ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
シロコが扉を開けると、対策委員会の部室は陰鬱な雰囲気に包まれていた。
「あ、シロコちゃん……早かったですね。お帰りなさい」
「ん。ただいま。向こうの私から自転車を借りた」
シロコに気づいたノノミが、どこか安心したように笑った。ノノミが引いた席に座るとセリカが恐る恐る近づいてきた。
「それで……どうだったの?」
「ダメ。売り切れ」
セリカは声もなく机に崩れ落ちた。当然の反応だ。
ダメだというのは、アビドスの債権の事だ。ゲヘナの協力の元、債権を買おうとしたシロコ達は、そうはできなかった。
通信インフラが断絶してしまったからである。いくらパソコンが生きていようが、ネット環境が死ねば繋がるはずもない。
「しっかし、カイザーもしつこいねぇ」
「どこまで私たちの邪魔をするのよ……!」
ホシノのぼやきに、セリカが机に突っ伏したままに呻く。シロコも言葉もない。
まさか、こんなことになるとは思ってもみなかったからだ。債権を買い取って、アビドスの権利を取り戻すという計画は水泡に帰してしまったから。
「でも、カイザーの事をみんな知ってるってことは。もう直ったんだね」
「はい。まだ電話だけですけど。残りも予備の資材で何とか補修はできそうですし、シロコ先輩が帰ってくる前に先生からも連絡が。先生を送ってもらったシロコ先輩には悪いですが……」
「ん。問題無い。このくらいお安い御用」
シロコは胸を張った。本当にこのくらいはお安い御用であるからだ。アビドスからシャーレまでの護衛兼連絡役。それは一番の俊足とスタミナを誇るシロコが適任だった。
通信インフラが切れた後、先生の動きは速かった。如何なる絡繰りか、先生のタブレットはある程度の情報を取得することが出来ており、通話すらも可能だった。その時点で分かったことは、キヴォトスのほぼ全域での通信障害が起きていること。そして、連邦生徒会に連絡が付かないこと。
先生は、すぐさまシャーレへ戻ることを決断。アヤネが雨雲号で行けるところまで送り届け、そこからはゲヘナの二人とシロコが護衛して、シロコたちはシャーレまでたどり着いたのである。幸いなことに、下手人たちは全員が伸びていて処理は早かった。いち早く復旧したシャーレで債券市場を確認した結果が、さっきへのセリカの答えだ。あんまりな結果過ぎて、先生も言えなかったのだろう。残念な結果に、シロコもセリカ同様ため息しか出てこない。
「んんんん……!」
シロコはどうにかできないか、持ち前の頭脳を働かせる。
今回の通信インフラの切断はカイザーの仕業だと言う。先生がアビドスに出張している間に、クーデターを起こした。
アビドスだけではなく、他自治区のインフラを切断。連邦生徒会とシャーレに急襲を掛ける。
成る程とシロコは感心する。通信インフラを切断されれば、自治区は混乱する。方舟のダメージも抜け切っていない今、事態の把握も容易ではない。通信出来ないなら尚のことだ。
事態を把握し足元を固めても、今度は他自治区との連携をしなければならない。ここでも通信インフラの損失が足を引っ張る。勝手知ったる自身の自治区とは訳が違うから、また時間がかかる。
ある意味で陸の孤島だ。事実、事態が落ち着いた今日まで五日程の時間がかかっている。
シャーレは先生が出張で誰もいないし、連邦生徒会も方舟の襲撃からの復興ででんわやんわだ。人手もいないから制圧も簡単だっただろう。
インフラを切断する事で、発覚と救援を遅らせる。然るのちの電撃作戦。銀行強盗に通じるものがある。このアイデアは次の銀行強盗に活かせるかもしれない。いや、次どころか、今使えばいいのでは?
