ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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286話 誤算だらけの銀行強盗

「銀行強盗?」

 

「ああ、現金輸送車で逃げてるんだとさ。確か、覆面水着団だったか……?」

 

 

 ブラックマーケット目前で、車両が止まって動かなくなった。待てど暮らせど動きやしない。その理由を聞きに来ていたサオリは耳を疑ったが、運転手はしっかりと頷いていた。

 

 

「そんで、このサイレンはそういう意味だ。すぐに全ての出入り口が封鎖される」

 

「解けるまで、足止めだと?」

 

 

 再び頷く運転手に、サオリは歯噛みした。

 

 サオリ達がブラックマーケットに着いた途端にサイレンが鳴り響き、もう少しで契約満了。そんな時に足止めされているからだ。

 

 幾ら待てどもちっとも動かない。しびれを切らして、代表としてサオリが聞きに来れば良くない景色しか見えないときた。

 

 目の前では、マーケットガード達がバリケードを組み始めていて、運転手のいう通りに、ここ以外の場所もそうするのが予想できた。もう、銀行強盗はここから出られないことも。それが捕まるまで、ここで足止めを食うことも。

 

 

「この封鎖はいつ終わる?」

 

「そりゃあ、捕まるまでさ。もしかしたらもっとか。無いとは思うが、捕まえらなかった場合はもっとかかるだろう」

 

 

 まぁ一度も聞いたことはないが。そう呟く運転手がサオリをじろじろ見た。

 

 

「何だ? 急ぎか?」

 

「ああ。出来ればの話だが」

 

 

 サオリの答えを聞いた運転手は、腕を組んで考え込む。

 

 

「いい手があるが、聞くかい?」

 

「聞こう」

 

 

 サオリが頷けば、運転手は封鎖されている出入り口を指差した。

 

 

「あそこは完全に封鎖される訳じゃない。もうすぐ検問が始まる。物流を完全に止める訳には行かないからだ。この封鎖は覆面水着団とやらを、このブラックマーケットから逃がさないための封鎖に過ぎない」

 

「待てば入れるということか? しかし、時間はかかるのは変わらないだろう?」

 

「そこだ。ちょいと横入りを許してもらうのさ」

 

 

 ニヤリと運転手は笑って、荷台を指差した。

 

 

「納品先はそこそこの影響力があると言う。遅れたらどうなると思う?」

 

「いい気はしないだろう。そう言って脅すのか? 随分と遠回しだ」

 

 

 サオリは乗り気ではなくなって来ていた。脅しなど回り回って、自らへと跳ね返るのが分かり切っている。まだ賄賂の方がマシというものだ。

 

 

「ああ、違う違う。そう言って、マーケットガードに、ちょいと協力してやるのさ。早く入りたいからお手伝いをさせて欲しいってな」

 

「協力? ……銀行強盗を確保すると?」

 

 

 運転手の言うことは分かる。検問の兵士と取り引きするということだ。

 

 積荷の主は見せ札で、本命は取り引きの方。サオリ達と運転手は早くブラックマーケットへ入りたい。その代わりにマーケットガードへ協力する。

 

 良さそうに聞こえるが、サオリの知識が待ったをかけた。

 

 

「仕事への横入りにはいい顔をしない筈だ。助力は彼らの評価に傷を付ける」

 

 

 それは、あのパグとの護衛で学んだ事だ。任された仕事に、勝手に他者の手を介在させる。それは自らの力量不足を認める事になる。

 

 仕事が出来ませんという証明を自らするはずもない。

 

 

「いつもなら、そうだろう。だが今回は話が別なんだ」

 

「別だと? 捕まるまで待てば……」

 

 

 運転手は自信満々な様子を崩さない。サオリには分からない何かがあるらしい。コッソリとサオリは無線の電源を入れた。

 

 

「地区の封鎖事態は珍しい。が、こんな理由じゃ初めてなのさ。大体は古びたライフラインの復旧のためとか、大量に持ち込まれた商品に爆発の危険性があるとか。止むに止まれぬ、そんな理由だ」

 

 

