ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
「説明して、詳しく」
ホシノの喉からは、思ったよりも冷たい声が飛び出した。何事かと後輩たちがホシノを見るが、ホシノは気にする余裕もない。思考はマトの話一色に染まっていた。
「何で? 何でそこでユメ先輩が出てくるの? 早く! 答えて!」
「慌てなさんな。最初から最後まで、ちゃんと説明するよ。それが私の責任だからね」
マトはそう悲しげに言った後、苦々しい表情になった。
「私はね、いや今なら、ヒナもマコトもそうか。シェマタを破壊したかったんだ。あれはあって良いものじゃない。混乱しか引き起こさない。あのカヤツリが使ってさえそうなんだ。他のヤツが使えば、碌なことにならない、今回の件で良くわかったろう?」
マトの言葉を否定は出来ない。実際にはガラクタだったのだとしても、ここまで事態が拗れた。この間のカイザーの襲撃がいい例かもしれない。
カイザーは連邦生徒会を襲撃し、多大なる犠牲を払い、その結果何も手に入らなかった。先生の話では、宇宙戦艦とやらを起動しようとして、その宇宙戦艦が思ったものではなかったらしい。
同じ事が雷帝の遺産とやらに言えるのだろう。見た目は素晴らしいものに見えても、実際はそうでない。ただそこにあるだけで人を惹きつけ破滅させる昔話に良くある呪物の類。
「それで? 君はどうしたの? アビドス生徒会に君は一度も来なかった」
ホシノの目つきが鋭くなる。どんどん心身が戦闘モードへと切り替わり始めていた。何となく嫌な予感しかしないのだ。
それに対して、マトも緊張感を滲ませつつも、口は止めない。
「シェマタの詳しい所在は分からないが、アビドスにあるのは分かってた。そこで二年前、私はカヤツリに接触した」
「待って、何でカヤツリだったの?」
先が気になる気持ちを押し込めて、ホシノは話を止めた。
「本来なら、梔子ユメに通すのが筋って話だろう? ……問題があってね。それは出来なかった。アビドス生徒会に行かなかったのはそれが理由さ」
「……問題?」
「私が接触したのは、ビナー退治の後さ。どうやって倒したのか、アンタは知ってるだろう? 何せ、一番近くで見てたんだから」
あの夏に差しかかろうとしていた季節を思い出す。ユメとカヤツリと自分、あの三人で手にした初めての成果。それはどうやって手にしたのか。それを思い出して、あのシェマタの既視感の理由に漸く思い至る。
「あの大砲……シェマタの砲撃に似てた……」
「そう。あの大砲が良くなかった。あの時の大砲はね。カイザーが開発したシェマタのデッドコピーだったのさ」
「嘘……」
最初からある嫌な予感がホシノの中で身動ぎする。腹の底から、ゾワゾワと何かが這い上ってくる。
「まさか、それでビナーを倒しちゃったから……? 起動しないはずの、シェマタの複製で?」
「そうさ。起動しないはずだったそれを、カヤツリは動かしてしまった。あまつさえ、ビナーを倒してその有用性を証明してしまった。そこで皆思ったのさ。シェマタは使えるかもしれないってね? そこから全ては始まったんだよ」
マトは一つ一つ、丁寧に説明してくれた。シェマタを動かせるかもしれない。少なくともあれは偶然ではない事。それをカイザーが知ったなら、土地の権利を持っているカイザーはシェマタを接収する。マトとしては、シェマタがカイザーに使用されるのは避けたかったと。
「カイザーは碌な使い方をしないだろう。それにまだあの時はゲヘナに雷帝が居た。ヤツの遺産であるシェマタが使えるとなると、私らのクーデターに影響が出る恐れがあった。あの時の私は放棄されたシェマタの調査っていう名目でアビドスに居たんだ。堂々とアビドス生徒会に顔なんか出せない。だから、アビドスの協力者が必要だった」
「それが、カヤツリ?」
「そうさ。カヤツリはほぼ自力で私の狙いを看破した。このままだと、アビドスはシェマタを巡る争いの戦場になる。他人の都合でアビドスが踏み荒らされるとね」
「そんな……だから、カヤツリは……私に何も……」
だから、秘密にしたのだ。言えば、巻き込んでしまう。あの時のホシノはカヤツリの言うことなんか聞きやしないだろう。それが嫌だから、カヤツリはホシノに何も言わなかった。なら、ユメはどうだったのだろうか? カヤツリはユメには話したのだろうか? 話したから、砂漠横断鉄道を手に入れようとしたのだろうか?
