ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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296話 情報共有はしっかりと

 ハナコが、カミガヤの狙いについての会話を再開するのには、しばらくかかった。

 

 理由は単純で、ハナコの予想以上に呼び捨てというものの火力が高かったのである。

 

 何というか、特別感がある。雑な対応なのもいい。ハナコがかつて求めた関係性がここにはあって、普段のハナコを取り戻すのに少々時間が必要だった。

 

 だが、もう平気である。何度も食らえば耐性くらいは付くものだ。ハナコは最初から聞こうと思っていた質問を、正面へ座るカミガヤへとぶつけた。

 

 

「まずは、そんな格好をしている理由から聞きましょうか。まさか、趣味という訳ではないでしょう?」

 

 

 そう言いつつ、ハナコはカミガヤを見た。長い髪に眼鏡、綺麗な肌に、柔らかそうな雰囲気。

 

 カミガヤの姿は、長身の女生徒にしか見えなかった。

 

 カミガヤはカヤツリだ。見た目はまるきり違うが、中身はそうらしい。

 

 一度、カヤツリからカミガヤへ変身したのを見たハナコとしても、俄かには信じがたいものがあった。

 

 

「ハナコじゃないんです。ちゃんと実益があります。私の正体はまだバレてはいけないんですよ」

 

 

 カミガヤの言葉に、ハナコは首を傾げる。正体を隠す理由に見当がつかなかったからだ。カミガヤには、トリニティでは絶大な権力を持つ友人たちが居るはずだからだ。

 

 

「何故ですか? 桐藤ナギサさんや聖園ミカさんに頼れば良いと思いますが」

 

「今のナギサさんの様子は分かるでしょう?」

 

 

 カミガヤの言う、桐藤ナギサの様子。それは今まさに、ハナコたちが実感していることだ。合法的にハナコ達を退学にしようとしている。

 

 

「しかし、あなたであれば、説得は出来るでしょう? それに聖園ミカさんだって……」

 

「うーん。そこからだと説明がしにくいですね。だから、あの夜。何があったのかを話しましょうか」

 

 

 そしてカミガヤは、あの夜のこと。アリウスの襲撃事件の事について話し始めた。何とか生き残って、トリニティから離脱した事を。

 

 

「アリウススクワッド、アリウス……ですか。やはり、過去の復讐ですか?」

 

 

 ハナコは、シスターフッドから引き出したアリウスの歴史。そこから類推した答えを言う。

 

 アリウスは、トリニティから迫害された。それも表舞台には居られないくらいに。

 

 理由はあった。トリニティの設立に関わる第一回公会議。それに反対したのだ。そうした理由は分からなかった。ただ、そうしたという過去の事実だけがある。

 

 そして、トリニティはアリウスを迫害した。トリニティはゲヘナという脅威の前に、敵対派閥同士が統合してできた学園だ。仲間にならないなら、迫害するのは当然の選択肢。

 

 しかし、本当にそれだけだったのかと、ハナコは思っていた。

 

 アリウスは、第一回公会議を真正面から否定したのだろうか。流石に当時のアリウスがそうしたとは考えにくかった。そんな事をすれば、袋叩きにされるのは目に見えている。

 

 ただ、利用されただけなのかもしれない。トリニティの団結を高めるスケープゴートとして、アリウスは選ばれたのかもしれない。歴史というのは、勝者が作ると相場が決まっているから。

 

 アリウスからしたら、溜まったものではない。復讐したくもなるだろう。目には目を歯には歯をだ。

 

 でも、カミガヤは首を横に振った。

 

 

「アリウスは、今一人の大人に支配されています。その大人は、内戦状態であったアリウスを平定。その後に、トリニティとゲヘナに復讐すべしと洗脳教育を始めました」

 

 

 その大人は誰なのかは知らないが、名前は知っていた。きっと、カミガヤとマトが話していて、アズサが過剰に反応した名前、ベアトリーチェ。

 