 運転手の話の意図が、まだサオリには分からなかった。無線の向こうのミサキとヒヨリも分からないのか、合図も何も無い。

 

 

「今回は違う。たかが銀行強盗だ。封鎖まで行くのは、よっぽど何かがあったんだろうぜ」

 

「銀行強盗は大事だろう」

 

「確かにそうだ。ここですら、銀行強盗ってのは軽くない。でも、考えてみればおかしいのさ。今までかつて、闇銀行に強盗を仕掛けた人間が全く居なかったわけじゃない。それなのに、長くこの仕事をした俺すら、こんな事態は初めてなんだ」

 

「マーケットガードが梃子摺っていると?」

 

 

 ここで、漸く。サオリは運転手の言わんとする事を理解した。

 

 今までの封鎖は、止むに止まれぬもの。ブラックマーケット全体の問題に関わる事だった。

 

 しかし、今回は銀行強盗。封鎖するにしろ、ブラックマーケット全体を巻き込む必要は無い。精々が周辺地区でいい。

 

 それなのに、全体を封鎖するという事は、逃亡する銀行強盗を止められていないのだ。だから、先んじてブラックマーケットを封鎖した。

 

 

「成る程、今の状況だからこそ、マーケットガードは人手を欲しているというわけか」

 

「そうさ。自主的な協力という体であれば、先に何人かをマーケットガードの協力者として通してくれる筈だ。ちょろっと手伝ってやればいい。このまま外で待つよりかは早いと思うぜ」

 

「しかし、失敗したらどうする。私達のせいだと、そう言われたら」

 

「ハハ! そんな事、口が裂けてもマーケットガードは言えない。自らの失敗を協力者に擦り付けるなんてことはな。自分で引き入れる決断をしたのに、そんな事を言えば状況が悪化するだけだ」

 

 

 サオリの不安を運転手は笑い飛ばす。何回か考えても、道理は通っている。無線の向こうからも、二人の同意する声もある。

 

 サオリが乗り気になったのを見抜いたのか、運転手は運転席の扉を開けた。

 

 

「そんで仕事はまだ継続中、終わりかけとはいえ、流石に護衛全員を放出はできん。それにマーケットガードは支援火力を求めている筈だ」

 

「分かった。後ろの二人を向かわせるとしよう。火力からして私が残った方がいい」

 

 

 サオリと運転手は納得して、サオリは今度は隠さず無線で二人を呼んだ。

 

 

 □

 

 

「あわわわ! 右です! その次は左……!」

 

 

 ホシノの耳には、阿慈谷ヒフミの焦った声が響いていた。その声に従って、右へ左へと車──現金輸送車がブラックマーケットを駆け抜ける。

 

 そして、通り抜けた後にマーケットガードからの銃撃が殺到する。現金輸送車の後方、もう銃撃でボロボロになったバックドアを食い破ろうとしてくる。

 

 

「ん! 来てる!」

 

「分かってるよ!」

 

 

 そうなる前に、ホシノはバックドアをあけ放つ。現金輸送車のその中に紛れたロケットランチャーの弾頭を撃ち落し、残りの銃撃は盾で防ぎつつ、ホシノは現金輸送車で自問自答していた。

 

 

 ──どうしてこんなことに……!

 

 

 今の状況は良くない。奪い取った現金輸送車で、ホシノたちはマーケットガードからの逃走の真っ最中だった。

 

 やったことを考えればこうなる事は必然ではあった。しかし、こんなことになるはずでは無かったのだ。

 

 

 ──ん。銀行を襲う。

 

 

 始まりは、シロコのそんな一言だった。借金返済の為に銀行強盗をする。そんな、本気か冗談かもわからない、シロコが常々言っていること。普段なら反対されるはずのそれは、今回は反対されなかった。

 

 それは、目的が現金輸送車に積まれている金や、銀行にあるであろう金銭では無かったからだ。

 

 ヘルメット団が使用していた違法な装甲車。その出所を調べるため、ホシノたちと先生はブラックマーケットにやって来た。

 

