ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

222 / 337
221話 虎穴

「あった!」

 

 

 お目当ての物を見つけたユメは叫んだ。その後、慌てて口を押さえる。

 

 

「……大丈夫かな?」

 

 

 暫く待っても何も無い事に安心して、ユメは見つけた物をまじまじと見つめた。

 

 そこにあるのは、お目当ての宝石だ。けれど今まで見たものとは違って、とても大きい。二倍どころではなく四、五倍くらい。大ぶりの林檎くらいはあるだろう。それはキラキラと、暗闇の中で輝いていた。

 

 ここまで頑張った甲斐があるとユメは笑顔になって、帰る準備を始めた。

 

 強い光源を確保するために、ライトの光量を上げると、光が周りの砂の壁を照らし出した。

 

 何故砂の壁かといえば簡単だった。ここは、穴の中だからだ。

 

 本館に行ったユメが最初にやった事は、荷物の確認だった。忘れっぽいユメの為に、コンパスや水筒、地図、スコップ、それらの必需品をセンが一纏めにしておいてくれたアビドス砂漠お出掛けセット。それのお陰でユメは気がついたのだ。

 

 

 ──何処を探そうかな?

 

 

 場所は分かる。昨日の場所まで行けばいい。車も、その中に地図もある。道に迷う事は無い。

 

 大事なのは、あの穴だらけの所をどう探せばいいのかだ。

 

 昨日のセンから、探し方は聞いている。穴のない場所を掘ったと。センの言う通りに探せば良いかと思った。

 

 けれど、ユメはもう一つ考えがあった。正確には昨日に思いついていた物が。

 

 穴の中も探すべきだ。昨日、センは気づいていなかったようだが、画面の中の穴の一つから何か違和感を感じていた。

 

 そう思って、それは正解だった。

 

 車で乗り付けて、目当ての穴を覗き込んだ時、緩やかに降りた奥の方に何か小さい光が見えた。

 

 画面の中の小さな点は、ユメの予感は間違っていなかったのだ。

 

 そうした流れで、ユメは穴の底にいる。センが言った通りに大蛇の巣穴なのか、大きなトンネルの中に入っている感覚だが、ユメは焦らずに片付けを続ける。

 

 さっきは大声を出してしまったけれど、何の反応もない。大蛇など、本当はどこにもないのかもしれない。

 

 それに、ちゃんと入り口は階段状にしてきたし、岩場に結んだ紐を通して来ている。これで迷っても安心だし、出てこれる。ユメもやれば出来るのである。

 

 

「よし! 早く帰ろ──ッ!?」

 

 

 突然の大きな揺れに、ユメは言葉を切る。トンネル全体が揺れていた。ユメの頭の上から、パラパラと砂が落ちて来る。

 

 

「地震……?」

 

 

 崩れる前にと、出口に向かって駆け出す。

 

 トンネルの天井から砂が降る中、揺れはどんどん大きくなる。もうこの頃には、ユメは地震でないことに気づいていた。

 

 地震は下から揺れるが、この揺れは上からだ。地上で何かが起こっている。

 

 ただ、このまま地下に潜ったままでもいけない。生き埋めになってしまうのは確実だ。

 

 だから、ユメは足を緩めずに出口まで駆ける。紐が出口までを教えてくれたお陰で、出口から夜空が見えた。

 

 

「えい!」

 

 

 トンネルが軋む不吉な音を背に、ユメは出口へ飛び込んだ。まだ暑い砂原へ、したたかに身体の全面をぶつける。

 

 その痛みを堪えて出口を見ると、丁度穴が埋もれているところだった。

 

 

「危なかったぁ……」

 

 

 数秒遅れていたらと身震いするが、背中の鞄を思い出して急いで確認する。

 

 

「良かった。ちゃんと入ってる」

 

 

 目的の宝石は、鞄の中で変わらない輝きを放っている。ユメは踊り出したいくらいの喜びで満ちていた。

 

 これでセンと話せる。出て行くのを止められる。言うべきことをようやく言える。

 

 鞄に宝石を仕舞い直して、乗ってきた車を探すために、ユメは辺りを見渡して、思考が止まった。

 

 

「え?」

 

 

 外は明るかった。もう夜の筈なのに。真昼の如くに周りがよく見える。それは、周りが火の海だからだ。

 

