ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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330話 ブラック・ノノミ

「ネフティスの、ですか……」

 

 

 そう、何でもないように呟きつつも。先生の真剣な眼差しに、ノノミは逃げ出したくなっていた。先程までの怒涛の情報開示の後にこれだ。もう少し手心という物が欲しかった。

 

 しかし、そんなノノミの内心など露とも知らず、先生は大きく頷いている。

 

 

「うん。ノノミから見た、カヤツリ君を教えて欲しいんだ。そうすれば、カヤツリ君が何を考えているか分かるはずだよ」

 

 

 先生の言葉に同調するような、期待に満ちた後輩たちの眼差しがノノミを貫く。隠れる場所などありはしないから、当然の如く逃げられない。

 

 ちらりと、ノノミは先輩であるホシノを見る。さっきまでの意気消沈ぶりは多少なりを潜めている。いつもの、とはいかないものの、普段のホシノへと戻っていた。

 

 どうしたモノかと、ノノミは言い訳をこねくり回すが、良いものが全く思いつかない。

 

 

「ノノミ? どうしたの?」

 

 

 遂にしびれを切らしたのか。シロコがノノミに話し掛けてくる。ノノミが話すと心の底から信じている顔だ。きっと、ノノミが普通に話せると信じている。そのこと自体が、ノノミを追い詰めているなんて思いもしていない。

 

 久しぶりに、ノノミは頭の使っていなかった部分。対策委員会では使わなくても良かった部分を回転させる。ただでさえ良くない気分が、さらに落ち込むのを自覚しながらも、ノノミはどうにか答えを見つけ出す。

 

 

「いえ、どういう風に話そうかと思って……」

 

「ん。そんなにあるの?」

 

 

 シロコの驚いたような言葉に、ノノミは下手を打ったことを自覚した。まさか、そんな風に受け止められるのは予想外であった。かつて得意だったはずのその行為は、久しぶりの起動で完全に勘が鈍っていた。

 

 

「そう言えば、許嫁ってノノミ先輩は知ってたの?」

 

 

 ──いきなり何を言ってるんですか!? セリカちゃん!?

 

 

 とんでもないタイミングで、とんでもないことを言い出したセリカに、ノノミは思わず声を上げそうになった。何で今なのだ。そんなものよりも、もっと大事なことがあるはずだろうに。

 

 その理由は先生を見て急にひらめく。とりあえずの解決策が出たせいで、空気が緩んでしまったからだ。なら、この空気に乗るしかない。

 

 

「うーん……長くなりますし、本題と逸れると思いますよ? 色々と面倒ですから」

 

「そうなんだ……」

 

 

 嘘ではない。ノノミがそうしたのには色々な理由があるのは本当だから。

 

 納得したセリカの様子に、ノノミは一安心する。この様子なら、ホシノ先輩も……と横目で確認したノノミは、心臓がすくみあがった。

 

 見ている。ホシノがジッとノノミを見ていた。何かを言おうと、口を開こうとしている。何を聞こうかなんて、答えは一つしかない。

 

 

「ノノミちゃ──」

 

「ホシノ」

 

 

 先生が、ホシノの言葉に割り込んで。ホシノの発言は不発に終わった。

 

 

「何? 先──」

 

「ノノミは、整理に時間が掛かるみたい。先に、ホシノから話を聞いてもいいかな?」

 

「……話?」

 

 

 ホシノは言いたいことの機先を潰されて、訝し気に先生を見ている。

 

 

「何の話?」

 

「ホシノはさ。カヤツリ君の過去を知ってるんじゃない? ホシノに会う前の、アビドスにやってくる前のこと」

 

「少し、知ってるけど……」

 

 

 ピクリと、ノノミは自身の耳が痙攣するのを感じた。それには興味があったから。ノノミが知りたいことに近いものだから。ホシノが言わなかったと言う事は、相応にインパクトがあるのだろう。上手くいけば、誤魔化せるかもしれなかった。

 

 

「じゃあ、聞かせて貰えるかな。皆の前で言いにくいなら、言いたい事だけでもいいし、私だけでもいい」

 

「……先生だけでもいい?」

 

 

 しかし、ノノミの想定を裏切る様に。ホシノは先生だけに話すことにしたようだった。困惑するノノミを置いてけぼりに、二人は廊下へと出て行ってしまった。

 