「シロコちゃん。変なこと考えてるでしょう?」
「ん。銀行強盗の事なんか考えてない」
「シロコ先輩……」
邪なことを考えていた不意を突かれてシロコはミスを犯した。呆れの視線が突き刺さっている。しかし、シロコにも反論はあるのだ。
「でも、怪しい。タイミングが絶妙過ぎる」
「それもそうだけどさぁ……多分偶然だよ?」
ホシノが諦めたかのような声を上げるが、シロコは大いに不満だった。
「ん! でも、私たちが買おうとした矢先! しかも、復旧してから急いだのにもう売り切れてる! 誰かが、何か企んでる!」
だって、余りにもシロコ達に都合が悪い。
「でもさ。インフラの切断はカイザーの仕業だけど、目的は違うよ。サンクトゥムタワー襲撃の為であって、私たちの邪魔をする為じゃない。債権の為にそうする、その理由がないよね?」
シロコは言葉に詰まる。
そうだ。債権は元々カイザーの持ち物。シロコ達に渡したくないのであれば、そもそも売らなければいい。
「後、先生からの話じゃ。カイザーはそれどころじゃないみたい。穏健路線とそうでないので割れてて、こないだのが決定打だったみたいだよ? あの二人との話とも矛盾しない」
カイザーの誤算は、サンクトゥムタワーの防壁だったと、先生から聞いた。どうにも制御権を奪おうとして、サンクトゥムタワーから反撃を食らったらしい。そのまま全員に対して反撃が執行されて総崩れ。
実行犯はジェネラルとかいう過激派。責任者たるプレジデントは穏健派の突き上げを食らって更迭された。先生が言うには、完全に心が折れていたと。まるで、長年の夢が叶わなかった人のように見えたと。
シロコ達の知らない所で、カイザーは勝手に滅茶苦茶になっていた。
「それにアビドスの全債権が、カイザーの手から離れて良かったんじゃない? カイザーが滅茶苦茶で金欠だから損切りみたいにしたんだよ。そうじゃなかったら、少しの利権をいつまでも抱え込まれたかも。その方が面倒ってものじゃない?」
「そうだけど……」
「何が不満なのさ。大体、債権は物じゃないから盗めないよ。盗むにしたって、幾つの銀行を回るのさ……」
「何言ってるの?」
肩をすくめるホシノが、シロコはよく分からなかった。
「いやだから……シロコちゃんは、債権が売り切れちゃったのが悔しいんでしょ? だから、銀行の金庫から強盗しようっていうんだ。そういうのは、おじさんはダメだって言ったよね?」
「ん。でも、カイザーの時はやった」
「そうだけどさぁ……」
シロコがそう言い返すと、ホシノは痛いところを突かれた顔になる。ため息までついている。
「いい? あれはそうせざるを得ない状況だったからだよ。本当なら、やらない方が良かったんだから。相手がカイザーで、場所がブラックマーケットだったから。私たちの稼いだお金が犯罪に利用されていたからだよ。それでも理由としちゃあ、無茶苦茶なんだよ?」
「ならいい」
「シロコちゃん……!」
ホシノは怒り顔になっていた。どうにもシロコの言葉が伝わっている気がしない。
「だから、ホシノ先輩……」
「今度ばかりは許さないよ。強盗なんて、絶対ダメだからね!」
怒らせてしまったのか、ホシノはシロコの言葉に耳を貸してはくれない。仕方なしに、シロコは助けを求めた。
「ノノミ……」
「……シロコちゃんは、債権を買った人は一人だと言いたいんですよね? だから襲う銀行は一つでいい。その人が債権を買い占めるために、何か悪い手を使った。だから忍び込んで調べて、場合によっては盗んでしまおうと」
「ん! そう」
「……? どういう事?」
言いたいことが伝わって喜ぶシロコとは対照的に、ホシノやセリカ、アヤネは事態が飲み込めていない。
「つまりですね。債権を買ったのは複数人じゃないってことです。買えなかったから確認したんですよね?」
「だから、強盗するなんて言い出したの?」
ぶんぶん勢いよく頷くシロコに、ホシノは怒りはしなかった。ただ、疲れた目でシロコを見やるだけだ。後輩二人も同じような目でシロコを見る。
「でも、一括で買うから悪人だなんて。そんなの、強引じゃない? 一杯お金を持ってるなら出来てもおかしくはないわ」
「思い出しても見てください。ゲヘナの二人が言った言葉ですよ」
ノノミの言葉に、少しばかりセリカとアヤネは宙を見て、顔を見合わせた。
