ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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266話 反救世主

 ──もう、挽回できない。

 

 

 これが、ゲマトリアの会議を盗み見したセトの感想だった。挽回できないという意味には色々な意味が含まれている。

 

 それは、ベアトリーチェの事でもあるし、この世界線が辿った結末の事でもある。もう後戻りはできない事が、セトには予想が出来ていた。

 

 ベアトリーチェの性格は、この映像だけでおおよそ察せられた。彼女は黒服とは違う。あれは感情の生き物だ。それが意味することは一つしかない。

 

 

 ──ベアトリーチェは我慢できない。

 

 

「待ってください。何を早送りしようとしているんですか」

 

 

 リモコンを手に取ったセトを、ホルスが咎める。

 

 

「あのベアトリーチェとやらが勝つのが気に入らないのは分かりますが、山場じゃないですか」

 

「山場? あんな唯の火遊び。結果以外は見る価値はないと思うけど」

 

「火遊び……? 私の当てつけですか?」

 

 

 セトは口を抑えるが、遅かった。唯の例えだが、火に例えるのはまずかったかもしれない。ホルスが、それなりに世界を焼いた身であることを忘れていた。こっそりとホルスの様子を見るが、へそを曲げてしまっている。

 

 

「火遊びにしては、火種が大きすぎます。私の反転とまではいきませんが、それなりに危険です。その過程を見ないというのは──」

 

「はいはい、分かった分かった」

 

「なんですか。面倒くさそうに」

 

 

 小姑のような言葉を遮ると、ホルスは目を三角にしてセトを睨む。

 

 

「私が悪うございました。訳を言えばいいんでしょう」

 

 

 そう言っても、ホルスは口をひん曲げている。また仲間外れの状態だから、拗ねているに違いなかった。腕を組んで、顎をしゃくって来る。さっさと言えとの事らしい。

 

 

「再現とはいえ、黙示録。世界を支配する力の再現。確かに火遊びにしては火力が高い。使えるならの話だけど」

 

「それは、そうですが……」

 

 

 ホルスは納得はしきれないようで、口の中でもごもご言っている。

 

 

「しかし、それは向こうも織り込み済みだと思います。だって、そのための儀式でしょう? 使えないというのは考えにくいのでは?」

 

「力が、そもそも使えないという話じゃないの。私は、そういった意味では言ってない」

 

「じゃあ、どんな意味で言ったんですか?」

 

「察しが悪い……力は振るい手次第。よく聞く言葉だと思うんだけど」

 

 

 ああ、とホルスは言葉を漏らした。

 

 

「力は使える。でも、それが的確に使えるかという話ですか」

 

「そう。ベアトリーチェが手に入れたのは力を振るう権利、それだけだもの。上手く使えるかは別の話だし……如何にも力に振り回されそうでしょう?」

 

 

 セトは画面の中のベアトリーチェを鼻で笑う。

 

 力は使いようだ。目玉焼きを焼くのに太陽の温度は必要ないし、電化製品を動かすのに雷の電圧は必要ない。そんな事をすれば、目玉焼きは炭になるし、電化製品はお釈迦になる。

 

 それと同じことが、ベアトリーチェにも言えるのだ。世界を支配する力を、上手く使えるだろうか? セトには力加減を間違える場面がありありと想像できた。ホルスもその場面を想像したのか、呆れた顔をしている。

 

 

「力加減を間違えて、世界ごと自滅すると?」

 

「そこまで使いこなせないと思う。表面上の力だけ振るって、満足するんじゃない? それが全部だと思ってね。世界を支配する力なんて抽象的過ぎるから。……向こうのカヤツリみたいな感じかな。目が上手く使えてなかった時の」

 

「方舟の中での時の事ですか?」

 

 

 そうだと、セトは頷いた。

 

 

「向こうのカヤツリは、ホルスの目を良く見える目位にしか使えなかった。あれは、何でも見える目なのにね。少し先の未来だって見える目。どうしてそうしなかったかと言われば、使えなかったから。使い方が分からなかったから」

 

 

