ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
とりあえずの概要を話し終えると、教室は静まり返っていた。
シロコや後輩たちの表情には驚きが少なからずある。それは予想が出来たことだ。何せ、今のノノミと昔のノノミは全く違う。シロコが来た頃には、今のノノミにもうなっていたから。
そして、コメントが何もないのも分かっている。これはノノミの恥ずべき過去。今も現在進行形で更新し続けている恥だ。下手にコメントなどしようもない。後輩たちは黙りこくっていた。
「……いいなぁ。ノノミちゃんは怒られたんだね。カヤツリは、ノノミちゃんには怒ってくれたんだ」
だから、このホシノの呟きは予想外だったのだろう。驚きの目でシロコがホシノを見ていた。
「ホシノ先輩は、ノノミが羨ましいの?」
「うん、羨ましい。私もそうして欲しかった」
あっさり認めるホシノを見て、シロコの驚きが大きくなったようだ。信じられない。そんな表情のまま、ホシノをのぞき込んでいる。
「なんで? 幾らなんでも、カミガヤって人はノノミに怒り過ぎ。それが羨ましいって、変だよ。ホシノ先輩……」
「私は無いんだよ。シロコちゃん。半年近くも一緒にいたのに、相棒なんて呼んでたのに、一回もないんだよ」
それを聞いたシロコは固まる。それは声が本当に寂しそうだったからかもしれない。それか理解し難かったか。
「それは良いことじゃないの? 怒られない方が……」
「私は嫌だよ。そんなの、信用されてないのと同じだよ。初めから良くならないって、諦められてるようなものだよ」
少し昔のような目でホシノはシロコを見た。
「じゃあさ。シロコちゃんがここに来たばかりの時。私やノノミちゃんに散々怒られたよね? それが無い方が良かったの? それが良いか悪いか、今のシロコちゃんは分かるでしょう?」
「それは……」
シロコは俯いて言い淀んだ。ノノミとホシノは知っている。ここに来たばかりのシロコが、どんな暴れ狼だったか。窃盗、急襲、強奪、転売、それらの違法手段を使うことに全く躊躇いが無かった。これまでの生活環境を考えれば仕方ないの一言ではあるが、アビドス生として生活する以上はそうもいかない。
だから、ホシノが制圧と説教を担当して、ノノミが頭を下げて駆けずり回っていた。それを見て成長したシロコはここまでになっている。それを無かった方が良いなどと、今のシロコは口が裂けても言えないだろう。
そしてホシノは本題とばかりに、ノノミの方へと視線を向ける。
「……ノノミちゃんはさ。その話の後に、どこに行ったの? もしかして、水族館なんて行ってないよね?」
完全に行ったと言ってほしくない聞き方だった。けれど、ノノミは真実を言うしかない。
「中までは入りませんでしたけど……前までは行きました」
「ノノミちゃんが行きたいって言ったの? それとも、カヤツリが?」
ホシノの目は据わって、血走っているように見えた。恐る恐るノノミは思い出して、答えを言う。
「あの人が最後に寄りたいって言ったんです。それで、中には入らずに駐車場に止めたままじっとしてたんですよ……」
あれは不思議な光景だった。何かを思い出すような、祈るような。邪魔をしてはいけない雰囲気があったのだ。だから、とてもよく覚えている。
「…………そう。ありがとう。ノノミちゃん」
満足いく答えかはわからないが、ホシノは多少落ち着いたように見える。今なら、いろいろ聞けるかもしれない。
「あの、水族館に何かあるんですか?」
「昔、あそこに行ったことがあるんだ。私とユメ先輩と、カヤツリの三人でね」
「じゃあ、あの鯨のキーホルダー……だから、あんな大事に……」
