ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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209話 動き始めた三日目

 何かが鳴る音で、梔子ユメは目を覚ました。

 

 

「ん……眩しい……」

 

 

 カーテンの隙間からの日差しが、顔面に当たっている。もぞもぞと布団から這い出して、カーテンを開けると、東から昇る太陽がよく見えた。

 

 

「ふわぁ……」

 

 

 大きく伸びをすると大欠伸が飛び出す。身体の疲れが取れて、なんだかすっきりしていた。目覚ましのアラームに起こされたのに、こんな気持ちで目覚めるのは久しぶりかもしれない。

 

 それに、とてもいい夢を見たような気もする。セン君と一緒に眠ったような……

 

 夢の通りなら、セン君がそこに居るはずのベッドを見ると、ぐしゃぐしゃになった掛け布団だけが広がっている。

 

 

「……いないね。夢でよかった……」

 

 

 それを見て、ユメは安堵した。

 

 何となくではあるが、セン君を引きずり込んだような気もする。いつの間にか、セン君に抱えられていたから夢だと思ったのだ。

 

 そうでなければ、あんな事はしない。幾ら一人が心細くて寂しいからといって、セン君からすれば、まだ出会って数日なのだ。そんな事が出来る程、ユメは羞恥心を捨ててはいない。

 

 でも、仕方ない。制服のまま寝てしまったのも、あんな夢を見たのもセン君が悪いから。

 

 ユメはぶつぶつと、誰に向けるでもない言い訳をする。

 

 数週間。それが、ユメがセンを探し続けた時間だ。本館で居場所を探って、分館を張り込んでいた。

 

 探している間、センがどんな人間なのか。ずっと考えて想像していたのだ。

 

 手伝ってくれるだろうかとか。素気無く断られやしないだろうかとか。

 

 ユメは本気だった。本気でセンに手伝って欲しかった。多分、これはユメにとって、高校生になって初めてのワガママかもしれない。

 

 

 ──だって仕方ないよ。

 

 

 また同じような言い訳をユメは重ねる。

 

 

 ──セン君は優しいんだもの。

 

 

 ユメはセン君に助けられた。映画みたいに劇的に。ユメも感謝しているし嬉しかった。それは紛れもなく事実ではある。

 

 助け方も、説得の仕方も、その後の病院での対応も、ユメの好みだ。

 

 でも、ユメとて、それだけでここまではしない。

 

 探し始めはそうだと思っていた。ああも場を治めて見せたから。それに対する憧れか何かの感情なのだと。

 

 でも、違ったのだ。憧れだけで、ああも心は暖かくならない。本当に嬉しかったのだ。だから、あんまりお腹も空かなかった。

 

 

「ズルイよねぇ……」

 

 

 誰に言うでもなく、そうひとりごちて、ユメは洗面所へと向かう。

 

 セン君がやった事は簡単だ。ただ、見つけただけだ。

 

 ありのままのユメを見た。アビドスの生徒会長梔子ユメではなく、アビドス一年の梔子ユメを。

 

 

 ──それが簡単そうに見えて、その実は難しい事を、ユメは初めて知ったのだ。

 

 

 皆、ユメの事をアビドスの生徒会長として見る。それはいい。押し付けられたとはいえ、それはユメが望んだものでもある。

 

 最初は良かった。ユメが思うがままに動く事ができた。

 

 最初に何をやったかは忘れてしまったが、上手くいかなかったのは覚えている。今になって思えば当然なのだが、あの時は、そんな事すら分からなかった。

 

 辛かったのは、その後だ。

 

 別に、誰かに何か言われたわけではない。寧ろ言われた方が良かったかもしれない。

 

 失敗した翌日、住人がごっそり居なくなった。別に失踪したとか、事件に巻き込まれたわけではない。単純にアビドスを棄てただけだ。

 

 始めは、気に病む位で済んでいた。しばらくして失敗するのが恐ろしくなった。

 

 ユメが失敗する度に、住人がいなくなるような気がして仕方がなかった。

 

 セン君に会った日まで、ユメはどこかおかしくなっていたのだ。

 

 