 何となく、ノノミはこの先の展開が読める気がした。恐らく、次に呼ばれるのはノノミだろう。そこら辺の察しの良さは先生と言ったところだろうか。

 

 しばらくすると、ホシノが戻ってきてノノミを手招きした。

 

 

「なんか、先生が呼んでるよ?」

 

「はい、今行きますね」

 

 

 すれ違って廊下に出るまでに質問が飛んでこなかったことに安堵する。そして、廊下に出れば、やっぱり先生が教室から離れた所で手を振っていた。

 

 近づけば、思った通りの言葉が飛び出す。

 

 

「ここなら、話せそう?」

 

「話してどうなるんですか? 結局、私が話したくない事が要点なのに変わりはないんです」

 

 

 思わず辛辣な言葉が飛び出した。マズいと口を抑えるが、飛び出してしまった言葉はどうにもならない。

 

 

 ──お嬢はさ、結構黒いよな。内心で毒吐くのは良いけど、誰かいるところでは止めといた方が良い。思わず口に出るから。

 

 

 古く、懐かしい忠告を今更思い出しても、もう遅い。隠しに隠していた本音が、憤りと共に飛び出してしまった。繕っていた外殻に致命的な罅が入っていた。恐る恐る先生を見れば、先生は普段通りの様子だ。それが意味することは一つで、ノノミの言葉は止まらなかった。

 

 

「……なんですか。分かってたんですか?」

 

「うん。薄々はね」

 

「人が悪いですね。その様子からして、春先、いや初夏のリゾートの時にはバレていたんでしょう?」

 

 

 苦笑いの先生の表情に、また内心で刺々しい言葉が噴き出すも、ノノミは何とか飲み込んだ。飲み込んで、先生を見た。

 

 

「ホシノ先輩は緩そうに見えて頑固。シロコちゃんはいい娘ですけど、即断即決。セリカちゃんは真面目だけど猪突猛進。アヤネちゃんは頭が回るけど引っ込み思案。あの四人の会議が上手くいくなんて、思ってもないでしょう?」

 

「うん。いつもノノミが調整してるよね?」

 

 

 お見通しであることが確定して、ノノミはため息を吐く。

 

 会議では大抵はアヤネの案が通る。ホシノとシロコの案は過激だし、セリカは詐欺案件を持ってくる。選択肢はあまりない。

 

 ただ、毎度それでは空気とモチベーションが死ぬ。人は報われないと、途端にやる気をなくす生き物だし、人のせいにする生き物だ。ギスギスする対策委員会は見たくないから。

 

 ノノミはそうやって来た。慣れたものだ。いつも人の顔色を伺って生きてきたノノミには、息をするとの同じくらいに簡単な事。その場の空気を適切に保つのは大事である。

 

 

「あの人じゃないですけど。誰かしらが、やらなきゃいけないことです。猫を被ってるわけじゃありませんし、シロコちゃん達やホシノ先輩にも感謝してますし、大好きです。ただ、本音は隠す物でしょう? 友達だからって、我儘全開の素で接するのはどうかと思います」

 

「そうだね。家族ではない他人だからね。友達にも配慮は必要だよ」

 

「……そうですか」

 

 

 本当に分かっているのかと訝しみつつ、ノノミは廊下の壁に凭れた。

 

 

「なら、もう分かるでしょう。先生。私は言いたくありません。何の意味もないんですよ」

 

「どうしてそう思うんだい? カヤツリ君が迷っているって言うのは間違ってると、ノノミは思うの?」

 

「間違ってはいないと思いますよ。相反する計画を同時並行で進めるなんて、あの人らしくないですから。でも、それ以前の問題なんですよ」

 

 

 ノノミは嘆息して、一番の問題を上げた。

 

 

「ゲヘナが騙し打ちをしたのは事実です。そればかりは変えられません。梔子ユメ生徒会長の件が不幸が重なった事故だったとしても、あの人の所為じゃないのだとしても。そんなのは重要じゃないんです」

 

「そうだね。納得できるかどうかの話になる。カヤツリ君のしたことは無意味だったと。そういう話になる」

 

「無理ですよ。そんな状況なのに、私に言えって言うんですか……本当に状況が分かってるんですか?」

 

 

 絶対に表には出さない声色で吐き捨てて、逃げ場のないノノミはうんざりしていた。心の中のやさぐれた自分(ブラック・ノノミ)が盛大に舌打ちしている。

 