 ホルスは使えるし、感覚的に使い方は分かるだろう。だが、カヤツリはそうも行かない。そんなものを持っていないから。いきなり腕や足を生やされたようなものだ。十全には使えない。使えるのは表面だけ。だから、目としての機能しか使えなかった。それと同じで、ベアトリーチェも上手くは使えないはずだ。

 

 

「失敗するのが分かり切っているから、過程はどうでもいいと。しかし、そのくらいはゲマトリア達も分かっているのでは? ベアトリーチェに助言位はするでしょう」

 

 

 ホルスの疑問は当然だ。そのくらい、黒服たちが気がついていないはずもない。だから、ベアトリーチェは効率的な手を取った。

 

 

「だから、加工したの。使いやすいように機能を限定させた」

 

 

 加工と聞いて、嫌な想像をしたのか。ホルスの眉間に皺が寄る。

 

 

「機能を限定……色彩ですか。色彩を使って、部分的に反転させる気ですね。反転すれば、負の面がむき出しになるから……可能性は狭まりますが、ベアトリーチェはむしろ望むところでしかないと」

 

 

 セトは余計なことを言わないために、口を噤んだ。さっきの二の舞は御免だからだ。

 

 ベアトリーチェの手段は簡単だ。ロイヤルブラッドの神秘を、部分的に呼びだした色彩で反転させる。それだけだが、実に効果的で効率的だ。

 

 反転すれば暴力方面の力しか使えなくなるが安定する。やれることが限定されているならば、取り回しが良くなる。

 

 そして、外付けと言っていることからも分かる通りに、使い手であるベアトリーチェは反転の影響を受けない。色彩の影響もだ。

 

 色彩は神秘を暴いて反転させる。その力は無法ではあるが、出来ないこともある。

 

 一度反転させたものを、再度反転はさせられない。ゆで卵をさらに熱したところで、ゆで卵であることには変わりないように。

 

 それが意味するところは、色彩相手にも通用する力だという事だ。色彩はゲマトリアの敵だから、黒服たちも協力したに違いなかった。

 

 

「それで、この世界線は滅んだわけですか。だから飛ばしたわけですね」

 

「違うけど?」 

 

「じゃあ、何です。一々、回りくどいんですよ」

 

 

 予想通りの答えに、セトは辟易する。回りくどいも何も、カットしようとした説明を求めたのはホルスの方だ。

 

 

「最初から、ベアトリーチェ自体は重要じゃない。だから、火遊びって言った」

 

「重要じゃない……?」

 

「だって、弱い。もしかしたら、カイザーの方が手強いかもしれない」

 

 

 あっけらかんと言ったセトへ、信じられないと、ホルスは小さく呟く。

 

 

「確かに、力は使えないという懸念点はあります。けれど、その力が大きすぎる。しかも、あの様子では直ぐにでも先生へと宣戦布告するに違いありません。これが、重要でなくて何なんですか。ましてや、カイザーより弱い!?」

 

 

 世界を支配する力と、一企業。どう考えても勝負にはならないが、セトにとっては違う。はっきりと、そう言える。

 

 

「弱い。ベアトリーチェは致命的な弱点を抱えている。全てをそれに依存している。しかも、それを本人が気づいてないんだからね。これを弱いと言わずして、なんて言えばいいと思うの」

 

 

 セトは、リモコンを弄って少し場面を飛ばした。目的の場面を見つけて、そこで停止させる。

 

 

「百聞は一見に如かずとも言う。見れば分かると思うけど?」

 

 

 セトが再生ボタンを押すと、耳障りなベアトリーチェの声が流れ出した。

 

 

 □

 

 

『ギリギリ、間に合わなかったようですね』

 

 

 先生へ向かって、そう言い放つ、ベアトリーチェの姿は豹変していた。

 

 見た目は花だ。奇妙ではあるが、そう形容するのが一番わかりやすい。頭に相当する花の花びらには、赤い目がぎょろぎょろと蠢いている。

 

 手足はあるが、枯れ枝のように細い。ドレスを着た人間のシルエットを限界まで細くした、笏を持ち、枝だけの翼を広げた花の怪物。

 

 対する先生たちは、数が少なかった。聖園ミカと、白洲アズサだったか。それと、カヤツリとヒナの四人だけだ。

 

