ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
呼び鈴が鳴った。
その音に、カヤツリは荷物を纏める手を止める。玄関を見やれば、ドアの向こうから気配がする。
宅配の予定はない。ホシノは喧嘩の後から連絡はないし、オーナーなら電話してくる筈。残る可能性は一つだけだ。
カヤツリの脳裏に、昨日の襲撃者の小さなシルエットが浮かぶ。
「マジで来やがったな……」
息を殺して、気配を薄める。それでもカヤツリが部屋にいるのが分かるのか、もう一度呼び鈴が鳴った。
ドアの向こうの気配が動く様子はない。魂胆は分かっている。悪徳セールスで、よくある手口だ。
ドアスコープを覗き込むことを誘っている。動く時の気配を探って、ドアの前に立った瞬間に声かけするつもりだ。
そうやってアドバンテージを取ろうというのだろう。流石トリニティらしい陰湿さだ。
タネが割れている手品ほど哀れなものは無い。カヤツリは動かない。それだけでいい。
呼び鈴はまだ鳴っている。どんどん間隔が短くなって、サイレンのように辺りに騒音を撒き散らしている。
鳴らしているのが人間という点を除けば、まるでホラー映画のワンシーンだが、いつまでも鳴らせるものではない。
押し疲れたのか、呼び鈴の連打が止まる。次はどんな手で来るかと、神経を張り詰めたカヤツリの耳に、特徴的な音が響く。
それは、銃の弾丸を装填する音。この状況と音の正体。ドアの向こうの気配が何をしようとしているか。答えはとても単純だ。
──ドアに発砲する気だ。
「止めろバカ!」
「ふむ。やっぱりいるじゃないか」
慌ててドアを開ければ、白い拳銃を構えたセイアがいる。ドアが勢いよく開くのも予想済みだったようで、丁度いい位置に待機している。挨拶をするように、セイアの頭上のシマエナガがピイと鳴いた。
「昨日の件だが、考えてくれたかな」
拳銃を仕舞ったセイアの質問にカヤツリは顔を顰めた。敷金の事が頭をよぎって反射的に開けなければよかった。これから起きる面倒ごとに比べれば、敷金など端金に過ぎなかったのに。
外の違和感に目をやれば、カヤツリの家の外にはピカピカの、如何にも高価そうな車が停まっていた。どうやら、こんな目立つ車で乗り付けて来たらしい。面倒ごとにはさっさとお帰り願おう。
「とりあえず帰れ」
「となると、次は頷いてくれると考えていいのかな? 次で三回目だからね」
「そっちが上だって? トリニティのお嬢様らしいな」
「別に、そんなつもりはなかったのだがね。君がそう思うなら、そうなんだろう」
口が全く減らないセイアに、カヤツリは既に疲れ始めていた。昨日からこっち、この調子で何を言っても言い返してくる。どれだけ会話に飢えているのか知らないが、会話が続くたびにセイアの機嫌が良くなるのが不気味で仕方がない。
昨日セイアは、突然カヤツリの自宅へとやって来た。今日と同じように呼び鈴を鳴らして。今さらながら思うが、あそこで出たのが間違いだったのだろう。初対面なのに妙に馴れ馴れしいところを突いて突き放せばよかったのかもしれない。それか、昨日大人しく帰ったことを警戒して、夜逃げ同然に飛び出せばよかったのだろうか?
