ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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20話 砂漠横断鉄道

「最近、ユメ先輩の様子がおかしい」

 

 

 ホシノがそんなことを言い出した。カヤツリはエネルギーゼリーを絞る手を止めて、隣のホシノを胡乱な目で見た。今は二人でのパトロールが終わり、廃墟の屋上に並んで腰かけて、少し遅い昼食をとっていた。

 

 ホシノはといえば、何かしらの確信があるようでパトロールが終わってからずっとこうだった。カヤツリにはよくわからないがホシノには何かわかるらしい。藪蛇を突きたくなくて、聞き流していたのだがそろそろ限界だった。

 

 

「どういう所が?」

 

「最近機嫌がいいんだよ。それに……まぁいいや。兎に角、機嫌がいいの」

 

「いつもの事だろ」

 

 

 先輩の機嫌がいいのは、いつもの事だった。特に最近は。あの先輩との週末の冒険から数日が経っていた。地質調査の資料は先輩に渡したが、結局オアシスは本当に枯れているようで、オアシスの土地を買い戻す話は保留になった。それもあって幽霊の提案も今のところ保留だった。やけに壮大な話だったが、先立つものがなければどうしようもないのだ。

 

 

「私にも機嫌がいい理由が分からないっていっても?」

 

「いつからなんだよ。先輩の機嫌がいいのは」

 

「えーっと。週末明けからかな」

 

 

 むしろ機嫌が良くなったことが分かるホシノの方が驚きだった。週末明けといえば二人での冒険の事しか思い当たらないが、機嫌がよくなる要素などあっただろうか。カヤツリは思い当たる節がない。結局オアシスが枯れたことしかわからなかったし、幽霊の話は先輩には適当に誤魔化したからだ。

 

 先輩の機嫌がいいとか、そんな事ではなく、幽霊が言っていたことや金策の事の方に頭を使いたかったカヤツリだが、ホシノが聞いてほしそうにしているので暇つぶしもかねて多少考えることにした。

 

 

「機嫌は朝からよかったのか」

 

「朝は普通だったけど。私がパトロールに行って、帰ってきたらそうなってたよ」

 

 

 ホシノがいない朝から昼の間に何かあったということだ。今度はカヤツリには思い当たる節しかなかった。生徒会室で地質調査の資料を先輩が分厚い本とにらめっこして読んでいたのを覚えている。結果が気になったカヤツリもしばらく残っていたのだ。ただあの時自分は何と言っただろうか。オアシスが枯れていたことに対してがっかりする先輩にだ。

 

 

 ──地下水はありませんでしたけど、オアシスの下に何か良いものが埋まってたらいいですよね。

 

 

 幽霊の大オアシスに兵器が隠されているという話から連想してそんな事を言ったのだ。それで先輩は何と言っただろうか。

 

 

 ──ありがとう。カヤツリ君。

 

 

 あれはカヤツリの慰めに対する感謝ではなかったのかもしれない。ホシノに冒険の事は伏せて経緯を伝える。ホシノはしばらく考え込んでいたが、そういえばと思い出したように言った。

 

 

「昔、アビドスの生徒会がオアシスに大量の花火を捨てたっていう話をユメ先輩がしてたよ」

 

「花火?昔のアビドスの生徒会が絡んでるなら、碌な花火じゃないんだろうな」

 

「まぁ、そうだね。100グラムで100万以上の価値がある鉱物を使った花火らしいから。普通の花火ではないね」

 

 

 随分贅沢な花火だった。ただそんなものがオアシスに埋まっているとしても掘り出せそうにはなかった。いくら何でも範囲が広すぎる。ホシノはおやつ代わりのグミをつまみながら続ける。

 

 

「そういえばカヤツリと初めて会ったのも、その時だったね。あの時はこうなるなんて考えもしなかったけど」

 

「その時ってのは?」

 

 

 ホシノは笑いを堪えるように話す。確かにあの時は状況と格好はお互い変だったが、そこまで面白いことだろうか。昔の事を掘り返すのはやめて欲しかった。

 

 

「あの日は、ユメ先輩が、その花火を掘り出そうって言ってね。私も賛成したんだけど、また水が出るかもしれないからって水着で行ったんだよ」

 

