ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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325話 カミガヤ≒カヤツリ

 ホシノが目を覚ますと、後輩たちの心配した顔がずらりと並んでいた。首を振りつつ起き上がれば、倒れた時にぶつけたであろう後頭部が痛いくらいだった。

 

 

「ホシノ先輩! 大丈夫なの!?」

 

「うへぇ、大丈夫だよ。ただ少し、立ち眩みがね」

 

 

 そう言ってあげると、セリカは安心したようだった。他の後輩たちも同じように胸をなでおろして席に座り込む。そしてそのまま、白い三人組と目が合った。

 

 アインとか、ソフとか、オウルとか呼ばれていた三人組だ。ホシノと目が合うと、ユメと口調が似ていた方が、怯えたようにレールガンの後ろへと後ずさった。

 

 

「……君たちはなんでいるの? というか、カヤツリたちは?」

 

「……それは誰ですか? 私たちは良いと言われたからここにいるんですし、用があるって言ったのは先生とか言う人じゃないですか……」

 

 

 この三人組を先生は知っているようだったのをホシノは思い出せた。それに、彼女らにはカヤツリはカミガヤと名乗っているのだろう。何となくその事実はホシノを安心させてくれた。

 

 

「先生は? それに風紀委員長ちゃんたちはどこへ行ったの? ネフティスの人たちも姿が見えないんだけど。おじさん、どれくらい寝ちゃってたのかな」

 

 

 白い三人組へ人数分の椅子を押しやりつつ。とぼけて時計を見るが、たいして時間は経っていない。それなのに教室には対策委員会と、この三人組しかいないのだ。先生たちはいったいどこへ行ったというのだろう。

 

 

「ホシノ先輩が倒れたすぐ後、あのカミガヤとかいうやつは帰っちゃったのよ。話すことは話したってね」

 

 

 セリカの言葉を聞いて、飛びつくように窓へと移動すれば、校庭に停まっていた車は殆どが姿を消している。出て行く最後の一台に、カヤツリが乗り込むのが見える。それを先生とゲヘナの二人。執事とか言われていたロボットと、ハイランダーの人間が見送るのも。ホシノが、ここから飛び降りてやろうかなど考えているうちに、カヤツリの乗った車は発車してしまった。

 

 

「ん、ムカつく。何なの、あのカミガヤとかいうの」

 

 

 いなくなったのを同じように確認したのだろう。シロコが堰を切ったように文句を言いだす。それにセリカも同意するように頷いて、自分の席に勢いよく座った。

 

 

「そうよ。何よあの態度! 好き放題言ってくれちゃってさあ! 私たちのやった事を全部は知らないくせに! エデン条約とか、あの方舟の事だって!」

 

「でも、セリカちゃん。あれは正論だよ。私も耳が痛いし、腹が立ったけど、事実は事実なんだよ。私たちは借金ばかりに目を奪われてた。だから、足元を掬われたんだよ……」

 

「うっ、でも……あんな言い方!」

 

 

 アヤネはカヤツリの言ったことを事実とは認めつつも、納得はできない様子だった。その証拠に口ではそういうものの、表情は反抗心が見て取れた。ホシノが見る限り、シロコとセリカは不機嫌さを全面に押し出している。アヤネは突き付けられた現実にショックを隠しきれてはいないものの、反抗する気は満々だ。ただ一人だけ、それに当てはまらない者がいた。

 

 

「ノノミちゃん」

 

「……っ、何ですか。ホシノ先輩」

 

 

 ノノミはホシノに対してやましさがあるようだった。いつものようにホシノを正面からは見てくれていない。

 

 

「カヤツリ……じゃなかった。カミガヤって人の事を知ってるの? 世話係とか言ってたけど」

 

「知っています。一年間しか一緒に居ませんでしたが……」

 

「じゃあ、後で聞こうかな。長くなりそうだし、風紀委員長ちゃんからも話を聞かなきゃいけないからね」

 

 