 ──自分がした事は、何の意味もなくて。寧ろ悪い事なんじゃないか。

 

 ──何か、確実な手段を早く取らないと。アビドスが滅んでしまう。

 

 ──完璧に、間違いなど許されない。全員に優しく、全てを掬い上げる。そうでなくてはならない。

 

 ──だって、自分は、アビドスの生徒会長なんだから。

 

 

 そんな考えが、四六時中頭の中をグルグルしていて、何も変わらない現状に頭がおかしくなりそうだった。

 

 早い話が、ユメは焦っていたのだ。気負い過ぎていた。アビドスの生徒会長に夢を見ていたと言ってもいい。

 

 降って湧いた立場に翻弄されて、自分がどうして、アビドスを救いたいと思うのか。大事なことを忘れていた。

 

 

 ──どうしてアビドスに入学したのか。

 

 

 昨日の会話で、ようやくそれを思い出したのだ。

 

 あの会話は、色々な事をユメに教えてくれた。

 

 アビドスの現状は厳しい事。それは仕方のないことで、ユメのせいではない事。

 

 ユメは、皆に笑っていて欲しかった事。

 

 セン君は、ユメの内心を見透かしているわけではないように思う。ただただ、ユメの様子が気になっただけだろう。

 

 でも、あんな言葉は、等身大のユメを見ていなければ出てこない。

 

 

 ──それで? 肝心の梔子はどうなんだ? 笑えてるのか?

 

 

 あの言葉は、ユメを気遣ったものだ。生徒会長のユメにではなく、ただの一年生のユメに対する言葉だ。

 

 生徒会長にあんな言葉はかけない。だって仕事だからだ。結果だけ見れば何の成果も出ていない。傍から見れば、やる気がないか、適当にやっていると思うだろう。

 

 でも、セン君は違った。ユメにどうなのか聞いたのだ。他の人のように、失望して何も聞かないとか、諦めたような、奇人を見るような視線を向けなかった。惨めになるからと怒る事もしなかった。

 

 セン君は、ユメが本気でやっていて、上手くいかなかったのだと。唯の一年生が頑張って、上手くいかなかったんだと。唯々そう思ったのだ。

 

 家に帰って、ベッドに倒れ込みながら、その考えに至った時。ユメは泣いた。

 

 環境に押しつぶされて、自分でも分からなくなっていたモノを、セン君は見つけてくれたから。

 

 思えば、初めて会った時もそうだった。普通の生徒に向けるような親切心をユメに向けるのだ。それに砂漠のあの言葉。

 

 

 ──梔子が、やりたいことやればいいんだよ。少なくとも、俺はそれで嬉しかったんだから。

 

 

 このアビドスで摩耗したユメにとって、それは劇薬だった。ユメが他人へ振りまきながらも、自身には絶対帰ってこなかったモノ。誰かに、確かに、そう言ってほしかったモノ。

 

 やりたいことをやればいいという同意の言葉。しかも、投げやりでなくて根拠も言ってくれた。

 

 嬉しかったという感謝の言葉。本心からそう思っているのが嫌でも分かる。

 

 それを濃縮還元した原液をぶつけられた。だから、あんな変な夢を見るのだ。

 

 家にセン君がいるなんていう夢。一人になって寂しい時に居るなんて、あまりに都合が良いから夢だと思う。逃げようとするから、布団に引きずり込んだのだ。夢の中でくらい、ユメの心を揺さぶらないでほしかった。逃がしたくなくて、つい力が入ってしまう。

 

 

「……大体、セン君も悪いんだよ」

 

 

 顔を洗いながら、またユメは言い訳を重ねる。

 

 

「自分の事を棚上げして。私よりも、セン君の方が大変なんじゃないの?」

 

 

 見た夢の事を振り切るためも、ユメはセンの問題について考える。

 

 セン君には、記憶も名前も何もないのだと言う。荒唐無稽な話であるが、ユメはそれを信じる事にしていた。そうする意味がないし、本当にそうだと思ったからだ。

 

 それが事実だとすれば、大変なことだ。それは本当に何も持っていない事と同義だから。

 

 頼るモノも、自身を証明するものも、何もない。

 

