ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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225話 あの日の答え

 カヤツリは、アビドス本館に何事もなく到着した。

 

 途中で、車が壊れやしないかとヒヤヒヤしたが、車は自身の務めをしっかりと果たしてくれた。

 

 なら、カヤツリも同じように務めを果たさなければならない。

 

 そんな心持ちで、ガレージに車をしまい込んで、隣のユメを見る。運転中にずっと譫言を呟いていて、ずっと心配だったからだ。

 

 ここで何かあったら片手落ちにも程がある。

 

 湧いた不安と共に、ユメの様子を観察する。譫言は無くなって、静かな寝息だけが聞こえる。

 

 

 ──安心したカヤツリは、ユメを背負って生徒会室を目指す。

 

 

 本来なら自宅がいいのだろうが、残り時間から考えて間に合いそうにない。車の片付けを考えれば、本館に向かうのがベストの選択だった。

 

 

「よかったんですか?」

 

「よかったから、こうしたんだが?」

 

 

 後ろから掛けられた声に、カヤツリは淡々と答えた。

 

 振り向けば、階段の踊り場に短髪ホシノが立っている。

 

 もう早朝だ。上った朝日が踊り場と、そこに立つ短髪ホシノを照らしていた。

 

 

「何だ? 不合格か?」

 

「それは、まだ教えません」

 

 

 いい加減にしつこい。そんな悪態がカヤツリの中で響くが、短髪ホシノは気にした様子もない。

 

 

「納得し切れていなさそうなので」

 

「行動が全てだろう?」

 

「いいえ。私が知りたいのは、その選択に至った理由もです」

 

 

 そう言う短髪ホシノの表情は逆光で見えない。

 

 

「今更になって、後悔していますか?」

 

「……逆に、何でしてないなんて思うんだ? 随分と幸せな脳味噌してるんだな?」

 

 

 当たり前の事を聞かれて、内心だけでなく、カヤツリの口からも悪態が飛び出した。

 

 

 この短髪ホシノは、決断にはイチかゼロしかないと思っているらしい。神経細胞でも機械回路でもないのだから、そんな事はあり得ないのに。そんな風に割り切れるなら、さぞ生きやすいだろう。

 

 

「今になって心変わりですか? 今更もう遅いです。ここに来るまでに分かっている筈です」

 

「本当にデリカシーないな」

 

 

 短髪ホシノが言いたいことは、もう分かっている。後悔しても、もう遅い事くらいは。

 

 途中で、屋台の店主とすれ違った。朝の仕込みか、買い出しかは分からない。けれど、店主は車に乗ったカヤツリを見て、何の反応も示さなかった。

 

 そんな事はあり得ない。ユメとカヤツリの問題の話をしたのは昨日の今日だ。

 

 内容は聞いてこないにしても、一言くらいは掛けるか、それらしい反応をするものだ。少なくとも、カヤツリから見たあの店主はそうする。

 

 でも、しなかった。それどころか、知らない他人のような反応。それが意味することは簡単だ。

 

 

 ──もう退去が始まっている。

 

 

 この世界から、カヤツリの痕跡が消え始めている。だから、もう遅いのだ。

 

 もう分かりきった事を、再度突きつけてくるところ。そういうところがノンデリ、ノンデリカシーだ。自覚が全くないところが救えない。

 

 当の短髪ホシノは、カヤツリの後ろ側をチラチラ見ている。

 

 誰か居るのかと振り向くが、誰もいなくて。それが、カヤツリの苛立ちを加速させる。

 

 

「納得なんか出来てないに決まってるだろうが……!」

 

 

 カヤツリは小さく、声を絞り出した。短髪ホシノの反応など知らない。見たくもないし、必要もないから。背中を向けて廊下を歩く。

 

 

「じゃあ、あの決心は強がりだと?」

 

「強がりじゃなくて何だと思うんだよ? そんな簡単に割り切れたら、こうなってない」

 

 

 執念深く追いかけて来る声に、後ろを向いたまま、カヤツリは答えを投げつける。

 

 

「選べるなら、どっちも選びたかったさ……!」

 

「無理なのは分かってるでしょう?」

 

 

 その無慈悲な返しに、カヤツリは頭に血が上る。

 

 セト並みの理解力を求めたカヤツリが馬鹿だった。この短髪ホシノは、カヤツリがどんな気持ちでいるかなんか分かっちゃいない。その上、ユメを静かな気持ちで見送る事すら許してくれないらしい。

