ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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298話 Awaking Beauty

「なるほど。事情は理解しました。付いてきて下さい」

 

 

 カヤツリの目の前で、ミネが立ち上がって言った。

 

 これまでの経緯を聞いたにも関わらず、いつもの様な鉄面皮は変わらない。カヤツリの反応を待たずに、救護騎士団の教室から、暗い廊下に出て行った。

 

 それをカミガヤの姿で追いつつ、カヤツリは思考に耽る。

 

 

 ──なんか、上手くいったな……

 

 

 これが、今のところのカヤツリの感想であった。ハナコの時間稼ぎは優秀で、アリウススクワッドの密会が終わっても余裕があるそうだ。だから、一気に片付ける事にした。

 

 実際、もっと揉めると思っていた。ミカ以上か、同じくらいに行動が読めないのがミネだった。

 

 何せ、頭救護だ。実際にあった事を馬鹿正直に言えばどうなるか。カヤツリを救護の名の下に監禁し、ミカやナギサに怒鳴り込む未来がカヤツリには見えた。

 

 だからこそ、ミネには接触しなかった。場がコントロール出来ないから。

 

 

 ──いや、これは言い訳か。

 

 

 自らの悲しい自己弁護に、カヤツリは自嘲する。

 

 よくよく考えていれば分かるはずだ。ミネはミネなりにうまく立ち回っていた事は。現に、今もセイアの病室まで案内してくれている。それに、ツルギと同じく、カミガヤの正体を看破してきた。

 

 そんなことは、カミガヤとして戻って来た時から分かっていた事だ。だから、カヤツリがセイアに会いに行かない理由は一つしかない。

 

 

「カミガヤさん」

 

 

 思考の海から帰還すれば、ミネが扉の前で立ち止まっていた。カヤツリが立ち止まったのを確認し、扉を開ける。

 

 そこは小さい部屋で、隅には、無造作に医療物資の段ボールが山積みにされていた。

 

 

「そこへ掛けて下さい」

 

 

 有無を言わさぬミネに、カヤツリは従うしかない。黙って、ソファに座れば、ミネが向かいに腰を下ろしていた。

 

 

「一先ずは、セイアさんの状況を伝えますが。彼女は今、眠っています」

 

 

 まるで教科書を朗読するかの如くに、ミネは言う。

 

 

「眠っている?」

 

「はい、身体には何の異常もなく健康体そのものです」

 

 

 カヤツリは安堵の息を吐く。やはりハナコの想像通りに生きていた。寝ているのも当然だ。何せ今は真夜中に近いから。が、ミネの顔が険しくなった事に気付く。その理由は直ぐに分かった。

 

 

「しかし、目を覚ましません。あの日からずっと」

 

 

 カヤツリは崖から突き落とされた気分になって俯いた。どんどん腹の中が冷えていく。

 

 

「……原因は不明です。ヘイロー破壊爆弾でしたか、あなたが聞き出したその兵器の影響ではないでしょう」

 

 

 ヘイローが破壊されれば死ぬしかない。眠っているなら、 ヘイローは破壊されなかったことになる。

 

 そして、その原因は分からない。それは、セイアを目覚めさせる手段がない事を示していた。

 

 

「……何か無いのか。団長」

 

「私の独断ですが。ヨハネ分派の伝手を使って、遠隔で診察も行いました。その上で待つしか無いと結果が出ています」

 

 

 カヤツリの縋るような問いも、ミネによって答えられてしまった。ミネや医者がそうなら、お手上げである。もうカヤツリの手札には切れる札が残っていない。ただ、セイアが目覚めないという現実があるだけだ。

 

 

 ──あの日と同じだ。

 

 

 ふと、カヤツリにそんな言葉が降ってくる。そして、いつのまにか、腹どころか、胸の奥すら冷たくなっている。

 

 カヤツリを満たす冷たいモノは、懐かしかった。あの日と同じような、もう二度と感じたくは無いはずだった。

 

 

 ──また、間に合わなかった。

 

 

 悔しさか、怒りか。何か強い感情がカヤツリの中で暴れている。堪えるために歯を食いしばれば、歯がギリリと軋んだ。

 

