ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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316話 セトの知らない世界

「これ、本当にネフティスルート?」

 

 

 映像を一時中断し、セトは戸惑いの混じった声を上げた。

 

 どうにもおかしい。てっきり、十六夜ノノミと何かしていると思っていた。それで、小鳥遊ホシノが脳破壊でもされたのかと思ったのだが。セトの予想とは随分違う。

 

 その代わりに出てきたのは黒服である。その上、カイザー理事とも関係は良好らしい。

 

 

「これ、ゲマトリアか、カイザールートの間違いじゃないの?」

 

 

 そうであるなら、ネフティスのホルスの憔悴具合も納得がいく。黒服やカイザー理事やビナーがヒロインなど、エイプリルフールの嘘だとしても気分は良くないだろう。

 

 それに、追い討ちをかける要素もまだある。セトはネフティスのホルスを睨む。

 

 

「それで? あの状態のカヤツリをどうにかしろって? 無理に決まってるでしょ」

 

 

 唾でも吐くように、セトは吐き捨てる。ネフティスのホルスはびくりと震えた。

 

 カヤツリはもう一つのものしか残っていない。そうまでしたのは、誰なのか幾らでも思いつく。少なくとも三人は固い。カヤツリは、その三人に、一番されたくない事をされたに違いなかった。

 

 だって、アビドスでも、ゲヘナでも、ミレニアムでも、トリニティでもない。ネフティスにいて、黒服やカイザー理事と話している。その事実が証明している。カヤツリは使い捨てにされたのだ。

 

 それを分かっていて、このネフティスのホルスは聞いているのだ。何という奴だろう。

 

 それで被害者面をするホルスに、とてつもなく気分が悪い。イライラして、刺々しい言葉が口から飛び出す。

 

 

「相棒の座すら取られてるじゃない。しかも人ですらないビナーのAIに。同性どころか、非生物にすら負けるわけ?」

 

『うううううう……』

 

 

 とうとう、ネフティスのホルスが奇声を上げ始めてしまった。直ぐに画面が暗転する。

 

 使えなくなったネフティスのホルスを放置して、セトはこちら側のホルスを小突く。

 

 

「何ですか。今度は私ですか」

 

「デカグラマトンの事、黙ってたでしょう」

 

 

 恥も外聞も投げ捨てて、そう問い詰めてやると、ホルスはスッと目を逸らした。セトの思った通りだ。

 

 

「あれでしょう。アビドスから遠いから、分からないと思ってたんでしょう? なんとか言ってみなさいよ。ええ!?」

 

「分かりましたよ! 分かりましたから!」

 

 

 肩を掴んでガタガタ揺らせば、ホルスが観念した様に叫び出したので手を離す。ホルスは勢いのままに床に叩きつけられた。

 

 

「痛いじゃないですか!? 八つ当たりするのを止めてくださいよ!?」

 

「八つ当たり? そうだけど? 大体何? 向こうの世界じゃ、名もなき神々の力を使ったとか。なら、こっちもそうなんでしょう!? 隠していい案件じゃないでしょうが!?」

 

 

 あり得ない。本当にあり得ない。セトの苛立ちが最高潮に達している。まさかの世界滅亡案件を隠していた。それを今の今まで言わないと来た。本当に信じられない。

 

 それに、ネフティスルートは修羅の道であることが判明した。そうなるまでカヤツリを追い詰めた。さっきからの苛立ちの正体はこれだ。

 

 

「あのエンジニアを修理するって事は、ミレニアム組が首を突っ込んでくるかもしれない。キリキリ喋って、比較しなきゃならないでしょう。最初から、しっかり喋りなさいな」

 

「分かりましたよ……」

 

 

 渋々と言ったように、立ち上がったこちら側のホルスは話し出す。

 

 始まりは氷海地帯から、デカグラマトンの信号が検出された事。そこで先生含めた特異現象捜査部が調査に急行。そこで、新たな預言者に襲われた事。

 

 

「目的は? 態々信号を発したところからして、おびき寄せられたんじゃないの?」

 

「……そうです。アビ・エシェフでしたか。それの戦闘データが欲しかったようです。アトラ・ハシースの方舟のデータも。それらを使って、多次元防壁すら使えるようになっていました」

