ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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318話 もう一人の先輩

 あれから数日たった会議の日は晴れだった。空は青く澄み渡っていて、砂嵐の気配もない。

 

 だから、シロコはおおよそ予定通りの行動を取る事ができた。

 

 

「先生。ちょっと話が……?」

 

「シロコ? どうしたの?」

 

 

 昇降口で待ち構えていれば、余裕を持った時間に先生はやって来た。下駄箱の前で待ち構えていたシロコを見て目を丸くしている。

 

 だが、シロコも少しだけ驚くことがあった。先生は一人では来ていなかった。もう二人、同行者がいる。

 

 勿論、車を回して先生を迎えに行ったアヤネを数に入れてはいない。二人ともゲヘナの制服を着ていた。一人は知らない。ホシノと同じくらいか、それ以上に小さいかもしれない生徒で、シロコは見たことが無かった。もう一人はゲヘナの風紀委員長だ。前に見たのと変わらない澄ました顔が、シロコを見た。

 

 

「あなたも先生に話?」

 

「ん。大事な話」

 

「申し訳ないけど、少し待ってほしい。手短に終わらせるから」

 

 

 ここまでの道中で、先生と風紀委員長たちは何かを話していたらしい。今もその途中なのか、聞こえない声量で話している。それを見たシロコの眉間に皺が寄る。

 

 変だ。今日は対策会議の日。その日程は初めから決まっていて、先生もそれは承知のはず。そこに部外者を連れてくるとは先生らしくはない。というよりも、先生はそんな事はしない。悪戯に部外者を入れるような真似は。

 

 なら、このゲヘナの二人が無理を言ったのだろうか? そして、先生はそれを受け入れた。先生にそうさせる話とは一体何なのか。

 

 アヤネへ目配せすれば、直ぐに寄ってきてくれた。早速とばかりにシロコは聞いた。

 

 

「アヤネ。話って?」

 

「それがですね……俄かには信じがたいと言いますか……」

 

 

 アヤネは困り顔だ。チラチラとゲヘナの方を見ながら言う。

 

 

「これから、ホシノ先輩たちにも話しますが……端的に言えば、お金を出してくれるそうなんです。無利子、無担保、返済期限なしで」

 

「先生が?」

 

 

 一番あり得そうな選択肢をシロコは言う。けれど、アヤネは静かに首を振った。

 

 

「ゲヘナです。ゲヘナが、私たちにお金を出すと言ってるんですよ」

 

「……どういう事?」

 

 

 まるで意味が分からないとばかりに、シロコは聞くも。さっきと同じようにアヤネは首を振る。

 

 アヤネが分からないなら、シロコですら分からない。だってそうだろう?

 

 ゲヘナが、アビドスにお金を出す? 俄かには信じがたい。セリカですら疑うほどに都合の良い話だ。引き換えに何を要求されるか分かったものではない。

 

 そうなった場合の未来を想像して、シロコは疲れがどっと襲ってくるのが分かった。

 

 

「それを、ホシノ先輩に話すの?」

 

「ええ、そうなりますね……」

 

 

 アヤネもシロコと同じなのだろう。何処か、疲れた顔だった。二人は、これから先の事が容易に想像できるからだ。

 

 

「お金の話題を振ったってことは、今回の議題を知ってるって事? ほら、債権の……」

 

「きっとそうでしょう。先生が漏らすとは思えませんし、私たちも違います。だとすれば、他の場所からでしょう。ゲヘナの情報部は凄まじいらしいですからね」

 

 

 つまりは、スパイを使って情報を引っこ抜いたのだ。どうやったのかは分からないが、そう言う事になる。その情報を用いて、何かしらの要求があって。ゲヘナの二人はアビドスまでやって来た。

 

 そうなった場合。一番面倒なのは誰なのか。今年の初めの出来事で、シロコたちは思い知っていた。

 

 

「ホシノ先輩。大丈夫でしょうか……」

 

「大丈夫じゃないと思う。話を聞く前に叩きだすかも……」

 

 

 ホシノは、普段はうへうへしている。けれど、こういった事。詐欺とか、騙し打ちに関しては人一倍に敏感であった。それは、シロコがここへ来た時からそうなのだが、最近は分からない。

 

 セリカが初めて詐欺にあった時などもそうだった。今では慣れて……慣れるのもおかしいが、穏便な方向へと変化していた。けれど今回は、昔と同じような事が展開されるかもしれない。

 

