ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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夢と歩いた足跡編
198話 復興の兆し


「本日は第一回アビドス復興会議です! 遂にこの日がやってきました!」

 

 

 今日の対策会議はアヤネ後輩のそんな言葉から始まった。アヤネ後輩は、この会議を開くのを楽しみにしていたのか、声色も表情も、上機嫌なのが良く分かる。

 

 対策会議は別に一つだけの議題を話し合うわけではない。今までにも、借金をどうするとか、金策をどうしようとか、生徒をどうやって増やそうとか。そんな話をすることもある。

 

 まあ話の終着点は、いつも借金を何とかしようという話に着地する。だから、いつも金策の話に終始していた。

 

 が、今は違う。

 

 何かいかつい顔の男がこぶしを握り締めて言いそうなセリフだが、本当にそうなのだ。

 

 

「借金の問題はおおよそ解決しました! ですから、これからどうやって、アビドスを復興していくかの案を、皆さんから発表してもらいたいと思います!」

 

 

 つまりはそう言う事だ。借金の事はあまり考えなくてよくなったから、文字通り復興のことを考えようという訳だ。

 

 いつもの部室の、全員が座る席の前のテーブルには、アヤネ後輩が今まで温めていたのであろう案の資料が山積みになっている。

 

 一応は前回の会議で、前もってアヤネ後輩から通達があったので、カヤツリは幾つか用意している。恐らくは他のメンバーも同様だろうが、アヤネ後輩には負ける。

 

 

 ──もう、アヤネ後輩だけでいいんじゃないかな。

 

 

 そんな、益体もない考えが浮かぶが、この前のホシノとのやり取りを思い出して、思い直す。

 

 こうやって話し合えることが嬉しいのだし、こんな希望に満ちた話し合いを出来る事が嬉しいのだ。他の学園が普通にやっていることを、ようやく自分たちは出来るようになったのだから。

 

 

「そういえば、先生は? 今日来るって話じゃなかった?」

 

 

 テーブルの上の資料を戦慄するように見ていたセリカ後輩が、会議の進行を止める。

 

 確かに、こうした会議では先生は毎回来てくれているように思う。迎えの連絡がないから、すっかり記憶から抜け落ちていたが、大丈夫なのだろうか。

 

 アビドスの全員がここにいる。案内役が居ないから、また先生が遭難する危険性があった。

 

 

「先生は大丈夫だよ。セリカちゃん。ゲヘナに寄ってから来るみたいだから、先に始めてていいって。マトさんに送ってもらうって」

 

「……ゲヘナに? 何か用事なの?」

 

「そこまでは聞いてないけど……」

 

 

 特に、カヤツリも思い浮かばない。ゲヘナで何かあったのかもしれないし、マトが絡んでいるのが多少気にかかるくらいだった。逆にマトくらいしかアビドスを案内できないせいかもしれない。

 

 

「何かあったら連絡くらい来ると思うな。さっさと始めちゃおうよ。おじさん。眠くなってきたよ……」

 

 

 ホシノが欠伸をしながら、アヤネ後輩に催促していた。セリカ後輩も、これ以上会議を停滞させる意味もない事は分かっているようで、何も言わなかった。

 

 場の空気を読んだアヤネ後輩が進行を再開するために、ホワイトボードを持ってきて、口を開く。

 

 

「それでは、全員の意見を聞いてから、優先度をつけていきます」

 

「ん。じゃあ、私から」

 

 

 一番手はシロコだった。何やら折りたたまれた紙を持っている。

 

 

「サイクリングコースを考えた。景色が良いコースや、距離や難度の違うコースも複数用意してある。これだけのコースは他にはない。私が保証する」

 

 

 折りたたまれた紙は地図の様で、コースらしい線が色違いで引かれていた。カヤツリは詳しくはないが、景色なら知っている地域だけでも中々いいのではないかと思う。シロコの趣味であるサイクリングを生かした案だった。

 

 シロコが銀行強盗ツアーとでも言いださなくて安心する自分にカヤツリは複雑な気持ちになる。きっとシロコもそればかりではないのだ。それが悲しくもあり、嬉しくもあった。

 

 

「でも、良く調べたね。これ全部走ったんでしょ?」

 

「ん。もう一人の私に手伝ってもらった。あんな距離で音を上げるなんて……でぶシロコ」

 

 

 無表情にシロコはホシノへ答えるが、反対にホシノは苦笑いしている。おおよその事態を察したのだろう。

 

