ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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222話 二つの選択肢

 目の前の少女が、口を開こうとするのを見て、センの背中に冷や汗が流れた。

 

 

「その反応では、私の予想通りみたいですね」

 

 

 テクテク近寄って来た少女は、運転席にほど近い車のボンネットに腰掛ける。それで、ガラス越しにこんな事を言うのだ。

 

 

「もう一度言います。夢は楽しかったですか?」

 

「……夢ってなんだよ」

 

「今、貴方が見ているものですよ。本当は分かっている癖に」

 

 

 ガラス越しなのに、声は嫌にハッキリ聞こえた。ぞわぞわと嫌な予感がまた背中を走る。

 

 

「梔子センでしたっけ? そんなに気に入ったんですか? 本当の名前を忘れるくらいに」

 

「うるさい!」

 

「怒鳴っても、現実は変わりませんよ。そんな事、貴方が一番知っているし、痛いくらいに分かっているでしょう?」

 

 

 ねちねちと、重箱の隅を突くようなやり方で、けれども核心は触らずに。そんな嫌らしいやり方だった。

 

 だから、センは少女をもう一度怒鳴りつけた。

 

 

「なんなんだお前! 何を企んでる!?」

 

「随分と感情的ですね。前に会った時とは大違いじゃないですか。○○○○」

 

「止めろ! 聞きたくない!」

 

 

 呆れた様子の少女から飛び出した言葉を、センは拒絶する。そんなセンを見た少女は大きなため息をついた。

 

 

「それが、貴方の選択なら構いませんが。それでは困るんですよ」

 

 

 困るも何も、それは目の前の少女の都合だった。抗議の意味を込めて、センは少女を睨みつける。しかし彼女はどこ吹く風だった。

 

 

「貴方は私に答えなければならない。どちらを選ぶのかをハッキリと決断しなければ。それなのに……」

 

 

 少女はセンの視線を流した後、今度は逆にセンを睨みつけてきた。

 

 

「それなのに、貴方は何ですか。一つの選択肢しか見ない。一つを選べなくて、悩み苦しむなら理解もしましょう。しかし、貴方はそれ以前の問題です」

 

 

 失望したと言う口ぶりのくせに、感じるのは高温に熱された鉄のような怒りだった。表面上は変わらないように見えるのに、中では何かが渦巻いている。もしかしたら、最初からそうだったのかもしれない。

 

 

「それなら、私は私のやるべきことをするだけです。貴方には絶対に選択してもらいます。強引にでも、私に応えてもら……いえ」

 

 

 何かを思い付いたかのように、少女の動きがぴたっと止まった。

 

 センから、視線を外して。何も無い虚空を睨んでいる。

 

 

「好き勝手に言ってくれてますね。何が異常性癖ですか。そのくせ、核心はハッキリ言わない……は!?」

 

 

 無機質な声に色がついた。驚きと多少の苛立ちが混じったような。

 

 

「へぇ……言うじゃないですか。好き勝手に……仕方ありません。負けるのも癪ですから、同じ方法を取らせて貰います」

 

 

 再びセンに向き直った少女は無表情が完全に崩れていた。不満だという感情が滲み出ている。

 

 

「貴方に今、決めて貰おうと思いましたが、止めました」

 

「……」

 

 

 どんな心境の変化だろう。さっきまでとやろうとしている事と正反対だった。センの無言の抗議に、少女は不満気な様子を崩さない。

 

 

「何処かの誰かがやった事を真似しただけです。……やったじゃなくて、やる筈の事ですが」

 

「未来でも見えるような言い方だな」

 

「見えますよ」

 

 

 さも当然のような気軽さで言うものだから、センは二の句が継げない。

 

 少女は不思議そうに言う。

 

 

「貴方だって使ったでしょうに。それにこの状況からしてそうでしょう?」

 

 

 少女は自分の片目を指差してから、動かない車とビナーを指差した。

 

 

「まぁ、時間停止じゃなくて。貴方の思考を加速させてるんです。そっちの方が処理が楽なので」

 

 

 道理で、身体が動かない筈なのに話せる訳だ。納得したセンの視界の外へと少女が移動する気配がした。

 

 

「だから、貴方の中に居る私だけは動ける訳です」

 

