ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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233話 外患誘致

「キキキキッ! 実に気分が良い!」

 

 

 事前準備に時間が掛かって、漸く到着した万魔殿の本部。カヤツリの前では、万魔殿議長、羽沼マコトが大笑いしている。

 

 

「ヒナが居ないのは残念だが、行政官のあの大声で許してやろう!」

 

 

 部屋の窓を見れば全開になっている。今日は春先にしては暑いからか。確か風紀委員会の本部もそうだった。

 

 そうであれば、天雨アコの怒号は丸聞こえだったろう。この議長は、それを聞いてご満悦らしい。相変わらずの様子で、ある意味安心する。

 

 が、マコトが落ち着くまで数分はかかりそうで、待ちぼうけを食らったような状態は問題だった。

 

 

「いいんですか?」

 

 

 机の前で、待つカヤツリにそう声を掛けたのは自分の席で仕事と格闘している棗イロハだった。彼女も変わらずに、面倒そうな物を見る目で、マコトを見ている。

 

 

「マコト先輩はまたやりますよ?」

 

「だろうな」

 

 

 当然の帰結をカヤツリが吐き出すと、イロハは白い目を向ける。

 

 

「なら、いつかみたいにやって下さいよ。やらかしの後始末の方が面倒なんですから」

 

 

 イロハから滲み出る面倒への忌避感が増した。彼女の言う通り、やらかしたマコトの後始末は面倒だ。事前に止められるなら止めた方がいいだろう。

 

 

「今のままの方が楽だと思うが」

 

「そんな訳ないじゃないですか。先輩だって……」

 

「その時の手間の話じゃない」

 

 

 イロハの追求は止まったが、答えを求める視線が鬱陶しい。

 

 

「先輩の彼女さんはいいんですか?」

 

 

 小さな、未だに狂喜乱舞するマコトに聞こえない程度の声でイロハは囁く。

 

 手には一枚の写真。それを一目確認したカヤツリは、朗らかに言う。

 

 

「なんだ? そのパーでじゃんけんしたいのか? それなりのチョキを出す用意はあるが」

 

「違いますよ……」

 

 

 イロハが取り出した写真。万魔殿の書記、元宮チアキあたりが撮ったのかもしれないそれ。

 

 真ん中には万魔殿の面々が写っている。真ん中でイブキが満面の笑みだから、業務終わりにお出掛けでもしたのだろう。そして、写真の端の方に見覚えのあるような二人が写っていた。

 

 その中には、デート中のヒナとカヤツリが写っていた。メガネや何やらで変装はしたけれど、マト程のクオリティではないから。カヤツリとヒナに見えない事もない。

 

 イロハは脅しのように取り出したが。じゃんけんの言葉に緊張しているところを見るに、そっちが本題ではないらしかった。写真自体も、イブキを撮ろうとしたら偶々映ってしまったのだろう。

 

 咎めの意思がたっぷり含まれたカヤツリの視線と言葉に、イロハは言い訳を始めた。

 

 

「ほら、こうでもしないと、先輩は誤魔化すじゃないですか。それにマコト先輩は風紀委員長の負担の筆頭でしょう? 貴方なら止められるでしょうし、そうする理由もあるじゃないですか」

 

 

 何でそうしないんです? 表情でそう語るイロハに、カヤツリはもしもの話をすることにした。

 

 

「議長の悪巧みを、その都度俺がシメたとしようか。その場合にはどうなると思う?」

 

「マコト先輩以外の仕事が減りますね」

 

「その後はどうすると思う?」

 

「諦める……いや、想像出来ませんね」

 

 

 その点に関しては同感だ。マコトは諦めが悪すぎる。どうしたって嫌がらせを諦めない。その熱意を他に向けて欲しいのは、この場のマコト以外の総意なのは間違いない。

 

 その事実が、カヤツリを疲れさせる。ただ、それをカヤツリとヒナだけでなくイロハにも共有するのも悪くは無い。さっきの写真の仕返しだ。

 

 

「棗の想像通りに、議長は諦めない。ならばどうするか。答えは簡単だ」

 

「……どうするんですか?」

 

「隠すようになる」

 

 

