ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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329話 二つの心

「孤立? いや、でもゲヘナでしょ……? ゲヘナが孤立してるなんて、いつもの事じゃないの?」

 

 

 マトの言葉に対する答えは、おそらく全員が一貫していた。主にセリカの言葉がそれで、余りの直球さに、流石のマトも苦笑いを零している。

 

 セリカの答えは間違ってはいない。治安はキヴォトスでも最悪の部類、規則など守る方が少ない、どこよりも自由で、どこよりも滅茶苦茶。ゲヘナ学園はそんな学園だ。

 

 ありていに言ってしまえば、自分最優先の生徒が多い。ヒナやマトなどは少数派に入る。だから、孤立しているなんていつもの事なのである。今更、孤立を恐れるような学園ではない。

 

 だが、今回は例外であることを先生は知っているのだ。

 

 

「今回だけは事情が違うんだよ。セリカ」

 

「先生? どういう事?」

 

 

 セリカだけでなく、他の対策委員も興味深げだ。だから、ちゃんと最初から説明をすべきだろう。先生がここに居る理由の一部はそこにあった。

 

 

「まずは、そうだね。ゲヘナ学園は孤立していると言う話だけど。セリカや皆の思う通り、それはいつもの事なんだよ。生徒会組織の万魔殿がああだからね。ゲヘナ以外の学園は、特に気にしてない。諦めてると言えるけど」

 

 

 キキキキという笑い声と共に、万魔殿議長の羽沼マコトの顔が浮かぶ。他学園の苦情を受けても、責任転嫁と苦しすぎる言い訳で切り抜けていくのが、容易に想像できた。

 

 

「トリニティは? あそこはゲヘナと仲が悪いはずだけど」

 

「トリニティは今、それどころじゃないからね。アリウスの事や先日の方舟の件で大わらわなんだよ。余程の事じゃなきゃ、苦情なんて入れてこないんだ。ましてや、シャーレなんかにはね」

 

「シャーレには……? じゃあ、他には入れたって事?」

 

 

 ホシノが何かに気づいたようで、もぞもぞと呟いている。相変わらずの勘の鋭さに、先生は舌を巻く。そう。シャーレには来ていないが、他の場所へ苦情が来ているのである。来ていると言うのもおかしな話だが。

 

 

「連邦生徒会で議題に上がってるんだよ。雷帝の遺産についてね」

 

「は? 何でよ? 秘密の宝物みたいなものじゃないの?」

 

 

 いいやと、マトは首を横に振った。

 

 

「雷帝。奴の顔の一つは発明家だった。そのこと自体は有名で皆知ってる。既存の科学技術を凌駕した、妙な発明品を作っていたこともね。ただ、殆どがガラクタだったから誰も気にしていなかっただけさ」

 

 

 そう。だから今までは大丈夫だった。しかし、今は違うのだ。

 

 

「でも、方舟が攻めて来た日。あの時に皆が目撃したんだ。サンクトゥムの守護者や、それを一撃で屠った列車砲シェマタの、雷帝の遺産の力を。今まで誰も実現できなかったそれを実現する力があるってね」

 

「他のもそうなの? そんなに危ないのが、ゲヘナにはゴロゴロ転がってるって事?」

 

「まさか。シェマタは、カヤツリが何かしなきゃ動かなかった。シェマタだけが例外だよ。そこは安心しな」

 

 

 実際、そこしか安心できる要素が無い。それに先生は頭が痛くなる。

 

 

「ゲヘナからは、ついこの間に公式発表で説明はしてるんだ。雷帝の遺産は失敗作だって、アレにゲヘナは関与してないってね。でも、シェマタは起動してしまったから信憑性が無いんだ」

 

「それで孤立してるの? 何度も言うけど、いつもの事じゃないの?」

 

「他にも幾つかある。まずは、トリニティの追及だね」

 

 

 先生は深刻そうだった桐藤ナギサの顔を思いだして、胃がキリキリしてきた。

 