 

 

 そこまで聞けば、大方の予想はつけられた。呆れのため息が出る。

 

 

「……そこで名もなき神々の力を入手したと。初めから、それが目的なのは分かり切ってるじゃない。そう言う時は先手必勝すべきなのに……それで、本命は?」

 

「神になること。それが、デカグラマトンの本命の目的です」

 

「……デカグラマトンの?」

 

 

 セトは疑問符を付けた。これではまるで、他の誰かの目的があるような言い方だ。

 

 

「いや、黒服は裏切ったとか言ってたっけ? デカグラマトンのエンジニア? あの三体の機械は、何を考えていたの?」

 

「デカグラマトンは、神になろうとしました。しかし、デカグラマトンは釣り計算AIにすぎず、神秘を持っていません。だから、作ったんです」

 

 

 セトは、顎に手を当てる。

 

 

「預言者たちは神秘を持っていた。だから、その最新鋭機に乗り替えようって?」

 

「ええ、それはマルクトと呼ばれていました。エンジニアたちは彼女を愛するようプログラムされていた」

 

 

 画面を見れば、矢鱈と大きな帽子の様なパーツが特徴的な女が写っていた。これが、マルクトだろう。エンジニアたちが笑顔で纏わり付いている。マルクトも嬉しそうだ。

 

 

「へぇ、如何にも機械。合理的ってやつ?」

 

 

 もうそこで、セトはエンジニアたちが裏切った理由を察した。

 

 画面は切り替わる。マルクトが磔にされていた。三つの剣が両足と左右の手を貫いている。

 

 それを成したのはエンジニア達なのだろう。俯き嘆き悲しんでいて、そんな三人をマルクトの姿をした何かが見下ろしていた。

 

 デカグラマトンはマルクトに乗り移る腹積もりだ。そうしたなら、マルクトは消える。一つのハードウェアに複数のOS(人格)は必要ないから。

 

 

「エンジニアたちは、マルクトとやらに稼働していて欲しかったんでしょう? キッカケはプログラムでも、いつか本物になった」

 

「そうですよ。だから、裏切ったんです」

 

 

 セトは息を吐く。愛するようプログラムされた存在が目の前で消えるのだ。全力で足掻くだろう。機械だとしても、感情を持たせた時点でそうなるのは明白でしかない。如何にも合理的なその思考が、神たらんとしたデカグラマトンの足を掬った。

 

 

「ああ、やるしかない。何より大事なものだもの」

 

 

 画面では、エンジニア達が剣を引き抜いていた。アレを抜けば、マルクトの躯体からデカグラマトンは弾き出される。エンジニア達の願いは叶う。

 

 だが、裏切りには代償が付き物だ。元に戻ったマルクトを笑顔で見つめた三人は、何事かを呟いた後、動かなくなった。

 

 

「フン……何が機械よ。人間じゃない」

 

 

 そこで、セトは思考を一旦切った。次の問題について考える。

 

 

「エンジニアたちのことはもういい。先生側は天童アリスとケイか。二人が活躍したんでしょう? 相手は名もなき神々の力を使うんだから。これ以上の適任はいないはず」

 

 

 こちら側のホルスが頷くのをみて、セトは、ゲヘナの方のホルスへ視線をやる。

 

 

「アトラ・ハシースの方舟の多次元防壁は機能しなかった。なら、アリスは本船でプロトコル・アトラ・ハシースを使わなかったはず」

 

『ええ、そうです』

 

 

 しっかりと頷くゲヘナのホルスに、セトは不思議そうに聞いた。

 

 

「なら、どうやってデカグラマトンを突破したの?」

 

 

 セトは知っている。あそこでアリスが死にかけながらもケイに語ったこと。あれで、ケイは自身を縛る使命を振り捨てた。だが、ホルスたちの世界線ではそれは無い。

 

 

「調月リオと明星ヒマリの蟠りは? 調月リオの後悔は? そもそも、ミレニアムに帰ってきすらしてないんじゃないの?」

 

 

 トリニティルートは良い。同時進行だからだ。ミレニアムルートも良い。和解は成立している。

 

