ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
本日は晴天なり。
今日はマイクテストのそんな文言が似合うくらいの晴天。気温もアビドスとは違って丁度良い。実に過ごしやすい気候。こんな日は、お気に入りの店で奮発するのがストレス発散には最適だ。
しかし、そんなカヤツリのささやかな楽しみは、絶賛妨害中だった。
「ふふ……大変そうですね」
その原因が目の前で、愉快そうな笑みを浮かべている。歩行するカヤツリの先を歩きながら、此方を振り返っていた。
「見ての通り、忙しいんだが?」
カヤツリは腕時計を指差して腕を揺らす。針は文字盤の一番上を指していて、貴重なカヤツリの休憩時間であることを意味していた。
けれど、ハナコはそんな事は百も承知であるのか、張り付いた笑顔を崩さない。非常に面倒くさい。
「はぁ……それで? 勧誘は止んだはずだが……その顔を見るに違うと」
カヤツリの態度の所為か、ハナコの顔が途中で無表情になったため。カヤツリは態度を改める。
今までの様な鬱憤晴らしではないのだろう。校門の外で待ちかまえていたところからも、今も進路を脇に逸れる様子が無いことからも、それが分かる。
「シスターフッドからです」
「……シスターフッド?」
ハナコの返事は予想外だった。てっきり、カヤツリの把握していないティーパーティの末端辺りが暴発したのではないらしい。
「……誰に掛けられた? 名前は出したか?」
「知らない生徒ですよ。誰に言われたかも言ってませんでしたね。恐らくは自主的に……そう言ったところでしょうか」
「ふーん……それで、俺の所為じゃないかって? 流石のトリニティらしさじゃないか」
「……」
こんなことを言えば、言葉の刃物での切り合いに発展するが、ハナコは刺されるがままになっている。少しばかり、バツが悪そうだ。一ヶ月ほど前の毛髪事件の事は悪いと思っているらしい。
事件と、大層な名前がついてはいるが何のことは無い。ハナコが仕込んだ毛髪。それに端を発したストレスが爆発し、セイアがへそを曲げたのだ。
──君の部屋の前で、やけに多くの人と話しているみたいじゃないか。
どうにも、セイアはカヤツリが他派閥と交流が多い事が不満らしかった。必要性は分かっていて我慢はしていたが、遂に限界が訪れたらしい。
──いいさ。それが君の仕事なのだからね。早く、顔を売りに行ってきたらどうだい? 暫く私に近づくんじゃない。部屋にもだ! いいね!? 絶対にだよ!
何を言ってもこんな風で、取り付く島もない。ナギサやミカですら、どうしようもなかった。
最近、セイアの様子がおかしいのは感じていた。ホストの重責か、エデン条約の圧力か、どこか焦っている様子だった。だからこそ、カヤツリは他派閥を周っていたのだが、些か数と頻度が多すぎたらしい。
──セイアさんも分かってくれますよ。今は、仕方がありません。
──もうちょっとさ。セイアちゃんの傍に居てあげてよ。あんなこと言ってるけどさ。
ナギサは慰めと理解を示し、ミカはカヤツリへ一月前の事情と苦言を呈した。ナギサは良いが、ミカの苦言はカヤツリとしても困る。
よく聞く奴だ。仕事と私、どっちが大事なの? そんな誰も救われない質問。だから、頭がお花畑だというのだ。ホシノの現実が見えない正論と、ユメ先輩の能天気さを思い出して怒り狂いそうになる。
──王子様はお姫様を助けるものなんだよ? だからさ。傍に居てあげてよ。
だから、何だというのか。一番言われたくない事を言うものだ。ホシノの様な見た目で、ユメ先輩の様な甘っちょろい事を言う。しかも、傍に居てあげてだと?