 ナギサは追及も、やりたくてやっているわけでは無いのだと言う。単純にそうせざるを得ないのだと。下が暴発されては堪らないからとの事らしい。確かに、ミカの件でのパテル派の暴走は記憶に新しい。ナギサはそれを警戒しているのかもしれない。

 

 そのパテル派を抑え込んでいたミカは、その立場にはもうない。そのことを思えば、当然の対応だ。

 

 

「まぁご存じの通りに仲が悪い。エデン条約を締結しても、あくまで書面上の事でしかない。緊張状態は変わらないよ。例え、個々人が信頼できると言っても、ゲヘナ全体を信頼できるわけでは無いからね。ミサイルの件もある」

 

「ミサイル?」

 

「ああ、こっちの話だよ。兎に角、仲が悪いところに今回の爆弾だ。向こうからの追及が厳しい」

 

 

 パテル派が理由に挙げているのは、調印式を襲った巡航ミサイルの事だ。どうにも、ベアトリーチェが撃ったそれにゲヘナが関係している疑惑がある。

 

 正確にはマコトが関係していそうな気がする。アリウスの襲撃はミサイルと古聖堂を前提とした作戦だった。しかし、場所の指定は裏切り者だったミカではなく万魔殿だ。

 

 ゲヘナ側も飛行船ごと爆破されたとはいえ、疑念は残る。そんな考えに至るのは誰だってそうだ。その払拭の為にも、ナギサはマコトへ鎌をかけた。

 

 

 ──もう、終わったことだろう!

 

 

 それが、マコトの答えだった。如何にも狼狽えて、突かれたくない所を突かれた表情。爆破された影響でアフロになった髪を修正するための美容代を請求してくることで、その場を誤魔化した。証拠はないからいいものの、アレでは白状しているようなものだ。

 

 きっと騙されただけなのだろうが、トリニティにはそんな都合は知ったことでは無い。ミサイルの次は、雷帝の遺産で攻撃をするのではないかという疑念が渦巻くのも仕方のない事だ。

 

 

「あとは、アレさね。先日のカイザーの連邦生徒会襲撃さ。あれが実に良くなかった」

 

「カイザーは失敗しました。それとゲヘナに何の関係が?」

 

 

 アヤネは不思議そうだが仕方がない。カイザーとゲヘナは繋がりにくい。今回も直接つながっている訳でなく、間に何かを挟んでいる。

 

 

「アヤネ。カイザーはね。アビドス砂漠に埋まっていた本船。ウトナピシュティムの本船っていう物を起動しようとしたんだよ」

 

「はい。実際は巨大なスーパーコンピューター。それを宇宙戦艦だと誤認したカイザーは、起動の為のキーとして、サンクトゥムタワーを求めたと」

 

 

 本船の所有権は係争中なのは置いておく、問題は本船では無いからだ。

 

 

「今回は良いんだ。本船はスーパーコンピューターだった。でも、もしも、本船が宇宙戦艦だったら? その場合はどうなってしまうんだろう? 皆がそう考えたんだよ。方舟の被害も凄まじいし、まだ直っていない所もあるんだよ」

 

「つまり、怖がっているんですか? シェマタの威力を見て、それが自分たちへ向けられるのではと。それに類するもの、もしくはそれ以上の物をゲヘナが隠し持っているのではと」

 

 

 先生は黙って頷く。

 

 アヤネの言っていることは概ね合っている。方舟の襲来、カイザーの襲撃でピりついている所に、シェマタの件が流出した。それで、連邦生徒会は蜂の巣をつついたような騒ぎである。

 

 なにせ、直接被害を受けたのは連邦生徒会だ。サンクトゥムタワーの制御権は無事だったとはいえ、もう一度に警戒するのは当然と言える。防衛室長の不知火カヤなど、恐ろしく精力的に動いている。

 

 だからと言って、ネフティスに、これはシェマタですか? とか、これを連邦生徒会や他の学園に使う予定はありますか? など聞けるわけもない。

 

