ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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一年生編 上半期
1話 アビドス生徒会


 夜が明けて、翌日の早朝。少年はアビドス高等学校分館の前に立っていた。本来なら本館に行くべきなのだろうが、生憎と本館は砂の山に埋まっていることをオーナーから教えられていた。聞いた話通り生徒はほとんどいないようで校舎には人の気配はない。ただオーナーが言うには、生徒会には挨拶くらいはした方がいいとのことで、少年は生徒会室を目指していた。

 

 事前にオーナーが書類や申請はすでに済ませていた。拠点には制服や学生証が用意されていた。少年にとって自分の制服という物は初めてで、仕事だというのに妙に気分が良かった。このアビドスで1年耐えれば、待ち望んでいた自由が手に入る。自由になってやっと自分の人生が始まるのだ。鼻唄混じりにそんな事を考えているうちに生徒会室前に到着した。

 

 

「聞いてよホシノちゃん!昨日も言ったけど今日はね、ついに新入生が来るよ!やっぱり奇跡っておこるんだよ!」

 

「奇跡なんて大袈裟ですよ。大体、新入生は一昨日のアイツじゃないですか。何か企んでますよ絶対に」

 

 

 何か聞き覚えのある声が生徒会室から聞こえる。具体的には一昨日砂漠で聞いた声だった。さっき迄のいい気分が急降下していく。砂漠でのやり取りを考えても鉢合わせなどしたら面倒くさいことになるのは簡単に予想できた。しかし、オーナーの言うことは聞いた方がいいことを少年は知っていた。意を決して扉をノックする。扉が開いて出てきたのは、予想通り一昨日の桃色髪だった。

 

 

「何か用で──。料金の回収にでも来ましたか。ぼったくり」

 

 

 桃色髪の暴言に顔をしかめる。一昨日のやり取りを考えればこの反応も仕方ないのかもしれなかった。

 

 

「ホシノちゃん。彼、そんな用で来た訳じゃ無いと思うよ。新入生くんも入りなよ。私は一昨日の事は気にしてないから」

 

 

 部屋の中から緑髪が笑顔で手招きした。

 中に入ると生徒会室の中は狭く、先輩が座っている奥の机と、2つの来客用のソファーはきれいであったが、部屋の隅の棚や机は紙束が山のようになっている。全体的に雑多な印象だ。掃除くらいしたらどうかと少年は思う。

 

 

「じゃあ、自己紹介から始めよっか。私は梔子ユメ。アビドスの生徒会長だよ。で、こっちの可愛い子は1年の小鳥遊ホシノちゃん」

 

「……」

 

 

 奥の机から緑髪―梔子先輩が笑顔で自己紹介し、桃色髪―小鳥遊ホシノが無言でこっちを睨んでいる。自己紹介にしては片方の空気が最悪だが、こちらも返さなければ無作法というものだろう。少年は自分の名前を言おうとしてふと気が付いた。学生証をまだ見ていない。オーナーのことだ、黄昏のセトなんて書いてある可能性が多分にあった。

 

 

「兎馬カヤツリ。ウサギウマって書いてトバです。よろしくお願いします」

 

「うん。よろしくね。カヤツリ君」

 

 

 ちらりと見た学生証にはまともな名前が書いてあったが、大分趣味が悪い名前だと、少年―カヤツリは思った。ただこれで面倒な用事は終わりだ。この後の予定は本館で宝探しをするだけだった。分館に行く予定はしばらくないため、この2人にはもう会うことはないだろう。カヤツリは清々した気持ちで言った。

 

 

「じゃあ、挨拶も終わったので失礼します」

 

 

 部屋を出ようとするカヤツリの発言に空気が凍り付いた。先輩が涙目になり、小鳥遊の目つきがさらに鋭くなった。カヤツリはなぜそんな反応をされるのかが分からず固まった。

 

 

「ふぇ……。生徒会に入ってくれるんじゃないの?」

 

「いや、そういうものなんですか?」

 

 

 何でそんな話になっているのか。そもそも向こうにこんな奴を入れるメリットなどない。一昨日とさっきの会話から察するに彼女たちの仲は良好のようだし、完成された他人のグループに関わるなどカヤツリは御免だった。1人の方が気楽で他人に責任を持たなくてもいいからだ。

 

 

「そうだよね……。そんな都合の良い話は無いよね。私が早とちりしただけだよね」

 

 

 今にも泣き出しそうな先輩といまだに此方を睨んでいる小鳥遊を見て、カヤツリは内心うんざりしていた。カヤツリとしては、生徒会などどうでもいいのだ。ただオーナーの依頼が完遂できればそれでいい。それに依頼の完了後を見据えて金銭は貯めておきたかった。そのためにはこんなところで時間を無駄にしている余裕はないのだ。