 

 そんな声が、センの耳元で聞こえた。ゾッとしたセンは、動かない身体をどうにかしようとするがどうしようもなくて、致命的な言葉がセンの耳へと届いた。

 

 

「そうでしょう? ()()()()?」

 

 

 瞬間、溢れ出したのはセンにとっては存在しない記憶だった。でも、カヤツリにとっては違う。存在した記憶だ。今まで経験したそれが、脳内へと溢れ出して、カヤツリは呻き声を上げた。

 

 

「元通りですね。これで漸く……」

 

「ふざけるなよ」

 

 

 怒りで熱くなった声が、カヤツリの口から飛び出した。

 

 

「ふざける? 私は至って真面目ですよ。貴方とは違ってね。八つ当たりはやめて下さい」

 

 

 それをぶつけられた短髪ホシノは、全く気にした様子もない。それどころか、淡々とカヤツリを詰った。

 

 

「貴方は思い出す事を拒絶した。本来なら、最初の夢の時点で思い出すのに。心の奥底で貴方は見ないふりをした。あの生活を楽しんでいたかった」

 

 

 黙り込むカヤツリに、短髪ホシノは流れるように責め立てる。

 

 

「妻帯者が他の女性と関係を持とうとする事を、世間じゃ何と言うか知ってますか? 知らないようですから言いますが、浮気って言うんですよ」

 

「お前に、何が分かるんだよ! 外野からガタガタ抜かすんじゃない!」

 

 

 また怒りでカヤツリの頭が熱くなる。別に、浮気を指摘されて逆ギレしている訳ではない。そんな低俗な話ではないし、そんなつもりもない。

 

 だって、やっと会えたのに。もう会えないと思って、整理を付けたはずだったのに。偽物相手には揺るぎもしなかったのに。そんな物は本物の前では塵芥に過ぎなかった。

 

 失くしたと思っていた日々がそこにあって。それが当たり前のように続くのだ。それはカヤツリにとって劇薬だった。特に、ホシノの事を忘れさせられているあの状況では。

 

 そりゃあ、見ないふりをする。夢を見る理由が無い。夢は目の前にあって、ずっと続いているのだから。

 

 

「言い訳は結構です。だって、貴方は思っていたでしょう?」

 

 

 またカヤツリの正面に戻ってきた短髪ホシノは、動けないカヤツリを睨んだ。

 

 

「こんな出自じゃなければ良かったのに。そうだったなら、普通の出会いが出来たのに。普通の学生が出来て、大人の真似事なんてしなくてもよかったのに」

 

 

 告げられた短髪ホシノの言葉。普段なら笑い飛ばせただろう。出鱈目だと、誤魔化すことは出来ただろう。嫌味を飛ばして反撃することだって出来たかもしれない。けれど、この状況に置いてはそうもできなかった。

 

 

「何もなかったのに。自分には何もなかったのに。それなのに持っている人間に縋りつかれるのは嫌だ。縋りつかれて、責任だけ負わされて、このまま大人になるのは嫌だ。ずっとずっと、死ぬまでこんな思いをするのは嫌だ」

 

 

 カヤツリは動けない。頭が真っ白になっていた。

 

 

「もし、普通の学生だったなら。そうだったなら、こんな思いをしなくて済んだのに。こんなところでしょうか」

 

「何で……」

 

「知っているか。そうでしょう?」

 

 

 カヤツリの呟きを拾って、短髪ホシノが言葉を締めた。

 

 短髪ホシノが言った事は、カヤツリが思っていたことだ。誰に対してでもない。ただ漠然と思っていた不満。日々を生きていくうえで感じざるを得ない理不尽。

 

 そんなものは誰しもが感じている物で、故にずっと押し込んでいたモノ。誰にも言った事のないそれを、短髪ホシノが知っているのは心でも読まない限り不可能だった。

 

 さっきとは違った理由で言葉を詰まらせるカヤツリに、片眼を輝かせた短髪ホシノが事もなさげに言った。

 

 

「言ったじゃないですか。()()()()()って。私は全部見てたんですから、知っているのは当たり前です。だから、隠し事なんて意味ないです。貴方の事を詳らかにしてあげますよ。あの子もされるんですから」

