ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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297話 密会

 アリウススクワッドは、密会場所である廃墟へとやって来ていた。

 

 相も変わらず、暗くて今にも崩れそうな廊下をサオリたちは歩く。

 

 

「本当に来るんでしょうか……」

 

「来る。姫がそう言ったのだからな」

 

 

 暗い打ち捨てられた廊下にヒヨリの声が響く前に、サオリの声が打ち消した。

 

 

「姫の様子を見ただろう? あんなに元気になって……私は嬉しいんだ。二人もそうだろう?」

 

「いや、まぁ、そうなんですけど……」

 

 

 腕白なアツコの様子を思い出して微笑むサオリを見て、ヒヨリは微妙な反応だ。二人を見るミサキは溜め息すらついている。

 

 

「元気なのは良いけど。あれはまた違うと思うけど? ほら、何て言ったっけ? あの黒い大人が言ってたやつ、ロバだか、何たら症候群とかいう……」

 

「ス、スト……ストップホームランでしたっけ?」

 

「リマ症候群とストックホルム症候群のことだろう?」

 

 

 黒服が言った事を、サオリはよく覚えている。

 

 誘拐され、監禁された被害者が加害者に好意を持つことをさす現象らしい。そして、その反対も。

 

 ただ、当のアツコが激怒した為にその可能性は低いとサオリは思っている。

 

 

「もし、そうであるなら。姫はあんな事は言わなかった筈だ。そうだろう?」

 

 

 そう言いながらも、サオリは四人で話し合った日のことを思い出す。

 

 あの日、サオリ達三人は、どう姫に説明したものかと頭を悩ませていた。

 

 何を説明するかと言えば、これから先どうするのか。このまま、ベアトリーチェの言う事に従うのは正しい事なのか。アツコは、それで良いのか。

 

 サオリ達は、嫌だった。ブラックマーケットの経験と知識が、ベアトリーチェの提示したもの以外の選択肢を増やしてくれていた。

 

 ベアトリーチェに従ったところで、きっと先はない。サオリ達の扱い方や、普段の言動から見ても、それは明らかで。迷う必要は無いように思えた。

 

 だが、その為の手段が問題である。

 

 ベアトリーチェは、サオリ達の反抗を許さないだろう。サオリ達の選択は、ベアトリーチェの敵対を招く。その矛先は、サオリだけに向く訳でもない。

 

 ベアトリーチェの戦闘能力は未知数。かつて、まだサオリが小さい頃にアリウスを平定したという実績がベアトリーチェの全て。

 

 そのベアトリーチェを倒すのには、サオリ達だけでは不安が残る。アリウスに生きる生徒たちの協力は必要不可欠だった。

 

 しかし、一人一人説得するには時間が足りない。ベアトリーチェに露見してもいけない。恐怖に負けて、告げ口する人間でもいけない。

 

 所謂、八方塞がりというやつだが、サオリには打開策があった。非常に癪ではあるが、ベアトリーチェと同じ手段を使うのだ。

 

 

「良いよ。やろう。やりたい。でしたっけ……」

 

「ああ、そうだった」

 

 

 ヒヨリの言葉に、サオリはしみじみと頷く。

 

 それは、アツコが代表して決めた事にする話をした時のアツコの了承の返事。言葉にすれば、ただサオリ達の選択に頷いただけ。対象がベアトリーチェからサオリへと変わっただけ。

 

 でも、サオリには分かった。アツコには、いつもの様な諦めがなかった。サオリ達の様な先に向かって進もうとする意思を感じたのだ。そして、それだけではなかった。

 

 

「皆が、居たいと思うような。何かを選べるような場所にしたい。か……」

 

 

 ミサキが、珍しく噛みしめる様な顔で言う。

 

 あの時に、アツコが行った事は了承だけではなかった。その先の事を、ベアトリーチェに対処した後のことを、サオリ達が考えもしなかった事を口にした。

 

