ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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197話 後始末と、これからと

「終わりだ……もう、終わりです。まさか、こうなるとは……」

 

 

 地下生活者は、元の冷たい地下室へと戻ってきていた。匿名の行人たちが来た時と同じように蹲ってぶつぶつと恨み言を呟く。

 

 

「小生は、間違った場所に放り込まれただけ……こんな世界は、ゲマトリアの小生にふさわしくありません」

 

 

 地下生活者は、悪くない。悪いのは世界の方だ。ルールが滅茶苦茶では勝てるものも勝てない。寧ろ、よく健闘した方だ。

 

 

「ですが、あれはノーゲーム。まだ、小生には次が──」

 

「──次なんかない」

 

「どうしてここに……!?」

 

 

 暗い地下室に、セトが立っていた。黒いコートをなびかせて、冷たい目で地下生活者を見つめている。

 

 

「アレで終わりだと、そんなこと思ってたのか? 黒服が言ってただろ。死ぬよりも辛い目に遭うって。その時が来ただけだ」

 

 

 カツカツと靴の音を立てて、セトが近づいてくる。地下生活者は、後ろの影を見て半狂乱になった。

 

 

「ひっ、ヒィィイイイッ!? アヌビスが、ホルスまで……!? 嫌だッ! 小生は、死にたくない!」

 

 

 全員が冷たい目で地下生活者を睨んでいる。特にアヌビスの視線が冷たすぎる。地下生活者に待つ運命が嫌でも分かった。

 

 

「死の秘密を知りたいんでしょ。だったら、体験すればすぐわかる。──私が手伝ってあげる」

 

 

 黒い、死の気配が漂う銃が地下生活者に突き付けられた。引き金が指に掛けられようとしたところで、止める声があった。

 

 

「シロコ。それは止めとけ。直接シロコが手を汚す。その価値もこいつにはない。そもそも、シロコの本来の役割はこれだろうに」

 

 

 意外にもセトの制止によって、地下生活者は延命されたが。嫌な予感が止まらない。さっきの言葉を思い出したからだ。

 

 

 ──死ぬよりも辛い目に遭う。

 

 

 セトに何かを手渡されたアヌビスは頷く。地下生活者に何か──天秤を向けた。そのまま光が地下生活者を貫く。

 

 

「ヒィィイイイッ!? …………?」

 

 

 何やら権能が乗った光は地下生活者の影を打ち抜いた。しかし何も起こらず、悲鳴を上げた地下生活者は困惑した。

 

 

「上手くいった? シロコちゃん」

 

「ん。……本当にこれで良いの?」

 

「大丈夫だ。念のため、地下世界に併合した」

 

 

 もう、三柱は地下生活者に興味を失ったようだった。そのまま、姿を消してしまう。

 

 

「小生は、助かったのか……? これは……?」

 

 

 命拾いした歓喜に震える地下生活者の視界に何かが映った。

 

 

「砂時計? それに、なんだ、この部屋の亀裂は。小生の身体にも……」

 

 

 視界にあるのは、宙に浮いた砂時計だった。上に溜まった砂がゆっくりと下へと落ちている。このペースでは全部落ちきるまで、かなりの時が掛かるだろう。部屋は石造りの部屋だったはずが、床や壁、地下生活者の身体には罅の様な黒い線が走っていた。

 

 

「……足音?」

 

 

 それは異常事態だった。この部屋。この空間には、地下生活者しかいないはずだからだ。さっきの三柱の襲撃はイレギュラーなのだ。そう何度もイレギュラーが起こってはたまらない。

 

 部屋の扉から、先を見れば。足音の正体がわかるだろう。そうしようと、扉まで移動しようとした地下生活者は、激しく転ぶ。

 

 

「何が……」

 

 

 何かに躓いたのだろうか。そう思って、自分の足を見た地下生活者は絶叫する。

 

 

「足が!? 小生の足が!」

 

 

 地下生活者の足がちぎれていた。躓いたのは、足首から先がなくなったからだ。恐ろしい事に、痛みも血もない。

 

 

「何故だ!? いったい、どんな絡繰りで……いや、この線か!?」

 

 

 足首をよく見れば、線から綺麗に切断されている。恐る恐る、指で壁の線をなぞると、そのまま壁は崩れた。

 

