ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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335話 貴方のようになれますか?

「嬉しそうですね。お嬢様」

 

 

 運転席のカミガヤの言う通りに、本日の十六夜ノノミの気分は上々だった。上々の後ろに上向きの矢印が二つ並ぶくらいには気分が良い。

 

 なにせ、給料日である。明細に並んだ数字を見るだけで胸が高鳴るし、充足感が心を満たす。

 

 傍から見れば、そんなに貧乏なのかと心配されるかもしれない。しかし、ノノミは別にお金に困っていない。そんな理由で喜んでいるわけでは無いのだ。

 

 幾らネフティスの経営が火の車とはいえ、その日を暮らしていけない程に困窮してはいない。勿論、お小遣いだってあるし、非常用にゴールドカードも渡されている。

 

 そして、ノノミの機嫌の良さは、このゴールドカードとお小遣いにあった。

 

 

「当り前じゃないですか。私のお金ですよ。私のお金」

 

 

 さっきも言った通り、ノノミはお金に困ったことは無い。だが、それはノノミ自身の金ではない。親の金である。

 

 引きこもっている状況下で、その金を何とも思わないで使い倒せるほどノノミは図太くはない。そうであれたなら、ノノミは引きこもらなかっただろう。

 

 そこで給料である。これは正真正銘、ノノミが自力で手に入れた物だ。どう使っても文句を言われないお金。そのお金で手に入れた物はノノミの物だけの物になる。それだけの事が、とても嬉しかった。

 

 

「どう使いましょうか。ショッピングに行くのは決まりとして……」

 

 

 ずっと行かないでいた買い物は外せない。この先どうするかを考えるだけで、ノノミの心は幸せで満たされていた。

 

 

「……お楽しみのところ悪いですがね。あと一ヶ月で終わりですよ」

 

「何でそんなこと言うんですか?」

 

 

 ノノミは後部座席で唇を尖らせる。楽しい気分に冷や水を浴びせるなんて、なんて人だろう。

 

 一ヶ月というのは、バイト先の事だ。後一ヶ月で、楽しいノノミのバイト生活は終わってしまう。

 

 

「しょうがないでしょう。バイト先の方にも都合という物があります。初めから、二ヶ月という約束なんです」

 

「そうみたいですね」

 

 

 ノノミは平静を装って返事をする。どうにも、今の時期はバイトが激減するらしく、その間だけの契約だったらしい。冬にはバイトの需要が戻って来るとのことだ。

 

 その理由は大体の想像がつく、また少しだけ嫌な気分になった。

 

 

「それに、お嬢様は中学三年生。それにもう秋ですよ。高校生になってもトリニティ通いを続けるんですか? 今からトリニティ入学は厳しいんじゃないですかね」

 

「そんな事しませんよ……」

 

 

 カミガヤの正論パンチは痛い。正論だからだろうか。さっきから痛いところしか突いてこない。

 

 カミガヤがトリニティを選んでくれたのは、ノノミに配慮してだ。アビドスの人間の目が嫌なノノミに配慮して、遠いトリニティまで送迎してくれている。

 

 進路についても、まだ何も言われていない。引きこもっていたノノミにその話題を振るのはためらわれたか。それとも、そもそも聞く気がハナから無いのか。だがまぁ、恐らくはアビドス外の高校に通う事になるとノノミは見ていた。

 

 何でかと言えば、アビドス内の高校はアビドス高校しか残っていない。そして、そのアビドス高校には人が殆ど残っていないと風の噂で聞いた。生徒会もほぼ解散状態だと。

 

 そんな高校に行けと両親は言わないだろう。ネフティスはアビドスからも撤退することだし、理由が見つからない。

 

 それに、ノノミの進路も問題になる。まさか本当にトリニティへ入学何て思ってはいないが、どうするかを決めなくてはならないのは確かだった。流石に高校へ行かないのは問題だからだが、もう秋だ。カミガヤの言う通りにそろそろ進路を決めなくてはならない。

 

 けれど、ノノミは全くそれを考えてなどいなかった。考える余裕などなかった。少しばかり元気が出てきたのに、また頭を悩ませる問題が降ってきている。またぞろ気が重くなってきた。

 

 

「おや? また悩ましい顔をしてますね」

 

 

 気づけば、バックミラーのカミガヤの片目がノノミをみつめていた。

 