 その時のアツコは、サオリ達が知るアツコとは正反対に位置していた。全てを諦めた人形ではなく、未来に期待する者。サオリ達と同じモノを感じ取れる瞳をしていた。

 

 アツコがそうなった理由はすぐに分かった。何せ、サオリ達も似た様なものだ。アリウスではあり得なかった経験をしたと、理解できた。

 

 

「ふふふ、姫は楽しかったのだな。あんなに話すのを初めて見た」

 

 

 何度も自分が経験した事、学んだ事を話すアツコの幸せそうな笑顔を思うたび、サオリの胸も暖かいもので満ちていく。

 

 あれは、実に楽しかった。サオリ達の話も、同じように聞いてくれて。まるで昔に戻ったかの様だった。特に、ある話題が一番多かった様に思う。

 

 

「兎馬カヤツリか……誠心誠意、謝らなければならないな」

 

 

 姫が話したのは、襲撃対象であるカヤツリの事だ。アツコは自分に対して、カヤツリが何をしてくれたのかを、懇々とサオリ達へ説明した。

 

 それは、サオリ達のしたことから考えればあり得ない事で。きっと色々な事を曲げてくれたのだと想像出来る。

 

 なら、サオリ達は謝らなければならない。ベアトリーチェに命令されたとはいえ、決断し、実行したのはサオリ達なのだから。

 

 

「姫があれ程までに真剣に話すとは……余程、アリウスに必要な人材なのだろう」

 

 

 カヤツリを仲間に引き入れるべき。懸命に力説するアツコは、今までにない程真剣で。サオリの笑みがどんどん深くなる。

 

 だが、それを聞いたミサキとヒヨリの反応は微妙だった。

 

 

「いや、絶対にそれだけじゃないでしょ……もう、姫から話を聞くのは懲り懲り。口の中がじゃりじゃりするの。ねぇ、ヒヨリ」

 

「私は別に構いませんけど……? タダで甘いのを楽しめるなら結構じゃないですか。でも、そうですよねぇ……多分、別の意味もありますよねぇ」

 

「む……それは何だ?」

 

 

 二人の会話の意味が分からなくて、サオリは聞いてみる。

 

 

「うーん。リーダーは、知ったら泣くんじゃないかな……それに、あの男も、随分と誑しじゃない? ねぇ? ヒヨリも聞いたでしょ。凄い物を貰ったんだって。百合園セイアに同じことしてたんじゃないの?」

 

「姫ちゃんに怒られたくないので、私は黙ってますね……」

 

「そうか……」

 

 

 最近は反抗的な二人に、サオリは気落ちする。サオリがそうなっている間に、いつもアズサとの密会に使用している部屋に着いた。

 

 気持ちを切り替えるためにも、サオリは話を元に戻す。

 

 

「兎に角だ。姫が信じているというのに。私たちが信じなくてどうする」

 

「そうですけど……アリウスに姫ちゃんが帰って来てから大分経ちますよ? それから、ずっと空振りじゃないですか。やっぱり無茶だったんですよぉ。私たちがどんな反応か分からないからって、待ち合わせ場所も時間も無しに待ち合わせるなんて……どうやって、この場所を突き止めるんですか?」

 

 

 ヒヨリの言うことは、尤もだった。

 

 実際、この数週間の間ここに通い詰めているが、全て空振りである。しかし、それは仕方ない事なのだ。

 

 アツコはカヤツリと別れた段階では、サオリたちの近況を知らなかった。サオリたちと同様に、どうやって説得するかを考えていたに違いない。そんな状況下で、待ち合わせ場所や時間などを決められるはずもない。

 

 ただ、アツコは唯一のヒントをカヤツリに渡してもいた。

 

 

「姫は、アズサが私たちの仲間であることを伝えている」

 

「アズサの跡をつけて、この場所を突き止めろってこと? リーダーだって知ってるでしょ? アズサはつけられて気づかないバカじゃないよ」

 

 

 ミサキの言う事も、重々承知だ。なにせ、アズサに戦闘技術を叩き込んだのはサオリだ。アズサがどれくらいの力量か、しっかり分かっている。

 