 少なくともユメは、そうなったら生きていけない。だから、身分が取引材料になると思ったのに。まさか、興味なさげな反応をされた時は、かなり焦った。

 

 

「言ったら、話は聞いてくれるかな……」

 

 

 セン君には鼻で笑われるかもしれない。ユメの問題が片付いていないのに、他人の問題に首を突っ込むのはどうなんだとでも言われそうだ。

 

 それに、アビドスの状況も良くないから、何時この壊滅的な現状を説明しようか悩ましい。もしかしたら、現状を聞いたら居なくなってしまうかもしれない。

 

 嘘を言っても仕方がないし、しばらくしてから言うしかない。今は言えない。ユメの心の整理がついていない。

 

 しれは兎も角、ユメはセンの事も手伝いたいのだ。ユメの事を手伝ってもらっているのも理由としては大きいが、それ以上の物がある。

 

 

「本当の名前で呼びたいなぁ……」

 

 

 ユメはセン君の事を何も知らない。セン君自身が知らないのだから教えようがないのが悔しいところだ。

 

 今、ユメとセン君は一緒に居るし、セン君もしばらくは手伝ってくれると聞いている。でも、ユメは今の状況が不満だった。

 

 今は、ただ一緒に居るだけだ。ユメが一方的に頼っているだけで、実に良くない。

 

 それで、ユメが出来る事と言えば一つしかない。

 

 

「セン君の事を調べる手伝いくらいは出来るよね」

 

 

 セン君は、気がついた時にはアビドスにいたと言う。それなら、アビドスに何かあるに違いない。セン君もそう思っているから、ここに留まっているのだろうとユメは思っている。

 

 セン君は大体の事は一人でできるが、そうはいかない事もあるだろう。そこをユメの方でフォローできれば一番いい。幸いにも、ユメは生徒会長だから。何かと融通は利かせられる。

 

 それで、セン君の事が分かったら。そこで面と向かって言うのだ。

 

 ユメが付けた名前ではなく、本当の名前で呼んで。それで一緒に手伝ってくれるように言うのだ。そうして、そうできて初めて、ユメは満足できる。

 

 

「そうだよ。そうしたら、お店で変な目で見られないよね」

 

 

 つい昨日の事を思い出す。

 

 倉庫から発掘した物品を換金する際に、対応するセン君を店主が妙な目でじろじろ見てきたのだ。買取の用紙にサインした名前を見て、ユメとセン君を見比べてニヤニヤしていた。

 

 そういう交渉事も得意だと言うので、セン君に任せたのだが。ユメの馴染みの店でやったのは、良くなかったのかもしれない。

 

 困惑するユメに、店主は口笛を吹きながら、くしゃみのように顔を歪ませていた。何かのサインだと思うのだが、セン君に聞いても良く分からなさそうにしていた。

 

 しかし、本当の名前が分かれば、本物の身分証を作ってあげられる。セン君も言っていた通りに、本物が一番いい。

 

 

「よし、今日も頑張ろう。今日は大事な話し合いだしね」

 

 

 ふんと自信を湧き立てるように意気込むが。鏡の中の自分はいつものままで、ユメは恥ずかしくなる。

 

 さっきの目覚ましのアラームの通りなら、まだ時間には余裕がある。一日着たきりの制服で、セン君の前に出るのは恥ずかしいどころの話ではない。こんな皺だらけで、はだけた制服を脱いで身だしなみを整えなければならない。

 

 今までのように、忙しさにかまけて適当にはできない。したが最後、セン君にどんな目で見られるか、想像するのは怖かった。

 

 

「あ、着替えを持ってくればよかったよ」

 

 

 寝室のタンスに入っているだろう着替えを思い出して、ユメは洗面所を出る事にした。今日からはだらしないのはやめにするのだ。

 

 

「あ、セン君。おはよう」

 

 

 玄関で買い物袋を片手に持っているセン君に出くわした。挨拶されたセン君は、信じられないモノを見る目で、ユメを見ている。

 

 

「どうし……あ……あ、あ……」

 

 

