ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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21話 裏工作

 ネフティスとの折衝には時間がかかるようで、先輩はゆっくり準備をするようだった。カヤツリは生徒会室から出て、調べ物の後に空き教室で電話を掛けた。相手はもちろん幽霊だった。

 

 しばらく呼び出し音が鳴った後、砂漠で聞いた声が聞こえる。幽霊の声だった。奥の方では忙しいのか誰かが動き回っているような音が聞こえる。

 

 

『なんだいアンタ。用があれば連絡しろといったけどね。いくら何でも早すぎやしないかい。アンタの尻拭いで、こっちは忙しいんだよ』

 

「もちろん、暇つぶしで掛けたわけじゃない。ちょっと助けて欲しい」

 

『前に言ったとおりに金はそんなに出せないよ。借金は同情するけどね』

 

 

 金の無心の為に電話したわけではなかった。とりあえず、砂漠横断鉄道の施設使用権を購入したいことを伝えた。カヤツリの考えがあっていれば、たぶん食いついてくるはずだった。

 

 

『砂漠横断鉄道の施設使用権ねぇ。いいね。詳しい話を聞かせな』

 

 

 ──食いついた。ずっと気になっていたのだ。幽霊の言う兵器はだれが作って、どういうものなのか。まず思ったのは誰が作ったのかという事だった。

 

 最初に幽霊と会った時、アビドスが戦争を企んでいることに確信を持っているようだった。それに、やけにその兵器について詳しかった。そんな兵器があること自体カヤツリは知らなかったし、あの後、先輩にもぼかして聞いたが知らない様子だった。

 

 だから幽霊が兵器の詳細を知っていて、わざわざアビドスまで足を運んでいたのは、その兵器というやつはアビドスで作られて、ゲヘナも関わっていたはずだった。そんな背景があるから、あの夜に幽霊は兵器を探すために、あそこにいたのだ。

 

 で、兵器はおそらく大砲か何かだろう。それも巨大で長射程の。レプリカが機体の主砲だったし、幽霊の話じゃ大幅にスペックダウンしているらしい。それで単体で戦争ができる代物なら射程が長くなければ話にならない。

 

 

「砂漠横断鉄道の施設使用権の買取価格を下げたい。アンタならできるだろ」

 

『何で、私がそんなことできると思うんだい。あんたが交渉すればいいじゃないか。それに私は大オアシスの土地を買えと言ったんだよ。話が違うよ』

 

 

 幽霊はすっとぼける。たぶん全て分かっていて、すっとぼけている。ゲヘナは別に兵器が確保できればいいはずだった。それにネフティスへの交渉──脅しはカヤツリがやるより、ゲヘナ相手の方が効くだろう。

 

 大オアシスの土地を買えというのも、今考えればおかしかった。買えないことくらい幽霊ならすぐに分かったはずだからだ。買えないと分かったら次はどうするか。他に買えそうなものを探すだろう。その中で買えるものは、カイザーの物でない砂漠横断鉄道の施設使用権くらいだ。全部誘導されていたのだ。

 

 

「とぼけるな。できるだろ。お前が言う兵器はアビドス生徒会とネフティス、ゲヘナの合作なんだろう?」

 

『……それで?どうする気だい?ゲヘナは買い取れないし、金も出せないよ。トリニティなんかに漏れたら問題になるからね』

 

「だから、値段を下げるんだろうが」

 

 

 幽霊はカヤツリの推論を否定しなかった。兵器を作るのは金がかかる。幽霊がいうような決戦兵器ならなおさらだろう。その金はいつどこから出たのだろうか。全盛期のアビドスならゲヘナを計画に入れないだろう。そもそもそんな兵器に頼るまでもない。それ以降のアビドスは砂嵐の復興の所為で金がない。じゃあゲヘナが出したのかと言えばそれも変だ。それならアビドスではなく自分の自治区で作るだろう。

 

 そんな大金が出せるのは企業だけだ。カイザーはレプリカを作る時点で除外。残りはネフティスだけだ。アビドスとネフティスならお互いにメリットもある。

 

 

「ネフティスにこう言え。アビドス生徒会に買える価格で売らないと、全部カイザーに持っていかれるぞって。ゲヘナとしてもそれが一番避けたいことのはずだ」

 

『兵器と砂漠横断鉄道には関係がないだろう?』

 

 

 少し笑いを含んだ声で幽霊が喋る。そんな事はない。むしろ大ありだ。

 

 

「調べたが、ネフティスが砂漠横断鉄道の建設を始めたのは、あの大災害以降みたいじゃないか。土着の企業であれば復興に力を注ぐべきで、新規事業に全力投球は変だ。兵器建設の隠れ蓑なんじゃないのか砂漠横断鉄道は。また試しやがったな。大オアシスは関係ないじゃないか」

 