 今いる場所はアリウスの敷地内。きっと何処かの広間だろうか。それなのに、ユスティナ聖徒会の姿はない。セトの予想が正しければ起動していない。ここにはもう、アリウスの生徒は一人もいないから。

 

 

『少数精鋭ですか? それとも、それだけしか集められませんでしたか? 先生』

 

『そんな事はどうでもいいんだ。約束通り、アリウスの生徒たちを解放して貰う。今すぐに、ここへ連れてくるんだ』

 

 

 どうやら、先生への宣戦布告は、アリウスの生徒全員を人質として行われたらしい。先生の表情は、今まで見たこともないほどに、怒気に満ちていた。

 

 しかし、それすらベアトリーチェは嘲笑う。

 

 

『ええ。ですから、連れてきました』

 

『……嘘を吐くのは感心しない。ベアトリーチェ。ここには、私たち以外誰も……まさか』

 

 

 そう言いながら、先生の顔から表情が消えていった。

 

 

()()にいるではありませんか。先生だというのに、生徒が分からないとは……()()()()()()()

 

 

 手に持った無骨な笏を見せびらかして、本当に可笑しそうに、ベアトリーチェは嘲笑する。

 

 

『あのカタコンベの仕掛けに手間取ったようで、十分に時間を稼がせてもらいましたとも。アリウスの生徒は全員この通り。私の糧になりました。ロイヤルブラッドの加工は不十分で、足りない分は他のアリウス生徒で補った間に合わせ。ですが、貴方如きにはこれで十分です』

 

 

 先生の顔から、感情が抜け落ちていた。それを見て、ベアトリーチェはつまらなさそうに笏で床を突いた。

 

 

『大人のカードとやらは使わせませんよ。効かないと分かってはいますが、念の為です』

 

『ぐっ……重い……!』

 

 

 その場の全員が地面に這いつくばる。恐らく重力操作だ。全員の身体に動けないだけの負荷がかかっている。先生が潰れていないあたり、個別に重力を弄っている。

 

 

『実に他愛無い。そして、私は運がいい。アリウスの裏切り者と私の手を煩わせたガキ。そして、先生を甚振れるのですからね』

 

 

 もう一度、ベアトリーチェは床を突く。重力の強さが増し、先生以外の全員が呻き声を上げた。

 

 

『先生。貴方は最後です。このまま、誰が最初に床のシミになるか。ゲームといきましょうか』

 

 

 ベアトリーチェの全ての目から、嗜虐心が溢れていた。一言も発さない先生の反応が面白くないのだろう。先生の傍まで近づいて、笏で顔を上げさせる。

 

 

『足を舐めなさい。みっともなく赦しを請うのです。そうすれば、私の気が変わるやもしれませんよ』

 

『そんな枝みたいな足は趣味じゃないんだ……ぐっ』

 

 

 先生へかかる重力が増した。呻き声を上がる先生を、ベアトリーチェは嘲る。

 

 

『黒服が評価していたので警戒していましたが……大人のカードが使えないならこんなものですか。この程度の男が救世主とは。過大評価だったかもしれませんね。生徒も助けられないとは』

 

『……いよ』

 

『ほう? 何か文句でもありますか? 良いでしょう。聞いてあげます』

 

 

 ベアトリーチェは先生を甚振るために、先生を念力で無理やり立たせた。

 

 

『ほら、言ってごらんなさい。負け犬の戯言を』

 

『私は諦めない。助けてって、そう言われたんだから!』

 

 

 予想外の言葉だったのだろう。ベアトリーチェから、怒気が立ち込める。

 

 

『あれは、私がそう言わせたに過ぎません。それに、何を諦めないというのです。私に勝てるとでも? 大人のカードが使えない。この状況で?』

 

『そんな事はどうでもいいんだ。私は、お前をどうにかしようとして来たわけじゃないんだから。私は、アリウスの生徒たちを助けに来たんだ』

 

『貴様……!』

 

 

 ベアトリーチェから、怒気が放たれた。当然だ。お前の事などどうでもいいと言われたに等しいからだ。ベアトリーチェ自身がどうでもいいと思っているアリウスの生徒たち。それの方が価値があるかのように言われたのだから。

