ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

332 / 346
独自設定、独自解釈が多分に含まれます。


331話 十六夜ノノミのウラオモテ

「先生とのお話は終わったのかな? ノノミちゃん」

 

 

 先生との話が終わって、教室に戻ったノノミを出迎えたのはホシノの第一声だった。

 

 声色も、台詞も、いたって普通なのに。ノノミはやりにくさを感じていた。その理由は勿論決まっている。先生との話の所為だった。

 

 

 ──気づいてるよ。

 

 ──言ったんだよ。ノノミはカヤツリ君の事が好きなんじゃないかって。前から、初めて会った時から、ずっと誰かを気にしてるのは知ってたって。

 

 ──ホシノは聞きたいんだって。ネフティスのカヤツリ君。ノノミから見たカヤツリ君を知りたいんだそうだよ。そのための覚悟はあるし、その後の事も考えてるって。

 

 

 今のノノミは溜め息しか出ない。勿論心の中でだ。目の前でため息など吐けば、シロコや後輩たちに不審に思われる。最悪なのは、今言った人間は誤魔化せても、一番誤魔化したい人間は誤魔化せないと言う所だ。

 

 

「はい。先生が戻ってきたら、話そうと思います」

 

「うへぇ……そうなんだ」

 

 

 何がうへぇですかと、ノノミは毒を飲み込む。何にも知らないポワポワしてるフリして、本当は何もかも見透かしてる癖に。良い意味で猫を被っていることくらい、ノノミは知っているのだ。

 

 

 ──悪徳企業、セイントネフティスの令嬢がここに何しに来たの? 答えによっては、ヘイローの無事は保障しないよ。

 

 

 かつての、殺害も視野に入れた警告とは、随分な対応の差だと思う。無防備かつ考えなしで、ホシノを付け回した挙句にノコノコやって来たノノミにも非はあるが、カヤツリのことをとやかくは言えないだろう。

 

 

「先生は?」

 

「直ぐに来ますよ。誰かから、電話が掛かって来たようでして」

 

「ふぅん……」

 

 

 ホシノの様子は変わらないように見える。でも、確かに雰囲気が少し変わっている。探る気配と、少し驚きの色がある。

 

 まさか、ノノミがすんなり話すとは思っていなかったのかもしれない。ホシノの勘は鋭いから、ノノミの事をある程度は見透かしていた筈。いや、実際ほぼ全て見透かしていたのだろう。今まではその対象がカヤツリとは知らないから、こうなっていないだけだ。

 

 そして、ネフティス時代の事を言うとは思ってなかったのだと思う。だから驚いている。もう少し、手がかかるとさえ思ったのかもしれない。あまりにもノノミを見くびり過ぎだ。

 

 ホシノに覚悟があるなら、ノノミは立ち向かえる。喧嘩を売ったのは失敗だ。

 

 

 ──だって、今までずっと、失敗し続けているんだからね

 

 

 失敗という言葉で、さっきの先生の言葉を思い出す。それは、カヤツリの過去から現在までの全てを表す言葉だそうだ。

 

 勿論、ノノミは言い返した。失敗続きなど、あり得る筈もない。ドン底だったネフティスをここまで引き上げるのは失敗などではない筈だからだ。

 

 でも、先生は悲しそうに言ったのだ。

 

 

 ──そうだね。ノノミの言う通りだ。でも、それはノノミの見方なんだ。

 

 

 先生の言いたいことは分かりやすい。あの時は、ただそれだけが腹立たしかった。

 

 

 ──あの人はそう思ってないんですか? 全部が失敗だったって思っているんですか?

 

 

 ゆっくりと頷く先生に、ノノミは何を言って良いのか分からなくなった。とんでもない事を先生は言っている。先生にそう言わせたものの正体はすぐに分かった。

 

 

 ──ホシノ先輩は何を言ったんですか。あの人の過去に何があったんですか。

 

 

 ノノミの前に話したホシノ。ホシノだけが知っているカヤツリの過去。それが先生にそう言わせているに違いなかった。

 

 猛るノノミに告げられたのは、ある意味で冷たい言葉だったが。

 

 

 ──知っても、ノノミが傷つくだけだよ? 過去はどうしようも出来ないし、それをカヤツリ君に言っても意味はないんだ。同じ理由で、ノノミは話したくないんでしょう?