 先生は言う。カミガヤ。いや、カヤツリは迷っているのだと。ノノミに怒っているのも、罵ってきたのも、冷たい目を向けたのも、それが理由かもしれないと。

 

 確かに、先生の言う事は正しいのかもしれない。先生なら、ノノミと違って分かるのかもしれない。ノノミの前ではカミガヤと名乗ったあの人の考えの全てなど、ノノミには分かりっこない。昔も、今も、欠片も分かりはしない。だが、分かる事もある。

 

 

「ホシノ先輩の言葉? ゲヘナの謝罪? 梔子ユメ生徒会長の死の真実? そんなもので、あの人が止まるわけないじゃないですか。行動している以上は、あの人は迷いません」

 

 

 ノノミは知っている。カヤツリは言った事は必ず守るのだ。ノノミが頼んで了承したことは必ず実現させた。だから、ノノミはあそこから這い上がれた。

 

 先生の言う通りに迷っているのだとしよう。余りにも希望的観測であるが、そうであると信じて見よう。でも、迷いながらもやっていると言う事は、カヤツリはやり遂げると決めた。そうでないとどうにかなってしまうのかもしれない。

 

 止める理由としても、全ては事故で誰も悪くないなんて。余りにもパンチが効いていない。まだ真犯人がいますと出まかせを言った方が止まるだろう。マトを人身御供にした方が確実だ。

 

 事実、それをマトは望んでいる。ならそうすればいいのだ。ノノミがこうなっているのも、ある意味でマトの。いや、そもそもゲヘナの所為でもある。好き放題した清算の時が来ただけだ。

 

 でも、それはダメなのだと言う。曲りなりにも裏切っておいて、随分な立場である。悪気が無いで良いのなら、カヤツリは何だったのだろう。単純な被害の差であろうか。それとも、ゲヘナが先生に泣きついたからだろうか?

 

 汚く言えば、周りの迷惑を天秤にかけて、有象無象のどうでもいい声を優先して、耳障りのいい、やりやすい方を叩いているだけだ。数が多くて、声が大きい方が勝つ。状況が何だろうと、無理やり我慢させられる。これまでに、ノノミが嫌というほどに見た社会の縮図でしかない。その叩かれるのがカヤツリと言うのが、本当に気に入らない。

 

 そうであるなら、カヤツリの二年間は何なのだろう。二年間も続けた努力は無駄でしたと言われて、放り捨てられるほど人間というものは高潔に出来ていないと思う。それが出来るなら、こうなっていない。

 

 

「大体が、全部想像です。あの人の考えてることなんて、私にだって分かりはしないんです」

 

 

 いや、分かろうとさえしなかったのだ。ノノミは今更になって過去の自分を自嘲する。

 

 表面上の態度に浮かれて、勝手に依存して、勝手に望みを推し量って。その準備に掛けた反応と期待が裏切られて。それで仕返しとばかりに自分勝手に行動した。それが、どんな結果をもたらしたのかも知りもしないで。

 

 もしも、ネフティス時代の話をすれば、ノノミでは分からなかったカヤツリの内心が分かる可能性がある。あの時に、ノノミが取った行動がどうだったのか。仕方が無かったのか、そうでないのか。カヤツリはノノミを騙していたのか。そうでは無かったのか。どちらか分かるかもしれない。

 

 でも、ノノミはそれを知りたくはないのだ。過去は過去のまま、綺麗な思い出として、しまっておきたいのに。ゲヘナがそれを掘り返してきた。

 

 

「ゲヘナもゲヘナですよ。春先も()()ありましたが、皆して自分の都合でしか動かない。私はそういうの、あんまり好きじゃないんです」

 

 

 思わずまた毒が飛び出たが、ノノミは気にしても居られなかった。

 

 

「あの人の妥協点を探ればいいじゃないですか。どうして、あの人のやっていることを全部邪魔しなきゃいけないんですか。ゲヘナが困るだけでしょう。言い方ひとつで、キヴォトスの全体の問題へと話を大きくしているだけです。シェマタをあの人は使いません。そう執事さんも言っていました」

 

「ノノミもそう思うの?」

 

「使うとして、どこに撃つんですか? 過去の復讐としてゲヘナに撃ち込むなら、とっくに撃ってます。方舟の時になら、幾らでも言い訳が効いたでしょう」

 

 

 つらつらと、自身の見解を述べるノノミを、先生は感心の表情で見ていた。

 

 

「随分詳しいね……」

 