 うわぁと。言葉にならない声が、イロハの口の動きで分かった。

 

 

「議長はどうしようもないが、情報収集。情報の取り扱いは完璧だ」

 

 

 悪巧みに関しては、肝心のオツムがアレなので下の下なのだが。問題はそこではない。

 

 マコトの嫌がらせは、後の顛末は兎も角として、成功はしているのだ。

 

 マコトの無茶振りをいなしているアコとて行政官だ。並みの能力と努力であそこにいるわけではない。

 

 そのアコが、正面から拒否できない。または、気がつかない。そんな嫌がらせをマコトは出来る。

 

 上手くいっていないように見えるのは、後始末が雑だからだ。嫌がらせという目的に傾倒し過ぎて、バレないようにとか、仕返しされないようにとか。目標達成に満足して着地点まで頭が回らないから片手落ちなだけで、嫌がらせという目的自体は達成している。

 

 そんなマコトが邪魔され続ければどうなるか。

 

 

「何度も邪魔されれば、全力を尽くして隠蔽に走るだろうな。嫌がらせのプロセスに、隠蔽が加わるんだよ」

 

 

 マコトが本気を出した場合の隠蔽力は十二分に高いだろう。今日問い詰めようと思っている件も、気づけたのは偶々だ。それが毎日のように展開されれば、カヤツリも対応できない。

 

 

「それで、先輩は止めない訳ですか……よく、我慢してますね」

 

「我慢?」

 

「そりゃあ、そうじゃないですか? 先輩は容赦ないでしょう。私たちと風紀委員長を天秤に掛けて、釣り合うとは思えませんから」

 

 

 胡乱な目で、カヤツリはイロハを見た。普通に見えたが、握った手が緊張でガチガチに固まっている。

 

 どうやら、本命はコレらしかった。所謂、ラインの確認だ。カヤツリが本気で潰しにかかるか、かからないかの譲れない一線(ライン)

 

 イロハの知りたいカヤツリのライン。生憎、それは今すぐに分かる。

 

 

「棗への答えは一旦置いておいて……お楽しみのところ悪いが。議長。悪い報告があるんだ」

 

「ふむ? 悪い報告? 今の私は機嫌が良い! カヤツリよ。存分に言うが良い!」

 

 

 なるほど。ならば、存分に言わせてもらおう。カヤツリは静かに、けれどもはっきりとマコトに言い放った。

 

 

「いつからアリウスと繋がってるんだ?」

 

 

 ピシリと、そんな音を立てて。マコトは笑顔のまま固まった。

 

 

「ありうす? 何ですか? 新しい非合法の部活動か何かですか?」

 

 

 単語の意味を知らないイロハが不思議そうに言う。そうであればどれだけよかっただろう。今からでも、そんな部活動が生えてくれないかと思うが。そんなわけはない。

 

 

「昔のトリニティが、今のトリニティ総合学園になる前。烏合の衆だったトリニティの集団のうちの一つ。理由は知らんが迫害された集団らしいな。全く、取りたくもない伝手を使わなきゃならなかったじゃないか……」

 

「じゃあ、マコト先輩はトリニティと通じていたってことですか? ええ……」

 

 

 イロハは、純度の高い呆れが感じ取れる表情で、マコトを見た。当のマコトは額に冷や汗が浮かんでいる。

 

 

「知らん! 私は知らんぞ! 証拠はどこに……」

 

「ほれ」

 

 

 バサバサと証拠。連絡内容の記録をマコトの目の前に落とした。そのうちの一つを拾い上げて、マコトによく見えるように見せつける。

 

 

「何これ? ……何とか言ってみろよ」

 

 

 カヤツリは、もう一度。何かの受け渡しの手順らしい会話内容のメモを目の前で揺らす。復活を中断されたマコトはまた石像に戻る。目だけが焦ったように左右へ泳いでいる。

 

 イラついたカヤツリは、つい昔の口調が飛び出した。

 

 

「お前さぁ……話が進まないから、俺が言ってやろうか。また、ヒナへの嫌がらせだな? 良く聞こえるように読んでやろうじゃないか」

 

 

