ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
「これが、ホルスパワーって?」
目の前の光景から視線を外したセトは、そう隣のホルスへと吐き捨てた。
セトの目の前では、キヴォトスが燃えていた。正確には、テクスチャが燃えている。世界が軋んで、悲鳴を上げているのが分かって、セトの気分を大いに害していた。
「ただの癇癪にしか見えないけど」
セトの一言にホルスは黙って何も言わないが、顔が嫌そうに歪んでいる。
何が、ホルスパワーだ。ただ、反転しただけだ。ホルスが何かしたわけでも無く、小鳥遊ホシノが耐え切れなかっただけだ。
目の前では、反転した小鳥遊ホシノがただ一人で佇んでいる。周りにいたはずの先生や後輩たちは姿が見えない。恐らくは反転の際の衝撃波で吹き飛ばされているに違いなかった。
まあ恐らくは無事だろうが、問題はこの後だ。このまま、このキヴォトスは終焉を迎える。反転したのなら、自身の要素に縛られる。そうせざるを得なくなる。かつて、アヌビス──シロコ・テラーが自身の世界を滅ぼしたように。
あれは、我慢するとかそういった次元の物ではない。心臓の拍動を意識的に止めろと言っているようなものだ。その欲求は生命活動と同義だ。少しは我慢できるかもしれないが、決して長続きはしない。
アヌビス。彼女の場合は死と終焉だった。だから、キヴォトスを終わりへと導いて、死で蔓延させた。なら、ホルスの場合はどうなのか。反転した以上は恐怖の側面が強く出る。決していい結果を生まない事は、火を見るよりも明らかだった。
それだけでなくとも、この場合は最悪だ。今のホルスが、キヴォトスを構成するテクスチャを張っているのだ。それが反転すればどうなるか。建築物の大黒柱がいきなり消失したと考えれば分かりやすいだろう。そんな事をすれば、建築物は軋みを上げて倒壊する。今もセトの耳に聞こえている世界の悲鳴がそれだ。もう、終わりは避けられない。
そして、反転した小鳥遊ホシノの欲求など分かり切っている。
「何? そんなに私と喧嘩がしたかったの?」
「この世界に、貴女は居ませんよ。原因であるストレスは記憶ごと消し飛んだので」
轟音と共に、ホシノ・テラーに突き刺さる閃光を見て、セトは再度ホルスへと吐き捨てた。答えたホルスは鉄面皮のままだ。
土煙の中から、ホシノ・テラーへ向かって幾つもの雷光が襲い掛かっていた。それが、ホシノ・テラーへ突き刺さる。焼けて相当痛いはずだが、彼女は全く意に介した様子もない。
満面の笑みを浮かべて、土煙の中へと突撃していく。その数舜の後、赤く輝く炎と青く輝く雷光がぶつかり合っているのが見えた。
これに介入は出来ないだろう。幾ら先生とて無理だ。来たばかりで、圧倒的に経験が足りていない。
その上、どちらも権能を解放している。直撃すれば一撃で命を落としかねない。まあ、このまま手をこまねいていても、死ぬのが遅いか早いかの違いでしかない。
「貴女も、これが小鳥遊ホシノの本意ではないことくらい分かっているでしょう?」
弁護が混じったホルスの言葉に、フンとセトは鼻を鳴らした。ホルスの言う事は合っていたが、とても癪に障ったからだ。
通常なら、ホルスが反転した場合、世界を焼き尽くすとか、夜が来ないようにするとか。少なくともそういった類が想像できる。
けれど、今の小鳥遊ホシノは小ホルス。ならばやる事は一つだけだ。ホルスは、セトを殺す者だから。
「カヤツリとの殺し合いが、そんなに嬉しいって?」
「そんな訳ないでしょうに。あれは、貴女の思う通りに、にっちもさっちもいかなくなって。もう後戻りできないから、ヤケクソになっているだけです」
反転して我を失ったカヤツリとホシノの殺し合いを背に、ホルスは深い溜め息を吐く。
「少なくとも、今は二人きりですし。自分だけを見てくれますから。余波で世界が滅ぶまでの短い間ですが」
「フン。ただの逃避で代償行為。カヤツリを無理矢理反転させるなんて……」
「仕方ないじゃないですか」
セトにとっては、言い訳にしか聞こえないが、ホルスにとっては違うらしかった。セトがそう感じるのは、小鳥遊ホシノに対して、多分に悪い方へのバイアスがかかっているせいだ。
「あの娘は、独りぼっちだったんですよ」
セトは黙った。後輩がいるとか、そういう意味ではない事は分かる。物質的な意味での独りぼっちではない。
「あの娘は、ずっと先輩の皮を被らねばならなかった。後輩たちの前では、頼れる先輩で無くてはならなかった。ずっと、あの日の苦悩を、自分の中で抱え続けなければならなかった。誰にも吐き出す事を許されなかった」
小鳥遊ホシノは不器用だ。いっそ呆れてしまうほどに。だから、先輩の。梔子ユメのマネをするしかなかった。
そして、梔子ユメは、後輩に泣き言を言うような人間だっただろうか? 小鳥遊ホシノの前で、先輩としての役割を投げ捨てるような人間だっただろうか?