 

 

 らしくなく、ノノミの歯が小さく鳴った。

 

 正論だ。まごうかたなき正論である。ノノミが言わないのは、意味がないからだ。無駄にホシノを傷つけて、空気を悪くし、何も解決しない。そんな無為なことをしないため。

 

 だったら、ノノミにホシノの話を聞く権利はないし、ここまでされる謂れはあった。

 

 

 ──良いですよ。話しますよ。みんなの前で、ちゃんと。

 

 

 渋々とノノミは頷くしかなかった。絶対に言いたくないわけではなかったが、ここまでされると良い気分はしない。自業自得と言えば仕方ないが。

 

 

 ──何を驚いた顔をしてるんですか

 

 

 先生は先生で、驚いた顔なのがまた癪に触る。

 

 

 ──いや、私だけに話すと思って……

 

 ──何ですか。それ。

 

 

 その為にノノミを暴き立てて、煽ったのだと言うのだろうか? 少しばかり腹が立った。

 

 

 ──勝手に勝負事にして、私が言わないと悪い空気を作る。そんなの、私と何が違うんです?

 

 

 ホシノは先生に話したのだろう。ノノミに伝わる事を飲んだ上で言っている。そこでノノミが言わないのは明確な負けだ。

 

 そもそも、カヤツリが失敗云々の話で、話しても良いと言う気にはなっていたのだ。そこにこれである。勝手に勝負事みたいな状況になって、言わないノノミが悪いみたいになっている。

 

 流石のノノミも、状況が変わるなら話しても良い。嫌なのは自分の恥を無駄に晒して、ホシノとの仲を拗れさせなかっただけだ。

 

 ホシノが卒倒せず、カヤツリの事が分かるというのなら言っても構わない。

 

 それなのにだ。なんというか、ちょっと中身を見せただけで、そういう風に見られている事が腹立たしい。

 

 

 ──先生は、女の子が皆、見た目通りの娘に思ってませんか? 皆良い娘で、殆ど裏表が無いなんて。そう思っていませんか? 例外くらいありますよ。

 

 ──うえっ……思ってないよ?

 

 

 うえっ、ではない。見え見えの嘘だ。そうでないなら、ノノミの中身が多少見えたくらいで、こんな逃げ道を塞ぐような真似をする筈がない。どうせ、ホシノにノノミちゃんは強情だよとでも言われたに違いないのだ。

 

 

 ──……ホシノ先輩も私と負けず劣らずだと思いますよ? でなきゃ、ああも卒倒しませんし、二年も前の言葉を一言一句覚えていません。先生は鈍すぎです。騙されたり、一服盛られて部屋に閉じ込められても文句なんて言えませんよ?

 

 ──……うん

 

 ──もう、やられたんですね……

 

 

 先生はノノミに問い詰められて、タジタジになっている。もう既に誰かしらの毒牙に掛かっていたとは驚きである。まぁこの様子からして、上手いこと言葉で転がしたのだろう。

 

 

 ──良いですか、先生。別に私だって、コレが良くないし、言わない理由に私の我儘が入っているのも分かります。表と裏のギャップが激しいのも分かってます。

 

 

 だから、隠している。こんな自分の性格が褒められたものでは無いことくらい、ノノミが一番知っている。でも、どうしようもないのだ。どうあがいても、人や環境のせいにしても、幾ら明るく気遣いの出来る様になっても、どうしようもない。カヤツリがかつて言ったように、それもノノミなのだから。

 

 

 ──ですが、こんな風に状況を整えなくても、私を納得させられる理由なら良いんです。あの人の考えが分かって、ホシノ先輩が良いなら良いんですよ。

 

 ──うん。そうだね。意地悪したね……ごめん

 

 

 本当に悪いと思っているらしく、先生は申し訳なさそうだ。恐らくは、さっきまでのカヤツリの理詰めの影響だろう。そういう方向に頭が切り替わったままなのだ。

 

 以前と比べて、先生も人間臭くなったように思う。最初に会った時など、清廉潔白過ぎて気持ち悪いくらいだった。

 

 

 ──それで、何から話した方が良いですか?