 朗々とカヤツリは内容を読みあげる。今のトリニティが許せないから、ゲヘナの長たるマコトに協力してほしい事。協力の暁には、礼があるという事。前金として飛行船を用意している事。

 

 

「ゲヘナの長たる羽沼マコト殿ねぇ……それで気分を良くしたか? 協力を受けたな? まぁ、そこまでは良いよ。情報収集、時間稼ぎの目的もあったろうしな」

 

 

 問題は続きだ。向こうからの要求と計画が書かれている。

 

 エデン条約を利用する事。開催場所を指定してほしい事。その場所を爆撃して、攻撃を開始する事。そのままトリニティを滅ぼす事。

 

 

「お前。そこでひらめいただろ。エデン条約が失敗すれば、推進派のヒナの顔に泥を塗れるって」

 

 

 マコトの冷や汗の量が増えた。図星らしい。それで、頭が一杯になったのだろう。マコトの悪い癖だ。それが無ければ、今より大分マシなのだが。

 

 

「お前……よく考えろよ。アリウスは元トリニティなんだぜ。今のトリニティと同じように、俺たち(ゲヘナ)の事を嫌ってるに決まってる。トリニティを滅ぼした後、こっちに牙をむいてくるぞ」

 

 

 それを聞いたイロハの顔が青くなった。流石のゲヘナも、奇襲は辛いものがある。しかも、相手はこんな手を取るほどに本気だ。下手をすれば、ゲヘナもタダでは済まない。最悪の場合はアリウスだけが笑う状況になりかねない。

 

 

「……とまぁ。こんなわけだが……」

 

 

 言葉を濁しながら、マコトの様子をこっそり伺う。完全に思考が迷路に入っている。視線はせわしなく辺りに動いて、どうしようか必死に考えている。

 

 擁護するわけでは無いが、マコトはバカだが救いようのない下衆ではない。ここで、言い訳を重ねるようならライン越えだったが。この様子なら大丈夫だろう。

 

 

「……天下の万魔殿の議長サマが、そんな様でどうする。トリニティを滅ぼすくらい、お前なら楽勝だろう」

 

 

 お前なら。その一言で。ピクリとマコトの反応が変わった。カヤツリは目的を悟られないように、舌に続きの言葉を乗せる。

 

 

「ああ。そう言えば。アリウスもトリニティだったな。ついでにまとめて滅ぼすのもありかもしれない。幸い、今なら気づかれてない。今の話も、相手が居ればの話だ。それにトリニティ自体も爆弾を抱えている事が、それをこっちに押し付けようとしてるのが分かったな。ここまで言わなきゃ分からないか? 俺たちは舐められてる」

 

 

 マコトの視線が、せわしなく動き出す。今度は焦りの為ではない。多分、頭の中で計画が動き始めている。

 

 万魔殿が、ゲヘナが舐められている。よりにもよってトリニティに。内乱の後始末に巻き込もうとして来た。

 

 マコトの頭からは、ヒナへの嫌がらせの事なんか消え去っているだろう。万魔殿の議長の頭になって来ているのが分かった。後は、発破を掛けるだけ。昔からそうしてきた。

 

 

「指先一つで、問題を解決する。舐めた真似したトリニティに思い知らせる。それは最終的に武力頼みのヒナにはできない。そういう事は、お前にしかできないんだって。そういうことができるのがお前の武器だって。持ち味を生かせって。昔にそう言ったろう。忘れちまったのか?」

 

 

 これはカヤツリの本音だった。生徒会の頭何て、ヒナには向いていない。案外根が繊細なのだ。図々しいくらいの、自分が一番だと。そう思っていなくとも、胸を張って言えるマコトが向いている。

 

 

「クキキキキ……そうだったな。ああ、そうだったとも……カヤツリ……」

 

 

 もう、いつものマコトに戻っていた。少なくとも、カヤツリにはそう見えた。

 

 

「失礼する! マコト様はまた、重大な用事ができたのでな!」

 

 

 高笑いしながら、マコトは本部を出て行く。

 

 

「合格ってところか……」

 

「それが、ラインですか? ゲヘナ自体に害がなければ良いと? そういう事ですか?」

 

 

 二人だけになった本部で、心配そうに、イロハがカヤツリにそう聞いた。

 