 

「襲って来た奴らは、何も知らなかった。空っぽの唯の駒でしかない。つまり、この襲撃事件を解決するには、その大人。ベアトリーチェを何とかしなければならない事になります」

 

「その大人の目的は?」

 

「不明ですよ」

 

 

 お手上げ、そう言うようにカミガヤはホールドアップする。

 

 

「このタイミングで私を襲撃した事には意味があるはず。でも、アリウスの為にはなっていない。二度目の不意打ちは難度が上がるだけですから」

 

 

 不意打ちは最初だからこそ、意味がある。二度目は警戒されてしまうから。

 

 それはハナコも知るところで、ベアトリーチェの目的が確かに分からない。

 

 アリウスを支配した事には理由がある。アリウスを手駒として使いたかったと予想がつく。

 

 その為には、アリウスの行動理由と自身の目的がある程度合致していなければならない。

 

 幾ら、恐怖で縛られているとはいえ、不満は溜まるものだ。何かのタイミングで爆発すればベアトリーチェといえどただでは済まない。

 

 アリウスを支配したという事は、アリウスの力が必要だという事。今のベアトリーチェはアリウスの助けが必要な程の力しかないはずだから。

 

 そこまで考えて、ハナコはベアトリーチェの行動理由の一端が垣間見えた気がした。

 

 

「……その大人は、表面上でしかアリウスの為には動いていない……?」

 

「ええ、一時的なガス抜き。または予行練習でしょうね。近々、動員をかける目的があるのかもしれません」

 

 

 カミガヤは大きく頷いて、ハナコの答えを肯定した。

 

 それなら筋は通る。アリウスを使い捨てにする予定なら、行動理由に矛盾はない。となれば、ベアトリーチェの一時目的が見えてくる。

 

 

「エデン条約ですか? それを確実に通してもらわなければ困ると? だから、あなたとセイアさんを襲撃した?」

 

「凄いですね。本命の説明無しに、そこまで辿り着きましたか。実際には、襲撃が無くても通さざるを得なかったでしょうが。向こうにはそんな事は分かりませんからね」

 

 

 カミガヤが下ろした手で拍手するが、ハナコはそれが小さくしか聞こえない。

 

 もし、そうであるならば、トリニティで、その動きをしている人間は一人しかいない。

 

 

「待って下さい。桐藤ナギサさんですか? 彼女があなたを?」

 

 

 ハナコの口から思わず答えが溢れる。そうであるなら、カヤツリがカミガヤとして来た理由も分かる。

 

 

「桐藤ナギサさんに、露見すれば何をするか分からない。だから……」

 

「ストップです」

 

 

 カミガヤの指が、ハナコの口を止めていた。それを認識した瞬間、ハナコの頭がフリーズする。

 

 

「何でも露悪的に考える。ハナコのそういう所は、良くないと思います。半分程は合ってますけどね」

 

「…………あ」

 

 

 ハナコの唇に触れた指を、カミガヤが制服で拭いている。その場面で、ハナコは漸く再起動した。

 

 

「何ですか。それは……」

 

「いえ、ハナコが言ったんですよね? こうすれば落ち着くんでしょう?」

 

 

 ふざけるなと喚きそうな口をハナコは抑える。

 

 確かに言った。冗談交じりで本気にしないだろうと思って、カミガヤへ言ったのだ。

 

 

 ──女の子は、こうすると落ち着くんですよ。

 

 

 何が落ち着くだ。落ち着くどころか、心臓が暴れ回っている。その時の自分をハナコは問い質したくなったがもう遅い。

 

 

「何ですか。その顔。不満そうですね」

 

「……そんな事ありません」

 

 

 もう少しやって欲しかったなんて。そんな事は絶対に思っていない。

 

 そんなハナコの心情など知りもしないカミガヤは、特に追求はしなかった。それに安心する自分も、残念に思う自分もいるのが気恥ずかしくて、兎に角ハナコは話を軌道修正する事にした。