「それで水着だったのか。いや、おかしいだろ。どうしてそんな思考になるんだ……」

 

 

 もっとまともな格好だったのなら、たぶん初対面で喧嘩を売らなかった。カヤツリのそんな”ぼやき”を聞いたホシノは驚いたようだった。

 

 

「だから、最初にあった時あんなことしたの?」

 

「そりゃそうだろ。水着で砂遊びしてるような、なんの悩みもなさそうな奴に不良生徒呼ばわりされたんだ。こちとら一回も生徒になんかなったことないのにな。しかも銃まで向けられたし」

 

「それは悪かったよ」

 

「ああ、水もあったな。あれもぼったくりとか言ったけど。ホントに良心的な価格だから」

 

「うへーっ!!悪かったって言ってるでしょ!」

 

 

 ケラケラと笑いながらカヤツリはホシノを弄る。こういった機会はあまりないからだ。しばらく、会ったばかりの頃の話題で盛り上がっているとホシノが笑って言った。

 

 

「まあ花火は見つからなかったんだけど。カヤツリもそうでしょ。私たちの掘った穴を確認してたよね」

 

「いや、ちゃんと見つけ──」

 

 

 カヤツリは食べているゼリーの味がしなくなった。見つけていた。ゴミにしか見えなかったが、オーナーが高く買い取った以上は価値があったのだ。あの時は分からなかったが、あれは花火だったんじゃないだろうか。

 

 校舎の改修にそれの報酬をつぎ込んだ時に、止める先輩を説得するためにカヤツリは言っているのだ。穴の底で見つけたもののことを。今朝それで先輩は思い出したんじゃないだろうか。

 

 水が出なくっても、いつか掘り出すことが出来れば、そこそこの金額になるだろう。土地の価格と差し引きで大した利益はないかもしれないが、3人が初めて会った場所だ。ロマンチストな先輩の事だから、場所を残そうとして買取の計画を立てていてもおかしくなかった。機嫌がいいのも、カヤツリやホシノに何も言わないのもサプライズだとか考えているのかもしれない。

 

 

「どうしたの?何か気づいた?」

 

 

 ホシノが期待したような声色で聞いてくる。別に憶測を言ってもいいのだが先輩との約束がある。もしも当たっていて、せっかくのサプライズを潰すのも気が引ける。そうでなかったとしても後で確認をとってから先輩に言わせればいいのだ。ただここで”知らない”と言ってもホシノは納得しないだろう。

 

 ここはオーナー方式で行くことにした。幽霊の時と言い、依頼での大人相手の対応と言い、最近出番が多くてカヤツリは複雑な気分だった。

 

 

「いや、あの時見つけたやつが、その花火だと思って」

 

「えっ。じゃあ、探しに行こうよ!だからユメ先輩も機嫌が良かったんだ。言ってくれればよかったのに」

 

 

 目をキラキラさせて喜ぶホシノを見るカヤツリを罪悪感が襲う。早く先輩がホシノに対応してくれることを祈るばかりだった。それにしてもホシノは最近気が抜け過ぎではないだろうか。最初の頃の様になれとは言わないけれども、最近はどうも緩みすぎだ。ちょっと釘を刺す。

 

 

「ずっと、こういう日が続くわけじゃないんだ。そこのところは分かってるのか」

 

「それはそうだよ。でもユメ先輩もカヤツリもいてくれるでしょ。それなら大丈夫だよ」

 

 

 ──そういう事じゃない。カヤツリはそう叫びたくなった。確かに今は先輩もいるし、自分もいる。先輩はもう3年生だし、カヤツリもオーナーの意向でどうなるか分からない。それに次の生徒会長はホシノだった。

 

 先輩は抜けているように見えて、結構先の事を考えている。今回の土地の事もそうだし、あの手帳だって、これから先ホシノが困らないようにつけているのだ。まだ高校一年のホシノに押し付けること自体が間違っているのは分かっているし、ホシノ一人に背負わせるものではないことも分かっている。

 

 ただホシノにはもう少し、心構えというか、覚悟というか、そういうものを持ってほしかった。いつか、戦わなければいけないものはたくさんある。まだ先輩が背負ってくれているうちに、それを知っておいてほしかった。

 