 でも、サオリたちは待つしかないのだ。

 

 

「……このままだと、時間が来ちゃいますよ。間に合うんでしょうか……」

 

「時間?」

 

「そうですよぉ。もう少ししたら……え? 誰ですか……」

 

 

 ヒヨリは言葉を止めた後、正面に口を閉じたままのサオリとミサキを見て。そして、声のした方角が何もない窓だと気づいて、顔が真っ青になった。だって、サオリたちは何も話していない。ヒヨリが二人だと思って話していた声は、窓の外から聞こえた。

 

 

「ひぃん!? ゆ、ゆ、幽霊ですかぁ……!?」

 

「そんなわけないでしょうに」

 

「ひぃぃぃぃん!?」

 

 

 窓枠を掴む青白い手を見たヒヨリは腰を抜かして、サオリたちの傍まで這いずってきた。その間にも窓枠を掴む手は、ズルズルとその先の身体を部屋の中へと引きずり込んでいた。

 

 

「ふぅ……また懐かしい悲鳴だ……」

 

 

 そこに立っているのは、見覚えのない女生徒だった。ただ、ポツリと漏れたその声色に、サオリは聞き覚えしかなかった。

 

 

「……兎馬カヤツリか?」

 

「そう言うアンタは、秤が言ってた錠前サオリだな?」

 

「すまなかった」

 

 

 その制服姿とは裏腹に、女生徒の喉から飛び出したのは男の声だった。続きの言葉を吐こうとしたカヤツリを遮って、サオリは頭を下げた。

 

 

「……何に対して謝ってるんだ? それは?」

 

「襲撃の件だ。姫からもあっただろうが、あの作戦の指揮を執ったのは私だ」

 

 

 カヤツリは、何も言わない。けれど、剣呑な雰囲気は伝わってこなかった。

 

 

「分かった。謝罪を受け入れよう。調子が狂うな……」

 

「感謝する」

 

 

 ため息交じりのカヤツリの返事に、サオリは一安心する。ただ、ゆっくりはしては居られない。

 

 

「まずは確認だが……秤の提案に乗ったってことで良いんだな?」

 

「当たり前でしょ。さっきリーダーが謝ったのを見なかったの?」

 

「念のためだ。ブラックマーケットを抜けたんなら、その意味は分かると思うが?」

 

 

 ミサキの文句は、軽くいなされてしまって。ミサキはじろりと睨む。カヤツリはどこ吹く風だ。全く気にした様子もなく話を進める。凄い真面目で仕事人間。アツコの言う通り。後、何か言っていた気もしたが、サオリは忘れてしまった。

 

 

「それで……秤はベアトリーチェの所か?」

 

「ああ、随分大事なのだろうな。アリウスから出る事を禁じられている」

 

「まま、誘拐されたなら当然の措置か」

 

 

 ふんふんと鼻を鳴らして、カヤツリは何度も頷く。そして、サオリをじろりと見た。

 

 

「じゃあ、ベアトリーチェを何とかする方法を考えようか。そっちの案は?」

 

「姫を旗頭に、アリウス生を出来るだけ仲間に引き入れ、反抗する」

 

「……それで行けると思っていないだろ?」

 

 

 図星を指されて、サオリは言葉に詰まる。実際そうだったが、どうにもその手段しか浮かばないのだ。サオリたちに許された権限はそう多くない。

 

 サオリたちの表情から、何かを察したのか。カヤツリは少しだけ考え込んでいる。

 

 

「じゃあ、別口から攻めてみようか。俺の襲撃事件はどういう経緯で起こったんだ?」

 

「それは……」

 

 

 サオリは、少しだけ躊躇った。カヤツリにとっては辛い話になると思ったからだ。でも、そうするわけにもいかなくて、サオリは全てを話すことにした。

 

 ある時、アリウスに聖園ミカが現れたこと。アリウスと和解したいと訴えてきたこと。そして、あの夜のこと。

 