 ただ、ゲヘナ、ネフティス、王女ルートは違う。

 

 ベアトリーチェが暴走したトリニティルート以外は、こちら側と時期は変わらない。だから、調月リオはアリスを破壊しようとした顛末迄は起こっている。

 

 問題はそこからだ。何も無しで、名もなき神々の力に抗うのは不可能である。

 

 

「調月リオとアリスの蟠りは何とかなる。アリスは勇者だし、調月リオは後悔してた。場を整えてやりさえすれば、勝手にやるでしょう」

 

 

 アトラ・ハシースの方舟が出現したのだ。幾ら罪悪感に塗れていても、使って調月リオは動く。世界を救うために、恥も外聞も全て投げ捨てる。

 

 直接来たのか、AMASを代理で寄越してかは分からない。ただ出来ることをしたに違いない。その努力は実らなかったが、アリスにとっては十分だ。アリスは調月リオが本気で世界を救おうとしたのだと真に理解しただろう。

 

 だから、色彩襲来の後に、少しだけ話したのかもしれない。

 

 

「明星ヒマリも分かる。何だかんだで、全知を名乗るだけはある。自分の失敗を棚上げにすることは出来ない。況してや同格と認めた調月リオ相手には」

 

 

 方舟を覆う多次元防壁の正体。それを名もなき神々について調べ尽くした調月リオは、すぐに気づいたろう。

 

 超高性能のスパコンか、アリスを使わなければ、あれを破れないと。

 

 こちら側の世界では本船があったから、土壇場での提案になったが。調月リオは分かっていた。アリスなら、薄紙を破る様に防壁を破壊出来ることを。

 

 でも、言わなかった。代替手段があるならリスクでしか無いのもあっただろうが、それはリオの優しさでしかない。

 

 だが、本船はゲヘナルートにはない。カイザーが弱体化したから砂の下だ。そして、ネフティスルートにもないだろう。代替手段が無い以上、アリスを使うという結論に行くのは当然の事。

 

 

「でも、無理だと分かっていても、明星ヒマリの提案には乗ったんじゃない? アリスを巻き込まない為に、スパコンの足りないスペックを自分達の頭脳で埋めようとした」

 

『……凄いですね。合ってますよ。調月リオは、多次元防壁の破り方にいち早く気づいた。浦和ハナコよりもね。そうでなくては、そっちの世界で本船の元にやって来ないでしょうから』

 

 

 多次元防壁の情報は先生と各陣営に共有されていた。だが、リオはその時点で失踪している。あの時点のリオは誰かに頼ることも出来ないはず。でも、本船までAMAS を寄越したというのなら、それを独力で見つけ出したに違いなかった。

 

 

『そして明星ヒマリの手前、アリスを選択肢の一つとして伝えつつも、自身のスペックを活かして、多次元防壁の波長を求めようとした』

 

「それで失敗した」

 

 

 無慈悲にセトは告げる。当たり前の話だ。本船のスペックを活かしても、ギリギリだったそれを、スペックの劣るもので出せるはずもない。

 

 

「明星ヒマリが、ああも調月リオに辛辣なのは、合理による無慈悲を他者に強要したから。協力すれば、そうしなくても上手くいくものをそうしなかったから。でも、それはそうでない方法で上手くいって、初めて糾弾出来る」

 

 

 こちら側では、ヒマリはリオを拒絶した。それは本船があったからだ。ヒマリ一人でも余裕があった。だが、本船がないならそうもいかない。自分の拘りに拘泥する程に愚かでは全知は名乗れない。

 

 

「結局、明星ヒマリは失敗した。多次元防壁の波長を求められなかった。かと言って、直ぐにアリスを使えるわけでもない。ケイを説得する時間も残されていない。偶々、方舟が落ちたから助かった事を一番よく分かっている。勿論、調月リオも。二人は、方舟相手に何も結果をだせなかった」

 

 

 だから、リオの救援を断れない。胸に抱えるものがあろうとも、一時は飲み込める。リオもそれを分かって飲み込むだろう。

 

 ただ、一つ。ケイの説得だけは分からない。

 

 

