ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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332話 籠の鳥

 明日という言葉がある。単純に今日から一日後ろの日を指す熟語だ。翌日とも言い換えてもいいかもしれない。その言葉を作ったのは、ずいぶんと幸せな人間なのだなと、十六夜ノノミは思っていた。

 

 何しろ、明るい日だ。今日の次の日は明るい日。明日なんて言葉を作った人間は、たった一日後の日の事を随分と評価していたらしい。何の疑いも無く明日は明るい。きっといい日だと、そう無邪気に信じていなければ、そんなことを言えるはずがない。

 

 勿論、ノノミはそんなことは口が裂けても、そんなことを言えはしなかった。なぜかといえば、引きこもっているからだ。今日でもう二ヶ月ほどになるだろうか。

 

 毎日が夏休み。言葉にすれば、どことなく楽しそうな語感ではあるが、実態は全く異なる。

 

 ここは牢獄だった。寝ても覚めても同じ景色で、やることは自己学習と食事と眠るだけという変わり映えのしない毎日。曜日の感覚など、とうに忘れて久しい。二ヶ月というのも、カレンダーが無ければ分からなかっただろう。

 

 これのどこが明るい日なのか。ノノミにとっての明日は、今日の続きだ。ノノミには、昨日と今日と明日しか無い。これから先もずっと続く変わり映えのない今日の一つに過ぎない。初めはこんなはずではなかった。あの地獄のような学校から逃げ出して、一人になればなんとかなるなんて思っていたのがバカみたいだった。だが、この部屋から出ていくという選択肢も取ることはできない。あの地獄のような空気に戻るのはもうできなかった。

 

 

「……ああ、もう!」

 

 

 湿って温い掛け布団から這い出せば、時計が一番に目に入る。腹立たしいことに本来なら学校に行くために起きる時間だった。目覚ましは切っているのに、生来のノノミの体内時計は融通を聞かせてはくれないらしい。

 

 むしゃくしゃしながら、掛布団を被って二度寝を敢行しようにも、すっかり目が冴えてしまって寝れはしない。有り余った体力は睡眠を必要とはしないから。

 

 とうとう二度寝を諦めたノノミは、カーテンを開け放って、強い日差しに焼かれながら全身に染み付いた朝の準備。洗顔だとか、着替えだとか、洗わなくてはいけない洗濯物をまとめるだとか、そんなルーチンワークを続ける。

 

 この動作だって、自立しているように見えて、全くできていない。着替えをまとめて洗濯するのはノノミであるが、その洗濯機や洗剤。今住んでいる部屋すらノノミの物ではない。じゃあ、すべてを捨て去って、一人で生きて行けるかと言えばまず無理だろう。そんなことが簡単に理解できる頭が恨めしかった。

 

 

「……来ましたか」

 

 

 準備が終わって、人心地ついたノノミの耳に届くのはノックの音だ。この時間からして、朝食を世話人が運んできたのだろう。世話人。その何でもない言葉が嫌になる。最初は昔のように執事が運んできてくれたが、ノノミの反抗に業を煮やしたのか、手を変えてきていた。

 

 執事ではなく、他の大人。つまり面子を変えてきた。多分、私立ネフティス中学か、伝手を使って引っ張り出して来たカウンセラーか何かだ。全員がノノミを部屋から出そうとする。その変わらない光景に、ノノミはもう飽き飽きしていた。

 

 だから、ノノミはいつものように無視を決め込む。そうすれば諦めて帰っていくことを知っているからだ。しかし、ノックはやむ気配を見せない。

 

 

「今日はしつこいですね……」

 

 

 五分経っても鳴りやまないノックに、ノノミは呆れた。強さも、リズムも、ずっと一定。ロボットか何かを導入しでもしたか。きっとノノミが返事をするまで続くだろう。大した執念深さだ。

 

 

「おはようございます」

 

 

 諦めたノノミが扉を開けると。そこには新しい世話人がお辞儀をして立っていた。珍しい、男だ。それも、ノノミとそう年が変わらないようにすら見える。

 

 

「瀬戸カミガヤと言います。本日より配属になりました。よろしくお願いします」

 

 