確かに、トラブルを起こして泣きつく事はあったかもしれない。けれど、人間の芯はしっかりしていた。目的をブレさせる事はなかった。先輩としての姿は決して崩さなかった。
頼りないとは思っても、人としてはしっかり立っていた。
だから、小鳥遊ホシノは言えなかったのだ。そして、後輩たちも、小鳥遊ホシノをそうとしか見なかった。そういう役割の人間だと、無意識のうちにレッテルを貼った。かつての小鳥遊ホシノが、梔子ユメにやったのと同じように。
そして、そんな後輩に対して、自らの弱さを曝け出すなど、出来ようはずもない。
過去のこと、梔子ユメの事も、カヤツリの事も、その時自分が何をしたかも。
「あの娘は、皆の先輩であるホシノ先輩になるしかなかった。ただの小鳥遊ホシノには戻れない。……一人なら耐えられたでしょう。最初から一人だったのなら」
それを聞いたセトは、ホルスに激しく噛み付いた。
「カヤツリのせいにするのは筋違いでしょう!?」
「ええ、そうですね。謝りますよ」
セトは、またホルスへ怒りが湧いた。
「釣った魚に餌をやらないのが悪いって!?」
「そこまでは言いませんが。あの娘は優しさを知ってしまった。自分の弱さを曝け出しても良い人間を見つけたのに、それを取り上げられたんです。こうもなりますよ。先生を代わりに宛がうつもりだったのでしょうが、まるで力不足です」
まるでカヤツリを禁止薬物のように言うホルスに、また怒りのボルテージが上がる。しかし、何とかセトはそれを鎮火させた。
「それで? これを見たから、ああした訳?」
「……そうですが? 当たり前でしょう!?」
今度はホルスが声を荒げた。
「これは、一例に過ぎません! このルートだけでも、派生が山程あります! その全てで、今いる、ここ以外の全てで! あの娘は苦しんだ! あの娘のありふれた願いは叶わなかった! まるで、実験が失敗した後のゴミみたいに! あの娘の人生は踏みにじられた!」
セトは、周りの気温が上がり始めたのが分かった。ホルスが相応に怒っている。化けの皮が剥がれるというか、素が出てきていた。
「目的は分かりますよ。ええ、よく分かります。一番のネックですし、救済措置に見えたでしょう。けれど、これはない」
上がった温度で空気中の埃に火がついた。雪のように降り注ぐ火花の中で、ホルスは吠える。
「だから、だから、やってやったんですよ。もう変えられないようにしてやったんです!」
「だから、時間を超えて、カヤツリの記憶を消し飛ばした訳?」
ホルスはさっきよりも大きく吠える。
「この世界は、あの娘が傷ついて、けれど懸命に足掻いて手に入れた世界です! それを他人の都合で消させはしません!」
「そう……無くなった方がいいっていうのは、そういう事」
この間の事をもう一度やれば、同じ手は使えない。今からやろうとしてもセトが妨害する。
そして、カヤツリ以外もそういったように動くだろう。記憶を失ったとしても、ホシノから引き離す事はしない。もしかしたら、黒服すら介入するかもしれない。
そして、時間軸も相互に互いを保証する。もう時間を巻き戻せない。もう他のルート、ホルスが見たのだろうルートへ分岐は出来ない。
今の時点から、介入はもうできない。始めに言った通りに、この世界を保持する事。時間を巻き戻す事も、カヤツリの記憶を消す事も、無かった過去を捏造する事も出来なくする。
小鳥遊ホシノが手に入れたモノを守る。
それが、ホルスの目的だった。
「……まさか、この膨大な数を確認しながら、介入がないか不眠不休で見張ってた? これまでずっと?」
「ええ、そうです。お陰で、表情がこんなになりましたよ。時間間隔も滅茶苦茶です」
怒りを吐き出してスッキリしたのか。ホルスは、自分の鉄面皮になった顔を指差した。
「ハァ……それで、貴女の感想はどうですか? この、ゲヘナルートについて」
「……急に、何?」
さっきまでの熱波も、滅ぶ世界の光景も無くなって、元の部屋へと戻っていた。文字通りに火が消えたように静かになったホルスをセトは訝しげに睨む。