『まぁ、おおむね正解さ。鉄道と兵器は順序が逆だけどね。まあ、幾らか私の口が軽いとはいえ、よくたどり着いたね。兵器の正体は列車砲さ。砂漠まみれのアビドスじゃあ、運搬は鉄道に頼るしかないからねぇ』

 

 

 推測はおおよそ当たっていたらしい。列車砲の場所も大体の見当がつく。先輩の宝探しに付き合わされていて助かった。でもこれで、幽霊の協力を引き出せそうだった。

 

 

『そうさね。施設使用権の買取はいい考えだね。ゲヘナからそれとなく脅せば、ネフティスも価格を下げるだろう。ただ一つ問題点が残ってるのは理解してるのかい?』

 

「アビドス自治区が維持できるかっていう点だろう?最悪俺が留年し続ける手があるが、そういう事じゃないんだろう」

 

『分かっているようで何よりだよ。ネフティスも泥船に虎の子の列車砲を預けないだろうさ。ああ、相談事はこれの事かい』

 

 

 そうだった。これだけはカヤツリでもどうしようもなかった。今一番足りないのは信用だった。ネフティス以上にカイザーから列車砲を守り切れるかという信用だ。少なくとも、経営が苦しくてアビドス外へ撤退したとはいえ、今のカヤツリ達よりは金も人材もあるだろう。だから、幽霊に相談したのだ。

 

 

『んー。何個か条件をクリアすれば何とかなる方法があるが聞くかい?』

 

 

 電話口からでも幽霊がニヤニヤ笑っているのが雰囲気で分かった。碌な提案ではないと思ったが飲み込むしかない。

 

 

『まずは、一括払いでの買取でなくて数年の期間を決めて分割払いにすることだね。これなら期間中は契約の範囲内であるわけだから、誰も手は出せない。ある程度の保険にはなるだろうさ』

 

「あとは?」

 

『列車砲の価値を変えるのさ。今はアンタのおかげで価値が上がってしまっているが、もしそれが案外使えないポンコツだったならどうだい?そんなものを後生大事に抱えて私らに睨まれるよりも、さっさと金に換えた方がいいと思うだろうさ。それに、今も殺気立っている他の学園やカイザーも興味をなくすだろう?ただいくら潰れ掛けとはいえネフティスも企業だからね。少し細工をするのさ』

 

 

 割と現実的な案が出てきた。ただカヤツリには列車砲の価値が上がった原因が分からなかった。だってカヤツリは起動しただけだ。それもレプリカを。レプリカの価値が上がるのは分かるが、その本体の価値が上がる理由が分からなかった。そして幽霊はたぶん機密事項であろうことも含めて話し出した。

 

 

『列車砲がいままで問題になってなかったのはエンジンが起動しなかったからさ。ただアンタは同じ問題を抱えていたレプリカを起動させた。レプリカを動かせたなら、アンタはきっと本物も動かせるはずなんだよ』

 

「……それで?」

 

『逆にネフティス以外に列車砲の価値を誤認させる。さっきも言ったとおりに案外使えないポンコツだってね。ネフティスだけが、アンタが起動できることを知っていれば、アンタがアビドスにいて協力する限りは契約を結んでくれるかもしれない。人間は、少しでも希望があるならそれに縋ってしまう生き物だからねぇ』

 

 

 うまい手だった。土地はカイザー、列車砲はアビドス生徒会とネフティスが所有すれば大体の問題が解決する。カイザーは土地を持っていても、施設の権利がないから列車砲には手を出せない。逆にネフティスも土地がなく、設備も出来上がっていないせいで列車砲を持っていても使えない。ただ、ネフティスはゲヘナの圧力と、いつか列車砲を使えるかもしれないというエサをぶら下げられている。契約してくれる可能性はありそうだった。

 

 見た目通りの悪魔みたいな方法を考案する幽霊にカヤツリは警戒レベルを上げた。おそらくゲヘナでそれなりの地位にいる人物だ。警戒するに越したことはないのだが、見た目と口調のギャップでどうにもやりにくかった。

 

 

「おおむね流れは分かったけども、具体的な方法が全く分からないんだが」

 

『まずはネフティスに話を通す。そういった細かいことは私がやろう。アンタじゃ門前払いされるからね。あとでアビドスの生徒会長が取引する日を教えな。それに間に合わせるように調整する。アンタは心配しているようだけど、おそらくネフティスは断れない。ただ、心しな。重要なのは次だからね』

 

 

 カヤツリの手が出ない所は幽霊がやってくれるらしい。ただカヤツリは何をやらされるか不安だった。幽霊の言い方からして、とんでもないことをやらされそうだからだ。

 

 

『アンタにはゲヘナの戦闘部隊と戦ってもらう。もちろん列車砲のレプリカを使うんだよ。そこでアンタはいい勝負をして負けるんだ。いわゆる出来レースってやつだね』

 