傍に居なかったせいで、ユメ先輩を失った。そのせいで、アビドスに居られなくなった。そんなカヤツリに対しての嫌味か何かにしか聞こえない。それをあの姿で言う物だから、ハナコの時のように暴言を放ちそうになるのを必死にこらえているのだ。
「それで? それを止めろってことか? 俺には心当たりはない。セイアを怒らせて、俺をおびき出した。そのご自慢の頭で考えればいいじゃないか。俺は忙しいんだよ」
「だから、考えたんですよ」
カヤツリの苛立ちを含んだ声を聞いたハナコは怯まなかった。それどころか、口答えしてくる。
「ええ、先輩の言う通りに私は臆病者です。それどころか卑怯者でした。ですが、先輩もご存じでしょう。私が、何が一番嫌いなのか」
「へぇ、何だ。ようやく自覚したわけか……情報が足りないから、すり合わせたいと。そっちだけじゃなく、俺にも利益があるって?」
「その通りです。この間の人と違って、会話が楽でいいです」
カヤツリがそう言うと、ハナコは気まずそうな顔から、いつもの微笑みに戻る。
多分、ハナコなりに重大な何かを掴んだのだろう。勧誘してきたシスターフッドの人間から、情報だけを引っこ抜くくらいはやってのける。
そして、その掴んだ情報はハナコの今の生活を脅かすに相当する。しかし、ハナコだけではどうしようもない。何故なら、ハナコは傍観者に過ぎないからだ。
大いなる力には大いなる責任が伴う。よく聞く言葉である。黒服も口を酸っぱくして言っていた。多く与えられた者からは多く求められ、多く任せられた者からは更に多く要求されるのである。だったか。
力を振るうにはそれなりの責任が伴うという事だ。その逆もしかりで、責任を取る勇気が無ければ、力を振るえないのである。
ハナコは臆病者であるが故、責任を取ることを放棄した。よって力を持てない。ハナコ個人の力しかない。
そして、今回はハナコ単体ではどうしようもない事態らしい。そこでカヤツリを利用することにした。したが、今回は様子が違う。
今までのハナコなら、煙に巻きながらも屁理屈をこねただろう。その対応であれば、カヤツリは拒絶した。だが、毛髪事件も少なからずの教訓をハナコに齎したのかもしれない。
なにせ、やったことがやったことだ。自分は何もせず、苦労だけを相手に押しつける。ローリスクでハイリターンを求める姿勢。まさにハナコがやられていたことだ。
それを自覚しないで、それをしている他人を非難する。自分は違うのだと、同じことをした身で見下す。だから、その滑稽な浅ましさを、カヤツリはトリニティらしいと言うのだ。
その浅ましさをようやく自覚して、改めた。自分だけでなく、カヤツリに利益を提示した。普通に言えばいいものを。こんな回りくどい手で言ってくるのは減点だが。
全く面倒だ。カヤツリの周りには、面倒な人間しかいない。でも、生きていくのはそういう物だと、カヤツリは半分諦めていた。
「……着いてきな。ランチ……くらいは奢ってやるよ」
□
ハナコがカヤツリに連れられてやって来たのは、トリニティでは珍しいラーメンの屋台だった。
本でしか見たことのない、挿絵そのままの屋台がハナコの前で展開されている。カヤツリの跡に続いて暖簾を捲れば。豚骨だろうか、動物系の出汁のいい香りがハナコの鼻をくすぐった。
「いらっしゃい。待ってたんだ。坊主」
暖簾の向こうには、鉢巻を巻いた柴犬の獣人がいた。店主らしきその獣人は、カヤツリへ嬉しそうな声を上げる。
「大将……毎回、すいません」
「何、良いってことよ。治安が最近悪くてな。仕入れも俺自身が行った方が良いんだ。境界線まで、セリカちゃんが送ってくれるから安心だしな」
「ああ……新入生ですか」
どうにも、二人は知り合いらしい。今まで見たことのないカヤツリに、ハナコは困惑する。その瞬間だけは普通の学生のように見えたからだ。
ハナコが見守る中、二人は軽い雰囲気で談笑していたが、カヤツリは険しい顔になる。