「そういえば、一括で買えるのは誰もいないって……」
「ええ、その通りです。誰も、一括で売り出されたアビドスの債権を買える資産を持つものはいなかったはず。ゲヘナの二人が言うのなら、それは真実だったでしょう。それなのに売れているということは、何かしらがあったのだとは考えられませんか。あの方たちが来たのはそういうことなんですよ。きっと」
「シロコちゃん。アビドスの債権はどこが買ったの?」
神妙な顔になったホシノに、シロコは答えた。すぐに済む。そんなに長い名前ではなかった。何しろ、ほんの最近に聞いた言葉だ。
「セイント・ネフティス」
「ネフティス……? いや、それはおかしいよ。ハイランダーじゃなくて、ネフティス? そんなお金、どこから……」
「あり得ません……」
その名前を聞いたホシノとノノミの反応は劇的だった。ある名前を想像していたのに、それとはまったく違う名前が飛び出したような反応だ。
そう悩んでいる二人を見て、シロコは何かが引っかかった。引っかかったそれを手繰るうちに、ふっと気づいたことがあった。
「そういえば、どうして雰囲気が暗いの?」
気づけば妙だ。債権の事で暗いのだと思っていたが、先生が伝えていないのならそれは違う。シロコを除いた対策委員会は、それ以外で落ち込んでいたことになる。
「シロコ先輩が出てる間に、問題があったのよ……」
「問題?」
セリカのつぶやきにシロコが聞き返せば、アヤネが視線を床に落とした。
「別の学園が、アビドス自治区内に侵入してきたんです」
「そうなの! ハイランダーとかいうやつらよ」
その時のことを思い出して、相当腹に据えかねていたのか、セリカの声の調子がきつくなる。
「急にやって来たのよ。それも、停電のすぐ後に! 勝手に工事なんかしちゃってさ! そのくせ文句をつけてきたのよ! ノノミ先輩にも、裏切り者なんて酷いこと言ったんだから!」
「工事? 文句? ノノミに? 一体どういうこと?」
セリカの説明では、あんまりにも状況が読めない。アヤネに目を向けると、苦笑いしながらアヤネは教えてくれた。
「ハイランダー鉄道学園です。キヴォトスで鉄道という交通インフラを自治区として運営している唯一の学園ですよ。それが、乗り込んで来たんです。恐らく、カイザーの仕業でインフラが壊滅したせいでしょう」
「鉄道……? でも、おかしい。アビドスには鉄道なんて……」
「はい、そうです。ありません。アビドスに鉄道は開通していません。昔はありましたが、廃線になって久しいです。それなのに、彼女たちはやって来た。しかもCCCの幹部と監督官がですよ?」
「CCC?」
専門用語にシロコが目を白黒させていると、アヤネは我に返って説明してくれた。CCCはハイランダーの生徒会のような物らしい。つまり、ハイランダーの生徒会が乗り込んできたことになる。
「何の用で来たの?」
「いやがらせかと。彼女たちは怒っていました。あと、ノノミ先輩にもでしょうか。裏切り者と言ったのは作業員の人達だけでしたが……CCCの方は、これでは納期に間に合わないと」
納期に間に合わない。つまり、ハイランダーはアビドスに何か。鉄道関連の物を作っていたということ。しかし、アビドスの生徒会組織たる対策委員会はそんな注文をした覚えはない。つまり、誰かが勝手にハイランダーに頼んだことになる。
そこまで考えると、シロコの頭の中で点と点が嫌な線で繋がり始めた。ハイランダーが対策委員会に通達もせずに何かを作っていた。言葉にすれば単純な事実でしかないが、それが意味するところは重大だ。管轄でない自治区に勝手に侵入し鉄道を敷く。鉄道路線が自治区となるハイランダーがそれをやるということは、アビドスの自治区を勝手に切り取る行為。それすなわち侵略行為に他ならない。
そんな行為を、いくらアビドスとはいえ実行するだろうか。あまりにも危険性が高いそんな行為を。それなのに、納期に間に合わないとアビドスに怒鳴り込んでくる? 全く辻褄が合わない。ただ、一つだけ辻褄が合う理由がある。
「ハイランダーは、誰かに依頼された?」
「はい。その可能性が高いです。誰かがハイランダーへ依頼した」
「でもさ。変じゃない?」
セリカが首を傾げながら言う。
「依頼したとしても、鉄道を敷く権利があるかどうかくらい確認するわ。間違ってたら大変だもの」
「多分、持ってるんだよ。本当に」