「ユメ先輩は知ってたと思う?」
「絶対に知らない。断言してもいい。梔子ユメが、砂漠横断鉄道を手に入れようとしたのは偶々なんだよ」
「偶々?」
マトは俯いた顔を上げて、ホシノを見た。マトの瞳には後悔の色が滲んでいるように見える。
「これは状況証拠を集めた予想にしか過ぎないけどね。多分、何かを残したかったんだよ。その為の金はあった。覚えはないかい?」
──うーん。私はもっといい使い道があると思うんだけどな。何だったかな。
「ビナーの賞金……」
記憶の奥深くから、懐かしい思い出が蘇った。そうだ。三人の為に使おうと決めた大金。ついぞ使う機会はなく、未だに対策委員会の金庫に眠るそれ。
落ち着いて考えれば答えは見えてくる。あのユメが、あの額の大金を目にして何も考えつかない筈もない。
「それで、あのお金で、砂漠横断鉄道を買おうとしたの? 何で……」
「……調べて分かったんだけどね。ビナーが倒された近日に、梔子ユメはカイザーコーポレーションに連絡を入れているんだ」
「カイザーコーポレーション……? カイザーローンじゃなくて?」
借金を借りているのはカイザーコーポレーションだが、窓口はカイザーローンになっている。だから、借金関係ならカイザーコーポレーションに連絡する必要はないのだ。なら、それ以外の件についての話があった事になる。
「梔子ユメは、大オアシスの土地を買おうとしたのさ。だが断られた。借金を返してからにしろとね。当たり前だろと、カヤツリはそうボヤいてたよ」
「あそこは、私とユメ先輩がカヤツリと初めて会った場所……だから? だから、買おうとしたの?」
「梔子ユメがどんな人間だったか。それを一番知ってるのはアンタだろう? なら、アンタが思った答えがそうなんだろうね。きっと、その場所を残したかった」
「ああ……本当に、ユメ先輩……」
ホシノの胸に何かが込み上げて来る。何処と無く目尻が熱い。そうだ。ホシノの知るユメならそうする。あの人は、思い出を残す事に拘っていたから。あの大オアシスを残すのは簡単に想像できる。
「でも、どうしてそこから砂漠横断鉄道に繋がるの?」
ホシノは疑問を口にする。ユメの思惑は分かったが、大オアシスから砂漠横断鉄道の繋がりは不明だ。少なくともホシノには砂漠横断鉄道に思い出はない。
「……カイザーからは買えなかった。その理由は真っ当さ。だから、債権が売り出されないあの時点では、借金を返し終わるまでは土地を買えない。なら、他から買えばいい。アビドスが借金をせず、かつてのアビドスの物を持つ所から買えばいいのさ」
そう言うマトの顔はいつのまにか無表情だ。努めてそうしようとしているのは嫌でも分かる。そして、マトが言いたいことも。
「それでね。ネフティスから砂漠横断鉄道を買おうって話だけど。普通に売ってくれるわけもない。シェマタの価値は上がってしまったからね。そうだろう?」
「ええ、そうでしょうね」
「なら、どうして売ったんですか?」
マトが執事に話を振ると、あっさりと執事は頷くが。価値が上がったシェマタをネフティスが売却するとは考えにくかった。
同じことを考えたであろうノノミが口走ると、執事は残念そうに首を振った。
「ゲヘナにそれとなく脅されたのですよ。お嬢様、考えてもみてください。二年前の、まだお嬢様がいた時のネフティスの状況を。その状況下で、カイザーの妨害を受けて無事でいられるとお思いですか?」
「それは……難しいです」
「そうでしょう? そして提案されたのです。砂漠横断鉄道のリスクの分散と、カイザーにシェマタの価値を誤認させる作戦を」
「それは、どういう?」
ノノミの疑問は、対策委員会全員が思った事だったろう。ホシノも分からないし、スオウやCCCも興味深そうに耳を傾けている。
