ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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290話 黒服のひとりごと

 黒服のオフィスには珍しく大勢の客が訪れていた。普段とはかけ離れた賑やかさ。黒服は距離を取って、デスクからそれを見ていた。

 

 三人の少女が一人の少女に抱き着いている。抱き着いている三人は涙ぐんでいて、うち一人が喧しい。けれど、抱き着かれている方は全くに気になっていない様子だった。

 

 それも当然だ。なにせ数週間ぶりの仲間との再会なのだから。

 

 

「感動の再会が出来たようで何よりです」

 

 

 そろそろだろうと、黒服が声を掛けるとリーダーである錠前サオリがすっと居ずまいを正した。

 

 

「黒服……といったか? 感謝する。おかげで姫を見つけることが出来た」

 

「クックック……()()気にする必要はありませんよ。アリウススクワッドの錠前サオリさん」

 

 

 しっかりと礼を言うサオリに対して、黒服は思った通りに告げる。実際に含むところはなにもない。

 

 ブラックマーケットから、このオフィスまでの誘導も大した手間ではなく。ベアトリーチェへ秤アツコを返却するには、これが一番手間も面倒もないのだから。

 

 

「マダムに気にするようには言われていたのでね。それとなく広げて置いた視界に入ってきた。その程度の物です」

 

「そうか。それでも、ありがたいのは確かだ」

 

「ほう……」

 

 

 黒服は、サオリを。アリウススクワッドの面々を観察した。以前ベアトリーチェの元に訪れた時の彼女たちとは様子が違う。以前の様な空虚な存在ではなくなっていた。

 

 アビドスのブラックマーケットまでの道程は運任せのものだ。それでも、彼女たちにとっては得るものがあったようだ。それに、しつこくカヤツリの事を聞かないのも評価点だ。

 

 

「ならば、素直に受け取る事にしましょう。餞別にアリウスまで送る。そう言いたいところですが、丁度転送装置が故障していましてね。修理にはしばらくかかりそうなのですよ」

 

「そうなのか……?」

 

「ええ、急いでいる所申し訳ないですがね。修理には数日はかかります。その間はどうぞ、ここを使って下さい。空いている部屋は幾らでもありますから」

 

 

 いきなり泊まりの話をしたことに驚いたのだろう。アリウススクワッドは呆気にとられた表情だが、アツコだけは違った。

 

 

「……うわ」

 

 

 いったいどの口で。そんな顔でアツコが黒服を見ている。

 

 何故かと言えば、カヤツリをトリニティに転送している。まさか、アツコについていくわけにもいかない。ベアトリーチェの計画を暴くために、アリウスについて調べなければならないのもある。それにアリウススクワッドとの遭遇も都合が悪い。そのために黒服が転送装置で近場まで送ったのを目撃しているが故、アツコはあんな顔をしている。

 

 が、全く気にもならない。これはお互いにとっていい提案なのだから。

 

 

「きっと、お互いに積もる話もあるでしょう?」

 

 

 そう黒服が言うと、アリウススクワッドの表情が強張った。図星を指されたことが丸わかりで、その青さに黒服は笑いをかみ殺す。

 

 

「クックック……怖がらせてしまいましたか。心配する必要はありませんよ? マダムへは私から言っておきますのでね」

 

「何でそこまでするの? あなたはマダムの……」

 

「マダムの仲間ではないのか? 何故、貴方達の利になるようなことをするのか? そう言いたいのですか? 戒野ミサキさん」

 

 

 ミサキは黙り込んだ。やはり、我慢できなかったのだろう。まだまだ青いが、物事を理解するには十分ともいえる知識を身に着けた。であるのなら、好奇心は大事だ。その芽を摘むのは、これからの事を考えれば惜しい。彼女たちには利用価値がある。

 

 

「マダムと私は協力関係でしかありません。そうでなければ、貴女たちに彼を襲撃するようには命令しなかったはずです」

 

「それくらいは許してくれるってコト……?」

 

「表立って文句は言わない。その程度の関係性と言うだけです」

 

「……それだけじゃないんですよね?」

 

 

 突然ヒヨリが、もじもじしながら、自信なさげに口を開いた。

 

 

「ふむ……槌永ヒヨリさん。その根拠は? どうしてそう思うのですか?」

 