ノノミは呻く。あの時の様子から何かあったのは間違いないとは思ったが、まさかの爆心地だったらしい。道理で、あの似合わないキーホルダーが鍵束についていたのだ。鯨のキーホルダーなど、水族館くらいにしか売っていない。恐らくは、出かけた時のお土産か何かで買ったのをそのまま持っているのだ。
「鯨のキーホルダー? ……何、それ? どんなの?」
予想に反して、ホシノの反応は微妙だった。どんどん自分自身の顔色が悪くなるのが、ノノミには分かった。昔から、あの時も、墓穴を掘るのだけは得意だったから。だから、ホシノの質問に渋々答えざるを得ない。
「ほら、海に行った時に鯨の浮き輪を持っていたじゃないですか。あんな感じにデフォルメされた……」
糸目のとぼけた感じの鯨。余りにもカミガヤの雰囲気に合っていないから印象に残っている。それを聞いたホシノの顔色が、恐らくはノノミと同じように青くなった。
「……ホシノ先輩と一緒に買ったんじゃないんですね」
「うん……本当は欲しかったんだけど、いらないって意地を張ったんだよ。お金がもったいないって、私はそんなに子供っぽくないって言ってね」
「じゃあ、その時に梔子ユメ生徒会長か、カヤツリさんがこっそり?」
ノノミの問いに、ホシノは首を横に振った。
「カヤツリに、そんな素振りは無かったよ。ユメ先輩は最後までしつこかったんだけど、結局買わないで出ちゃったんだ」
「……じゃあ態々。態々、後から買ったっていう事ですか」
ホシノはうんとも、いいえとも、何も言わない。迷子になったような途方に暮れた雰囲気だけ。けれども、何かを思いついたのか、カッと目を見開いた。
「他には?」
「えっ?」
「だから、キーホルダー以外の物は?」
突然のホシノの声に、ノノミは反応が遅れた。それでも、必死な様子でホシノは食いついてくる。
「そのキーホルダーを、カヤツリは大事にしてたんでしょ? だったら、他のは何かなかったの?」
きっと、そうあってほしいのだろう。あの鯨のキーホルダーは、アビドス生徒会時代の思い出の象徴のようなモノだと想像できる。それを大事にしていたという事は、ホシノを大事に思っているのと同じようなものだから。
何かあっただろうかと、記憶を探り。ノノミは嫌なことを思い出した。
「手帳……確か、バナナとりとか……」
「嘘……」
一言呟いて、ホシノは椅子に凭れてしまった。
「ユメ先輩の手帳だ……カヤツリが持ってたんだ。だから、ずっと見つからないんだ……」
「それは、梔子ユメの日記かなにかかい?」
話をずっと黙って聞いていたマトが口を挟んだ。それに力なくホシノは頷く。
「そう。生徒会手帳って勝手に言っててね。いつも何か書いてて、日記みたいになってた。最期の電話の時に、いつもの場所にって……」
「でも、見つからなかったんだね?」
念押して、それに頷いたホシノを見たマトは渋面になった。
「それの内容で、こんなことになってるんじゃないんだろうね……」
「ユメ先輩が、カヤツリに何か頼んだって事?」
少し元気が戻ったホシノの声に、マトは頷いていた。
「それに類する何かが書いてあるんじゃないのかい? だから、どうにも理解がつかない事をやっている事には説明がつく」
「じゃあ、それを知ることが出来れば? カヤツリは話を聞いてくれるのかな……」
「上手い事、止められるかもしれない。少なくとも、カヤツリが何かを考えていることは分かるんじゃないのかい?」
「そうかな? 先生?」
全員が、先生を見た。それなら、話を最後まで聞くと言う手に出たのも分かる。手帳というキーアイテムの存在をあぶりだしたかったに違いない。そして、その中身を見る方法も先生は思いついているのだろうか?