「まずは、アビドス生徒会と砂漠横断鉄道を売買中にすることでした。売買中であれば、カイザーは手が出せない。そして、妥協案としての値段が一千万円でした」
「いつまでも売買中にしておくことはできないからね。アビドスがそこまで保つかという問題もあった。だからこそ、売買期間中にその金額を稼げるか。稼げたなら、砂漠横断鉄道を渡しても問題が無い程度の実力がある。そして期間は二年なのは、その期間内に新入生を増やせるか。そういう無理難題だった。そして、ネフティスは無理だと思ったからこそ、二年間の無事を担保に売買契約をしたんだ」
マトは少し微笑んで、執事は苦々しい顔だ。ネフティスからしたら上手い取引に見えただろう。少なくとも二年間はシェマタの無事が保証されるからだ。私立ネフティス中学を使えば、二年間くらいはアビドス高校を保たせるくらいは出来たのかもしれない。
三人しか居なかったアビドスに一千万を稼ぎ出し、新入生を入れることなど不可能に見えたに違ない。ネフティスはアビドス高校に無理難題を押し付けて、二年後に売買契約を破棄して、シェマタを回収する。そう言う目論見だったのだろう。
「そして……カイザーを騙さなけりゃならない。最悪なのは、こないだの連邦生徒会みたく力ずくで来られることだからね。だから、出来レースをしてやったのさ……」
マトの口調には覇気が無くなっていた。その度に、隣のヒナが耐えきれない表情になっている。
「上手くいくはずだった。ゲヘナから拝借したシェマタの失敗作を暴走した体にして、ゲヘナの部隊で撃破する。起動したところで、シェマタなんて大したことないと全員に思わせるための出来レース。それは上手くいくはずだったんだよ……」
「それが、カヤツリの仕事……?」
「そうさ。成功の暁には、シェマタ一台分の金を払うつもりだった。分割でもなんでもしてね。債権の為に用意した金はそれの一部さ。その為にずっと。カヤツリが使おうとした目的のために残しておいたんだよ」
いつの間にか、マトの表情は歪み切っていた。何かを抱えて、それに耐えきれない時の顔だ。
「だが、失敗した。いや、作戦は上手くいったんだよ。良い感じの善戦をして、カヤツリの乗った偽シェマタは大破した。カイザーも騙せ、売買契約は結ばれた。問題は過程だったんだ」
「何があったの? それが、カヤツリが一ヶ月も帰って来なかった原因なんでしょ?」
ホシノの疑問を聞いたマトは、口を開こうとした。それでも言葉が出てこない。上手い言葉が見つからないというよりも、何とか絞り出そうとしているように見えた。
「マト先輩。私が言──」
「ふざけるんじゃないよ。ヒナ」
見かねたのか、ヒナが代わりに言おうとしたのをマトは強い言葉で突っぱねる。目だけで、脇のヒナを睨んだ。
「あれは、アンタの所為じゃないんだ。私の所為なんだ。アンタは上の命令に従っただけなんだからね。私の責任を持っていこうとするんじゃない。それは優しさなんかじゃないんだからね」
余りの剣幕にヒナが黙る。それを確認したマトは、重いだろう口を開いた。
「ゲヘナの部隊には、何も知らせていなかった。全ての事情を知る者は、私とカヤツリだけだった。戦う予定のゲヘナ部隊は、私が細工してカヤツリでも勝てるほどの数に絞っていた。だが、手違いが起きた。ヒナがね、部隊に混じっていたんだよ」
「……どうして、そんな事になったの?」
怒りを押し殺して、ホシノは尋ねる。
「戦闘部隊の一人が急に体調不良になった。だから、手の空いていた私が急遽割り当てられたのよ。マト先輩じゃない、その部隊の先輩の命令で。まだ一年生で何も知らない私は、断ろうなんて思いもしなかった」
