ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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毎回の誤字報告と感想、ありがとうございます。長い間、教室で話していますが。もう少しだけご容赦をお願いします。


338話 選ばれなかった者

「ふざけているんですか?」

 

 

 その言葉が聞こえた時、ノノミは言い返せなかった。今までとは違う、冷たい雰囲気が立ち上っていたからだ。その雰囲気がノノミの反撃を許さなかった。

 

 

「なんで、そんなことしなくちゃならないんです?」

 

 

 カミガヤの言葉も、雰囲気と同じように冷たかった。

 

 

「ずっと? いつまで私にしがみ付くつもりですか? それとも小鳥遊ホシノに、そう言えとも言われましたか?」

 

 

 痛いところを刺されたせいか、ノノミの身体が反射で震えた。小さな震えだったが、カミガヤには十分だったらしい。

 

 

「……本当にお嬢は自信過剰ですね。そんなに人がすぐに変わるわけないでしょう? まだまだヒヨッコでしかないのに、どうして無理なルートを取ろうとするんです?」

 

「無理なんかじゃありません!」

 

「無理ですよ。三年ぽっちでどうにかなるわけないでしょう。アビドス高校には権利はありますが、金は無い。今よりも動きにくくなるのは分かりきっています」

 

 

 ノノミの勢いは殺されていた。本当に冷たい、冷たい目がノノミをとらえて離さない。そんなわけはないのに、凍って動けなくなりそうだった。

 

 

「あれでしょう? その小鳥遊ホシノとやらが、可哀想だったから。哀れだったから。自分でも助けられそうだったから、手を差し伸べたくなったんでしょう? 自分の事すらままならないのに他人を背負おうなんて、随分余裕がありますね。そんな余裕があったなんて知りませんでしたよ」

 

 

 元居た場所に帰してきなさい。まるで捨て犬を拾ってきた子供を叱る親のようだ。その上からの言い方のせいで、ノノミの苛立ちのスイッチが勢いよくオンになった。

 

 

「なんで、そんな言い方! 実際に小鳥遊ホシノさんは助けを必要としています!」

 

 

 いつかの時のような勢いでノノミは叫ぶ。でも、カミガヤは何ともない。怒らないし、呆れない。平坦な機械じみた声に、とてつもなく距離を感じる。

 

 

「今更ですし、だから、今やっていることを放り棄てるんですか? そんなの、体の良い言い訳でしょうに。お礼を言われて嬉しかったですよね。頼られて気持ちよかったでしょう。それがもっと欲しくなったんでしょう? アビドス高校へ行けば、お手軽にそれが手に入りますもんね。せかせか努力するのが面倒になっただけでしょうに」

 

 

 分かってますよと、ノノミの内心を決めつけるような態度。ノノミが嫌いなそれが、カミガヤから滲み出ている。それがとてつもなく嫌だった。

 

 

「違います! 私はそんな理由じゃないんです! 私は目の前で苦しんでいる人を見捨てるのは嫌です!」

 

「……そう言った口で、捨てていくわけですか」

 

 

 平坦だったカミガヤの声に何かが混じった。少なくともノノミはそう思った。あの時、ノノミが地雷を踏んだ時よりも激しい何かが漏れ出ていた。

 

 

「綺麗事を言って、捨てていくんですか。俺の言う事なんて、聞き入れてはくれない訳ですか。救いたいのはアビドスだと言ったのに。ホシノの方を救いたいわけですか」

 

 

 ノノミに怒っているようで、そうではない。他の誰かに怒っているような言い方だった。カミガヤの目はノノミの向こうを見ているようだった。けれど、それは一時の事で、焦点はノノミへと戻っていく。

 

 

「ネフティス中学に通っている生徒はそうではないんですか? 平気そうだからと、放っておくんですか? 平気そうに見えるだけで、実際はそうではないかもしれないのに。お嬢の常識だけで、物事を図るんですか?」

 

「だから、アビドス高校に行くんです」

 

「ああ、まだアビドスに人が居るんだから、誰かしらアビドス高校に来る。そのために残すと? 本気でそう思っているんですか? だとすれば、本当にバカですね……」

 

 ノノミの答えを聞いたカミガヤは、言葉の通りに馬鹿にした顔でノノミを見てくる。イライラしていたノノミは勿論反抗した。

 