 どうしたの。そう聞こうとして、ユメは今の状況を把握した。どうしてか、セン君が家の玄関に居る。そして、ユメ自身の格好は見せられたものではない。

 

 恥ずかしさのあまり、ユメの口から絶叫が飛び出した。

 

 

 □

 

 

「あー……頭がガンガンする……」

 

「二日も寝ちゃったなんて……ごめんね、セン君……」

 

 

 至近距離で絶叫を食らったおかげで、いまだ耳鳴りが止まない。そんな頭を押さえて、センはユメに経緯を説明した。

 

 いつまで待っても来ないから、調べて家までやって来た事。インターホンを鳴らしても反応が無く、しばらく待っても何も反応がないから中に入った事。それらを早口で手早く伝える。

 

 

「……納得したか?」

 

 

 買ってきた朝食をテーブルの上に置くと、その陰からは申し訳なさそうな梔子ユメの姿が見えた。勿論さっきのだらしない姿ではなく、しっかりと身だしなみを整えている。

 

 コクコクと頷いて、ビニールからおにぎりやサンドイッチを取り出す梔子ユメを見て、センは安堵する。嘘は吐いていないが本当の事を全て言ってはいないからだ。

 

 ベッドに引きずり込まれた後、目を覚ましたのは日が落ちてしばらく経ってからだった。梔子ユメを起こさないように、ゆっくりと拘束から抜け出すのに時間が掛かって。ようやく抜け出せたのは夜中に近かった。

 

 仕方なく、分館に帰って翌朝まで待ったのだが、何時まで経ってもやってこない。もう何が起きているのか分かり切っているから、ここまで直行してきたのだ。

 

 丸々二日は寝ているから、空腹だろうと思って食料を買い込んできたセンに浴びせられたのは、感謝の言葉ではなく絶叫だった。実に酷い話である。

 

 

「どうした。食べないのか?」

 

 

 よく見ると、梔子ユメの食事が進んでいない。ほとんど何も食べていないはずで空腹だろうに。サンドイッチを持つ手が止まっなくている。

 

 

「私の家を調べたんでしょ? ……どこで調べたの?」

 

「本館の生徒会室」

 

 

 誤魔化さずにセンは、はっきり答えた。誤魔化す意味はないし、昨日思った通りにお互い様の話だからだ。

 

 それを聞いた梔子ユメは小さくなってしまった。そこまでショックを受けるとは思わなくて、センは慌てて弁解する。

 

 

「緊急避難だったんだ。何かあったと思って……」

 

「そうじゃないんだよ。セン君」

 

 

 少し持ち直したのか、沈んだ声で梔子ユメは理由を話す。

 

 

「調べたなら、そうじゃなくても。セン君なら分かるんじゃないかな。このアビドスの状況が」

 

「分かるよ。良くないよな」

 

 

 これでも、かなり気を使った言い方だ。正直に言うなら、ほぼ死んでいるようなものだ。

 

 

「それでね。セン君は手伝ってくれるって言ったけど。本当に手伝ってくれるの?」

 

 

 センは内心ため息をつく。どうするか考えものだ。

 

 センの内心は決まっている。手伝うつもりだ。他にやることもないし、身分も用意してもらった。何かあるにしても、自分はアビドスに居たから。調べるならここからだろう。

 

 けれど、それを梔子ユメに言ったとして、すんなりと受け入れられるだろうか?

 

 絶対に信じられないだろう。それほどまでにアビドスの状況は悪いし、曲がりなりにも生徒会長だ。センよりも理解しているだろう。だからこそ、信じられないのだ。

 

 この様子を見るに、もう少し時を重ねてから伝えるつもりだったのかもしれない。それを今回の寝坊で狂わされて、どうしようもなくなったのだろう。

 

 

「手伝うよ」

 

「どこまで手伝ってくれるの……? 本当に分かってるの?」

 

 

 梔子ユメの目を見る。期待と不安で一杯だ。甘い答えに対する期待と、それを裏切られるかもしれないという不安。これを解消できるのはセンだけだ。

 

 梔子ユメが求めている答えは分かる。それを誤魔化すのは出来るが意味はない。センにとっての本当を伝えるしかない。嫌なこともたくさん言わなければならないから、気が重かった。でも、必要な事だ。いつかは直面しなければならない事が、今来ただけだ。