「レプリカはカイザー製だろ。どうやって用意するんだ」

 

『ふん。列車砲の大元の設計はこっちだよ。同じような試作品くらいあるさ。ただし見た目と派手さはそのままで、威力は大きく落とさせてもらうよ。それと機体はカイザーの物に偽装するからね』

 

 

 それは当然だろう。ネフティスには起動を確認させて、戦うことになるゲヘナの戦闘部隊にはあまり被害を出すわけにはいかないからだ。それに、他学園の目をカイザーに向けさせる意味もあるのだろう。ただどのくらい手加減すればいいのだろうか。加減が良くわからなかった。

 

 

『ずいぶん余裕だね。出すのはうちの虎の子だよ。この計画はアンタと私しか知らないから、あの子たちは本気で来るよ。下手したらアンタ普通に負けかねないからね』

 

「は?」

 

 

 カヤツリは困惑した。出来レースなのだから話くらい通しておいてほしいものだった。下手をしたら脱出すらままならない。それを聞いて幽霊はため息をつく。

 

 

『あのねぇ。出来レースなのは確かだけど、他の学園、ネフティスやカイザーが監視する中でやるんだよ。あんまり下手だと困るからね。アンタには本気を出してもらうよ』

 

 

 不気味な女だった。こちらの内情やカイザーの事まで知っているし、ネフティスとの伝手まで持っている。いまさら幽霊に頼ったのは早まったかもしれないと思い始めた。ただもう降りることは許されない。先輩やホシノのためにも、この問題は片付けるべきだからだ。

 

 

『じゃあ確認だ。アンタは私が用意した機体でゲヘナの戦闘部隊と戦ってもらう。場所はゲヘナ寄りのアビドス市街地。少なくとも一・二回は主砲を使ってもらうよ。理想はゲヘナ側が何人か残った状態で負けることだね。何か質問は?』

 

「なんでここまでしてくれるんだ?」

 

 

 カヤツリには分からなかった。列車砲が危険なのもわかるし、ゲヘナがそれを何とかしたいのもわかる。ただもっとやりようはあるはずだ。カヤツリを使うのではなく、自分の部下や潤沢な資金を使えばもっと取れる手はありそうなものだったが。ただ聞いてみたかった。

 

 

 

 

 ──何でここまでしてくれるのか。

 

 

 幽霊は電話の向こうから聞こえた疑問に笑った。幽霊はゲヘナ情報部のアビドス方面実働部隊だ。今のゲヘナは文字通りの地獄だった。暴君がイカれた発明品を量産し、皆は押さえつけられている。自由と混沌が売りのゲヘナらしくない状況だった。

 

 幸いなことに幽霊は実働部隊であったが故に、仕事を理由にサボることが出来ていた。その実力ならもっと上を狙えると周りに言われたが、味方を売る内部調査班など死んでも御免だった。カイザーやネフティスに潜入して適当に情報を流す日々。入学した時の熱はもうなかった。学園にいる仲間たちには罪悪感があった。先輩や後輩、同級生の中には暴君を何とかしようと考える者もいた。

 

 彼女たちを見て幽霊はバカだと思った。もっと賢く生きるべきで、長い物には巻かれて生きる。そうやって生きていくのが楽でいい。そう思っていた。そう思い込んだ。調査のため潜入したカイザーの施設で録画された、あの戦いを見るまでは。

 

 それは、ビナーと呼ばれる大蛇と二人の生徒が戦っている映像だった。勝てるはずの無い戦いだった。横槍まで入れられたのに、ヤツの発明品のレプリカもあったとはいえ勝ったのだ。

 

 二人の素性と置かれた状況は調べて知っていた。映像を観たとき幽霊は無性に悔しくて羨ましかった。あの二人は自分の学校を守ったのだ。それに比べて自分はどうだっただろう。ずっと自分に言い訳をして楽な方に流されていただけだ。死んだように生きていただけだ。まるで幽霊みたいに。その時、幽霊の中に火が灯った。

 

 状況が整っている今が、変わるチャンスだった。今度は自分に正直に生きてみようと思った。今なら他校との睨みあいで暴君も動けない。自分が情報を上にあげれば、出来損ないのレプリカを葬るために手駒である情報部の精鋭を送るだろう。もしうまくいけば、暴君の手を一つではあるが潰せる。もしかしたら、暴君を引きずり落とす一手になるかもしれない。この作戦が失敗するならそれまでだ。ただ、そのもしもがあるのなら自分も自信をもって生きられる気がした。

 

 これは、ただのお返しだ。だから、気にする必要はないのだ。これはバカがバカをやるだけの話だ。一人じゃ何もできないバカが自分の青春を取り戻すだけの話だ。

 

 

「ただの気まぐれだよ。ゲヘナの生徒はそういうものだからね」

 

 

 そう言って、幽霊は微笑んだ。

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