 

 

「……アリウスが、独力であなたの事を把握したとは思えません。必ず、トリニティ内の誰かの手引きがあったはずです」

 

 

 ハナコはアリウスの力は知らない。でも、分かることもある。

 

 エデン条約を締結させたいとして、それを進めているのが誰なのか。そして、その人間がどこに住んでいて。いつ居ないのか。それをカヤツリに気取られずに入手したとは思えない。

 

 でも、カヤツリの部屋に爆弾は仕掛けられ、襲撃もあった。それも、カヤツリがアリウスの事を調べようとした矢先に。そうであるのなら、答えは一つしかない。

 

 誰かが、アリウスへと情報を流したのだ。

 

 そして、詳細な情報に触れられるのは、ティーパーティーだけ。今の状況を考えれば犯人など桐藤ナギサしか考えられない。

 

 けれど、ハナコの考えなどお見通しなのか。カミガヤは仮説を語った。

 

 

「桐藤ナギサは、アリウスと手を組み、エデン条約を推し進めた。邪魔な二人はアリウスを使って排除。そして補習授業部の皆を、スケープゴートとして消し去るつもりに違いない。そんな風に考えているんでしょう?」

 

「違うんですか?」

 

「違いますね。ナギサさんには、そうする理由が無いんです。アリウスと態々手を組む必要はない。エデン条約を進めているのは、二人が居なくなってしまったから。因果が逆ですよ。結果として怪しく見えてしまっただけです」

 

 

 ハナコは反論しなかった。実際、ハナコの推論は結果だけで組み立てたもの。カミガヤの方がナギサの人となりやティーパーティでの姿を知っている。

 

 

「じゃあ、誰なんですか。今、動いている人で。怪しい人はいません」

 

「居るじゃないですか。二人も」

 

「二人?」

 

 

 ハナコは思わず聞き返した。一人は目星がついているが、もう一人は分からなかったからだ。

 

 

「ええ、二人です」

 

 

 カミガヤはいつの間にか、ニコニコ笑っていた。そんな顔のまま、カミガヤは吐き捨てる。

 

 

「一人は、バカです」

 

「バカ……? 確かに、アリウスと通じるのはバカだと思いますが……」

 

 

 カミガヤには珍しい罵倒で、ハナコは目を丸くする。それでようやく、カミガヤは自分が何を言ったか理解したのか、手で顔を覆う。

 

 

「言い間違えました。ミカです。聖園ミカ。あのバカが、アリウスと通じた主犯でしょう」

 

「……おかしいでしょう。さっき、カミガヤさんが言ったでしょう。理由がないと。ナギサさんと同じようにミカさんにも理由はないはずです」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私は、襲撃の少し前に、そんな事を言われたんですよ。エデン条約締結を嫌がるミカにね」

 

「それは……まさか。アリウスと同盟を結んだ? それで、そこから情報が漏れた……?」

 

 

 カミガヤの大きなため息が、ハナコの言葉を正解だと認めていた。そうであるなら、カヤツリの部屋に爆弾を仕掛けられるのも納得だ。ただ、動機とその後の動きが妙だった。

 

 

「でも、ミカさんの動きは妙です。動いているのはナギサさんだけで、ミカさんは何もしていない。襲撃がある事を分かっているなら、ナギサさんの台頭など防げたはず……」

 

「そこですよ。分からないのは、そこです」

 

 

 カミガヤは笑顔とは裏腹に、不機嫌そうな声を上げる。

 

 

「ミカさんの動きは意味不明です。先生を補習授業部に呼びつけたのはミカさんですよ? 何で余計なリスクを背負い込むのか。それに、先生へと情報を流してもいる。私が怪しいとね。行動指針がブレ過ぎて、何を考えているのか分からないんです」

 

「だから、瀬戸カミガヤとして来たんですか? 兎馬カヤツリとして帰還すれば、ミカさんの動きが予想できないから」

 