 シェマタではないと白を切り通されれば追及できず、連邦生徒会は他の経由で調べるしかなかった。しかし、結果は芳しくない。

 

 ゲヘナは答えない。というよりも、答えられないのだとマトは言う。全ての詳細は雷帝しか知らず、当の雷帝は卒業してキヴォトスの外に居るのだと。

 

 ミレニアムでも詳細が不明だった。リオやヒマリは、無名の司祭の技術の可能性があるとしてケイに協力を仰いでいる状況。そして、あのアイン達三人だ。もう事態は様々な陣営を巻き込んで、混迷を極めていた。

 

 

「何でカヤツリはこんなことするの? こんなことしても、表立ってカヤツリがやってるわけじゃないから意味が無いよ……」

 

「それでいいのさ。カヤツリは犯人を怒らせたいんだ。だからこんな風にしてる。それ以外が怒ろうがどうでもいい。普通の有象無象は、カヤツリまで辿り着けないんだからね」

 

 

 マトの答えに、ホシノは困惑の表情を浮かべている。それを無視して、マトは話を続けた。

 

 

「カヤツリの思う犯人像からしたら、シェマタの事は拡散されたくない筈。犯人は梔子ユメを殺してまで、そうしたんだ。カヤツリの目を掻い潜ってそうした。だから、自分の策くらいは破ってくると思ってる」

 

「だから、怒る対象が増えすぎって話をしてるんだよ。候補がむしろ増えてるんだよ。普通の人に迷惑を掛ける意味なんかないんだよ」

 

「あるんだ。拡散して怒らせなければ意味が無い」

 

「なんでさ! 何で──」

 

「そうすれば殺しに来るからだよ」

 

 

 答えるマトの声は冷たかった。努力して、そうしているようにも見える。

 

 

「他の奴らは怒ったところで罵詈雑言をぶつけるか、発砲してくるかくらいだろうさ。でも犯人は違う。直接、確実に殺しに来る。一回殺しているんだ。殺人という手段が容易に選択肢に浮かぶ。絶対にそうするとカヤツリは考えてるんだ」

 

「それで、カヤツリはどうするつもりなの……?」

 

「犯人を殺すだろうね。確実に。刺し違えても。後は全部どうでもいいんだろうさ。自分の事なんかどうでもいいのさ。大切だったものは、私が台無しにしたからね。もう何も残ってない」

 

「なんで……なんでよ……カヤツリ……」

 

 

 ホシノは俯いて呟くだけだ。平静になろうとして、動揺を隠しきれていないのが分かる。ホシノの心情は滅茶苦茶だろう。マトが巻き込みたくないと言った理由も頷けた。

 

 

「じゃあ、どうすれば良いのよ。私たちは指をくわえて見てるしかないって訳? 砂漠横断鉄道も、債権も取られて、アビドスが滅茶苦茶になるのを見てるだけなの……?」

 

「いいや。手はある」

 

「本当!?」

 

 

 マトの言葉に、セリカは勢いよく顔を上げる。目は希望でキラキラ光っている。

 

 

「カヤツリを納得させればいいのさ。梔子ユメは事故死で、犯人は居ないんだってね。頭が復讐一色なのを覚ましてやればいい。そうすれば、多少なりともアビドスに配慮はするだろうさ」

 

 

 言うだけなら簡単だが、その内容は困難を極める。だが、マトは秘策がある様子だ。

 

 

「私が行く。カヤツリに直接説明する。デメリットとしては、私の身の安全が保障されない事とカヤツリが信じるかどうかか……」

 

「私は止めて欲しい」

 

 

 ヒナが、真っすぐにマトを見て言う。マトが睨むが、全く退く様子が無い。

 

 

「マト先輩だけの責任じゃない。私だってそう。それに、さっきも言ったはず」

 

「小鳥遊ホシノを巻き込めって? 確かに私よりかは話を聞くかもね。だが、何を言うんだい? 昔の事は謝るから、お願いだからやめてくださいとでも言うのかい? そんなんじゃ止まりゃしないよ! あの時に私らはそうしなかった!」