 それでも、もう少しだけ、このままでいてほしい気持ちも確かにあって、カヤツリはどうすればいいのか分からなくなった。

 

 

「ほら、はやく帰ろう?ユメ先輩が待ってるよ」

 

「……わかった」

 

 

 立ち上がって、校舎に帰ろうと促すホシノを見て思う。カヤツリ自身もこのままの時間が心地よくて、ずっとこのままが良かった。だから、いつも楽しそうに笑うホシノの顔を見ると何も言えなくなってしまうのだ。

 

 

 

 

 早速、生徒会室に帰るとホシノが先輩に宝探しの話題を振っていたが、準備ができていないことを理由に一蹴されていた。おおむねカヤツリの予想通りだった。ホシノも先輩の機嫌の理由に納得していたのか、特にごねたりせずに昼寝をしに行った。何時ものように空き教室で寝るのだろう。

 

 カヤツリは先輩に確認することがあって生徒会室に残った。ホシノとの会話で気づいた事の確認のためだった。

 

 

「先輩は結局、土地はどうするんですか。花火の事に気がついたんでしょう?」

 

「だめだったよ……」

 

 

 今朝までの機嫌の良さは消え失せていた。ホシノにはいつも通り対応していたが、今はそれと比べて明らかにテンションが低い。どうやらうまくいかなかったらしい。どういった交渉をしたのか気になった。

 

 

「なんて言って断られたんです。値段を吊り上げられましたか?」

 

「借金返済してからにしろって……」

 

「ああ。真っ当な指摘ですね……」

 

 

 あまりにも普通の指摘過ぎて何も反論が思い浮かばなかった。たしかに貸主としては”借金返してからにしろ”と言う気持ちはわかった。それが向こうから見ればゴミみたいな価値しかない土地ならなおさらだろう。

 

 そういえば、幽霊が資金提供の時も金額が億単位なのが気になったが、土地の購入代金ではなくて、借金の全額建て替えは出来ないみたいな意味だったのかもしれない。

 

 

「じゃあ、諦めて返済に充てましょうか」

 

 

 金がないのなら仕方がない。先輩や幽霊には悪いが、それはどうにもならないことだからだ。ただ先輩は不満そうだった。今も椅子に座って足をばたつかせている。

 なまじ、借金返済には届かないものの、多額の金銭があることで諦めきれないらしい。別にカヤツリとしては土地にこだわらなくてもいいと思うのだが。ホシノなら先輩からの物であれば文句など言わないだろう。

 

 

「別に他のでもいいじゃないですか。土地じゃなくてもなんかあるでしょう。先輩が書いてる手帳でもホシノなら喜びますよ」

 

「でも、前にいりませんって、ホシノちゃんが……」

 

「シンプルに見た目が良くないからでしょう。照れ隠しで言っただけですよ。きっと」

 

 

 ”たのしいバナナとり”だったか。バナナの実が鳥になっているとかいう常軌を逸したデザインのキャラクターが描かれている学習帳だ。あれを生徒会手帳と言い張るのは無理があるし、カヤツリはアレを普通に使うのはかなり抵抗感があると思うのだ。

 

 先輩の落ち込んだ気分はまだ戻らないらしく、カヤツリはうんざりしてきた。だいたい先輩はどういうものを残したいのだろう。前にも聞いたが、砂祭りが出来ればそれでいいわけではなかったはずだった。

 

 

「先輩はまたアビドスに人が来て欲しいんでしょう?だから、いつか砂祭りをやるために土地が欲しいみたいな話になったんですよね」

 

「そうだね。やっぱり、私が思い描くアビドスは、皆が笑っているものだから」

 

「砂祭りと人が来る方の優先度はどっちが高いんですか?」

 

 

 答えが分かり切っている質問をする。あくまで砂祭りは手段でしかないのだ。土地にずっとこだわる必要はなく、人が来るなら他の方法でもいいのだから。賢い先輩なら、ここまで言えば自分で立ち直るだろう。先輩はまたしばらく考え込む。

 

 

「カヤツリ君はどうしたら人が来てくれると思う?」

 

「そもそも、交通の便が最悪じゃあないですか。行くだけで命がけの場所に人なんて来ませんよ」

 

「そうだよね。私たちは慣れてるけど……」

 

