ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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249話 ヒマリの提案

 ヒマリが待ち合わせ場所に来た時、リオは既に到着していた。いつも通りの服装に、いつも通りの冷たい表情。そしていつも通りの口調でヒマリへ問うてくる。

 

 

「こんなところに急に呼び出して。何の用かしら。アレのことは今日話した筈よ」

 

「分かっているでしょう。リオ。この間の事ですよ」

 

 

 そうヒマリが言った言葉に、ほんの少しだけリオの顔が歪んだ。それを見逃さなかったヒマリは、リオの答えを待つ。どっちを答えるか。その答え方次第で、これからどうするか決めるからだ。

 

 

「……問題はないわ。多少の口論で終わったもの」

 

 

 そっちかと。ヒマリは頷いた。可能性としては五分五分ではあったが、リオにとってはそっちの方だと思ったらしい。少しばかりほくそ笑みながら、ヒマリは話をこのまま進める事にした。

 

 

「あの雰囲気で、穏便に終わったと? 幾ら全知たる天才美少女ハッカーの私でも、中々納得しかねる状況でしたが?」

 

「やっぱり覗き見していたのね。なら、説明の必要はないでしょう? 分かり切った説明をするのは非合理だわ」

 

 

 リオは取りつく島もなくそう言うが、ヒマリは可笑しそうに口の端を吊り上げる。

 

 

「そんなに気に入りませんでしたか?」

 

「一体何の話をしているのかしら。ミレニアムとアビドスの間に問題は発生しなかった。あの妄言と狼藉は無かったことになった。それ以上でも以下でもないわ。ミレニアムに被害は及ばなかった。貴女にそこまで言われる筋合いはないもの」

 

 

 リオは正論を盾の如く並びたてるが、実に分かりやすかった。そんな珍しい様子のリオに、ヒマリは笑って言った。

 

 

「あの男が取り乱したのが、そんなにショックでしたか?」

 

「……珍しいと思っただけよ」

 

 

 リオは、さっきとは真反対に短い返答を返すのみだ。さっきから滲み出ている不機嫌さが、ようやく露わになってきていた。

 

 先日の話だ。これから話すもう一つの予定にも関わってくる。

 

 ヒマリはリオに呼び出されていた。用事としては、純粋にヒマリの力を必要とするもので、ヒマリとしても拒否するつもりはなかった。

 

 用事の結果いかんは置いておいて、その時のリオの様子がとても妙だったのだ。どことなく、不機嫌そうな雰囲気が周囲に漏れ出ていた。今よりも、ずっと強くだ。

 

 だから、ヒマリは持ち前のハッキング能力で、その日の事を調べ上げた。

 

 

「まさか、こんなことであの男の過去を知れるとは思いませんでしたが……随分と可愛いところもあるじゃないですか。普段からそうしてくれればいいですのに」

 

「……カヤツリが貴方にああなのは。貴女が探りを入れるからよ。正面から聞けば……」

 

「ああ、耳が急に遠くなりましたね」

 

 

 ヒマリは、リオの言葉に聞こえないふりをした。それは、無茶な方法だったからだ。

 

 あの男。カヤツリは、ヒマリに対しては良い態度ではない。淡々と必要最低限の事しか言ってこない。態度に関してはリオとそっくりだ。

 

 ただ、唯一違うのは。リオと違って何にも分からない所だ。何を考えているのか、何の為にミレニアムに居るのか、どうしてアビドスからやって来たのか。何一つ悟らせない。ヒマリにはカヤツリが上辺に被っている仮面しか分からない。その奥のカヤツリの本心が何一つ察せられない。

 

 それに、ヒマリがカヤツリに正面から聞けない理由がある。

 

 

「正面から聞いたところで、あの男は答えませんよ。それどころか、私が言い負かされそうになりましたから。初対面の時と同じようにね」

 

「フフ……そうね。流石と言った所かしら」

 

 

 カヤツリ相手では、いつもリオを揶揄うようにとはいかなかった。カヤツリはそういう方面では恐ろしく強かった。それは、今。セミナーの対外業務でいかんなく発揮されている所からもそれが分かる。

 

 だから、正面から聞いても。コテンパンに言い負かされるのが目に見えていた。勝機のない勝負をするほど、ヒマリは自信家ではない。

 