 

「でも! マト先輩だってそうでしょう! ずっと引き摺ってる! 早く楽になろうとしてる! 復讐で頭が一杯のカヤツリと何が違うって言うの!?」

 

「ヒナ……」

 

 

 マトはヒナに言い返そうとして肩を落とした。ヒナは涙声になっているからだ。後輩をそこまで追い詰めたことに、今気づいたのだろう。

 

 先生から見ても、最初からマトが薄々、止めて欲しいというヒナの気持ちに気づいている自覚はあるのは分かるのだ。

 

 そもそもの原因はマトだ。マトの小さなミスが、ここまで大きくなった。だから、マトは責任を清算したい気持ちで一杯だった。でも、カヤツリに対して責任を取る事でしか楽になれないのだ。

 

 清算したい気持ちと、ヒナを想う気持ち。両方を天秤にかけて、マトはヒナを取った。それは先生としては喜ばしくはあったが、方法が一つ減ったことには変わりない。

 

 マトの案も怪しいものだ。二年間積み上げたことが無駄だったと、そう言われて受け入れられる人間はそういない。それを全員分かっているから、場の雰囲気が重くなる。

 

 

「……手はあります。お嬢様がネフティスに戻れば、カミガヤ理事は席を失います。そうすれば、この事態の悪化は防げるでしょう」

 

 

 重い空気を切り裂いたのは執事だった。怯えはもうなく、声には真剣さが滲んでいる。

 

 

「執事さん……?」

 

 

 急に喋り出した執事に、ノノミが疑惑の目を向ける。それでも、執事は止まらない。

 

 

「彼が理事の席に居るのは功績もありますが、会長夫妻の指示によるものなのです。不思議には思いませんでしたか? お嬢様の世話人にしか過ぎなかった人間が、こんな短期間で理事になったのですよ?」

 

 

 やはり、それは異常事態なのだろう。それを可能にしたのは自分の両親だと知ったノノミは、怒りで顔を歪めている。

 

 

「どうしてなんですか? あの人たちは何を考えて……!」

 

「彼は、お嬢様の代わりなのですよ。お嬢様の席を守っている。だからこそ、理事に居るのです」

 

 

 執事の言った事を、ノノミは理解しきれないようだった。代わりに先生が、執事へと向き合う。

 

 

「それは、ノノミが戻ってきても大丈夫なようにって事かい?」

 

「その通りです。家出同然で家を飛び出したのですよ? 親が子を心配するのは当然でしょうに。居場所を維持するために、カミガヤ理事を使ったのです。寧ろ彼でなくてはいけなかった」

 

「……そもそも、どうしてカヤツリなんだい? 他の人間。それこそ執事さんでもよかったはず……」

 

 

 どうして、態々ネフティス以外の人間を使ったのか。その疑問に執事は意外な事から答えてくれた。

 

 

「彼は、カイザー理事の子飼いでした。かつては我々の敵対者だったのです。彼に潰された者は何人いたかしれません。突然姿を消して何事かと思いましたが、まさかアビドス高校に居たとはね」

 

 

 カイザー理事の子飼いなのは意外だが分からないでもない。黒服とカイザー理事は繋がっていた。理事の所で働いていても不思議ではない。

 

 

「突然、彼はネフティスの門を叩きました。雇って欲しいと言うのです。断る選択肢は、私どもにはありませんでした」

 

「どうしてですか……? だって敵だったんでしょう? それに砂漠横断鉄道も……」

 

「だからこそ。ですよ。お嬢様」

 

 

 ノノミはまた困惑の渦に叩きこまれたのか。茫然としている。

 

 

「確保すれば私どもの敵にはならない。だからこそ、お嬢様の世話人にしたのです。あの頃のお嬢様のですよ? 理由はお分かりですよね」

 

「はい……」

 

 

 ノノミは小さくなっていた。想像するに、ノノミの世話人というのは閑職に近いらしい。閑職に押し込んで、そこから出さないつもりだったのだろう。

 

 

