ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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214話 聞き込み

 今日も晴れた日だった。アビドスではおなじみの暖かい陽光が部屋に射して、夜の寒気を吹き飛ばしてくれていた。

 

 そんな中で、いつものようにセンは朝食の準備を終える。用意したテーブルの自分の席に着き、手を合わせた後、早速とばかりに朝食にありつこうとする。しかし、それを止める声があった。

 

 

「あ! 待ってセン君。ご飯の前に話があるんだ」

 

 

 テーブルの向かいで、ユメがそんな事を言うので、センは訝し気に彼女を見やった。嫌な予感がビンビンする。

 

 ユメの様子はかなり自信ありげで、それがセンの予感に拍車を掛けていた。

 

 食事の前に、これからの予定を話すことはある。しかし、予定はもう詰まっている。それにユメが自信ありげな時は、大体が碌でもない話なのだ。いかにも怪しい話を持ってくる。騙されないようにセンが毎回ユメの尻拭いをするのも通例になっていた。

 

 

「今日は、セン君に提案があります!」

 

「提案……?」

 

 

 センはユメを見る。どうにもユメは満面の笑顔で、何かを企んでいるようには見えない。だが、この勢いのユメの提案だ。嫌な予感が増す気配しかしなかった。

 

 まだ朝だ。センとユメの二人はまだ朝食の最中で、一日はまだ始まったばかり。今日の予定はもう決まっているから、そのことでは無い。だから、センは経験上残る選択肢の中から。そうであって欲しいものの一つを選んだ。

 

 

「今日の夕飯は決まってる。リクエストがあるなら、もっと早くに言って欲しいね」

 

 

 このところ、ユメが部屋に来訪することは珍しくなくなっていた。朝食だけでなく、夕食までも一緒に取るようになっている。

 

 

 ──お弁当も朝ごはんも、一緒に取るなら変わらないよね? それに、一緒に食べたほうがおいしいよ!

 

 

 全く持ってセンの心情的に、そんなことは無いのだが。ユメのあの笑顔で言われれば、センは断れない。

 

 確かに材料はまとめ買い、多く買った方が安く済む。どうせ一人分も二人分も作る手間は変わらない。代金はユメが出すと言う。センに逃げ場はなかった。

 

 メニューへの注文も何時もの事だ。どうせ、テレビか広告か何かを見て、食べてみたくなったのだろう。毎度の事でもう慣れてしまった。

 

 

「ええっ、そんな……って、違うよ!」

 

 

 少し落ち込んだ後に、憤慨したように声を上げるユメ。それを見たセンは、はてと首を傾げる。本命の提案は夕食のリクエストでは無かったらしい。

 

 

「じゃあ……あれか。当番の変更か? それも急に言うのは違うだろ」

 

 

 後ろのキッチン。そのシンクへと視線を向ける。朝食の洗い物が二人分溜まっている。二人が朝食を終えたなら、さらに増えるだろう。

 

 センが食事を作る代わりに、ユメが代わりの家事をやる。それが二人の間の取り決めだったはずだ。洗い物が嫌なら、他のモノをやってもらう事になる。しかし、センが言葉にした通りに事前に言われなければ困ってしまう。

 

 ごみ捨ては収集日ではないし、調理や部屋の掃除など論外だ。センにもプライバシーというモノがあるし、一度ユメには前科がある。

 

 

「部屋には入れないからな。また、俺の布団で寝る気だろう。それに、煮卵を殻付きのまま漬けるのも」

 

「うっ……それはごめんね……」

 

 

 アビドス本館の引っ越しの準備。それがひと段落着いたと言う事で、ユメは自分の家で仕事をする機会が増えていた。学園の情報コンプライアンス的にどうなのかと、センは思うが。文句を言う生徒はいないから、いいのだろう。

 

 それは置いておいて、センの仕事は変わらず屋外がメインだ。だから、センが外出している間に、ユメが部屋の掃除をしてくれると言うので任せたのだが。それは大きな間違いだった。

 

 センが家に帰ると、部屋は朝と変わらなかった。ユメに何かあったのかと、ユメの部屋も探し回ったが影も形もない。結局ユメは、センの布団に包まって眠っていたのだ。

 

 