 

 サッサと生徒会に着きたかった。そうすれば、短髪ホシノと会話をしなくて済む。

 

 足早に進んで、生徒会室の扉の前に着いた時、短髪ホシノの声が聞こえた。

 

 

「……別に意地悪で聞いている訳じゃあないんです」

 

 

 少しバツの悪そうな響きの声に、カヤツリは小さく様子を伺った。

 

 

「……チッ。じゃあ、何だって言うんだ?」

 

 

 カヤツリは舌打ちして、打ち切る予定だった会話を短髪ホシノに投げ返した。

 

 あまりにも汚い手段だ。大体、ホシノと同じ顔なのが嫌らしい。ムカッ腹が収まらない。

 

 

「必要だからですよ。貴方に、あの子を預けるんですから」

 

 

 予想外の答えに、カヤツリは気が動転する。

 

 

「あの子は繊細です。だからこそ、先輩とおじさんという二つの仮面を、二重の壁を作った。貴方も知ってるでしょう?」

 

 

 知っているも何も、それが形成されるのをカヤツリは側でずっと見ていた。

 

 あれは、壁なのだ。ホシノが自分を守るために作り上げて。いつの間にかホシノそのものになった壁。

 

 近しい相手を作らなければ、傷つく事はない。効果的だが本末転倒。そんなホシノの防御壁。

 

 

「勿論、壁の内側に迎え入れた人間もいます。後輩たちや、先生、その他等々ね」

 

 

 それから、少し黙った後。短髪ホシノはカヤツリをじっと見つめた。

 

 

「しかし、貴方と彼女だけは別です。貴方達二人だけは、あの子の作った二重の壁の中に居る。そこは感謝しているんですよ。あの子は一人にならずに済んだんですから」

 

 

 無表情だった短髪ホシノが、薄く、本当に薄く微笑んだように見えた。

 

 

「だから、私は静観するつもりでした。あの子と貴方は同じ痛みを知っている。きっと貴方はあの子を守ってくれるだろう。大切にしてくれるだろう……とね」

 

 

 短髪ホシノが言い終えた途端に、微笑みは直ぐに消えた。再びの無表情の中に、正反対の違う感情が見えた。

 

 

「しかし、貴方は守り切れなかった。あまつさえ、あの子を傷つけた。貴方の事情は理解しています。決して、怠惰に過ごしたわけでは無いことも。直接的な原因は貴方でない事も」

 

 

 ねちねちと、小姑の如く。短髪ホシノは耳に痛い事を論う。”貴方の所為ではない”そう口では言うが、本心ではそう思っていないことは言い方で丸わかりだった。

 

 

「貴方は知らないでしょうが。外は今大騒ぎです。今回は仕方がありません。でも毎度毎度、こんなことを起こされては困るんですよ。だから、早く決めてもらう事にしたんです」

 

 

 カヤツリは内心で訂正した。小姑の如くと言ったが、小姑そのものだ。

 

 色々と理由を並べてはいるが、結局のところカヤツリが気に入らない。それだけの理由だ。それだけの理由で、カヤツリに対して呪いを残していった。一生物でもあり、楔でもある呪いを。

 

 抗議の視線を送るが、短髪ホシノは無視を決め込む。

 

 

「貴方の選択は分かりました。それは良いんです。難しい選択を強いたのも分かっています。謝れと言うなら謝罪もしましょう。ただ、中途半端な気持ちで、あの子に接するのは許さない」

 

 

 カヤツリは言い返さなかった。言い返したところで、短髪ホシノは聞く耳を持たない。それに、カヤツリ自身も負い目があった。

 

 

「だから、聞いているんです。貴方はあの子を選んだ。貴方は迷いながらも、そう決めた。それは嘘ではない。貴方は強がりだと言いますが、そうではない確固たる理由があるはずだ」

 

 

 短髪ホシノの青い瞳が輝いている。何でも見えると言っていたから、カヤツリの内心でも見たのだろう。未来すら見えるのだ。カヤツリの内心位見えないはずもない。

 

 そして、中途半端な答えや嘘も許さない。そんな事は嫌でも分かった。

 

 

「……その世界が好きだから。消してしまいたくなかった」

 

「……良いでしょう。もう邪魔しません」

 

 

 そう短く呟いて。短髪ホシノは姿を消した。

 

