ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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同居人たちの見聞録 ゲヘナ・ミレニアム編
229話 嵐の前に


「いきなり呼びつけて悪いね。今夜も予定があったんでしょう?」

 

「いや、いいよ。それで話って?」

 

 

 カヤツリの心の中。セトの住居。そこで、カヤツリは睡眠中に呼び出されていた。大事な話があるらしい。

 

 これで、あの鑑賞会が終わってから二回目になる。あれから、そこそこの期間が経っていた。アビドスでは、何事も無い平和な日々が続いている。

 

 

「小鳥遊ホシノに怒られなかった? ”私を優先して”みたいな事は言われなかった?」

 

「全く? 最近はやたらと機嫌が良いな。ずっとうへうへ言ってるし、料理とか、色々手を出してる」

 

「ふーん……小鳥遊ホシノも、少しは成長したってことかな。ちょっとだけ安心したよ」

 

 

 ソファに座ったセトは機嫌が良さそうだった。ホシノの事なのに珍しい。

 

 

「それで、聞いてきてくれた?」

 

「ああ、ホシノとテラノで良かったんだよな?」

 

 

 同じく対面に座ったカヤツリの問いに、セトは頷く。テラツリではいけなくて、テラノでないと分からない事らしい。

 

 

「それで? あの子たちはなんて?」

 

「テラノは無理だって。全部把握してるのはおかしい。そう言ってた。ホシノは、ええと……ほら」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

 

 頼まれた質問の答えを聞いたセトは、悩んでいる様子だった。

 

 大事な話と言う割には話が見えない。それでも、何が関係しているのかは予想が付いていた。

 

 

「……こないだの事か? 俺はそんなマズイ事を言ったか?」

 

「いや? マズくはないよ? 私にとっては、むしろ気付きを与えてくれて、ありがとうって感じだね」

 

 

 でも、カヤツリの心配は関係ないかのような答えが返って来て、カヤツリは思わず言い返す。

 

 

「気付き?」

 

「そう、気付き。アイツ、何か隠し事してる」

 

 

 何時ものように微笑んで、セトは言う。

 

 

「ほら、私が言ったでしょう? ホルスの目的」

 

 

 短髪ホシノ──セトが言うホルスの目的は知っている。

 

 鑑賞会の後、夢の中で今回の裏話は共有している。セトとホルスの問答は。

 

 ホルスの言動は、正直信じられなかった。セトが言うには、カヤツリにホシノを選んで貰う事らしい。他の誰かが、何処の誰かは教えてはくれなかったが。

 

 セトの曖昧な説明では、余りにも俗というか、意味が分からない。

 

 ただ、セトはずっと考え込んでいるのは分かっていた。それは、カヤツリが何がやらかしたの所為かもしれなくて、恐る恐るの質問が飛び出した。

 

 

「……俺はそんな浮ついた奴に見えるのか?」

 

「まさか。アイツが勝手に言ってるだけだよ。本当にカヤツリに興味が無くて嫌いなら、何にも言わない筈。大体、アイツは君の性格は知ってるくせして、あんな事したんだよ。馬鹿にしてるよね? 君は浮気出来るほど器用じゃないのに……」

 

 

 なら、ホルスは何が気に入らないのか。考え込むカヤツリに、セトはため息混じりに呟く。

 

 

「……ルートの固定って言ったけど。簡単な事じゃない。それをアイツは、未来と過去を紐付けにする事で解決した気になっている」

 

「……それは、普通の事じゃないのか?」

 

 

 過去と未来は紐付いている。過去があってこその未来だ。カヤツリには、セトが言う意味が理解しかねた。

 

 

「逆なの」

 

「逆? 何が?」

 

「因果関係。過去から未来は続く。過去あっての未来。だから、未来よりも過去の方が因果は強い」

 

 

 川が上から流れるように当たり前のことだ。過去から時間は続き、その積み重ねで未来は決まる。だから、未来を変えたいなら、過去を変える必要がある。

 

 それは分かると頷くカヤツリに、セトは更に問い掛ける。

 

 

「だけど、今回の事を考えてみて? 過去の梔子ユメは、未来から来たカヤツリと出会った。それがあったから、三年まで耐えられて、あの手帳を残し、小鳥遊ホシノの呪いを解けた。そして、過去のカヤツリを生徒会へ誘った。その過去のカヤツリが成長して、未来へ跳んだ」

 

「……それは、おかしくないか?」

 

 

 さっきセトが言った事と異なっていて、そう言ったカヤツリにセトは頷いた。

 