「だって、おかしいじゃないですか。都合が良すぎるんです……」

 

 

 ヒヨリの答えに、黒服は満足した。アリウススクワッドは黒服の想定以上に、上質なチームになっていた。

 

 その証拠に、驚愕の表情のアツコが三人を見つめている。どう説得しようかと頭を悩ませたところにこの変わりよう。当然の帰結だ。

 

 主に矢面に立つのはサオリで、後ろからミサキとヒヨリの二人が観察している。サオリが気づかない疑問点はミサキが聞き、最悪の想定をヒヨリがする。そこに、カヤツリが知識を教え込んだアツコを加えれば、何とかアリウスの運営は行えるはずだった。

 

 であるならば、黒服にとっては利用価値がある。

 

 

「ええ、貴女たちへ都合が良い提案をしています。それは、私にとっても都合が良いからです。貴女たちには分からない部分で」

 

「……そうか」

 

 

 今度はサオリたちは踏み込んでこなかった。聞いても仕方がないというのを察したのだろう。実際、聞いても仕方がない。聞いたところで、黒服の意図を理解出来はしない。

 

 

「貴女たちは思い知ったはずです。知識は武器であると。無知であるという事が、それすら知らないという事が、どれほど恐ろしいかを。ですから、知りたいという好奇心は理解します。我々は未知という物に恐怖を感じるようにできているのですから」

 

 

 ですが、と黒服は言葉を区切った。

 

 

「知らない方が良いという事もあります。知る事で互いの関係性に不利益しかもたらさない。または、その行為が著しく相手を傷つける。そのような場合がね。貴女はよく知っているでしょう?」

 

 

 問われたアツコはしっかりと見つめ返してくる。彼女は知っているはずだ。自らの行為がカヤツリを怒らせたことを。実感したのなら、その危険性を他のメンバーに伝えられるだろう。

 

 

「疑うのも、信じるのも。貴女たちの好きなようにすると良いでしょう。ですが、覚えておいてください。私が提供した時間を活用するのは貴女たち次第という事です。なにせ、アリウスに帰れば、このような機会はそうないでしょうからね」

 

 

 そう念押して、もう夜遅いと言えば、アリウススクワッドたちは退室していった。きっとマダムの前ではできない話をするに違いない。その邪魔をするつもりは、黒服には毛頭なかった。

 

 本来なら、こんなことはしない。ベアトリーチェの方が黒服の担当エリアであるアビドスを荒らしまわったことを踏まえてもだ。

 

 昨日までなら、ここまで露骨な介入はしなかった。だが、話が変わった。ベアトリーチェは失敗する可能性が濃厚になった。

 

 故の予防策である。アリウス自治区に繋がりくらいは残しておくくらいには、アリウスは黒服たちゲマトリアにとって惜しい。ベアトリーチェの儀式が成功すれば釣り合いが取れるが、失敗の可能性が濃厚になった以上は予防策を取るのは当然のことだ。

 

 

「クックック……先生は、貴女と同じ轍は踏まないようですよ? 連邦生徒会長」

 

 

 先日の事を思い出して、黒服は笑う。ああ、まさか。あんなことを素面で言う大人がいるとは。長生きはしてみる物かもしれない。

 

 

「私は唯の先生で十分……ですか。未だに理解が出来ませんね」

 

 

 それは、先生の答え。昨日の黒服の問答での答えだった。

 

 昨日。カヤツリとアツコがゲヘナに出掛けていたのは幸運だった。幸運というのは黒服の手間が省けたという意味だ。もしも、アツコがカヤツリを誘わなくても。黒服は二人を出かけさせるつもりでいた。

 

 なぜなら、昨日はアビドスで騒動が起こっていたから。カイザーと黒服の計画。アビドスを疲弊させ廃校に追い込む計画の最終段階が。

 

 しかし、それは想定通りでは無かった。本来であれば、アビドスの利子を横流ししたヘルメット団で兵糧攻め。そして、黒服が小鳥遊ホシノへ契約を持ちかける手はずだった。

 

 当初より、絶対に頷かない事は把握していた。そのためにアビドスを追い込んで、小鳥遊ホシノをも追い込む。カヤツリが居ない今なら、それが出来た。

 

