ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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2話 疑念

「ホシノちゃん。あれはやりすぎだよ」

 

「あれでいいんですよ。ユメ先輩」

 

 

 準備のためにカヤツリが出て行ったあと2人だけの生徒会室でホシノは言った。

 

 ホシノは昨日、先輩から新入生としてカヤツリが来ると聞いてから猜疑心で一杯だった。一昨日の砂漠での騒動が無ければきっと、先輩と一緒に歓迎していただろう。

 

 

「アイツが来たことにユメ先輩はおかしいって思わないんですか?」

 

「一昨日砂漠で会った事?きっと偶然だよ」

 

「それもですけど、入学書類ですよ。昨日届いたやつです」

 

「中身は見たけど、全部揃ってるよ。内容も変じゃなかったし」

 

 

 机でパラパラとその書類を先輩はめくって確認している。問題は書類が正しいことなのだが。

 

 

「それですよ。一昨日砂漠でアイツはどんな服でした?」

 

「どんな服って、すごいボロボロの服じゃなかったっけ、どこかの制服だったかな」

 

 

 だからホシノは砂漠でカヤツリのことを停学か退学者と当たりをつけたのだ。そしてカヤツリも否定はしなかった。

 

 

「入学書類だと、普通に中学は卒業扱いになってるんですよ。停学や退学なんて書いてないんです。おかしいじゃないですか」

 

 

 おそらく、この書類は偽造なのだろう。ホシノも一昨日会っていなければ気がつかなかった。念の為、他人の物を引っ張り出して比べても見分けがつかなかった。

 

 カヤツリには、このレベルの偽造ができる仲間がいるはずだった。此処アビドスでそんな事ができるのは、大人だけだ。それもとびきりの力を持った。

 

 つまりは大人の手先という事だ。騙されてか、自主的にやっているのかは知らないが。そんな奴に容赦をする気はホシノには毛頭なかった。

 

 

「だから、カヤツリ君にあんなに噛み付いたの?ホシノちゃんらしく無いとは思ってたけど、よく気づいたね」

 

 

 先輩は書類を確認して感心したようにホシノを見た。その視線が恥ずかしくなって、ホシノは言葉を続ける。

 

 

「あのまま逃げられると思って、挑発したんですよ。砂漠でも簡単に乗って来ましたから効くと思ったんです。まだ目の届くところにいた方が見張りやすいですから。仕事だって先輩に言われなくても、ちゃんと気づかれないようについていくつもりでしたよ」

 

 

 あの仕事だってあのまま挑発すれば、カヤツリ一人で行っただろう、その方が尾行するつもりだったホシノにとって都合がよかったのだが、それは今回失敗してしまった。

 

 ただ見張っていればいつか尻尾を出すだろう。その時に追い出してやればいいのだ。どうせ禄でもないことを考えているに違いなかった。抵抗されても制圧する自信がホシノにはあった。

 

 カヤツリに金銭との代替案を出された時は、感づかれたと思ってかなり焦ったが、先輩の助け船で何とかなった。

 

 ただ最初から先輩が生徒会にカヤツリを入れる前提で話していたのは、別に気づいていたわけではなかったらしい。

 

 相変わらずのお人よしだと思う。だからこそホシノは心配なのだ。ホシノは先輩の方に向き直り、真剣な顔で言った。

 

 

「今回はよかったですけど、ユメ先輩は甘すぎます!」

 

 

だからホシノは先輩に釘を刺すことにした。いい加減にここで先輩には分かってもらった方がいいと思ったのだ。今回は偶々いい方向に転がっただけなのだから。

 

 

「先輩もやっとわかったでしょう?どう見たって、あれは悪党ですよ。隙を見せたらいけない人種です。アビドスにもう善人なんていないんですよ」

 

 

 ──悪人を信じる?そんな事で先輩が傷ついたり、ましてやいなくなってしまったりなんてしたらきっとホシノは耐えられない。だからもっと自分を大事にしてほしいのだ。先輩のような人なんて、きっと他にはいないんだから。

 

 

「だから──」

 

「ホシノちゃん」

 

 

 ホシノは自分を見つめる先輩の顔を見て何も言えなくなってしまった。いつもの顔とは違う、大事なことを伝える時の顔だ。

 