 その理由は、今なら分かる。今年の春の出来事。ホシノが黒服に騙された件だ。

 

 借金を帳消しにするから、アビドスから退学してほしい。ホシノに持ち掛けられたのは、そんな取引。ホシノの事だから、よくよく内容を確認しただろう。でも、それには何の意味もない。

 

 あの取引は、取引自体には何の種も仕掛けもない。それこそがトラップだった。真にホシノが気にしなければならなかったのは、契約外の事だった。

 

 契約相手である黒服の事を、ホシノはカイザーの人間だと思っていたらしい。だから、カイザーに身売りすれば、借金は帳消しになり、シロコ達後輩は救われる。ここまでが、ホシノの想定。

 

 実際は全く違った。黒服はカイザーの人間でもなんでもなかった。そうなれば、前提がひっくり返る。黒服に身売りしたところで、カイザーはアビドスを諦める理由にはならない。他人だからだ。

 

 悪い事に、ホシノが退学すれば、正式な生徒会組織が消失。アビドスは廃校は確定する。そんな幾重にも張り巡らされたトラップに、ホシノは嵌まってしまった。

 

 それは、先生とシロコ達の尽力で無かったことになる。利息はマトモになって、あの理事は謹慎とやらになったのを風の噂で聞いて、このホシノの失敗は何とかなった。

 

 問題は、ホシノがどうしてここまで綺麗に引っかかったか。それは、ちゃんと契約書を確認したから。それしか確認しなかったから。どうしてそうなったかと、ホシノを抜いた対策委員会で話したことがある。同じ轍を踏まないように。ホシノを、自分たちを助けられるように。

 

 その時の結論は簡単だった。ホシノはずっと、そう言う詐欺行為に触れる機会が多かったのではないかという想像。

 

 だから、確認するのだ。今まではそれでよかったから。そうやって乗り越えてきたから。それを黒服は分かっていて、あんなトラップを仕込んだのだろう。

 

 それ以降は、そういった詐欺行為はアビドスに降りかからなかった。だから、シロコ達は安心していたのだが。ここに来て今回のこれである。黒服の過去の経験も相まって、どんな反応をするのか判断がつかない。余りにも怪しい話に、拒絶反応を起こすかもしれない。

 

 黒服の時の轍を踏みたくなくて、話自体を聞かない恐れもあった。

 

 

「先生。私は先輩と一緒に対策委員会と待ってる。その娘と話が終わったら来て欲しい」

 

「うん。ごめんね。話が途中で終わっちゃって……」

 

 

 向こうも向こうで。話が終わりかけていた。シロコは急いで話を纏める。

 

 

「丁度、先生に用がある。先生が来るのを出来るだけ引き延ばす。先生に何を言ったか知らないけど、押し込まれるかも。だから、アヤネはノノミをフォローできる?」

 

「確かに……販売開始時間ギリギリなのが妙ですね。それでノノミ先輩を?」

 

「ノノミに言えばやってくれる。ノノミはそういうの得意だから。その時間を稼ぐ。今のうちに、モモトークか何かで送って」

 

 

 まだノノミとホシノで三人だった時。シロコはよく問題を起こしていた。今では恥ずかしい記憶だ。その中で、ホシノとノノミが毎回謝っていたことを覚えている。そして、それでも許してくれない時は、ノノミが妥協点を探っていたことを。

 

 今までだってそうだ。対策委員会の細かい揺らぎを、ノノミはいつも気にしてくれている。だから、言えばわかるだろう。

 

 アヤネは、そこまで言わなくとも伝わったようだった。携帯を取り出して、女子高生の基本技能たる早打ちでメッセージを送っている。

 

 

「お待たせ。シロコ」

 

「ん。待った」

 

 

 先生が声を掛けるのと、アヤネが送信ボタンを押すのはほぼ同時だった。ギリギリ間に合った事に内心シロコは安堵しつつ、ゲヘナの二人を案内するアヤネを見送った。

 

 

「ちょっと、先生に聞きたいことがある」

 

「何かな? シロコが私に聞くなんて珍しいけど……」

 

「そんなことはない」

 

 

 本当にそんなことは無い。単純に聞く機会があまりないだけだ。会議は大体アヤネが纏めてしまうから。先生の顔を見れば少し揶揄うような表情で、シロコは頬を膨らませた。

 

 

「冗談だよ。ごめんね。それで何を私に聞きたいの?」

 

「カヤツリって誰?」

 

 