 ──いい匂いだねぇ……セン君……

 

 

 そんな寝言を聞いて、センは呆れと共に叩き起こした。話を聞けば、布団が暖かそうだったから包まってそのまま寝てしまったと。けれど、ぶつぶつ文句を言うセンに、ユメはこんな言い訳をするのだ。

 

 

 ──セン君が悪いんだよ。

 

 

 センの何が悪いと言うのか。理不尽だ。前にもこんなことがあったような気もするし、記憶もこういうのは甘んじて受けるしかないと教えてくれていたから、そうするしかなかった。

 

 だから、今回はセンの番だ。下らない用事なら、このまま押し切ってやる。

 

 

「じゃあ、早く食べよう。折角、温かいのを食べれるように起こしたんだからな」

 

「待って待って。セン君。だから、そのことでもないよ」

 

 

 まだ食い下がるユメに、センは両手を挙げて降参した。もう、どうしようもない。この様子を見るにユメは、早く言いたいのかウズウズしている。

 

 仕方なしに手に取った箸を置いて、ユメに答えを促すと、ユメは神妙な顔で口を開いた。

 

 

「これからの事を話そうと思うんだ」

 

「これから? これからの予定は決まっているだろ?」

 

「予定の事じゃないよ。セン君が手伝ってくれるのは嬉しいし、助かってるんだけどね」

 

 

 話の内容は、センの予想とは大きくかけ離れているようだった。

 

 

「セン君自身の事はいいの? ずっと私のお手伝いをしてくれてるし、私も甘えちゃってるけど」

 

 

 それに、センは即答できなかった。なぜかと言えば、考えていなかったからだ。ユメとのアビドスの生活が楽しくて、すっかり当初の目的が頭から抜け落ちていた。

 

 

「別にいいんだよ。手がかりも何もないんだし……」

 

「なら、手がかりがあれば、やってくれるってことだね」

 

「そんな事をしている暇はないんじゃないのか?」

 

 

 いつもの負けパターンに入っていることを感じながらも、センはユメの問題点を突く。

 

 

「でも、生徒の困り事を解決するのは生徒会の仕事だもの。仮とはいえ、セン君はアビドスの生徒で、私の同級生だからね」

 

「屁理屈を……」

 

「ふふ。私もそのままじゃないんだよ」

 

 

 センの苦し紛れの口答えを、ユメは笑って受け流して、心配そうな表情に変わった。

 

 

「あんまりセン君は乗り気じゃないみたいだけど。珍しいね。セン君はそういうの、早めに何とかしちゃうのに」

 

「……優先度の違いだよ」

 

「うーん……本気で言ってないでしょ。そうだね……怖いの?」

 

 

 内心を言い当てられて、センはそっぽを向いて言う。

 

 

「ユメが過去の事を気にしないのは知ってる。でも、変わる物は確かにあると思うんだよ」

 

 

 例えばの話。センの過去がとんでもない悪人だったとして。ユメは言ったとおりに、確かに気にしないかもしれない。でも、センは気にするのだ。

 

 

「俺の過去が分かったところで、何のメリットがある。結局は俺の自己満足にすぎないんだ。それに比べて、壊れてしまうかもしれない。変わってしまうかもしれないモノが多すぎる」

 

 

 それなら、知らないままで良いとセンは思うのだ。何事も、明らかにすると言うのは良いことでは無い。そのままにしておけば、何も起きないのだから。

 

 

「私は知りたいよ。セン君の事」

 

「どうして?」

 

 

 センは聞き返す。ユメは気にしないと言ったからだ。それなのに、知りたいと思うのは疑問だった。

 

 

「だって、名前で呼べないでしょ?」

 

 

 そう言ったユメの顔は、至極まじめだった。その表情には、過去を掘り返してやろうだとか、唯知りたいとか、そんな下卑た好奇心などは見受けられなかった。

 

 きっと彼女は、センの本当の名前を知りたいだけなのだ。それを知るにはセンの過去を知る必要があるから、ちっとも引いてはくれないのだ。

 

 

「はぁ……それで? その手がかりを探る手段は?」

 

「やっぱり、セン君は優しいねぇ。私の言う事は、何だかんだ言って聞いてくれるんだもん」

 

「諦めただけとも言うんだけど」

 