 だが、多少プライドが傷ついたのも事実だ。少しばかり自慢げなリオを横目にヒマリは舌打ちする。

 

 

「しかし、それは私も貴女も一緒でしょう? あの男は、貴女に聞かれても答えなかった」

 

 

 苛立ちと共に放たれた言葉は、リオには致命傷だったようで。リオの自慢げな様子は霧散した。少しやり過ぎたかもしれなかった。

 

 大体が、全部。秘密主義のあの男の所為なのだ。

 

 ヒマリとて、際限もなく他人の秘密を暴き立てるのは趣味ではない。しかし、この場合は緊急避難だからと、カヤツリの端末にハッキングを敢行したことがある。

 

 ヒマリとて、伊達に全知を名乗っているわけでは無い。ハッキングを悟らせずに情報だけを抜き出すなど造作もない。それこそ片手間でできる。実際、実行に移すまではそう思っていたのだ。

 

 でも、そう上手くは行かなかった。今なら兎も角、当時のヴェリタスでは手に負えない防壁がヒマリの行く手を阻んだ。ヒマリが本腰を入れれば突破は出来るだろう難易度ではあったが、ヒマリは撤退を選んだ。

 

 ヒマリを手古摺らせる防壁など、早々転がっている物ではない。入手方法は兎も角として、それだけの物が防壁の奥には眠っているという事だ。それを暴かれたと、奪おうとしたと知ったカヤツリはどうするだろう。

 

 答えは、決定的な断絶だ。そうするにはリスクとリターンが見合っていないから、ヒマリは撤退したのだ。

 

 ずっと気になっていたその中身は、つい最近露わになった。あの額の大金の用途は不明だったが、その正体も先日に分かった。

 

「しかし、何か嫌な事でもあったのですか?」

 

「……別に、何もないわ」

 

 

 この場の空気を変えようと、ヒマリは話の方向を少し変えた。

 

 そのおかげか、リオの不機嫌さは変わらないが、種類が変わっていた。リオの姿には似合わない事だ。単純に拗ねているのだ。ここでストレートにカヤツリの事を言っても、リオの拗ねが加速するだけだった。

 

 

「それならそれで、一触即発の状況でしたが。先生はどうしたんです?」

 

「貴女、さっき知っているような口ぶりだったと思うのだけど?」

 

「ええ、大体は把握していますが、監視カメラだと音声が拾えなかったので。私に教えてくださいな」

 

 

 リオは、可愛く強請るヒマリに根負けしたのか。渋々と言った様子で話し出す。

 

 

「カヤツリと……小鳥遊ホシノだったかしら。二人を止めたわ。行き違いがあると言ってね。実際その通りだったわ」

 

「ほう……どんな行き違いが?」

 

「そうね……」

 

 

 肝心の会話の中身を聞けば、無自覚だろうか。どことなく嫌そうだ。

 

 

「二人は同級生だった。それで、酷い喧嘩をしたらしいの。長い間、あの時まで、一度も連絡を取っていなかった」

 

「それで、あの時。水族館で全くの偶然で再会したと?」

 

 

 リオは無言で頷くだけだった。さっきから、手を握ったり開いたりとリオの動きがせわしない。ヒマリは話の先を急かす。少しだけ、あり得ない事を言いながら。

 

 

「それで、長い期間離れ離れだったから。お互いの認識の齟齬があったと。それが解消して……二人は仲直り。彼は、アビドスへ帰る。そういう話ですか?」

 

「そうではないわ! そうでは無いのだけれど……」

 

 

 リオの歯切れが悪い。手だけでなく、足の動きも激しい。さっきから同じところを行ったり来たりしている。リオはらしくなく、口の中で何かをモゴモゴ言った後。声量を大きくした。

 

 

「一週間に一回。カヤツリが休みが欲しいって……そう言ってきたのよ」

 

「ああ……なるほど。これは、困りましたねぇ……」

 

 

 これで、リオが不機嫌で挙動不審な理由が分かった。

 

 カヤツリの休暇要求だ。今まで、そんな事は一度もなかった。このタイミングでの休暇の使い方など一つしかない。

 

 

「あれですか。週一でアビドスに通うと? そう言う事ですか?」

 

 

 リオは何も言わないが。それは肯定だという事だろう。となると、ヒマリの危惧していたことは全くの杞憂だったことになる。

 