「後は、あれです。ナギサさんですね。随分と切羽詰まっているから、どんな手段を取るか分かりません。だから、分かりやすく怪しい立場で転入したんですよ。私なら、どんな手で来ようとも対応ができますから」

 

 

 随分とまあ、お優しい事だ。そうハナコは感心する。カミガヤは、全員を守る気でいたのだ。それは補習授業部という箱をナギサが作ったことで瓦解してしまったけれど、被害を最小限にするという意味では、役割を果たしたと言えた。

 

 

「しかし……よく連邦生徒会長の推薦状何て持っていましたね? 偽造ですか?」

 

「まさか。本物ですよ。ここに入学するのはセイアさんが骨を折ってくれましたからね。使う機会が無かったのを取って置いただけです」

 

 

 上手くはぐらかされた気がする。しかし、カミガヤはこれ以上話す気はないように、話をさっさと打ち切ってしまった。

 

 

「それで、もう一人の犯人ですが。もう一人は補習授業部に居ます」

 

 

 カミガヤの言葉は、先ほどよりも冷たい。恐々とハナコはもう一人について答える。

 

 

「……アズサちゃんの事を言っているんですか? アズサちゃんは確かに……」

 

「あの娘。アリウスですよね?」

 

 

 ニッコリ笑顔のカミガヤが、今のハナコは恐ろしく見えた。やっぱり、カミガヤは知っていたのだ。アズサがアリウス出身であることを。

 

 

「ハナコさんは、アレでしょう? 勉強を教えている最中に気づいたんじゃないですか? シスターフッドで調達したアリウスの教義。それを何回か聞いたんでしょう? 普通のトリニティ生でも分からない。ましてや、外からの転入生が答えられるはずがない問題を」

 

「カミガヤさんは?」

 

「セイアさんを襲撃したのは、あの娘ですよ。転入時期が襲撃事件の直ぐ後ですから。ナギサさんも、そこを怪しんだんでしょうね」

 

 

 カミガヤは不機嫌だ。笑顔の裏で滾る憤りを感じる。その理由は当然だが、その判断はまだ早いとハナコは思うのだ。だから、とっておきの答えをカヤツリにぶつける。

 

 

「セイアさんは生きてますよ。だって、ミネ団長が静かですから」

 

 

 蒼森ミネ。救護騎士団の団長。今は引きこもっているが、彼女は救護の為なら何でもやる。本当に何でも。その彼女が、セイアが療養中であるという状況で、何もしないとは考えにくい。ましてや引きこもるなんて。

 

 本当に療養中であるのなら、普段の様に働いているだろう。入院が必要なほどであるのなら、入院させるためにティーパーティへ殴り込んでくる。

 

 そして、もしセイアが死んでいるのなら。ミネはそれこそ静かにはしないだろう。原因を見つけ出して救護するに決まっている。そして、誤魔化すこともできはしない。救護騎士団を通さずに、死亡判定など出せはしない。

 

 だから、ミネが静かだということ自体が、セイアが無事である証明なのだ。

 

 

「ミネ団長は、セイアさんを守っているんでしょう。ティーパーティには死亡と嘘を吐き、療養中という噂を流させた。だから……」

 

「殺さなかったから、彼女は無実だと。ハナコはそう言うんですか? 補習授業部で見せる姿が本当だとは限りません」

 

 

 カミガヤは頑なだった。さっきよりも憤りが噴き出しているようだった。

 

 

「あの襲撃事件の時。セイアさんの部屋で何があったのか。それはあの二人しか知りません。ただ単に殺し損ねただけかもしれない。それを知るまでは、私はアズサさんを襲撃犯という目で見ますよ」

 

 

 それにね。そう言って、カミガヤはハナコの顔を見る。

 

 

「無実なら、何故アズサさんは、夜な夜な部屋を抜け出しているんですか? 最近はブービートラップを仕掛けるためにですが、補習授業部入りする前は、そうでは無かった。定期的に、真夜中に抜け出しているんですよ」