 けれど、小鳥遊ホシノは爆弾だ。契約のために追い込めば契約どうこうの前に、キヴォトスごと爆発してしまう。事実、そうなりかけていた。

 

 黒服としては、それは絶対に回避しなければならない。しかし、カイザーとの契約もあるために今更中止もできない。それゆえの苦肉の策が、秤アツコを利用してのカヤツリへの介入だった。

 

 結局のところ、小鳥遊ホシノをどうにかできるのはカヤツリか梔子ユメだけ。片方は居ないのなら、そうするしかない。この策の肝はカヤツリを正常に戻し、小鳥遊ホシノと接触させること。それは、思いもかけずに上手くいったのだ。

 

 そうなれば、後は仕上げだけだ。契約の体で呼び出し、小鳥遊ホシノへ都合の良い、カヤツリの事を幾らか教えるだけでいい。

 

 そして、そこで嬉しい誤算が起きた。小鳥遊ホシノに先生が同行していたのだ。それはつまり、あの小鳥遊ホシノが、他者を同行させたという事だ。それほどまでに回復し、安定していた。

 

 それに先生とも話してみたくはあった。ずっと聞いてみたかったのだ。

 

 

 ──サンクトゥムタワーの制御権を、何故手放したのですか?

 

 

 このキヴォトス全域に、学園都市というテクスチャを張り付けているのはサンクトゥムタワーだ。そして、シッテムの箱はテクスチャを張り替える事も可能なオーパーツ。その二つがあればなんだってできる。

 

 

 ──キヴォトスで生まれた最新の神。そう言って差し支えないモノに、貴方は成れたのに。全ての神秘、全ての秘儀。我々大人が求めてやまないモノがその手にあった。それを、貴方は簡単に捨ててしまった。なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? どうして? 先生、それは一体何のためなのですか? なぜ貴方はそこまでして何がしたいのです?

 

 

 そんな黒服の質問に返ってきたのが、あの答えだった。その理由は理解できない。でも、幾つか理解できることはあった。

 

 

「あの回答を出せる大人。絶対の答えではなく、迷いながらも選択することを選べる大人。だからこそ、ここへと呼んだのでしょう?」

 

 

 答えは返ってこないが、そうだと黒服は確信していた。

 

 

「貴女は経験で困難を越えてきた。そう出来る権限はあった。なにせ、シッテムの箱の前所有者は貴女なのですから」

 

 

 きっと、迷わずにそうしたのだろう。世界を運営するために力を振るった。しかし世界は、人間は、それほど単純ではない。それは、天上からでは分からない。人である自分たちが、それぞれのアリの区別がつかないように。

 

 

「神は天にいまし すべて世は事もなし。故に貴方は知らなかった。上からSRTや連邦生徒会へ命令するだけでは現場の事など分からない。それに調べる暇もなかった。理屈で人は動かないのだと。現在は過去の積み重ね、過去で建造される建造物である事を理解せず、経験から得られる答えだけを求めた。人は全員、自分と同じように考えると思っていた」

 

 

 それでは、上手くいくはずもない。外から見える経過を幾らこねくり回しても、何故そうしたのか、なぜそうなってしまったのかを真の意味では理解していない。経験から得られた結果、それを押し付けて解決を図った。

 

 

「貴女は選択をしてこなかった。経験から逆算した絶対の答えを求めた。そして、行き詰った」

 

 

 当たり前の話ではある。問題集の答えを丸暗記したからと言って、試験で満点を取れるはずもない。それでも、及第点は出せているのが彼女の努力の結果ではあるのだろう。

 

 幾度の挫折の末に彼女は理解したのだろう。この方法は間違いだったのだと。しかし、全てを投げ出しはしなかった。

 

 そして、先生を呼んだのだ。自分とは違う選択をすると信じて。

 

 

「クックック……連邦生徒会長の代理、敵対者たる先生がこれではね。マダムの儀式は失敗するでしょう。先生は、ただの学校の先生なのですから」

 

 

 旧ゲマトリアの神の証明実験。それを元にした当初の計画。それは連邦生徒会長相手なら、上手く成功しただろう。儀式を経て、ロイヤルブラッドを使用して。この世界の敵対者。世界の支配者になることが出来た。

 

 だが、相手が唯の学校の先生ともなれば。それは望むべくもない。それを補強するためのベアトリーチェの思いつきも意味はない。

 

 ベアトリーチェの目的は神になる事。その力を振るえる席を手に入れる事だ。

 

 例えば、神の席に座った者が居たとして。それを神であると規定するものは何か?