 カヤツリは単純に喧嘩別れをして、このミレニアムにやって来た。ヒマリが危惧したように、何か妙な考えがあったわけでは無いのだ。

 

 少し前にミレニアムに流れ着いたレールガンが使えるというし、ヒマリやリオ顔負けの交渉能力。その上、いきなりこちらを手伝うというのだ。怪しい点が多すぎて、警戒するのも当然だ。その上、隠蔽能力も破格ときている。

 

 さらに言えば、セミナーに居るくせして後輩たちには冷たい。先輩からしたら、後輩は可愛いに決まっているのに。どことなく、表面上の付き合いしかない。何処か一線を引いていた。

 

 だが、背景を聞けば納得は出来た。多分、一線を越えて何かを言う事が嫌なのだろう。それで、アビドスから離れる事になったから。コユキの件は、自分と重なったからに違いない。

 

 

「しかし、喧嘩別れしてやって来たとは……案外可愛い理由でしたね。それくらい、あの時に言ってくれれば。私も一々疑わなくてもよかったのですが。まあ、結果オーライでしょう」

 

 

 なんだか気が抜けつつも、ヒマリは車椅子の背に身体を預けた。その時にリオの様子が見えて、もう一つ付け加える。

 

 

「貴女はそうは思っていないようですね。リオ」

 

 

 リオは無言で俯いている。ヒマリは一応、確認と援護の言葉を放つ。

 

 

「彼は、責任感がありますから。貴女やセミナーを放り出すことはしませんよ。そんな事は貴女も分かっているでしょう?」

 

「分かってはいるのよ……」

 

 

 自分を納得させるようにリオは呟くが、あまり効果はない様子だ。それはそうだろうなとヒマリは思う。

 

 リオだって、ヒマリが言ったことくらいは承知しているだろう。けれど、納得してはいない。その理由は簡単だ。

 

 立場はリオの代行でも。心はアビドスへ傾いている。休暇を申請したのがその証だ。リオはカヤツリの心が離れたように感じている。

 

 つまるところ、寂しいのだ。お気に入りの人間を取られて拗ねている。

 

 お気に入りの人間。その名前が、友人なのか。それとも恋人なのか。それはヒマリには分からない。それはリオが決めるべきことだからだ。

 

 けれど、リオはまだ自覚がないだろう。全てを合理的かそうでないかで割り切ろうとしている人間だ。こんなことは初体験だろう。今まさに感情に振り回されている。

 

 出来れば友人として──ヒマリが勝手に思っているだけかもしれないが。後悔だけはして欲しくないと思う。もっとじっくり、それを楽しんでほしいとさえ思う。

 

 けれど、時間はあまりないだろうなとも思う。学年の問題ではなく、ライバルの問題だ。

 

 小鳥遊ホシノだったか。カヤツリの昔馴染み。映像越しだが、あれはどう見たってカヤツリに好意があるだろう。リオはどうだか知らないが、ヒマリには分かる。

 

 強敵だ。一年のブランクがあるとはいえ、向こうはカヤツリの事を知っている。その上、後輩たちの様子を見る限り、バックアップする気満々だろう。

 

 リオはとんでもなく不利だ。このままだと、何も分からないまま負けかねない。それに、もう一つの懸念もある。

 

 だから、ヒマリは手を用意していた。

 

 

「リオ。カヤツリが居ないのは、一週間の内、一日だけなのでしょう?」

 

「そう言っていたわ……」

 

 

 ヒマリはそれを聞いて、にやりと笑った。それなら、アドバンテージはこちらにある。一と六。いや一と四なら、数字が大きい方が強いのだから。

 

 

「それなら、良い手がありますよ」

 

「何かしら」

 

 

 リオの段違いの反応の速さにヒマリは苦笑しながら、その良い手を口に出す。

 

 

「一緒に仕事をすればいいではないですか」

 

「無理よ。貴女も分かっているでしょう? 今はそれどころではない。それに懸念もある。貴女も、あの扉の先と、どうして扉が開いたのか見たはずよ」

 

 

 ヒマリは黙って頷く。リオの言う扉とは、立ち入り禁止区域の廃墟。その最奥部にあったロックされた扉の事だ。カヤツリのパソコンの防壁よりも固いロックに阻まれており、ヒマリでは手が出なかった。後日、何も知らないコユキに遠隔で見てもらったが、コユキですらお手上げだった。