 

 

「正直言うが、今の手持ちの札で復興は無理だ」

 

 

 センは魔法使いではない。無から有を生み出すことはできない。だから、この状況から数億もの金額を捻りだすことはできない。

 

 それを聞いた梔子ユメは、もう見てわかるほどに落ち込んだ。

 

 

「だから、俺が手伝えるのは。どの程度まで遺せるかだ」

 

「……?」

 

 

 落ち込んでいた梔子ユメは、キョトンとしている。何と言うことは無い。センは質問に答えただけだ。

 

 分かっているのかと聞かれたから、アビドスの現状。今のままでは無理だと言う事を伝えた。

 

 だから、次はどこまで手伝うかの答えになる。

 

 

「たかだか二人じゃ、大したことはできない。それは他の学園でもそうだ。だからまずやらなきゃならないのは、どこを対処するかになる」 

 

 

 金は最悪何とかなるのだ。ただ今ないのは時間だ。

 

 

「金の問題は置いておく。それよりもマズいのは、人がいない事だ。特に新入生」

 

 

 いつまでもアビドスで頑張り続ける事はできない。それは一人で頑張り続けた梔子ユメが一番知っているだろう。そして、一人増えるだけで大違いなのも。

 

 手伝ってくれる人員が必要なのだ。そして在学生が居なければ学校の存在意義がない。だから、今、一番必要なのは新入生だった。

 

 

「そうだね……」

 

 

 それを理解したのか、梔子ユメは頷いている。それなら、話は早かった。

 

 

「新入生が来たいと思えるような場所にすべきだ。まずはそれからなんじゃないのか? そして、それは、梔子の得意分野だろう?」

 

 

 それは、センには出来ない事だった。それは、今まで頑張ってアビドスの事を良く知っていて、人の事を見てきた梔子ユメにしかできない事だった。

 

 

「だから、言ってくれれば意見を言うし。出来る範囲でやる。どこまで手伝えるかの問いには、この答えになる」

 

「ありがとう。セン君」

 

 

 いつの間にか、正面の梔子ユメの雰囲気は元に戻っていた。目にも輝きが戻ったのが見える。

 

 

「……別に? 俺は聞かれたから答えただけだ。そもそも、最初からこの話をする予定だっただろう」

 

 

 昨日の予定が。降って湧いた大金の使い道をどうするかの話し合いが今日にずれ込んだだけだ。センが今、こんなことを言わなくても、梔子ユメなら、この答えにはたどり着く気がしていた。

 

 

「それでもだよ。私はしたいと思ったから、今お礼を言ったの。好きなようにやれって、セン君が言ったんでしょう?」

 

 

 梔子ユメは元気を取り戻していた。それどころか取り戻し過ぎて、調子に乗っているようにも見える。だって、センにこんなことを言うからだ。

 

 

「だから、私もセン君の事を手伝うね? 一緒にセン君の名前を見つけようよ」

 

 

 その提案の優先度は低くて、幾らでも反論は出来た。でも、また梔子ユメの表情を曇らせたくなかったセンは、それに対しては口を噤んだ。

 

 折角、手伝ってくれると言うのだから。頷くくらいは良いだろう。なんだか嬉しく思うセンもいるからだ。

 

 

「まずは、昨日やる予定からな」

 

「うん! じゃあ、早く食べよう?」

 

 

 もう、止まっていた食事の手は動き出していた。瞬く間にサンドイッチが梔子ユメの口へと消えていく。袋の中の食料も同義だった。

 

 急いで自分の分を確保したセンは、おにぎりを頬張る。何となく、いつもよりも美味しく感じる自分がいた。冷めていて、自分で作ったわけでもないのに。

 

 その理由は、一人ではないからかもしれなかった。もしかしたら、今もサンドイッチを頬張っている梔子ユメも同じように感じているのかもしれない。

 

 ただ、それを口に出すのは、なんだか気恥ずかしかったから。センは黙って食事に戻る。

 

 やっぱり、いつもよりも美味しかった。

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