 世話人の挨拶は堂に入っていた。あっけにとられて、まじまじと見つめるノノミに朝食が乗った盆を差し出してくる。

 

 

「中まで運びますか? 配膳までやりますか?」

 

「いえ……」

 

 

 ノノミは上手く言葉を返せない。なんというか、想定した事態とは大きく異なっていたからだ。そのせいで、重い盆をそのまま受け取ってしまう。

 

 

「それでは、食べ終わったら呼んでください。登校のための車を回しますから」

 

 

 待てのまが出る前に、ノノミの目の前で扉が閉まった。両手は盆でふさがっていて、どうしようもできない。とりあえずノノミは朝食の盆を室内に運ぶしかない。

 

 

「なんなんですか。あの人……」

 

 

 代わり映えしない、いつもと同じ味の朝食を口にしながら、ノノミは言葉を漏らす。

 

 別にどこかで見たアニメみたいに、招待状を破り捨てられたわけでないし、殺害予告もされたわけでは無いし、妙な効果音(デデン!)がなったわけでもない。

 

 対応が余りにも普段と違いすぎる。いつもなら、ノックは途中で止むし、食事はカートが部屋の前で停まっている。それは、ノノミが出ないことを知っているからだ。

 

 まさか、知らないと言うわけではあるまい。世話人が執事では無くなっても、それは変わらなかった。

 

 なのに、何だあれは。代わり映えしない毎日の中で、あれだけが異彩を放っている。

 

 しかも、さっき何と言った? 車を回すと言わなかっただろうか? 学校へと連れて行くとか何とか。

 

 これまでの対応とは真逆だ。途轍もない違和感を感じる。今までとは対応が真逆だ。まるで、何も知らないかのような……

 

 

「知らない? 何も知らないんでしょうか……」

 

 

 あんな男をノノミは見たことがない。

 ネフティスや、外でも一度も。まさかとは思うが、キヴォトスの外からでも来たのだろうか? なら、何も知らないのも頷ける。

 

 きっとノノミを普通のお嬢様か何かと思っているのだ。引きこもりなど思いもしなかったに違いない。だから、学校に送るなどとあり得ない事を言う。

 

 

「嫌ですね……」

 

 

 言葉通りの嫌な気配を感じる。粘ついて、真っ黒に濁っている。悪意の気配だ。

 

 これまでは変わらないのに、今日だけ変わった。世話人は何度も変わっていたのにだ。答えは簡単に出てくる。

 

 情報が寸断されている。そうとしか考えられない。

 

 ともなれば、ノノミがするべき事は見えてくる。実に単純な事だ。教えてあげればいい。

 

 

「用意は出来ましたか……」

 

 

 綺麗に食べ終わった盆を持って出てくれば、カミガヤとか言う世話人が待っていた。

 

 カミガヤは驚いたように、私服のノノミを見ている。

 

 

「……支度がまだ終わってないんですか? 飛ばせば間に合いますが……」

 

「学校なんか行きませんよ」

 

 

 ノノミの宣言に、カミガヤが眉を顰める。

 

 

「……理由を聞いても?」

 

「単純に行きたくないんです。今までだってそうでしたよ。あなたは教えてもらっていないみたいですけど」

 

 

 カミガヤは黙っているのをいいことに、ノノミは勢いづく。

 

 

「今までの人達は、食事を扉の外へ持ってきて片付けるだけです。それだけで十分です。どうか私を放っておいてください」

 

 

 ノノミは、そのままの勢いで言葉を重ねていって、最後に温めておいた爆弾に火をつける。

 

 

「あなたは悪意を向けられているんです。私の事は何も言われなかったんでしょう? 隠されてたんですよ」

 

 

 カミガヤは黙ったままだが、何かを考えているのは分かった。少し、ノノミは欲を出した。もし、上手くいけば煩わしいこの状況を何とかできるかもしれない。

 

 流れを整理してみても、ノノミが払うリスクは極小だ。そしてリターンは大きいと来ている。やらない理由が無い。

 

 

「……だったら、私の事は放っておいてくれませんか? 望むなら、口裏くらいは合わせますよ」

 

 

 これが、ノノミの即興の作戦である。ある意味で善意と言ってもいい。悪意を向けられていることに同情したのだ。

 