 

 答えは、何を成したか。それだけだ。かつての人は、太陽や砂嵐から、それを見出したが故に。

 

 

「神は偉業を成してこその神ですよ、マダム。そうでなければ神ではない。その偉業が神秘を産み、神と認識されたのですからね」

 

 

 因果が逆だ。つまり、ベアトリーチェは神になった瞬間から偉業を求める事になる。今回のベアトリーチェの思い付きは、それの補強だった。

 

 だから、アリウスを支配下に置いた。アリウスの復讐を完遂させ、連邦生徒会長と敵対し、トリニティとゲヘナを滅ぼす。それが、ベアトリーチェの目指した偉業。

 

 

「しかし、再考すればするほどに、神というのは窮屈なモノです。偉業に縛られ、生まれ持った物に縛られる。かといって、名もなき神の様に扱われるのも業腹でしょう」

 

 

 名もなき神とは、システムのようなものだ。何も言わず、ただそこにあり、人に求められた機能を果たす。自分では行動しないもの。故に、それを代弁する司祭が必要だった。正確に代弁しているかは疑わしいが。

 

 だから、忘れられた神と戦争になる。人格を持つ彼らに、本質へ還れと。唯のシステムになれと。お前たちのすることは司祭である我々が決める。生まれ持った物に従え。そう言えば殺し合いの結末しか残らない。

 

 そして、どこかの誰かは。キヴォトスを勝ち取った後すら満足できなかった。そして、仲間割れの後……。

 

 

「中々に強欲ですね。神らしからぬ……いえ、随分と思考が脱線していましたか」

 

 

 もう、明け方が近い。黒服は腕時計を見て、想像以上の時間経過に反省する。今の優先事項は別だ。

 

 

「しかし……何とか収まるところへ収まった。そう考えてもいいのではないでしょうか」

 

 

 これまでのカヤツリの変遷を思い返し、黒服は苦笑する。突貫工事である黒服たちの計画は、カヤツリのアドリブで上手い具合に回っていた。

 

 

「ホシノさんは安定してきている。ロイヤルブラッドも、対抗馬として随分成長……いえ、少し介入をし過ぎたのは否めませんか。あの仮面に彼との通信機能を仕込まなくて正解でしたね」

 

 

 対抗馬どころか、全てをなぎ倒しそうな勢いである。一旦離脱のこのタイミングは良い小休止になるだろう。介入しておいてなんであるが、アツコ一強は、それはそれで困るのだ。

 

 

「他の方たちにも頑張ってもらわなくてはね。数が多ければ多いほど、ホシノさんは必死に頑張るでしょうから」

 

 

 くつくつと黒服は笑う。余りに差が離れすぎれば、過激な手段を取るモノが絶対に現れる。それこそ、爆発寸前だった誰かとか。

 

 それは、勝負の目が見えないからだ。一発逆転を狙って、そういう事をする。なら、対策を取るのは当然のことだ。

 

 

「いい加減に、与えられるばかりではいけませんよ。ホシノさん。本当に欲しいものがるのなら、口を開けて待っているだけではいけません。自分の手でつかみ取るために、使える物は使わなくては。今なら使える人間が居るのですからね。先生も本望でしょう。生徒に頼られるのは教師の本懐。そうでしょう?」

 

 

 ここまでして、ホシノはそう動けるようになった。随分と苦労させられたのだ。誰も聞いていないのだし、この位の嫌味は許されてもいいはずだ。

 

 

「しかし、当初の計画からは乖離が見られていますね。マエストロやゴルゴンダ、デカルコマニーにも、再度相談の必要があるかもしれません」

 

 

 本来なら、小鳥遊ホシノと秤アツコの一騎打ちになるはずだった。しかし、それは避けねばならない事態になっていた。

 

 余りにも、アツコが強すぎる。黒服たちは恋する乙女を見誤っていたのだ。これでは勝負になりはしない。瞬く間に掻っ攫われて終わる。

 

 だから、敗者復活戦を開催することにした。

 

 

「このままでは、ロイヤルブラッドの独壇場。ならば、トリニティの方たちにも頑張ってもらわねば」

 