 

 

「生徒会に入るつもりはありません。理由もないので」

 

「やっぱり、そういう奴でしたか」

 

 

 今迄黙っていた小鳥遊が口を挟んだ。相変わらずの目つきでこちらを睨みながら、知ったような口を利く。一昨日も思ったが小鳥遊はカヤツリが気に入らないようだった。カヤツリも何故だかわからないが無性に癪に障る。小鳥遊の方に向き直りカヤツリは言い返した。

 

 

「そういう奴ってのはどういう意味だ」

 

「そのままの意味ですよ。入学したくせに責任も取らない奴ってことです」

 

 

 ──なるほど。入学した以上は学校に在籍して、その恩恵も受けるのだから、借金返済の手助けをしろという事だろうか。確かにそれは不義理だった。ただそれは簡単な解決方法があった。

 

 

「じゃあ、幾ら入れればいいんだ?お前が言っているのはそういう事だろう?好きな金額を言ってみろよ。もちろんお前も責任ってヤツを取っているんだろう?自分じゃ払えない金額を言うんじゃないよ?恥ずかしいからな」

 

 

 カヤツリは思いっきり挑発した。責任とか正論ぶったことを言ってこれだ。結局は金ではないか。金が払えなければ、働いて稼げとでもいうのだろう。一昨日は悪党と小鳥遊は言ったが、其方の方がよっぽどあくどい。これでは奴隷だ。小鳥遊はカヤツリの挑発を受けて、顔が真っ赤になった。

 

 

「こいつ!」

 

「おいおい、なんだ。図星か?」

 

 

 怒り狂っているだろう小鳥遊を見ながらカヤツリは挑発を続ける。このまま小鳥遊が一昨日のように暴力あたりでも振るってくれれば、それを盾にしてそのまま逃げられる。まさか先輩も小鳥遊との仲をこじれさせてまでカヤツリを生徒会入りさせないだろう。撃たれた場合はしばらく仕事に支障が出るだろうが、多少のケガは必要経費と割り切った。

 

 

「ホシノちゃんは少し落ち着いて、そんなに怒っちゃだめだよ。自分を見失っちゃうよ」

 

 

 いつの間にか復活したのか、泣き出しそうだった先輩がこっちを見ていた。さっきまでの泣き顔ではなくなにやら真面目な表情だ。しかもせっかく怒らせた小鳥遊が落ち着いてしまった。

カヤツリは何やら嫌な予感ががしてきた。ただそれを悟られないように言葉を返す。

 

 

「何ですか。先輩。先輩が金額を決めてくれるんですか?」

 

「違うよ。でもそう言うってことは、責任を果たす気はあるんでしょ?」

 

「ええ、言ってくれれば払いますよ。入学を認めてもらった以上は責任があるらしいですから。ただ常識的な金額でお願いしますね」

 

 

 カヤツリの返答を聞いて、先輩はにっこり笑った。カヤツリの中で嫌な予感が膨れ上がっていく。自分は何か下手なことを言っただろうか。金の話しかしていないはずだ。

 

 

「お金はいいよ。その代わりに生徒会の仕事を手伝ってほしいな」

 

「いや、ですからお金は出すと言ってるでしょう?」

 

「ううん。私はカヤツリ君に手伝ってほしいの」

 

 

 ──どういうことだろうか。カヤツリは背負っていた荷物を降ろしてソファーに腰を下ろす。来客用なのか座り心地は中々よく、気分が多少落ち着いた。

頭を抱えて落ち着いて考えるが、一つの答えしか出てこなかった。

 

 

「金額はどうでもいいってことですか?先輩にとっては俺が手伝いをすることの方が重要だと?」

 

「そうだよ。私にとってはそっちの方がいいの」

 

 

 金よりも手伝いの方がいい?言っている意味が分からない。金を選んでいればそのまま収入が増えるのだ。それを放棄してカヤツリという不穏な要素を入れる先輩が理解できない。

ただ責任を取ると言った都合上もうカヤツリは逃げられなくなってしまっていた。逃げれば責任を放棄したことになる。それは何よりも嫌だった。

 

 

「……いいですよ。ただ手伝いだけです」

 

「いいの!やったよ!ホシノちゃん!」

 

 

 カヤツリの苦渋の返事に飛び上がって喜んだ先輩は小鳥遊に抱き着いている。当の小鳥遊はさっきまで怒り心頭だったのが、先輩に抱き着かれたせいか、顔が蕩けている。その様子を横目にカヤツリは意識を切り替える。初日から1年計画が吹き飛んだことに頭を痛めながら、先輩に問いかけた。

 

 

「で、いくらあるんですか。借金は」

 