 ノノミが引きこもっている事。それを話さないなんて、悪意以外の何ととればいいのだろう。悪意を向けた誰かは絞り切れないが、望んだ流れは分かる。

 

 恐らくカミガヤに渡されたのは、本来のノノミの予定なのだろう。朝起きて、朝食を取って、学校へと登校する。かつて、ノノミが過ごしていて、執事や両親が望むスケジュール。

 

 それを渡されたカミガヤはどうするか。当然、それに則ったように行動する。そんな事は知らないノノミと反発するのは想像するに容易い。今が実際にそうなのだから。

 

 それで、ノノミの反応を見たいのかもしれない。カウンセラーが何か言ったのかもしれない。大人ではなく、同年代なら。それも、男であるなら? 余りにもノノミをバカにしている。

 

 ノノミとカミガヤの仲が拗れても問題はない。使い捨てにすればいいからだ。カミガヤが逆上したとしても、ノノミの怪力の事は知らないだろうから。

 

 きっと、カミガヤは巻き込まれただけなのだろう。大人の都合で振り回されている。どことなく勝手な親近感と同情をノノミは抱いた。

 

 だからこその提案である。悪意には悪意で返せばいい。目には目を、歯には歯を、悪意には悪意を。カミガヤを抱き込んで、事態の停滞を図る。細かいところは話して飲み込んでもらえばいい。

 

 ノノミは、この提案が受け入れられるものと、無邪気に信じていた。

 

 

「申し訳ないが、お断りですね」

 

 

 だから、カミガヤの返答が信じられなかった。思わず、反論が口を突いて出る。

 

 

「私が嘘を言っていると思っているんですか?」

 

「いいえ。お嬢様が善意で言っているのは分かりますよ」

 

 

 その返答に、ノノミは腹が立った。何故だか分からないが、強烈な不快感と怒りが立ち上ってきた。

 

 

「じゃあ、どうしてですか」

 

 

 降って湧いた怒りを飲み込んで、仮面で自分を覆って、ノノミは聞き返す。それだけの行為で、ノノミは消耗する。

 

 

「意味なんかないでしょう? それは唯の先延ばしです。現状維持でしかない。そんなのは御免ですよ」

 

 

 ノノミの拳に力が入る。段々と怒りのボルテージが上がっていく。何となく、その原因に近づいている気がしている。

 

 

「じゃあ、どうするんですか? あなたは何にもできないでしょう?」

 

 

 裏切られたのだ。ノノミは裏切られた。同じような立場だから、ノノミと同じような選択をすると思っていたのに。仲間だと思っていたのに裏切られた。

 

 乗ってくれれば、提案を受け入れてくれれば、そうしてくれれば。ノノミは安心できたのに。ノノミは間違っていないと安心することが出来たのに。カミガヤはそれを拒絶した。

 

 それではまるで、ノノミが間違っているかのようではないか。事実、間違っているのは分かっている。引きこもるのではなく、学校に行った方が良い事くらいは分かっている。でも、ノノミはどうすれば良かったのだろう。

 

 ノノミは子供なのだ。親の許可なくば何もできない子供。ネフティスの令嬢であり、それを疎んでいるにもかかわらず、それを捨て去ることもできない。それを捨ててしまえば、ノノミは唯のノノミになってしまう。そんな選択をノノミは取れなかった。ノノミはそんなに強くない。

 

 

「あなたは私の世話人でしかないのに。どうするって言うんですか? 提案を蹴って、どうするんですか? 私は誰かに聞かれれば、ありのままを答えますよ」

 

 

 安く情けない脅しだ。先生に言いつけると脅す子供と何ら変わりはない。余りの情けなさに涙が出そうだ。ノノミは折れて欲しかった。カミガヤに折れて欲しかった。早く安心したかった。

 

 

「好きにすればいいでしょう。私は世話人ですから、お嬢様には逆らえない。だから、やるべきことをやるだけです」

 

 

 負け惜しみにも聞こえる返答は、ノノミには全くと言っていいほど違った。やるべきことをやれていないノノミには、嫌味にしか聞こえない。

 

 

「兎に角、私は行きませんから!」

 