 つまり、ここを触られれば切れるのだ。兎に角も攻略法の一端が見えたことで、地下生活者は安心する。足首も、何かに引っかけたせいで切れたのだ。

 

 

「む。砂時計の砂が、減っている?」

 

 

 かなりの残量があったはずの砂が下に落ちていた。あと、数秒で砂が無くなるだろう。

 

 

「……!?」

 

 

 砂が落ちきった瞬間、地下生活者は倒れる。全身がどんどん冷たくなって、凄まじいまでの喪失感が身体を襲う。自分の身体から、何かが流れ出していく。温かいものが流れ出して、もう何も残らない。そんな感覚が全身に回って……

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……これは、一体……」

 

 

 そうして、地下生活者はまた同じ地下室に立っていた。部屋の壁も、切れた足首も元通りだ。違うのは、砂時計の砂の量。落ちきったはずの砂が戻っている。

 

 

「いや、そういうことですか。理解しましたよ。時間制限ありの脱出ゲームですか」

 

 

 砂時計は制限時間だ。地下生活者の寿命と言ってもいい。さっきは、それが無くなったから死んだのだ。あれは、恐らく死の感覚。あれは、何度も味わっていいものではない。味わううちに、精神が死んでしまう。

 

 

「なぜ、どうして!? 砂が!」

 

 

 砂時計の砂の落ちる速度が上がっている。足がちぎれたわけでもないのに。恐慌する地下生活者をよそに、砂時計の砂はわずかになっていた。警戒する地下生活者をあざ笑うように、部屋の壁が何かに破壊された。

 

 

「ヒィッ!? なんだ、アレは!?」

 

 

 部屋の壁を破壊したのは、黒い鰐だった。鰐と言うのは頭だけで。首から下は四足歩行の動物の物だった。色々と混ざっている。それが、その獣が、鰐特有の大口を開けて吠える。

 

 近づくそれに、地下生活者は反抗しようとする。線をなぞれば殺せるはずだ。さっきの自分がそうだったから。そう思って、それの全身を見て、地下生活者は絶望した。

 

 

「線がない……」

 

 

 地下生活者とは違って、それの全身は奇麗なモノだった。いや、線がないのではない。線だけで構成されて、真っ黒に見えているのだ。それは死そのものだ。獣は、恐怖で固まる地下生活者の頭を飲み込むように、大口を開けた。そして、そのまま地下生活者はかみ砕かれた。

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ヒィィイイイッ!」

 

 

 またあの感覚から復帰した地下生活者は叫びだす。部屋の壁を線をなぞって破壊する。そこは、同じような光景が広がっているだけだ。

 

 そして、理解して、悲鳴を上げた。地下生活者は理解したからだ。理解してしまったからだ。

 

 これは脱出ゲームではない。逃げ場も、出口も、終わりもないことを。見えているのが、自分の死までのカウントダウンだということを。そして、それは自分の選択で減っていくだけだと言う事を。自分はこれから何度も死ぬのだと言う事を。

 

 これなら、見えない方がマシだった。嫌でも死を認識する。嫌でも死に向き合わなければならない。首にギロチンが落ちるまでの時間を、永遠に引き延ばされているようなものだ。そんなの、そんなの。地下生活者には耐えられない。

 

 また、砂時計が勢いよく落ちていく。足音が段々と迫って来る。あの獣の息遣いが聞こえる。

 

 

「止めろッ! これ以上、小生に近づくなァッ!」

 

 

 部屋から勢いよく走りだす。でも、また何かに引っかけたのか、激しく転んだ。転んだ地下生活者に獣が勢いよく駆け寄ってくる音が聞こえる。獣の影が地下生活者を覆う。生暖かい吐息が当たって。地下生活者は、これから何度も叫ぶことになる言葉を叫んだ。

 

 

「小生に近づくなァァッッ──!!」

 

 

 □

 

 

「……全然終わらない」

 

 

 いつか吐いたような台詞を呟きながら、カヤツリは忙しく手を動かしていた。

 

 

 ここは空き教室の一つだ。物置とも言う。今は昼休みで、後輩達は外に出ている。この部屋にいるのは、ソファに座るカヤツリと、カヤツリの膝の上で昼寝中のホシノだけだ。

 