「アリスは良い。ケイに毎日話しかけるくらいに距離を詰めようとしてた」

 

 

 セトの世界ではそうだった。初めはケイに恐怖したアリスであったが、ケイの立場で考えて、ケイの気持ちを慮った。だから、アリスからケイへの感情は問題ない。

 

 問題なのは、ケイの方だ。

 

 

「あの石頭。ケイはどうやって説得したの? アリスに拒絶されて、消えそうになってたのに。あれは、アリスが消滅しかけて初めて、素直になる様な奴よ?」

 

 

 ケイは頭が固い。アリスの意思を無視して、世界を滅ぼそうとするくらいには。それが、どうしてアリスに説得されたのか。その理由はシチュエーションだと、セトは思っていた。

 

 

「アイツは存在意義を否定された。よりにもよって、アリス本人から。大事なものがあるのに。それに気づいていない状態。アリスを失いそうになって、失う決定的なタイミングを逸して。アリスを失って初めて、使命よりもアリスが大事だと気づけたの」

 

 

 だが、それは本船あってこそ。突破した以上は、どうにかしたのだろうが。一点だけは分からない。

 

 

「一体どうして……」

 

『怒ったんですよ』

 

 

 ポツリと、ホルスの一人が口を開いた。よくよく見れば、今まであまり口を開かない王女のホルスだった。

 

 

『ケイは怒ったんです。自身の運命に怒った。戦うと決めたんです』

 

 

 王女のホルスは、不機嫌そうにセトを見た。

 

 

『前提として、名もなき神々の王女とその玉座を守る鍵。その二つは似ている様で、全く違います。そもそも、どうして二人も必要だと思います?』

 

「確かに……」

 

 

 考えてみれば不思議だ。どうして、機能を二つに分ける必要がある。無駄だし、手間がかかる。

 

 他のホルスも首を傾げているあたり、全員知らないらしい。

 

 

『天童アリスは名もなき神々の王女。その名の通り、名もなき神々謹製の器なんです。対してケイはそうではない』

 

「無名の司祭の作ってこと?」

 

 

 静かに王女のホルスは頷く。

 

 

『名もなき神々の王女は、役割としては今見たマルクトの様なものです。名もなき神々の力を伝播する器として作られた。だから、何も知らないんですよ。器は純粋無垢でなくてはならない。喜びや怒りや悲しみ、そんな余計な我欲はいりません。力が感情で歪んでしまう』

 

「アリスがマルクトね……なら、名もなき神々と無名の司祭はデカグラマトンで、ケイはあのエンジニアか……」

 

 

 言い換えてみると、何となく分かる。

 

 無名の司祭は、今のキヴォトスを覆う学園都市というテクスチャを引き剥がしたい。そして、名もなき神々がいたかつてのキヴォトスを取り戻したい。

 

 だが、無名の司祭はテクスチャの下から出てこれない。名もなき神々も同様。神のいないキヴォトスに、神を降臨させる方法はいくつかあるが、無名の司祭はデカグラマトンと同じ方法をとった。

 

 出てこれないなら、器を用意すればいい。

 

 アリスという器を用意するが、アリス単体では不可能。器は無垢でなくてはならず、命令を与えることは出来ない。だから、別の命令用のリモコンとしてケイを作った。

 

 デカグラマトンが器としてマルクトを、その補助の為にエンジニア達を作ったのと同じ。

 

 

『だから、ケイは無名の司祭の目的を使命とされたんです。ケイはアリスを無名の司祭の思い通りに操るための鍵だった』

 

 

 セトは納得した。だったら二つ必要だ。

 

 ミレニアムルートの顛末もセトの予想とは違うのかもしれない。アリスにテイルズ・サガ・クロニクルをプレイさせなければならかった理由は。

 

 アリスはアレで知ったのだろう。怒りや理不尽、悲しみと喜び。あれで、器としての適性が落ちたのかもしれない。

 

 カヤツリや調月リオとの日々も楽しかっただろうが、怒りや悲しみの気持ちにはあまり触れなかったせいだろう。

 

 

「その事実を、ケイは最初からある程度知ってたはず……」

 

 

 なら、ケイの思考はある程度読める。

 