「いや、確認ですよ。私では気づかない何かがあるかもしれないので。カヤツリのお陰で、こういった事、貴女は得意でしょう?」
「つまり、何? このルートでハッピーエンドに行けるかって? 他のを見るたびに毎回それを聞く気?」
頷くホルスを見て、セトは頭を掻きむしる。そんなの分かり切っている。しかし、ホルスは真剣だった。真剣に検証する気しかないらしい。
セトとしては、今の答えを聞いた時点で納得している。残りの映像もどうせ似たような末路を辿るのだと思う。
そんな事を考えながら、ずっと黙り込むセトへ、ホルスが首を傾げた。
「貴女は、その為に来たんじゃないんですか? 私の真意を聞いて、対処する為にやって来た」
「そうだけど? 末路に大した違いはないんでしょう? 目的は達成されてる。過去は固定された」
「まだ私は止めませんよ。少なくとも、もう何も起こらないと納得するまでは止めません。それに、勘違いしているようですが。弄ばれているのは、あの子だけではありません。カヤツリもですよ?」
その一言で、セトは目を細めた。てっきり、ホシノの癇癪が原因で世界が滅ぶから、それに対する試行錯誤だと思っていたが。どうやら違うらしい。
説明しろというように、セトが顎をしゃくると、ホルスは口を開いた。
「今回は、ここで世界が滅びましたが。持ちこたえる場合もあります。他のルートもそうです。最終的には滅ぶんですが……」
「それで? さっさと言って」
「急かさないで下さい。今回のだと分かりにくいんですが、カヤツリが所属した組織は、そうでなかったモノより発展するんです。救済措置というのはそういう意味ですよ」
黙ったセトへ、例えばとホルスが例を出す。
「エデン条約の話をしていたでしょう? トリニティは滅ぶ寸前まで行きますよ。アリウスなんて、カタコンベごと生き埋めです」
まぁやるだろうな。そうセトは頷いた。今の世界でもやったことを、アリウスはやろうとするのだろう。ただ、ゲヘナルートでは襲撃計画がバレている。マコトだけでなく、カヤツリにも共有されている。
カヤツリのことだから、もう手加減はしないように思う。アビドスに対して、そういう事をするのなら、此方のカヤツリでもそうするだろう。手段を選ばず殲滅する。ついでとばかりに、その責任をトリニティへひっ被せたのかもしれない。
トリニティは文字通り数多の勢力の集合体だ。頭が一つであれば強いが、生憎そうではない。責任の押し付け合いで、内乱でも起こりそうだ。
「少しばかり気になるでしょう? 今回はあの娘でしたが、彼の場合も考えた方が良いのでは?」
セトは鼻を鳴らした。本当に諦めが悪い。悪いが、悪くはないと思う。気持ちはわからないでもない。ホルスが切れ散らかしている主犯の正体。居場所の見当はついている。サンクトゥムタワーにいるホルスが探せそうにない場所など、キヴォトスの外か、外界から完全に遮断されている場所くらいだろう。
が、放っておいても良いと思うのだ。
それに、このままホルスを放置する方が面倒だとセトは感じ取った。疑心暗鬼で何をするか分からない。もう、ホルス自身ですら止め時が分からないのだ。止めようと思っても、そこはかとない不安がいつまでも付き纏うのだ。
結局、ホルスは納得したいのだろう。だから、こうまでしつこく聞いてくる。
そう理解したセトはため息交じりに短く声を出す。
「ハッピーエンドの条件は?」
「あの娘が幸せになる事」
またセトは鼻で笑った。予想通りの答えで、それに対する答えも決まっている。
「とりあえず、このルートじゃ無理。詰んでる」
「何故か、聞いても?」
分かり切った事を聞くホルスへ、セトは当然の事を言った。
「記憶は戻らない。そうなら、小鳥遊ホシノが望むカヤツリは帰らない。だから、今のカヤツリを受け入れなきゃならないのに、このざまでしょう?」
それは、絶対に叶わない願いなのだ。それを飲み込んで、折り合いをつけねばならない。しかし、それはホシノが絶対にできない事なのだ。梔子ユメの死すら受け止められないのでは、到底無理だ。