カヤツリはどうしようもない現状に頭痛がする。しかし、全ては後の祭りなのだ。
「昨日の提案は断る。お帰りはあちらだ」
車に向かって、カヤツリは手を払う。そうされてもセイアは動かず、不満そうな顔でもなく、不思議そうな顔をする。
「何が気に入らないんだい? トリニティへの入学。それも、ティーパーティへのお誘いだよ? 実に破格の条件だと、私ながら思うのだけれどね」
「世間知らずめ……全部だ、全部。嫌だね」
「そんなに嫌なのかい? 別に変なことは頼んでいないつもりだよ。ただ単に、私の付き人になってほしい。それだけだとも」
だから、世間知らずだというのだ。カヤツリは内心で悪態をついた。その間にも、セイアの暴挙は止まるところを見せない。
「立ち話というのも疲れないかい? それとも、これがアビドス式の歓待なのかな?」
どの口でそんな事をほざくのか。開いたドアを足で押さえて、身体を内側に入り込ませているくせによく言う。さっきから、尤もらしい正論を投げつけて、話のペースを取られている。
かといって、暴力的な手段に出る事は悪手だ。向こうが頼みに来ているとはいえ、相手はトリニティ。それもティーパーティの次期幹部候補。そんな事をすれば、報復として何をしてくるか溜まったものではない。
昨日の奇襲の後、名乗った名前から現れた情報に眩暈がしたくらいだ。懸命に足掻いても、ペースがカヤツリの手には戻ってこない。
「はあ……入れ。散らかっているが、文句は言うな」
「もちろんだとも。押し掛けたのは、こちらなのだからね」
押し掛けた自覚があったらしい。なんて、ふてぶてしいのだろう。セイアの後ろ姿にぎょっとしながらも、カヤツリは後ろ手にドアを閉めた。
結局、ドア前での攻防戦はカヤツリの敗北だ。最近、負け戦が続いている。
昨日のセイアの襲撃。いや、少し前のホシノの喧嘩からずっとそうだ。ホシノといい、その後に来たオーナーといい、今目の前にいるセイアといい、全くカヤツリは上手くいっていなかった。
「昨日の条件で足りないなら、まだ追加しようか。何が欲しいか言ってみたまえ」
散らかった部屋の中、向かいのセイアの言葉で我に返る。少し、カヤツリは悩んだ。ここで切り返さなければならないのだが、無理難題を言って、追い返してもいい。けれど、それは悪手の様な気がする。
「そんなもの。出せないと思うが?」
「ああ、アビドスを何とかしてほしい。そういう事かい?」
カヤツリがぶら下げた餌に、セイアが食いついた。そうとは気づかずに、セイアは悩みながらも答えてくる。
「そうだね。私でも厳しいと言わざるを得ない」
「じゃあ、帰ってくれ」
カヤツリは内心呆れていた。セイアの様子からして代替案があるようだが関係ない。どうせ、分割で払うとでも言うのだろう。
けれども、それはカヤツリがばらまいた餌だ。カヤツリがして欲しいのは、アビドスを何とかする手段であって莫大な金銭ではない。
かつて、ノノミがホシノに提案して拒絶されたものと一緒だ。大体の人間が陥る落とし穴。トリニティからの金で借金を返したところで意味はない。セイアが似たような案を出してきても、そう言って拒絶すればいい。
カヤツリは嘘は言っていない。金を出せとは言っていない。そんなものとしか言っていない。アビドスが欲しがるものは金だという先入観が、そう誘導する。
セイアの質問にもカヤツリは無言でしかない。肯定も否定もしない。勝手にセイアが勘違いして、勝手に自爆するだけだ。
それで流れを取り戻して、いつもの日常が戻ってくる。そこまで考えて、カヤツリの気分が落ち込む。
──何が、いつもの日常だ。そんなものは、ついこの間失ったろうに。
「まぁ、待ちたまえよ。結論を急ぐのは早いんだ」
少し得意げなセイアをカヤツリは無感動に見つめる。何を言ったって、関係ない。カヤツリにだって、もうどうすればいいのか分からないのだ。
ホシノには鉄道の件はぶちまけたし、ゲヘナにその件は連絡した。そして、引継ぎも。電話の向こうのマトは、何も言わなかった。静かに了解の返事を返しただけだ。
引継ぎの資料は全てある。カヤツリが居なくても、大丈夫なようにしてある。だから、今もアビドスは回っている。あの喧嘩から、そろそろ一週間になる。
それなのに、誰からも何の連絡も来ない。つまりは、カヤツリには、その程度の価値しかないのだ。
かつての悪夢再び。そういったところだろう。まさか、マトからも何も無いとは思わなかった。なにがあったとか、そういう質問すらない。きっと、ホシノに情報を漏らした所為で見限られたに違いない。
オーナーの提案も保留するしかなかった。別れ際の言葉が、まだ耳に残っている。
──貴方の人生は、それでいいのですか?