「違うよ」
全員の期待に満ちた視線を向けた先生は、あっさりとその予想を翻した。
「手帳は大事な情報源だけど、多分マトの言うようなモノは書いてないと思う。自分が居なくなった後の具体的な頼み事とか、そんな事が書いてあったら、きっとカヤツリ君はこうなってない。伝える事があったとしても、メモか何かで抽象的な事なんじゃないかな」
少しだけ悲しそうに、先生は少し目を瞑る。
「梔子ユメさんは、ホシノの話を聞いた所感としては優しい。厳し目に言うなら甘い人。でも、考えるべきことは考えてる人っていうイメージだよ。その人がカヤツリ君に黙って出かけるなら、メモ位は残すと思う。それは、きっとホシノとのことだと思うんだよ。なんで先に出たのか、それかその原因であるホシノを責めないようなモノのはず」
ノノミは時系列を整理してみた。もしも、出来レースでの事故が無かったらだ。
きっとカヤツリは帰って来る。もしかしたら、ユメが帰って来るよりも早く。その場合、ユメがいない事に驚いて、ホシノに問いただすだろう。先輩がいないが、何か知っているかと。
きっと、ホシノは喧嘩の事を隠す。それか、必死になって探し出す。それを手伝いつつも、カヤツリは不信感を募らせるだろう。喧嘩をするかもしれない。
それくらいの事は、先輩たるユメは把握していたのではないだろうか。それについて言及したメモを残していてもおかしくない。
ホシノを見れば、愕然として震えている。そのことに今までずっと思い至らなかったからだろうか。ぎゅっと両の拳が握り込まれていた。
「兎に角、手帳とメモの事は一旦おいておこう。大事なのは、ノノミの話だよ」
「……でも、手帳が」
ホシノは諦められないのか。ずっとブツブツと呟いている。確かに、重要な手掛かりだろうが無理なものは無理だ。それは、今ここに無いのだから。
「あの人は、誰にも見せようとはしませんでしたよ。机の上のを除けようとしただけで止めてきましたからね……」
「ノノミちゃんも見てないんだ……じゃあ、誰も見てないの?」
「それはちゃんと居るよ。その人たちには後で話を聞こうと思ってるんだ」
あまり言いたくなさそうに、先生が口を開いた。ホシノの目が期待に輝いて先生を追う。
「それは、誰なの? ハイランダーの人?」
「私は知らない。そこの二人もそうだ」
いきなり視線を向けられたスオウは顔を背ける。先生は慌てた様に、胸の前で掲げた両手でホシノを押しとどめた。
「大丈夫。後でちゃんと、その人たちに見せてもらうから。それまでホシノは聞くか聞かないか、決めておいて」
「聞くに決まってるでしょ。何言ってるのさ、先生……」
ホシノは憮然とした顔になるが、先生は心配そうにホシノを見るだけだ。この様子を見るに、先生は手帳の内容とやらに予想がついているらしい。そして、それがホシノが望むような内容ではない事も。さっきの発言の人達といい、見せてもらうというのも変な話だ。原本はカヤツリが持っているはずなのに。
けれど、分からないモノを分からないままにこねくり回しても、どうしようもない。ノノミはさっさと話を進める事にする。
「それで、次の話は。私がここに居る理由になります」
「ん……親に反対されたんじゃないの? それでここに来たんじゃ……」
シロコが、また困惑したように、ノノミを見た。確かに、シロコはホシノとノノミの言い争いを何度か見ているはずだ。その内容を少なからず覚えているのだろう。
「……あの人たちは、自由に決めていいと言ったんですよ」
その時の事を思い出して、ノノミは奥歯を食いしばった。
手土産を執事越しに送り付けて、電話で話すところまでは想定通りだった。問題はその次だ。
「自由に決めていい。何かを聞きたいなら、今日の様にすればいい。何かあったり、失敗したり、助けて欲しい時は言えばいい。ただし、選択した事。その責任は私自身が取るように。出来るだけ後悔の無いように。選択とその結果からは、決して逃げられないのだから」
それが、あの時両親が言った事。それがどれだけ大事な事だったのか。今の今までノノミは気づいてすらいなかった。
「そして、最後にあの人たちは聞いてきました。カミガヤさんは、そのままでいいのか。ずっと、そのままが良いかって」
「……その意味を、ノノミちゃんは知ってたの?」
そう聞くホシノの目は据わっていた。その、真剣そのものの目をノノミは睨み返す。