 まさかの、あの答えで納得したらしかった。どうせ言葉にしない部分をしっかり読んだのだろうが。合否の答えも言わないとは、とんだ無礼者だ。

 

 ため息をついて、カヤツリは生徒会室の扉を開けた。

 

 

 □

 

 

 アビドス本館の生徒会室。そこに眠るユメ先輩と、それを静かに見つめるカヤツリ。

 

 ホシノは複雑な心境で、その場面を見つめていた。

 

 ずっと、幽霊のような感じでこの記憶。カヤツリが経験したモノを体験している。この体験もそろそろ終わりに近づいていることが分かっていた。

 

 

「ねぇ、カヤツリ」

 

 

 ホシノの隣。そこにある気配に向かってホシノは声を投げる。

 

 

「何だよ。ホシノ」

 

 

 ホシノの予想の通りに、目の前の、過去のカヤツリとは違う所から声がした。

 

 視線を向ければ、仏頂面のカヤツリが記憶の中の自分自身を見ている。その理由は、なんとなくであるが察せられた。

 

 

「どうして、帰ってきてくれたの?」

 

「……黒服とセトの説明は聞いたんだろ?」

 

「うん」

 

 

 カヤツリの思っていることは分かった。だからホシノの心は、とても落ち着いている。絶好調と言ってもいいかもしれない。

 

 ホシノとカヤツリの思っていることは、やりたいと思っていることは同じだった。ユメ先輩のあの日々の事。梔子センとしての日々の事は業腹だが。

 

 それも、今の選択を見て解消されつつある。最終的にカヤツリはホシノを選んだからだ。

 

 ただ、分からないことがある。黒服も言っていて、最後に自分の姿をした誰かが、カヤツリに聞いたもの。

 

 

 ──記憶と言う知恵の実を食した彼は帰ってきました。

 

 ──そうではない確固たる理由があるはずだ。

 

 

 黒服と、自分の姿をした誰か。彼らが言ったその言葉。カヤツリがこの世界に帰ってきた理由。

 

 全く分からないわけでは無い。同じ痛みを経験した仲だ。多少は分かる。ホシノとて、カヤツリとユメ先輩を選べと言われたら、直ぐに答える事は難しい。カヤツリと同じ答えを出すのは分かり切っているが。

 

 ただ、絶対に迷ったはずだ。あの短髪ホシノが言ったように。振り切れない思いもあったはずだ。でも、短髪ホシノは納得した。アレに嘘は通じないはずで、適当な答えでもそうだ。

 

 彼女が納得した答えは、目の前でカヤツリが言ったが。心を読めないホシノでは、それだけでは不十分だと思うのだ。

 

 

「あの言葉の意味か?」

 

 

 ホシノは頷く。

 

 

 ──その世界が好きだから。消してしまいたくなかった。

 

 

 カヤツリのあの言葉。その本当の、言葉のだけでは無い意味が知りたかった。そうすれば、ホシノは納得できる。そして、カヤツリがホシノに伝えたかったことは、この言葉に込められている気がするのだ。

 

 

「まぁ、迷ったよ。今でも思う。きっと、これから何度も思うのかもしれない」

 

 

 その気持ちが、痛いほどにホシノには分かった。それは、ホシノが何度も実行したことだからだ。

 

 

「自分が犯した過ちをやり直せる。中々ない。もしかしたら、一生ないかもしれない機会だ。でも、思うだけだ。もうしようとは考えない」

 

 

 真剣な表情で、カヤツリは目の前の光景を眺めていた。

 

 

「それは、黒服に言われたから?」

 

 

 ホシノは居ない時の、テラノとのやり取りの中の台詞。未来を変えるのは良くないとか、何とか。それを聞いたカヤツリは、半分は正解だと言う。

 

 

「それだけじゃ無い。けど、似たようなもんかな。きっと、未来を変える事を選んだら、俺は完璧を求めるだろう。それには際限がないんだ。そんな事はあり得ないのに」

 

 

 それは、分かるような気もする。人は欲深いものだから。

 

 話すうちにカヤツリは、悲しそうな声になった。

 

 

「そして、何度もやり直す。その度に、俺はユメ……ユメ先輩を殺すんだよ。どれも、ユメ先輩であることには変わりないのに。俺が納得いかないからって、それだけの理由で。何度も、何度もね」

 

 