 ノノミは静かにうなずいているが、いつもの朗らかさはどこにもない。ホシノには、怒られるのを待つ子供にしか見えなかった。

 

 

「大丈夫だよ。ノノミちゃん。皆はノノミちゃんを責めたりしないよ。勿論、私もね」

 

「ん。当然。ノノミは頑張ってること、私たちは知ってる」

 

「そうよ。悪いのはあのカミガヤとか言うやつじゃない! 先生だって、そう思うはずよ!」

 

 

 けれど、幾ら励ましても、ノノミはその度に小さくなっているように見えた。あまり良くないなとホシノは思って両手を叩く。

 

 

「はいはい。じゃあ、これは先生が戻ってきてからとして。当の先生はどうするって言ってたの?」

 

「そこの三人に話を聞きたいんだそうです。それで、ハイランダーと執事さんは送迎のために残ると。その後、これからの事について話すみたいです」

 

「ふぅん……?」

 

 

 ホシノの問いに、アヤネがいつもの調子を取り戻して言う。はてと、ホシノは首を傾げた。

 

 先生は、カヤツリをパパ呼ばわりした理由を聞くわけでもあるまい。どうにも一方的に知っているようだし、先生なりの私情だろうか。それとも、他の理由があるのだろうか。

 

 席について、グルグルと思考を回すうち、ホシノはある事に気づく。

 

 

「そういや先生。あんまり怒ってなかったね……」

 

「ん。先生は落ち着いてるし、私やセリカが怒ってたからじゃ?」

 

「いいや。先生は怒る時は怒るよ。特に相手が悪い大人の時は」

 

 

 黒服やカイザー理事相手の時の剣幕は凄まじかったらしい。ただ、カヤツリがネチネチと対策委員会を責め立てている時、先生はどうにも冷静だったような気がする。

 

 春先のPMC基地でのカイザー理事の罵倒。それに対して、先生は毅然と言い返しすらしていた。それなのに、カヤツリ相手ではどうもおとなしい。おとなしすぎる。

 

 一しきり暴れたおかげか、あの馬頭のお陰か。ホシノの思考は澄み渡っていて、一度違和感に気づけば、他の所もどんどん気になって来る。

 

 

「大体……何で出てきたんだろ」

 

「出て来たって?」

 

「カヤ……カミガヤ」

 

「そりゃあ、ハイランダーと揉めたからでしょ? それに、債権を私たちは買おうとしてた。ゲヘナの人の秘策もあったし、先生も来てたんだし……」

 

 

 セリカの言葉は尤もらしく聞こえる。実際、カヤツリがいなかったら、ネフティス側は対応に困っただろう。でも、それがおかしいのだ。

 

 

「私たちは知ってたけどさ。そのことをネフティス側は知らないと思うよ。実際、ゲヘナからの協力が無きゃ、お金を用意できなかった。ならハイランダーに苦情を入れたところで、出てくるのはハイランダーだけのはずなんだよ。そもそも眼中にないんだからね」

 

 

 ホシノたち対策委員会側の視点はこうだ。

 

 カイザーの所為で、インフラが壊滅。それにより債権を買うことが出来なかった。そして、ハイランダーが苦情を言ってきたと思ったら、ネフティスや私募ファンドも出てきたのである。

 

 

「変だよ。なんか、シェマタの事を前提に話が進んでたけど、それも意味なんかないよ」

 

「どうして? 一番大事な所じゃない」

 

「そうだけど、態々それを言う必要はない気がするんだよね。だって、私たちが知らない可能性だってあったわけでしょ? みすみすシェマタの情報を与える事になるんだよ。幾ら、先生。シャーレに手出しされたくないのだとしてもさ。らしくないんだよ……」

 

 

 ホシノたちは砂漠横断鉄道の陰に、列車砲シェマタがある事を知っている。ネフティスもそうだろう。だが、それはネフティスと対策委員会、ゲヘナの間では公然の秘密であることもまた事実なのだ。そうでなければ、ゲヘナはあそこまでしないだろうから。