「あの時の私は、それをしっかりとは理解していませんでした。でも、薄々分かっていたんだとは思います。”ずっと”とは、そういう意味だったということは」
それがどんな意味を含んでいたかなんて、執事の言った婿養子の話で分かろうものだ。おかげで、部屋の空気が冷え込んできている。こっそりと後ろで話を盗み聞きしていたあの白い三人は、いつの間にか壁際まで退避していた。
「その事を、あの人は知らなかったでしょう。あの瞬間も知らなかったんです。だから、私に何も言わなかった。何も言わないから了承したのだとすら思っていました。それだけじゃなく、私は調子に乗っていました」
「……それは、どうして?」
「全部が上手くいっていたからですよ。ホシノ先輩」
ノノミは自嘲する。本当にあの時期は楽しかったのだ。今まで足踏みしていた分、進むのは楽しかった。
「あの後、アルバイト期間が終わった私は、ネフティス中学に行けるようになりました。登校と言っても、生徒会室と現場からはあまり出ませんでしたけど……そこで、スオウさんたちとは会ったりしましたか? あの敵意はそのせいですよね」
「ああ、そうだ。そこで何回か見た。他の卒業生もそうだろう。いきなり空席だった生徒会長になった人間で、廃校が決まっていた校舎の修理を始めたんだ。多少の興味も湧く。それに、そうされる理由も分かっているだろう」
スオウは仏頂面のままではあるが、質問に答えてくれた。そのやり取りを見たせいか、アヤネが挙手した。
「待ってください。そんなの出来る物なんですか?」
「それは私立ネフティス中学だったからこそです。ネフティスであれば多少の融通が利きます。それに、廃校が決まっていたおかげで、役員のいない生徒会組織は中身のない張りぼてでしたからね」
執事の説明は、ノノミの知らない事だ。ただ、カヤツリはそうしたのだろう。アビドスを救いたい。ノノミの願いを叶えようとしてくれた。
「私は、ネフティスの令嬢として胸を張りたかったんです。ネフティスは悪徳企業なんかじゃないと言いたかった。そのための第一歩として、あの人は生徒会で仕事をさせたんですよ。この後に行くだろうハイランダーで困らないように。そして、アビドスを救えるように。でも、私はそんな事を考えもしなかった。ただ、今だけを楽しんでいたんです」
そう。カヤツリはノノミの事を考えていた。今になって知れたが、一番可能性が高い方を考えて、そうしてくれたのだ。ずっと先を、未来を考えてくれていた。それは両親もそうだったのだろう。だから、カヤツリを……なんて話になる。今しか考えなかったのはノノミだけだ。
「前は分かりませんでしたが、今なら分かります。私は許されない事を言ったんですよ。ホシノ先輩と同じように。いえ、もしかしたら、もっと酷いことを」
□
「どうして分かってくれないんですか!」
もう夜になって暗い部屋の窓と、ノノミの耳が自分の声でビリビリ震えた。自分らしからぬ声量で、それを投げつけられたカミガヤの顔は五月蠅そうに歪んでいる。
「いきなりなんです。部屋に呼びつけるなり怒鳴って。私は普通の事を言ったまでです」
カミガヤの五月蠅そうな顔は戻ったものの、その先は不機嫌そうな顔だ。
「アビドス高校に行きたいなんて、訳の分からない事を言わないで下さい。それに、お嬢はアビドスを救いたいんでしょう? それなら行くべきは、アビドス高校ではないはずです」
「でも、まだ生徒が残って頑張ってるんですよ! その人はどうするんですか! 放っておくんですか!」
ノノミは我慢しきれないとばかりに意見をぶちまける。それでも、カミガヤの反応は芳しくない。
「……何かありましたか? 何かしら誰かに言われましたか? お嬢は影響されやすいですからね」
「別に、そんな事は……」
痛いところを突かれて、ノノミの勢いが落ちた。言われたわけでは無いが、部分的には当たっていたからだ。それを理解しているのか、カミガヤは仕方なさそうに鼻を鳴らす。
「まぁ、話を聞きます。どうぞ」
「見たんですよ……アビドス高校の人が、泣きながら何かを探しているのを」
一ヶ月前の昼休み。カミガヤに黙って少しばかり買い物に行った。その途中にノノミは件の人物とすれ違ったのである。
──どこ……どこ……
一瞬、幽霊かなにかかと思った。見た目は小さな少女だ。アビドス高校の制服を着た少女が、何事かを呟きながら、ノノミとすれ違った。
これだけなら、なにかを落としたのかと思った。けれど、その少女の様子は尋常でない。
