ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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287話 そして、一二時の鐘が鳴る

「あなた、一体誰なんですか!? なんで、私の事を…………」

 

 

 感動と歓喜で打ち震えるホシノをよそに、ヒフミが叫んでいた。両手で自分の身体を抱きしめて、怯えた表情をしている。

 

 それもそうかもしれない。暫定カヤツリ──無線の声の台詞を思い返せば無理はない。

 

 

 ──ブラックマーケットに慣れたからと高をくくっていた割には、随分と大層な名前ですね?

 

 

 慣れたからという事は、慣れていない時を知っているという事。つまり無線の声は、ファウストが阿慈谷ヒフミである事を知っているのだ。

 

 

『トリニティ生が何回もブラックマーケットに通っている。どうして、その事実を誰も気にしていない。危なくないなんて考えに至るんですか? だから、あなたは一度、こっぴどく叱られたはず。あなたの行為があなたのお友達に及ぶこともあるのだと。よくよく考えて行動しなさいとね』

 

「それは……そうですが。だから、教えてもらって……」

 

『ええ、貴女の友人(ナギサ)友人(セイア)に頼まれた人間があなたに教えましたとも。最低限のブラックマーケットの歩き方をね。ペロロ様でしたっけ? 時々授業をさぼって、そのグッズを買いあさるくらいは問題ありませんでした。しかし、これは大問題です』

 

 

 無線の向こうの声は、完全に呆れていた。ホシノには呆れかえって首を振るカヤツリの姿が見えるくらいの呆れっぷりだ。

 

 

『ブラックマーケットに銀行強盗? しかも碌な準備もせずに? 捕まったらとは考えなかったんですか? 自分の身や、今も大変な、あなたの友人がどんな風に思うか。一片たりとも考えなかったと? 下手したら退学になりかねないんですよ?』

 

「うううう…………」

 

 

 ヒフミは正論でボコボコに殴りつけられて、呻くことしかできていなかった。何となく事態を把握したのか、先生が動く。

 

 

「君の目的は、私たちを助ける事なんだね? なら、この娘に怒るのは後でも出来るんじゃないのかい? それに、私たちにも事情があったんだ」

 

 

 一瞬、無線の声は黙った。何か先生に思う所があるのか、大きな舌打ちが聞こえる。

 

 

『……チッ、物は言いようですね。それで、あなたが先生ですか。この状況になるのを分かっているでしょうに。止めもしなかったのは理解不能ですが。その言葉は理解できます。いいでしょう。話を戻しますよ』

 

「じゃあ、どうして助けてくれるんだい?」

 

『それこそ後でもいいでしょうに。ああ、私が誰だか知りたいんですか?』

 

「状況が状況だからね。当然の疑問だと思うけど」

 

『この状況で聞きますか……? 頭がおかしいんじゃないですか?』

 

 

 無線の声の苛立ちが増したように聞こえた。けれど、操作されているであろうドローンは乱れもせずに、再び立ちはだかるバリケードを粉砕した。

 

 

『単純に、この状況が不都合なんですよ。ここにその娘がいたことが公になってはいけない。あまつさえ銀行強盗の主犯だなんて』

 

「じゃあ、君は……トリニティの人間なのかい?」

 

 

 その先生の問いに声は答えない。物わかりが悪い子供に怒る大人の様にどういえば伝わるかを考えているような間だ。

 

 

『私の上司がですね、そこの娘と友人なんです。それで、上司は今忙しいんですよ。きっと心労も溜まっているでしょう。そこでへこんでいる彼女との交流が唯一の癒しと言ってもいい。それなのに、この娘が捕まる。またはブラックマーケットに出入りしている。あまつさえ銀行強盗をした。どれか一つでも耳に入ればどうなると思いますか?』

 

「それは……」

 

 

 誰でも答えは分かる。きっとショックだろう。それどころか、立場の所為で会えなくなるかもしれない。その人間が本当にいるかどうかはホシノには判断できない。ただのカヤツリの作り話かもしれない。でも、この場に介入する理由としては真っ当なように聞こえた。

 

 