 

「そう、未来が過去を保証して、過去が未来を保証している」

 

 

 未来のカヤツリが過去へと来たから、アビドス生徒会は存続した。過去のカヤツリが、アビドス生徒会に入ったから、未来のカヤツリは過去へと跳んだ。

 

 未来のカヤツリが居なければ過去は成立せず、過去のカヤツリが居なければ未来は成立しない。

 

 もう時間軸が、ぐちゃぐちゃになっている。まるで絡まって解けない結び目だ。

 

 そこまで考えて、カヤツリは意味が分からなくなる。

 

 

「何で、こんな事するんだ? そんな事したって、俺がアビドス生徒会に行くことが確定するだけじゃないか」

 

 

 ホルスの目的にしては、手段が迂遠に過ぎる気がする。

 

 カヤツリから見て、ホルスは超越者だった。嫌味な性格は兎も角、能力だけならそうだ。だったら、もっとスマートなやり方があるはずだった。

 

 

「そうだね。もし好きに時間が弄れるのなら、ルート固定なんかしなくていい。その都度、修正すればいいんだから」

 

「……そうだろ? 何考えてるんだ?」

 

 

 不思議そうに首を傾げるカヤツリに、セトは笑った。

 

 

「前提が違うんだよ。カヤツリ。さっきの頼み事を思い出してみて? テラノと小鳥遊ホシノへの頼み事」

 

「未来は、ホルスの眼でも観測出来ない。直近は見えるけど、遠くは見え過ぎて参考にならない。だったか……?」

 

 

 考えて見れば当たり前の話だ。動作一つで結果は変わる。先を見れば見るほどに結果は増える。そんな結果の数など、考えたくもない程に多いだろう。

 

 テラノが言うには、ホルスの目は目でしかないと言う。機械みたいに、ソートや絞り込みなどないから、自分で調節するんだと。

 

 その中から、起こりうる未来をピックアップする?

 

 もし出来るのならば、テラノ達の世界は滅びなかった。そうなる前に手を打てたし、今回のような手段を、幾らでも取れたはずだ。

 

 

「じゃあ、どうして。あのホルスは複数のルート。それも、幾つかのモノだけに言及できたと思う? それ以外だって、きっとあったのに」

 

 

 確かに変だ。しかし、他の手段はある。

 

 

「そりゃあ、並行世界でも見えるんじゃないか?」

 

「そうだとしても、その時点で妨害すれば良い。そうすれば、手間は最小限になる。態々、過去まで戻らなくていい。時間なんて弄らなくてもいい。それに、時間はいつでもは弄れない。弄れるのは混沌の領域がある間だけ」

 

 

 確かに、その方が楽だ。そっちへ行かないように調整すれば良い。時間を弄る必要も無い。非常にスマートだ。

 

 困惑するカヤツリを置いてけぼりにして、セトは口を回し始めた。

 

 

「小鳥遊ホシノには、あのホルスと話したかどうか。その内容を聞いて貰ったね。そこでアイツはこう言ったみたいじゃない」

 

 

 ──運悪く死んだのなら、運良く生き残る事もある。その世界を、私たちは観測は出来ません。

 

 

「アイツ自身が白状してる。別の世界線。並行世界は見えないって」

 

 

 並行世界を見た訳でも、未来視でもない。もうカヤツリに手段は思いつかない。

 

 

「じゃあ、どうやってその気に食わないルートとやらを知ったのか。その気に食わないルートに、真っ先に入るべきであろう人間が居ないのか。残る答えは一つだけ。きっと知ってるんだよ。経験したから知っているし、知っているはずの君に当たり散らす。多分、私が最初だったくらいに思ってる。これはまだ、予想に過ぎないんだけど」

 

「は……?」

 

 

 それは、あんまりにもあんまりな答えだった。思考放棄の果てと言ってもいい。手段が思い浮かばない。だから、最初から知っていたというのは。

 

 

「でも、そうとしか考えられないでしょう? だから、変えられないように。あんな面倒なことを考えた。地下生活者も言ってたらしいじゃない。先生でも過去は変えられないって。だから、アイツはそうしたの」

 

 

 でも、セトは納得したように頷いていて、それがカヤツリには信じられなかった。

 

 

「……そういや、何でアイツに悪態を叩かないんだ?」

 

「……ホルスに対して? そう見えるの?」

 

 

 聞き返すセトに、カヤツリは頷いて。更に言葉を重ねる。

 

 

「ホシノには散々なこと言ってたじゃないか。逃げてるとか、何とか。でも、ホルスには何も言わない。奴も、俺に対して姑染みたことを言ってたのに」

 