「えーと、9億くらい?」

 

 

 先輩の答えを聞いたカヤツリは眩暈がした。1-2年間の学園運営予算レベルの金額だ。利率がどうだか知らないが利子だけでも少なくとも1月あたり数百万円レベルだろう。むしろこのアビドスで利子だけでも捻出しているのはかなり頑張っているのではないだろうか。

 

 しかし、先がない。此処が今でもミレニアムとかゲヘナ、トリニティなどの規模であればなんとかなっただろうが、此処はアビドスである。前者3つのような経済基盤などない、生徒もいない、まともな住民もいない、これから回復していく見込みもない、詰みである。カヤツリだって、オーナーの依頼がなければこんなところに来ていない。

 

 ただ、これまで、利子を返しながら生徒会長をやれているのだ。まともな考えが何かあるのだろう。

 

 

「あー。とんでもない額ですけど梔子先輩は何か考えがあるんですか?」

 

「ふっふっふ。そのために、こんなものを見つけてきたの!簡単な仕事らしいからカヤツリ君でも大丈夫だよ」

 

 

 先輩から自信満々に差し出された紙を見ると、何かの仕事内容が書かれたチラシだった。よく読むと”週90時間の労働で高額報酬!”と書かれているが肝心の仕事内容がよくわからない。簡単な仕事!とか、初心者歓迎!としか書いていない。労働時間も明らかに怪しい。あと週90時間は普通にブラック勤務だ。

 

 

「梔子先輩。頭大丈夫ですか。こんなの大変な仕事ですよ。行きたくないです」

 

 

 カヤツリの嫌な想像が現実になろうとしていた。曲がりなりにも利子が返せているのは、”そういうこと”なのだろうか。生徒がこの2人しかいないのも、自分たち以外をこんな仕事に行かせていたせいなのではないだろうか。

 

 

「行ってみてもいいんじゃないですか?あなたがどこまで本気か私も見てみたいですし」

 

 

 いつの間にか横に移動していた小鳥遊が、カヤツリが持っていたチラシを見ながら、被せるように言った。さっきの仕返しだろう。カヤツリは言葉で抵抗する。

 

 

「正気か?こんなのに行く方がどうかしてる。チラシってことは、その辺の物を持ってきたんだろ」

 

 

 カヤツリにとって依頼は信頼度が命だった。基本的にはオーナーの依頼を優先的にこなしていたカヤツリだったが、一時期アビドスの野良の依頼を受けたことがある。流石にこんなチラシの依頼ではなかったけれども、説明不足、報酬の誤魔化し、依頼中に裏切っての襲撃など目も当てられない結果になった。

 挙句オーナーにバレて、”また勉強になりましたね”と煽られて以来、そこの確認は徹底的にするようになった。こんなチラシの依頼など受ける受けないの考慮にも上がらない。

 

 

「怖いんですね?」

 

「慎重って言って欲しいね」

 

 

 隣の小鳥遊が煽ってくる。毎回喧嘩を売らないと会話できないのだろうか。ここまでされる謂れが分からなかった。たぶん小鳥遊はこの仕事が危ないものだと分かっている。それで、カヤツリを煽っているのだろう。一昨日みたいに挑発に乗ると思っているのだ。

 

 

「じゃあ、ホシノちゃんが着いていってあげたら?」

 

 

 先輩の何気ない一言に小鳥遊の顔がぽかんとした表情になった。それを見て少しカヤツリの溜飲が下がる。

 

 

「いや、ユメ先輩。私に見張られるのも嫌でしょうし。1人で行ってもらいましょうよ」

 

「でも、ホシノちゃんの方が生徒会では先輩でしょ?それにカヤツリ君は手伝いだけって約束だし、いきなり一人はかわいそうだよ」

 

「そうですけど……」

 

 

 先輩に正論で封殺される小鳥遊を見るのは楽しかったが、カヤツリは小鳥遊と一緒の仕事は御免だった。碌なことが起きない予感がする。なかなかうんと言わない小鳥遊に埒が明かないと思ったのか先輩は代案を出した。

 

 

「そんなにホシノちゃんが嫌なら私が行くよ?」

 

「ユメ先輩とソイツだけじゃ心配なので、私が行きます」

 

 

 即答であった。余程先輩と自分を一緒にしたくないらしい。ただこれで、小鳥遊の同行が決まってしまった。

 

 

「じゃあ、カヤツリ君行ってらっしゃい。初仕事頑張ってね」

 

「覚悟して下さいね。ぼったくり」

 

「……準備してきます」

 

 

 機嫌のよさそうな先輩と逆に機嫌の悪そうな小鳥遊の言葉に返答する。今日はカヤツリにとって、最悪の一日になりそうだった

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