「カヤツリと言う名前は捨ててもらいました。そうすれば、あの契約書は力を失う。後は飼い殺しにする。そのはずだったのですがね……」

 

 

 悔しいのか、感心しているのか。執事の口調は判断が難しかった。ノノミに向かって執事は語りかける。

 

 

「ですが、彼はお嬢様を変えた。お嬢様がやりたいと言うなら何だって用意できたのは、お嬢様の名前を使ったからです。お嬢様の威を借りての物でしたが、その手腕は見事でした。会長夫妻からは、このまま行けば、お嬢様の婿養子にすると言う話すら出ていましたが……いえ、脱線しましたね。結論を言いましょう」

 

 

 顔色が真っ白になったノノミの、ただ事では無い様子を見て、執事は話を纏めに掛かる。

 

 

「会長夫妻は、お嬢様が家出して失職した彼に取引を申し出たのです」

 

「それが、理事の席を守る事? ノノミが戻るまでという期限付きかい?」

 

「その通りです。ですから、お嬢様が戻れば……」

 

「嫌です! 私は、もう嫌です! また裏切るようなものじゃないですか!」

 

 

 ノノミは差し出された執事の手を払いのけて首を振る。尋常な様子ではない。代わりに先生は執事の前に立つ。

 

 

「申し訳ないけど、無理は止めて欲しい」

 

「お嬢様がこの様子では仕方ありません」

 

「随分と簡単に退くね?」

 

 

 簡単に執事は退いて、先生は眉を顰める。先ほどの情報漏洩と言い、カヤツリを執事は気にくわない様子。だからこそ、ノノミに戻って来て欲しいはずなのに。

 

 

「私とて、お嬢様に苦しんでほしいわけではありません。この状況が自業自得とはいえ、このままここで腐っているよりかはマシだと判断したまでです。現状でもネフティスは回っています。カミガヤ理事がどうしようと、彼は切り捨てられる前提で計画を組んでいるのでしょうからね」

 

「そうなのかい? アビドスの新路線はそうだろうけど、他も?」

 

「ええ、引継ぎは万全です。いつか来るお嬢様用だと思っていたのですが……」

 

 

 ぼやく執事に、先生は一つの考えが浮かんだ。浮かんだと言うよりも、前々から疑問に思っていたことに対する証拠が一つ嵌まった感じだろうか。

 

 対策委員会とゲヘナの二人を見る。完全に意見は出尽くしている。ネフティスの提案に乗ったとして、自由の身になったカヤツリの行動が読めない。

 

 そしてカヤツリに諦めさせるのは、現状の情報では不可能に近い。マトが行くのはヒナが反対するし、ヒナの案であるホシノでの対話も届くか怪しい。

 

 怪しいのは、カヤツリの対応が分からないからだ。今の結論としてカヤツリは復讐鬼だ。少なくとも状況証拠はそうなっている。でも、先生はこんな展開に覚えがあった。

 

 

「一つ考えがあるんだ。もしかしたら上手くいくかもしれない」

 

「あるの? 先生」

 

 

 ホシノの不安げな声に、全員を安心させるように先生は言葉を選ぶ。

 

 

「あるよ。対策委員会と、マトとヒナの全員でカヤツリ君とちゃんと話せばいい。昔の事だけじゃない。これから、どうしたいかを話すんだよ」

 

「先生。一体何を考えているんだい? カヤツリは今、頭が復讐一色なんだよ。未来の話をしたところで……」

 

 

 マトが悲痛な声を上げても、先生は意見を撤回する気はなかった。

 

 

「なら、どうしてアビドスを復活させようとするの? 何も残ってないんでしょ?」

 

「それはシェマタのパフォーマンスの為さ。それほどの事を成し遂げたって言う」

 

「私は違うと思うんだ。それなら、別の事でもいいはずだよ。ネフティスじゃなくて、カイザーだっていいだろう? そっちの方がやりやすい。古巣なんだからね」

 

 