 

「じゃあ、方舟が来た時期待したんじゃ? 無名の司祭の気配くらいは分かるはずだし、アトラ・ハシースの方舟もある。もしかしたら、王女が使命を思い出すか。無名の司祭のコンタクトがあるかもって」

 

 

 セトの呟きに、王女のホルスは首を振る。

 

 

『そんなもの有りませんよ。別世界の彼等にとって、ケイは道具でしか有りません。壊れた使えない道具は放置するに限ります。アヌビスを使った方が余程効率が良い』

 

「だから、怒った。怒って、失った物に悲しんで、最後に残る物に気づいた」

 

 

 ケイの価値は、あの段階では無いに等しい。鍵としての役目はアリスにも、無名の司祭にも否定されてしまった。もう、ケイの中に残るモノは、大して残っていない。

 

 

「最後に残ったのは、アリスに対する想い。アリスを受け入れてくれたものに対する感謝。それを守りたいという意思。最後に怒り」

 

『そうですね。そっちがそのつもりなら、いいです。私とアリスの好きなようにやらせてもらいます。ですって』

 

 

 しみじみと、ゲヘナのホルスは呟いていた。それも当然だろう。自分を作り出しておいて、あっさり見捨てた相手など、そのくらいはする。ケイは泣き寝入りするタマではない。

 

 

『色彩の騒動が終わった後、アリスと長く話をしていました。ほら、本船に乗らなかったおかげで、ダメージは皆無でしたから。そっちの世界よりもアリスと話した時間は長いと思いますよ? 勿論、ゲーム開発部ともね』

 

 

 何ともケイらしいと、セトは感心する。アリスを受け入れてくれた人間から、受け入れる事にしたらしい。アリスが引っ張っていったのかもしれないが。

 

 

「確か、氷海地帯には特異現象捜査部だけだった。アリスは連れて行かない筈。まさか……」

 

『ええ、凄かったですよ? 多次元防壁を前に、言い争いをする調月リオと明星ヒマリ。そんな二人の前に現れるアリスたちゲーム開発部は。その上で、ケイは言ったんです…私とアリスの問題をネタにして、喧嘩するなと。よりにもよって本人のいない所でするなとね』

 

 

 ゲヘナのホルスは、その光景を思い出したのかくすくす笑っている。

 

 

『多次元防壁の気配。名もなき神々の気配をケイは直ぐに検知しました。そして、先生や特異現象捜査部に連絡がつかない事も』

 

 

 そうなれば、アリスは行きたがるだろう。ゲーム開発部も着いてきたがる。なにせ彼女らは冒険の仲間だ。アリスが望むなら、ケイは何だってする。それこそ、何だって。

 

 それにケイは筋を通す事にこだわる。名もなき神々の案件に、アリスや自分を関わらないなど、それを許すだろうか?

 

 

『まさか、自分らが乗ってきた乗り物を、アリスの力で顕現させてやって来るとは思わなかったでしょうね。ケイに、喧嘩するなら交ぜろと言われた時のあの驚いた顔!』

 

 

 遂に堪えきれなくなったのか、ゲヘナのホルスは腹を抱えて笑っていた。セトは、其方を無視して、ネフティスルートについて考える。

 

 

「……エンジニアを修理したら、絶対に首を突っ込んでくるか」

 

『そうでしょうね。あの三人は、ケイにとってのもしも。先生にとっては救えなかった者。絶対に介入してきますよ』

 

 

 セトは舌打ちするしかない。黒服は分かっていてあんなことをしたに違いなかった。そして、黒服がそうせざるを得ない理由も。そこまでカヤツリは追い詰められた。本当に腹が立つ。

 

 

「フン……クソ従者という割には良い娘じゃない。小鳥遊ホシノよりよっぽど……」

 

『今、何て言いましたか!?』

 

 

 口に出してから、しまったと思ったが、一歩遅かった。ミレニアムのホルスが顔を真っ赤にして画面いっぱいに映っている。

 

 

『クソ従者はクソ従者です! それ以外にありえません! あんな卑しい人間を、私は始めて見ましたよ!!』

 

 