「アイツは、どうして。万世マトの言葉を聞かなかったと思う?」
「怪しかったからでしょう?」
「違う。それは、唯の言い訳。怖かったから、アイツは聞かなかった。自分を守ったの」
セトが、近くのソファーに腰を下ろして言い放つと、ホルスは少し怒ったような雰囲気を出した。それを無視してセトは尚も言い募る。
「聞けば、カヤツリが死んだかもしれない事が確定する。それに耐えられなかったから、追い返したの。体の良いサンドバックってヤツ? さっきは、その言い訳が使えなくなって、ああなったわけだけど。まあ、良かった点もある」
「それは?」
「……黒服の契約を覚えてる?」
少し間をおいて、セトが言葉を交わすと。ホルスが、それを思い出して声に出した。
「”話してはいけない”でしたか。随分とあの大人にしては穴が多い」
「穴じゃない。アレは、ワザと。アレはどっちに転んでも黒服に得になるようになってた」
黒服としては、どっちでもよかったのだ。小鳥遊ホシノに、カヤツリの事を話してもいいし、話さなくても良かった。最初にアビドスへ帰さなかったのは時間稼ぎだ。熟成待ちと言ってもいいかもしれない。
「想像して。もし、万世マトの企みが上手くいって、小鳥遊ホシノに情報が渡った場合の事を。そうしたら、アイツはどうする?」
「ゲヘナへ突撃する?」
ホルスの答えに、大きなため息が出た。不正解にも程がある。
「さっき言った話をもう忘れたの? アイツは、記憶のあるカヤツリを求めてる。少なくともあの時点。真実を知った時点では。ならまず、アイツがやる事は、記憶を取り戻せないかどうか」
「まさか……」
セトは意地悪く言う。
「そのまさか。アイツの近くには、そういう事が出来るかもしれない大人が、一人だけいるでしょう?」
そう。黒服だ。黒服なら、何とかできるかもしれないし、それらしい方法が思いつくだろう。成功するかしないかは別として。先生もいるが、悲しい事に信頼のレベルが全く足りない。
「黒服が欲しいのは、小鳥遊ホシノに対するカード。取引の、契約の場に引きずり込めるカードが欲しかった。それが、カヤツリの記憶を戻せるかもしれないっていうカード」
小鳥遊ホシノに黒服が手を焼いていたのは、単純にそのカードが無かったからだ。小鳥遊ホシノが望む物を用意することが出来なかった。しかし、用意できるとなれば話は変わる。
「最初の口止めは熟成期間。小鳥遊ホシノのカヤツリに対する感情と、ゲヘナに対する不信感のね。一年後に解除したのは、もう準備が終わったから」
言わないともなれば、手紙か何かの手段になる。しかし、手紙で全てを説明するのは、とても難しい。それが不信感のある相手だと猶更だ。
そんな相手から、不確実な情報を中途半端に渡されればどうなるか。ホシノの中に、黒服という選択肢が出てくる。
「別に黒服から接触する必要はない。カイザー理事が勝手に追い込んでくれるし、小鳥遊ホシノが向こうからやって来る。黒服はただ座って待つだけでいい」
この勝負は、圧倒的にカヤツリ側が不利なのだ。契約を結ばなければ、黒服をフリーにすることになる。それは流石にマズすぎる。結局はホシノに対処しなければならないが、記憶喪失と向こうの不信感でそうもいかない。
「だから、詰み。あそこで持ちこたえても。後々黒服の取引に乗りかねない。乗らなくても勝手に反転する。それに、地下生活者のアレにも耐えられない。こっちのアイツは兎も角、あの映像のアイツはコミュ障だから」
セトは、嫌な顔になるホルスへ忠告する。
「今は違うけれど。アイツは他人に興味がなかった。そして、自分にも興味がない。全てが個人で完結していた。だから、会話の仕方というか。社会性が無い。全部一人で出来るから、全部暴力で解決できるから」
