ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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293話 腐ったミカン

 補習授業部最初の、怒涛の一日が終わって数日が経った。

 

 その数日の間に、補習授業部は複数回の活動を経て、第一次特別学力試験を迎えていた。

 

 特別学力試験とは、補習授業部全員に課せられた試験だ。全三回行われ、そのうち一回でも全員が六割。百点満点中の六十点を取れれば晴れて合格となる。

 

 そして、今日の朝。第一次特別学力試験の結果は先生の手元に届いた。結果も今日の午前中、補習授業部の全員へ通知済みだ。

 

 そして、結果は惨たらしい物であった。事前の小テストと変わらない散々なものだ。

 

 ヒフミは七割、そしてカミガヤは九割。そこまでは良い。問題は残りのメンバーだった。

 

 アズサは三割、コハルは一割、ハナコに至っては一桁の点数。

 

 余りの結果に部長であるヒフミは、口を金魚の如くに開閉する事しか出来ていなかったし、合格者であるカミガヤは、何を考えているか分からない笑顔で見ているだけだ。

 

 そして不合格者たちも、態度は各々で異なった。

 

 アズサは、少しの点数の向上に喜んでいたし、コハルは現実逃避。ハナコはいつもと同じような態度のまま。

 

 補習授業部全員がバラバラだった。前向きなのはヒフミとアズサだけで、コハルは現実を見つめられていないし、ハナコは何も感じていないかのようだ。カミガヤはカミガヤで、他の人間などどうでも良さそうなまま。

 

 この特別学力試験の結果の責任が、個人に降りかかるならいい。けれど、これは連帯責任だ。全員が合格しなければ、ヒフミやカミガヤだけが合格したところで意味はない。

 

 ヒフミは、この結果を受けて対策を考え出した。補習授業部が一丸になろうという計画を立てている。今も、自分の部屋で頭を捻っているのは想像に難くない。まるで、何かに追い立てられているように。

 

 そして、先生はまた別の用事で。ティーパーティの本部へと足を運んでいた。

 

 

「お待ちしていました。先生」

 

 

 辿り着いた先生の前では、呼びつけた張本人であるナギサが、初めて会った時と同じように紅茶を嗜んでいた。

 

 違うのは、ミカと呼ばれていた生徒がいないくらいで、紅茶のいい香りが放課後の教室に満ちている。

 

 

「今日来ていただいたのは、先生にお伝えしたことがあったからなのですが……」

 

 

 ナギサは、先生の様子を見てにこりと笑った。

 

 

「先生の方からも話があるようですね?」

 

 

 なんというか。ナギサはこの展開を予想していたのではないかと思う。そう思いながら、先生は今日の朝から思っていた疑問を、ナギサへぶつけた。

 

 

「特別学力試験に、三回とも不合格になったらどうなるんだい?」

 

 

 それを聞いた途端に、ナギサの顔から笑みが消えた。

 

 

「……ヒフミさんから聞いたのですか?」

 

「いいや。ヒフミだけ必死さが違ったからね。まるで、何かを恐れてるみたいだった」

 

「ああ、なるほど。頑張ってくれているようですね……ヒフミさんらしいです」

 

 

 先生の答えに納得したのか、ナギサはカップをソーサーに戻した。

 

 

「先ほどの質問にお答えしますと、答えは単純なモノです。試験で不合格を繰り返す、落第を回避できそうにない、単位取得でミスをする、協力する事さえできない。だとすれば、皆さん一緒に退学していただくしかありませんよね?」

 

「退学? 本気で言っているのかい?」

 

 

 ナギサの答えに、先生は眉を顰める。キヴォトスで退学とは、穏便なモノではないからだ。例えるなら、国外追放されるに等しい。簡単に言って良い言葉ではない。

 

 

「いきなり退学なんて、聞いたこともない」

 

「ええ、その通りです。ゲヘナはどうだか知りませんが、このトリニティでは生徒の休学、停学、退学についての手続きがあります。それについての細々とした規則も。これらをパスして退学になるには、非常に面倒な手順を経る必要があるのです」

 

 

 それは、当たり前の話だった。生徒の身分を、権力者の気分一つで好きにされては溜まったものではない。それゆえのセーフティとして、面倒な手続きになっているのは明らかだった。