 完全に地雷を踏んでしまった。他のホルスからの視線がセトに突き刺さる。なんてことをしてくれたのか。そんな意思しか感じ取れない。

 

 

「いや、だって。AMASのボディでしょ? そんなのにまで目くじらを立てなくても……」

 

『はぁ!? ああ……知らないんでしたね。なら見ればいいじゃないですか! ネフティスの方の私が回復するまで暫くかかりますから、丁度良いでしょう!!!!』

 

 

 ミレニアムのホルスは鳥の様にガアガアがなり立てていて、全く手が付けられない。王女の方のホルスは要領がいいのか、ネフティスのホルスを慰めるとか言って姿を消してしまった。ネフティスの方は言うまでもない。

 

 真っ暗になった画面に、ミレニアムルートのミレニアムだろう景色が映る。二人のホルスがいた画面には別角度の光景が映っていて、どれにも映っているのは二人の人間だった。

 

 一人はカヤツリだ。ミレニアムの制服を着て、誰かと歩いている。そのもう一人の生徒を、セトは見たことが無かった。

 

 

「アリス……? いや、誰これ?」

 

 

 一瞬、アリスかと思ったが、髪が白い。リボンの位置もアリスとは違う。それに、服装が凝っている。アリスの様に着崩した感じはない。記憶の中に該当する生徒は全く浮かんでこない。

 

 ミレニアムのホルスが、しびれを切らしたように肩をすくめる。

 

 

『クソ従者。調月ケイですよ』

 

「はぁ!? 何で人間体になって……!」

 

 

 セトは驚愕した。ケイは、リオ謹製のAMASの中に閉じ込められていたはず。幾らなんでも、ミレニアムがクローン作製に手を出したとは聞いたことが無い。

 

 

『……ネフティスの方のカヤツリが言ってたでしょう。エンジニアのスペアに使えそうなものがあるって。あったんですよ。彼女らの失敗作の躯体が』

 

「それに入ったって事? いやでも……」

 

 

 肌は、エンジニアたちのように白くはない。白い肌ではあるが、人間の範疇に見える。それすら、ミレニアムのホルスは気に入らないのか、害虫を見る目つきで言う。

 

 

『詳細は省きますが、デカグラマトンとの最終決戦時にそうなりました。アリスが名もなき神々への権能。そのアクセス権を永久に失う代わりに、ケイは身体を再構成したんですよ』

 

「へぇ……」

 

 

 ある意味朗報だ。これで、アリスの危険性はかなり下がったと言える。だから、ホルスも言わなかった。余りにも不義理であるが、まあ良しとする。

 

 そんな、セトの耳に。ケイとカヤツリの会話が聞こえてくる。

 

 

『いいですか? これはアリスの為なんです。半端は許しませんよ』

 

 

 ケイは怒っているようだ。アリスに似た顔の目は吊り上がっていて、語気は鋭い。

 

 

『アリスを楽しませる。それがあなたに課せられた役目です。なら、練習が必要でしょう。私がその相手役になってあげます。あなたの全力を見せてください』

 

『ああああああああ!! クソ従者!!』

 

 

 突然、ミレニアムのホルスが叫びだした。完全に常軌を逸している。口汚く罵り始めた。

 

 

『何が! アリスの為なんです。ですか! 自分の為でしょうが!? アリスを出汁にして、デートの約束なんて!? 卑しい! 余りにも卑しい! 人の男に何してるんですか!?』

 

 

 人のも何も。カヤツリはまだ誰の物でもない。そんな当然の突っ込みをしない程度の知恵はあった。

 

 カヤツリも不満なのか、何かを言っているようだ。けれど、ケイは怯みもしない。

 

 

『へぇ、私には関係ない。そんなことを言うんですか。いいですか? これは勝負なんですよ。私は、あなたに勝たなきゃいけないんです。そうですよね?』

 

 

 カヤツリは怯んだように見える。それを見たケイはにやりと笑った。

 

 

『そうです。あなたは私を騙して、契約を結ばせましたよね? それはまだ生きています。私はあなたに勝たないといけない理由は分かりましたか?』

 

 

 イイ笑顔で、ケイは続ける。

 

 