 

 

 溜飲も下がって、いや下げて。ノノミは段取りを取る為に先生に声を掛けた。しかし、当の先生は驚いたようにノノミを見ている。

 

 

 ──何を驚いているんですか? 先生も自分の話を皆に話をするのに、ある程度の把握とかあるでしょう。

 

 ──いつもとは正反対だから……

 

 

 いつもというのは、見に徹している時のノノミ(ホワイト・ノノミ)だ。あれもまたノノミであることに変わりない。こういう話がしたくて、引きずり出したと思っていたのに。自分で掘り出したくせして、先生は何を言っているのか。

 

 ノノミがため息を吐きつつも待てば、先生は漸くまとめたようだった。

 

 

 ──カヤツリ君は知ってるの?

 

 ──私のこれですか? 知ってますよ。

 

 

 当たり前のことを聞かれて嫌になる。これを見たのは、家族を除けば先生で二人目だ。一人目は勿論カヤツリである。

 

 

 ──何か、言われたの?

 

 ──それで良いって、あの人は言ったんです。初めから、そうあるよりも良いって。それでいいんだと。

 

 

 その時の事を思い出す。本当はもっと長くて、難しい話だった。初めからそうある様にある物よりも、そうなろうとする方が良いのだと。この場合は本物よりも、張りぼての方が良いのだと。あの時の、今のノノミにも全ては分からない。

 

 でも、ノノミをノノミのままに肯定してくれたことは分かった。世辞でも、おべっかでも、慰めでもなんでもなく、本気でそう思っていることは分かったのだ。

 

 そして、先生はノノミの言った事を反芻しているようで、どこかノノミではない遠くを見ていた。

 

 

 ──ありがとう。ノノミ。これは先に聞けて良かった。

 

 ──なら、あの人が失敗したと言うのだけ教えてください。

 

 

 ノノミは答えを聞かなかった。先生は分かっているだろうが、聞くつもりはない。先生も聞き返しはせず、ホシノから聞いたと言うカヤツリの過去を教えてくれた。

 

 運び屋に拾われた事。ビナー襲撃の際に裏切られて、ただ一人生き残った事。そこで黒服に拾われただろう事。そして、そこからカイザーで働いていただろう事。

 

 

 ──アビドスをどうにかしようとしてるのはホントだと思うよ。でも、アビドスの復興が目的じゃないんじゃないかな。

 

 

 またまた信じられないことを言うが、ノノミは黙って聞いていた。先生の話はまだ続いているからだ。

 

 

 ──それは多分、中継地点なんだよ。きっとネフティスでの事もそうかもしれない。他の物事もそうなんだ。昔から、カヤツリ君の望みは叶っていないんだと思うよ。だから、ホシノに詰られても怒らなかったんじゃないかな。理不尽な失敗に慣れてるんだよ。きっと。

 

 

 理不尽というのも、中継地点というのも良く分からない。中継というのなら、目指す先があるはずだ。その目指す先が全く見えてこない。

 

 

 ──カヤツリ君のやったことは、アビドスの延命と進展。それは、ハイランダーに話を通して、私立ネフティス中学の卒業生が入学したことで半ば達成されてるんだ。

 

 

 人と物と金。そのうちの人と物が揃っている。後は金銭だけになる。

 

 

 ──どうして、シェマタを使ったと思う?

 

 

 それは、マトとアヤネが言ったはずだった。パフォーマンスと、ゲヘナへの脅し。複数の意味を持たせたカヤツリの策だと。でも、先生は首を横に振った。

 

 

 ──使わざるを得なくて使った可能性は? 思い出してみて? あの日はビナーの複製が出たんだよ? カヤツリは虚妄のサンクトゥムの守護者の事は知らなかったはず。急に色違いのビナーが出現したように見えるんだ。そして、カヤツリが知っているビナーはどんな存在だった?