 

「何がですか! 大人数ではないかもしれませんけど……」

 

「いいえ、誰も来ませんよ。お嬢様がそんな事を言えるのは恵まれているからです。ある意味、将来は決まっていて、安定しているから、そんな事が言えるんです。お嬢の普通は、ここでは普通じゃないんですよ。誰かしらの尽力で成り立っている奇跡の産物なんです。お嬢は知りもしないんでしょうけど」

 

 

 言い聞かせるように言うカミガヤが、段々と両親と重なって見えてきた。そうでない筈だったのに、そうとしか見えない。

 

 

「大体、私ありきじゃないですか。一人で何もできないのが分かっている。何を根拠に私が付いてくるなんて思ったんですか?」

 

「それは……」

 

 

 ノノミはハッキリとは答えられなかった。きっとカミガヤなら着いてきてくれると思っていた。でも、現実はそうではなかった。そのギャップがノノミを混乱させていた。

 

 

「当然だと思ってたんでしょう?」

 

 

 だから、不意に放たれたカミガヤの言葉はノノミを揺さぶった。カミガヤにはどこか、諦めのようなモノがあった。

 

 

「自分の思うように周りが動くのは当然だと。何処かで思っていたでしょう? だから、こんな恥知らずなことが言えたんですよね? 違いますか?」

 

「そんなこと……」

 

「そうですか? お嬢の考える通りの結末に行くには、こう動かなければおかしいと思っていたようにしか思えませんけど? 自分の好きなようにやると言う事は、他者に自身の都合を飲み込ませることです。飲み込まされる側の都合を一切考えなかったんですか? かつて自身がやられて嫌だったことを、人にするのは気持ちいいですか? 強くなった気がしましたか? 他人の褌でとる相撲は楽しいですか? ねぇ、どうなんですか? 一時の感情で、ゲロ甘い夢を語るのは楽しいかって聞いてるんですよ」

 

 

 ノノミはどう答えればいいか分からない。そんなつもりはなかったが、現実はそうだ。無意識に自分が嫌だったことを強制していた? そんな恥知らずなことをノノミ自身がしていたことが、ノノミの思考を滅茶苦茶にする。

 

 それでも、残っている答えはまだあった。

 

 

「手伝ってくれるって、言ってくれたじゃないですか……!」

 

 

 そう、車の中で確かに言ってくれた筈だ。手伝ってくれると確かに言ってくれたのに。

 

 

「…………ああ、あんなの本気にしたんですか? 幾らなんでも限度があります。何でお嬢と心中じみた真似しなきゃならないんです? 私は他人の夢に要望通りに付き合うのは、もう懲り懲りなんですよ。夢って奴は際限がないですからね。あれもこれもと、際限なく膨らみ続けて収拾がつかなくなる。そして現実って奴に負けるんですよ。夢ってのはそういうものです。お嬢たちは別でしょうけどね」

 

 

 何かを思い出したのか、カミガヤの眉間に皺が寄っていた。険しい顔でノノミを睨む。

 

 

「それで、そのしわ寄せを取りたくないんですよね? カニの殻なんか剥きたくないわけだ。人に剝かせて、楽してズルして中身が欲しいんでしょう? なら、一人でやって下さい。もう疲れました。もう、好きにすればいいんじゃないですか? どうせ、私の言う事なんか聞きやしないんでしょうし。今までも、これからも、そうしていけばいいじゃないですか。自分の都合も責任も、誰かに押し付けていけばいい。それで私のせいじゃないと言い訳して生きていけば良いじゃないですか。今までそうしてきたみたいにすればいい。よっぽどネフティスの令嬢らしい──」

 

「嘘つき!」

 

 

 ノノミの怒りが爆発した。言われたくない事を言われ、ノノミ自身の好意をボロクソにけなされた。許せなかった。言われたくないことを言われるのはいい。けれど、ノノミの恋心を利己心として見做されるのは我慢がならなかった。

 

 ノノミの気持ちは、そんなものでは無かった。ノノミは信頼していたのだ。着いてきてくれなくても、何か他の方法を言ってくれると思っていた。そう言っていた。

 

 なのに、返ってきたのはカミガヤを利用しようとしたという、あんまりな言葉。だから、ノノミの口からは、そんな言葉が出た。

 