 

「まあ、考える余裕も出てきたと言う事でしょう。そろそろ、次の段階と行きましょうか」

 

 

 ノノミの頬が空気で膨らんだ。妙に腹が立つ。この状況を見透かしていると言うより、コントロールしていますと言うのが見え見えだ。隠す素振りすら見られない。

 

 

「時にお嬢様。バイトは後一ヶ月で終了ですが、貴女はどうしたいですか?」

 

「どうしたいって……そんなこと言われても」

 

 

 言葉の通りだ。いきなりそんなことを言われても、ノノミは答えられない。考えてすらいないからだ。何とか捻りだそうとするも、中々答えが出てこない。

 

 

「教えませんよ。そんな目で見ても無駄です」

 

 

 助けを求めるように鏡を見ても、カミガヤの返事は素っ気ない。突き放しの意図を感じる言葉に、ノノミの胸が痛んだ。

 

 

「自分の進路でしょう? 人に決められるのは嫌だったんですよね? さっさと決めれば良いじゃないですか」

 

 

 好き勝手に言ってくれるものだ。進路をそんな、今日の夕飯のノリで決めないでほしい。

 

 

「相談くらい良いじゃないですか」

 

「おお、お嬢様にしては真っ当な意見が出ましたね。八つ当たりしない分だけ成長しましたか?」

 

 

 ノノミは言い返そうとした口を閉じる。初めて褒められたのかもしれないが、まったくもって嬉しくない。

 

 

「何で私に聞くんですかね」

 

「だって……色々知ってるじゃないですか」

 

 

 カミガヤはノノミが変だと言う。勿論言い返したいがそれは出来ない。ノノミはここで言い返せば八つ当たりになる。負けたような気になる。勝つためには、進路を言うしかない。

 

 でも、その為だけに決めるのはノノミには難しい。ノノミは何も知らないからだ。何を選ぶべきか、何が一番良いのか。何も知らない。

 

 それなのに、カミガヤが言うのは嫌味ばかりだ。ノノミは頬を膨らませたまま睨む。

 

 

「あのですね。私より聞くべき相手が居ると思うんですが?」

 

「嫌です……」

 

 

 ノノミはポツリと呟く。

 

 誰に相談すべきか。そんなものの答えはもう決まっている。聞くまでもない。子供の面倒は誰が見るべきかなど、誰でも知っている。

 

 

「……両親に相談しろっていうんですか?」

 

「分かってるじゃないですか。それが普通ですよ」

 

 

 カミガヤの返事はにべもない。確かに普通かもしれないが、ノノミはそうしたくなかった。

 

 

「嫌です! なんであの人たちに頼らなきゃいけないんですか! ずっと何もしてくれなかったのに! あの人たちはただ見てるだけじゃないですか!」

 

 

 ノノミのいら立ちが、一瞬で沸点まで振り切れる。ただでさえいい気分だったのをぶち壊された怒りが、それに拍車をかけていた。

 

 

「ずっと、助けてほしかったのに! 何ですか! 何か言っても、あの人たちは、ああしろこうしろと言ってくるだけ! 出来ないことしか言ってこない! そうあるべきことしか押し付けて来ない!」

 

 あの人たちは、ノノミの事などどうだっていいのだ。会社の方が大事で、ノノミの事などどうでもいいのだ。だから、規範から外れないようにグチグチ言ってくる。仕事が忙しいのか何だか知らないが、ノノミの話を聞いてくれない。

 

 

「そんな人たちに何を言っても無駄です! だったら──」

 

 

 目の前の、今も車を運転してくれている人間に聞く方がよっぽどいい。アルバイトの時のように、解決策をくれるのだから。実績はもう十分だった。それなのに、カミガヤは鉄面皮。怒るでも嬉しそうにするでもない。運転も静かなままだ。

 

 

「お嬢様は失敗したくないんですね」

 

「それの何がいけないんですか!?」

 

 

 誰だって失敗はしたくない。それは正しいことのはずだ。ノノミだって誰だって、目の前のカミガヤだってそうのはずだ。でも、カミガヤの言葉には、それはいけないことのような響きがあった。どうしても、裏切られたような気がして、ノノミの口調はキツクなった。

 

 

「誰だってそうじゃないですか。あなただって、そうでしょう?」

 

「それは、否定しませんがね」

 

 