 

 

 過去の対策委員会は、アビドス校舎を破壊しようとするビナーを止めるために戦ったのだという。カヤツリの居た運び屋を襲撃したのもビナー。そうだとすれば、一つの答えが見えてくる。

 

 

 ──純粋に、ビナーを倒すために使った……?

 

 ──カヤツリ君は怖かったんじゃないかな。また、自分の計画を壊しに来たように見えたのか、自分がいない対策委員会では手に負えないとでも思ったのかもしれないね。

 

 

 だからこそのオーバーキルだったのだろうか。しかし反論も思い浮かぶ。

 

 

 ──黒服さんと繋がっているんでしょう? だったら、知っているんじゃないですか?

 

 ──そうかもしれないね。それは後で聞いてみるとして、もう一つ気になる点があるんだ。

 

 

 先生が言った事は短い言葉だった。たった一つだけ。

 

 

 ──どうして、債権を一括で、今買ったんだろう?

 

 

 言い返そうとして、ノノミも違和感に気づいた。まるで、此方の手を読んだようなやり方だったが、実際読んでいたのだろう。そうなればおかしくなる。

 

 ゲヘナが来たのは、シェマタを使ったからだ。そうでなくともマトは来たかもしれないが、あの大金を一度に引き出せたのは、シェマタ起動の事実があったからではないのか。

 

 そもそもパフォーマンスであるなら、シェマタをビナー相手に起動などさせずとも、こっそり私募ファンドに稼働データーでも渡せばいいのだ。あそこまで大々的にやる必要はない。やったからこそ、ゲヘナの介入を許したようなものだ。

 

 そして、一括で買わなくともいいのだ。鉄道の権利とその土地だけでいい。一度鉄道が開通すれば金など少しづつ増えていく、それで買い戻していけばいい。カイザーとも繋がっているから、債権もいつでも買えたに違いない。そもそも一括で買わざるを得ないから、私募ファンドを頼らざるを得なかった。

 

 そして、そのことをノノミ達へ言う必要もないのだ。黙っておけば、勝手にノノミ達は自滅する。

 

 

 ──何故だろうか。今、一括で買う必要があった? そんなに急ぐ必要など何処にある?

 

 

 ゲヘナに対する復讐だろうか。でも、昔カヤツリの見せた復讐はもっと陰湿だった。絶対にカヤツリからは手を出さない。ノノミは、優しい行為であるはずの許すと言う行為があれほど恐ろしいとは思わなかった。

 

 考えているうちに訳が分からなくなってくる。シェマタの起動はワザとだったのか、そうでないのかですら分からなくなる。それは、先生も同じのようだった。

 

 

 ──これは、情報が全部集まったら分かるんだろうね。ホシノやノノミ、黒服、カイザー理事。アイン、ソフ、オウル。全部集めて断片が見えてくる。

 

 

 そう言った瞬間に電話が鳴って、今に至る。先生の電話が終わるまで待ちぼうけだ。

 

 ホシノは、すっかり立ち直ったようだった。カヤツリが復讐鬼でないと言うのが、よっぽど嬉しいらしい。先生に語った過去のエピソードも随分とカヤツリは優しかったようで。

 

 ホシノはそれがある意味不満らしかった。何という贅沢だろうか。ノノミの時はそんな事は全くなかったのに。

 

 

「皆、お待たせ」

 

 

 悶々としているノノミは、部屋に入ってきた先生の声でここへと戻ってきた。そろそろ、覚悟を決めなければならない時が来た事に身震いする。

 

 

「それでは、話しましょうか」

 

 

 覚悟を決めて、ノノミは話の口火を切った。

 

 

「とりあえず、本題の話を始める前に状況説明と行きましょう」

 

「状況説明……? ノノミの所に世話人として来た。そうじゃないの?」

 

「そうなんですけど、説明するのはその頃の私の状況なんですよ」

 

 

 吐き出した言葉は思いの外、力が抜けていた。先生とのやり取りか、覚悟が決まったのか、今もノノミを見ているホシノの影響か、すらすらと舌が回ってくれる。

 