 日頃の行いが良いせいか、不良に襲われていたところを助けたトリニティ生──阿慈谷ヒフミはブラックマーケットに恐ろしく詳しく、装甲車を売っている所は直ぐに把握ができた。

 

 その結果は、まったく芳しくはなかったが。

 

 結果は、何も分からなかった。つまり、あの違法な装甲車はブラックマーケットで調達はされなかったことになる。

 

 

 ──おかしいです。

 

 

 しかし、その考えにはヒフミが待ったをかけた。

 

 

 ──もう一つの可能性があります。徹底的に痕跡を隠したという可能性です。しかし、それはおかしいんです。

 

 

 ここはブラックマーケット。脛に傷持つ者しか集まらない、キヴォトスの公権力が及ばない場所。そこでは大っぴらに悪事が行われているという。実際、ホシノたちも何度も目撃していた。

 

 そして、それをよく知っているだろうヒフミは、こう言うのだ。

 

 

 ──何故隠すんでしょう? 誰も咎める人はいないのに。私も教えてくれた人から話に聞きましたが、ここはヴァルキューレはおろか、連邦生徒会も手を出さない場所なんですよ? 少なくとも、他の人達はそうしています。でも、装甲車を横流しした人は違うみたいです。

 

 ──一体誰から隠そうとしているんでしょう? その人だけには絶対にバレたくない。そんな気持ちを感じます。

 

 

 ヒフミが可愛らしく、小柄な顔に似つかわしくない考えを展開している最中に、ホシノたちは答えを見つけてしまった。

 

 それは、アビドスからの利息を回収するカイザーの現金輸送車。本来なら、ブラックマーケットに居ていい存在ではない。それがブラックマーケットに居る。その事実はホシノたちへ、一つの想像を掻き立てさせた。

 

 

 ──カイザーは闇銀行を利用している。そして、アビドスの利息を何かに悪用している。

 

 ──そして、それは現金輸送車の中にあるだろう集金・送金記録。それが全てを教えてくれる。

 

 

 強盗をしよう。シロコの言葉に、誰も反対しなかった。先生だけは、何か困ったような、焦ったような顔をしていた。きっと、止めようとしていたのだと思う。

 

 でも、説得の材料はなかった。手詰まりである中の唯一の手掛かりであったことは事実だし、シロコは全員分の覆面を用意してやる気満々、真っ先に反対する筈のヒフミが真っ先に紙袋を被る始末。

 

 当初の計画はシンプルだった。覆面を被って、現金輸送車を襲撃。それだけのはずだった。しかし、そう上手くはいかなかったのだ。

 

 ホシノたちがタイミングを伺っている間に、現金輸送車は銀行へと入って行ってしまった。そこで一旦引けばよかったものを、唯一の手掛かりが諦められないホシノたちは、銀行強盗へとシフトした。

 

 そこで、もう一つの誤算が起きた。銀行内には想定以上の警備兵が詰めていたのだ。

 

 

 ──アル様をバカにするなんて…………!!

 

 

 ホシノたちが突入する前に、以前にアビドスに攻撃した便利屋68が何か騒動を起こしたらしい。名乗りと共に突撃した瞬間、ショットガンを持ったハルカとか言われていた生徒が激怒していた。社長のアルはまさかの事態に白目を剥いていたが。

 

 その鎮圧のためか、シロコが想定したよりも多くの警備を相手にしなければならなかった。

 

 そして、時間をかけ過ぎた銀行強盗の末路は決まっている。目的のモノを手に入れたものの、ホシノたちは完全に包囲されてしまった。

 

 ホシノだけなら何とかなる。後輩を庇いながらの強行突破も不可能ではない。けれど、ここには後輩たちやヒフミ、先生がいる。生徒である自分たちは兎も角、先生は難しい。特に足の速さと持久力が致命的だ。

 

 だから、現金輸送車で強引に突破するしかなかった。後部からホシノとシロコ、ノノミとセリカが交代で弾幕を張り、道に詳しいヒフミが逃走経路をナビゲート。そしてアヤネが遠隔で運転、それを先生がタブレットでサポートする。

 

 それは、途中までは上手くいっていた。

 