 ユメの側が炎上してはいない。遠く離れた場所に点々と、火達磨のなにかが転がっていた。それが幾つもの松明のようになっている。明るいのはそれが理由だった。

 

 熱く無い距離からよくよく見れば、火達磨になっているのは車だった。ユメが運転してきた物よりずっと大型の。ダンプカーとも言うそれが、幾つも幾つも。

 

 それを見たユメの脳裏には一つの事実しか浮かばなかった。

 

 

「事故……? 助けなきゃ!」

 

 

 誰かが助けを求めているかもしれない。そう思ったユメの行動は早かった。

 

 

「誰か! 大丈夫ですか!」

 

 

 大声で叫ぶも、車が燃える音しかしない。暫く続けても、何の反応もない。

 

 全員逃げたのかもしれない。そう思ったユメの背後から、爆音が響いた。

 

 振り向けば、火達磨のダンプカーの奥、そこで新しく炎上する何かがあった。同じダンプカーのようにも見えるが、近場のモノとは違って原形を留めていない。

 

 何と言うか、運転席が完全にひしゃげて、荷台も中から破裂したように裂けていた。裂けると言うよりも、完全に吹き飛んでいる。

 

 そして、その隣で何かが動いた。

 

 砂原に横たわる。黒い、巨大なナニカだった。それが、砂原の上で大きく立ち上がった。大きな塔のようにも見える。

 

 

「何なの……?」

 

 

 ユメの呟きに答えるように、塔に黄色い光が灯る。黄色い模様の様な線が灯った後、二つの大きい光が輝いた。

 

 

「ヒッ……」

 

 

 それが、ジロリとユメを見た気がして、小さな悲鳴が漏れた。

 

 塔のように見えたそれは、鎌首をもたげて、ユメをしっかりと見ていた。それこそ、蛇に睨まれた蛙のようにユメは固まってしまう。刃物を突き付けられたような冷たさが、ユメの身体を縛っていた。

 

 ユメの頭の中では、センの言った事がずっとリフレインしている。

 

 

 ──砂漠には大蛇がいるそうだ。

 

 

 塔だとユメが思っていたモノは、居ないと思っていた大蛇だった。それが、ユメをじっと見つめながら、砂原に潜り始めている。

 

 ユメの方に突っ込んでくる。

 

 

「逃げなきゃ! 車は……!」

 

 

 大蛇が砂に潜って視線が外れて、ようやくユメは動き出せた。乗ってきた車を探すが、見あたらない。大蛇に追い立てられて、ユメは闇雲に走り出す。

 

 

「どこなの!? 何でないの!?」

 

 

 いくら何でもおかしかった。こんなに走っているのに。どこにも見当たらない。まるで魔法のように消えてしまった。それを感じたユメの心はどん底に落ちている。

 

 そんなユメをあざ笑うかのように、大蛇が顔半分を出しながら砂をかき分けて、どんどん近づいてきていた。

 

 ユメと比べたら笑ってしまいそうなほどの速度差だった。大蛇が砂をかき分ける振動を足裏で感じて涙が出てくる。それでも、足を止めるわけにはいかなかった。

 

 そして、いきなりユメの周りが暗くなる。見なくても分かっていた。上に大蛇が居るから、影がユメを飲み込んでいることくらい。

 

 きっと大口を開けて、一気に飛び込んで来ているのが嫌でも予想できた。

 

 最期に思うのは、センの事だ。きっとユメがこんなことになっているなんて、知りもしないだろう。そのことを思うと、何だか泣けてきて、言葉が漏れた。

 

 

「ごめんね。セン君……」

 

「それはまだ早い」

 

 

 そんな声が聞こえたと思ったら、視界がグルグル回って、気がついたら車の座席に座っていた。そして、隣にはもう会えないと思っていた誰かが、座ってハンドルを握っていた。

 

 

「セン君……?」

 

 

 □

 

 

「話は後!」

 

 

 隣で信じられないような声を出して、センを見つめるユメに、素気無くセンは言う。今はそれどころではないのだ。後ろで怒り狂った視線を感じる。

 

 ここまでやって来れた理由は簡単だ。店主から話を聞いた後、アビドス本館に向かったのに、ユメの姿が影も形もなかったからだ。

 

 行き先は簡単に分かった。生徒会室はどこかに出かけた様子で散らかっていたし、ガレージには車が無かった。つまりは、車を使って遠出したということで。行き先などアビドス砂漠しかなかった。