 でぶシロコとは、向こうのシロコの事だ。同一人物だけあって趣味も同じだから、一緒にサイクリングに行っていることは知っている。きっと、このサイクリングコースの走破に付き合わされたに違いない。この地図のコースを見た感じ、かなりの距離になる。

 

 シロコは良い。趣味で何回も自転車で走っているのだろう。ただ、向こうのシロコはどうだろう。

 

 きっと体力はあるはずだ。でも慣れていない。ああいう長距離のスポーツは体力配分が重要だと、ミレニアムで聞いたことがある。

 

 きっと向こうのシロコは、久しぶり過ぎたか、嬉しかったのかもしれない。それで、体力の配分を間違えた。きっとシロコが言うように太ったわけでは無いだろう。向こうの自分が甘やかしていなければだが。

 

 

「はい。シロコ先輩。ありがとうございます」

 

 

 アヤネ後輩がホワイトボードに、サイクリングコースと書き終えると同時に、今度はノノミ後輩が手を挙げた。

 

 ノノミ後輩は満面の笑顔で、それを見たカヤツリはもう答えがある程度わかった。二年前と同じような顔をしている。

 

 

「やっぱり復興にはアイドルですよね! アビドスの、ご当地アイドルです!」

 

 

 ノノミ後輩は目を輝かせてアイドルと連呼している。カヤツリの想像通りの光景が目の前に広がっていた。これを止めるのは並大抵ではいかない。

 

 以前なら、だれがやるんだと言う話になって、有耶無耶で終わる話だった。だが今は状況が違う。

 

 

「ですよね? セリカちゃん? それと、アヤネちゃん?」

 

 

 ぐりんと首を回して、セリカ後輩を見つめるノノミ後輩の目は爛々と輝いている。セリカ後輩とアヤネ後輩は助けを求めるように視線を彷徨わせている。

 

 後からホシノから聞いた話だ。あの砂漠横断鉄道の事件の際に、アイドルになるようなことをセリカ後輩が口走ったらしい。

 

 ホシノは基本嘘は言わないし、セリカ後輩の様子から見て、それは真実だったのだろう。その場はそれで終わったのだが、ノノミ後輩はそれを覚えていたらしい。ついでにアヤネ後輩も巻き込む気だ。

 

 

「ちゃんと、衣装も用意してあります! ですから、さあ!」

 

「……ノノミ後輩。嫌がってるじゃないか」

 

 

 じりじりと二人に近づくノノミ後輩をカヤツリは制止する。やるにしろ、やらないにしろ。基本はやる人間次第の話だ。無理やりやらせるのは話が違うし、禍根を残す。何だかんだ言って二人も興味があるのは分かるのだ。待てばやってくれると思う。

 

 でも、ノノミ後輩は怪しく笑ってカヤツリを見た。

 

 

「小鳥遊先輩は反対ですか?」

 

「チッ……」

 

 

 ノノミ後輩が切り札を切ってきた。かなり、カヤツリの旗色が悪くなる。

 

 

「そうだよ~。カヤツリ。頭ごなしに言わなくてもいいんじゃない?」

 

「ん。良い案だと思う」

 

 

 ホシノとシロコが、ノノミ後輩の側へ回ってしまった。

 

 シロコはまだいい。純粋に良いと思っているからだ。アビドスの為なら良い案だと思って賛成している。問題はホシノだ。

 

 ノノミ後輩と同じような、満面の笑みだった。相当カヤツリの、その呼ばれ方を気に入っているのだ。

 

 発端は、砂漠横断鉄道の事件の後、カヤツリとホシノの謝罪の場。あそこの、ノノミ後輩の”どっちの名字で呼べば?”という発言からだ。あの時、ホシノは喜んでいた。誤魔化していたが、カヤツリには分かる。そして、ノノミ後輩にも。

 

 その呼び方が間違っているわけでは無い。だが、ホシノと区別がつかないから、二人がいる場で、そう呼ぶ意味はない。

 

 そんな事はノノミ後輩だって分かっているだろう。だが、こう呼ぶと、ホシノの機嫌が良くなるのは周知の事実なのだ。その場の空気もあって、ホシノはノノミ後輩に悪ノリした。

 

 心の中で、あの書類を後輩たちの前で全面公開した先生と、サインの条件をホシノの姓にすることにした黒服に文句を垂れるがどうしようもない。

 

 

「いいですか。小鳥遊先輩。考えてもみてください」

 

 

 内緒話をするように、ノノミ後輩がカヤツリの耳に小さい声で呟く。

 

 

「衣装は二着あります。材料分からして、もう一着作れそうです。後は、もう分かりますね?」

 

「……ホシノの分ってことか?」

 

 