「それで、私が想定した戦力とはズレが生じた。カヤツリは、ヒナ以外を戦闘不能には出来たが、ヒナに苦戦したんだよ。脱出の隙が作れなかった」
「それで風紀委員長ちゃんが、カヤツリに大怪我させたわけ? それでカヤツリは帰って来なかったの? そうなの? ねぇ、どうなの?」
掴みかかるのを何とか抑えて、ホシノはヒナに詰問する。けれど、ヒナは肯定するでもなく、黙ったままだった。
「逆だよ。ヒナは殺されかけたのさ。カヤツリに殺されかけた。空から叩き落とされて、ビルの柱で滅多打ちにされて、レールガンで撃たれそうになった。カヤツリはヒナが現れて、作戦が迷走してから激怒していた。私の無線も無視した。ヒナの後は私も殺す気だったろう。それだけのことを私はしたし、アンタたちとアビドスを守るためにカヤツリは行動した」
「は?」
あんまりにも殺意の高い攻撃方法に、ホシノは怒りが一瞬引っ込んだ。あの優しいカヤツリが、そこまでするなど、何かがあったに違いなかった。
「カヤツリ側から考えたら、当たり前の話なんだよ。配慮はしたし、出来るだけ協力したけれど、外から見たら単純なんだ。私から押しかけて、押し付けて、アビドスとアンタらを脅して参加させたようなモノなんだ。そんな作戦で、想定外の事態で自分がやられそうになったら? 裏切られたと感じるだろうね」
「……カヤツリは約束を守るから」
そうだった。カヤツリは約束を守る。絶対に守るのだ。そして、それを自分ほどではないけれど相手にも求める。それを正面から裏切られた時、どうするのかは悪い大人の対処法を見ていたホシノは知っている。そして、その後マトがどうしたかもわかるのだ。
「私は決断するしかなかった。私はカヤツリよりもヒナを取った。カヤツリが乗った偽シェマタを自爆させて、病院送りにしたんだ。カヤツリは一ヶ月は目を覚まさなかった」
「……目覚めた時に話はしたのかい? そうするべきだったんじゃないのかい?」
俯いたマトに、優しく先生が問うも、マトは俯いたままだった。
「勿論、そうするつもりだったさ。カヤツリの保護者とか言う黒服とやらも同じ見解だった。私らはカヤツリが目覚めるのを待って、そうするつもりだった。しかし、アレが起きてしまったんだ……」
「黒服……!? いや、起きたと言うのは、梔子ユメ生徒会長の?」
マトは答えない。答えないことが答えの様なものだ。つまりは、カヤツリが意識を失っている間にユメは死んでしまったのだ。だから、マトは自分のせいだと言ったに違いなかった。でも、まだもう一つ残っている。
「カヤツリが出て行ったのは? 自分のせいって言ったけど……」
「カヤツリは、梔子ユメが亡くなったことを知ってたかい? むしろ、生きている前提で話して、アンタらを心配してたんじゃないかい? 誰も来なかったかとね」
「してたけど……」
その答えに、マトは悲し気に呻いた。呻いて、ホシノをじっと見た。
「カヤツリはね。私と黒服の想定よりも、ほんの少しだけ早く目を覚ました。奇跡だと黒服は言ってたけどね。あんなものが奇跡であってたまるものかい……そして、病院を着の身着のままで脱走したんだよ。脱走して、アビドス砂漠を超えて、アビドス高校まで全力で戻ってきた。私たちは追いつけやしなかった。説明何て、出来なかった」
「あ、ああ……そんな。私は、
ホシノは呻いた。自分がやってしまった事を真に理解した。
カヤツリは帰ってきてくれたのだ。ホシノやユメを心配して帰ってきたのだ。ゲヘナに裏切られたと思ったカヤツリは、ホシノたちを守ろうとして、準備もそこそこに帰ってきた。
そして、ホシノはそんなカヤツリに何をした?
──ユメ先輩が死んだのは、カヤツリのせいだよ!!