 

 それを態々、会話の中に混ぜ込むこと自体、カヤツリらしくない。色々な事をホシノにずっと隠していたように、カヤツリは秘密主義だと分かる。カヤツリは完璧主義でもあるから、出てくる時は完全に勝負が決まったと確信して、その必要があると考えた時だけ。

 

 それが、さっきまでの会話で見いだせなかった。だって、ただ嫌味を言っただけだ。ゲヘナと、対策委員会と、ちょっぴり先生。あんな嫌味を言うためだけに、居場所という特大のアドバンテージを自ら捨てるだろうか? それこそ私募ファンドに任せておけばいい。後ろから電話か無線かなんなりで指示でも飛ばせばいいのだ。

 

 

「なんで? どうして? あそこで出てきたんだろう?」

 

「それは、知ってたからよ」

 

 

 ホシノの疑問に答えたのはヒナだった。一緒に先生やハイランダー、ネフティスの執事もいる。見送りから戻ってきたようだった。ヒナともう一人。マトは最初の定位置まで戻り、先生が残りを部屋へと招き入れる。

 

 

「知ってた? 何をですか?」

 

 

 突然のヒナの発言。対策委員会にとって意味不明な発言をノノミが拾い上げた。あまりにも動きが早くて、自分より先に動いたノノミにホシノは目を白黒させる。

 

 

「一体、あの人は何を知ってたって言うんですか!」

 

 

 ノノミはヒナに掴みかかる勢いだ。あんまりな様子にホシノ自身ですら訝しむ。それは、先生もそうだったのだろう。ハイランダーやネフティスの対応を終えてから、ノノミへと身体を向けた。

 

 

「それを今から調べるんだよ。カミガヤ君だっけ。どうにも違和感がぬぐえないんだ」

 

「先生も?」

 

 

 ホシノの声に、先生は神妙に頷いた。

 

 

「対策委員会に文句を言っていたようだけど。一人だけ何も言わなかったんだ」

 

「私、考えなしって言われたんだけど!」

 

「ん! 私も行き倒れだって! ノノミなんか逃亡者なんて言った! アヤネにも! ホシノ先輩にだって…………?」

 

「シロコは、気づいたみたいだね」

 

 

 先生はそう言うが、もちろんホシノも気づいていた。ホシノだけには、カヤツリは文句を言わなかったのだ。

 

 

 ──きっとここ以外なら幸せになれる。友達だって出来る。大切な人だってできるかもしれない。ここにはなにもない。砂と廃墟と、辛い思い出しかないのに。

 

 

 あの言葉はカミガヤではなく。カヤツリとしての言葉にしか聞こえなかった。辛い思い出なんて、そのことを知っているのはカヤツリだけだから。

 

 

「ホシノ。少し聞いてもいいかな? カミガヤとか言う人の事について」

 

「そうだよ。先生。あれはカヤツリ」

 

 

 分かりきった質問にホシノがすぐさま答えると、先生は目を伏せた。

 

 何故って、先生も承知しているに決まっている。だって、別世界の自分たちの顔を見たのは、ホシノだけではない。先生も見ているし、向こうのシロコから事情も聴いて、生徒名簿を調べている。

 

 だから、先生も顔を見た瞬間に気づいたはずなのだ。もしかしたら怒らなかった理由はそこかもしれなかった。

 

 

「ちょっと。ちょっと! 一体何の話なのよ!? カヤツリって誰のこと!? あれはカミガヤって自分でそう言ってたじゃない! そうでしょ!? ノノミ先輩の所に居た時も、そう名乗ってたんでしょ!?」

 

 

 セリカの疑問に、ノノミは答えられない。寧ろ、さっきよりも顔色が悪いようにすら見える。仕方なさそうに、ノノミの代わりに、執事と呼ばれていたロボットが動いた。

 

 