 それは、そこだけは、あの日とは違う点だった。あの日は、何も感じられないくらいに空っぽな気分だったから。

 

 その理由は理解できた。あの時は、居なかった存在がいるからだ。

 

 あの日起こった事は、サオリたちが教えてくれた。カヤツリが思い悩んだのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに、単純で救えなかった。

 

 セイアは白洲アズサに襲われた。それはなぜかと言えば、ミカがそうアリウススクワッドに頼んだから。カヤツリは間に合わなかった。それはベアトリーチェがそう指示して、カヤツリをアリウススクワッドに襲わせたから。

 

 

 ──聖園ミカ。アリウススクワッド。白洲アズサ。ベアトリーチェ。

 

 

 彼女たちのせいで、セイアは目を覚まさない。彼女たちのせいで、カヤツリは間に合わなかった。違う点は、そこだった。

 

 今回の相手は砂嵐などという災害では無い。あの日には無かった復讐相手がいる。

 

 彼女たちに復讐すれば、気は晴れるだろう。さぞかし愉快で爽快に違いない。

 

 やり方は簡単だ。先にエデン条約を結んで仕舞えばいい。そうすれば、エデン条約に手を掛けた瞬間にユスティナ聖徒会がアリウスを滅ぼす。

 

 邪魔するであろうミカも、正論で殴れば良い。勝手に自爆する。ナギサもそろそろ限界だろう。ゆっくり休めばいい。やろうと思えば、全部滅ぼせる。

 

 大体、なんで自分はこんな事をしているのか。加害者を助けるような馬鹿な真似だ。アリウス、トリニティ、ゲヘナを救うような事は意味がない。

 

 助けた所で、アビドスを救いはしない。ありがとうの言葉で終わり。それどころか何もしないかもしれない。

 

 あの出来レースの夜だって、伝達ミスがなんだか知らないが、カヤツリはユメを助けに行けなかった。間に合わせてもらえなかった。

 

 マトは謝ってくれたし、マトを通してとはいえ、ヒナも謝ってくれた。土下座までする勢いだった。

 

 でも、それだけだ。謝罪一つで、ユメの死は片付けられた。ゲヘナは、人一人の死よりもシェマタという名の爆弾を優先した。キヴォトスの為と嘯くが、本当は保身のためだろう。

 

 まさか、知られていないとでも思っているのだろうか? 怒っていないと思うのだろうか? 自分はただ飲み込んだだけだ。それどころでなかっただけだ。ゲヘナはアビドスに何もしなかった。対等な取引である契約を持ちかけたのが譲歩だとでも言うのだろうか? だから、雑な言い訳をして、アビドスに侵入するのだろうか? とんでもない間違いを犯したのに、取り返しのつかないモノを失っていないのは、ゲヘナだからだろうか?

 

 

 ──じゃあ、今回も何とかしろよ。滅んでも、お前は困らない。

 

 

 ふと、そう誰かが呟いて。カヤツリの頭が回り出す。

 

 アリウスと同じような細工をすれば、ゲヘナにだってユスティナ聖徒会は牙を剥くだろう。そう出来る権利と理由と手段が、カヤツリの手にあった。

 

 

 ──自分を見失っちゃうよ?

 

 

 もしもの想像をしたカヤツリに、もういない誰かが囁いて。カヤツリは舌打ちした。

 

 カヤツリはそうはできないのだ。ユメとの思い出がそれを許さない。

 

 それに、そもそもの理由。ミカがそうした理由が、本当に救えなかったのだ。

 

 

 ──本当にわからない訳?

 

 ──姫ちゃんも大変ですねぇ

 

 

 ミカがカヤツリ達を襲わせた理由。それが分からなくて頭を捻るカヤツリとサオリに向けられた言葉。ミサキとヒヨリの呆れた言葉。

 

 二人のカヤツリを見る目は、カヤツリを上回った事に対する勝ち誇ったものではなく、呆れだけだった。

 

 

 ──どうせ、あれでしょ? 姫相手と同じような事を百合園セイアにもしたんでしょ?