 

 少しだけ、セトは悩んだように目を瞑る。それを見て、カヤツリは何だか、言いようのない不安に駆られた。最近、セトは様子がおかしい。それがどうしようもなく、カヤツリの不安を掻き立てるのだ。

 

 

「そう言えば、大事な話の内容を言ってなかった。私は、少しの間のお別れを言いに来たんだ」

 

「……どうした。急に」

 

 

 カヤツリの嫌な予感が的中した。けれど、荒れ狂う内心を見せないように静かに聞くと、セトは静かに微笑んだ。

 

 

「急も何も、いつかはと思ってた。それが来ただけ。もう、ずっと私が居なくても大丈夫でしょう?」

 

「それは、ホルスの事と関係あるのか?」

 

「ああ、あるよ。少し頭を冷やして考え直したんだ」

 

 

 隠そうともせずに頷くセトに、何故か腹が立った。いつもセトは突然なのだ。心の準備も何もできていない。

 

 それは、カヤツリに対して他人が思っていることかもしれなかったが、今のカヤツリはそんな事はどうでもよかった。何故だか妙な寂しさがあって、その原因であるホルスに対する感情がマイナスへと傾いていく。

 

 

「理由は?」

 

「そうだね。カヤツリには、世界の秘密を教えてあげる。黒服にバレると面倒くさいから、ここだけの話にして。記憶は持ち出し厳禁にしておくから」

 

 

 セトの言う、世界の秘密はどうでもいい。でも、聞かなければ始まらない。複雑な思いを抱えるカヤツリをよそに、セトは口を開く。

 

 

「分かりやすく言うなら、ここはサーバーなんだよ。ほら、ミレニアムのゲーム開発部だっけ。そこで王女が屈伸煽りをやられてたでしょう。そのオンラインゲームのサーバーみたいなモノ」

 

 

 ふざけているのかと叫びたくなるのを我慢して、カヤツリは黙って話を聞く。

 

 

「忘れられた私たちは、戦いの末にここを手に入れた。そして、ここをどうするかで喧嘩になった。私とホルスでね」

 

「喧嘩?」

 

「そう、しょうもない理由だった」

 

 

 何かを思い出したのか、セトは顔を顰めていた。まるで恥ずかしい過去を思い出しているかのようだった。

 

 

「私たちは強い力を持ってた。それこそ、神様みたいな。でも、その代わりに出来る事は限られていた。そうだね。ゲームで言うとスキルが無いと何もできない感じ。練習しようが、何をしようが無駄。そう言う法則だから。そう決められている存在だから」

 

「それで?」

 

「私は、それでもいいって思ってた。これまでの自分を、力を捨てるなんて嫌だった。でも、ホルスは違った」

 

 

 セトは手を開いたり閉じたりしている。そして、何時ものように机の菓子を一口齧る。

 

 

「アイツは嫌だったみたい。自由にやってみたかったんだと思う。それで反対派の私と賛成派のアイツで喧嘩になって、私は負けた。勝ったアイツは、サーバーを中から整備する管理人になった。私は、外側から整備するように頼まれた。嫌だったけど、仕事だし今のままで良いって言われたから。そのままやった」

 

「それがどうしたって言うんだ。管理人だから、あんな出鱈目なのか。自由にやるってそういう意味だったのか?」

 

 

 ゆっくりとセトは首を横に振る。違うだろうと言う事はカヤツリにだって分かっていた。ただ、文句を言いたかっただけだ。何もかも引っ掻き回していくホルスが本当に気に入らない。

 

 

「私たちの自由は、力とトレードオフになってる。力を捨てる代わりに、自由を得る。サーバーの中でゲームするみたいに、自分のキャラクターを作って暮らす。今までの自分を忘れて、新しい人生を歩む。それで、出来なかった事が出来るようになった。正に夢心地ってヤツ?」

 

 

 セトは、心底どうでも良さそうに鼻を鳴らす。

 

 

「でも、それを言い出したアイツは出来なかった。キャラクターは作ったけど、その中で自由もなく、テクスチャを維持することを余儀なくされた。軛としての、物理的な維持にはサンクトゥムタワーがあるとはいえ、この学園都市というテクスチャをつつがなく運営するには、誰かがやらなくちゃいけない事だった」

 

「自由に見えたけどな。そっちとあんまり変わらないんじゃないか?」

 

 

 あの短髪ホシノの姿を思い出す。普通に動き回っていたし、厭味ったらしい口を利いていた。何かをやっているようには見えなかった。

 