いい訳が無い。いい訳が無いが、何がいいのか分からない。カヤツリは最悪と、それ以外しか知らない。もう、目的も、大切だったものも、何もかもが無い。そんな奴が望む物を、どうやって提示するというのだろう。
だから、セイアが何を言おうと無駄──
「私が君に提供できるのは選択肢さ」
選択肢という言葉が少し気になった。それは、カヤツリが求めている物で。少々予想外の答えに、好奇心が疼いた。
「選択肢とは?」
「力だよ。世間では権力と呼ばれるモノだ。実際、選択肢はこの世に溢れているが、好きなモノは選べない。例えば、アビドスの借金問題だね」
下調べはしてきているらしい。カヤツリの意識が向いたのを感じたのか、セイアが少し微笑んだ。
「借金を踏み倒す等々、選択肢は無数にある。しかし、それは選べない。選べるが、それを押し通すだけの力が無い。だから、君は借金を返している」
「アビドスに権力をくれるってことか?」
「違うよ。私に、そんなことはできない。出来るのはそれこそ、連邦生徒会長くらいのものだろうね。私が提供する相手は誰か、最初から言っているだろう?」
セイアは袖でカヤツリを指差す。
「君だよ。私は切っ掛けを与えるだけさ。どれほどの力が手に入るかは君次第なんだ」
「ティーパーティで成り上がれと? 付き人って言うのは、そのための足掛かり。選択肢とは、そういう意味か?」
セイアは大きく頷く。
「ティーパーティの中で君が成り上がろうと、私は君の邪魔をしない。言ってくれれば手助けだってするとも。選択肢とは、唯の私の付き人で終わるのか。私の右腕、行政官になってくれるのか。それとも、中途半端で終わるのか。数多の可能性の内の一つを選ぶ権利の事さ」
セイアの機嫌が良い。カヤツリは何も頷いていないのにかかわらずだ。変わらずセイアの意図が読めないままで、カヤツリの表情が固くなる。
「なんで、俺なんだ?」
「ふむ?」
セイアが首を傾げる。理解できるように、カヤツリはもう一度言った。
「俺じゃなくてもいいだろう。トリニティにだって、人員は居る。それこそ、ティーパーティが選んだ人間がな。それを押しのけてまで、ここに来た理由はなんだ?」
「うん? 理由かい?」
なんでもないようにセイアは言うのだ。
「君がいいのさ。それだけの至極単純な理由だよ」
「何だよ、勘か? それで納得しろと?」
どきりとした胸の内をひた隠して、カヤツリは意地悪く言う。
「まさか、色々調べたに決まっているだろう? 今日もう一度来たのは、それが理由なんだよ」
セイアは散らかった部屋の内、山積みになった荷物を指差した。
「昨日も、その荷物はあったね。今日の様子を見る限り、部屋を引き払おうとしているようだ。私が来る前にもあったことから、私が原因ではない。もっと前からしようとしていたみたいだね」
安楽椅子探偵の真似事か、セイアは椅子で前後に揺れ始める。
「ここに来る前、アビドスの事を調べた。正式な生徒会のメンバーは二人だけで、片方は君だ。そして君の上役、小鳥遊ホシノだったかな? 昨日はまず、その人物に連絡を入れたのさ」
ホシノの名を聞いて、カヤツリは顔を顰めた。セイアにどんな反応をしたのか、良い予感が全くしない。
「学校に掛けたんだが、誰も出なかった。それでまずはアビドス校舎へ行ってみた。君ではない三人ほどの生徒が活動していたよ」
電話に出なかったのは、カヤツリがいないからだ。まだ引き継ぎは万全とはいかないらしい。
「声は掛けなかったのか?」
「掛けなかった。何も知らない状況に、不用意に飛び込みたくはなかったからね。私も自分の立場は理解している」
カヤツリはホッと胸をなでおろす。トリニティの生徒がいきなり訪問してくる。しかもアポなしで。ホシノの反応は良いとは言えないだろう。それに、セイアも。登校しているのに電話に出ないという所に、きな臭いものを感じたのかもしれない。