 

 

『貴方は救世主ではあったが、何も救えなかった! 負けを認めなさい! 私に頭を垂れて、負けを認めるのです!』

 

『分かってないね。勝ち負けなんてどうでもいいんだ。私は、アリウスの生徒を救えればそれでいいんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その時、確かに何かが組み変わった音がした。ただ、ベアトリーチェは気がついていない様子で、余裕綽々に笏を構え直す。

 

 

『良いでしょう。ならば、痛めつけるまでです。目の前で生徒を失くせば、負けを認め……何?』

 

 

 笏を突こうとしたベアトリーチェは、違和感にたじろいでいる。笏がピクリとも動かない。地面に縫い付けられたかのように、微動だにしない。

 

 

『何が起こって──!』

 

 

 ベアトリーチェの困惑の声と共に、笏が解けた。解けた笏はいくつもの何かとなって広間へと降り注ぐ。

 

 それはアリウスの生徒たちだった。全員が気を失っているが息はしている。先生たちの重力操作も消えたようで、全員立ち上がっていた。

 

 そして、先生の懐から光が漏れていた。

 

 ベアトリーチェは、何が起こったのか分からないようで、茫然と何もない右手を開閉させている。そして、理解が追い付いたのか怒号を上げた。

 

 

『……し、笏が……! 私の力がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 ベアトリーチェは怒りのまま、先生へ向かって怒号を上げる。

 

 

『何を! いったい私に何をした! 大人のカードは! 救世主の力は私には聞かないはず!』

 

『お前には何もしてないよ。私はアリウスの生徒の願いを聞いただけだ。それより、良いのかい』

 

『何を……』

 

 

 先生が指さす先には、黒い影があった。そこから、一本の腕が伸びてくる。黒い、修道服を着た腕だ。それが何なのか、ベアトリーチェはよく知っているはずだった。

 

 

『ユスティナ聖徒会……!! まさか、私を……!』

 

 

 ユスティナ聖徒会の群れは、ゆっくりとベアトリーチェに近づいていく。直ぐに、ベアトリーチェの絶叫が響いた。

 

 

 □

 

 

「……どういった理屈ですか? ベアトリーチェの力が急に消失したのは」

 

「弱点を突かれたから。それも致命的な奴をね」

 

 

 セトはまたリモコンを弄って巻き戻した。ホルスに分かるように指をさす。

 

 

「ここ。先生が言ったでしょう。私は救世主じゃなくて、唯の先生だって。これがベアトリーチェの弱点」

 

「先生がですか?」

 

「だから、弱いって言った。ベアトリーチェは張りぼてだから」

 

 

 ベアトリーチェに全くの地力が無いわけでは無いし、アリウス自治区を平定したというのも嘘では無いのだろう。でも、ベアトリーチェが弱いというのはそこではない。

 

 

「あの女は自尊心が高い。なのに自らの力を誇らない。何かの肩書を持っている自分が偉い。何かを保有しているから強い。全ての評価基準が他人。薄っぺらい自分自身を外付けの何かで肉付けしてる。これを張りぼてと言わずして、なんと言えばいいの?」

 

 

 ベアトリーチェはリスクを取らない。絶対に勝てる奴の前にしか出てこない。それは、自信のなさの表れだ。自覚はしていないが、心の奥底では分かっている。だから、思い通りにならないと、直ぐに人のせいにするのだ。自分の過ちは、自分の弱さの証明だから。

 

 

「他人を使うのを悪いとは言わない。それも力だから。でも、自らを高める手段に自分を使わない所。まず他人を使う。そこが弱い。痛くないまま、傷つかないまま強くなりたいなんて思考が透けて見える。安心する為に強くなるんじゃなくて、力が手に入れば安心だなんて、弱者の思考そのもの。だから、土壇場に死ぬほど弱い」

 

 

 そして、それは、今回の作戦にも表れている。

 

 

「今回のあの力の絡繰りは簡単。アリウスの生徒たち、黙示録の天使たちを加工して、最後の喇叭が吹かれた状況を再現した。そこにいるのは、この世を支配する権利を授けられた第二の獣。つまり、ベアトリーチェは第二の獣である。反救世主である。そういう風に世界に認識させた」