小鳥遊ホシノは強い。頭も多少は回る。そんな奴が、人と協力などするだろうか。全部自分でできるから、する必要はない。行き詰まっても暴力で解決すればいい。他の場所は知らないが、アビドスではたった一人を除いて誰も文句を言わなかった。だから、会話は喧嘩腰だし、直ぐに手を出す。人と話して協力するという方面ではとてつもなく弱い。
そこに手を入れたのが、梔子ユメだった。
「アイツの初めての挫折が、アビドスの復興。だから、それに対する策を出せる梔子ユメには懐いた。武力という物差しかなかったアイツは、弱いのに強く見える梔子ユメが分からなかった。それが気になって、梔子ユメに対する社会性を身に着けた。それ以外は最悪だけれど」
そこで、一旦セトは口を止めた。今のホシノと比べて、えらい違いだと思ったからだ。かつてのホシノにあった、子供の癇癪じみた幼さが、今回の元凶だ。
「次の挫折はカヤツリ。カヤツリの出来たことは、アイツにはできなかった。どう頑張ってもできないから、そこであいつはようやく、武力ではなく、言葉というコミュニケーションをとった」
分からない事を口に出して、欲しい事を口に出して、言葉にする。言う事を聞いてもらうには、相手に寄り添わなければならない。今までやろうともしなかった、梔子ユメがやっていて、そうするように言っていたそれを、小鳥遊ホシノは初めてやり始めたのが、あの場面だった。
「自分の事が分からないのに、他人の事なんて分からない。それは逆もそう。アイツは、カヤツリと話すうちに、カヤツリと自分の差異を比べるうちに、自分の事も掘り下げる事になった。どうして、自分は満たされないのかとか。困難にぶつかって初めて。そう言った事をようやくアイツは考え始めた」
それは苦行だ。本当なら、もっと早くにやらなければならない事だ。でも、今のホシノはやり切った。やり切ったからこそ、自分を見つめなおせた。
そうしなければ、カヤツリの精神世界で、自分に向かって頭など下げなかった。癇癪を起こして攻撃でもしたかもしれない。それ以前に、そこまで来れない。
多分、カヤツリもそこにやられたのかもしれない。カヤツリだって、大人に対するそれではない、同年代に対する接し方をそこで教えてもらったのだから。そして、あの子は、努力する人間は嫌いじゃないから。した努力は報われてほしいと思うタイプの人間だ。そうしたのなら、カヤツリはしっかりと向き合ってくれる。二人が真剣に向き合って意思疎通するのだ。それは居心地がいいだろう。恋にだって落ちる。
「少なくとも、このルートの小鳥遊ホシノはそれが足りない。梔子ユメも、カヤツリもいないし、後輩たちじゃ力不足。その機会を奪われたという点は可哀想かもね」
「無理ですか? ほら、ゲヘナから通ってくれるとか」
「無理。通ってくれるかもしれないけど、そのままじゃダメ。空崎ヒナに勝てない。カヤツリは、そんな浮ついた人間じゃない。また記憶を消し飛ばしでもしない限り、靡かない。消し飛ばしても、知識だけでも、小鳥遊ホシノを見捨てなかったでしょう?」
ホルスはそれを見たはずだが、反応が微妙だった。そうではないルートもあるらしい。どうせ、それを見せられるのが分かって溜め息がでた。仕方なく、セトは話を纏めにかかる。
「このルートで上手くやるなら、万世マトに話を聞いた後に、カヤツリに会いに突撃する事。そして、記憶のないカヤツリを受け入れる事。それだけなんだけど。それが、あのアイツにとっては一番難しい。今の小鳥遊ホシノは出来るだろうけど、このルートの小鳥遊ホシノじゃ無理」
「……そうですか。なら、次です」
納得したのか、ホルスは頷いて。二枚のディスクを突き出した。
「どっちか選んでください」
「残りの二枚は?」
「いえ、此方からの方が良いです。こっちは分岐が似ていますし、残りの二つは特殊ですから」
ホルスは、頑として譲らない様子だ。仕方なく、セトは一枚を選び取って。また再生機器にそれを放り込んだ。
「また意見を聞きますから。集中して見てください」
ホルスの言葉と、ミレニアムと書かれた回転するそれを見て、セトは長い夜になりそうだと、特大のため息をついた。