 

 センは抵抗を諦めていた。きっと、何を言ってもユメは聞いてくれないだろうから。

 

 センはユメが付けた名前だ。ユメが名付けたそれは、センの本当の名前ではない。それが、ユメにとっては不満なのだろう。ただただ、その人の本当の名前で呼ぶべきだと言う考えがあるだけだ。

 

 ユメはこういったこと。ユメ自身が良いと思った物、守るべきだと思った物。例えるならアビドスの復興の手段のように。自分がそうすべきだと思った事。それに関しては頑として言う事を聞かない。

 

 ユメはこういう所がある事を、これまでの付き合いでセンはよく分かっていた。それはユメの良いところでもあり、良くないところでもある。今のセンにとっては良くはなかった。

 

 

「そうそう、それで手段なんだけどね? 人に聞き込みしてみようかなって」

 

「聞き込みぃ? それで出てくるとは思えないけど」

 

 

 ユメの提示した手段はありきたりな方法だった。手間が非常にかかるが、ある意味では堅実かもしれない方法である。ただ、問題点がある。

 

 

「どこまでやる? 流石にアビドス全域は難しいし、本末転倒だ。ある程度は範囲を絞る必要がある」

 

「アビドス分館の周辺にしようかなって」

 

 

 センの心配は取り越し苦労だったようで、ユメはしっかり考えていたようだった。すらすらと自分の考えを述べていく。

 

 

「やっぱり、セン君が最初に居たところから始めようと思うの。少なくとも、分館に居たってことは、周りに手がかりがあるんじゃないかな。誰か見た人もいるはずだよ。瞬間移動でもしない限りはね」

 

 

 特に指摘する場面は見つからなかった。分館の周囲なら、ここから遠くもない。アタリを引く可能性も一番高いだろう。

 

 

「始めるのは、この後から?」

 

「うん。やっぱりセン君は、私のこと分かってくれるね! 夕ご飯も食べたいの考えておくから!」

 

 

 すっかり機嫌を良くしたユメは、手を合わせた後に食事に手を付け始めた。センはまだ、”うん”とも”はい”とも言っていない。もうユメの中では、この後に聞き込みを始めることに決まっているようだった。それに夕食も。

 

 これもまたいつもの事である。それに、センも仕方ないかと思っている。早々に目撃情報など見つかるはずがない。きっと空振りに終わって、ユメが落ち込むことになる。それをどうやって励ますかを考えながら、センは少し冷めた朝食を頬張った。

 

 

 □

 

 

「ひぃん……何にも分からないよぉ……」

 

 

 意気揚々と始めた聞き込みではあるが、結果は芳しくなかった。センの予想通りに、マトモな情報は集まりはしなかったのだ。

 

 もう昼を過ぎて、夕方に差し掛かっている。初めはうきうきだったユメも、暑さと疲労で萎びた菜っ葉のようにぐったりして、ひんひん言っていた。

 

 

「ほら、そろそろ帰ろう。帰りに店に寄って、夕飯好きなもの作ってやるからさ」

 

「でも、セン君。もうちょっとだけ……何にも分からないんだよ? 少しは成果を出さなくちゃ」

 

 

 ユメの諦めは悪かった。別に今日で全て解決するとは思ってはいないだろうが、まさかここまで何も出ないとは思わなかったらしい。

 

 

「また折を見てさ、聞き込みすればいいだろ。焦っても何もいいことなんかないって」

 

「セン君……あっ!」

 

 

 もう少しで頷いてくれそうだったユメが、何かを見つけて大声を出した。その方向を見て見れば、何やら騒ぎが起こっている。

 

 

「金を持ってないのか?」

 

「だから、物で払うって……」

 

 

 屋台だ。何かの屋台の前で、不良たちと屋台の店主だろう獣人が揉めている。センにはどちらの人間も見覚えがあった。

 

 

「あの時の……」

 

 

 ラーメン屋を開くとか言っていた獣人だ。そして、不良の方もあの時にたむろっていた奴等だ。そんな事を思い出しているうちに、ユメは揉め事へと突進していく。何があったのか聞いて、両方から、困ったような目を向けられていた。

 

 

「ああもう……!」

 

 