『ですから、私の上司と私の安寧の為。ブラックマーケットにその娘は居なかった。そういう事にしたいんですよ。ですので、私の上司の事をその娘から聞き出して。私を探すなんてことはしないで下さいね?』

 

「それは、どうして?」

 

『察しが悪いですね……いえ、だからこそ銀行強盗なんかするんでしょうが……』

 

 

 いいですかと。無線の声は真面目なトーンになる。

 

 

『私を探すのなら、上司にこのことを説明しなければならないじゃないですか。その結果、私の仕事は増える、その娘はトリニティから出られなくなる、私の上司は心労で倒れる。ほら、何の意味も無くなります。誰も得をしない。ああ、先生の自己満足は満たされるかもしれませんね』

 

「そうか、分かったよ……」

 

 

 渋々と言ったように、先生は了承していた。先生の人柄からして、きっと、ちゃんとお礼を言いたかったのだろう。しかし、相手は暫定カヤツリだ。今もホシノに何も言わないくらいだ。正体など知られたくないに決まっている。

 

 

 ──でも、どうして助けてくれたんだろ……?

 

 

 このままバリケードを破壊して突き進むという脳筋全開の作戦を耳に入れつつ。ホシノは再度考える。

 

 普通に考えれば、カヤツリにメリットはない。あんなことを言って、喧嘩別れしたホシノにここまでする理由はない。

 

 

 ──もしかして、私と同じなのかな……?

 

 

 都合の良い妄想かもしれない。でも、そうでなければこんなことはしないように思う。嫌いであれば放っておけばいいのだから。

 

 カヤツリなりに、懸命に正体を隠してはいるが。リスクはリスク。無駄なリスクを踏むのは、カヤツリらしくない。なら、それを覆すほどの理由があったはずだ。それは、ホシノの事を見捨てられなかったのでは?

 

 

 ──でもどうして、ここに居たんだろ? それに、ヒフミちゃんの事も知ってるみたいだった。

 

 

 ブラックマーケットに住んでいるから知っているし、居たのだろうか。いいやとホシノは首を振る。きっと偶々だ。偶々、現金輸送車で逃げるホシノを見たのかもしれない。カヤツリなら、覆面くらいでは見抜かれてしまうから。ヒフミも何回か見たことがあるのかもしれない。あのトリニティの制服は目立つから。

 

 でも、行動は嘘を吐かない。カヤツリは行動した。

 

 

 ──あんな酷いことを言ったのに、助けてくれたんだ……。

 

 

 偶々、現金輸送車で逃げるホシノを見て。カヤツリは慌てたのだろう。多分、ハッキングか何かで監視カメラの映像を抜いて、事情を把握したのかもしれない。それで、何とかカバーストーリーを即興で考えてまで助けてくれたのだ。

 

 とても、嬉しい。何だか身体がポカポカする。そんな状況ではないはずなのに、ホシノは高揚していた。

 

 

『そこのボケーッとしてるチンチクリン!』

 

「うへぇ!? 何!? 何なの!?」

 

 

 いきなり指名されて、ホシノは現実世界に引き戻される。状況が把握できないホシノへ、無線の声は大きく息を吐いた。

 

 

『無視してるのかと思いましたが、聞いてましたか? ショットガンを使ってたチンチクリン』

 

「何って、このまま出口まで突っ切るんでしょ。バリケードはカ……君が何とかするんだし」

 

『は……!? チッ……やっぱりか。あなた聞いていませんでしたね。チンチクリン』

 

 

 その通りなのか、周りが呆れた目でホシノを見ていた。何とか挽回しようにも、何もできなくて。ホシノは気まずそうに黙るしかない。何故か、無線の声も気まずそうに黙っている。

 

 

『……いいですか? 一番の問題は後ろに引っ付いてる奴等です』

 

 

 忌々しそうに無線の声は、後ろの追手を指摘した。複数のドローンが同じように爆撃をするがあまり効いていない様子だった。

 

 

『アイツらを振り切らないと意味がありません。所属がバレては意味がない。しかし、向こうの車両は戦闘用。その距離だと対物ライフルでないと抜けません』

 

 

 その上ドローンは脆い。搭乗者の射撃が致命傷になる。今もかく乱で精一杯なのは見てわかった。

 