「ええ、その通りです。瀬戸カミガヤ。その名前で彼はネフティスに認識されています。表向きは、ですが」

 

「え……?」

 

 

 執事の言葉に、ノノミがピクリと反応した。

 

 

「待ってください。私は何も……」

 

「それは当然です。あの時点でのお嬢様は知る必要がありませんでしたからね。彼の言う裏技もそれ関連なのですが……今は、それよりも先に共有すべき情報があるのではないですかね」

 

 

 食い下がろうとしたのだろう。けれど、執事の言葉に周りを見渡して、ノノミは浮かした腰を下ろした。

 

 

「ノノミも知っていることがあるんだね?」

 

「はい。先生……」

 

 

 やっぱりとホシノは思う。校庭での時も変だったのだ。ノノミはカヤツリの事を知らないはずなのに、やけに動揺していたから。そのくせ引っかけで出した名前には反応しないから、不思議には思っていたのだ。だが、これで謎が解けた。

 

 ノノミは知っている。カミガヤになってからのカヤツリの事を、一番知っているのだ。

 

 

「今から、カミガヤについて話し合おうと思うんだ。彼の事を知る事で、彼がこれからどうしようとしているのかが分かると思うんだよ」

 

「だから、ハイランダーやその三人も連れて来たんですか?」

 

「ふん、我々は唯の迎えの人員にすぎん」

 

 

 アヤネの言葉に、眼帯の生徒が吐き捨てるように言う。そのせいで空気が死にかけるが、ツインテールの方のCCCが、ニヤリと笑った。

 

 

「えー? ホントは興味津々なくせに?」

 

「そんなわけがないだろう」

 

「じゃあ、外で待ってればいいんじゃない? ここは監督官の体格じゃあ、少し狭いと思うケド?」

 

「……問題ない。慣れている」

 

 

 それを聞いたツインテールの方は”へぇ”とか”ふぅーん”とか。如何にもな台詞を繰り返して、監督官を煽る。監督官は俯いてはいたがその場から動こうとはしなかった。

 

 

「揶揄うネタが増えるかもしれません」

 

「まだ拘ってるのオウル」

 

「手帳を盗み見した時みたいに、また怒られると思いますけど……」

 

 

 三人も三人で、話を聞く気満々のようだった。空気が変わらなかったことに安心したのだろう。先生は胸をなでおろして、ホシノの方を見た。

 

 

「時系列で言えば、ホシノが最初の様な気がするんだけど……それで、大丈夫?」

 

「うん……大丈夫だよ。先生」

 

 

 先生の大丈夫の意味は分かっている。話していいのかとか、話せるのかとか、他の人間もいるがいいのかとか。そんな数多くの意味が含まれた大丈夫だ。勿論、大丈夫である。あの馬頭のお陰で、ホシノの覚悟はとうに決まっていた。

 

 

「話すよ。カミガヤ、いやカヤツリの事を。皆にも聞いてほしいんだ」

 

 

 ホシノは最初から全てを話した。自分がアビドスにやって来てから、ユメと出会って、カヤツリと出会った。恐らくは一番幸せだった時期の事を。そして、ユメがいなくなり、カヤツリは出て行った。自分にとっての楽園で会ったそれを自分で終わらせた話を。

 

 話し終えると、時計の針は思ったよりも進んでいた。案外、すんなりと話せて安心する。けれど、後輩たちや他の人間は沈痛な表情だった。空気も些か悪いように思う。

 

 

「いや、皆どうしたの?」

 

「ん。重い」

 

「うへ、そうかな……」

 

 

 そうだろうかと、ホシノは首を捻る。向こう側のシロコの方がよっぽど重いと思う。けれど、それを口に出すことはしなかった。何故だろうか、辛い記憶のはずだったのに、口に出すとどこかが軽くなったような気すらしてきた。

 

 

「じゃあ、復讐って事かしら?」

 

「復讐?」

 

「だってそうでしょ?」

 

 