そうだ。怒鳴って、詰って、ユメが死んだのはカヤツリの所為だと八つ当たりしたのだ。そう、また、ユメにしたのと同じことをしたのだ。
「確か……砂漠横断鉄道はアビドスが借金苦に陥ってすぐ、ネフティスに売却された……だから? だから、ユメ先輩は……?」
俯いたマトはホシノの質問に答えなかった。答えた所で同じ答えが返るだけだ。ホシノはユメの事を良く知っている。
残したかったとマトは言った。きっとユメの事だから、ホシノに悪いと、そんな気にしなくてもいい事を気にしていたに違いないのだ。
大オアシスはダメだった。だから、砂漠横断鉄道をホシノとカヤツリに残そうとした。
そして、あの賞金は三人の共同の物。ホシノには秘密に出来ても、カヤツリは隠せない。もしかしたら、最初から頼んだのかもしれない。カヤツリの事だから、二つ返事で了承しただろう。
「ああ……ああ……そんな、まさか。だから、あの時砂祭りなんて……」
どんどんと、想像が先へ先へとホシノを急かす。記憶の向かう先は勿論、あの日の夜。
──じゃーん! ホシノちゃん見て見てー! アビドス砂祭りの昔のポスター! さっきやっと見つけたの! この時はまだオアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。はい、これはホシノちゃんにあげるね!
──えへへ、すっごく素敵でしょー? もし何か奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人がたくさん集まって──
──うえぇ、ホシノちゃん……ごめんね? でもね。
──ホシノちゃん! 待ってよ! 話を──
一生忘れることはない。数々の台詞が駆け巡る。あの時は気づきもしなかった言葉が、今なら容易に思い出せた。
──
続きだ。あの時にユメはカヤツリと計画したことを話そうとしていたのだ。つまりユメは、ホシノに砂漠横断鉄道を残そうとしていた。
だからだ。ユメは砂漠横断鉄道の前振りとして、砂祭りなんて話題を選んだのだ。オアシスは無理だけど、これを元手にいつか砂祭りを目指そうね。そんな風に締めくくるつもりだったに違いない。
でも、ホシノはそんなユメに何をした? そう思った瞬間、ホシノへ苦い後悔が襲い掛かった。
「そんな……そんなつもりじゃなかったんです……私は、わたしはそんなつもりじゃ。あっあっ、あああああああ!」
その事に思い至って、言葉にならない呻きと泣き声が出た。足腰に力が入らなくて、ホシノは椅子から転げ落ちる。
「ホシノ先輩!?」
後輩たちや、先生がどよめくが、ホシノは気にもしていられない。目の前がなんだか真っ赤だし、何故あの日にユメが出掛けたのかが分かってしまったからだ。
──それよりも現実を見てください! もっとしっかりしてください! あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!? もう少しその肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!
ホシノはユメにそう言った。だから、ユメはその通りにしたのだ。ホシノの言葉を証明する為に、砂漠横断鉄道を買いに行った。
ユメは分かっていたのだ。昔のホシノ、いや、今のホシノよりも分かっていた。アビドスの生徒会長としての責任を、十分すぎるほどに分かっていたのだ。
もし、もし。ホシノがあんな事を言わなければ、ユメは死ななかった。だったら、だったら、ユメを殺してしまったのは──!
──マズイ!
誰がユメを殺したか。急に、その名前は何故か認識できなくなった。だが、それは苦しみが長引いただけだ。胸の奥から、耐えがたい熱がホシノを焼こうとせり上がって来る。
ユメを殺して、カヤツリに罪をかぶせた。そんな誰かは、のうのうと被害者ぶって生きていたのだ。あんまりだ。あんまりにも酷すぎる。罪悪感が熱を持ってホシノを焼き尽くそうとしていた。
「苦しい、くるしい。くるしいよ……」
ずっと胸の奥にしまい込んでいた感情が暴れ出す。けれど、それは解消などできやしない。一人は死んで、もう一人も突き放してしまった。それでも、情けない自分の喉からは声が飛び出る。
「ごめんなさい……ごめんなさい。私が悪かったんです……」
身を焼く苦しみに叫びながらも、自分の中の冷静なホシノは自嘲する。こんな人間が助けを求めたところで意味はない。叫ぶだけ無駄だ。粛々とこの苦しみを受け入れるべきだ。それが与えられた罰なのだから。
でも、そうでない気持ちも微かにあって、喉が名前を絞り出す。
「……カヤツリ、ユメせ──」
──大丈夫? ホシノちゃん。
「……え?」
急に真っ赤だった視界が晴れた。自分が中から焼き尽くされるような苦しみは、すっかり消え去っている。身体を起こして辺りを見渡しても、思い描いた姿はない。
でも、確かに。見覚えのある誰かに頭をなでられたような気がしていた。