「ええ、もう時間も時間です。また来ますよ」

 

 

 滅茶苦茶になったノノミは扉を閉めて引き篭る。扉の外からはカミガヤの静かな声が聞こえて、それがノノミの敗北感を後押しした。朝から気分が最悪で、ノノミは苛立ちまぎれに布団に八つ当たりするしかなかった。

 

 

 □

 

 

「……今日も、来るんですか」

 

 

 もう何度聞いたかも分からない、一定のチャイムの連打にノノミはうんざりしていた。

 

 また来るの言葉通りに、カミガヤはまた来た。昼食も、夕食も。朝と同じように運んでくる。これでもう一週間になる。

 

 ノノミとて、カミガヤに配慮したわけではない。むしろ逆だ。執事にクレームを入れた。入れたが、現状は変わらないままだ。諦念と共に、部屋のドアを開けると、カミガヤが朝食の乗ったカートと共に待っていた。

 

 

「今日はどうしますか?」

 

「行きません!」

 

 

 いつもの質問にも、怒鳴って答える。朝から気分が最悪にまで落ち込むのは、温厚なノノミとはいえ我慢できないものがある。

 

 

「いい加減にしてください!」

 

 

 カートから朝食を取り出そうとするカミガヤに、ノノミは怒りをぶちまけた。もう、我慢の限界だった。

 

 

「なんで放っておいてくれないんですか! もう一週間です! 変わらないのは分かり切っているでしょう! 迷惑なんですよ!」

 

 

 今までに他人へぶつけたことのない声量だった。ビリビリと窓ガラスや壁が震えている気さえする。でも、カミガヤはまったく気にしたそぶりもない。

 

 

「これは私の仕事です。部屋の外に置いてもいいですが、安全確認ができません。何かあったら事ですから。それに……」

 

 

 そして、一度カミガヤは言葉を区切ってノノミを見た。

 

 

「それに、そんな度胸もないでしょう? 逃げてきて、ここに居るんですから」

 

 

 その言葉を聞いた時、ノノミの中でプツンと何かが切れた音がした。腹の奥の蓋がはじけ飛んで、頭が怒り一色になった。

 

 カミガヤは調べたのだ。そして知っているのだ。ノノミがどうしてここに居るのかを知っている。それで、今、ノノミを笑ったのだ。

 

 ノノミの事を何も知らない癖に、ノノミがどれだけ配慮して接していたのか知らない癖に、ノノミの弱さを何も知らない癖に!

 

 考える前に拳が飛んだ。荒事は得意でないノノミでも、今以上の一撃は決して放てないと確信する程の一撃。それが、カミガヤのいけ好かない顔面へと飛ぶ。

 

 

「危ないですね……」

 

 

 その一撃は、カミガヤに片手で止められてしまった。全力で押しても引いてもびくともしない。その事実が、更にノノミを苛立たせた。

 

 

「……思い通りに行かないのが、そんなに腹立たしいですか?」

 

 

 ノノミの手を放して、見透かしたようにカミガヤは言う。

 

 今度も裏切りである。同じで弱いと思っていたのに、カミガヤは強かった。普通、一週間も袖にされたら心が折れる。これまではそうだった。今までの世話人は、ノノミの思う通りに動いた。

 

 ある意味で、それでノノミは満足していたのかもしれない。自分の物ではないが、少しばかり鬱憤を晴らせていた。だが、どうだろう。目の前にいるカミガヤは、思い通りに行かなかった。

 

 

「それの何が悪いんですか……」

 

「別に悪いわけではありません。それは普通の事です。お嬢様だけではない。私だって、ご両親だってそうです。誰だって上手くいかないことに腹は立ちます。なら、またやればいいでしょう。上手くいくまで、手を変え品を変え、やるしかないんですよ」

 

 

 のうのうと、カミガヤは綺麗事を吐き出した。そう言うなら、もっと意気揚々と言えばいいのに。声が余りにも冷徹に過ぎる。それを言う本人は、完全にはそう思っていない癖に。

 

 

「寧ろ、そっちの方が恵まれている。恐らくは私なんかよりも上手くやるでしょう。何しろお嬢様は学生で、ここは学園都市キヴォトスなんですから」

 