 ノノミ後輩はニコニコしたまま答えない。だが、正解だと言う事だろう。だが、舐められてもらっては困る。

 

 

「そんな事で、俺が頷くとでも思ってるのか?」

 

「恥ずかしいなら、私から、ホシノ先輩に言ってもいいですよ? 小鳥遊先輩が見たがってると」

 

 

 正直言って、滅茶苦茶に惜しい。滅茶苦茶見たい。でも、自分の欲と後輩たちを天秤には掛けられない。そんなカヤツリに、ノノミ後輩はさらに囁く。

 

 

「ホシノ先輩の事を全部は知らないんじゃないですか? 小鳥遊先輩?」

 

「…………何が言いたい」

 

「意外とホシノ先輩は、可愛い服が好きなの知ってますか?」

 

 

 それは知らない。基本ホシノと出かける時は制服だからだ。後輩たちと一緒に出掛ける時は私服だが。あれは昔、ユメ先輩に選んでもらった時の服なのだ。そして、今はノノミ後輩に選んでもらっている。ぶっちゃけた話、カヤツリ視点から見て、ホシノは女子特有の拘りが少ないように見える。

 

 でも、ノノミ後輩の前では違うのだろう。しっかりホシノは女の子なのだ。

 

 

「可愛い服を着て、お姫様みたいに扱われたい。女の子なら、私も、きっと誰もが持っている。そんな願望がホシノ先輩にもあるんですよ」

 

 

 つまりは、ノノミ後輩の提案に乗れば、お膳立てをしてくれると言う事だ。カヤツリとホシノも満足するし、ノノミ後輩も満足。お互い得るものがある。カヤツリが教えた通りの事が実践できているのは喜ばしいが、素直に喜べない。

 

 

「自分でやるからいい」

 

「分かりました。カヤツリ先輩。ごめんなさい二人とも。少し、はしゃぎすぎました。この話は、またの機会にしましょうか」

 

 

 意外なほどあっさりとノノミ後輩は退いた。半分は揶揄いか、アドバイスのつもりだったのかもしれない。女性というモノは案外恐ろしいモノなのかもしれない。それか、それだけノノミ後輩が成長したのかもしれない。嫌な方向の成長の仕方だが。

 

 

「あの純朴だったノノミ後輩は、どこに行っちまったんだ」

 

 

 よよよと、悲しむふりをするが、ノノミ後輩は薄く笑うだけだ。その反応から、ネフティスの執事にも色々と教えてもらった可能性が浮上してきた。だから、これ以上この件に関して、カヤツリは考えるのを止めた。

 

 

「はぁ……じゃあ、俺が行くか」

 

 

 変になってしまった会議の空気を元に戻すべく、カヤツリは頭の中にある案を整理する。

 

 

「宝探しのツアーを企画する。これは、俺だけじゃなくて共同でやるし、会社とかに余裕ができてからの話になる」

 

 

 用意してきた地図と企画書を配る。

 

 

「……これ、利益が出るの?」

 

 

 読み終わったであろうセリカ後輩から、そんな疑問が飛び出した。これは、想定される質問だったので、カヤツリは用意していた答えを言う。

 

 

「しっかり出るぞ」

 

「でも、出たお宝は、掘り出した人の物でしょ? 私たちは丸損じゃない」

 

 

 それは、当然の疑問ではある。普通はそうだし、マトモにやればそうなるだろう。でも、普通にやらなければいいのだ。

 

 

「セリカ後輩。宝探しと言ったって、どうやってやるんだ?」

 

「そりゃあ、シャベルやスコップとか、後は入れる袋や水も欲しいわね……」

 

「そうだな。あってるよ。でも、それは俺たちがアビドスに居るから分かることなんだよ」

 

「ああ……そう言う事ですか。貸すんですね?」

 

 

 ノノミ後輩やアヤネ後輩は得心したように頷いている。

 

 宝探しは案外準備が必要だ。アビドスと言う環境もあるが、思い立ったその足で出来るようなモノではないのだ。

 

 場所の選定。道具の準備。水分や食料の確保。それらの運搬。個人ではできようはずもない。

 

 だから、それらは自分たちでやるのだ。必要なものは全て準備するが、その分の代金は取る。

 

 勿論、何も出ない場所には案内しない。案内するのは、ちゃんと価値あるものが埋まっていそうな場所で、なおかつ開発予定地の場所だ。

 

 片付けと、集客と、開発の手間を省く。利益で大儲けとはいかないだろうが、真っ当に稼げるだろう。

 

 