「それなら、大将。これを。一つは大将にです。残りは十六夜後輩かシロコに渡せば分かるでしょう」
「……嬢ちゃんは良いのかい。多分、待ってるんじゃないのか」
「なら、何で何も言わないんです。シロコや十六夜後輩は電話に出るのに、アイツは出ないじゃないですか。それに俺から謝るのも違うでしょう」
「……似たようなお嬢さんを連れた男の言う事じゃないと思うぜ。俺は」
微妙そうな顔のまま、大将はカヤツリから包みを受け取っていた。分厚い茶封筒と薄い茶封筒。その中身はハナコには何となく想像がついた。きっと山吹色のお菓子だろう。だって、他の客はいない。これはカヤツリの為だけに用意されたものだ。
「それで……坊主のお連れさんはどうする? 何にする?」
「えーっと……」
差し出されたメニューを見るが、ハナコは迷う。こんなところと言うのも失礼だが、ハナコは初体験だ。バージンと言ってもいい。良い感じの揶揄い文句しか出てこない。何を頼めばいいのか分からない。
「……女性客の一番人気でいいんじゃないですか?」
「だそうだが……お嬢さんは、坊主の言う通りで良いのかい?」
こくりと頷いたハナコに、大将は満足そうに笑う。そのまま背中を向けた大将が、カヤツリへと声を投げた。
「坊主はいつものかい?」
「ええ。お願いします。それと……」
「分かってる。俺はラーメンを作る時はラジオが無いと駄目なんだ。何かあれば呼びに来てくれ」
そんな事を言って、大将は屋台の外へ出て行ってしまう。中にはハナコとカヤツリの二人だけだ。
「それで? 話を聞こうじゃないか」
「知り合いですか? あの人」
いきなり大きくなったラジオの音量が被さるくらいの声で、ハナコは問うた。
「何だ。そっちの話に関係あるのか? 関係ないだろう? 俺とお前は、そんな事を気軽に話す間柄じゃない筈だ。そうだろ?」
「……そうですね」
ハナコは、踏みかけた地雷から足をゆっくり離した。それを聞いたところで、ハナコの好奇心が満たされるだけ。本来の目的にはそぐわない。そして、カヤツリと大将の様な関係をハナコが手に入れることもない。少しだけ胸が痛んだ。痛みを振り切るために、ハナコは口を開く。
「なら、本題です。シスターフッドが再び声を掛けた理由ですが、ティーパーティの接触があったのではないかという仮説です」
「……サンクトゥス派ではなく、パテルかフィリウスって? その根拠は?」
「他の派閥が接触する理由がありません。例えば救護騎士団と正義実現委員会。この二つの間なら分かりますが、シスターフッドはそうではない」
それは、活動内容の違いだった。治安維持組織としての正義実現委員会と、負傷した生徒を救護する救護騎士団。治安維持には生傷がつきものだ。積極的に利用する間柄になる。
しかし、シスターフッドの活動内容は違う。大聖堂の管理等の穏やかな活動内容になる。なおかつ、彼女らはトリニティの運営には関わらない。表向きには、そう宣言している。
「……シスターフッドは、活動内容に反して、先輩たちの管轄下にない一定の武力や発言力、独自の指揮系統や情報網を有しています。私が勧誘され続けたのも、それの維持の為でしょう」
「つまり、それらの維持の為に浦和の力が必要な状況が訪れる。そうシスターフッドは予見したと。そんな可能性がある理由は……」
「生徒会組織であるティーパーティの接触があった。シスターフッドの自治を脅かすような」
サンクトゥス派はない。元筆頭とのいざこざで、カヤツリは監視の目を光らせているだろう。となると、残るは二つの派閥しかない。
「動いた切っ掛けは簡単です。エデン条約が迫っていますよね? 先輩が最近忙しいのも、そのせいなんでしょう?」
「……そうだな。最近、連邦生徒会からの圧が強い。抗議に連邦生徒会長に会わせろと言っても、会長はお忙しいとさ。聞けば他の学園に対してもそうらしい。とってもきな臭い」
「抗議? お嫌なんですか?」
「お前、分かってて聞いてるだろう」