 

「ふん。聞き飽きましたよ。嘘つきなんて、そんな台詞はね。ちゃんと人の話を聞かない奴の責任転嫁のセリフなんですよ」

 

 

 カミガヤは平気そうに言うが、どこか痛みをこらえる様子だった。けれど、ノノミはそんな事を疑問に覚えなかった。ただむしゃくしゃして、裏切られた気がして、思い知らせてやりたくて、カミガヤに叫んだ。

 

 

「いいです! 一人でもアビドス高校に行きます! あなたなんかにはもう頼りません!」

 

「そうですか。それでいいんですね? もう、土壇場ですよ」

 

「五月蠅いです! もう、知りません! もう、顔なんか見たくありません!」

 

 

 ノノミは怒りのままに、カミガヤを部屋から押し出して、扉を勢い良く閉めた。自身の放った言葉の通りになるとは思いもせずに。

 

 

 □

 

 

「そうして、今日まで顔を見る事は無かったんです……」

 

「親はどうしたんだい? 何か有ったら言えと言われたんだろう?」

 

 

 マトの言葉をノノミは静かに否定する。そんな事なら、今みたいにはなっていない。

 

 

「次の日、私の部屋には誰も来ませんでした。両親に電話しても、それは変わりませんでした。返ってきたのは一言だけです」

 

「……それは?」

 

 

 シロコの問いにノノミは小さくなる。答えは分かり切っているからだ。

 

 

「それはあなたの選択。そのツケは自分でとりなさい。そう言われました」

 

「そうでしょうね。お二方は一度言った事を曲げる方ではありませんから……」

 

 

 執事の言葉で、ノノミは気分が落ち込んできた。そう選んだのはノノミだ。カミガヤの敷いていたであろうレールを蹴り飛ばして、アビドスへ逃げたのはノノミだ。

 

 だから、両親は助けないのだ。それはノノミの選択だから。さらに救えないのは、両親が助けないのはカヤツリ関係だけだろうという事だ。

 

 恐らくは、アビドス高校の事は助けてくれたのではないかと、今更ながらに気づいてしまった。

 

 

「……ノノミは悪いことしてない。カヤツリとかいう人は、ホシノ先輩に合わす顔がないから、急にノノミに当たっただけ」

 

「……違うんです。私が怒らせたんですよ」

 

 

 空気を変えるためか、純粋な疑問か、シロコが呟いた言葉をノノミははたき落とす。

 

 ノノミは分かる。ホシノの事情を知った今なら、カミガヤの。カヤツリの気持ちが痛いほどに分かる。

 

 反対に、シロコは理解できないようだった。セリカもそうで、首を傾げている。アヤネやマト、ヒナや先生はノノミと同じような顔だった。残り一人もそうだろう。

 

 

「そうだね。ノノミちゃんは悪いことしてないよ。私が悪かったんだ」

 

 

 そう言うホシノの顔は酷いものだった。滲んだ後悔で、萎れてしまっている。

 

 

「私がノノミちゃんに良いって言わなければ……いや、それはノノミちゃんに悪いね……」

 

「ちょっと! どういう事よ!」

 

 

 セリカが強く聞くも、ホシノは答える元気が無いようで、俯いて動かない。

 

 

「……いいですか。カヤツリさん視点で考えるんです。カヤツリさんから見たホシノ先輩の視点を考えてください」

 

 

 ノノミは助け舟を出す。セリカとシロコは宙を見て考えている。

 

 

「その、梔子ユメ先輩がああなったのは、カヤツリって人の所為だと思ってるはず」

 

「そうね。でも、そのくらいじゃない……? だから、追いだしたんだし……」

 

「問題は、その後です。カヤツリさんを追いだした後のホシノ先輩はどう考えたでしょうか」

 

 

 二人は首を傾げている。きっと分からないと思う。これは、少人数の実務をしないと分からないからだ。

 

 

「正直言って、アビドスを一人で運営するのは不可能です。単純に時間と身体が足りません。いつか限界が訪れたはずです」

 

 

 そしてそのことを、カヤツリは知っていたはずだ。何時になるかは分からないが、その時が必ずやってくる事を知っていた。

 

 