 

 

「……まるで、ヒフミたちを退学にしたいみたいだね」

 

「ええ、そもそも、補習授業部はそのために作ったものですから」

 

 

 ナギサの顔には再び笑みが戻ってきていた。けれど、微笑んでいるだけだ。顔の筋肉がその形をしているだけで、その仮面がナギサの感情を覆い隠している。

 

 

「それは、どうしてかな?」

 

「あの中に、トリニティの裏切り者が居るからです」

 

「裏切り者……?」

 

 

 先生はナギサの言葉を繰り返す。裏切り者。実に穏やかでない言葉だった。

 

 

「エデン条約という物があります。それは、先生もご存じの通りだと思います」

 

 

 先生はしっかりと頷く。暫く経ってからカミガヤの言葉が気になって、連邦生徒会に問い合わせたのだ。そのおかげで、先生の頭には知識がしっかりと入っていた。

 

 

「ゲヘナとトリニティの和平条約だよね」

 

「お題目はそうです。実際には全く違いますが」

 

 

 ナギサの言葉に、先生は頷くしかない。これは、お互いが歩み寄った末の物ではないから。

 

 

「エデン条約は失踪した前連邦生徒会長が提唱した物です。彼女にとっても、三大校の二つが紛争を起こすのは困るのでしょう。ですから、彼女は枷を用意しました」

 

「エデン条約機構……」

 

「ええ、その通りです」

 

 

 ナギサは話して口が渇いたのか、紅茶を一口飲む。

 

 

「エデン条約機構。ゲヘナとトリニティの両校から人員を供出し、両校の諍いを調停する。実にいやらしい手です。セイアさんが皮肉を言うのも納得ですね」

 

 

 エデン条約機構はゲヘナとトリニティの人員で構成される。つまり、紛争染みた事を起こせば、エデン条約機構が削れていく。それはつまり、トリニティとゲヘナの人員が削れていくと言う事だ。勿論、足りない分は両校から補充する事になる。それは、そのままに続ければ、人員不足による両校の共倒れという結果を招く。

 

 ここまでしないと。和平条約など不可能だった。エデンの名前を冠する割には、損得勘定の渦巻く条約だ。

 

 

「前連邦生徒会長が失踪し、この条約は空中分解しかけていました。セイアさんが取り組んだそれを、私が何とか形にし、ここまで漕ぎ着けたのです」

 

 

 ナギサの言うセイア。前ホストの百合園セイアだろう。彼女について聞きたかったが、ナギサの雰囲気がそれを許さなかった。

 

 

「それを邪魔する人間がいます」

 

 

 冷たい言葉だった。でも、それだけではない。冷たさとは真逆の、何か強い感情がナギサの仮面の下から染み出している。

 

 

「……それが、裏切り者?」

 

「その通りです。その容疑者が補習授業部に集められた生徒たちなのです」

 

 

 あの雰囲気はもう仮面の下へと隠れて、冷たい言葉が続けざまに放たれる。

 

 

「勿論、当てずっぽうではありません。こちらで出来うる限りの調査をしました。それでも、あそこまでしか絞り込むことはできなかった。ですから、補習授業部というゴミ箱を作ったのです」

 

「私という蓋をした。そういうことかい?」

 

「その通りです」

 

 

 臭い物に蓋をしたのだろう? その問いをナギサは否定しなかった。

 

 

「腐ったミカンは、別の箱に入れておく。疑わしい物も一緒に。その方が捨てやすいですからね」

 

「……それが、私を呼んだもう一つのわけかい? 補習授業部の成立に利用したと?」

 

「その面がある事は否定しません。ですが、それはお互い様のはず。先生もヒフミさんを利用したでしょう?」

 

 

 ナギサの言った事には覚えがあった。アビドスとカイザーの決戦、そこでヒフミが、トリニティの支援砲撃を取り付けてくれたのだ。

 

 ナギサからしたら、ヒフミを利用されたように見えたのかもしれない。

 

 

「……それで、ナギサの話って何だい?」

 

「ああ、そうでしたね」

 

 

 忘れていたとばかりに、ナギサは自身の両手を胸の前で合わせる。

 