 

 

 話の邪魔をされたのが、よほど気に障ったらしい。カヤツリが言われたくない言葉を容赦なく突き立ててくる。

 

 

「だから、あの生活を望んだんですよね? 誰しもに与えられたモラトリアム。程々に干渉出来て、責任を取らなくてもいい。そんな梔子センという立場を。偶然とはいえ、本当に都合の良い立場ですよ。ああ、一番は違いましたか。もう、介護をしなくてもいいですもんね」

 

「お前!」

 

「違わないでしょう? 嘘は良くないです。まるっきり、一片たりとも思わなかったなんて言わせませんよ」

 

 

 それを言われると弱かった。黙り込むカヤツリに短髪ホシノが捲し立てた。

 

 

「平気だって顔をしているくせに、全くそんなことは無くて。いつもいつも尻拭いをするのが嫌だったでしょう? そのくせ、誰も貴方を気遣ってはくれない。その上に失敗とその責任は全部自分へ降りかかってくる。だって責任は貴方以外、誰も取れませんもんね」

 

 

 それは仕方のない事なのだ。やれない事を強制するのは良くはないから。そんな一朝一夕にできる事でもないから、それまではカヤツリがやるしかない。それに文句を言うのは筋違いだ。

 

 そんな反論を読み取ったのか、短髪ホシノがため息をつく。

 

 

「惚れた弱みって奴ですか? それでもいいですけど。忘れたんですか? 貴方、そうやって先送りにしたせいで、こんなことになってるって」

 

 

 きっと、ここに来るまでの顛末の事だ。ホシノを庇った事や、それに至るまでの爆弾処理の事だ。それで合っていたのか、短髪ホシノが大きく頷いた。

 

 

「そうですよ。本当なら少しずつ解消すべきだったことです。貴方が言わなきゃ、あの子は分からない。そして、貴方は衝突するのが嫌で言わなかった。邪魔が入ったのは同情しますが、ここまで引き延ばしたのはアレでしょう?」

 

「そうだよ……自信が無かったんだ」

 

「ええ。そうでしょうね。彼女は貴方の手を借りなくても立ち直った。貴方じゃなくても、後輩たちでも、先生でもよかった。”じゃあ、これまでのは何だったんだ”という気分にもなりますよね」

 

 

 少しばかり、同情するような視線で短髪ホシノが頷いていた。

 

 実際そうなのだ。カヤツリが居ない時の事は、ノノミから聞いたことしか分からない。ただ、それでも分かったことがある。

 

 ホシノは、シロコやアヤネやセリカの説得で止まれたのだ。喜ばしい事でもあるが、カヤツリは多少不満だった。

 

 

 ──俺じゃなくてもいいんだ。

 

 

 何と言うか、下らない嫉妬だ。ほぼ介護染みた世話を、苦痛に思いながらもできていた理由でもある。何と言うか、下らない欲だった。それが取り上げられたものだから、不満が噴出した。

 

 そもそも、最初はそれではない。前々から続いていた物が止めになっただけだ。

 

 

「そうですよね。貴方に出来る事はそれだけだった。彼女の手助けをすること。それしか貴方は思いつかなかった。そして、あの子もそれ以上を言わないし、何もしなかった。けれど、梔子ユメは違いましたね。自分で考えて行動した。与えられるだけでなく、与えようともした」

 

 

 ユメ先輩は違った。あの人は人並みだったが故に、頼る事が出来た。そして、与える事も知っていた。きっと、後輩達も皆そうなのだ。カヤツリはそうしなかった。する必要もなかった。自力で何とかして来たからだ。

 

 だから、カヤツリは何にも知らないのだ。その暖かいモノを与えられなかったから、与えて来なかったから。利益を与える以外に、どうすればいいのか分からない。

 

 

「どうしろって言うんだ? 俺は何にも知らないんだ。どうやったらホシノが喜ぶかなんて、分かりゃしないんだよ」

 

 

 吐き捨てるようにカヤツリは呟いた。結局、カヤツリはホシノの事なんて分からないのだ。権力者や大人が考えている事が分かっても、好きな女の子が喜ぶこと一つも分からない。

 