 セリカは自信があるのか勢いよく立ち上がる。

 

 

「そのユメ先輩? のことには関係ないかもしれないのに。ホシノ先輩に追い出された訳でしょ? そりゃあ、気にくわないし、ムカついたんじゃないかしら」

 

「でも、手が込みすぎてると思うよ? セリカちゃん。ホシノ先輩がしたことは酷いことだけど。幾らなんでも、ここまで時間を掛けるのは考えにくいよ……だって二年間だよ?」

 

「うぐ……」

 

 

 アヤネに突っ込まれたセリカは言葉に詰まる。だが、自信満々に立ち上がった手前、もう退けないのだろう。ぐにぐにと百面相を繰り返している。

 

 

「でも、そうとしか考えられないじゃない! あんな陰険そうな顔で言葉責めしてるのよ? 二年くらいは掛ける……」

 

「言いがかりは止めてもらおう。それは、お前たちの所為だ。普段は優しい人なんだ」

 

「あんですって……えっと」

 

「スオウだ。朝霧スオウ」

 

 

 突然話し出した監督官。朝霧スオウにセリカは怯んだ。何故かスオウの表情は険しくて、怒っていることが一目でわかった。

 

 

「お前たちがやるべきことをやらなかったから、あの人は怒っていた」

 

 

 セリカは言い返そうとしたが、それを制する手があった。

 

 

「……何をやらなかったんだい? スオウだったね。君の目から見たことを教えて欲しいんだ」

 

「……いいだろう」

 

 

 先生の介入で、スオウは落ち着いたようで、対策委員会を睨みつけた。

 

 

「お前たちは、私立ネフティス中学の事など気にもしなかったのだろう? ならば教えてやる。あの学校は二年前に廃校が決まっていた。それを知らされた時、在校生たちはどんな気持ちになったと思う? 自分の手の届かない所で自分の将来の全てが決められて、違う土地に放り出される。上から無慈悲に故郷を捨てろと言われた時の気持ちが」

 

 

 誰も答えられなかった。それを経験した人間はいないからだ。ホシノやノノミ、シロコは違う。自ら望んでここへ来た。アヤネもセリカもそうだ。選択肢がそこにはあった。

 

 

「……アビドス高校に来ればよかったじゃない!」

 

「バカなのか。お前は」

 

 

 言い返したセリカをスオウは罵倒する。

 

 

「それが出来るのは三年生だけだ。一年生や二年生は他の中学に通学しなければならない。まだアビドスに中学が残ってはいたが、そこもいつまで保つか分からない。そしてアビドスはご覧の有様だ。誰もが、お前たちと同じように考えなしで強くはない」

 

 

 セリカの言葉が我慢ならなかったのか、目つきをスオウは更に険しくする。

 

 

「アビドス高校が発展している。その兆しがある。そうであるなら話は別だったろう。だが、そうでは無いのはご覧の通りだろう? 私たちは絶望していた」

 

「そんな君たちに、カミガヤ君は何をしたんだい?」

 

 

 絶妙のタイミングで差し込まれた先生の質問に、スオウは肩の力を抜いた。

 

 

「ネフティス中学を維持した。通学に困らないように、あの付近のインフラを整えた。私たちの願いを叶えてくれた」

 

「願い……?」

 

「決まっているだろう。誰しも皆が思う事だ。誰が好きで故郷を捨てたいと思う……」

 

 

 しみじみと呟くスオウに、対策委員会は疑問符で一杯になる。

 

 

「いや、なら何でアビドス高校に入学しないのよ。だってネフティス中学を卒業したら、高校はここしかないのよ」

 

 

 そうだ。故郷であるアビドスに残ると言うのなら、アビドス高校に入学しなければならない。だが、現実はそうなっていない。現に卒業生であろうスオウはハイランダーに入学している。

 

 当のスオウは自嘲するように口を開く。

 

 

「さっきも言ったろう。全員がお前たちの様に考えなしで強くはないとな。誰しも自分の身は可愛いものだろう?」

 