 ホシノは幸せそうに眠っている。それだけでカヤツリは頑張れる。

 

 仕事の量はうんざりする程に多いが、昔とは違って内容は希望に満ちたものだ。そのせいもあって、手の動きは速いし、リズミカルに進む。

 

 あの後は、色々なことがあった。

 

 まず全員が検査の為に病院へと叩き込まれた。殆どはそのまま退院したが、ホシノとカヤツリ、ヒナとスオウは、数日入院することになった。病室がホシノとカヤツリだけ相部屋だったのは、誰かの意思しか感じないが割愛する。

 

 シェマタは発破解体された。ヒナとマト、カヤツリたちとマコトの見守る中で、原形がなくなるまでに破壊された。カヤツリとしては、別に思い入れもないものだから、それについては問題はない。

 

 重要なのは、それの報酬だった。しめて十一桁の大金である。流石に分割払いではあるが、定期的にアビドスへ報酬が振り込まれることになっている。

 

 トリニティやミレニアムから借りた金は、過剰な分は返済した。問題は使ってしまった分だ。アビドスの借金は、そのままカヤツリの借金へ変貌していた。

 

 それは後輩たちが返すと言う。確かに、債権を持っているのはカヤツリだから、道理は通っている。カヤツリにもプライドというモノがあるし返すあてはあるから、なんとか固辞しようとしたが、ああまで言われてしまえば、カヤツリはなにも言えない。

 

 

 ──カヤツリ先輩は、どちらにしろ。アビドスを復興するためにお金を使うし、使ったんですよね?

 

 ──なら、私たちがカヤツリ先輩に返済すること。それは、おかしくはありません。私たちはアビドス廃校対策委員会ですから。元々は私たちの仕事です。……それに、私がゴールドカードを使おうとしたときのホシノ先輩の台詞を知っていますよね? それと、カヤツリ先輩の意地に、ホシノ先輩を巻き込むんですか?

 

 

 反論のしようもなかった。

 

 後輩たちからすれば、いきなり勝手に長年の目標を取り上げられたようなものだ。全員で返すべきものを、勝手に個人で返した。借金の主が変わっただけだ。傍から見たら、カイザーからカヤツリに変わっただけとも言える。

 

 後輩たちからしたら、それに意味はない。だから、カヤツリは利子を無しにすることで敗北宣言とした。恐らくは一、二年ほどで返済しきれるはずだ。

 

 

「ん……んみゅ……」

 

 

 座ってキーボードを叩くカヤツリの膝の上でホシノが身動ぎした。また寝入るかと思ったが、パチパチと瞬きして起き上がる。

 

 

「起こしちゃったか……?」

 

「ん……? ううん。そろそろ起きないと、夜寝れなくなっちゃうからさ」

 

 

 大きく伸びをするホシノの腕を躱しながら、カヤツリは良かったと思う。最近の様子を見て思うが、発言は実に健康的だ。

 

 

「あ、オアシスの計画?」

 

「うん」

 

 

 ホシノの、そのままカヤツリに寄りかかりながらの言葉に頷く。

 

 突然復活したオアシスは確保した。土地はカイザー所有のままだったので買い取ったのだ。金はどこから出したかといえば、ビナーの報酬の残りからだ。図らずもユメ先輩の望み通りになった形になる。

 

 

「まさか、ユメ先輩があそこまで考えてたなんてね」

 

「……そこまで考えてないと思うが」

 

 

 胸元にあるホシノの髪の毛を弄りながら答える。流石のユメ先輩もオアシスの復活は想定外だろう。

 

 カイザーとの交渉には難航するかと思われたが、案外すんなりカヤツリの要求は通った。しかし、カイザーがアビドスから撤退予定なのを加味しても不穏だ。

 

 オアシスが復活したのを知らない訳ではない。あれは観光資源になり得る。かつての砂祭りのメイン会場だったのだから。時間はかかるだろうが、その頃には戻せるだろう。

 

 その答えは、理事が持っていた。

 

 

 ──プレジデントが不在の影響だろう。彼の許可なくば、誰も何もできんのだ。

 

 

 つまりは、余計なことをして、プレジデントに目をつけられたくないのだろう。だから、最初のプレジデントの命令通りにしか動かない。動けない。

 