「ホシノ先輩?」
セリカが片眉を上げた。シロコもホシノを見る。ホシノは、何か確信がある様に、静かに呟く。
「持ってるから、ハイランダーに依頼したんだ。その依頼人は、鉄道の権利を持ってるんだよ」
「でも、ハイランダーはその日に来たって感じじゃなかったわよ? 債権を買ってからじゃ、間に合わないと思うけど」
「確実に買えると分かっていた?」
シロコの予想通りであれば、そうなる。何か細工をして、確実に債権を買えるようにした。だったら、事前にハイランダーへ依頼をすることが出来る。
「いえ、そうかもしれませんが。ホシノ先輩が言いたいのは、違う意味だと思います」
「じゃあ、何なの? 債権が無ければ、鉄道を敷くなんてことは出来ない筈」
「シロコちゃん。この間の話を覚えていますか? ゲヘナのお二人の話です」
さっきと同じような事をノノミは言う。どこか、憔悴したような顔だった。
「シロコちゃん。アビドスには鉄道があったんだよ。それを私たちは見たんだよ。ついこの間にね」
「砂漠横断鉄道……」
ホシノの言葉でシロコは思い出した。そうだ。砂漠横断鉄道。そして、その持ち主も。
「ネフティスがハイランダーに?」
「はい。そうでしょう。砂漠横断鉄道はネフティスが権利を持っている。だから、すでにある砂漠横断鉄道の修復をハイランダーに依頼することには何の問題もありません。そしてその目的は……」
「列車砲シェマタ……」
全員が同じ想像をしたと、シロコは思った。きっと浮かんだだろう。アビドス砂漠を走り回る列車砲の姿を。そして、ネフティスが何をしたのかを。
「ハイランダーに依頼したのは、砂漠横断鉄道の修復。そして、今回ネフティスはアビドスの債権を手に入れたということに……」
「まさかとは思うけど。砂漠横断鉄道を広げる気なの?」
「そうかもしれないよ。セリカちゃん」
アヤネとセリカが青い顔になった。なにせビナーを一撃で屠る兵器がアビドス砂漠を走り回ろうとしているのだ。少なくとも、そう出来る権利を、ネフティスは手に入れたことになる。
「待って。でも、お金は? お金はどうしたのよ。あの二人はそんなお金はネフティスには無いって……」
「そうですね。そのはずです。まさか、借金をしたわけもありませんし……」
「借金……いえ、似たようなものかもしれません」
アヤネが、何かを確信した顔をしていた。ともなれば、恐らく正解だろう。そうでなければアヤネはこうはならない。
「ネフティス単体にお金が無いのなら、他所から持ってくればいいんですよ」
「いや、アヤネちゃん。それが出来たら苦労はしないわよ。へそくりじゃあるまいし……あの二人だって、それくらいは調べたはずよ」
ネフティスに無いというなら、きっと金は無いのだ。砂漠横断鉄道を拡張する金も、債権を買い占めるだけの金も。動く金も、想像だにしない程大きいに違いない。まさか、シロコの様に銀行強盗を働いたという訳ではあるまい。
「投資です。お金を募ったのではないでしょうか? 砂漠横断鉄道の為にという名目で」
「いや、でもアビドスなのよ? 言うのは悲しいけど、何もないわ。言ってお金を貸してくれるなら、こうなってないの」
セリカの言葉にシロコは頷く。そうであれば、アビドスは借金に喘いでいない。お金を得るには、それなりの理由が必要だという事を、シロコは知っている。
「あれはパフォーマンスだったんですよ」
「パフォーマンス?」
鸚鵡返しの言葉に、アヤネは続ける。
「私たちは知りませんでしたが、他の大人は違います。ビナーを一撃で粉砕する列車砲を見た時に思ったはずです。これはお金になるんじゃないかと。何しろ未知の技術でしょう。雷帝の遺産だという事を差し引いても、それだけの魅力があるんですよ」
「確かに……別に兵器だけが使い道という訳でもない。その技術を優先的に使わせてくれるかもしれない。そうともなれば、投資をする人は出てくるでしょうね……」
ノノミも反対という訳でもないようで、何かを考え込んで俯いている。
「でも、それだったら。線路を広げる必要はないんじゃないの?」
「あの二人が来たのは、その理由もあったんじゃないかな。ネフティスは列車砲を列車砲として運用したい気持ちもあるんだよ。そのために、線路を広げようとしてる」
「誰に向かって使うのよ。もう方舟は来ないのに……」
「一つは本物のビナーだよ」