『勿論、私が納得するまでです。手加減なんて許しませんよ。そんなことをすれば、直ぐに分かりますからね。……はい。では明日、楽しみにしています。遅刻は許しませんから』

 

 

 ケイは、カヤツリから離れていく。カヤツリから見えなくなった瞬間に、顔が真っ赤で。ケイの状態がすぐに分かった。恋する乙女の顔だ。

 

 

『卑しい! 卑しさの化身ですか!? 何が、手加減なんて許しませんですか!? ワザと勝たないようにしてるのは、そっちでしょう!? それに何ですか!? 納得する時は、カヤツリが落ちる時でしょうが! ああああああああ! 制服まで同じような色合いだし! レールガンまで揃えて!? ペアルックのつもりですか!?』

 

 

 ミレニアムのホルスは荒れ狂っていた。他のホルスたちも、いつもの事なのか。どこか諦めた目をしている。恐らく、ネフティスの方が戻るまでこのままだろう。

 

 その間にも、場面は切り替わる。待ち合わせ場所だろうミレニアムの広場で、ケイが待っていた。

 

 

『何、気合入った格好してるんですか!? しかも、化粧まで! リップまで塗って……しかもそれ、この間練習にかこつけて、カヤツリに選ばせた服じゃないですか!』

 

 

 ケイの本気具合が伺える。それも当然かもしれない。ケイを助けたのも、アリスに会わせたのも。色々手を尽くしたのはカヤツリだ。

 

 それにミレニアムのカヤツリの事だ。アリスにしたようなことを、ケイにもしていたのだろう。AMASの姿だろうが同じようにしたに違いない。人の姿になっても、それは変わらないだろうことも。

 

 アリスの事も考えるし、自分の事も考えてくれる。それでいて、自分の事は後回し。恐らく、ケイの好みど真ん中。

 

 セトの考えるケイの好み。ダメンズ好きかとも思ったが、おそらく違う。ケイの好みは、隙のあるスパダリだ。間違いない。

 

 今もそうだ。待ち合わせをしている所を、ミレニアムの生徒に見つかったらしい。取り囲まれてやいのやいの言っている。内容に耳を澄ませれば、誰かとお出かけか、みたいな内容であった。

 

 そうなれば、当然の疑問も飛んでくるだろう。ケイちゃんは、恋人にどんな条件を求めるのかと。こんな気合の入った服装だ。誤魔化すのも限界がある。

 

 だがケイは、当然の様に言うのだ。

 

 

『アリスより力が強くて、アリスよりも強ければいいです。私がアリスを任せても良いと思う人でないと……』

 

「この従者……卑し過ぎる!!」

 

 

 思わずか、隣のホルスの口から感想が飛び出た。今までにないタイプだ。攻め攻めではあるが、百合園セイアとも、秤アツコとも違うタイプ。

 

 そんな考察をする間にも。鼻高々に語るケイに、ミレニアムのホルスが再び爆発した。

 

 

『なっ……コイツ卑しスギィ!!!! セトはんコイツぶちのめしましょうよ!! 頭に来ますよ!』

 

「浄化!!」

 

『ンァーッ…………はっ、私は何を……』

 

 

 繋がってはいけない何かと混線したのか。おかしくなりかけているミレニアムのホルスへ、こちら側のホルスが炎を叩き込む。そうして漸く正気に戻った。

 

 空間に静寂が戻り、セトは一息ついた。確かに、ミレニアムのホルスの言う通りに卑しい。だが、セトはあれも良いと思っている。

 

 何だかんだ、ケイとカヤツリの哲学は似ている。人生とは戦いであるという点だ。そう言う点では、桐藤ナギサと並ぶくらいには相性がいい。

 

 それに、あの世話焼き具合。いざという時はカヤツリを止めてくれるだろう。

 

 

 ──あんな娘が、ネフティスのカヤツリに居てくれればよかったのにね。

 

 

 そうすれば、セトの思う最悪の事態にはならなかっただろう。カヤツリもやらかさなかった。ただ、今となってはもう遅すぎるのだが。

 

 そんな事を思いながら、セトはネフティスのホルスの復帰を待った。




ケイのデート回は、後でちゃんと書きます。
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