 シロコはいきなりぶっこんだ。シロコは、ノノミのようにはできないから、こうするしかない。何事も火の玉ストレートで行く。その効果は覿面で、先生は一瞬固まったように見えた。

 

 

「……それは、誰から聞いたの?」

 

「ん。向こうの私。それと、ホシノ先輩の寝言」

 

「あっちのシロコがそう言ったの……? それにホシノの寝言……? ああ、それは……」

 

 

 先生の顔から笑顔が消えた。笑顔の代わりに現れたのは悲しみだった。さっきまで冗談を言って微笑んでいたのが嘘みたいに見える。でも、そうするという事は先生は知っているのだ。

 

 

「知ってるの? なら、教えてほしい」

 

「……いいけど、ホシノや他の皆には言っちゃだめだよ。そのことについて話すのもダメ。ずっとシロコの中にしまっておくこと。ホシノが何か言ってくるまではそうするんだよ?」

 

 

 シロコは一旦口を噤んだ。それではまったく意味がない。ホシノに話せないのなら、何の意味もないのだ。

 

 

「……シロコの気持ちは分かるよ。ホシノが心配なんだよね」

 

「うん……」

 

 

 先生はゆっくり優しく、シロコに言ってくれる。そのことからも意地悪でこんな条件を付けていないことは分かっていた。でも、諦めきれない。

 

 

「シロコには、どうしようもないことなんだ。それでも知りたいの?」

 

「うん。出来ることがあるかもしれないから」

 

 

 先生はシロコの考えを見透かしている様子だった。シロコは、ホシノに助けられてここに居るから。ホシノが苦しんでいるなら、何かをしたいのだ。じっと先生をみつめれば、先生は諦めた様に肩を落とした。

 

 

「……分かったよ。ただ、さっきの条件は絶対に守ってね。それと、そのことについて、調べたりもしない事。何かする時は、私に相談して? 約束できる?」

 

「ん。分かった」

 

 

 念の入った釘差しに、シロコはしっかりと頷いた。それを確認した先生は、声を小さくして言った。

 

 

「カヤツリ君って言うのは、向こうのシロコの先輩の名前なんだ」

 

「先輩……? 君って、まさか男の人? 本当に?」

 

「そうみたいだよ」

 

 

 シロコは信じられずに聞き返してしまう。今の先生の言葉には、そうさせるだけの威力があった。

 

 シロコの先輩ということは、三年生だという事になる。そして、先生が君をつけるのは初めて。つまりは男性。最後に、そんな人間はここには居ない。

 

 シロコは、最後の事実をとりあえず忘れて、先生に続きを聞いてみる。

 

 

「本当に先輩だったの?」

 

「良い先輩だったみたい。少なくとも、向こうのシロコにとってはね。最近、マフラーをしてるでしょ?」

 

 

 シロコは勢いよく頷く。確かにそうだ。少し色がくすんでしまっているが、シロコがしているのと同じようなマフラーをしていた。それを見た先生は、ポツリと呟く。

 

 

「それをね。カヤツリ君は持ってきたんだよ」

 

「……?」

 

 

 シロコは固まった。先生が何を言っているのかが分からなかったからだ。

 

 

「持ってきたって? だって、向こうの世界は……」

 

「そうだね。もうなくなってしまった」

 

 

 先生は、唯あった事実だけを言う。それはシロコも知っている通りだ。だからこそ、今の話はおかしい。

 

 

「あの方舟に乗ってきたのは、三人だけだった。その中に、カヤツリなんて人はいなかった」

 

 

 あの方舟に乗っていたのは三人だけ。プレナパテスとプラナとか言うAIと、向こうの自分自身。そして、方舟でなければ世界は渡れない。それに、持ってきたという表現は妙だった。まるで、ここに居るみたいな言い方だ。シロコは疑問で一杯になって、喋れなくなってしまう。

 

 

「あの場には、方舟の中には。私たち以外に、もう一人いただろう? 壁を粉砕して入って来たよね?」

 

「あの黒い鳥の事?」

 

 

 先生が妙な事を言う。もう一人も何も、あのよく分からない黒い鳥だけだ。唯々暴れ狂って、何故か突然暴走した方舟ごと消えてしまった。あの後の行方はようとして知れない。確認の為に聞き返すと、先生はゆっくりと答える。

 

 

「あの黒い鳥が、カヤツリ君だったんだ。プラナや向こうのシロコが言うには、正確には違うらしいんだけど……」

 