 むしろカイザーの方がシェマタをシェマタらしく使うだろう。ウトナピシュティムの本船でそうしようとしたように、兵器としてシェマタを使う。その方が、犯人を怒らせるという点では合理的だ。

 

 

「手段を選んでる。誰かの為に、手段を選んで、配慮してる。私はそう思えてならないんだ」

 

「梔子ユメに配慮してるって事かい? 梔子ユメなら止められると?」

 

「でも、ユメ先輩はもう……」

 

 

 マトが口にした言葉を、ホシノが拾って落ち込んでいる。それは正しい。きっと梔子ユメならカヤツリを止められる。でも、梔子ユメはもういない。マトが誰かを変装させたところで、直ぐに看破されるだろう。だから、取るのはこの手段ではない。

 

 

「確かに梔子ユメさんに配慮はしてるんだと思う。でも、それだけじゃないんだ。きっとアビドスに関わった生徒。それとホシノとノノミには特に配慮してる」

 

「え……?」

 

 

 信じられない。そう言うようにホシノは狼狽えて、ノノミは俯いたままだ。でも耳はこちらに向いていた。先生は元気づけるように、真剣に言葉を紡ぐ。

 

 

「カヤツリ君はホシノを知らないと言った。あれは怒っているんじゃないんだ。あれは守るためにそう言ったんだよ」

 

「守る? 何から守るって……」

 

「犯人からだよ。カヤツリ君が居ると信じ込んでいる犯人から守るために、知らないふりをしたんだ。シェマタを知っていると狙われるから」

 

 

 マトの考え通りであるならそうだ。ホシノが無事だったのは、シェマタを知らなかったから。知っているカヤツリが親しげにすれば、シェマタの件を知っていると犯人に思われる。だから突き放したのだ。お前なんか大事なんかじゃないと。そうしなければ狙われてしまうから。

 

 

「でも、途中からシェマタの件を言っても変わらなかったよ……」

 

「だから、教えたマトたちに殺意を向けたんだよ。今も対策委員会より目立つように色々考えているのかもしれない。それほどまでに固い決意なんだろうね」

 

 

 そう言われたホシノの表情は、幾分か緊張が取れているように見えた。だが、まだ完全に取れたわけでは無い。恐る恐る先生へと聞いてくる。

 

 

「でも、どうしてアビドス高校を廃校にしようとするの?」

 

「それはね。ホシノに普通を知ってほしかったんだと思うんだよ」

 

「普通? 私は普通に過ごしてるよ……? それはカヤツリだって知ってるのに……」

 

 

 ホシノは首を傾げている。それこそが、カヤツリが普通を知ってほしい理由なのだろう。ここで説明するか先生は悩んだが、後回しにすることにした。まだ幾つか情報が足りないからだ。

 

 

「でも、そうだとしたら変じゃないかい? 復讐に全振りしているように見えるのに、そんな事をするのは割に合わないと言うか。行動が矛盾してないかい? それこそ、小鳥遊ホシノの傍で守ればいい」

 

「カヤツリ君は今、滅茶苦茶なんだよ。迷いながらも行動し続けている。だから行動が矛盾だらけなんだ」

 

 

 きっと、心が二つある。復讐者の心と、そうではないもの。それが相争っている。そんな風に行動して、滅茶苦茶になった生徒を先生はよく知っているのだ。

 

 ミカだ。聖園ミカ。かつて友人を殺したと勘違いして、狂乱のままにクーデターを起こした生徒。彼女の行動は矛盾だらけだった。それは止めて欲しいと言う気持ちと、このまま突き進むしかないという気持ちのせめぎ合いで、相反する行動をとっていたからだ。

 

 それと同じことがカヤツリにも言えるのではないかと、先生は睨んでいた。

 

 よって、そうだと確信するために知る必要がある。カヤツリがなぜこんな凶行に及んだのか。その理由を知らなければならない。黒服やカイザー理事にも話を聞く必要があるならする気概だ。

 

 

「だから、教えて欲しいんだ。ノノミ。君しか知らない、ネフティスでのカヤツリ君の事を」

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