 

「どうするの?」

 

『あなたの出番です。チンチクリン』

 

 

 いい加減、チンチクリンはやめてほしかったが仕方がない。カヤツリもホシノとは呼べない。だからグッとホシノは我慢する。

 

 

『あなた、さっきまで一人で戦おうとしていたでしょう? 自信があるんですよね?』

 

「あるけど……至近距離からショットガンでエンジンを打ち抜けっての?」

 

『分かってるじゃないですか。それ用の弾くらいは持ってきてるでしょう?』

 

 

 挑戦的に無線の声は笑っているが、一つだけ問題があった。

 

 

「弾はあるけどどうするの? 飛び乗ったところで、私が戻ってこれないんだけど」

 

 

 そうだ。車を奪うならまだしも、破壊するのなら。ホシノはそこで置いてけぼりだ。最初と何も変わりはしない。

 

 

『……鯨狩りは得意でしょう?』

 

「え……?」

 

『足場は用意します』

 

 

 無線の声が言わんとするところは分かった。鯨狩りなんて該当するのは一つしかない。そして、あの時にホシノはどうしたかも。

 

 でも、今はそんな事はどうでもよかった。だって、それを知っているのは……。

 

 

「待っ──」

 

『さぁ、始めますよ! もう、猶予がありませんからね!』

 

 

 聞こうとしたホシノを置いてけぼりに、無線は切れてしまった。確かにそろそろ出口になるのが分かる。遠くに見えるビルの隙間から、砂原が見え始めていた。

 

 各々も準備に入っていた。ホシノがバックドアに目を向ければ、さっきよりも近づいた追手が攻撃を強めていた。ドローンのかく乱が終わってしまったからだ。

 

 その代わりに、誘うようにドローンが至近距離に浮いていた。ホシノは思う所しかないが、勢いよく追手に向かって飛び込んだ。

 

 

「バカが! 血迷ったか!」

 

 

 運転士が当然のようにブレーキを踏む。ホシノの落下予測地点から車両は遠ざかってしまった。このままでは地面に激突する未来しか待っていない。

 

 けれど、ホシノには不安はない。だって、カヤツリが言ったのだ。足場は用意すると。

 

 

「なっ!?」

 

 

 宙を踏みしめたホシノを見て、運転士の驚愕の声が聞こえる。別に魔法を使ったわけでは無い。ただ、ドローンを踏んだだけだ。あの時と、ビナーのミサイルを踏み台にした時と同じように。

 

 そのまま、エンジンを装甲の上から打ち抜く。周りの追手が動揺したように距離を取った。

 

 でも関係ない。そのまま次の目標へと飛ぶ。そして、上に伸ばした片手にスッポリとドローンが飛び込んでくる。

 

 取っ手のついたそれを掴めば、まるで鳥の様にホシノを飛ばしてくれた。唖然とする後部座席の追手へショットガンを掃射する。

 

 

 ──楽しいな。

 

 

 思うように身体が動く。敵が見なくても何処に居るか分かる。戦況がホシノの想定を外れない。

 

 

 ──終わってほしくないな。

 

 

 とても心地が良い。昔に戻ったみたいで気持ちが良い。銃声と爆発音をBGMに、カヤツリの手を取ってダンスしているみたいだ。ずっとこのまま──。

 

 

「あ……」

 

 

 最後の一台。陰湿だった狙撃手と砲撃手が乗った車が、エンジンを打ち抜かれて瞬く間に遠ざかっていく。

 

 流れるようにドローンで車両に戻ると、車内は歓喜の渦に包まれていた。前方のバリケードは跡形もなく、後方の追手もない。前には明るい砂原が開けていて、ホシノたちが飛び込むのを待っている。

 

 

 ──終わっちゃった……。

 

 

 もう、夢の時間は終わりだ。そんな喪失感がホシノを襲っていて、周りの後輩たちと同じように素直に喜べなかった。

 

 もっと、もっと。あの時間が続いてほしかった。無いと思っていて、与えられないと思っていた時間。それは中毒の様にホシノを蝕んで、その残り香を探すようにホシノの目はドローンを探していた。

 

 