 答えるカミガヤは全く嬉しそうではなかった。ノノミには理解が及ばない。だってきっと、カミガヤは間違えない。そうできる強さがある。ノノミをそうできるし、してくれたのに。なぜそんな顔をするのか。アルバイトだって、ノノミは感謝しているのだ。何度もそれを伝えたし、お礼も言った。それなのにこの反応は力を出し渋っているようにしか見えない。

 

 

「私は早く強くなりたいんです。早く、あなたみたいに。そう成れれば誰も頼らなくても──」

 

 

 そうすれば、そうできれば、ノノミは一人で立てる。もう、誰にも頼らなくていい。全部自分の力で対処できれば他の人の目なんて……

 

 

「──お嬢様は失敗しないで、私みたくなりたいんですか?」

 

「そうです。あなたが教えてくれれば出来ますよね。失敗抜きで」

 

 

 ノノミは答えるが、そうだと確信していた。底知れなさがカミガヤにはあるが、ノノミと大して変わらない。カミガヤをカミガヤたらしめるそれを教えてくれるなら、ノノミだってそう成れると思う。

 

 

「……はい。できますよ」

 

「本当に?」

 

「はい。できますよ」

 

「こんな私でも?」

 

「はい。今すぐに努力すればできますよ」

 

 

 普段とは違って、ロボットのようにカミガヤは繰り返すが、ノノミは気にもならなかった。不安が解決した安堵感が体を満たしていて、ノノミはそうしてくれるカミガヤの言葉にとびついた。

 

 

「じゃあ、お願いします」

 

 

 そうすると、カヤツリは無言でハンドルを切った。走っている道路脇へと減速していくのを見たノノミは嬉しくなる。もしかしたら今すぐにでも教えてくれるのかもしれない。

 

 

「なめてんじゃねーぞ! こら! 失敗しないで強くなりたいだと!? なれるわけねぇだろうが!!」

 

「えっ……」

 

 

 車を停車させたカミガヤから飛び出したのは怒鳴り声だった。あまりの勢いに、ノノミは言葉が出てこない。

 

 

「成長にはなぁ、失敗と痛みが伴うんだよ。教えたところで意味なんかないんだ!」

 

 

 サイドブレーキを引いてこちらを向いたカミガヤは、憤怒の形相だった。今までのような慇懃さは無く、行儀悪くノノミをにらみつけている。

 

 

「何度も失敗したんだ! 思い通りにいかなくて、後悔にむせび泣いた! 好き勝手に言われてレッテルを張られた! 何回も裏切られて、八つ当たりされて、好き勝手に言われるんだ! その度に、何かを失うんだ!」

 

 

 あまりの感情の奔流に、ノノミは座席からずり落ちそうになる。そんなノノミを見ても、カヤツリは全く怒りを引っ込めない。

 

 

「現実を突きつけられた気分はどうだ! この根性無しが! 高々アルバイトで成長した気にでもなったか!? 環境が変わったからそう感じただけだ! あれは初めからあった素質で、お前は何にも変わっちゃいない! 自分の親とすらまともに話せないんだからな!」

 

 

 痛いところを突かれて、ノノミの目じりに涙が浮かぶ。

 

 

「なんだ! 泣きゃあ解決するとでも!? 俺を悪者にして解決か!? 自分は悪くありませんか!? だから、こうなっているんじゃないのか!?」

 

 

 涙の玉を目ざとく見つけたカミガヤは、そこからノノミを追及してくる。耳が痛いどころの話ではない。今すぐにでも逃げ出してしまいたいくらいだった。おかしなことに、車のドアロックは開いたままだ。運転席のカミガヤは閉められるどころか、チャイルドロックすら掛けられるのに。

 

 いつでも逃げていいのだ。ノノミの進退など、カミガヤはどうでもいいらしかった。

 

 

「教えて下さいだ? 何をどう教えて欲しいかすら言わないなんて、随分と人任せじゃないか。ええ!?」

 

 

 思い切りノノミの触られたくないところを触れて、そこをカミガヤは言葉でグサグサえぐる。

 

 

「何にもないのは、人のせいじゃなくてお前のせいなんだよ。お前は怖がり過ぎて、何も手を伸ばさない! 失敗した事ばかり考えてやがる! だから、甘くして自信をつけさせればこれだ!」

 

 