「あの人は私の世話人だったんですよ。短くても、あの時間は濃密でした。何となくの行動は分かりますよ」

 

 

 あの時にそうであったのなら、ノノミはもっと上手くやっただろう。飼い殺しなんかさせなかった。

 

 先生はまじまじとノノミをみつめて、疑わしそうに言う。

 

 

「へぇ……じゃあ、ホシノよりも詳しいんだ。それほどに自信があるんだね」

 

「…………なんで、そんな話になるんですか?」

 

「だって、そうだよね? だから、話したくないんでしょう?」

 

 

 急に差し込まれた質問に、ノノミは呻く。それは答えを認めるようなもので、呻いてはいけないと思っていても、止められはしなかった。

 

 

「嫌だよね。自分だけが知っていることを話すのは。しかも、それをホシノには話したくないんだ。他の人には良くても、ホシノだけには話したくない」

 

「それはそうです。ホシノ先輩がまた倒れるでしょう?」

 

 

 ノノミが話す中に居るのがホシノというのが最悪だ。

 

 確かに、ノノミの知るカヤツリを伝えれば、上手く行くかもしれない。

 

 か細い可能性として、ホシノが上手く説得すればいい。本当に癪ではあるが、ホシノにだけは恐ろしく甘いのをノノミは理解している。だから、ホシノが上手い事立ち回ればどうにかなる。

 

 だが、思い出しても見て欲しい。今もこちらを見向きもしないで仲間だけで話している三人組。その中のオウルとか言う少女の言葉。パパという、どう考えても出まかせのそれに、ホシノは卒倒した。

 

 そして、今までの話での狼狽えよう。ホシノがカヤツリをどう思っていたのかなど、火を見るよりも明らかだ。

 

 きっと、好きだったのだ。そうなるほどに大事で、八つ当たりしても許してくれるなんて心のどこかで思っていたくらいには、信頼していたのだ。

 

 そして、そんな相手にやらかしたことを受け止めきれないでいる。同じような立場のノノミが偉そうに言えたことでもないが、ノノミは卒倒はしていない。

 

 大体が、卒倒するくらいなら。さっさと手籠めにでもなんでもすればよかったのだ。そうすればこんな風になっていないし、ノノミもこうならずに済んだのに。あの校庭で倒れていた別世界のホシノは、もしかしたらそうしたのかもしれない。

 

 それで、そんなホシノの前で、ノノミにネフティス時代の話をしろというのだ。そんなものは御免被りたかった。ノノミに、そう言った趣味はない。傷つけるのも、傷つくのも好きでは無い。それだけの意思をまだホシノには持てない。

 

 

「違うよね?」

 

「何が違うんですか? ホシノ先輩の様子を見なかったんですか? 二回も倒れたんですよ」

 

 

 ノノミはらしくなく、先生へと嚙みつく。触られたくない所を触られている。いや、これから触られようとしているのが分かる。純然たる心の防衛反応が、ノノミをそうさせた。

 

 でも、先生はあっさりと言うのだ。

 

 

「恋敵には話したくないんだよね。きっと、今の理由も嘘じゃないとは思うんだけど」

 

 

 今度は呻かなかった自分を、ノノミは褒めてやりたいくらいだった。でも、もう手遅れだった。すっかり、先生にはお見通しらしかった。

 

 

「……いつからです?」

 

「最初はね。カヤツリ君にやたらと食って掛かるなって。次にホシノの話を聞いてる時かな。どっちも、ずっと落ち込んでた。でも、カヤツリ君の時とホシノの時で、種類が違う気がしたんだ」

 

「……そうですね。私は、認められたかったんですよ。結果はご覧の有様でしたけど」

 

 

 今となってはお笑いだが、ノノミはちょっとは思っていたのだ。ここまでアビドス高校を保たせた。先生や他の人間や、数多の偶然。それらに助けられつつも、ここまでやってきたことを。何もできなかった自分では無いのだと。少しくらいは認めて欲しかった。そこに投げつけられたのは指摘の嵐だったが。

 

 

「あと、カミガヤ。いえホントはカヤツリさんでしたっけ? いいですよ。認めますよ。好きですよ。まだ好きですよ。諦めたくないですよ。だから言いたくないし、聞きたくもなかったんですよ。ホシノ先輩だってそうに決まってるんですから」

 

 