 当のプレジデントは入院中だ。まぁ、あの高度のヘリから蹴り落とされたのだから、命があって幸運とも言える。

 

 その代償なのか、前後の記憶が曖昧らしい。先生と黒服が言う地下生活者とやらの影響だろうか。

 

 

「フン。地下生活者ね」

 

 

 聞いた話を思い出して、鼻を鳴らす。安全圏から毒電波を垂れ流すなど、とんだ害悪だった。

 

 

「……黒服と先生が大丈夫って言ってたでしょ? カヤツリが気にしなくてもいいと思うな。……それとも、まだ眼帯ちゃんと話しにくいの?」

 

「殺しかけた相手と……何を話せと?」

 

「色々あるでしょ。どうせさ、カヤツリの事だから。仕事の話だけしかしないんじゃないの?」

 

 

 下からの逆さまのホシノの視線から目を逸らす。

 

 あの双子──橘姉妹と朝霧スオウはアビドスの担当になったらしい。ちょくちょく、建設計画の際に顔を出している。

 

 が、避けられている。お互い殺し合った仲だ。こうもなろう。最悪、あの双子経由で伝えれば良い。

 

 それでも、ホシノはしつこかった。

 

 

「ヒナちゃんたちの助っ人に行った時も、誰だっけ? あの先生に絡まれてたツインテールの……あの娘にも避けられてたよね」

 

 

 助っ人とは、ヒナやマトに迷惑を掛けたお詫びの事だ。ヒナの休みを捻出する為に、数日間だけ風紀委員会を手伝ったのだ。ホシノと二人で、しこたま暴れさせて貰ったのだが、その時にイオリだったか、春先に叩きのめされた事を思い出したのか、避けられているのだ。

 

 

「これからも、付き合いがあるかもしれないし、良くないよ。気まずいのは分かるけどさ」

 

 

 正直言って、カヤツリは面倒だった。今はアビドスの事で手一杯で、カヤツリもそこに集中していたい。ホシノの言う事も正しいのは分かるが、そこを突かれるのは嫌だった。

 

 それに、最後の隠し事をいつ言おうかと考えているのだ。それもあって、アビドス勢以外との接触を最低限にしていた。絶対、隠し事の内容はホシノを怒らせるに決まっているからだ。

 

 カヤツリとて、ホシノを怒らせたいわけでは無いし、好きでそんな事をしたわけでは無いのだ。

 

 だから、つい、うっかり、口を滑らせた。

 

 

「……ホシノは、そっちの方がいいんじゃないのか?」

 

 

 耳が痛くて、苦し紛れの言い訳をする。それが本当に良くなかった。

 

 

「……あー、なるほど、なるほどね。おじさんに、そういう事言っちゃうんだ…………」

 

 

 すっと、身体の向きをホシノが変える。圧し掛かられて、後ろへ倒れそうになる身体をソファの背もたれが支えた。気がつけば、ホシノの二色の瞳が目の前にあった。

 

 

「そうに決まってるでしょ? おじさんは、私は、我慢してるんだよ。ホントは、アビドスどころか、家から一歩も出したくないくらいだよ。だって、カヤツリは私のなんだから。名前も、書類も契約も、全部私のだって事になってる。これからずっと、私とカヤツリの生活は続いてくの。私はそれで満足してた。我慢してたんだよ」

 

 

 昨夜と同じく、目と目が触れあうくらいの近距離だった。そのせいで、ホシノがどんな表情をしているのか分からない。けれど、笑っているのが嫌でも分かった。

 

 とてもよくはない。やらかしたと言う思いがある。言ってからマズかったと気づくタイプだ。

 

 

「つまり、カヤツリは、私が言ったらそうしてくれるってこと? 誰とも会わずに、私だけと、ずっと過ごしてくれるって? 毎日毎日、昨日の夜みたいにさ。じゅるじゅるの、ぐちゃぐちゃになってくれるって? 今のはそう言うことだって、そう取っていいの?」

 

「……いや」

 

 

 上手く言葉が出てこなかった。知らない相手なら口八丁で丸め込むのだが、ホシノ相手には無理だ。嘘は吐けない。けれど、下手なことを言えば明日の朝日を拝めない。一週間後の朝日になりかねない。

 