 ──いた。

 

 

 静かに、無言で。活躍していたドローンたちはホシノたちから遠ざかっていた。遠くに見える電波塔。その頂上へ向かっていく。

 

 きっと、そこに居るのだ。カヤツリが居る。少しでもいいから一目見たくて、ホシノは目を凝らした。

 

 普通なら見えないはずだった。でも、何故か見えたのだ。一瞬だけだがよく見えた。

 

 

 ──カヤツリだ。

 

 

 銃口から硝煙が上るライフルを抱えながら、片手でドローンを操作している。あんまりにも懐かしくて、涙がこぼれた。そのまま満足して目を閉じようとしたホシノの視界に、何かが映り込んだ。

 

 

 ──誰? その女……。

 

 

 白い高そうな服を着た少女だった。その少女の雰囲気も着ている服に負けていない。そんな深窓の令嬢。そんな雰囲気の少女が不満そうにカヤツリを睨んでいる。

 

 さっきまでの感動の涙が引っ込んだ。何かふつふつと湧いてくるものがある。胸の中がぐちゃぐちゃになる。

 

 

 ──ソイツが居るから、帰って来ないの? ソイツは誰なの? 私よりソイツが大事なの?

 

 

 真っ黒で濁った。ぐつぐつと煮込まれたものが喉の奥を焼く。今すぐに問い詰めに行ってしまいたかった。

 

 今ならできる。そんな予感もする。そうすれば全部が終わってしまう。そんな予感もあって、ここに来る前のホシノなら迷わなかっただろう。

 

 でも、カヤツリはホシノを助けてくれた。そうはしなくてもよかったのに。最後にはお互い分かってしまったが、正体がバレてしまうかもしれないのに。

 

 だったら、ホシノも少しは我慢するべきだろう。

 

 

 ──聞きに行こう。この件が終わったらすぐに。先生でも、大将でも何でも使って。

 

 

 真っ黒な滾る想いを飲み込んで、ホシノは電波塔をずっと睨んでいた。見えなくなるまで、ずっと。

 

 

 □

 

 

「何を不機嫌になってる?」

 

「なってない」

 

 

 ブラックマーケットからの帰り道。居心地悪そうに聞いてくるカヤツリに、アツコは心底不機嫌に答えた。

 

 

「見るからに不機嫌じゃないか……」

 

「だって、早く帰るって言ったのに」

 

 

 そうアツコが詰めると、カヤツリは気まずそうな顔をした。その反応すら気に入らなくて、アツコは口をとがらせる。

 

 

「ヒヨリとミサキの乗った車を狙撃したでしょ。多分、ヒヨリは気づいたよ。怯えた顔してたから」

 

「だって、アビドスには荷が重い」

 

「ふーん。そう」

 

 

 アツコは言葉上では納得した。けれど、全くそうは思っていない。それをカヤツリも感じたのか、ため息をついて、逃げるようにアツコの前を歩いた。

 

 

 ──嘘つき。

 

 

 心の中でカヤツリを罵倒する。カヤツリはとんでもない嘘つきだ。

 

 

 ──嘘つき。荷が重いなんて、欠片も思っていなかったくせに。

 

 

 普通なら確かにそうかもしれない。なんだかんだ言って、アリウススクワッドは精鋭だから。

 

 だが、支援役であるアツコですら、あの小柄の桃色の少女。アレが飛びぬけて強いのは分かる。それをカヤツリは最初から分かっていて、暴れさせたのだ。

 

 大量のドローンを贅沢に使って、あの娘の為の戦場を作り上げた。その上、あの通信。完全に通じ合っていた。

 

 

 ──嘘つき。嘘つき。

 

 

 それに、抜けているように見えるヒヨリだって、そこらの生徒の数倍も強い。

 

 それゆえに、カヤツリに狙われた時。襲撃の時の恐怖を思い出したに違いないのだ。暗闇の中、自分の得物を破壊された時の狼狽ぶりは凄まじかったから。

 

 だから、感づいたはずだ。カヤツリがブラックマーケットに居ると。そして、ヒヨリもミサキも居たのだから、サオリだっているはずだ。

 