 

「先生には、トリニティの裏切り者を探して貰いたいのです」

 

「……そうしないと、全員を退学にすると?」

 

「いいえ? 私は何もしません。私にはそこまでの力はありませんから」

 

 

 ナギサは謙遜しつつ、再びカップを持ち上げた。

 

 

「でも三回の。いえ、後二回でしたね。特別学力試験に不合格であれば、話は別です」

 

「ヒフミたちが合格出来ないとでも?」

 

「いいえ。先生がいるのです。学力はどうとでもなるでしょう。トリニティの殆どの生徒が合格している程度の難易度です。気負う事はありません」

 

 

 ですが、とナギサは微笑む。

 

 

「例えばの話ですが、テストの範囲が急に拡大したり、会場が突然変わるなんて事もあるかもしれませんね」

 

 

 ナギサのこれは提案だった。自分には、こういった手段もあるのだという説明。そうしたくないのなら、先生が裏切り者を見つければいいという催促。そうしなければ、全員を退学にするという脅迫。

 

 

「……まさか、合宿も隔離する為かな?」

 

「いいえ、静かな環境を用意しただけです。集中力は大切ですから」

 

 

 補習授業部に裏切り者がいる。その話の後の話題だ。そんな訳がない。手出しができないように合宿という名目で、ナギサは補習授業部をトリニティから隔離した。

 

 

「……初めから、そのつもりだったのかい? 補習授業部の生徒たちはどうでもいいと?」

 

 

 ワザと少し、先生は語気を強める。ナギサの手段は強硬に過ぎた。友人であろうヒフミまで巻き込んでいる。なりふり構っていない。その理由は、ナギサが言った事だけでは無い気がした。

 

 

「エデン条約が、そんなに大事なのかい!? そんな物の為に、四人の。もしかしたら五人の生徒の未来を滅茶苦茶にするのか!?」

 

「当たり前です! そうでなければ、釣り合いが取れません!」

 

 

 先生の言葉に、ナギサが声を荒げた。余りの気迫にビリビリと空気が震える。

 

 

「未来を滅茶苦茶にした!? それは、それは! それは!! 私たちだけじゃなく、セイアさんとあの人だって──!」

 

 

 何かの乾いた破壊音、続いて辺りにけたたましい音が響く。立ち上がったナギサが、テーブルを叩いて、その上の茶器が倒れた音だ。

 

 

「あ……」

 

 

 自らが破壊したテーブルと茶器が割れる音で、ナギサは我に返ったように目を大きく見開いた。

 

 その一瞬だけ、ナギサの仮面が剥がれていた。今にも泣きそうな、揺れる瞳が見えた。

 

 

「……ごめんなさい。少々、取り乱しました。見苦しい所をお見せしましたね」

 

 

 もう、ナギサは仮面を被りなおしていた。その目にはもう、何も見えない。

 

 

「こんな事に先生を巻き込んでしまったのは、申し訳ないと思っています。裏切り者を探す事を強制はしませんし、今回を含めテストの点数には何の細工もしない事を約束します。これは巻き込んでしまった事に対する。私の誠意と思って頂いて結構です」

 

 

 それは、ナギサの迷いの様にも見えた。そもそも、最初から先生にこの事を言う必要もない。騙し討ちにすればそれで終わる。

 

 不満に思った先生に、シャーレの権限でひっくり返されない為や、補習授業部の中に居る裏切り者を牽制すると言うのもあるのだろう。でも、先生はナギサを信じてみる事にした。

 

 最後のあの目もあるが、決め手は最後の言葉だ。きっと誰かの為に、ナギサはここまでしていた。そう、先生は信じた。

 

 

「私の話は以上です。先生の質問にもお答えしました。明日から補習授業部は合宿です。そろそろ、用意が必要でしょう」

 

 

 ナギサは疲れたのか、話を打ち切りにかかる。先生はナギサの言葉に黙って頷いて、教室から退出した。

 

 暗い夜道の中、これからどうするかを頭の中で組み立てながら、先生は拳を強く握り締めた。

 

 

 □

 

 

「それで、私に話を聞きに来たの?」

 

 