全身が薄汚れていて、顔は涙でぐちゃぐちゃ。涙の痕に砂埃がこびりついて、とんでもないことになっていた。
あんまりにもあんまりなので、ノノミは何事かと声を掛けたのだが。当の少女は聞こえないのか、ノノミを無視して行ってしまったのだ。
「…………全財産の入った財布でも落としたんじゃないですか」
「そんな事はありません! ちゃんと調べました!」
ノノミはハッキリと言い切った。
ノノミは調べたからだ。時間はたっぷりある。それは、カミガヤが最近忙しいから。ノノミの知らない所で、またぞろ何かをやっているらしかった。
だから黙って、ノノミは行動した。
「ちゃんとアビドス高校まで行って、聞いてきました! 中々強情でしたが、ちゃんと教えてくれましたよ!」
「……誰に?」
少しばかり、カミガヤの声が強張っているような気がしたが、その時のノノミは気にもならなかった。ただ、自らが獲得した成果を誇る事しか頭になかった。
「小鳥遊ホシノさんです! 今高校一年生で、一人で頑張っているんだそうです。新入生も居ないみたいで……」
「……その……小鳥遊ホシノとやらは、直ぐに教えたのか? 追い返されたんじゃ?」
ノノミの言葉を遮って、カミガヤの質問が飛んできた。それはとても珍しくて、ノノミは驚きながらも頷く。
「はい」
「なら、諦めたほうがいい。その生徒一人しかいないのなら、その生徒が生徒会長ですから。彼女が拒否すれば入学は出来ません」
なぜか、安心したかのようなカミガヤの声に腹が立ったのを覚えている。だから、厭味ったらしく言い返したのだ。
「でも、話してくれましたよ。……一ヶ月くらいかかりましたけど」
最初に殺害宣言された時は何事かと思ったが、ネフティスを悪徳企業呼ばわりしたので噛みついたのだ。今頑張っていることを叩きつけてやった。それでも、頑ななので、毎日押しかけてやったのだ。そして、一ヶ月目にようやく根負けした。
その後は色々と質問に答えてくれた。一人で頑張っている事、先輩も同級生も後輩も居ない事、探し物をしている事。
それを聞いたカミガヤは不機嫌そうにソワソワしていた。いつもの通りではなかった。
「だから、アビドス高校に行きたいと……ソイツが可哀そうになったんですか?」
「違います! その人は諦めていませんでした。アビドスを復興しようと、今も頑張っているんです!」
ノノミは勢いを取り戻そうと、カミガヤに畳みかける。そうしなければカミガヤは簡単にノノミを言いくるめようとするからだ。何故か、今は調子が悪そうで。ノノミにとってはチャンスだった。だから、押し通ろうとしてしまった。
「嫌ですけど、両親にもどうしたらいいか相談してもいいです。ですから、着いてきて欲しいんです」
「……私に、アビドス高校に行けと言うんですか?」
カミガヤは黙っている。悩んでいるとノノミは判断した。カミガヤの前に詰め寄って、ハッキリと言う。
「はい。私と一緒に着いてきて欲しいんです。私のお手伝いをして欲しいんです」
「…………それは無理ですよ」
「どうしてですか!」
ノノミは不満をあらわにするが、カミガヤは怯まない。落ち着いて、こう言う。
「向こうは良いと言ったんですか? 入って来て欲しいって。どうせ、言う訳ないでしょうが──」
「言ってくれましたよ?」
「は…………? いや、あり得ないでしょう……?」
信じられない。そんな感情がはっきりわかるくらい、カミガヤは狼狽えていた。ノノミには、それがノノミがそれをできたことが信じられないのだと、そのように映った。それで、苛立ちが増した。
「小鳥遊ホシノさんは、ちゃんと考えて、それでもいいならって。そう言ってくれましたよ?」
「……なんで? どうして? 俺はダメだったのにか? お嬢は良いのか……? は? じゃあ、あの言葉は何だったんだ? ユメ先輩なんか関係なくて、俺だから嫌だってのか? 俺以外なら誰でも良いのか……? ソイツがユメ先輩っぽいなら、ホシノがユメ先輩みたくなれるなら、誰でも……」
何かブツブツと、カミガヤは呟いていて。ノノミはそれが良く分からなかった。言葉の内容は分かるが、意味が分からなかった。
そして、この時のノノミは調子に乗っていた。自ら行動し、掴んだ成果に浮かれていた。カミガヤを言いくるめられそうだった。だから、こんなことを言ってしまったのだ。
「だから、私と一緒にアビドス高校に行って欲しいんです。そして、これからもずっと、アビドス高校の後も、私と頑張ってほしいんです!」