 仕方なしにセンは揉め事に首を突っ込まざるを得なくなった。センが突撃すると、全員が安心したような目を向けてきて、少しばかり悲しい気持ちになる。突撃したユメまで向けてくるからだ。

 

 

「助かった。(あん)ちゃん。何とかしてくれ……」

 

「テュポーン! 助けてくれ!」

 

「セン君……」

 

 

 頭を抱えて蹲りたいが、そうもいかない。何が起きたのかを把握するのが急務だった。

 

 

「それで、何があったんです?」

 

 

 センの問いかけに、まずはかつての依頼主──店主が答える。

 

 

「ここで開店するからな。味の傾向を見るために、屋台で始めてみたんだ」

 

 

 実に堅実だった。受けを見て味を調整するのだろう。それに、実際に店を回す試運転もあるのかもしれない。納得するセンを見つつも、店主は不良たちを困ったような顔で示した。

 

 

「嬢ちゃんたちがお客として来てくれてな。味も好評で俺も嬉しかったんだが、代金がな……」

 

「人数が人数だ。そこそこの値段ですね……無銭飲食か」

 

「ああ。一人や二人。いや、四人くらいまでなら目を瞑ってやれるが、この人数じゃな……」

 

 

 不良は十数人いる。この人数分の代金をツケにするのは難しい。顔見知りならまだしも、また返しに来るとは限らない。それに、額が額だ。幾ら店主がそうしたいと思っても、店を建てようとしている直後だ。懐事情が厳しいのかもしれない。

 

 

「違う! 私たちはこれで払うって言ってるんだ!」

 

 

 怒ったように言う不良たちが差し出したのは、金銭ではなかった。小さな薄紫色の結晶が一つ、不良たちの掌の上で輝いている。

 

 

「何だこれは、宝石か? 随分小さいが」

 

「何だ。アンタは知らないのか? 最近に依頼が出てて高値で売れるんだよ。どうにも、アビドスでしか取れないらしいんだ」

 

 

 初耳である。しかし掘り出したと言う割には、研磨でもしたかのように綺麗な六角形だ。宝石の原石と言うのは、もっと不格好なものだ。宝飾品についたままの形で、地面に埋まっているわけでは無い。

 

 嫌な可能性がちらついて、センは不良を問い詰める。

 

 

「まさか、どこからか盗んできたんじゃないだろうな」

 

「違う! これはちゃんと私らが掘り出したものだ!」

 

 

 そこまで聞いて、センは疑わしそうに不良たちを見た。それはおかしいからだ。

 

 

「じゃあ、何で換金しなかった? 高値で売れるって言うなら、換金してから払えばいいだろ」

 

「それは……途中でお腹がすいたんだよ。これを探して掘り出すのに、何日かかったと……」

 

 

 センは呆れた目を向けた。

 

 

「不眠不休で掘り出したはいいが、換金するまでは身体が保たなかったと。それで、現物で払おうとしたって?」

 

 

 神妙に頷く不良たちを見て、センはどうしたものかと考える。

 

 店主からしたら困りものだろう。こんな現物を渡されても、店主には換金する伝手がない。しかし、店主は人が良いから、代金を払う意思がある不良たちを無下にもできないのだ。

 

 不良たちも不良たちで、そんな道理は通らない事は分かっている。そうでないなら、力押しで踏み倒してもいいのだから。そうしないと言う事は、彼女たちも代金を払う意思はある。

 

 

「ユメ……買い物は……」

 

「いいよ。セン君。また明日にしよう」

 

 

 ユメは笑顔だ。折角の予定がフイになったと言うのに。朝の時よりも笑みが深い。

 

 

「店主。代金です」

 

 

 財布から、さっき聞いた代金を店主に渡す。受け取った店主は目を白黒させている。

 

 

(あん)ちゃんが立て替えるのか……? それじゃあ、(あん)ちゃんが丸損じゃねぇか。それなら、俺は受け取らない。最悪、嬢ちゃんたちには皿洗いでも何でもしてもらえばいい」

 

「それじゃ、代金分がペイできないでしょう。それに、長期間この人数を抱えておくなんてできない。気持ちは嬉しいですが心配はいりませんよ」

 

 