「そして、君が居なかったから、その日は引き上げようとしたのだがね。帰ろうとした矢先、妙な大人が現れたんだ」
「黒ずくめか?」
「ああ、全身黒かったね。それに妙な雰囲気だった。黒服と、そう名乗ったよ」
黒ずくめで、妙な雰囲気の大人。そんな大人をカヤツリは一人しか知らない。
「この場所を聞いたのか」
「それだけじゃない。色々と教えてくれたよ」
「教えた……?」
カヤツリは信じられなくて、言葉が零れた。そんな事はあり得ない。オーナーは親切で情報を渡すような人間ではない。何かと引き換えでなければ、教えはしないはずだ。
「契約でも持ち掛けられたか?」
「いいや、私がここへ来た理由を聞かれたんだ。嘘は通じなかったよ。本当の理由を見抜かれ……いや、知っていたのかな? 兎に角、私は質問に答える事を要求された。答えてくれれば、私の望むことを教えるとね」
それで、セイアはオーナー、もとい黒服からカヤツリの事を聞いたのだろう。家の場所や、今カヤツリが置かれている状況の事を。
「私は二つの質問を受けた。ここに来た理由と、そうさせた理由だ。その代わりに私は、君の居場所と、君がここで何をしてきたのかを聞いたのさ」
「今の状況は聞かなかった……?」
カヤツリは驚いた。居場所を聞くのは分かるが、やったことを聞くのは予想外だったからだ。普通、どうやれば勧誘できるか聞くだろう。やったことが分かっているから、ここまで来たのだから。
どうにも、違和感が残る。セイアがここに来た理由が分からなくなった。
「……俺の能力を知っていたから、ここに来たんじゃないのか? 最初の切っ掛けはそうじゃないのか?」
「それは、言えない。今はまだ言えないんだ。言える日が来るといいなとは思うけれどね」
都合の悪い事を聞かれているはずなのに、セイアは全くそのような様子を見せない。ずっと椅子で揺られているだけで、どことなくリラックスしているようにしか見えない。
「君が良いと思った理由は別なんだ。能力の事も全く無いとは言えないが、黒服という大人から聞く前から。私自身が調べた時に思った理由がある。黒服の話は後押しに過ぎないんだ」
セイアが、真剣な眼差しで、カヤツリを見つめている。もう、セイアは揺れるのを止めていた。
「君は頑張っていただろう? 私が良いと思った理由はそこさ」
何だか、カヤツリは言葉が出てこなかった。何だか胸が一杯になっている。
頑張っているなんて、当たり前のことだ。本当の意味で、カヤツリの頑張りを知る者は居ない。だから、今の言葉は全く響かないはずだった。
「アビドスは、お世辞にも先行きが良いとは言えない。諦めた方が楽だ。実際、他の住人や生徒はそうしたのだろう。でも、君はそうしなかった。先が見えなくても諦めなかった。私の調べだけでも、惰性ではなく、しっかりと目的を持って頑張っていた。黒服も言っていたよ。そうでなくては、今のアビドスの状況はないだろうとね」
セイアが言った事は全くの真実という訳ではない。最初はカヤツリはそうでは無かった。ユメ先輩やホシノに引きずられていただけだ。
「私が君が良いと思った理由は、君が諦めなかったからだ。君は知っていたはずだ。誰よりもここに先はないと知っていた。けれど、君は絶望的な状況でも諦めなかった。今もここにいる。私は、そこが良いと思った」
──今だって頑張ってるじゃないですか。何で人にはそんなに甘い癖して、自分にはそんな風なんですか。
かつて、ユメ先輩に言った言葉を思い出した。あの時にユメ先輩が涙ぐんだ理由は分からなかったが、今なら分かる。今のカヤツリの胸を満たす物が、それなのだろう。
「……ふん。それで、権力をって話か」