 

「今の私と変わらないかもね。私は君を通して、娯楽や食事を楽しんだりできるし、君とも今しているみたいに話せる。でも、アイツが居るのは小鳥遊ホシノの中だよ。あの子の中じゃあ、多分面白くはなかったと思う。目は一杯あるだろうけど。それに黒服に狙われてるから正体なんて明かせないし、そんな暇もない。それに、嫌じゃない? 自分が望んだことは出来なくて、他の奴らがそれを謳歌しているのを見るのはさ」

 

 

 セトの考えていることは分かる。大体カヤツリ自身の考えと似ているからだ。

 

 

「仕事はやってたからか?」

 

「そうだね。今のテクスチャのままってことは、そういう事だよ。アイツはアイツなりに、仕事をしている。自分の言いだしたことは守ってる。そこは評価してやってるんだ。だから、そこの文句は言わない。でも、あの時はそうじゃなかった」

 

 

 あの時と言うのは、あの鑑賞会が終わった後の夜だろう。次の日の夜に会ったセトは怒り狂っていたから。相応に腹に据えかねていた。

 

 

「小鳥遊ホシノが反転した時、この世界のテクスチャが剥がれかかってた。それは仕方のない事だし、必死に元に戻そうとしてるんだと思ってた。それなのに、あれだよ? 君に対して姑染みたことしてるんだからさ。私は怒った。アイツが言った理由も理由だったしね」

 

 

 大きなため息をセトは吐いて、悪戯っぽく笑う。

 

 

「それであの時の様子がおかしかったから。確認することにしたの。少しのお別れは、まあ、短くて明日。長くて数週間かな。悲しんでくれるのはありがたいけど」

 

「ああ……少しって言ってたな。ずっととも……」

 

 

 自分の早とちりに、恥ずかしくなったカヤツリは下を向く。セトは可笑しそうにニヤニヤしているのが嫌でも分かった。

 

 

「だから、大事な話って言うのは。少し空けるって言う話。アイツと少し話してくるから。話がすんなり終われば早く帰ってくる。そうじゃなかったら、長くかかる。ほら、いきなり居なくなるのは酷いからね。ハハハ……」

 

「……大丈夫か?」

 

 

 カヤツリはセトの様子に一歩引いた。

 

 セトはこんなにテンション高く笑う奴だっただろうか? いつも落ち着いているのが普通だったはずだ。こんな昂りを抑える試合前のアスリートみたいな……。

 

 

「ああ、大丈夫だよ。ちゃんと頭は冷やしたから」

 

 

 相も変わらず、ケラケラと笑うセトに、嫌な予感をひしひしと感じる。さっきの悲壮感が混じった物とは全く違う。今回のは、妙な危機感だ。

 

 そのせいもあって、セトとホルス。この二人の話し合いが、穏便には終わりそうな予感が全くしなかった。セトは評価していて、そこの文句は言わないと言った。なら、そこ以外の文句は言うし、不満に思ってもいるのだ。今は我慢しているだけで。

 

 そして、期間にかなりの幅があるのは、そういう事で。ずっと微笑んでいるのも。そういう事なのではないか?

 

 

「……何か気を付ける事はあるか?」

 

「え? そうだね……雨戸とか、戸締りはちゃんとした方が良いと思う。しっかりと校舎も確認した方が良いかな」

 

 

 セトの顔は、いつの間にか俯いていて。表情は良く見えなかった。声は普通なのが恐ろしい。

 

 

「……台風でも来るのか?」

 

「うん。夜の嵐ってやつかな。食料も買い込んでおいた方が良いかもしれないね」

 

 

 カヤツリは、自らの予想が半ば当たっていることを確信した。

 

 

「それで、確認って何をするんだ?」

 

「何回って聞いた時、反応が変だった。だから、それを答えてもらう。予想が正しければ、あの無表情にも、あの暴挙にも説明がつく。大体、無い方が幸せって、誰にとっての幸せ何だか……アイツがごねたら、その時はその時だし……向こうも色々言ってくるだろうけど。それはそれ、これはこれだから。よくもまぁ、あんな口を叩けるよ」

 

 

 捲し立てるセトへ、最後に、静かに、恐る恐る。カヤツリはセトに聞いた。

 

 

「何する気だ……?」

 

「話し合いだよ? ただ、場合によっては、ちょっとね」

 

 

 にっこりと、セトは笑ってそう言う。その笑顔は、どこか獣が歯を剥き出している様にも見えた。

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