どこか遠くを見て、ホシノは言った。
「本物のビナーは、まだアビドス砂漠を徘徊してる。対抗手段くらいは持っておきたいんだよ。それだけだったらまだいいんだ」
「まだいいって?」
何の問題があるのか。シロコには分からない。撃つ相手はアビドスの敵である。それだったら別に……
「私たちや、他の学園にそれが向かないとも限らない。こないだのカイザーがそうだったでしょ? ネフティスもそうじゃないとは限らないんだ」
「そうかもしれません……」
俯いたままにノノミが口を開いた。
「技術だけが欲しいなら、砂漠横断鉄道を広げる必要はありません。そうすればビナーと遭遇する危険はない。ビナーと敵対してまで、そうまでして、広げる理由。それは列車砲を列車砲として使いたいんでしょうね」
「マズいじゃない!」
「多分、ゲヘナの二人はそう予見していたんでしょうね……私たちであれば、列車砲をそう使わないと信じてくれたんでしょう」
そう信頼してくれたことに対して、嬉しい気持ちはある。だが、シロコはまた別の問題に頭を悩ませざるをえない。これからどうするのかだ。
「でも、債権は買われた。私たちはどうしようもできない」
「先生に連絡を取りましょう。ハイランダーの件に絡めるんです。そこから食いついていくしかありません。ゲヘナのお二人も、砂漠横断鉄道は手があるようですし。早速……」
ノノミが方針を示したところで、対策委員会の電話が鳴った。ノノミが取って、驚いた顔になる。暫く何事かを話した後、微妙な顔で受話器を置いた。
「先生がアビドスまで来てくれるそうです。ゲヘナの二人と一緒に此方へ向かっていると」
「よかった。これで、何とかなるかもねぇ……ノノミちゃん? まだ何かあるの?」
ホシノが心配するように、ノノミは様子がおかしかった。良い報せのはずなのに、微妙な顔が晴れてはいない。
「先生が来るのは、連絡があったからだそうです。先日の件について、ハイランダーとネフティスから。恐らくもうすぐ来るのではと……」
シロコは窓の方へと向かう。ノノミの言う通りに、校門の前に複数台の車が見えた。人が次々と降りてくる。スーツを着た獣人、ロボットが入り混じった大人の集団、見たことのない制服を着た小さい緑髪の少女二人、それに絡まれている眼帯の少女。
「ん。珍しい」
「シロコ先輩。どうしたの?」
「ほら、あれ」
シロコは車から最後に降りてきた人間を指差した。細身のロボットともう一人が降りてくる。
「男の人……? 確かに珍しいわね。先生以外で初めて見たわ」
「先生みたいに、外から来た人でしょうか?」
「黒服みたいな奴って事……?」
セリカが嫌そうな顔をする。黒服の厄介さを思えば、当然かもしれない。その男性らしい影を見れば、なるほどどうして黒服みたいとセリカが言ったわけが分かった。
黒いコートを羽織っている。その下にはスーツ。見た目だけなら黒服か先生か迷いそうなものだが、黒いコートがどことなく黒服の方へと印象を偏らせていた。
「少し違うんじゃないでしょうか」
アヤネの指さす方を見れば、男性は眼帯の少女と何事かを話している。今度は二人の少女の方へと何かを言っていた。二人がそっぽを向いている感じ、怒っているのかもしれない。二人は二人で、眼帯の少女へと何かを言ったらしい。眼帯の少女は疲れた様に肩を落としている。
何となく、四人の中には気安さが見られた。黒服みたいな人間ではそうもいかないだろう。
「ホシノ先輩とノノミも……」
「いいよ。おじさんは。嫌でも顔を合わせるんだし、いい思い出が無いんだよね……ノノミちゃんも話し合いの準備に行っちゃったし、おじさん手伝ってくるよ」
興味なさげに、ホシノは部屋から出て行ってしまった。ノノミもいつの間にか部屋から消えている。
「……何よ。二人とも、やけに素っ気ないじゃない」
「まぁ、きっといい話ではないですからね。砂漠横断鉄道の取り合いに発展するでしょうから……」
それで、緊張しているのだろうか。少しでも紛らわすために、作業に行ったのだろうか。悩むシロコを置いて、セリカとアヤネは窓から離れていく。
「シロコ先輩! 早く準備するわよ!」
「うん……今行く」
窓から離れる瞬間、その男性と目があった気がした。そのどこかで見たような目をどこで見たのか。シロコは思い出せないままに、二人の後を追いかけた。