 

 

 ベアトリーチェは、権利を自らに付与した。辛い思いをしないのならこれしかない。力を手に入れるのではなく、権利ならばすぐに手に入る。認められればいいからだ。そして、そこが一番の隙だった。

 

 

「あの力を振るう権利は、ベアトリーチェが手に入れた物じゃない。加工したアリウスの生徒たちと、反救世主という立場が支えている物。だから、先生の一言で簡単に瓦解する」

 

 

 救世主の敵。反救世主。それは救世主の立場で保証される立場。救世主に対抗するから反救世主なのだ。ただの先生に対抗するのは反救世主ではない。

 

 哀れだとしか言いようがない。自分の在り方すら人任せだなんて。だから、張りぼてというのだ。何が、私の力だ。元々からしてそうではないのに。与えられた力でイキっている不良に過ぎない。

 

 だから笏を、アリウスの生徒たちを制御出来ない。あの時、アリウスの生徒たちを統合した事で、バラバラだった彼女たちの願いは一つに集約されていた。

 

 

 ──あの娘だけでも、助けて欲しい。

 

 

 唯一残ったアリウスの生徒。白洲アズサ。アリウスからトリニティへ逃げた裏切り者。事情を抜きにした事実はこうだ。これが、アリウス側から見た真実。

 

 残されたアリウスの生徒たちは恨んだだろう。殺してやりたいとすら思ったかもしれない。

 

 でも、戻ってきた。見ないフリも出来た筈だ。それなのに戻ってきた。恨みすらした、そんな自分たちを助ける為に。

 

 それが目の前で殺されようとしている。そうはさせまいと全力で反抗するに決まっている。だって、白洲アズサは仲間だから。

 

 自らの命をかけて、仲間を守る。それが、誰を主体とした願いかは察せられた。

 

 セトが脳内で感傷に浸っていると、映像を確認したホルスが疑問の声を上げた。

 

 

「先生にそう言わせなければいいのでは?」

 

「そうできると思う? 権利を盤石にするのが目的なのに。先生にお前は反救世主だって言わせたいのに? あの先生が、そう言うと思うの? アビドスの時の黒服との問答を見たでしょう?」

 

 

 それゆえに、絶対にベアトリーチェは敗北する結果は決まり切っている。だから、見る価値が無い。

 

 

「それに、今回のルートの終了時間を覚えてないの? ミレニアムと同じでしょう。だから、ここでは滅ばない」

 

 

 再生された画面の中では、ベアトリーチェがユスティナ聖徒会に袋叩きにされていた。その間にも、意識のないアリウスの生徒たちを運び出す人影があった。

 

 先ほどの四人だけではない。どこに隠れていたのか、ゲヘナの生徒やトリニティの生徒が大勢そこにいた。

 

 先生はやれることをやったのだ。不意打ち上等で準備はしていたらしい。

 

 

「アリウスの生徒たちが襲われていませんね。これは……」

 

「加工された所為だと思う。今は、黙示の天使たちって言うテクスチャが張り付いたままなんでしょう。直ぐに剥がれるし、その間にトリニティの保護下に置けば、ユスティナ聖徒会も襲ってこない。大人のカードである程度は何とかなるかもね」

 

 

 それが今、ベアトリーチェが袋叩きになっている原因だ。今のベアトリーチェの肩書は、アリウスの生徒会長だから。今、唯一の殲滅対象なのはベアトリーチェだけだから。

 

 

「なら、貴女の結論は色彩で滅びると?」

 

「ベアトリーチェの儀式で色彩はここを見つけた。遠からずここへとやって来る。それ以外の何があるの? 今回は、それ以前で詰んでるのに。ほら」

 

 

 セトは、映像を早送りする。予想の通り、空が赤く染まっていた。暫くホルスは眺めていたが、違いに気がついたようで、驚きの声を上げた。

 

 

「虚妄のサンクトゥムに随分と苦戦してませんか?」

 