 二人の間に沈黙が下りる。カヤツリにとっては永遠に近い時間が流れた後、ようやくホシノが身を引いた。

 

 

「……………………冗談だよ。カヤツリ。びっくりした?」

 

 

 顔を離したホシノは、普段と同じように見える。でも、絶対迷っていた。絶対、何割かは本気だった。色々、天秤にかけていた。

 

 

「カヤツリが気を抜けるようになったのは良いと思うんだ。普段なら、こんなことは言わないだろうからね。おじさんに対して、いい意味で遠慮がなくなったのは嬉しいよ。今もこうしておじさんに付き合ってくれてるしね」

 

 

 ホシノは、少し怒ったような顔だ。

 

 

「でもさ。抜け過ぎ。昨夜の寝不足もあるのかもしれないし、長年の問題が片付いたのも分かるけどさ。面倒だからって、そう言うのを疎かにするのは、おじさん良くないと思うな。今回はそれで助かったんだし、ユメ先輩も言ってたでしょ」

 

「はい……」

 

 

 こういう時は、素直に謝るのが正解だと知っている。ホシノは、そういう事で納得してくれた。それを見たホシノは満足そうに頷いている。

 

 

「以後、気をつけるよーにね? じゃあ、はい」

 

 

 ホシノはポンポンと、ソファーを叩く。何のことかと首を捻るカヤツリに、ホシノは呆れた顔をする。

 

 

「寝不足だよ。まあ、お互いそうだけどさ。ちょっと休んだ方が良いんじゃない?」

 

 

 いそいそと無言でカヤツリは準備をする。ソファーとさっきまでホシノが使っていたタオルケットに潜り込むと、ホシノも勢いよく侵入してくる。

 

 そんな事だろうと思っていたので、何も言わない。腕の中でもぞもぞするホシノの体温で、何だかカヤツリは眠くなってきた。

 

 

「……別に、言い返したっていいんだよ? 嫌味じゃなくてね。私だって我儘を言っているんだし、カヤツリも嫌だって言ってもいいの」

 

「……うん」

 

 

 静かなホシノの声に、寝ぼけ眼で返事する。ぼそぼそと耳元で囁くホシノの声が、睡魔を加速させていく。目を閉じた暗闇の中で、ホシノの声だけが遠くから響いていた。

 

 

「カヤツリ? ……寝ちゃったのかな。恥ずかしいから、こんな時しか言えないけどさ。ありがとね。本当に」

 

「……うん」

 

「うへ!? ……寝言かな」

 

 

 びくりとホシノが身体を震わせたのが分かる。しばらくの間の後に、またぼそぼそと声が聞こえた。

 

 

「私もさ。こんな風になるなんて思わなかったんだ。勿論いい意味でね。借金が無くなるなんて思わなかったし、オアシスも蘇った。昔の私は……ずっと一人で生きてくんだって。皆、自分の事だけなんだって、悪い人しかいないんだって。そう思ってた」

 

「……うん」

 

 

 慣れたのか、ホシノはもう反応しなかった。ぐりぐりと身体をカヤツリに押し付ける。

 

 

「でも、そんなことは無かったし、一人はやっぱり寂しかったんだ。ユメ先輩にあった時、居なくなった時。カヤツリやシロコちゃん達が来てくれた時に、そう思ったんだよ」

 

「……」

 

 

 ホシノは脱力したカヤツリの両腕を自分の身体に巻き付けて、抱きしめる形にする。

 

 

「だから、ありがとね。一緒に居てくれて、これからも居てくれて。きっと私は幸せだし、楽しいと思う。名前も……それは今はいいや。兎に角、ありがとう。これからも、よろしくね」

 

 

 ぎゅっとホシノを抱きしめる。言葉は聞こえても、半分寝ているせいで意味が分からない。でも、何となくこうしたいと思ったのだ。

 

 

「……やっぱり起きてるでしょ!?」

 

 

 嬉しそうな、照れくさそうなホシノの笑い声と体温を最後に、カヤツリは今度こそ眠りに落ちる。

 

 もう、悪夢は見ない。そんな予感しか感じなかった。




 これで、対策委員会編三章は終了となります。

 最後に、カヤツリが何をしていたのかの話になります。また、そこそこ話数を取ると思われます。最後までどうかよろしくお願いします。
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