 

 

 ──何て言うか……答えは分かるんですが。それを用意できないんです。

 

 

 鍵穴に合う鍵の形は分かるが、コユキではそれを作れない。そして、それを他者へ伝える事もできない。こればかりは、コユキの感覚頼りの物だからだ。

 

 手詰まりだった。だから、最終的に力業で。カヤツリのレールガンで突破する案へと切り替えた。その為に、カヤツリに説明がてら連絡したのだが、そこで予想外の事態が起きた。

 

 カヤツリの声が通信機器から響いた瞬間、ロックが解除された。その事を聞いたカヤツリ自身も困惑の声を上げていたし、そもそもここの事を知ったのは初めてだと、ヒマリもリオも分かっている。

 

 懸念とはこれだ。カヤツリは、リオの探し物と何か関係があるのではないかという懸念。しかし、今もその答えは出ないままだ。

 

 扉の先には、リオとヒマリが探し求めていたモノがあった。それの形は、少々ヒマリたちの予想を超えるものだったが。

 

 

「だから、一緒にすればいいと言っているじゃないですか。丁度、私たちの傍に、それがあるでしょう?」

 

「何を言っているの? そんなものなんて……」

 

 

 若干戸惑ったようにヒマリを見つめるリオは、はたと何かに気がついたように動きを止めた。

 

 

「まさか、貴女。アレの破壊にカヤツリを巻き込む気かしら?」

 

 

 そう言うリオの目は見開かれていた。口調を厳しくして、リオはヒマリに詰め寄って来る。

 

 

「アレの破壊は私だけが背負うべきものよ。関係者を悪戯に増やしていいものではないわ。コユキにも、カヤツリにも何の鍵か、その奥に何があるのか説明していないのに」

 

「私は破壊に賛成するなんて、一言も言っていませんよ」

 

「何ですって?」

 

 

 リオは、ヒマリの言葉に固まった。ヒマリは首を横に振りながら、リオの懸念を否定する。

 

 

「私は、アレを破壊するべきではないと思っています。今日来てもらったのは、この話もしたかったからなんですから」

 

「ヒマリ。貴女はアレの危険性を分かっていると思っていたのだけど」

 

「ええ。貴女から教えてもらいましたからね。キヴォトスを破滅に導く兵器だと。名もなき神々の王女でしたか。あの子の眠る椅子にもAL‐1Sとありましたね」

 

 

 それが、リオが探していたモノの正体だった。そしてヒマリたちは、その機能は知っていたが。その姿までは知らなかったのだ。てっきり、あの廃墟に徘徊していた兵器の大元か何かだとずっと思っていた。

 

 

「ですが。見たでしょう? 可愛い女の子ではないですか。王女というのも納得ですね?」

 

 

 破壊された扉の先に居たのは、生まれたままの姿で眠る少女だった。その少女はヒマリたちに回収された後、今いる場所の奥。彼女を閉じ込める檻の中で眠っている。

 

 

「一緒に調べたのですから、分かっているでしょうが。私たちとは体の構造が全く違います。素材というべきでしょうが、随分と堅牢です。恐らく膂力も私たちでは全く敵わないと予想されます」

 

「それは当然よ。世界を滅ぼす兵器なのだから、それくらいのスペックはあるはず」

 

「ですが、それだけです」

 

 

 ヒマリもバカではない。全力で調べた。スペックは確かに脅威だが、それだけだ。固いとはいえ、異常な硬さではない。個人の戦力として破格なだけだ。ネルも鎮圧できると言っていたから。C&Cなら複数で掛かれば可能だ。

 

 

「それに、貴女も見たでしょう? あの娘が私たちに向かって話すのを」

 

「聞いたわ。しかし、それが破壊しないという選択に繋がるのが理解不能よ」

 

 

 ──状況把握、困難。……会話を試行。説明をお願いできますか?