 

「状況って、ノノミ先輩は私立ネフティス中学校に居たんじゃないの?」

 

「そうですね。それは合ってますよ。セリカちゃん」

 

 

 場所はどうでもいい。問題はもっと別のところにある。多分、スオウは知っているはずだ。今もどこか信じられないような目でノノミを見ている。

 

 

「説明するのは、私が置かれていた状況です。簡単に言えば、引きこもっていたんですよ。不登校という訳ですね」

 

 

 ノノミの言葉で空気が死んだ。セリカは地雷を踏んだと思って顔が引き攣っていた。同じく引き攣った顔のアヤネが口を開く。

 

 

「……何かあったんですか?」

 

「そうですねぇ……ほら、私は一応はネフティスの御令嬢なんです。それで、私立ネフティス中学は名門かつ難関校で、セイント・ネフティスが出資している。まぁ、良くない勘繰りをする人は居るものですよ。まぁ、必要経費と割り切るべきでしょうね」

 

 

 あの時のノノミは割り切れなかったわけだが。フォローのつもりか、執事がノノミの言葉が切れたタイミングで補足を入れてくれた。

 

 

「お嬢様の試験に介入はしていません。その必要もありませんでした」

 

 

 ノノミは内心で唾を吐く。自覚ある無しかは知らないが、こういう所が嫌いなのだ。必要があったらすると、そう言っているようなモノではないか。必要なかったという事は、そのつもりはあったという事だ。余りにもノノミを人間扱いしていない。人として信用していない。これでは温室で栽培された果物と変わりはしない。ネフティスの令嬢であるのなら、それはノノミでなくていいのだ。

 

 

「あとは、そうです。ホシノ先輩なら詳しいと思いますが、その頃のネフティスは評判が良くなかったんです」

 

「砂漠横断鉄道でアビドスの資源と人を無駄に消費して、止めを刺した。その上一番に他自治区へ撤退した。悪徳企業セイント・ネフティス何て呼ばれるのは避けられないよねぇ……」

 

 

 言葉の通りである。ネフティスにも言い分はあるのだろうが、置いて行かれた方は溜まったものではない。悪徳企業呼ばわりくらいは仕方のない事ではある。それで止まらないのが、悲しいところだ。

 

 

「それでですね。中々、生活がしづらかったんです。ああ、苛めなんかはありませんでしたよ。ただ、私は嫌だっただけです」

 

 

 だから、引きこもったのだ。見えない物を見てくるあの目が、そうではないレッテルを貼ってくるあの口が、嫌で嫌で仕方が無かったのだ。

 

 全員がそうではないだろう。実のところ、数人しかいなかったのかもしれない。殆どはノノミの被害妄想だったのかもしれない。

 

 でも、あの空気が嫌だった。誰も口には出さないが、ずっと責められているような。息を吸うたびに、身動きするたびに、身体にチクチク何かが刺さる感覚が本当に嫌だった。

 

 

「最初の内は我慢して通ってたんですけど、進級に必要な日数は出た後は閉じこもったんです。引きずり出されそうになりましたが、私は抵抗しましたよ」

 

 

 最初の内は、あの手この手で、部屋からノノミを出そうと試みていた。だが、ノノミは屈しなかった。外に出れば殺されて死んでしまう。あの頃は本気でそう思っていたから。

 

 

「いつしか、私を部屋から出そうとはしなくなりました。諦めたのか、様子を見る事にしたのか。世話人が交代で着くようになりました。食事を部屋の前に置くだけでしたけど」

 

「じゃあ、執事さんがああ言ったのは……」

 

「ええ、権利も何もない。唯の餌やり。閑職ですよ」

 

 

 どんどん悲痛な表情になる周囲を見て、ノノミはやり過ぎたことを察した。とっとと、本題に入るべく、始まりの言葉を口に出した。

 

 

「そして、あの日に。やって来たんです。カミガヤと名乗ったあの人が」

 

 

 あの日から、ノノミの日々が始まった。あの日の事を、あの黄金の記憶を思い出して、ノノミは話し始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。