 そんなことくらい、あの二人を見た時にカヤツリだって分かっていたはずだ。

 

 それでも、カヤツリは介入したのだ。あの現金輸送車に乗った彼女たちを助けるために。

 

 ブラックマーケットの中枢にハッキングして、監視カメラを手中に収めた。そして、何かを調べていた。明日のゲヘナの為に用意した。アツコの為に用意した装備を迷う間もなく使った。

 

 それは、あり得ない事だった。全く平等ではない。アツコが抱いたカヤツリのイメージとは全く違う。本当なら見ないふりをするのが当然だった。

 

 

 ──アビドスはカヤツリの故郷。故郷の仲間だから助けたの?

 

 

 そんなわけはないと、アツコは自分で否定した。困っているなら、アツコだってそうしただろう。しかし、今回は違う。銀行強盗をして捕まりそうになる。完全なる自業自得でしかない。

 

 だったら、答えは一つしかない。

 

 

 ──嘘つき。あるじゃない。決めた事。

 

 

 カヤツリは言った。流されて生きてきたと。だから敗戦処理が上手いだけなのだと。

 

 でも、今回は違った。カヤツリは流されないで、自分で選択して行動したのだ。そうしたいとカヤツリが願って、選んだ。

 

 カヤツリにとっては、そうするだけの価値があるのだ。

 

 その対象がアツコでなかったのが、何故だかとても悔しい。苦しい。腹立たしい。

 

 

 ──嘘つき、嘘つき、嘘つき!

 

 

 さっきまでの、現金輸送車に遭遇するまでの気分が台無しだった。魔法が解けてしまった。結局、アツコはついでだったのだ。だから、こんなにもイライラして……。

 

 

 ──何で、私。こんなにイライラしてるんだろ……?

 

 

 考えてみればおかしい。だって、そうだろう? アツコはカヤツリを襲撃したのだ。それで、流れ流れてここまで来た。カヤツリは必要だからそうしたに過ぎないのに。そうだと納得していたはずなのに。どうして、アツコはここまで腹立たしいのだろう。

 

 

 ──ああ、そっか。そういうことなんだ。

 

 

 その答えはすぐに分かった。自分で聞いたくせに頭から抜け落ちていた。それは自然にそうしたいと思ったから。

 

 

 ──私は見ていて欲しいんだ。私だけを見ていて欲しいんだ。誰にもよそ見をして欲しくないんだ。

 

 

 だから、目移りしたカヤツリに、こんなにも怒りを覚えている。あの時言えなかった言葉だって、そういう意味だ。

 

 アツコの夢が叶う所を見ていて欲しかった。そして、言ってやりたかったのだ。あなたと一緒だから、あなたが手伝ってくれたから。ここまで来れたんだよと。あなたが水をくれたから、ここまで綺麗に咲くことが出来たのだと。

 

 願わくば、カヤツリと一緒に叶えたかったのだ。目的が無いなら、これでもいいはずだから。

 

 でも、カヤツリは持っていた。自分ではそうは思っていなくとも、そう言えるものを持っていたのだ。

 

 

 ──でも、嫌だな。諦めるのは嫌だ。

 

 

 今までなら、諦めただろう。でも、アツコはそうしないと決めたばかりだ。それに簡単には諦められそうにない。それに、勝算もある。

 

 

 ──ヒナ相手にはマコトは拗らせてるからね。小鳥遊ホシノに対するアンタと同じさ。

 

 

 盗み聞きした会話だ。小鳥遊ホシノというのが、あの小さな少女なのだろう。拗らせているというのが本当なら、まだ終わったわけでは無い。

 

 だから、まずは情報収集だろう。聞く相手は丁度明日に会う。それで、どうするか決めるのだ。

 

 魔法の時間は終わったが、それだけだ。ここからはアツコ自身が行動しなければならない。

 

 

「私、負けないよ」

 

 

 カヤツリに聞こえないようにポツリと呟いて、アツコはカヤツリの跡を追いかける。とりあえずは、ゲヘナの話し合いを成功させることからだ。

 

 不安だったはずのそれは、今のアツコには怖くもなんともない。夢を叶えるための一歩を、強くアツコは踏み出した。

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