 それは、恐ろしい事で。それをカヤツリは自覚しているのか、身震いして続きを話す。

 

 

「俺は、自分がそうされるまで、そんなこと思いもしなかったんだよ」

 

 

 それは、梔子センの事だろう。カヤツリそのものだが。カヤツリにとっては違うのだ。

 

 

「……話を戻すけど。世界にもそれが言えるんだと思う。俺が認識している世界。俺の周りの人。ホシノやシロコ達やマトや先生。黒服とか大将も。それを全部ひっくるめて、俺の。俺だけの世界なんだよ」

 

「消してしまいたくない。ってそう言う事?」

 

 

 さっきの言葉に繋がって、ホシノは自分の中に答えがすとんと落ちてきた。

 

 

「そう。あの時の選択で、残る事を選ぶってことは。今のホシノが、皆がいる世界を消すってことだ。世界の中には俺も入っているし、それぞれが持っている世界で、ここは構成されているんだから」

 

 

 一瞬、カヤツリは無表情になった後、眉間に皺を寄せた。

 

 

「皆それぞれに世界はあるんだ。俺にとっての世界。ホシノにとっての世界。誰もが持ってるそれは、ぶつかり合って、どうしたって傷がつく。それが、経験であり、学びであり、個性であり。味なんだろうさ。偶然ついたそれが気に入らないから、研磨し直して最初からやり直そうたって、きっと際限がない。それにやり過ぎたら珠も無くなるんだ。だったら、俺はそのままでいい。そのまま好きなようにやるよ」

 

 

 難しい話で、難しい言い回しだった。でも、カヤツリが言いたいことはよく分かった。何だか嬉しくなって、ホシノは微笑んだ。

 

 

「あー……ホシノ」

 

「何?」

 

 

 満足で満たされたホシノは、カヤツリに呼ばれて振りむいた。いつの間にか過去の二人は消え去っていて、辺りはなにも無くなっていた。

 

 そして、二人を見ていたはずのカヤツリはいつの間にか、ホシノを見ていた。

 

 

「まだ、これを見せた理由を話してないだろ」

 

「黒服とセトちゃんから聞いたけど……?」

 

「それだけじゃないんだ。本当は見せるのもどうかと思ったんだけど……」

 

 

 何と言うか、カヤツリは歯切れが悪い。もにょもにょと口の中で何か言った後、意を決した表情で問い掛けてくる。

 

 

「あの時の質問、覚えてるか? ぐちゃぐちゃになってくれるってやつ……」

 

「覚えてるけど……?」

 

 

 ホシノは少しだけ顔を背けた。あれは、それなりに勇気が必要だった。今更、それを持ち出して、何を言う心算なのか。少しばかり、心が不安に震えた。

 

 

「俺は良いって答えた。一緒にぐちゃぐちゃになるって。でも、少しだけ考え直したんだよ」

 

「え……!?」

 

 

 ホシノの身体が冷たくなった。そんな事はないと思いつつも。血の気が引いていくのが嫌でも分かった。

 

 

「ホシノの想像とは違うからな」

 

 

 カヤツリの呆れたひと言。それが耳に入ったホシノは血の気が戻る。嫌な想像を頭から追い出して、カヤツリの話に耳を傾ける。

 

 

「……あれはさ。ホシノが俺に迷惑を掛けていいか。そんなニュアンスだっただろ?」

 

「そうだけど……だって、私は迷惑かけてばっかりだったし……情けなくなってきたよ……」

 

 

 自分で言って情けなくなってきた。ホシノは他人を巻き込むのが嫌いだ。だから、アレはホシノなりに考えた言葉だった。今になって思ってみると、なんだか情けない。

 

 

「別にいいんだ。考えを改めたのは、その部分なんだよ」

 

「どういうこと?」

 

 

 ホシノは訳が分からなくなる。考えを改めたなど、ホシノが情けなくないとでも言うつもりなのだろうか。それは、過大評価、贔屓目というモノだ。そんな事をされても、ホシノは嬉しくないし、カヤツリも知っているはずだ。

 

 

「ホシノじゃなくて、俺も情けないんだよ。砂漠横断鉄道だけじゃなくて、他の事もそうだし、俺が自覚していたよりもな。あの時言っただろう。俺はホシノが思うほど強くないって。そのことが、この体験でよく分かったんじゃないか?」

 

 