 

 

 詰め寄るミサキに反抗しつつも、セイアとの間にあった事を説明した。それでも、ミサキとヒヨリの呆れは収まらなかった。

 

 

 ──発破をかけたかったんだと思う。喧嘩しているように見えたなら尚更。

 

 ──多分、親切心だったんでしょうねぇ……

 

 

 あくまで仮説に過ぎないが、ミカは喧嘩中に見えたセイアとカヤツリを仲直りさせたいが為に、あんな手段を取った。

 

 あまりにも馬鹿馬鹿しいが、今のミカの行動にも理由がつけられる。

 

 ミカは自分で幸せをぶち壊した。だから、取り繕おうと必死だ。セイアとカヤツリの犠牲に意味を持たせたくてたまらない。でも、それが間違った事であるのも分かっている。だから、行動が正反対で滅茶苦茶なのだ。ミカ自身がそうなってしまったから。

 

 何処かで見たような醜態に、食いしばっていたはずの顎も力を無くす。カヤツリには、今のミカの気持ちが手に取るように分かる。きっと、生きた心地などしないだろう。じりじりと迫る破滅のカウントダウンを聞きながら、足掻きを続けるしかない。それが、決していい方向には行かないのだと分かっていても。

 

 

「はぁ……馬鹿らしい……」

 

 

 かつての自分を嬲る趣味はカヤツリには無い。何とか整理をつけて俯いた顔を上げると、いつの間にか立ち上がったミネが盾を構えていた。どうやら、万一の場合は()()するつもりらしかった。

 

 

「落ち着きましたか……」

 

「暴れるって? そんな事はしない」

 

「素が出ています。それに、私の予想した通りに酷い顔です」

 

 

 カミガヤの振りを出来ていない事を指摘されるも、言い返しはしなかった。ミネの一言が引っかかったからだ。

 

 

「予想? 俺がこうなるって?」

 

「ええ。あなたは絶対にショックを受けると思っていました。私には分かります。あなたには救護の必要がある。だから、私からはあなたに接触しなかった」

 

 

 あんまりにも当然のようにミネは言うので、カヤツリは、またも言い返せなかった。ミネは構えていた盾を下ろして。最初と同じように座り直した。

 

 

「……セイアさんが昏睡状態になり、あなたが居なくなったあの夜。私はまず最初にセイアさんの部屋へと突入しました」

 

 

 結果は話した通りですが。そうミネはポツリと呟く。ミネもミネなりに思う所はあるらしい。いつもの超然とした雰囲気が揺らいでいるように思う。

 

 

「私は、出来る事をしたと思っています。今思っても、あれ以上の動きは出来なかった。セイアさんから救護した判断は間違っていなかったと思います」

 

 

 カヤツリは静かに頷く。それは間違っていなかった。それ以上の事を、何も知らないミネに求めるのは酷だ。でも、ミネはそうは思っていない様子だった。

 

 

「それでも私は、後悔しました。もっとやれる事があったのではないかと。もしかしたら、あなたとセイアさんの両方を救護できたのではないかと。そう思いながら日々を過ごすうちに、気づいたのです」

 

 

 ミネの鋭い瞳が、カヤツリを見た。

 

 

「私の救護は、そもそも手遅れなのだと。事が起こってから急行するのでは間に合わない。いつか限界を迎える。ならば、救護を間に合わせるのではない。そもそも救護が必要な事態を必要以上に起こさないようにする。そんなやり方で対処した。だから、あんな迂遠なやり方だったのですね」

 

 

 ミネの言う事は合っていた。ミネが噛みついて来たのも当然の話なのだ。カヤツリのやり方は、そもそもミネが活躍しないで済むようなものだから。そして、そうする理由もミネは見抜いている様子だった。

 

 

「あなたは間に合わなかった事がある。それを今も後悔している。だからあのやり方だったのだと、私は考えました」

 

「そうだよ」

 

 

 降参とばかりに、カヤツリは肯定した。しかし、それを見事に言い当てたミネは、険しい顔のままだ。

 

 

「傷病には受容のステップがあります。衝撃から怒り、諦観、受容。あなたは受容を中断され、古傷を切開された。その過去を刺激されたあなたは、我を失うかもしれなかった」

 