 ──(きん)の出る山で一番儲かるのは、(きん)を掘る人間ではない。(きん)を掘るための道具を売り、その人間の食料を売り、その人間の娯楽を提供する。一攫千金などと言うものは無い。あったとして、それは継続的で長期的な利益を見据えた人間にやってくるものだ。

 

 

 かつての理事の言葉だ。心の中で感謝しつつ、話を進める。

 

 

「場所と調査は、向こう側の俺たちがやってくれてる。随分楽しそうだったな」

 

 

 向こう側の自分たち。テラノとテラツリ。向こうの呼び名はそれでいいとの許可は得ている。

 

 彼らは、そのついでとばかりに、毎日のように二人で宝探しや、アビドス内の旅行を楽しんでいるらしい。この前は、車に食料を数日分積み込んで、アビドス砂漠の奥地まで遠出したらしい。随分楽しんだようで、二人きりの夜のキャンプなどを面白そうに話していた。早期リタイアした勤め人みたいな生活で、ホシノが少し羨ましがっていた。

 

 

「はい、カヤツリ先輩もありがとうございます」

 

 

 また、アヤネ後輩はホワイトボードに文字を書いていく。カヤツリだけでなく、ノノミ後輩のもちゃんと書いてあるあたり、アヤネ後輩の真面目さが光っていた。

 

 

「それでは、次の──」

 

「皆、遅れてごめんね!」

 

 

 扉を開けて、ようやく先生がやって来た。急いだのだろう、外の気温も相まって額には汗が流れている。

 

 

「そんなに急がなくても……まさか、走ってきたんですか?」

 

 

 会議が始まってから、大した時間は経っていない。精々が三十分程度だ。今のところ、アビドスが抱えている問題で急を要するものは無い。特にゲヘナと関係するものは、この間に片付いたはずだった。

 

 

「うん。早く、ホシノとカヤツリに見せたくてね。あ、ありがとう。セリカ」

 

 

 セリカから手渡されたタオルで、汗を拭きながらの先生の言葉に、カヤツリは疑問しか湧かない。

 

 

「先生。見せたいものって?」

 

「はい。これだよ」

 

 

 先生がカヤツリに差し出したのは記憶媒体だった。よく見れば、どことなく見覚えがある気がする。受け取ったそれを、()めつ(すが)めつ眺める。

 

 

「これ、監視カメラのじゃないですか。どうして、先生が持っているんですか?」

 

 

 記憶媒体に書かれた番号で、カヤツリはこの記録媒体の正体が分かった。カヤツリにはこれを先生に渡した記憶はない。

 

 

「カヤツリが、マトに頼んだんじゃないの? ほら、マトに復元を頼んだでしょ?」

 

「あー……そう言えばそうでしたね……すいません」

 

 

 あのユメ先輩が映った監視カメラの映像だ。それが入った記録媒体だ。でも、あれだけは本物だったと、ホシノや他の後輩たちから聞いた。その事実が分かったから、すっかり忘れていたのだ。

 

 

「でも、あのユメ先輩は本物だったんでしょう? そこまで先生が急がなくても……」

 

「いや、続きがあるんだよ。知らないの?」

 

「続き?」

 

 

 本当に何を言っているのか分からない。混乱するカヤツリを見かねたホシノが教えてくれる。

 

 

「カヤツリが居ない時にね。途中まで復元した映像をマトちゃん達が持ってきてくれたんだよ。そう言えばカヤツリは見てなかったね。あの後は、それどころじゃなかったし……機材ごとマトちゃん達はゲヘナに帰っちゃったから……」

 

 

 それなら納得だった。カヤツリが見たのは、砂嵐だらけの中の切り抜きだけだ。映像なら、続きと言うのも分かる。

 

 

「何か、重要なことが?」

 

「うん。カヤツリは見た方が良いと思うよ。特に、皆と一緒に。聞きたいことも沢山あるしね。マトやヒナもすぐ来るし、テラノたちも呼んでるからさ」

 

「……あの映像に、そんなに重要な情報が?」

 

 

 カヤツリの質問に、先生は曖昧な笑みを浮かべるだけだ。何か含むところしかなさそうな、先生の笑みに、本能が警鐘を鳴らした。

 

 妙な違和感が付きまとうが、先生だから、変なことを企んでいるとは思えなかった。だから、こんなにも人を呼ぶ事態に、純粋にカヤツリは首を傾げる。

 

 

 ──先生にここまでさせる、ユメ先輩の伝言とは、一体何なのだろうか。

 

 

 そんな期待と不安がない交ぜになった心中のまま、皆と一緒に映像を見る準備を始めた。

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