 分かるのはホシノが困っている事だけだ。借金とか、アビドスの事とか。そんな堅苦しい事、即物的な事しか分からない。だから、良く機嫌を悪くさせるし、あの電話の時みたいになる。

 

 ホシノが求めているのは、カヤツリが良しとする事ではないような気がしていた。

 

 もっとこう、穏やかな。当たり前のことで、日常の中にある暖かいもの。カヤツリが思いつきもしない。経験などしてこなかったモノを求めているような気もする。

 

 だから、ホシノが求める事に唯々諾々と従っていても意味がない。

 

 でも、調べてもわかりゃしないのだ。インターネットの検索エンジンに、”ホシノの喜ぶ事”なんて打ち込んでも出てくるわけがない。

 

 仕方がないから、カヤツリ基準に考えるしかなかった。ただ弁当やらなんやらで弾切れになってしまったが。恥を忍んでマトやヒナに聞いても、答えとも言えないモノが返って来るだけだ。

 

 

 ──それは、カヤツリが自分で見つける事に意味があると思う。

 

 ──ホシノに聞いちゃあ、意味ないからね。頑張りな。

 

 

 どうしようもない。カヤツリには分からない。でも、後輩たちには分かるのだ。

 

 だから、ホシノを言葉で止められたのだろう。カヤツリは喧嘩しなければならなかったのに。

 

 後輩たちとカヤツリの違いは何か。環境と性別だ。でも、どちらもどうしようもない。

 

 性別は逆立ちしたって無理だし、環境など積み重ねだ。一朝一夕で上手くいくわけがない。

 

 

「不安でしかない。ここに来て、ホシノの喜ぶことが分からないなんて……幸せになんかできないんじゃないか……だったら……」

 

「だから、心の何処かで貴方は夢想した。もし、普通の学生だったならと。そうすれば、こんなことで悩まなかったし、梔子ユメも死ななかった」

 

 

 飛躍した発想だが、もしもの想像だ。もし、カヤツリが普通の生徒だったなら、ユメは死ななかった。きっと、アビドスに居ただろうから。

 

 今みたいな特殊な技能は無かったかもしれない。でも、今よりも悪い保証はない。だから溺れた。

 

 そして、カヤツリは自嘲して呟く。

 

 

「結局、料理くらいか。役に立ったの」

 

「……他にもあったでしょうに。他の女性で培ったスキルで、これまた他の女性を落とすのはどうかと思いますが」

 

「嫌味はやめろ。そんなわけないだろ」

 

「……まぁ良いでしょう。これで、本題に入れます」

 

 

 聞き飽きた嫌味を躱すと短髪ホシノは微妙そうな顔をしていたが、仕切り直すことにしたらしい。少しだけ刺々しい雰囲気を緩めた。

 

 

「本題?」

 

「ええ、ここに来る前に言ったでしょう。これは試験だと」

 

 

 そんな事を言っていたような気もする。梔子センとしての記憶もあるせいで、はるか昔の事のように感じていた。

 

 

「貴方がどうしてこんなことになったのか。問題を自覚しなければいけませんから。これでようやくスタートラインといったところですね」

 

「それで? 何をさせたいんだ?」

 

 

 散々嫌なところを擦られたせいで、気分は良いとは言えない。少し投げやりな感じのカヤツリに、短髪ホシノが告げた。

 

 

「まずは、あそこにいるアポピス……いや、ビナーに対処して下さい」

 

「無理だ。あのレールガンは無いんだから」

 

 

 後ろにいるだろうビナーを思う。色合いが全く違うが、カヤツリの記憶通りのビナーなら、装甲を抜く火力が必要だった。

 

 しかし、カヤツリは手ぶらだ。何とかしろと言われても、過去の自分のように特攻するくらいしかできないだろう。

 

 そこまで考えて、カヤツリは一つの疑問に行き当った。これまで何回かビナーと戦ったが、毎回頭を悩ませることになったのは、装甲の硬さだった。レールガンでようやく抜けるほどの装甲なのに、過去のカヤツリはどうやって撃退した? トラックに一杯程度の爆薬では、痛打にもなりはしないのに。

 

 でも、カヤツリがここにいると言う事は、何とかなったのだ。レールガンに代わるモノが、ここにあると言う事になる。それは、一つしか思い浮かばなかった。

 