「そうだ。君が今、ここを引き払おうとしている理由は知らない。しかし、諦めたのではない事は分かる」
「一応聞くが、どうしてだ?」
セイアは小さく笑う。
「昨日、どうして君は呼び鈴に出たんだい? 今日とは違って、直ぐに出たじゃないか。それは、誰かを待っていたからじゃないのかい?」
「降参……」
カヤツリは両手を挙げた。普通なら、カヤツリは呼び鈴を押されたところで出ない。大体が碌でもない。強盗か、悪徳セールスか、借金取りだからだ。しかし、昨日は違った。ホシノが来るかもしれないと思って、ずっと待っていたのだ。
そして、そんな行動は。諦めてアビドスを出て行く人間のする行為ではない。もしも、出てしまえば引き留められることが分かっているから。
昨日の邂逅で、セイアはそこまで考えたのだろう。カヤツリとホシノの間の事を知らなくても、カヤツリのしてきたことと状況、それとカヤツリが迷っていることを看破した。
そして、条件を携えて、今日ここへ来た。
正直、悪い気はしない。寧ろ嬉しいかもしれない。先の問答のせいだ。セイアの術中に嵌まった腹立たしさも気にならない。
条件も悪くはない。悪い点も勿論あるし苛立つ要素しかないが……どうとでもなるだろう。アビドスの事も、ホシノには長期の仕事だとでも言っておけばいい。後輩たちもそれで納得するはずだ。
そして、セイアはアビドスの事には口を出さないし、カヤツリが自身の権力の範囲内で何をしても文句は言わない。
お互いがお互いを利用する。しかし、セイアからはそんな黒い感情を感じなかった。いつかの、それこそユメ先輩とは違うけれど、似たようなものを感じる。
こんな取引は、久しぶりかもしれなかった。相手に弱みを握られてするものではなく、お互いの望む物を持った取引だ。セイアがカヤツリの事を考えて用意したというのに、大きな誠意を感じる。今なら、何となく黒服の気持ちも分かる気がした。
「分かった。とりあえずは良いだろう」
「本当だね……!」
よほど嬉しいのか、セイアは椅子から飛び降りた。さっきの真面目な雰囲気はどこへやら、せわしない子供の様だ。
「待て、まだ、とりあえずだからな。ここから詳細を詰めるんだ。まだ喜ぶのは早い」
「なら、早く話し合おうじゃないか」
そう言われても、セイアは落ち着かない様子だ。カヤツリに先を急ぐよう急かしてくる。何だか、昔を思い出して、微笑ましい気分になる。
「じゃあ、まずは……なんだ? やけにうるさいな」
機械の重低音が部屋を揺らしていた。暫くして、これがエンジンの空ぶかしだと気づく。そしてエンジンともなれば、連想されるのは一つだけだ。セイアも同じことに思い至ったのか、玄関へと走る。
「私の車が!!」
玄関から出たセイアが叫んで、その先に走り去る車が見えた。セイアが乗って来たであろう車が、どんどん小さくなっていく。
「あー、ありゃヘルメット団だな……」
運転席に、ちらりと特徴的なヘルメットが見えた。恐らくは、ここに止まっているセイアの高級車を盗んだに違いない。鍵のピッキングと、外部からのエンジン起動。それくらいはアビドスのヘルメット団ならやってのけるだろう。
恐らく、あのままブラックマーケットで売り捌くつもりだ。
「……早速、頼みごとがあるのだが。いいかな?」
セイアの表情が怒りで一杯になっている。セイアの言う事は分かっていた。契約前であることを分かっているが、そうも行かないのだろう。
そして、カヤツリも悪い気分では無かった。少なくとも、あのまま腐っているよりはマシだったし。自身の目的もあるとはいえ、この状況に風穴を開けたセイアには感謝しているのだ。
それに、何となく、言うことを聞いてやりたい気分だった。だから、カヤツリは芝居がかった口調でこう言った。
「仰せのままに、お嬢サマ」