 それを見つつ、少しばかり、マコトが羨ましかった。

 

 イロハは心配なのだ。マコトがいつか、ラインを完全に踏み越えてしまわないか。そうすれば、カヤツリがどうするかを分かっている。さっきのは、その為の、まさかの時の確認だ。

 

 イロハにとっては、万魔殿を守りたいのが一番だろうが。その中にちゃんとマコトは入っているのだ。

 

 

「それで、我慢の話だったか? 別に気にしない」

 

「もう一度言いますが。風紀委員長が……」

 

「何で、そこに俺が手を突っ込む必要がある?」

 

「は?」

 

 

 イロハは理解が出来ないのか、カヤツリの顔をまじまじと見つめて。カヤツリを問い詰めた。

 

 

「先輩は、風紀委員長が大事なんでしょう? そうでなきゃ、今みたいなことはしないはずです」

 

「大事だし、大切に思っている。ただ、元をたどれば。これはヒナと議長の間の話じゃないのか?」

 

 

 そう言われたイロハは黙り込んだ。

 

 二人とも組織の幹部で、組織を巻き込んだ騒動だから勘違いしがちだが。これは、ヒナが気に入らないマコトが権力を濫用している。そういう図になる。

 

 濫用のレベル。監査が、カヤツリが動けるレベルなら、容赦なく殴りに行くが。そうでないならそれまでだ。

 

 それに、マコトがヒナと白黒つけたがる理由も分かるのだ。力が全てのゲヘナにおいて、権力と戦闘力は同列に語られない。どっちも同じパワー(Power)なのだが。

 

 自由と混沌がモットーのゲヘナにおいて、風紀委員会は特異点だ。ゲヘナで他者の自由を束縛するとはそう言う事だ。

 

 かといって、その長であるヒナが、全くゲヘナらしくないかと言えば。カヤツリはそうは思わない。寧ろ、マコトの方が変かもしれないと思う時がある。

 

 ヒナは最終的には力技で解決する。それは、正にゲヘナらしさなんじゃないかとカヤツリは思う。そして、マコトは違う。マコトは集団の力や、権威の力を使うのだ。

 

 マコトは、きっと本当なら、ヒナのように。自身の力で、そうしたかったのかもしれない。

 

 マコトは弱くはない。強いが、ヒナほどではない。上澄みのレベルというだけだ。逆立ちしたってタイマンではヒナに勝てないだろう。鍛えたところで結果は変わらない。月とすっぽんは似ているだけだからだ。

 

 地位では勝っていても、マコト本人がそれで勝ったと思っていない。だから、地位を使った搦手。マコトが取れる唯一ヒナに勝る部分で勝負するしかない。そして、その嫌がらせという名の勝負も、ヒナの暴力で最終的にはひっくり返される。

 

 あれは、マコトの足掻きであり挑戦なのかもしれない。いつか、諦めがつくまで、自分の中で決着がつくまで続く悲しい挑戦。その終わりなき挑戦が、今回のアリウスの騒動で終わってほしいとも思う。何だかんだで長い付き合いだからだ。

 

 

「本当に迷惑で、嫌で、そのせいで後輩に迷惑が掛かって、やめて欲しいなら。ヒナ自身がその負担をカバー出来ないなら。ヒナは自分で殴りに行く。それがゲヘナらしさってもんだろ?」

 

「だから、止めないと?」

 

「勿論、俺は議長がカスだと思うし、今みたいに規定を越えれば止めに行くが。ヒナはそれでもいいんだろ。俺は勝手に他者の関係性に首を突っ込む程野暮じゃない」

 

 

 ヒナは、抱え込みがちではあるし。今回のエデン条約に乗り気なのも、自分や仲間たちの負担を減らすのが目的である事も、カヤツリは知っている。

 

 

「それでも、辛くても。風紀委員会をやりたいんだろ。ヒナなりのリターンがあるからやってるんだ。それがヒナのやりたい事なら、邪魔はしない。頼まれない限りはな」

 

「それは、恋人としてどうなんですか?」

 

「何だ。棗。お前は全部世話してほしいタイプなのか?」

 

「全部が全部。そういう訳ではありませんが……」

 

 

 イロハは、言葉を濁すが。イロハの中ではそうなのかもしれない。お互いが辛い時に支え合って、何でも世話をする。ああ素晴らしきかな!