 ナギサと話したティーパーティの教室。そことはまた違う教室で、聖園ミカは挑戦的な目で先生を見た。

 

 

「この間、ナギちゃんとお話ししたのは知ってるけど……先生は、それを聞いてどうするの?」

 

「ナギサを止めたいんだ」

 

 

 先生は、ハッキリとミカへ告げる。ナギサは何かを隠しているのは明白で。それが、ナギサにそこまでさせるほどの理由だと、先生はあたりをつけていた。そして、ナギサを一番よく知っているのは、幼馴染だという聖園ミカしかいないと踏んだ。

 

 だから、ミカに聞いてみる事にしたのだ。後日、ミカがいる場所へアポを取って訪れると、向こうも分かっているのか、ナギサと同じような場を用意して待っていた。

 

 そして、そうした先生の判断は正解だったらしい。答えを聞いたミカの挑戦的な視線が緩んでいる。

 

 

「ナギちゃんに言われたんでしょ? 裏切り者を探してほしいとか何とか」

 

「知ってるの?」

 

「知ってるも何も、ナギちゃんはそれを見つけるのに躍起になってるもの。私には隠してるみたいだけど、バレバレだよ」

 

 

 ミカの目から見てもナギサは切羽詰まっている様子で、先生の使命感に火が付く。

 

 

「一体、何があったんだい?」

 

「教えてもいいけど。その前に約束してほしいの」

 

 

 ミカは、安心したかの様な表情で条件を出してくる。とりあえず頷けば、ミカは肩の力を抜いていた。

 

 

「それは吝かじゃないけど、内容は?」

 

「アズサちゃんを守ってほしいんだ。それと、ナギちゃんも」

 

「アズサとナギサを……?」

 

 

 

 意味が分からずに、先生はミカの顔を見る。ミカは苦笑して謝りながら、長い話の口火を切った。

 

 

「先生はさ。アリウス分校って知ってる?」

 

 

 ミカの話は長かった。トリニティの成立から始まり、アリウス分校への弾圧の話になり、最後に、今のトリニティの権力構造で終わった。

 

 

「つまり、アリウスはかつてのトリニティの一派閥で。過去弾圧され姿を消した。そして、アズサはそこの出身なんだね」

 

 

 何とか情報を整理しつつ、口に出していく。

 

 

「それで過去の弾圧の所為で、アリウスはトリニティを恨んでいる。そして、ナギサがアズサの事を知ったら。経歴を偽っていた以上、裏切り者として認定してしまう。だから、守ってほしいって?」

 

「うんうん。それで合ってるよ。流石先生だね」

 

 

 どうやら合格のようで、ミカは何度も頷いていた。

 

 

「あの娘は私が入学させたの。アリウス出身のはずなのに、トリニティに入学したいという意思があの娘にはあった。だから私は、あの娘に和平の象徴になってほしかった」

 

 

 そこで、少しミカは悲しそうな顔になる。

 

 

「本当はナギちゃんに相談するべきだったのかも。でも、ナギちゃんはああだし。エデン条約がすぐ傍に迫ってた。エデン条約が締結されてしまったら、ゲヘナを嫌うアリウスとの和解は絶望的。そして、ナギちゃんは補習授業部なんていう物を作った。だから、私は先生を呼んだの」

 

 

 それは、納得できる理由だった。アズサは今も補習授業部で頑張っている。宿敵で、恨む対象であるはずのトリニティに残留するために。そして、ナギサがそのことを知れば、どうするかも火を見るより明らかだ。

 

 アリウスも、ゲヘナを嫌っている。なら、エデン条約を締結してゲヘナと和解したトリニティとの和解は不可能だ。そうすれば、アリウスはゲヘナと和解したことになる。

 

 そして、アズサを守りたいミカからすれば。今の状況は最悪。何とかするために先生を呼んだ。

 

 ミカの話は筋が通っているように見えた。なら、どうするかは考えるまでもない。ナギサの事を聞かなければ。

 

 

「分かった。約束するよ」

 

「ありがとう。先生」

 

「なら、教えてくれるかい? どうして、ナギサはあんなに焦ってるんだい?」

 

 

 そう先生が聞いた途端に、ミカの期待と喜びに溢れていた表情が曇った。

 