 

「ええ、ご想像の通りです。梔子ユメが持っている宝石。貴方の神名文字を使えばいい。近くに船もありますし、貴方の中の彼女が居ない今。私が代わりにいる今はフルパワーが出せますよ」

 

「それで? それだけじゃないんだろ。前座なのか?」

 

「はい。調子が戻って来たようですね」

 

 

 短髪ホシノが満足そうに頷いていた。まずはと、そう言ったあたり。ビナーは前座に過ぎないのだ。その予想は当たっていたようで、短髪ホシノの機嫌は良さそうに見える。

 

 

「あの宝石には問題点があります。フルパワーを出せるのは良いのですが、その場合はこの時間から弾き出されてしまいます。ここのテクスチャが壊れますから」

 

 

 嫌な予感がした。そんなカヤツリを置き去りにして、短髪ホシノの話は続く。

 

 

「貴方が、ここに居たいなら。梔子センのままで居たいなら。余り逸脱はしない事です」

 

「待て。お前は、それに文句があったんじゃなかったのか!?」

 

 

 さっき迄の話は何だったのか。これでは、さっきの嫌味が意味をなしていない。カヤツリが、梔子センであることにぐちぐち文句を言っていたはずだ。

 

 

「ああ、違いますよ。私は、それに文句を言ったわけではありません」

 

 

 短髪ホシノは狼狽えもしないで、カヤツリの言葉を否定した。

 

 

「貴方が、決断する土台にも立とうとしなかったから。だからそれを自覚してもらうために、ああ言ったんですよ」

 

 

 そこまで言われて、ようやくカヤツリは短髪ホシノが怒っていた理由を察した。

 

 さっきまでのカヤツリは、選ぶどころの話では無かったからだ。幾つかの中から、選んで欲しいのに。選ぶ以前にそれ以外を見ようともしない。それは、問題を放棄するようなものだ。

 

 

「貴方には二つの選択肢があります。一つは、ビナーに対処して過去の辻褄を合わせた後。ここから元の世界へ帰るというモノです」

 

 

 それは、カヤツリが想定していた選択肢だった。短髪ホシノは、分かり切っている事を話す。

 

 

「メリットとしては後腐れがないと言う点です。私の仕事も少なくて済む。デメリットとしては、貴方の状況は何も変わらない事ですね。帰ったところで、貴方の未来への不安は何一つ変わらない。それどころか、今回の砂漠横断鉄道の後始末が待っているでしょうし、小鳥遊ホシノへの対応も考えないといけません」

 

 

 そして、短髪ホシノはまた口を開こうとする。その内容。もう一つの選択肢については、何となく予想がついていた。

 

 

「もう一つは、梔子センとしてこのまま生きていく。そういった選択肢です」

 

 

 カヤツリが思いつく限りでも、その選択肢には問題点が沢山あった。けれど、短髪ホシノは気にした様子もない。

 

 

「メリットとしては、やり直せると言う事ですね。貴方の後悔を払拭できる。梔子ユメも死なないでしょうし。貴方のスキルなら、もっとうまく立ち回れる。デメリットとしては、今まで貴方が築いたものは無かったことになります」

 

「……どの範囲で?」

 

「ああ、全部ですよ。あの出会いも、今回の騒動も。全てが無かったことになります。貴方が此処に残る場合、貴方がやって来た世界は無かったことになる。存在はしますが、貴方が居ない前提で世界が組み変わる。だから咎められることはありませんよ。貴方の記憶も修正されますし、誰にも知覚なんてできませんから」

 

 

 そんな情報を叩きこまれたカヤツリは、上手く頭が動かなかった。フラフラと自分の中で天秤が揺れていて、無意識に口から言葉が零れる。

 

 

「じゃあ、決断しろって言うのは……」

 

「そうですよ?」

 

 

 短髪ホシノは、いたって普通に口を開いた。

 

 

「小鳥遊カヤツリへ戻るか。それとも、梔子センとして生きていくのか。小鳥遊ホシノと梔子ユメ。二人の内、貴方が一緒に生きていきたい方を、どちらかを選んでください。それが、私が貴方へ課す試験です」

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