「人がいた時はどうなってたんですか」

 

「えっとね。電車が通ってたんだよ」

 

 

 そういえば、砂漠にも廃線したであろう放置された線路や車両があったのを思い出した。昔はあれが走り回っていたが、砂嵐が全てを破壊したのだろう。ふとカヤツリが先輩の方に目を向けると先輩の目が輝きだしている。嫌な予感がした。

 

 

「鉄道だよ。カヤツリ君!」

 

「鉄道運営に手を出そうっていうんですか。あれは確かハイランダーの管轄でしょう。それにやり方もお金もどれだけかかるか分かりませんよ」

 

 

 カヤツリの苦言に先輩は首を振る。鉄道で何をしようというのだろうか。あまりカヤツリはそういったことに詳しくなかった。

 

 

「施設の使用権利を買うの」

 

 

 ──使用権利? 何がどう違うのか、わからないカヤツリは頭を捻る。先輩はそんなカヤツリを微笑みながら見ている。先輩らしくできるのがそんなに嬉しいらしかった。

 

 

「カヤツリ君の言う通りに、鉄道の維持や管理はハイランダー鉄道学園の管轄なの。自治区は土地を指定して鉄道を敷くんだよ。費用はその時によるんだけど、大体相互に負担するのかな」

 

「それは分かりましたけど、その使用権利を買うとどうなるんです」

 

「文字通りに施設──列車とか線路とかの権利が手に入るの。鉄道の運行はハイランダーに頼むことになるけど、施設の権利があれば、ある程度は交渉できるんじゃないかな」

 

 

 ──なるほど。だが、こんなところにハイランダーが鉄道を敷きに来るだろうか。こないから今の状況になっているのに。ただ先輩の話はまだ終わっていないらしかった。

 

 

「でもね。今回の話は、今のところハイランダーは関係ないよ。買うのは砂漠横断鉄道の権利だから」

 

「鉄道である以上、ハイランダーは絡んでくるんじゃないんですか」

 

「ううん。これは前アビドス生徒会とセイント・ネフティスで共同開発する予定だった鉄道だからね。途中までできてたけど予定で終わっちゃったみたい。それで資金難の前生徒会は権利を売り払ったの」

 

「ああ、メインで出資してたのはネフティスですか。ハイランダーは提携していただけだから、権利も何もないんですね」

 

 

 そこは生徒会長らしく、先輩はそういった事情に異様に詳しかった。まあ何度もあのアビドス本館に行って宝探しのための情報を集めていた先輩だ。今回の砂漠横断鉄道の権利買取にも考えがあるのだろう。

 

 

「でも、売ってくれないんじゃないんですか。売ったのはカイザーなんでしょう?また借金返してからにしろって言われて断られるだけですよ」

 

「ふふっ。売ったのはカイザーじゃなくて、共同開発先のネフティスなんだよ。向こうも経営が苦しいらしいから売ってくれるかも」

 

 

 先輩は得意そうに笑う。確かに何とかなりそうだった。カヤツリには特に反対する理由はなかった。ただ権利だけあっても鉄道本体がないのは困るが。

 

 

「そこは、カヤツリ君とホシノちゃんで頑張ってね。私は楽しみにしてるから、もちろん後輩ができることもね」

 

「とんでもない宿題ですね」

 

「そうだよ。カヤツリ君も手伝いとはいえ生徒会の一員なんだからね。あっ、そうだ。これ書いてね」

 

 

 急に先輩が何かを思い出したかのように、紙を寄こしてきた。よく見ると生徒会加入のための書類だった。ビナー退治のごたごたで口約束でここまで来ていたことを思い出した。あの時とは違って特に異論はない。名前の欄に名前を書いて先輩に返した。

 

 

「うん。これで名実ともに生徒会の一員だね。書類は後で私がちゃんと残りの部分は書いておくから、安心してね」

 

「今更ですが、よろしくおねがいしますよ。先輩」

 

 

 喜ぶ先輩を見ながら、カヤツリは考える。先輩はもう権利を買えた気でいるようだったが、不測の事態もあるだろう。だから、こっちもやれることはやっておこうと思うのだ。まずは調べ物。それから電話だ。カヤツリは懐の携帯を握りしめた。

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