 

「……それはね。セイアちゃんと、あの人が居ないからだよ」

 

 

 セイアと、あの人。それはナギサの時にも聞いたフレーズだった。そして、ミカの暗い声。全くいい予感はしなかった。

 

 

「あの人って言うのは、兎馬カヤツリ君かい? 前ホストだった百合園セイアさんの補佐だった?」

 

 

 こくりと、ミカは黙って頷いた。さっきまで快活だったミカはまるっきり裏返っていて、声を出そうとしない。先生は、一つづつ聞いていくことにした。

 

 

「療養中だって、私は聞いているんだけど?」

 

「ううん。それはね。違うの」

 

 

 ミカは中々、その先を言おうとしなかった。先生の頭にヒフミが言った、あの噂がよぎった。

 

 

 ──それでですね……まぁ、なんですか。お二人が、そういうことをして、セイア様は療養せざるを得なくなったんじゃないかと。そういう噂がですね。あるんです。

 

 

「噂の通りってわけじゃないよね?」

 

「噂? ああ、あの下品で、下世話なヤツ? そうだったなら、本当にそうだったなら……とても良かったのにね。こうはならなかったのに……私って、本当にバカ

 

 

 ぶつぶつとミカは呟いて、どこか泣きそうな目で先生を見た。

 

 

「……セイアちゃんと、あの人は誰かに襲撃されたの。セイアちゃんはヘイローを破壊されて。あの人、カヤツリ君は今も行方不明。それが、ナギちゃんが、ああまでなった理由」

 

「え……?」

 

 

 今、ミカは何を言ったのだろうか? ヘイローが破壊された? 今も行方不明? 中々、事実が頭に入ってこない。

 

 

「二人はね。仲が良かったの。私には、セイアちゃんが一方的に入れ込んでいるようにしか見えなかったけど。カヤツリ君はカヤツリ君なりに大事にしてたんだ。堅物で、真面目。そのくせ顔が広かったから全然、そうは見えなかったけどね」

 

 

 そう、ミカは寂しそうに言った。昔を思い返しているのか、何もない宙をじっと見つめている。

 

 

「あの二人が居た頃のティーパーティは楽しかったんだ。それを壊されたナギちゃんは、ああなっちゃった。療養中だって嘘を吐いて、補習授業部を作ったの」

 

 

 ナギサのアレは、あの叫びは怒りの叫びだった。アレは、復讐者の叫びだった。先生の言葉にああ言い返したのも頷ける。ナギサにとって、これは復讐なのだ。

 

 

「あの二人は、エデン条約に関わってた。だから、それを嫌がった誰かに襲撃されたんだろうね。ナギちゃんは二人の意思を継いで動いてる。だから、エデン条約を邪魔する裏切り物が許せないの。もう幼馴染の私でも止められない。私の声は届かないんだ」

 

 

 そこで、言葉を切って。ミカは先生を見つめた。

 

 

「だから先生。ナギちゃんも助けてあげてほしいの。もう、見てられないし。次に狙われるのはナギちゃんかもしれない」

 

「分かったよ。何とかしてみる」

 

「ありがとう。先生」

 

 

 今度こそ安心したのか。ミカは椅子へと凭れかかった。大きく息まで吐いているから、余程の重荷だったに違いなかった。

 

 

「じゃあ、先生にトリニティの裏切り者。その一番の容疑者を教えてあげるね」

 

「……知ってるの?」

 

 

 まじまじと先生はミカを見る。そうだとしたら、前提がひっくり返るからだ。

 

 

「知ってるなら、ナギサにそう言えば……」

 

「その娘は取り繕うのが上手くてさ。私も中々尻尾を掴めない。それも状況証拠だけだから、ナギちゃんも補習授業部に無理やり入れるしかなかったんだと思う。でも、動機があるのは、その娘だけなの。だから、一番の容疑者」

 

「無理やり……? まさか……!」

 

 

 そのミカの言葉で、それが誰だか分かった。そんな人間は一人しかいないから。

 

 それをミカも理解したのか、はっきりと告げた。

 

 

「瀬戸カミガヤ。あの娘がトリニティの裏切り者。ゲヘナからのスパイなんだよ」

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