 結局は現金が無いのが問題なのだ。幸いにも、買い物の予定だったから資金は潤沢に用意してあった。センは今度は不良たちに声を掛ける。

 

 

「その宝石。こっちで買い取る。幾らなんだ? 嘘は吐くなよ。確認すれば分かるからな」

 

「ああ……助かる」

 

 

 確かに彼女たちが言う金額は、代金を上回って余りあるものだった。これが、嘘であったらセンは丸損だが、その時はその時だ。きっちりセンが回収すればいい。ユメも止めないだろう。

 

 

「良かったねぇ。全部丸く収まったよ」

 

 

 当のユメは笑顔を絶やさない。夕飯のメニューの変更も無しになったのに、丸損したのは、店主でも、不良でも、センでもなく、ユメのはずなのに。

 

 二人はその場から離れて。そこでセンはユメに聞いてみたのだ。

 

 

「本当に良かったのか?」

 

「うん。前にも言ったかもしれないけど、アレは私の望んだモノだから」

 

 

 とんとセンには覚えがない。分からない顔をするセンが珍しいのか、ユメは言ってくれた。

 

 

「ほら、私が残せる物の話だよ。私は、アビドスを残してあげようかなって」

 

 

 センは何となく、ユメの言いたいことが分かった。でも、ユメの言葉の続きを聞きたくて、何も言わない。

 

 

「少しでも、良い人達が残ってくれればいいなって。そういう人たちが残ってくれるアビドスにしたいって、私は思うんだ」

 

「善人と言うには微妙じゃないか。店主は兎も角さ。皆がユメみたいになれるわけじゃない」

 

 

 意地悪な質問だ。センは自分でそう思う。優しさとは、余裕から生まれるものだからだ。貧すれば鈍するともいうくらいだ。センとて、一人でもどうにでもなるから、こうしているに過ぎない。

 

 

「でも、変わろうとしてくれてたもの」

 

「それはな。損得勘定できるようになったからだ。決して改心したわけじゃない」

 

 

 不良たちが聞き分けが良かったのは、センが居たからだ。センに睨まれたら、仕事が回って来なくなるし、今回の宝石関連の仕事は知らない。またぞろ、暗いところから引っ張って来たに違いない。後ろめたかったから、唯々諾々と言うことを聞いたのだ。

 

 

「少しは、ユメ自身の事を優先しても良いと思う。手があれしかなかったから、今回は良いけどさ」

 

「それは、セン君もだよね」

 

 

 センは黙った。言われてみればそうだった。ここの所ユメの事ばかり優先している。

 

 

「セン君が思った事は私も思ってるんだよ。でもセン君が頑張ってくれるから、私も頑張ろうって思うの。それだけでいいの。セン君と一緒に頑張れたら私は嬉しい。それにアビドスが良くなるっていう結果もついてくるんだよ。私は私のしたい事しかしてないんだ」

 

 

 だから、心配はいらないんだよ。そう言ったユメに、センは何も言えなかった。

 

 どこか嬉しく思う自分がいる。なんだか身体が熱い。ユメを見れば、どこか顔が赤いように見える。自分が何を言ったのか、自覚したらしい。

 

 

「……」

 

 

 お互い、何も言えなくなった。どことなく、何かを言えば妙な雰囲気になる。そんな感じが漂っていた。

 

 

「おお! 居た居た。二人とも!」

 

 

 沈黙を切り裂いた突然の大声に二人は飛び上がった。振り向けば、店主が笑顔で手を振っている。

 

 

「ラーメン食べていかないかい? さっきの礼だよ。どうだ?」

 

「セン君! セン君! どうしようか?」

 

 

 さっき迄のしおらしさはどこへやら。ユメはいつもの雰囲気に戻っていた。変わり身の早さにセンは苦笑する。

 

 

「それじゃあ、お言葉に甘えましょうか。ユメ。行こう」

 

「うん! セン君!」

 

 

 何にしようか悩むユメと、先を行く店主を追いかける。

 

 

「ん……?」

 

 

 ずっと手に握っていた宝石。仕舞おうとしたそれが、ぼんやりと光ったような気がする。しかし、矯めつ眇めつ眺めるが、特に何の異変もない。綺麗な六角形の宝石は、ただ掌の上に佇んでいるだけだった。

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