 

「ダメです! また、バリケードが!」

 

『どこかに掴まってください!!』

 

 

 ヒフミの悲鳴と共に、アヤネがハンドルを切る。地面に黒い線を残しながら、強引に方向転換を敢行した。冷や汗を拭いつつ後ろを見れば、追手が増えてきていた。

 

 ヒフミは確かに道に詳しかった。しかし、相手もそうなのだ。的確にバリケードが築かれていて突破できない。

 

 強引に突っ込めば、一度か二度は突き破れる。しかし、それは車の減速と引き換えだ。後ろに追手が迫っている以上は最後の最後。それこそ、ここから先は出口。そんな状況でしかその手札は切れない。

 

 

「また!」

 

 

 また迫るロケットランチャーにホシノは舌打ちした。今度はシロコが撃ち落すが、ホシノはシロコの前に滑り込む。

 

 強い手ごたえと共に、ホシノはシロコを狙った狙撃を防ぎ切った。

 

 

「ごめんなさい」

 

「いいんだよ。次が来るからね」

 

 

 礼を言ったシロコを慰めながら、ホシノは遠方を睨んだ。ガスマスクを装着した二人組が車両から攻撃を加えてきていた。

 

 他の追手とは違う。手口が非常に陰湿だ。派手なロケットランチャーの攻撃と迎撃の爆炎に紛れて、狙撃を撃ち込んでくる。今の所は対応できていても、それが永遠に続くわけではない。

 

 いつかは限界がやって来る。それはゆっくりと、でも確実に、ホシノたちへと忍び寄っている。

 

 

「……覚悟を決めるべきかな」

 

 

 ホシノは、誰にも聞こえないように呟く。ホシノだけには、これをどうにかする手段があった。

 

 簡単だ。昔からあるとっても単純でシンプルな方法。かつてのホシノの得意技。暴力である。

 

 ここから飛び降りて、追手を全て殲滅するのだ。そうすれば後輩たちは逃げ切る事は出来る。問題は、彼女たちが納得するかどうか。

 

 絶対に納得してはくれないという確信がホシノにはあった。きっと手伝うとか、一緒に戦うとか言うに決まっている。だが、足手まといでしかない。そして、そんな事は絶対にホシノは言いたくないのだ。

 

 だから、今も言い出せずにいる。後輩たち全員が諦めるまで、この手段は取ることが出来ない。

 

 

「カヤツリが居たらな……」

 

 

 ホシノは、ありもしない事を未練がましく舌で転がす。

 

 カヤツリが居たら、きっとどうにでもなった。この状況も、ホシノが考えている最終手段も、カヤツリが一緒ならどうだってできる確信がある。シロコには悪いが、一番ホシノに合わせられるのはカヤツリだけだ。

 

 そもそもが、カヤツリが居たらこんな状況にはなっていないように思う。多分、銀行強盗はおろか、現金輸送車を襲うと言った時点で怒ったかもしれない。

 

 

 ──逃走経路を確保してからって、最初に教えたはずだよな? 基本のキだって。

 

 

 そうそう、こんなことを言って、シロコに怒るだろう。それで止めもしない。止められなかったホシノにも。

 

 しかし、それはあり得ない想像だ。そう思いつつ、甘い空想をホシノは飲み込んで、注意深く様子を伺う。

 

 全員が諦めていない。でも、不安に腰元まで浸かっている。それに対して見ない振りも限界に近づいている。

 

 ホシノは覚悟を決めた。

 

 

「おじさんがさ。全部足止めするよ」

 

「何言ってるのよ! ふざけたことを言わないで!」

 

 

 それを聞いた途端に、セリカが激怒した。他の全員も、怒ってはいないものの、セリカと似たような思いなのが分かる。

 

 

「何で諦めるんですか!?」

 

「でも、このままじゃジリ貧だよ? 誰かが足止めしなくちゃ逃げられない。それに、包囲が完成したら、どうしようもなくなっちゃうよ?」

 

 

 努めて明るい口調で言うと、ノノミは悲しそうな顔をして口を噤んだ。

 