カヤツリの追及を、ハナコは笑って誤魔化した。
「エデン条約機構。ゲヘナとトリニティから人員を出す治安維持組織。こんなの不満しか出ない。正義実現委員会は活動理由を奪われる。彼女らは、トリニティを守るために活動しているのであって、ゲヘナを守るためじゃない。ゲヘナの風紀委員会だってそうだろうさ。向こうの上がそうじゃなくても、下はそうなんだよ。それを連邦生徒会は全く分かっていない。本当に嫌になる」
カヤツリは恨み言のように、言葉を並べる。
「そもそも、アビドス出身の俺にあんなことをして許される空気感だ。ゲヘナ相手だとどうなるかなんて、空が青い事よりも歴然としてる」
ハナコですら、容易に想像できる。全くいい想像ではない。
「じゃあ、先輩が各派閥を周ってるのは?」
「下の様子がどうか。受け入れられる土壌なのかを聞いている。無理なら、それを理由にするつもりだ。救護騎士団の団長は別として、各派閥の上も同じ懸念を抱いているんだよ」
「シスターフッドにも聞いたんですよね」
カヤツリが頷くのを見て、ハナコは仮説が合っていることを確信した。
「恐らく、先輩の認知していない所で、誰かがエデン条約の締結に肯定的な接触をした」
シスターフッドからしたら、寝耳に水だろう。エデン条約を結ぶつもりが無い、そう言うスタンスだと思っていたのに、反対のスタンスの接触があったなら。
ティーパーティが割れているとシスターフッドは判断するだろう。もしもの時のための備えに入るのは自明の理だ。
そして、カヤツリは、何事かを考えている様子だった。今まで見たことが無いくらいに、眉間に皺が寄っている。
「……アリウス分派って、浦和は知っているか?」
「……どこで聞いたんですか? アビドス出身の先輩からは、縁遠い昔話ですよ」
アリウス分派。それは遠い昔の言い伝え。かつてトリニティがトリニティでなかった頃。まだ学園の寄せ集めだった時の話。
ゲヘナに対抗するため、数多の学園が合併する第一回公会議。それに反対して迫害された学園だ。それ以降、表舞台には出てきていない。もう滅んだと思われている学園。
「耳に入ってきたんだよ。アリウス分派について。仕事中にな」
「あり得ません。それは埋もれた歴史です。その名前はシスターフッドくらいしか知らないんです。私だってスカウトされた際に調べた時にようやく……待ってください、まさか」
「それを聞いたんだろうな。馬鹿正直に、あのバカは。もしかしたら図書委員会にも言ったんじゃないだろうな……」
とうとうカヤツリは頭を抱えて突っ伏してしまった。どうやら、下手人に心当たりがあるらしかった。カヤツリにとって、信じられない事なのか。うめき声が聞こえる。
「大丈夫ですか……?」
「……大丈夫だ。ただ、あまりのバカさ加減に絶望しているだけだ」
それは、大丈夫ではないというのでは? そんな質問は顔を上げたカヤツリを見て、引っ込んだ。
「ありがとう。浦和。その件は何とかする」
「待ってください。説明位してくれてもいいじゃないですか」
今にも崩れ落ちてしまいそうなほどの疲れ切った顔だ。それこそ、毛髪事件でカヤツリが抗議しに来たくらいの。また、ハナコはやらかしたのだ。ハナコにも罪悪感くらいはある。
「知ってどうする? 意味なんかないぞ」
「聞いたら、もうこの話は終わりにしますよ」
食い下がるハナコが面倒になったのか、カヤツリは億劫そうに口を開く。
「……アビドスでは駄目だった。ゲヘナはもっと駄目。なら、同じトリニティなら?」
「つまり、そう言う事だと? それで、エデン条約を先延ばしに?」
異分子ではトリニティは反発する。なら、元々同じであったアリウス分派なら? きっと受け入れは前の二つよりもいい。
連邦生徒会にも言い訳が立つだろう。今はアリウス分派を受け入れるのに忙しいと。
だが、それは希望的観測に過ぎない。なにせ、アリウス分派が存在するかも怪しい。存在したとして、良い感情をトリニティに持っているだろうか?