 

 だから、盾を構えて戦闘態勢を取っていたのだ。次にミネがどうするかは、おおよそ想像できた。

 

 

「救護するのか?」

 

「はい。今すぐに」

 

 

 カヤツリはため息をついた。こうなったら、ミネは頑として動かないだろう。計画に多少の修正が必要だった。

 

 けれど、何時まで経っても。ミネは立ち上がろうとしなかった。座ったままで、口を開く。

 

 

「あなたは知るべきです。まだ終わった訳でも、間に合わなかった訳でもありません」

 

「セイアは目覚めないじゃないか」

 

「それは、そうです」

 

 

 ミネはあっさりと頷くも、瞳には決意が満ちていた。

 

 

「あなたはセイアさんに会うべきです。目覚めないのだとしても、それがあなたの願った結果でないとしても。見つめて受け止めなければなりません。今のあなたを救護するのは、あなたしかできないのですから」

 

 

 有無を言わせぬ勢いで、ミネは奥の部屋を指差した。それが何を指しているのかは、はっきりしていた。

 

 それは、無駄だ。カヤツリが行った所でセイアが目覚める保証もない。それでも、とミネは言う。

 

 

「それでも、少なくとも一人は間に合ったのです。あなたが帰ってきてくれて私は安心しました。あなたは私を救護した。決して、全てが間に合わなかったわけではありません」

 

 

 ミネは本気でそう思っているようだった。ミネにとって、救護できないなど敗北宣言に等しい。それでも、会うべきだとミネは言うのだ。そこまでされて、カヤツリは嫌だとは言えなかった。

 

 そして、カヤツリの返事を聞いたミネは、安心したように笑った。

 

 

 □

 

 

 ミネに案内された部屋は真っ暗だった。実際夜であるから、暗いのは仕方がない。

 

 部屋を突っ切って、カヤツリは進む。目指す場所は分かりやすい。窓際に置かれたベッドだ。

 

 

「セイア……」

 

 

 ベッドの上にはセイアが目を瞑って、眠っていた。薄い病院着に覆われた胸がゆっくりと上下している。ミネが言う通りに眠っているようだった。その証拠に、声を掛けてもピクリともしない。

 

 

「どうするかな……」

 

 

 会ったところで、何が変わるわけでもない。何度も名前を呼んでも、手を握ってみても、セイアは何の反応も返さない。

 

 

「ごめんな……」

 

 

 黙っていると。思わず言葉が零れた。ポロポロと続きも零れだす。

 

 

「こうなるなら、もっと話しておけばよかった。拗ねてるとか、仕事が忙しいとか、そっちが拒否ったとかで放置しなけりゃ良かった……」

 

 

 それは後悔だった。いつもは飲み込んできた後悔が、口をついて溢れ出していた。ユメの時は言えなかったそれを吐き出す度に、何かが軽くなっていく気がした。

 

 

「ああ、クソ。何吐き出してるんだ……」

 

 

 セイアに吐き出しても迷惑だろう。寝ているセイアを聞き役にするなど、失礼にも程がある。結局はカヤツリが楽になるためだけの行為なのだ。

 

 余りにも情けない。カヤツリはベッドから一旦離れようとして、鳥肌が立っていることに気づいた。

 

 

「……寒いな」

 

 

 夜になったせいか、気温が下がっている。そろそろ夏になるとはいえ、まだ夜は涼しい。セイアの薄着が目に入ったカヤツリは、掛け布団を掛け直すことにした。

 

 

「ん?」

 

 

 掛け布団を首元まで引き上げた時、何かが動いた気がした。手を止めてまじまじと見つめるが、何の変化もない。気のせいかと思って視線を外そうとした時、視界を何かが横切った。

 

 

「……耳?」

 

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ。セイアの狐耳が動いたような……

 

 少しの希望に縋って、カヤツリは眠るセイアに顔を近づけた。しばらくじっと見つめてみる。

 

 

「気のせいか……」

 

 

 そう判断して、顔を引き戻そうとしたカヤツリは両耳に風を感じた。

 

 

「な!?」

 

 