「そりゃそうでしょう。アリウスがいない。それに、トリニティが弱すぎる。アリウスはベアトリーチェの一件で、無傷という訳にはいかなかった。それに、トリニティはトリニティで内部分裂を治められてないんじゃない? クーデターもあった事だし、その主犯も反省はしなかったのかもね」

 

 

 映像の中で、トリニティの生徒同士でいがみ合っている。こんな時まで、諍いを止められないのが人間らしいというかなんというか。セトは溜め息しか出てこない。

 

 

「私たちの世界では、カイザーが来た。それに、アリウススクワッドの襲撃もあった。あれで、ゲヘナとトリニティは協力する機会があった」

 

「それが、ここでは無かったからですか。連携が取れていないと。余裕があり過ぎて、余計なことを考えると……もしかすると本船も……」

 

「そう、ウトナピシュティムの本船も砂の下でしょう。カイザーが掘り出せるほどの余力が無いからね。今からじゃ掘り出す余裕もない。だから、このままジリ貧でゲームセット」

 

 

 そして、映像はセトの言う通りに終わる。セトは努めて明るい声で結論を告げる。

 

 

「カイザーをやり込めすぎたのと、アリウススクワッドを妨害したのが痛かった。最適解を取り過ぎた結果ってところかな」

 

 

 最適解を取るのが間違いなんて、中々のクソ仕様だ。人生は糞ゲー。そんな言葉がセトの中でリフレインする。

 

 

「ベアトリーチェを何とかすればいいのでは? あれが元凶でしょう」

 

「それは、難しいと思うけど。さっきも言った通りに、絶対に表には出てこない。だから、ゲヘナからじゃ存在を知りようがない」

 

 

 ホルスも、どうしようもないと悟ったのか。今の質問が最後だった。肩を落として、残りのディスクを持ってきた。

 

 

「……トリニティ? ああ、エデン条約を別視点で見たいってこと?」

 

「そうですよ。ネフティスも終わってましたが、王女のはまだでしたから」

 

 

 それなら仕方がない。続けて見た方が問題点も洗い出しやすいだろう。そう思ったセトは、ディスクを入れ替える。

 

 

「そういえばさ」

 

「なんです」

 

 

 半眼になったホルスに、ふと気になったことを聞いてみる。

 

 

「どういう基準で選んだの? 見せる順番をさ」

 

 

 少しばかり気になっていたのだ。ゲヘナから始まってミレニアム。そして今度はトリニティ。途中からセトが流れを変えたが。変えなくともホルスは、この順番で見せてくるような気がした。

 

 そして、その勘は当たっていたらしい。

 

 

「グループ分けして、軽い方から見せているだけです。最初の三つと残りの二つ。重さの意味が違うんです」

 

「重さ? 結末の事? どっちにしろ変わらない筈でしょう?」

 

 

 ホルスが見せようとした物の結末は、全て小鳥遊ホシノの癇癪で滅んでいる。軽いも重いも、結果が変わらないのだから何の関係もない。

 

 けれどホルスは、何故だか呆れた顔になっている。

 

 

「ルートの名前を言った時。貴女は勘違いしたでしょう。名もなき神々の王女と言ったのに、天童アリスだと勘違いしていた」

 

「それに何の関係が?」

 

「だから! ゲヘナは兎も角、ミレニアムは人数が増えてるじゃないですか。最初の三つはそういう事なんですよ。後の二つは、説明しにくいんです。あれらは判断に困るんですよ。特に最後の名もなき神々の王女のヤツは……」

 

 

 ホルスは意味の分からない事を言う。なるほど、これは気分が良くない。増えてるだの、三つだの、説明する気が無いのか。説明がヘタクソすぎるがゆえ、意図が伝わらない事にホルスはイラついているようだった。

 

 

「……もういいです。さっきみたいに、見た方が早いです」

 

 

 急に拗ねて、ホルスはディスクを突っ込んでしまう。

 

 正直、ホルスの行動は意味不明だが、セトは気を取り直した。何しろ、ここからは未知の領域。ようやく半分だ。見れば分かるというのだから、そうすればいいのだ。

 

 そんなセトに、ホルスは短く呟く。

 

 

「よーく分かると思いますよ。彼、本当に向いていますから」

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