるの? たぶん、砲手と運転の席は別だと思うけど」

 

 

 スオウは言葉に詰まる。そこまで考えていなかったからだ。

 

 

「お前の方は何をしている……!?」

 

「せんせーに電話ちゅー」

 

 

 ヒカリの方は、いつの間にかスオウから連絡先を掠め取っていた。そして、コール音が聞こえている電話を押し付けられる。

 

 

「監督官は忘れてるみたいだけど。もう一蓮托生なんだよね。私たち。だって、このアビドスの案件は私たちと監督官が担当だよ? 無事に終わらせなかったらどうなるか分からないんじゃない?」

 

 

 それは、本当にその通りで、またまたスオウは言葉に詰まった。それを二人は笑ってみているのだ。

 

 

「いつも通りにやろうよ。それが一番いいと思うな。パヒャッ」

 

「じゃあ、そういうことでー」

 

 

 二人は、そのまま逃げるようにシェマタの方へと消えていく。スオウの手元には、コール音がまだなる電話だけだ。面倒くさいところだけを押し付けられたらしい。

 

 でも、悪くない気分だった。そう思って、スオウは電話を耳に当てた。

 

 

 □

 

 

 地下生活者は、痛みに呻きながらも勝利を確信していた。

 

 先生は何とかしているようだがジリ貧だ。六人ではどうにもなるまい。

 

 

「んん? 何ですか!? これは!?」

 

 

 セトの憤怒に何かが直撃していた。その正体と、その手段は地下生活者にはすぐに分かった。

 

 

「まさか、シェマタを? 良いところに目を付けましたね。浅知恵ですが」

 

 

 設計図のスペック通りなら、痛手を与えられただろう。ただ、それは不可能だ。

 

 

「まさか、何年も放置されていたモノが、マトモに動くとお思いで?」

 

 

 あれは、確かに今の技術でしっかり整備すれば、想定通りの威力を叩きだすだろう。

 

 だが、アレは何十年も放置されているものだ。今普通に動くのが奇跡と言ってもいい。本来なら、地下生活者が混沌の領域で万全の状態にする予定だった。だから、地下生活者が介入しない今、砲撃したところで、初めから装填されている砲弾の威力くらいしか出ない。乗り手も悪い。それではセトの憤怒に傷を負わせるなどお笑い草だ。

 

 

「ほうら、終わりですよ」

 

 

 砲撃に苛立ったのか、セトの憤怒がお返しにと雷撃を撃ち放つ。それは、遠く離れたシェマタに当たった様子だった。

 

 着弾までの間隔からして、乗組員は逃げ出したようだが、シェマタはもう半壊状態だ。これで、切り札はもうない。

 

 

「無駄な足掻きはお止めなさい。どう足掻いても、セトの憤怒には何人たりとも敵わないのですから……」

 

『シッテムの箱。制限解除。プロセス──ペレス・ウザ。限定稼働開始』

 

 

 先生の横から、そんな言葉が聞こえた。その声に気を取られた後、地下生活者は叫び声をあげる。

 

 

「システムの改変だと!? これまでの制限を解除!? そんな事が!?」

 

 

 あの一瞬で。先生の制限が解除されていた。もう人数制限は十人近くまで拡充されていた。

 

 

「まさか、まさか! シェマタの攻撃は目くらましか!?」

 

 

 シェマタの攻撃の瞬間だけは、セトの憤怒の攻撃は止む。その間に先生は生徒たちを編成し直したのだ。あれは、そのための……

 

 

「いや。小生が焦る必要はない。セトの憤怒は無敵。たかが数人増えたところで……」

 

 

 そうして、落ち着こうとした地下生活者は、先生が手に持つ物を見て、今度こそ、言葉を失った。

 

 

 □

 

 

「……私たちは、無理みたい」

 

 

 シロコ・テラーは、寂しそうに、この世界の自分たちを見た。彼女たちは先生の指揮下に入り、セトの憤怒へと突撃している。

 

 シロコ・テラーとテラノ、テラツリはと言えば、指揮下から外れている。単純にあぶれたのだ。

 

 対策委員会で六人。ゲヘナの二人で八人。そして、ハイランダーの三人で十一人。これが、先生の限界だった。

 

 確かに、これまで皆の代わりに前線を張っていたから、身体は傷だらけだ。休んでほしいと言うのは分かるが、少し寂しかった。

 

 

「まだ、終わりじゃないよ。シロコちゃんの気持ちは分かるけどさ」

 

 

 ホシノ先輩がそう言うが、シロコ・テラーの気分はすぐれない。それは唯の慰めだと知っているからだ。でも、カヤツリ先輩も同じことを言う。

 

 