 

 

「じゃあ、そうだな。棗にそう言った関係性の人間がいたとして。頼みもしないのに、その人間が何でもやってくれたとしたら、嫌にならないか?」

 

 

 そう聞かれたイロハは首を傾げる。上手く想像できないのかもしれない。カヤツリは今度は分かりやすく言う。

 

 

「言い方は悪いが。バカにされてると思わないか? ここまでやられなきゃいけない人間なんだって。そう言われてるみたいだろ?」

 

「……ちょっと思うかも知れません」

 

 

 少しだけイロハの顔が歪んだ。想像したのかもしれない。ケラケラとカヤツリは笑う。

 

 

「プライドってのは大事なんだ。下らないプライドは捨てるべきだが、捨てるべきでは無いものもある。何でも、頼まれもしないのに、その人間の領域に勝手に手を出すってのはプライドを踏みにじる行為だ。まぁ。相手が相応に精神をやられていない、一人で立てない程でもない限りは、お勧めしないな」

 

「だから、風紀委員長にも行政官にも口出ししないと……」

 

 

 納得したように頷くイロハは、悪戯っぽい目でカヤツリを見た。

 

 

「……先輩は、そうされた訳ですか?」

 

「何?」

 

「だから、先輩も風紀委員長にそうされたんですか? そう思うってことは、そうされたことがあるから、そう思うんでしょう?」

 

「さあね」

 

 

 カヤツリはそっぽを向いた。図星である。

 

 

「教えてくださいよ。さっきのマコト先輩との話も、私は怖かったんですから。少しくらいは怯えた後輩を慰める話をする義務があるはずです。写真の事も、誤魔化すのに協力しますから」

 

 

 イロハは、退く気が無い様子だった。面倒くさくなったカヤツリは、渋々口を開く。

 

 

「そうだよ。ヒナは、そうした。アイツは最初の一回以外は謝らなかった。それだけでよかった」

 

 

 カヤツリは記憶が無い。ぽっかりと穴が開いている。経験と技能だけがあるのが嫌らしい。あとは、あの黒服とか言う大人の縁だけだ。

 

 その原因の一端をヒナは担ったのだという。そして、それ以降。ヒナはそのことに触れなかった。普通に、ゲヘナに中途入学する羽目になったカヤツリを助けてくれた。

 

 

「まぁ、俺はそれが嬉しかったんだな。それで、一緒に頑張っているうちに。お互いの隣が心地よくなって……」

 

「こうなったと……案外普通ですねぇ……秘密にしてるんですから、もっと爛れてるかと思ったんですが。お互い居るだけで満足とか、乾ききってませんか?」

 

 

 自分から聞いておいて、イロハは不満そうだった。秘密にしているのはお互い組織の幹部だからだ。特にカヤツリは肩入れが許されない立場だから、しょうがない。

 

 

「爛れてなくて悪かったな。自分で言ったんだ。言いふらすんじゃないぞ」

 

 

 カヤツリはイロハに口止めをしてから口を閉じた。これ以上語る事は何もない。ないったらないのだ。

 

 

「言いふらさなくても、先輩たちの関係は勘が良さそうな人は勘づいてそうですけど……他になんかないんですか?」

 

「……しつこいな」

 

 

 まだまだ不満そうなイロハは追撃の一言をカヤツリの耳にねじ込んでくるが、カヤツリは無視を決め込む。続きが聞きたいイロハと、話せそうなネタが無いカヤツリの間で睨み合いが続く。切っ掛けさえあれば、そのままここから逃げ出してやるのだが。

 

 そして、幸いなことに。カヤツリの懐で携帯が鳴り響いた。喜びを隠さずに、携帯へと出たカヤツリの表情は通話に出た瞬間に暗くなった。

 

 

「ちょっと助けて欲しい」

 

 

 そんな、便利屋所属の鬼方カヨコの声が。銃声と爆発音。そして風紀委員の勧告のBGMと共にカヤツリの耳に響いたからだった。

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