「え?」

 

「自分で渡ったんだろうって、プラナは言ってたよ。壊れる向こうの世界から、この世界まで身一つで渡ってきたんだって」

 

 

 シロコは信じられなかった。でもそうであるならば、一つ納得できることがある。あの黒い鳥がカヤツリ何某であるから、向こうの自分はカヤツリと呼んだのだと。

 

 

「カヤツリ君は、そこまでする人だった。シロコの為に、そこまでした。だから、私は聞くしかなかった。彼がどういう人なのかね」

 

「待って先生。何で聞く必要があるの? あの黒い鳥はもう……」

 

 

 方舟ごと消えてしまった。それに、先生の言う通りなら世界を渡った代償だろう。それに完全に正気を失っているように見えた。人となりを向こうの自分から聞いたところで、それに意味があるなんて思えない。

 

 でも、先生は少しだけ顔を綻ばせていた。

 

 

「アビドスの校庭の件は知ってる?」

 

「うん。ノノミから聞いた。一人はホシノ先輩に似てたって……」

 

 

 そこまで言うと、何となくシロコの中で何かが繋がり始める。カヤツリは男性だという。そして、二人の内一人は男性だったと。

 

 

「もう一人が?」

 

「そう。カヤツリ君。そしてもう一人は向こうのホシノ。プラナと向こうのシロコに確認してもらったから間違いないよ。どうして、アビドスの校庭に倒れていたのかは、分からないけどね」

 

「だから、あんな嬉しそうだったんだ」

 

 

 向こうの自分自身の笑顔を思い出して、シロコも嬉しくなる。今なら、人となりを聞いた理由も分かろうという物だ。

 

 

「二人は大丈夫? 向こうの私みたいにとか……」

 

「大丈夫だよ。二人が運ばれた病院に私は呼ばれてね。プラナも確認したし、向こうのシロコもちゃんと見た。それに、今も部屋で一緒に居るからね。目を覚ましたら一番に言うことがあるんだって」

 

 

 向こうの自分は、おかしくなっていた。自身の意思に反して、やりたくもない事をやっていた。二人ともそうはならないという保証はない。だからこそ、向こうの自分は監視としてそこに居る。それ以外の理由の方が大きいのは明白だが。なにせ、自分自身だ。何を考えているのかは直ぐに分かる。

 

 ともなれば、次の質問は決まっていた。

 

 

「どんな人だったの?」

 

「そうだね……」

 

 

 その時の事を思い出しながらなのだろう。ぽつぽつと先生は言葉を漏らした。

 

 

「さっきも言ったように、シロコにとっていい先輩だったみたい。シロコだけじゃなく、ノノミやセリカやアヤネにとってもね」

 

「ん……?」

 

 

 シロコは、妙な違和感を感じた。何か足りないような気がしたが、先生の話は続く。

 

 

「交渉事とか、そう言うのが得意だったみたい。色々と隠れてやっていて、良く怒られてたんだって。他の学園とも交流が盛んだったらしいよ」

 

「他の? ゲヘナとか?」

 

「ミレニアムや、トリニティとかもそうだって。借金も順調に返せてたみたい」

 

 

 シロコは、そのカヤツリに興味津々だった。聞けば聞くほど、アビドスの為になる事をやっているように聞こえる。向こうの自分が懐くのも当然だろう。だから、シロコは当然の疑問を出す。

 

 

「どうして、生徒名簿にヒットしなかったって言ったの? 私たちなら別に気にしない」

 

 

 ヒットしなかったと、言わない理由は分かる。自分と向こうの自分がいい例だ。同じ名前の同一人物が二人いれば、混乱は避けられない。この世界に居るだろうカヤツリも迷惑だろうから。

 

 けれど、シロコ達は別だ。そこまでしなくても、言いふらさないくらいの分別はある。でも、先生は目を瞑るばかりだ。

 

 

「その通りだからだよ」

 

 

 シロコは一瞬、その言葉の意味が理解できなかった。暫く黙ったあと、一つしかない答えを呟いた。

 

 

「それは、居ないって事? 本当にヒットしないから、そう言ったの?」

 

「そうだね。居ない。これが言わない方が良い理由だよ」

 

 

 先生の表情は最初に戻っていた。悲しみの表情だ。

 

 

「全くヒットしなかったんだ。学校だけじゃなく、色々な記録も調べたんだけどね。どこにもない。このキヴォトスに、記録上は兎馬カヤツリという生徒が存在しないんだ」

 