 苛立ちが治まらないのか、カミガヤの貧乏ゆすりが車を揺らす。

 

 

「契約違反だ! 悩むのは良いが、選択権を俺に丸投げするだと! お前は俺の操り人形か!? それが嫌だったとお前は言ったんじゃないのか! 自分で決めたいって、そう言ったんだろうが! あれは嘘だったのか!?」

 

「嘘なんかじゃありません!!」

 

 

 思ったよりもはっきりした声が飛び出して。ノノミは驚いて口を押える。

 

 

「なんだ。言えるじゃないか。じゃあ、なんであんなこと言った」

 

「……意味ないじゃないですか」

 

 

 そうだ。一人でできなければ意味などない。一人でできて初めて、ノノミは自立したといえるのだから。そうして初めて、ノノミは楽になれる。

 

 

「一人で出来なきゃ意味なんかないんです。ましてや失敗なんて。ただでさえ遅れているのに」

 

「そんな奴いない。一人で生きてる人間なんかいないし、失敗しない人間もいない」

 

「あなたがそうじゃないですか。何でもできて……」

 

「誰なんだソイツは……」

 

 

 ノノミの言葉の途中で、カミガヤは笑い出した。本当におかしそうに笑うので、ノノミは言葉が途中で止まる。

 

 

「俺はお嬢の世話人なのにか? お嬢が居なきゃ、俺は立場を失うのにか? これのどこが一人で生きていけてるんだ? 前にも言っただろう。そんな気持ち悪い人間はいないって」

 

「そういうんじゃありません! あなたはここに居なくても平気でしょう!」

 

 

 ずっと思っていたことだ。このカミガヤという人間は、ネフティスに居なくても生きていける。だから、学園に通っていないのだと。

 

 だが、予想に反して、カミガヤは首を横に振った。

 

 

「それは生きているだけだろう。この世界じゃ何かしようと思ったら、誰かに関わらなきゃいけないのさ。同じ引きこもりでも、お嬢はゲーム感覚で人は操れない。それに精密作業途中で中途半端に手を出して、十四分割にはなりたくないだろ?」

 

 

 ノノミの知らない誰かを口にして、カミガヤは乱暴な口調でノノミを笑う。

 

 

「何ですか、その口調……」

 

「だって、もう俺に全部丸投げするんだろう? じゃあ、お嬢の世話人じゃないんだ。公私はキッチリつけるんだよ俺は」

 

「そんなこと……」

 

 

 ない。そう言おうとして、ノノミは口を噤んだ。さっき自分が言った事を思い出したからだ。

 

 

「なんだよ。今更気づいたのか?」

 

 

 カミガヤの煽りに言い返せない。最初から言い返せていないが、これは致命打だった。

 

 

「俺のいう事をやるんだろ? 自分では何も決めないんだろ? なら、お嬢が主人かは微妙なラインだと思いません? そうであるなら、言う事なんか聞くものか」

 

「じゃあ、どうしろって言うんですか!?」

 

 

 やりきれないノノミは叫ぶ。

 

 

「私は何にも分からないんですよ!? どうすればいいか聞いただけで、なんでこんな事……」

 

「言ったぞ俺は。どうすればいいかを拒否して、現状に満足して、低きに流れたのはお嬢だろう」

 

 

 また正論が飛んで、ノノミは唇を噛む。いつもなら反抗する筈なのに、気持ちが萎えていた。恐らくはきっと、知られてはいけないモノを知られてしまったから。

 

 

「これ以上、何を守るんだ? 別に良いカッコなんかしなくても良いと思うが」

 

「……そんなんじゃありません」

 

「そうか。なら、そうなんだろうな」

 

 

 責められると思っていたのに、それが誰に向けてなのか。カミガヤは突いてこなかった。

 

 

「……嘘を吐いた」

 

 

 ポツリとカミガヤが呟く。

 

 

「皆が失敗する。程度の差はあるけれどな。その痛みを持って、二度としないように人は成長する。その失敗と痛みは人それぞれで、代用は利かない。だから、お嬢は俺のようになることはできない。同じ経験をしたことろで、そうさせることはできない。諦めろ」

 

「じゃあ私は、どうすれば良かったんですか……」

 

「……自分の事を好きになり過ぎない事。ちょっとだけ自分を嫌いになる。いや、厳しくなる事。今まででよかったのに、お嬢は安心しただろう。バイト先で受け入れられて、このままで良いと錯覚したろう。アレは良くない」