「ふざけないで下さい……!」

 

 

 ノノミは押し殺した声を出す。毎度毎度、神経を逆なですることを言ってくれる。それは、カミガヤが強いからこそ言える台詞だった。ノノミは学生だからこそ、子供だからこそ、どうしようもなかったのに。

 

 

「何が恵まれているですか。私だって分かってますよ。恵まれている事なんか分かってます!」

 

 

 ノノミには力がある。それはそうだ。生まれた時から賦与されているネフティスの令嬢という力がある。

 

 でも、それはノノミ自身の力では無いのだ。両親の力でしかない。

 

 それに縋って生きていたのもそうだろう。そうでしかないのもそうだ。でも、ノノミがそうだと決めたわけでもない責任を要求してこないで欲しかった。

 

 

「でも、全部、私の物じゃないのに。そんな事を言わないで下さい! 私にどうしろって言うんですか!?」

 

 

 皆がネフティスの所為だと言う。でも、ノノミにはどうしようもない。お望み通りに引きこもってやっているのに。まだノノミへと要求するのか。

 

 ノノミは貯め込んでいた鬱憤を吐き散らす。大人でもなく、ネフティスの人間ではないというカミガヤの立場が、ノノミの行動を後押ししていた。

 

 

「なら、教えてくださいよ。どうすれば良いのか教えてくださいよ!」

 

 

 執事や両親は言う。学校に行けと言う。いつも上から命令しかしてこない。子は親の言うことを聞くものだからだ。それで出てくる答えはノノミがもう分かっている事なのだ。

 

 その出てくる答えはどうしようもない。ノノミとて、学校に行くべきなのも分かっているし、重要性も分かっている。そんな事はもう分かっている。

 

 辛い事を抱える人間に、止まない雨はないと言う言葉だけ掛けられても意味はない。どうやってその雨をやり過ごすか。ノノミが知りたいのは方法だ。どうやればいいのかを知りたいのである。

 

 だが、そんな答えは全く与えられはしないし、ノノミは分からないのだ。ここで、カミガヤ相手に喚いても答えなど降ってこないことだけは分かっていて、ノノミは乱れた髪を直すこともせずに立ちすくんでいた。

 

 

「教えたら、やるんですか?」

 

 

 そんなノノミに、カミガヤの声が響く。髪を直せば、変わらない鉄面皮のカミガヤがノノミを見ていた。

 

 

「どうせ、学校に行けと言うんでしょう……」

 

「それは最終目標です。まだそれは言いませんよ。今答えて欲しいのは、やるかやらないかです。お嬢様には、学校以外の経験がいるでしょうから」

 

「……無理ですよ」

 

 

 ノノミの答えに、カミガヤの鉄面皮が崩れた。呆れの表情だ。

 

 

「無理? 部屋から出れないから、出来ないってことですか?」

 

「だって、あなたは世話人じゃないですか。そんな権限はありませんし、私を学校以外に連れていけないでしょう。他の場所に行くとしても、許可が要ります。執事さんの許可が」

 

 

 きっと、執事は許しはしないだろう。外へ出れるなら、学校に行けと言うに違いないのだ。だから、ノノミは引きこもっている。

 

 

「電話を貸してください。私が話します」

 

 

 それでも、カミガヤは諦めるつもりはないらしかった。手で電話を要求してくる。

 

 

「ですから、執事さんに掛けても……」

 

「そっちじゃありませんよ。掛けるのは別の人です。もっと上ですよ」

 

「何を言ってるんですか……?」

 

 

 訳も分からずに固まるノノミに、カミガヤは涼しい顔で、とんでもないことを言い出した。

 

 

「お嬢様の事に関して、あの執事より上なんて一人しかいないでしょう?」

 

 

 ノノミの頭が真っ白になる。その人間の事は知っている。寧ろ、執事なんかよりも適任だろう。だが、それが意味することが分かっているのだろうか。でも、カミガヤの様子を見るに、それは十二分に分かっている様子だった。

 

 

「今から現ネフティスのトップ。お嬢様の御両親に掛けます」

 

 

 そう、カミガヤは余裕そうに笑って言った。

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