「そんな……」

 

 

 シロコは言葉もない。その間にも、先生は所見を述べる。

 

 

「でも、向こうの世界には居たんだ。アビドスや後輩の為に、一生懸命になれる子が。そうならなかった原因は何となく分かるよ」

 

「分かるの?」

 

「分かるよ。ホシノが魘されている理由も」

 

 

 シロコの疑問にも、先生はしっかりと答えてくれた。いつもなら心強いそれも、シロコにとっては嫌な予感しかしない。

 

 

「二人が倒れていたのは、アビドスの校庭。それを見つけたのは誰だった?」

 

「……ホシノ先輩」

 

 

 ノノミが言っていた。パトロールしていたホシノが見つけて、ノノミが手伝いに行ったと。

 

 

「シロコの先輩ってことは、誰と一番一緒に居たんだろう?」

 

「……ホシノ先輩」

 

 

 二年生のシロコの先輩という事は、三年生でしかありえない。そして、一番一緒にいるのは同級生。ここアビドスで三年生なのは一人だけ。

 

 

「それで倒れていた二人の正体を、きっと一人だけ。二人が誰なのか分かった人がいる。向こうのシロコや、プラナを除いてね」

 

 

 もう先生はシロコに聞かなかった。シロコも答えない。答えは分かり切っている。

 

 

 カヤツリは三年生。ホシノと同級生のはず。そして、シロコがアビドスにやって来た時。そこにはホシノとノノミしかいなかった。ノノミは分からないと言ったのなら、答えは一つだけ。

 

 

「ホシノは、分かったんじゃないかな。そこに倒れているのが誰だったのか。それが向こうのシロコと同じところから来たのも。そして、どうして今のアビドスにカヤツリ君がいないのかも」

 

 

 シロコは小さく頷いた。これはどうしようもない。

 

 ホシノは知っていたのだろう。カヤツリを知っていた。だから、魘されているのだ。知らなければ魘されるはずもない。

 

 そして、昔にホシノは何かをしたのかもしれない。それが、同級生たるカヤツリがここに居ない理由だと知っているのだ。それを見せつけられてしまった。お前の選択は間違っていたと見せつけられてしまった。

 

 病室に先生が来た時、ホシノも居ただろう。ノノミもいたかもしれない。それは発見者として当然で、そしてホシノがノノミにしか言わなかったのも納得だ。向こうのシロコの反応が怖かったに違いないし、こっちのシロコの反応も怖かったから。

 

 向こうのシロコが知らないならそれでいい。でも、向こうのシロコが知っていたら? 良い先輩だったと言ったのなら?

 

 ともなれば、ホシノは奪った事になる。向こうのシロコがああまで慕う先輩。それをホシノはシロコから機会ごと奪ったのだと。

 

 魘されるのも当然だ。そして、シロコがどうにもできないのも。その時の出来事をシロコは知らない。ホシノも言わないだろうし、シロコが首を突っ込む資格もない。

 

 

「もう、いいかな?」

 

「うん。ごめん。先生が正しかった」

 

 

 シロコは謝った。そうするべきだからだ。先生の言った通りだった。

 

 

「約束は守る。でも、どうすれば良いの?」

 

「時間がいるだろうね。過去は変えられないんだ。どうしようもできない」

 

 

 先生はそこまで言って、優しい顔になった。

 

 

「でも、ホシノが自分から言ってきた時は、助けてあげて欲しいんだ。そこからがシロコたちの出番なんだから。春先と同じようにね」

 

「うん。ありがとう。先生」

 

 

 春先の、カイザーと黒服から助け出したことを思い出して、シロコは微笑む。確かにそうだった。あの時と同じように、シロコ達が頑張ればいいのだ。ホシノだって、同じ轍を踏むほど馬鹿ではないとシロコは知っているから。

 

 

「ん。先生。そろそろ時間」

 

 

 随分と時間が過ぎてしまった。会議がもう始まるまで数分しかない。そろそろ行かないと間に合わない。シロコがそう催促すれば、先生も焦ったようについて来た。

 

 廊下を渡って、階段を登って、しばらく歩く。そうすれば対策委員会の部室に着く。その途中で、シロコは質問を思い出した。しかし、聞くのは止めておくことにした。嫌な予感がしたからだ。

 

 兎馬カヤツリは小鳥遊ホシノにとって、唯の同級生だったのか。なんて。

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