 

「……アリウスと連絡を取っている。そう考えているんですか?」

 

「それ以外にありますか? それらを探るために、私はここへと戻ってきたんですよ。セイアさんに会いに行かず、こんな格好までしてね」

 

 

 早口で語ったせいか、カミガヤの息は切れている。大きく息を吐いて、カミガヤは情けなさそうに吐き捨てていた。

 

 

「でも、どうするんですか? アリウスを止めるんですよね?」

 

 

 嫌な空気を吹き飛ばすために、ハナコは努めて明るい口調で言う。

 

 実際手詰まりである事には変わりない。アリウスを相手にする以前に、ミカやナギサを何とかしなければならない事も事実なのだ。

 

 でも、カミガヤは気にした様子もない。机に行儀悪く、肘をついている。

 

 

「アズサさんの跡をつけて、アリウスとの密会場所を見つけ出します。そこで、アリウスと話すんですよ」

 

「戦うんですか? 無謀じゃありませんか?」

 

 

 ハナコの懸念に、カミガヤはいたって普通の事のように言葉を吐いた。

 

 

「それは問題ないです。襲撃犯の一人が、アリウスの王族みたいなものでね。ちょっと説得したら、協力してくれるそうです」

 

「ああ、それは良かっ……待ってください。今なんて言いました?」

 

 

 何だか、カミガヤは信じられない事を言った気がして。ハナコは聞き間違いかと思った。もう一度、催促をしたが、カミガヤから帰ってくる答えは変わらない。

 

 

 ──アリウスの王族を口説き落とした?

 

 

 ハナコの頭はフィクションだと喚いているが、ハナコは知っている。カミガヤは下手な嘘を吐かない。カミガヤがそう言ったという事は、そういう事なのだ。

 

 

「説得って、何をどうしてそうなったんです?」

 

「どうでもいいじゃないですか。そんな事は……」

 

「どうでもよくないですよ!」

 

 

 思わず大きな声が出た。びっくりしたのか、肘をついた姿勢が崩れて。カミガヤは驚いた顔をしている。ハナコの顔が羞恥で赤くなるが、それどころではない。

 

 

「説得した!? 襲ってきた相手に、一体何をしたんですか!? あなたは!?」

 

「正論で殴りつけた。アリウスの現状はこうで、お前たちの末路はこうなんだよって。そしたら、何かよく分からない事になりましてね……」

 

 

 カミガヤもカミガヤで、初めからそのつもりは無かったのだという。ハナコの勘が警報を鳴らし始めた。

 

 

「なんて言ってきたんです?」

 

「向こうの人員を説得すると。勿論大人にバレないようにね。密会場所で、それを確認したいんですよ。だから、アズサさんをつけ回して、その場所を見つける必要があったわけです」

 

「それだけじゃないでしょう? 他にも言ったはずです」

 

「あー……なんか色々文句を言われましたね。女心が分かってないとか、アリウスの復興を手伝って欲しいとか」

 

「本当に、何やってるんですか……」

 

 

 ハナコは頭を抱えた。あんまりにも予想外だ。カミガヤらしいと言えばらしいが、まさか、襲撃犯まで口説き落とすとは思わなかった。

 

 

 ──止めたんですよ。そういうのは。

 

 

 あのセリフの意味も今なら分かる。きっとアリウスの王族に言われたのだ。女心が分かっていないとでも言ったに違いない。それに、アリウスの復興を手伝え? キヴォトスで、王族という事は、お姫様か。そのお姫様の狙いが見え見えだ。

 

 

「まさか、ここに帰ってくるまでの間。ずっと一緒にいたんですか?」

 

 

 頷くカミガヤに、ハナコの予想は決定的なモノになった。

 

 

 ──まさか、まだ伏兵が居るなんて……。

 

 