「うん。まだ、諦めるのは早い。シロコ。何か気がつかないか?」

 

「あれ……先生の指揮が、届いてる」

 

 

 さっきまではあって、失くなっていた感覚が再びあった。全身にあふれる万能感。広がった感覚。それは先生の指揮下に入った時の感覚だった。

 

 

「少し、違う? でも、どうして……」

 

 

 そんなシロコ・テラーにカヤツリ先輩が黙って、少し悲しそうな顔で、顎をしゃくった。見れば、いつの間にかホシノ先輩も同じ顔をしている。

 

 

「雨雲号? 何で……私は出した覚えは……あ、ああ!」

 

 

 雨雲号がいつの間にか滞空していた。勿論、そんな事をすれば、セトの憤怒に狙われる。今も、雷撃が飛んできている。

 

 壊れると思ったシロコ・テラーは悲鳴を上げるが、軽々と雨雲号はそれを躱す。その動きには、シロコ・テラーには見覚えしかなかった。

 

 

「アヤネ……?」

 

 

 あれは、アヤネの避け方では無かっただろうか。シロコ・テラーが言葉を失う間にも、雨雲号はセトの憤怒へと突撃していく。

 

 

「セリカ……ノノミ……先生……」

 

 

 雨雲号は突撃しながらも、搭載された銃器を乱射している。それは、雨雲号に取り付けられた銃架に乗った、ノノミのミニガンとセリカのアサルトライフルもそうだった。そして、この指揮の感覚は、この戦い慣れた指揮の感覚は、先生(プレナパテス)だ。

 

 シロコには分かる。死の神に、アヌビスになった今のシロコ・テラーには。

 

 アレには何も宿ってはいない。死者は帰って来ない。ただ、遺品に宿ったかつての記憶をなぞっているだけだ。それが彼女たちや先生が蘇ったように見えているだけだ。それでも、シロコ・テラーにとっては、救いに他ならなかった。

 

 かつてのシロコは、あのセトの憤怒に戦えすらしなかった。ただ、先輩たちに守られて、後輩たちと逃げる事しかできなかった。そして、シロコは何も守れなかった。

 

 でも、今は違う。

 

 自分の世界ではないけれど、もう取り返せない事だけど。でも、繰り返さない事は出来る。

 

 それが今だった。

 

 

「じゃあ、いつも通りに。カヤツリ」

 

「ああ、ホシノが前だな。俺が後ろ。それで、シロコは……」

 

「ん。分かってる。好きに動く。皆も分かってるみたい」

 

 

 盾を構えたホシノ先輩と、狙撃銃を背負ったカヤツリ先輩。そして、滞空する雨雲号。

 

 足が速いシロコ達と、そうでもない後輩たち。かつての、いつもの陣形だった。

 

 

「じゃあ、アビドス。行くよ!」

 

 

 こんな幸せな夢に泣きそうになりながら。ホシノ先輩の掛け声とともに、シロコ・テラーは前へと駆けだした。

 

 

 □

 

 

「お、おお──大人のカードッ……!?」

 

 

 信じられない物を見て、地下生活者は、さっき迄の余裕は吹き飛んでしまった。

 

 

「そ、そんなものが、どうして……二枚も存在するのだ!!」

 

 

 先生が手に持つ一枚と、どういった理屈か宙に浮かんで光り輝くボロボロのカード。合計二枚が、大人のカードたる所以を盛大に発揮していた。

 

 

「プレナパテス……? そうか、いつでも見守ってるって……」

 

『先生……』

 

 

 先生と黒い服の少女が何事かを呟いているが、地下生活者にとってはどうでもいい。

 

 大人のカードなんて、反則にも程がある。こんな()()()に持ち出すようなモノではない。

 

 

「チートだ!! ふざけるな!! そんなものに! 勝てるわけがないだろう! プレイヤーの誇りはないのか!?」

 

「これ以上、アビドスの皆を悲しませないためだよ」

 

「何を言っている! それが、このゲームに、そんなものを持ち出すことに、何の関係があると言うのだ!」

 

 

 地下生活者は先生に向かって吠える。

 

 

「ルールは!? コデックスは!? そんな力に敵うわけないだろう!? そんな、そんなもの! 許されるものか!」

 

「世界で苦しんでいる子供がいて、助けてと、そう手を伸ばすのなら。私はためらわない。君が許すも許さないもない」

 

「そんなのナシだろ……カードなんて……ゲームでこれは、ズルだろう……? はあ……??」

 

「君には、分からないんだね」

 

 

 先生の視線が癪に障る。哀れなものを、救えない物を見る目だ。黒服と同じ目だ。

 

 

「何を……」

 