 

「前にも言ったけど、疑念、不信、暴力や嘘。そういうものを当たり前だと思うようになったら自分を見失っちゃうよ。今のホシノちゃんはそうじゃないって言える?」

 

「……アイツが悪人じゃないって言うんですか。なんでユメ先輩は信じられるんですか。書類も偽物じゃないですか。ホントの事なんて何もないじゃないですか」

 

 

 ホシノは先輩の言葉に抵抗する。どうしてわかってくれないのだろう。先輩を守れるのは自分だけなのに。

 

 

「一昨日の砂漠の事をホシノちゃんは覚えてる?」

 

「アイツとのことですか?細かいとこまでは覚えてませんよ」

 

 

 ホシノは記憶を辿るが、大まかにしか思い出せない。確か水の値段でもめて、恥ずかしいとか言った覚えがあった。

 

 

「あの時のカヤツリ君ね。怒ってもいたんだろうけど、悪党って言われたときに一瞬だけ悔しそうな、泣きそうな顔をしたの」

 

「それがどうしたっていうんです」

 

 

 呆れた顔でホシノは言う。馬鹿にされたと思ったのだから当たり前だろう。これまでの奴らもそうだった。

 

 

「何回か、ホシノちゃんはわざと同じように相手を怒らせることがあったでしょ」

 

 

 別にそんなことを毎回しているわけではない。ただ先輩と一緒に戦うときは、学習しない先輩の尻拭いが多いのでイラついているのだ。どうしても口が悪くなる。あの時もそうだった。

 

 

「ホシノちゃんに挑発されて怒る人はね。いっつもその……なんていうかな。やろうとしたことを邪魔されたことに対して怒ってるの。よくも邪魔してくれたなって」

 

「まあ……そうでしょうね」

 

「だけど、あの時のカヤツリ君はそんな風には見えなかったよ。あれは、お金が手に入らない事じゃなくてホシノちゃんに言われたことに対して怒ってたの。たぶん自分でもわかってたんじゃないかな。それが恥ずかしいことだって」

 

 

 だから何だというのか?ホシノは内心呟く。やっていることは変わらないではないか。結局は行いが全てだ。

 

 

「恥ずかしいって思うってことは、間違ってるって思ってるってことだよ。私が見た中で今までホシノちゃん相手に怒った人でそう思った人はいないと思うよ。そういった人たちは自分がやっていることを悪いとも間違っているとも思っていないんだから」

 

 

 自覚しているからマシな人間だとでも?事実は変わらないし、他人はみんな悪党なんだから。

 

 

「ホシノちゃん。ついさっきも言ったけど、そういうのに慣れすぎると自分を見失っちゃうよ」

 

「でも、アイツぼったくりじゃないですか」

 

 

 でも先輩は優しい顔で、納得できない私に言うのだ。

 

 

「カヤツリ君はあの時、水の値段を吊り上げようと思えばいくらでも吊り上げられたはずなの。500円どころか100万円だってね。それに最後は謝ってた」

 

 

 そんなに悪い人じゃなさそうでしょ?そう言った先輩の言葉は理解はした。納得はできないが。ここまで説明されればホシノにも理解はできる。いつもは失敗ばかりな先輩だがこういったところはよく見ていたりするのだ。

 

 

「カヤツリ君はまだ何もしてないでしょ?決めつけるのはよくないと思うな。疑わしきは罰せずとも言うでしょ」

 

 

 正論であった。確かに今までのあれこれは、全てホシノの推論である。書類も状況証拠にしか過ぎないのだ。唯一やったのは一昨日のぼったくりかもしれないが、それは未遂で終わっている。

 

 

「……はぁ、分かりましたよ。ユメ先輩。私の負けです。アイツの扱いは仕事ぶりを見て決めることにします」

 

「うん。ホシノちゃんが分かってくれて私も嬉しいよ。カヤツリ君も待ちくたびれてるんじゃないかな。早く行ってあげなきゃ」

 

 

ホシノが窓から校門を見ると、人影が見えた。アイツは逃げずに律儀に待っているらしい。そういったところも先輩が信用する理由なのだろうか。先輩に見送られながらホシノは校門へ向かった。

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