 思い返してみればそうだ。ホシノが思ったより、カヤツリは悩んで、苦しんで、間違えていたように思う。セトとの言葉と拳での殴り合いの最中に思った事とあまり違わない。

 

 

「だから、そんなに気にしなくていいんだ。ずっと気を張っていなくていいし、釣り合わないんじゃないかとか、いちいち気にしなくてもいい。寧ろ、これからは俺が迷惑を掛けるかもしれないんだ」

 

 

 ふと、その時の事を思い出す。あれは、そういう意味だったのだ。言葉通りの意味ではあったが、ホシノが思ったよりも言葉通りの意味だった。

 

 この体験の直後だったから、カヤツリはホシノにああ言ったのだ。

 

 

「これからって……?」

 

「そりゃあ、これから先だよ。未来の事。これからのアビドスや、会社の事だったりする」

 

 

 ホシノの質問に答えたカヤツリは、物憂げな表情を隠さない。その表情のまま、ホシノにゆっくり語りかける。

 

 

「正直言って、これまでとは全く違う。全部初めての事ばかりだ。不安でいっぱいだよ。それに……」

 

「それに?」

 

 

「幸せにできるか分からない。傷つけるかもしれない。そんな不安で一杯だったんだよ。情けないってのは、そう言うのも入っている」

 

「それは違うと思うよ」

 

 

 ホシノは、カヤツリの言葉を一蹴した。

 

 

「何でもかんでも大丈夫って……それは無責任だよ。それを情けないなんて。私はそうは思わないよ」

 

 

 それは、物事に真剣に向き合っていない。向き合っているからこそ、恐怖や不安を覚えるのだ。それをホシノは経験して知っている。それを情けないとは絶対に言わないのだ。

 

 

「じゃあ、ホシノもそうだな。その理屈で言えば、ホシノも情けなくはないんじゃないか?」

 

「そうだね」

 

 

 素直に頷いたホシノを見て、カヤツリは薄く笑った。

 

 

「まぁ、俺の言いたいことは、あと一つだけ。猿真似みたいで悪いけどな。確認みたいなもんだよ」

 

「確認?」

 

「そう。最終確認。本当に今更だけど」

 

 

 笑いを消したカヤツリは、真剣な眼差しでホシノをじっと見て口を開く。

 

 

「さっきも、前にも言ったし、ホシノももう分かってると思うけど。俺はそんなに強くはない。今までのようにはできないし、そんな能力はない」

 

 

 少しばかり悔しそうに、カヤツリは言う。

 

 

「ホシノには苦労を掛けるだろう。こないだの砂漠横断鉄道みたく、すれ違う事もあるかもしれない。そうはならないようにはするけれども、絶対じゃない。絶対無いとは言えない」

 

 

 それでもと、カヤツリは言う。

 

 

「それでも、俺と一緒にぐちゃぐちゃになってくれますか?」

 

 

 その言葉を聞いて、ようやくホシノは、カヤツリがこの舞台を整えた理由が分かった気がした。きっと、この言葉を、この確認をするためだけに、全部巻き込んだ。

 

 この最初の問い掛けは、ホシノからの物だった。でもカヤツリも同じだったのだろう。カヤツリ自身も、自信が無くて不安だった。そして、ホシノに対しても思う所があった。

 

 でも、抱え込むのは止めにしたのだ。だから、この騒動があった。ホシノが怒鳴り込んで始まったのだとしても、カヤツリはそうしたいと思ったのだろう。

 

 真剣に考えて、これから先の事を不安に思った。ホシノ自身に迷惑を掛けるとも。それでもと、それでも、一緒に居てくれますかと。カヤツリはホシノに聞いている。

 

 ホシノが、そう考えているうちに。そういえばと、思い出したことがあった。

 

 

 ──話せないことも多い。言ってないこともある。急に裏切るかも知れない。こんな奴でいいのか?

 

 

 ずっとずっと前。似たような質問をされたことを思い出す。

 

 あの時とは状況も、ホシノとカヤツリの関係も、質問の意図だって、何もかもが違う。

 

 けれども、ホシノの答えは一緒だった。ホシノはカヤツリが良いのだ。

 

 

「うん。一緒にぐちゃぐちゃになるよ。私はカヤツリが良いんだから」

 

 

 そんな思いで、ホシノは口を開いて。それを聞いたカヤツリは笑う。そして、ホシノも同じように笑った。

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