 

 トリニティの人間。予言の大天使以外にも候補は居る。幸い、黒服の介入が必要なさそうな人間がチラホラと。

 

 カヤツリ襲撃は、全くの悪影響という訳でもなかったらしい。自立を始めた者が何人か見られるようになった。

 

 解決の糸口は無数に見えている。古書館やシスターフッドを当たってもいい。それか、アリウススクワッドを手引きした人間から当たるのも。

 

 黒服たちの介入なくとも、トリニティでのイベントは盛り沢山である。アリウスの手番は終わり、次はトリニティの手番になる。

 

 ホシノの方も逆転の目は、あの銀行強盗でのやり取りで掴んだだろう。なら、後は行動するだけだ。カヤツリの居場所を探し、為すべきことを為せばいい。なんだかんだで、初期のアドバンテージはホシノが一番。真っ当に行動さえすれば一番の勝機がある。

 

 

「何人出走するかは、神のみぞ知るといったところですか」

 

 

 黒服たちが望むのは、全員が横並びの膠着状態。カヤツリステークス、またはカヤツリカップに出走した者たちのバトルロワイヤル。全員が平等で横並び、誰しもチャンスがある。そんな状況を用意する事。

 

 賞金は言うまでもない。それに上手くいけば、黒服から何か贈ってもいいくらいだ。なにせ、世界を救ったに等しいのだから。

 

 

「……さて、彼は今。どうしているのでしょうかね」

 

 

 賞金無しにレースは開催できない。ふと気になった黒服は、監視の目を起動させた。

 

 

「おや……?」

 

 

 黒服の口から疑問の声が零れる。監視映像の中には、まだ暗いトリニティ自治区が映し出されていた。

 

 

「妙ですね……何故、まだ表に?」

 

 

 監視の目の異常を疑うが、チェックしても異常はない。黒服の頭が疑問で一杯になった。

 

 今のカヤツリは療養中。そういうことになっている。だから、トリニティを以前の様に散策する事は出来ない。よって、深夜の行動に限られる。

 

 そして今はまだ夜とはいえ、あと一時間ほどで空が白み始める。誰かに目撃されるリスクが跳ね上がる時間帯。カヤツリにしては、リスクが高い行動だ。

 

 

「それに、彼の姿が見えませんね………………………………いえ、まさか」

 

 

 捜索範囲を広げると、何やら水着で徘徊している人間が映る。黒服は気のせいだと思いたかった。けれど、現実は変わりはしない。学校指定の水着を着た生徒が、この時間帯に徘徊している。

 

 

「……人違いでしたか。安心しました」

 

 

 映像をアップにして、黒服は安堵の息を吐く。そこに居るのはカヤツリではないからだ。桃色の髪の少女。確か、カヤツリと小競り合いを良くしていた生徒のはず。状況を考えれば、ストレスが溜まっていたのかもしれない。

 

 

「おや? もう一人……」

 

 

 そのうちに、映像にもう一人の生徒が映る。トリニティの制服を着たこれまた髪の長い生徒だ。真っすぐに道を歩いている。夜間外出を楽しんで、その帰りに違いなかった。

 

 その生徒の進行方向に、件の生徒がいる。起こる結果は言わずとも知れた。

 

 

「ああ、可哀そうに……」

 

 

 露出魔に遭遇するなど。夜間外出の罰としては、些か重すぎるのではないだろうか?

 

 そんな感想が浮かんだ後、水着で無い方の生徒の姿に黒服は何かが引っかかった。

 

 

 ──誰かに似ている。しかし、その人間は居るはずがない。それに体つきが似ても似つかない。

 

 

 そして、その引っ掛かりに気づいた時、笑いがこみあげてきた。

 

 

「クックッククックック……ハハハハハ! いえ、そうでしたね! 確かに、ゲヘナの彼女なら教えられるはずだ。ククク……もう少しだけ手を入れれば、ホシノさんも太鼓判を押すでしょう……ククク……」

 

 

 この後の状況も相まって、黒服は笑いが止まらなかった。この後の事故は、お互いに何も言えないだろうし、愉快な状況になる。

 

 そして、数十秒後。映像機器から驚愕の悲鳴が、数秒後に絹を裂いたような悲鳴が響いた。

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