 

 

 やり過ぎたと今更思ったのか、カミガヤは一旦、ノノミから目を逸らした。

 

 

「お嬢は自分が嫌いだったろう。それが変わりたいと思う原動力だった。だが、自分を好きでいるのは大切だ。それが無いと立てないからな。それでお嬢は土台の自信が無さ過ぎて燻ってた。このまま積んだところで、俺の手助けのお陰だという考えが振り切れない。それを解消したかった」

 

 

 そこで梃入れした結果こうなった。ノノミは自信をつけすぎた。そのままでいればよかったのに、このままで良いと思い込んでしまった。それはトリニティだけの、あと一ヶ月だけの環境だったのに。

 

 ちょっとだけ自分を嫌いになる。そんな風に言うカミガヤは、あんなに色々出来るカミガヤは、きっと自分が大嫌いなのだろう。そんな事をふと思った。

 

 

「で? どうする」

 

「……言う事を聞かないんじゃなかったんですか」

 

 

 事ここに至って、憎まれ口しか出てこない。それでも、面倒くさそうにカミガヤは答えるのだ。

 

 

「お嬢が全部放り投げるならな。ただ、そんなんじゃないと言った。だから、待ってる」

 

 

 何を待っているのか。それをきっと答えはしないのだろう。さっきから、答えたり答えなかったりと散々だ。いったに何が基準……

 

 

「……聞けばいいんですか? ちゃんと決めて聞けばいいんですか?」

 

「最初からそう言っているが? 俺はミレニアムの検索AIじゃないんだ。ちゃんと聞くことを絞ってくれないとな。これから先の事全てを、どうすれば良いんですかなんて。ぼやけた質問は答えられない」

 

 

 意地悪だ。意地が悪い。でも、そうさせるノノミも悪いのだろう。

 

 

「私は両親と口を利きたくありません。ありませんが、向こうはそうでないかもしれません。必要以上の事を話したくないんです」

 

「微妙に忙しい時間帯を教える。そこで電話すれば、上手く躱せるだろう。食い下がるか、別の日付を聞かれたら忙しいとでも言えばいい」

 

 

 さっきまでのが、嘘みたいにカミガヤは答えてくれた。でも、まだ懸念はあるのだ。

 

 

「両親の答えが気に入らなかったら? どうするんですか?」

 

「何を言っても気に入らないんだろう? なら、何が気に入らないのか考えるべきだ。お嬢は、自分でどうしたいのかまだ分からないんだ。だから、気に入らないと言う答えしか出ないんだよ」

 

 

 ため息を一つ吐いて、カミガヤはノノミを見る。

 

 

「お嬢はどうしたいのか。どんな風なネフティスの令嬢になりたいのか。それを何となくでも良いから掴む事が次の段階。そのために話したくない両親と話すべきだ」

 

「あなたは分かるんですか?」

 

「さぁ? 私はお嬢じゃありませんからね」

 

 

 両手を肩の位置に挙げて肩をすくめるカミガヤだが、絶対に嘘だと確信できる。そうでなければ、週末の休養日にノノミから電話など借りないだろう。しかし、聞いたところで答えないのは容易に想像できた。

 

 

「……少し手伝って欲しい事があるんですけど」

 

「代わりに話すのはナシですよ」

 

 

 そんな事は勿論分かっている。口調も元に戻っているから、まだ手伝うことにしてくれたようで、少しノノミは安心した。

 

 だからこそ、ノノミは気になった。カミガヤが何を考えているのか、何のためにここへ来たのか。最後にどうしてノノミを助けてくれるのか。

 

 今までの事はどう考えても、片手間でやれることでは無い。さっきの怒声も、本気で現状維持を良しとしたノノミに怒っていた。カミガヤは本気で、ノノミをどうにかしようとしていた。

 

 もし居たら、まるで年の近い兄のような雰囲気のこの人は、聞いたところで仕事だからと言うだろう。しかし、それではノノミは納得できない。それなら、ノノミはノノミなりに答えを見つけようと思うのだ。

 

 そうすれば、そうできれば。ノノミは何かを見つけられそうな気がした。

 

 だから、そのための第一歩をノノミを大きく踏み出す。

 

 

「明日、私のショッピングに付き合って下さい」

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