 

 仕方なく、ガレージにあった、状態が一番マシだったバイクを応急手当てしてここまでやって来たのだった。

 

 

「え? え? え?」

 

「ぼんやりしてると舌噛むぞ!」

 

 

 隣でユメが困惑の声を上げる中、センはハンドルを必死の形相で捌いていた。後ろでは、ユメを飲み込むのに失敗した大蛇が怒りの咆哮を発していた。そして、さっきよりも速いスピードでこっちに向かってきている。

 

 

「追いつかれちゃうよ!」

 

「大丈夫! 仕掛け位してある! あと十秒だ!」

 

 

 状況が分からないままの状態のユメの叫びに、安心感のある声でセンが答える。きっかり十秒後、大蛇の真下で爆音が響いた。

 

 あれは、ここにやって来るのに使用した急ごしらえのバイクだ。ありったけの爆薬を仕掛けて遠隔で起爆したのだ。

 

 

「よし! このまま引き離すぞ!」

 

 

 大蛇の速度が落ちた隙に、センが車のスピードを上げるが、大蛇はまだ諦めない。しかし、距離は少し離すことが出来たようだった。

 

 

「いいか! このままあっちへ抜けるぞ!」

 

 

 センの指さす方は後ろ。廃墟が広がっている。あそこは、誰も住んでいない廃墟のビル群だ。砂原とは違って、土台がしっかりしている。さぞ大蛇にとっては進みにくいだろう。あそこに突入して振り払う算段だ。

 

 

「でも! あっちは大蛇が居るよ!」

 

「そっちで良──チッ!」

 

 

 後ろの方。大蛇の方から、何かが収束するような不吉な音が聞こえた。タイミングを見計らって、ハンドルを左右へ切る。空気中の砂塵を焼きながら、光線が砂原へ直撃していく。

 

 砂や埃が焼ける嫌な匂いを嗅いだのか、ユメが情けない悲鳴を上げた。

 

 

「大丈夫だ。嫌と言うほど見たから、タイミングは完璧だ」

 

 

 それを聞いて安心したのか、声が小さくなるユメにセンは安心する。言った事は本当だ。何回も、あの大蛇が光線を吐くのを見た。最速のタイミングを覚えたから、幾らでも応用は可能だった。それに、向こうの狙いも甘い。横転を誘発させるための牽制だろう。

 

 ここに来た時、辺りは火の海だった。遠くの方で、大蛇が運び屋だろう車の集団に熱線を乱射していた。恐らく、縄張りの近くを通ったために大蛇を刺激したのだろう。それで、ここまで追い込まれてきたのだ。

 

 その時はユメは穴の中の様で、大蛇の攻撃の余波がそこまで届きかけていたから。仕方なしに車だけ避難させて、ユメが出てくるのをひたすらに待っていた。

 

 そして、今に至る。後はここから逃げ切るだけだ。アクセルをべた踏みしているが、段々と距離が縮まってきている。砂漠では向こうに分があるらしい。

 

 そして、廃墟に向かうには大蛇を一旦躱さなければならない。大蛇の図体で引き起こされた砂の波が、大蛇の方向への進行を妨害していた。

 

 

「セン君! 追いつかれるよ!」

 

「良いんだ。まだ……まだ……今!」

 

 

 こちらを射程に収めた大蛇がまた飛び上がった。また上から飲み込もうというのだろう。

 

 

 ──ずっと、それを待っていたのだが。

 

 

 飛び上がった瞬間に、ハンドルを切ってドリフトしながら方向転換。そのまま大蛇のいた方向へアクセルを思い切り踏み込んだ。

 

 

「よし、よし! あとはこのまま!」

 

 

 上手い事大蛇を引き付けたまま、方向転換ができた。きっとそうしてくると思っていた。

 

 あの運び屋に乱射していた熱線を撃たない事からしておかしいのだ。何度も飲み込もうとしてくる姿勢には違和感しかない。けれど、運び屋の一つの車両だけは同じような動作をしていた。

 

 荷台をこじ開けて、頭を突っ込んでいた。中身は簡単に想像できる。あの宝石だろう。

 

 やはり、大蛇はあの宝石が目当てなのだろう。熱線で焼いてしまえば食事が無くなってしまうから。だから、さっきから飛び上がって飲み込もうとしたり、小手先の熱線しか撃ってこない。