 

 

 それが、名もなき神々の王女。AL‐1Sの第一声だった。それを聞いて、彼女の様子を見た時、ヒマリの頭にはある考えがずっとあった。だから、聞いてみたのだ。貴女は誰ですかと。

 

 

 ──本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません。

 

 

 それが、彼女の答えだった。不安そうな表情を、ヒマリはよく覚えている。

 

 

「あの娘は何も知りませんよ。カヤツリの事もね。私の口車でここまで大人しく着いてきた位です。それにネルも言っていましたよ。動きが素人のそれだと」

 

「何が言いたいのかしら。何も知らないから、見逃せと。潜在的な危険を見て見ぬふりをしろと。貴女はそう言うのかしら。あの姿だって、私たちの油断を誘うものかもしれないのよ」

 

 

 リオの言葉は全くの正論だ。リオも、そうやって自分を納得させているのだ。眠るAL‐1Sの姿を見てから、どことなく落ち着かない様子だ。それはカヤツリの件だけではないはずだった。

 

 AL‐1Sが眠ったままなら、もしくは唯の無骨な兵器であるなら。リオは迷わなかっただろう。しかし、普通の人間のように話しているのをリオは目撃してしまった。

 

 もう、普通の人間に見えているだろう。実際には違うのだとしても、一度会話した人間の様な存在を殺すのだ。並大抵のストレスではないし、出来れば経験しない方が良いともヒマリは思っている。もしかしたら、リオは壊れてしまうのではないかと、ヒマリは思うのだ。

 

 かといっても、今のリオには正論しか響かないだろう。だが、それはちゃんと用意してあるのだ。

 

 

「破壊するなんて、あまりにも単純な手だとは思いませんか?」

 

「なら、貴女はもっといい手というのがあるのかしら」

 

「ええ、ありますよ」

 

 

 リオは無言で挑戦的な目を向ける。それに、ヒマリは真っ向から立ち向かう。

 

 

「破壊するなんてもったいないじゃありませんか。だから、友達になってもらいましょう」

 

 

 それを聞いたリオはびっくりしたように目を見開いた。これも、中々見られる表情ではない。上機嫌に、ヒマリは告げた。

 

 

「貴女も見た通り。彼女は何も知りません。自分が何者すら分かっていない。だったら、彼女は名もなき神々の王女ではありません。データが無いという事から察するに、恐らくは抜け殻でしょう」

 

「……味方になってもらうというの? 確かにそれが出来るなら最上でしょう。けれど、途中で思い出すかもしれないのよ。嘘をついているのかもしれない」

 

「嘘をついているなら、今直ぐにここの扉を破壊して出てくるでしょう。世界を滅ぼす兵器だというのなら、起動した今。手加減をする必要はありません。それこそ、貴女の嫌いな非合理でしょう?」

 

 

 リオは黙ってしまう。何かに迷っているように、眉間に皺を寄せている。

 

 

「ヒマリ。貴女はどうしろというの? この娘はいつ起爆するか分からない爆弾なのよ。この娘が無害だと、私は信じることが出来ないわ」

 

「なら、納得できれば。その考えを撤回してくれるのですね?」

 

 

 正直言えば、リオの考えが正しいのだろう。リスクを考えれば、きっとそうだ。けれど、ヒマリは嫌だった。

 

 こんな何も知らない娘を殺すのも嫌だし、それをリオ一人におっ被せるのも嫌だった。リオは乗り気な発言だが、嘘だ。必要に迫られているに過ぎないのだ。

 

 だから、ヒマリはやれることは全部やろうと思うのだ。諦めるのは、それからでいい。

 

 

「明日から、この娘の面倒をカヤツリと一緒に見ればいいんです。この娘が無害だと。そしてカヤツリが関係ないのだと納得するまで」

 

 

 ヒマリは、何かを言おうとするリオを手で制する。

 

 

「リスクは拭えません。だから、私も協力します。ヴェリタスを使ってもいいし、C&Cにも協力してもいい。実行前にも、それ以降も定期的に、あの娘を徹底的に調べもしましょう。行方不明のデータも捜索します。破壊以外の実行できる全てを行います」

 

 

 出来得る限りの安全を提供する事。これ以上はない。無い袖は振れない。これがヒマリに出来る最大限の事だった。

 

 

「ですから、一ヶ月ほど試してみるのはどうですか。破壊なら、何時だってできるでしょう?」

 

 

 そう言われたリオは、黙っていた。黙っていて、無表情だが。ヒマリにはリオの中で色々なモノが渦巻いているのが分かった。

 

 一分か、二分か、それ以上か。どれだけ経ったか分からない空間で、リオが確かに頷くのをヒマリは見た。

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