 

「ほら、おじさんも止めなかったしさ。だいじょぶ、だいじょぶ。折を見て逃げ出すからさ、おじさんは案外強いんだよ」

 

「でも……! 何かあるはずです! 私も考えますから! ハッピーエンドへの道は必ずあるはずです!」

 

「魔法使いは居ないんだよ。ファウストちゃん」

 

 

 冷たいホシノに、ヒフミも言葉を失う。他の人間もそうだ。先生とアヤネは運転でそれどころではない。ノノミとヒフミは無力化。あとはセリカとシロコだけ。

 

 シロコは反論できない。じっと後ろを警戒したままだ。だって、銀行強盗を提案して強行したのはシロコだからだ。セリカも、普段の様に丸め込めばいい。

 

 

「それでいいの?」

 

「いいんだよ。これがおじさんの役目だからね」

 

「これでいいのかって聞いてんのよ!!」

 

 

 らしからぬセリカの言葉遣いに、ホシノは目を丸くした。

 

 

「決めたんでしょ! これが終わったらって! あの時のそれは、その程度の物だったの!? こんな簡単に投げ出せるくらいの後悔だったのかって聞いてんのよ!!」

 

 

 ホシノはセリカ以外の皆と同じように言葉を失った。セリカの言葉は正しくて、その通りで、反論の言葉が見つからない。

 

 議論が脱線している。今話すのはこの状況をどうするのかであって、カヤツリに対するホシノの事情などは関係ない。けれど、話の流れを持って行かれてしまった。

 

 

「今度は真っすぐ…………」

 

『ダメです!』

 

「じゃあ、もう道が──!」

 

 

 沈黙に満たされていた車内を、アヤネとヒフミの悲鳴が切り裂いた。前を見れば、完成したバリケードが待ち構えていた。ヒフミの顔は紙袋の上からでも分かるほど青い。

 

 とうとう時間切れだ。もう、どうしようもない。ホシノが足止めするしかない。そう思って、ホシノは勢いよく立ち上がり、大きく目を見開いた。

 

 

「え…………?」

 

 

 轟音を立てて、前方のバリケードが吹き飛んだからだ。そのままバリケードの残骸はホシノたちを素通しした。

 

 

「何!?」

 

「後ろからの誤射ですか!?」

 

「違うよ……」

 

 

 眼前のバリケードが破壊される。突然の事態にセリカやノノミが慌てるが、シロコが静かに否定した。

 

 

「ドローンが爆撃した。ほら、あそこ」

 

 

 シロコの指の先には、上空を飛行する黒いドローン。それは、ホシノたちを追い越して、前へ着く。

 

 

「また!?」

 

 

 セリカの叫びの通りに、ドローンはその先のバリケードも破壊する。そして、備えつけの車の無線が雑音を発し始めた。

 

 

『ブラックマーケットへ銀行強盗。どんな計画かと思えば…………行き当たりばったりとはね。呆れた。逃走経路の確保は基本のキでしょうに』

 

 

 無線から流れたのは聞いたことのない声だった。でも、分かる。ホシノの心に小さな灯がともった。

 

 

『覆面水着団。そして、ファウストでしたか。ブラックマーケットに慣れたからと高をくくっていた割には、随分と大層な名前ですね?』

 

 

 こちらに呆れたような言葉を投げてはいるが、これがドローンの主らしい。その口調は似ても似つかない。でも、知っている。心を覆っていた悲しみが解けていくのを感じる。

 

 

『しかし、困っているのは私も同じです。ここからの逃亡。その助力をしてあげましょう』

 

 

 ホシノは知っている。分かっている。あのドローンの飛ばし方と軌道、攻撃タイミングを知っている。もっと多くを飛ばせることも。そして、口調や声が似ていなくても、言葉の間隔や言葉の選び方を分かっている。一年しか居なくても、ホシノにはそれだけで十分だ。

 

 そして、何より、ホシノの心がそう叫んでいる。だから、ホシノは涙が滲む目を擦って、歓喜した。

 

 

 ──何やってんのさ……カヤツリ……!

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