 アリウスのお姫様はカミガヤを狙っている。今度は命ではなく、また別の物だろう。ハナコは何か穴か何かに今の瞬間だけで溜まった鬱憤を吐き出したい衝動に襲われていた。

 

 

「つまり、まずは密会場所に行って、アリウス側の動きを知るところからですか。それから、ミカさんやナギサさんの対処に移ると考えていいわけですね」

 

「ええ、一先ずはこの状況を何とかしないといけません。ベアトリーチェの対処はまたあとです」

 

 

 カミガヤの作戦自体は真っ当で、ハナコは文句のつけようが無かった。それがまた、何とも腹立たしい。

 

 

「はぁ……どのくらいの時間が必要ですか? 流石に、ヒフミさんや先生がいる中での密会は難しいですよね?」

 

「どうにかできるんですか?」

 

「出来ますよ。つまるところ、この合宿所から、あなた以外を引き離せばいいんでしょう?」

 

 

 そんな事は朝飯前である。ついでにカミガヤが居ない事も誤魔化すことのできる名案もあるのだ。

 

 

「ここ最近、皆さん勉強漬けですからね。私が夜遊びに誘えばいいんです。それで、カミガヤさんは先に食材調達で出ていると言い訳に使わせてもらいます」

 

 

 それであれば、全員疑いはしないだろう。実際、カミガヤは夜抜け出しているし、自分以外の人の為のおやつも外へ出て買っているから、皆納得してくれるはずだ。

 

 

「それで、どうですか? ご感想のほどは?」

 

「うん。いいですね。流石ですね。ハナコ」

 

「ええ、そうでしょう?」

 

 

 この作戦には、カミガヤも大満足のようで。ハナコへの視線に感心のようなモノを感じて、ハナコのささくれ立った心が癒されていく。

 

 だから、アリウスのお姫様に関しては、追及はしない事にした。どうせ、直ぐに顔を合わせる事になるのだ。それまでに、幾つか案を用意しておけばいい。

 

 

 ──もしかしたら、一番の強敵になるかもしれないですねぇ。手を打っておきますか?

 

 

 何も知らないカミガヤの前で、そうハナコの勘が囁く。ハナコの中でハナコの嫌いな自分が、もぞもぞと蠢いている。早く出せと、早くしろと喚いている。

 

 

「ああ、そうです。ハナコ、あなたに頼みごとがあるんですよ。アズサさんの事を任せたいんです。あの娘が、どうしてトリニティへ来たのか。何を考えているのかをハナコなりに評価してほしいんです」

 

「私にですか?」

 

「ええ、そうです。ハナコなら、色眼鏡無しで、あの娘をちゃんと評価できるでしょう? 私だと、第一印象が邪魔なので」

 

 

 ハナコの中で喚いていた誰かは、一瞬で静まり返っていた。恐る恐る、ハナコはカミガヤに問う。

 

 

「頼み事ですか? あなたから、私に?」

 

「そうです。ハナコが言ったんでしょうに。実際、適任でしょうから」

 

「いいんですか?」

 

 

 再度のハナコの確認に、カミガヤは呆れたように言う。

 

 

「良いも何も、ハナコはそれくらいは出来るでしょう? そのくらいの信用はしていますよ」

 

「そうですか……分かりました」

 

 

 ハナコの機嫌はさっぱり良くなった。自分の嫌なモノは静かになっている。それも、当然だろう。

 

 あのカミガヤが、ハナコに頼み事。それも信用していると。仕事を任せても良いというくらいに信用したと言う事だ。

 

 機嫌が悪くなる要素などない。アズサの事はハナコも気に入っているのだから。勿論、しっかりとやらせていただく。

 

 

「じゃあ、やらせていただきますね?」

 

「ええ? お願いしますね?」

 

 

 いつもは不満に思うはずの、何も分かっていないカミガヤにも、不満は湧かなかった。

 

 意気揚々と、ハナコは持ち前の頭脳を回転させ始めた。

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