 

 それであるならば、勝機はある。ユメが持っているだろう宝石を捨てさせる手段もあるが、それは最終手段にしたい。どうにも、かなり怒らせた感じがする。攻撃に熱線だけでなくミサイルも追加された。

 

 

「ひぃん! ひぃん! 避けて!」

 

「今やってる!」

 

 

 ユメがパニックを起こしていた。車ギリギリを熱線が掠めるし、ミサイルの爆風で車が嫌な軋みを上げるのだ。遊園地のジェットコースターのようなお遊びではないスリルが、ユメを襲っている。

 

 気持ちは分かるが、どうしようもない。文句を言いたいくらいだが、その暇すらない。タイミングを掴んだとはいっても、鼻歌交じりに躱せるわけでは無いのだ。それなりに集中力を必要とする。

 

 こちとら必死にやっている。早く、廃ビル群に入りたくて仕方がない。入ってさえしまえば、ミサイルや熱線の狙いはつけにくくなって、速度も落ちる。振り切って逃げられる。

 

 だから、ここが正念場なのだ。

 

 

「ああもう! 邪魔だな!」

 

 

 ユメの声ではない。運び屋たちの車の残骸だ。破壊された破片や残骸が、火を噴いてあたりに散らばっている。踏んでしまえばタイヤがどうなるか分からないし、いつ燃料に引火するかも分からない。これも躱さなければならなかった。

 

 そのせいでハンドル操作の難度が更に一段上がった。更に集中力を上げて、前方の情報をかき集めてルートの構築を続ける。終わりが見えているのに、全く終わる気がしないマラソンを続けている気分だ。

 

 だから、センは見てしまったのだ。それに目が吸い付いて離れなかった。

 

 

「あ……?」

 

 

 燃え盛る瓦礫の中。そこに倒れている人間。全身から血を流していて、目を閉じた顔がセンの方を向いていた。その顔には見覚えしかなかった。毎日鏡で見ている顔。大分幼さが残った、セン自身の顔がこっちを向いていたのだ。

 

 それを見てしまったセンの思考は、それ一色に染まってしまう。

 

 

 ──何だ? アレは。見間違いか? そんなはずはない。だってあれは自分の過去のはずだ。

 

 

 あの夢は、センの過去ではなかったのか。そうであるなら、幼い自分がここに居る筈が無い。だって、今。センはここに居るからだ。

 

 見間違いかもしれない。でも、そうでなかったのなら。もし、あれが本当に過去のセン自身であったのなら。

 

 今、ここに居るセンは、何なのだろう。まさか……

 

 自分の考えを否定したくて、脇を通り過ぎていくそれに、思わず振り向くセンの耳へ、何かの音が聞こえた。

 

 

「セン君! 前!」

 

 

 いつの間にか、ユメが必死の形相で叫んでいた。前を見れば、瓦礫が目の前に迫っている。左右にハンドルを切って躱そうにも、ミサイルが迫っている。減速してミサイルをやり過ごす手もあるが、それをやれば逃げきれない。そして、次の手を考える時間もない。

 

 

 ──詰みだ。

 

 

 センの目に、瓦礫とミサイルが近づいてくるのが分かる。走馬灯の前触れか、近づく速度がゆっくりになっていくのが分かる。

 

 そして、そのまま。全てが止まってしまった。世界は、どこか色が抜けたセピア色に染まって、何も動かない。車も、ミサイルも、大蛇も、隣のユメも。

 

 

「随分とお楽しみだったみたいですね」

 

 

 異常事態に混乱するセンの耳に、聞き覚えのない声が響いた。いつの間にか、車の正面に見覚えのない少女が立って、こちらを見つめている。

 

 

「ですが。そろそろ、夢から覚める時間ですよ」

 

 

 アビドスの制服を着た、桃色の髪のショートヘア。そんな少女がセンへと話し掛ける。

 

 その表情は無表情ではあるが、どこか感情が渦巻いているようにセンには見えた。そして、センはその原因を知っているような気がするのだ。

 

 けれど、それを思い出してはいけない事が。薄々、センには分かっていた。思い出せば、きっと全てが終わってしまう。そして、この少女がそれを許さないだろうことも。

 

 そんな確信にも近い予感が、センの中に渦巻いていたが、センは少女の行動を見守る事しかできなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。