 それを聞いたカヤツリは難しい顔をしていたと思えば、深々と息を吐ききってしまった。

 

 

「つまりはバカが発端ってことか。それで、俺を襲撃したのはバカの指示と。それにベアトリーチェは便乗したってわけだな。意味が分からん。はぁ……」

 

「それとだな……」

 

「まだ、何かあるのか?」

 

 

 勘弁してくれとでも言いたげなカヤツリに、サオリは更なる爆弾を投下せざるを得なかった。

 

 

「聖園ミカは、アリウスの兵を貸してくれと言っている。クーデターを起こし、ティーパーティを乗っ取ると」

 

「バカだ、バカだと思っていたが。真正のバカだったらしいな……」

 

 

 草臥れてしまったらしいカヤツリは、続けてサオリに尋ねてくる。

 

 

「それでベアトリーチェからは、何か言われたか? 例えば、エデン条約調印式についてとか」

 

「何故分かった? 確かにマダムは、その計画を話している」

 

「そりゃあ、ベアトリーチェの目的は、エデン条約調印式を古聖堂で行わせることだろう? ゲヘナとの取引や、今回のバカのクーデター協力だってそうだろうさ」

 

 

 なぜかと聞けば、カヤツリは半目になって言う。

 

 

「クーデターが失敗した場合。トリニティは内部の再編成で余裕がないだろう。開催場所はゲヘナに丸投げすることになる。それで、成功は多分しないだろうからな。ティーパーティを掌握しても、他の派閥が黙っちゃいない」

 

 

 つらつらと、カヤツリは根拠を述べていく。流石アツコがあそこまで推した理由も分かってきた。それなら、ベアトリーチェの命じた信じられない作戦も信じてくれるかも知れなかった。

 

 

「なら、肝心のマダムの命令だが。古聖堂の地下でユスティナ聖徒会を目覚めさせろとの事だ」

 

「……ユスティナ聖徒会? 何言ってる? シスターフッドが裏切ると?」

 

「違うんだ。信じられない事だと思うが……」

 

 

 カヤツリは訝しげな様子で、サオリを見ていたが。それも当然だと思う。

 

 ユスティナ聖徒会は、かつてのトリニティに君臨した後ろ暗い組織。そして、とっくの昔に滅びた組織だからだ。彼女たちがキヴォトスの表舞台から消えて久しい。サオリだって、名前しか知らない。

 

 でも、ベアトリーチェは言うのだ。彼女たちを目覚めさせろと。

 

 

「エデン条約を書き換えろと、マダムは言った。そうすれば、戒律の守護者たるユスティナ聖徒会が目を覚ますと」

 

「原本を盗み出すって話か?」

 

 

 サオリは首を横に振った。

 

 

「エデン条約調印式。その最中に姫に宣言させるそうだ。エデン条約機構にアリウススクワッドを任命し、エデン条約の敵対勢力としてトリニティとゲヘナを設定する。そうすれば、復活したユスティナ聖徒会が両校を滅ぼす」

 

「古聖堂で宣言する……過去の再現? 何か黒服がそれっぽい事を昔に言ってたか? ……理屈は分からんが、そういう物だと思うしかないな。確かに、場所を指定させて、エデン条約を結ばせたかった道理は通る。そして、これは現象に近い物……」

 

 

 何度も何度もカヤツリは頷いた後、サオリの話を信じてくれた。そして、サオリを正面から見つめてきた。

 

 

「なら、これがどういう結果を招くか分かるな? ベアトリーチェはユスティナ聖徒会を手に入れればどうなるか」

 

「ああ、私たちは用済みになる。そもそも、最初からそうだったのだろうな」

 

 

 その作戦を伝えられた時の失望を思い出して、サオリは目を伏せる。

 

 ベアトリーチェには、今となっては酷いことをされたという記憶しかない。けれど、多少の感謝もあるにはあった。少なくとも、アリウスの内乱を治め、最低限の食料は配給していた。

 