 カヤツリは驚愕の声を上げて身を引いた。何故かと言えば、何かがカヤツリの肩を掴んだからだ。よりにもよって、引き寄せようとする始末。反射的に身体が後ろへ倒れる。

 

 けれど、肩を掴んだ何かはカヤツリを離しはしなかった。するとどうなるか。答えは簡単だ。それごと床に倒れる羽目になる。

 

 

「グッ! 痛い!!」

 

 

 カヤツリは痛みに呻く。後頭部を強打した挙句に、口に何かが当たったからだ。濡れて暖かい物が唇に当たったと思ったら、歯に固いものが直撃した。おかげで振動がカヤツリの頭を揺らしていて、目の前が良く見えない。

 

 その上、身体の上に何かが乗っているようだ。上手く重心の上に乗られたせいで、振り落とせやしない。

 

 

「君は、一体何のつもりだい!!」

 

 

 何とか起きようとするカヤツリの耳に、そんな声が聞こえた。とても怒っている声だ。

 

 

「私に会いに来るまで、一体いつまでかかっているんだ! 直ぐに会いに行くのが当然ってものじゃないのかい!?」

 

 

 カヤツリの襟首が掴まれて、グラグラ揺らされる。カヤツリの眩暈と視界が悪化した。

 

 

「大体、ここまで何人の女を引っかけたんだ!? アリウス! アビドス! トリニティ! あれかい!? 君はハーレムでも目指しているのかい!? 私では我慢できないとでもいうのかい!?」

 

 

 声の主は、まだまだ文句があるようで。勢いは少しも衰えない。洪水の如くに言葉がわっと浴びせられる。

 

 

「よくも! よくも! 私に見せつけてくれたね!? お陰で全く目が覚めなかったよ! しかもあんな服を買って、デート!? 私だって色々プレゼントしたじゃないか!? その上二人での逃避行に、バラまで!? しかも、青いバラだとは! そのセンスをどうして私にも発揮してくれなかったんだい!?」

 

 

 まるで、近くで見てきたような言い草に、カヤツリは眉を顰める。それすら相手は気に入らないのか、声のボルテージが上がった。

 

 

「不服だとでも言うのかい!? 昔の女と会って嬉しそうだった人間の反応とは思えないね! なんだいあの言い訳の数々は! 最初は我関せずの立場なら文句は言わないが。途中から乗り気だったのは否定させないよ!」

 

 

 余りに声がうるさくて、カヤツリは耳を塞ごうとする。それを察した相手は両手を押さえつけてきた。カヤツリの身体の全面に、薄い身体が当たる。

 

 

「それに、良い趣味をしてるじゃないか! それだけなら百歩譲ってまだいいが! 同棲だって!? あんなに狭い部屋で!? しかも共犯者!?」

 

 

 眩暈と後頭部の痛みが限界だ。その上、相手の頭がカヤツリのすぐ下にある。首筋に吐息が当たるほどの距離から、大音量の怒号がカヤツリを襲う。

 

 

「いいかい! 君にはちゃんと私の不満を受け止める義務があるんだ! さっきの接吻で許したわけじゃない! 後数回は要求する権利が──」

 

「一体何をしているのですか!!!!!!」

 

 

 相手の怒号を掻き消して。新しい怒声。ミネの大声がカヤツリの頭を揺さぶった。

 

 

「おや、ミネ団長じゃないか。救護感謝す──」

 

「神聖なこの救護室で! 一体! 何をしているのかと聞いているのです!!!!!!!!」

 

 

 気安い相手の声を遮って、ミネの怒号が部屋中に響いた。ズンズンとこちらへ近づいてくる足音と振動が身体を揺らす。

 

 

「そのような薄着で抱き着くなど! しかも接吻ですって!!」

 

「いいかい。ミネ団長。これには深い事情があるんだ」

 

 

 腰の上の相手は、さっきの怒号はどこへやら。ミネ相手に下手な言い訳を繰り返している。そして、それは悪手であることを。カヤツリはよく知っていた。

 

 

「この男はあろうことか。この私を放置して──」

 

「救護──!!!!!!」

 

 

 相手の言い訳を切り捨てて、ミネの怒号が部屋に響いた。

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