そう口を開こうとしたハナコを、カヤツリの視線が射抜いて止めた。
「好奇心で首を突っ込むな。意味なんかないだろ? 浦和にはどうしようもできないんだから」
そう言われれば、ハナコは黙り込むことしかできなかった。カヤツリの言う通りで、ハナコにはどうにもできない事だった。
けれど、何故か胸がざわつく。もどかしさがある。それを解消するのはハナコなら何とかできるかもしれない。でも、それには権力の渦へと飛び込まねばならない。それがハナコに二の足を踏ませていた。
「約束通り、話は終わりだ。俺は大将を呼んでくるから」
「あ……」
だから、ハナコは、屋台を出て行くカヤツリに、何もできはしなかったのだ。
□
『もしもし?』
「聞こえている」
暗い部屋だった。電気もなく月明りだけの暗い部屋。その廃墟で帽子をかぶった少女は無線機からの声に耳を傾けていた。
「それで、お願いだったか。本当にそれでいいのか?」
『うん。きっと上手くいくよ』
無線の向こうからは、幸せそうな声が聞こえる。余りに自分たちとは遠い声に、ざわついた心を押し殺す。
「ティーパーティのホスト。百合園セイアを襲撃する。計画に変更はないと」
『ホントにやっちゃダメだよ? あくまで狂言だからね』
通話相手の少女から、心配そうな声が聞こえた。
『正体を隠したあなたたちが、あなたじゃなくてもいいけど、セイアちゃんをちょっと脅かすの。そこにアリウスが駆けつけてセイアちゃんを守る。そうすれば、セイアちゃんやあの人だって考えを変えてくれるはずだよ』
「しかし、その場にいた理由はどう説明する?」
『私が交渉の為に呼び出していたことにすればいいよ。それで襲撃犯は、こっちで勝手にでっちあげる。居ない人間を作るくらいは訳ないからね』
「なるほど。その功績を持って、アリウスとトリニティの交友に繋げると」
救われた身が、救った相手に強くは言いにくいだろう。そのまま通話相手は押し切るつもりらしい。少女の後ろの大人も頷いている。
「了解した。適切な人員を見繕おう」
『あ! 待って! 最後に絶対やってほしいことがあるの』
「……なんだ」
度重なる注文に、帽子の少女の口調が固くなる。必要条件は少ない方が作戦は成功しやすい。余りに無謀な注文なら拒否するつもりだった。
『あの人が気づくように。セイアちゃんの襲撃に間に合うようにできる?』
「……つまり、他者を狂言に乱入させるという事か? 失敗の危険性が高まるぞ」
『絶対にこれは譲れないの。王子様は、お姫様の危機に駆け付けるものだからね。きっと仲直りできるはずだよ』
帽子の少女は顔を顰めた。向こうの思惑は知らないが、余りにも綱渡りが過ぎる注文だった。しかし、断ろうとした少女を、後ろの大人が止める。
「受けなさい。私に考えがあります」
「分かりました。マダム」
無線に、同じような返事を返すと。礼の言葉と共に通話は切れた。
「フフフ……可愛いものですね? サオリ。貴女はどう思いますか?」
「分かりません。しかし、良かったのですか」
赤い大人と帽子の少女。マダムことベアトリーチェとサオリ。ベアトリーチェの質問に、サオリは懸念の言葉を返す。
余りにも危険だ。狂言の襲撃に何も知らない人間を二人も関わらせるなど。それこそ事故が起こりかねない。これでアリウス側に負傷者が出れば、問題しかない。
「気にする必要はありません。狂言の必要などないのですから」
「マダム。それはどういう……?」
そう言い切るベアトリーチェに、サオリは恐々と意見を伺う。
「聖園ミカの目的は、ティーパーティの掌握でしょう。そのために現ホストである百合園セイアを排除したい。ならば狂言かそうでないかなど些末な事です。百合園セイアが再起不能になればいい」
「しかし……」
「私に逆らうのですか? そもそも、我々アリウス分派はトリニティに弾圧されたのです。向こうの言う事を聞く必要などありません。寧ろいい機会ではありませんか。私が提供した復讐のチャンスを無為にするというのですか?」
脅すように片手を上げるベアトリーチェに、サオリは何も言えなかった。ベアトリーチェの言葉は正しいが、サオリは迷っていた。
微かな信頼の気持ちと言われ続けた憎しみ。憎しみの天秤を反対に傾けるには足りない。
聖園ミカはトリニティだ。しかし、仲良くしたいと。力づくでカタコンベを突破してきた彼女の言葉は嘘ではないと信じたい気持ちも確かにあった。あったが、それだけなのだ。
「了解しました。マダム」
「ええ。物わかりの良い
何かを思い出したのか、ベアトリーチェはサオリを呼び止める。
「聖園ミカが言っていた男。兎馬カヤツリでしたか。彼は私の同僚の駒でした。もしかしたら計画が漏れるかもしれません」
「……そこまでですか?」
「つながりが切れているとはいえ、あの黒服が絶賛するくらいですからね。一応は念のためです。ですから、貴女に命令を」
何かあるのかと、恐怖と困惑に固まるサオリに、ベアトリーチェは冷たく告げた。
「ヘイロー破壊爆弾の支給と、アリウススクワッドの動員を許可します。兎馬カヤツリを確実に殺しなさい」