 

 それは、そうだった。九億だ。九億の借金がアビドスにはあった。治安も最悪で、どう考えても復活など夢のまた夢だった。そんな自治区に、全てを犠牲にして残ると言うのは普通は出来ない。それなりの理由が無い限りは。

 

 

「君に何を約束したの?」

 

「……居場所だ。私たちにアビドスに残れる居場所を用意すると。明日の事を気にせず、学園に通える。そんな居場所を用意すると言ったんだ。だから、まだ私立ネフティス中学を退学しないでほしいとな」

 

「どういうこと……?」

 

 

 説明を聞いても、ホシノには理解できなかった。アビドスにそんな場所はない。でも、カヤツリはそれを作ったのだと言う。困惑するホシノたちを置いてけぼりに、ツインテールの方が気づいたように声を上げた。

 

 

「ああ……だから、皆あんなやる気なの?」

 

「ああ、そうだ。だからこその熱意だ」

 

「マジ? 本気でそう言って、叶えたわけ?」

 

 

 ハイランダー同士では分かることがあるのか、CCCの双子は感心と呆れが混じった複雑な表情だ。

 

 

「説明してもらってもいいかな」

 

「ああ、ごめん先生。ハイランダー以外じゃ分からないよね」

 

 

 ようやく周囲の状況に気づいたのか、CCCの双子は説明を始めた。

 

 

「ハイランダーはね。ゲヘナとかアビドスみたいに領地として自治区は持ってないんだ」

 

「代わりにねー? 路線がそうなのー。それぞれの路線が独立してるんだー。それを纏めるのがヒカリたちの仕事ー」 

 

 

 CCCの双子が言う事は、ハイランダーの自治区についての話だった。同じような話をアヤネがちらっと言っていたような気がしたことを思い出す。ただ、それが何だと言うのだろう。

 

 アビドスにハイランダーの路線が敷かれる。ハイランダーの自治区がアビドスに誕生すると言うだけだ。今の説明だけでは何も分からない。

 

 

「まだ分からないのか?」

 

「あによ。分かりやすく言いなさいよ」

 

 

 半分煽りも入っているだろう。挑発染みたスオウの問いかけに、セリカが反抗する。それすら、スオウは不愉快そうに眉を寄せる。

 

 

「簡単な話だ。鉄道を運行するには人がいなければならない。勿論、鉄道はハイランダーの生徒が運行させる必要がある。運転手の他に、整備をするもの。掃除をするもの。運行の管理をするもの。様々な職種の生徒たちが鉄道には関わっている。勿論私もな」

 

 

 スオウは自らの胸を指差した。どこか、それは自信に満ち溢れている。

 

 

「そして、その路線に関わる者は担当路線の付近に住む。職場に近いほど都合が良いのは言わずもがなだ。様々な店が付近にあればなおいい。そこで暮らすには当然の願望だ」

 

「待ってください。まさか……」

 

「アヤネちゃん? どういうこと?」

 

 

 アヤネが何かに気づいて、口を手で覆って目を見開いていた。セリカがアヤネを突くと、ぽつぽつとアヤネは話し出す。

 

 

「スオウさんが今言った事は、鉄道を運行するハイランダーの生徒は、その路線近くに住むということだよ」

 

「ん。仕事場は近い方が良い」

 

「それで、住むにしても、色々要りますよね? お店とか色々」

 

「そりゃあね。一々外まで行くのは大変だもの」

 

「そこにハイランダーの生徒は住むんでしょう? その路線の管理は生徒の住居にも適応されるのでは? それは、町じゃないんですか? 幾ら小さくとも、アビドスに住める町が出来るってことじゃ……」

 

 

 アヤネの言葉に、スオウは大きく頷いて肯定した。

 

 

「そうだ。今回のアビドスの工事。それに関わっているハイランダーの生徒。この双子を除いた全員が、私立ネフティス中学の卒業生だ」

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