 誰が、元カノの話など聞きたいと思うのか。誰が、別れた後の元カレの話など聞きたいと思うのか。過去のカヤツリはノノミが出会ったカミガヤとは少し違った。なら、ノノミの前のカヤツリは嘘だったのだろうか。それにノノミとカヤツリが出会ったのは、ホシノがやらかした()()()だなんて。そんな事をあっけらかんと言えるほど、ノノミは性格が悪くない。

 

 

「ホシノ先輩とギスギスなんかしたくないんです。話したところで、解決策になるとは思えません。そもそも、ホシノ先輩は私の事なんか気づいてもいないでしょう」

 

「気づいてるよ」

 

 

 しっかりと頷く先生を、ノノミは探るように見る。全く嘘を言っているようには見えなかった。

 

 

「何ですか。そうホシノ先輩が言ったんですか? そんな事──」

 

「──言ったんだよ。ノノミはカヤツリ君の事が好きなんじゃないかって。前から、初めて会った時から、ずっと誰かを気にしてるのは知ってたって」

 

 

 完敗である。そのことを悟られないようにして、ノノミは黙る。流石先輩である。後輩のことなど、お見通しという訳だ。前から薄々気づいていて、それが誰だったのか。今日気づいたのだ。

 

 

「…………それで? それだけですか? 文句の一つや二つはあったんじゃないですか?」

 

「無いよ。それはノノミも分かってるでしょ」

 

「そうですね。ホシノ先輩はそんなことしません。まず、自分を責める人ですからね」

 

 

 そうだから、卒倒するまでに追い詰められている。ノノミの答えに満足したのか、先生はふうと息を吐く。

 

 

「ホシノは聞きたいんだって。ネフティスのカヤツリ君。ノノミから見たカヤツリ君を知りたいんだそうだよ。そのための覚悟はあるし、その後の事も考えてるって」

 

「……ホシノ先輩はそれでいいかもしれませんけど。あの人はどうするんですか? マトさんや先生の想像通りなら、止まるとは思えません」

 

 

 全ての問題に、ノノミは切り込んだ。

 

 

「先生は、迷っているとまだ思っているんですか? ホシノ先輩から話を聞いたのは、そういう事なんでしょう?」

 

 

 カイザー時代のことを聞いて、今のやり口と比べて見たかったのかもしれない。それで、正しいと思いこもうとしているのかもしれない。それは余りにも都合の良い考え方だとノノミは思う。

 

 でも、先生は首を横に振るのだ。

 

 

「カヤツリ君が迷っている。それは今の所の結論なんだ。それを確定させるためにホシノから話を聞いたわけじゃないよ」

 

「じゃあ、どんなつもりで……」

 

「知るためだよ。途中で想像と違う答えが出ても構わないんだ。それに、ノノミが今教えてくれたでしょう?」

 

 

 ノノミは言葉に詰まる。何も教えたつもりは、ノノミには無かったからだ。

 

 

「行動している以上は、カヤツリ君は迷わないって。なら、そうなんだろうね。少なくとも今起きている事自体は迷っていない。これは、とても大事なことだよ」

 

「大事? 何も変わらないじゃないですか。復讐の為に動いているのは変わりません」

 

「そこが違うんだ。復讐というのは、マトが導き出した結論に過ぎないんだよ。カヤツリ君がしていることは、迷っていないのは、アビドスに新路線を通そうとしている事と、シェマタを使った事だけなんだ」

 

 

 先生の言いたいことは分かる。復讐するというのは状況証拠からの類推に過ぎないのだと。カヤツリ本人が、ゲヘナに復讐するとは言っていないからだ。

 

 そうであるなら、話してもいいかもしれない。だが、その前にノノミは聞いてみたかった。

 

 

「……なら、先生はどうなんだと思うんですか? 私の今の話と、ホシノ先輩から話を聞いたんでしょう?」

 

「まだ行動に移していないから、分からない部分で迷っているというのは変わらないよ。ただ、やり切って納得したいんじゃないかって思うんだ」

 

 

 先生の意見は不満しかない。カヤツリは確実に夏休みの宿題は七月中に終わらせるタイプだ。物事に全力を尽くさないで後悔するようなタイプではない。

 

 

「やり切って? あの人は中途半端に物事を残しませんよ。何事も全力です」

 

「そうだね。ノノミの頼んだことは、そうやって成功したんだと思う」

 

 

 でもと、先生は言葉を区切った。

 

 

「カヤツリ君はそう思っていないんじゃないかな。だって、今までずっと、失敗し続けているんだからね」

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