 きっと、ベアトリーチェ自身の目的の為だったのだろう。サオリたちなんてどうでもよくて、最初からそうだったのだろう。でも、その行動の結果、今のサオリたちが居るという事実は変わらない。かつてのサオリは、多少なりともベアトリーチェに感謝はしていた。

 

 それを違うのだと、正面から言われれば失望もする。そして、そう言っても反抗されないと思われているのも、来るものがあったのだ。

 

 

「それで? どうするの? リーダーの案を否定しておいて、何の代案も出さないわけ?」

 

 

 黙った二人に業を煮やして、ミサキがまたカヤツリに噛みついた。何というか、カヤツリに対して、アタリがきつい。カヤツリも不思議そうに眉を上げている。

 

 

「二つある。一つは、先にエデン条約を結んでしまう事だ」

 

「それは、何の意味があるんですか?」

 

「これは、第一回公会議の再現だと思われる。条約とは契約で、契約とは絶対だ。エデン条約という契約で、今はもういないユスティナ聖徒会を使役するという絡繰りだろう。だから、先に結んでしまえばいいんだ」

 

 

 内心でサオリは感心した。確かにそうしてしまえば、前提条件が崩れ去る。マダムの計画は不発に終わり、戦いやすくなるだろう。

 

 

「でも、問題点が一つある。何が起こるか分からないのと、最悪、ユスティナ聖徒会が暴走するかもしれない。ほら、第一回公会議でアリウスがしたことの再現になるからな」

 

「……ああ、ユスティナ聖徒会がアリウスに対して敵対する恐れがある」

 

 

 それは、過去実際にあったこと。アリウスは、第一回公会議に反対し、トリニティのユスティナ聖徒会によって表舞台から追われた。締結されたエデン条約にアリウスが手を出せば、戒律の守護者たるユスティナ聖徒会が起動する恐れは十二分に考えられた。

 

 

「その場合は、アリウス生であることを放棄すれば何とかなりそうだが。あくまで予想でしかないし、それは嫌だろう?」

 

「当たり前でしょ。姫も怒るよ」

 

「それは、最終手段にしたいですよねぇ……」

 

「もう一つはなんだ?」

 

 

 ミサキは相変わらず不機嫌で、ヒヨリも乗り気ではなさそうだ。サオリも同じ気持ちで、カヤツリに先を促す。

 

 

「途中まではベアトリーチェの言う通りにやるんだ。エデン条約機構にアリウススクワッドではなく、アリウス分校を設定する」

 

「? それに、何の意味があるんですか?」

 

 

 ヒヨリの頭には疑問符が浮かんでいる。サオリも、ミサキもそうだ。意味が分からない。そうしたところで、何も変わらないように思う。

 

 

「上手くいけば、ベアトリーチェを排除できるかもしれない」

 

 

 カヤツリの言葉に、アリウススクワッドに動揺が広がる。全員の視線がカヤツリを貫いた。

 

 

「まず、前提として。条約でそう宣言するという事は、アリウス分校はアリウス分校として、エデン条約に協力する事になる。トリニティに加入するわけではなく、ゲヘナとも敵対しない」

 

 

 アリウススクワッドの全員が頷く。続きを早く聞きたかった。

 

 

「それは、ベアトリーチェに反抗するという事だ。すぐさま敵対してくるだろう。けれど、その行為は締結された条約を妨害する行為だ。アリウス分校が、エデン条約機構に参加できなくするという事だ」

 

 

 アリウススクワッドに理解の輪が広がっていく。それは、前の話と繋ぎ合わせれば簡単な話だった。

 

 

「マダムに対して、ユスティナ聖徒会が起動する?」

 

「そうだ。ベアトリーチェが欲しがった戦力が、ベアトリーチェ自体に牙を剥く。ベアトリーチェが欲しがるくらいだ。奴自身も対処は出来ないんじゃないか?」

 

「……やるじゃん」

 

 

 ミサキは思わず感心してしまったようで、言葉が漏れていた。カヤツリは気づいてるようで、鼻を鳴らせば、ミサキはそっぽを向く。

 