「子供が責任を負う世界などあってはならない。だからこそ、子供の為に、大人は力を持つことが許される。力を振るうことが出来る。大人とは、責任を負う者。その責任が自分でも、他人のせいであっても、そうなんだ。勝負事どうとかで決まることでは無いんだよ」

 

「こんなの、チートだ……。チートだ、チート! チートだァァァァッ! 小生を、騙すとはッ! こんなの、ノーカン、ノーカウントだ! ノーカウント! ノーゲームだ! 分かったかッ!」

 

 

 地下生活者は抗議を止めない。何か意味不明の事を言っている先生が悪いのだ。なぜ責任を取らなくてはならない。これは、ゲームだ。ゲーム如きで責任など間違っているし、大人のカードなどと言う劇物を使うなど。ゲームの様相を為していない。

 

 

「騒ぐのは結構ですが、地下生活者。そろそろ、マズいのでは? 押されていますよ?」

 

 

 黒服の、のんきな声に地上の様子を見れば、セトの憤怒が押されていた。ダメージは微々たるものだが、少しづつ削れていっている。このままではマズイ。

 

 

「黒服! 不正だ! ノーカウントだ! ノーゲームだ! だから──」

 

「先生を止めろと? まさか、本気で言っているのですか?」

 

 

 黒服は、興味なさそうな声で、地下生活者の要請を一蹴する。

 

 

「ゲーム如きでと、貴方は言いますが。地下生活者。貴方は勝負を仕掛けたのでしょう? それも命を奪おうとした。このレベルの反撃は当然だと思いますが」

 

「だが! 大人のカードだぞッ! ゲームに持ち出すなど、過剰にもほどがある!」

 

 

 それを聞いた黒服は大きなため息をつく。

 

 

「正面から人を害すれば、同様の事を自分もやり返される。古来から当たり前に言われてきたことです。責任とは、その行動の責を自分で負う事。昔から言うでしょう? 目には目を、歯には歯をとね。地下生活者。貴方はここから人を害するのに慣れすぎて、反撃など想像もしなかったと。まさか、そんな当たり前のことを分かっていなかったのですか?」

 

 

 黒服は助けてくれる気はないようで、のんきそうに焦る地下生活者を眺めている。そして、嘲るように地下生活者へ言う。

 

 

「最期くらいは自分の力で何とかして見せたらどうです? なにか、光明が見えるかもしれませんよ?」

 

 

 それを聞いて、地下生活者は名案が思い浮かんだ。

 

 まだゲームは終わっていない。そして、自分は半死半生だが、ダイスくらいは振れるのだ。

 

 さっきと同じように、クリティカルを出してやれば、巻き返せるかもしれない。だから、地下生活者は震える手でダイスを振る。

 

 

「ファンブルだと……!? そんなはずは……!?」

 

 

 地下生活者は何度も、何度もダイスを転がす。しかし、ファンブルしか出ない。

 

 

「おや? さっきのクリティカルで運を使い切ったようですね。まるでクリティカルが出るのが当然と言った言い方には疑問を覚えますが」

 

「黒服! 貴様! 小生に、何をした!」

 

 

 黒服に怒鳴るも、黒服は冷たく言い放つ。

 

 

「私も、彼も、先生も、何もしていませんよ。貴方が勝手にそうなっただけです」

 

「バカな! ここは、混沌の領域だ! こんなことあるはずが──」

 

 

 ここまで考えて、地下生活者は一つの可能性に思いあたった。自分の血の気が引いていくのが嫌でも分かった。

 

 

「気がつきましたか? 貴方の言う通りファンブルばかり出るのは異常です。ここは混沌の領域。様々な可能性が混ざっているのですから。しかし、その可能性が一つしかないなら、話は別です」

 

 

 それは、地下生活者にとって、何より恐れる事だった。必死になってダイスを振るうが、結果は同じだ。ダイスに細工はないはずなのに、決まった面しか出ない。

 

 

「地下生活者。貴方には敗北の可能性しか残っていない。どう足掻いても、負け方が変わるだけです」

 

 

 そう言う事だ。混沌の領域でそうなると言う事は、黒服の言った通りの事なのだ。地下生活者は敗北する。そんな結末を保証されてしまった。

 

 

「そろそろ、フィナーレの様ですよ」

 

 

 セトの憤怒の目前で、恐ろしいものが充填されていた。知らない。地下生活者はあんなものは知らない。ホルスとセトが協力しているなど意味が分からない。

 

 でも、それが放たれれば、終わりだと言う事は分かった。ここがエンディングだ。

 

 

「止めろ、止めろ、止めろォォォォッ!!」

 

 

 そんな地下生活者の叫びも虚しく、激しい光がセトの憤怒を飲み込んだ。

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