 

「でも、そんなに上手くいくんでしょうか……?」

 

「ヒヨリ……?」

 

 

 ミサキとは正反対に、ヒヨリは浮かない顔だ。

 

 

「マダムは、アリウスの生徒会長なんですよ? その宣言が通るんでしょうか?」

 

「いいじゃないか。そういうのは大事だ」

 

 

 ヒヨリは褒められるとは思わなかったのか、目を瞬かせている。喜びが後に来たのだろう緩むヒヨリに、ミサキが肘で突くが気にもならない様子だ。

 

 

「えへへ……嬉しいですねぇ。代案はあるんでしょうか?」

 

「もちろんある。ベアトリーチェは、あくまで自分でそう言っているに過ぎないって事と、アリウスの生徒会長は、他の自治区とは毛色が違うんじゃないかという仮説だ」

 

 

 それは、サオリたちが知らない話だ。他の自治区の事はそんなに詳しくはない。素直に聞けば、カヤツリは答えてくれた。

 

 

「他の自治区は、生徒会長に資格は必要ない。選挙で勝てばいい。けれど、アリウスは違う。きっと血筋が必要なんじゃないのか? ロイヤルブラッドと呼ばれた血筋が。ベアトリーチェが、秤を大事にするのは。そう言った理由なんじゃないのか?」

 

 

 言われてみれば、そのように思う。アリウススクワッドの成立理由だって、アツコの護衛だ。それに、昔から担ぎ上げられてきたとアツコも語っていた。

 

 

「秤を生徒会長にする。元より、その資格があるのは秤だけなんだろう。だから、ベアトリーチェは摂政という形で生徒会長の座に滑り込んだ」

 

「それなら、問題は無いな。姫も乗り気だ」

 

「……ただ、そこから先は分からない」

 

 

 ヒヨリの懸念も晴れて、サオリは活気が漲って来るが、カヤツリは水を差してくる。

 

 

「俺の理解を越えた現象が起こっている。生徒会長の条件は合っているだろうが、なぜ今までそうはならなかったのかという疑問も残る。生徒会長になるためには、何かあるんじゃないか?」

 

「何かとは?」

 

「資格試験というか、試練みたいなものが。アリウスは特殊に過ぎるから、あってもおかしくない」

 

 

 カヤツリは不安そうだが、サオリは全くそうではない。寧ろ、ハッキリとカヤツリへ告げる事にした。

 

 

「心配してくれるのは嬉しいが、姫は乗り気だった。きっとやるだろう。姫は、そう言う人間なんだ。やると決めたら、絶対にやり切る。それは、あなたのお陰でもある」

 

 

 昔の、まだ会ったばかりの頃の思い出を思い返しながら。サオリは言い切る。

 

 

「あなたが助けた人間はそう言う人間なんだ。だから、安心してくれていい。胸を張ってくれ。そして、遅くなってしまったし、襲撃した私が言うのもどうかと思うが……姫を助けてくれて、ありがとう」

 

 

 サオリは感謝しているのだ。アツコをアツコらしくしてくれたカヤツリに。最初の謝罪には、そういう意味も含まれていた。

 

 思いの丈を思わずぶつけてしまったが、カヤツリは怒らなかった。どちらかと言えば、茫然としているような気さえした。サオリは何かやってしまったのかもしれないと思って、今更不安になってくる。

 

 再び沈黙が下りた空気に、ミサキがため息をつく。

 

 

「これを姫に伝えればいいのは分かったけど、そっちはどうするの? まだ聖園ミカが居るし、クーデターに突き進んでる。マダムの排除に成功しても、聖園ミカと共倒れは御免。変装してるところからして、姿がバレたらまずいと思ってるんでしょ? どうやって聖園ミカに対処するの?」

 

「……あ。ああ、次の手は考えてある」

 

 

 カヤツリは我に返ったのか、ミサキの問いに慌てていたが。それも一瞬の事だった。すぐさま冷静になって、こう言い放った。

 

 

「セイアに会いに行く」

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