「私がやって来た時が、その時でした。薄々、ホシノ先輩も限界というのも感づいていました。だから、良いと言ってくれたと思ってます」

 

「それと、これとが、どう関係するの?」

 

 

 関係大ありである。この瞬間に、ノノミがホシノと接触したのが一番の誤算だったのだろう。

 

 

「カヤツリさん視点のホシノ先輩は、カヤツリさんが梔子ユメ先輩を殺した原因を作ったと思っています。でも、それだけなんです」

 

「でも、それは大したことよ!?」

 

「じゃあ、セリカちゃんは許さないんですか? 直接やったわけでもなく、偶然で原因を作ってしまった人を、ずっと許さないでいられるんですか? その人の事を良く知っていて、ずっと助けてくれて、悪い人ではないと知っている。そんな関係性だった人を」

 

 

 怒りは長続きしないものだ。発火しやすい癖に、たった数時間の睡眠で正気に戻れてしまうノノミは、よくよくそれを実感している。

 

 

「例えばアヤネちゃんが、私をそう言う目に遭わせた原因を作ってしまったら、ずっと許さないんですか? 何年も何年も、憎んでいられますか? 多分、無理だと思いますよ。故意なら兎も角、偶然ですからね」

 

「う……じゃあ何? そのカヤツリって人は、ホシノ先輩が許してくれるとでも思ってたの?」

 

 

 セリカは信じられなさそうな顔をしている。あまりに都合が良い考え方だと思っているのかもしれない。ただセリカの想定とは少し違う。

 

 

「そこまでではないと思います。許されない事をしたという自覚はあった筈です。そして、ホシノ先輩一人では回せない事も分かっていた。ホシノ先輩さえそう思っている事も、出て行けば大変なことになるとも。でも、ホシノ先輩は出て行けと言った。それを、カヤツリさんは尊重したんだと思います」

 

 

 ノノミから見たカヤツリはそんな人間だ。本気で言っているのなら、それを尊重してくれる。なら、様々な要因はあったにしろ、それは変わらない。

 

 

「ホシノ先輩が限界を迎えた場合、カヤツリさんがどうするつもりだったのかは分かりません。ただ追い出された手前、ホシノ先輩に会いに行くわけにはいかなかった。それはホシノ先輩の覚悟を侮辱する行為です。無理難題と分かっていても、ホシノ先輩はその選択をしたと思ったんだと思います」

 

「会わないのは分かったわ。なら、何で怒ったの? ノノミ先輩が会いに行ったから? でも、それは仕方ないじゃない。そんなホシノ先輩を放っておく方がいけないと思うわ」

 

 

 セリカの言葉にシロコも頷いている。二人は優しいから分からないのだ。ノノミだからいけなかった。ネフティスのノノミだから、いけなかったのに。

 

 

「ホシノ先輩が、高々一ヶ月で私を受け入れたからです。あの人はそれが許せなかったんです。裏切られたとすら思ったに違いないんです」

 

「ん。ノノミのせいじゃない。ノノミが居なくても私が来たはず。だから……」

 

「私がネフティスの令嬢だったからなんですよ!」

 

 

 堪らずノノミは大声を出した。震える二人の視線が痛かった。

 

 

「……ネフティスのイメージは悪徳企業です。それはアビドスの人間の殆どが思っていて、ホシノ先輩もそうでした。でも、ホシノ先輩は私を受け入れてくれました。なら、カヤツリさんと私の何が違ったんですか? アビドスを滅茶苦茶にしたネフティスの令嬢と、意図せず梔子ユメ先輩を遭難させてしまったカヤツリさんと、何の違いがあるんですか?」

 

 

 ホシノから見た関係性は殆ど同じなのだ。ユメが亡くなったのは遭難したから、遭難するような事態になったのはカヤツリのせい。ただ、そもそもの原因はアビドスが荒廃したせいだ。ネフティスがトドメを刺したせいだ。

 

 原因はネフティスであるが、ノノミはその令嬢。関係性は微妙だ。でも、それはカヤツリも同じだ。直接カヤツリがユメを殺したわけではない。キッカケになってしまっただけだ。

 

 

「カヤツリさんは、私の話を聞いて裏切られたと思ったでしょう。自身の覚悟とホシノ先輩の覚悟は違った。よりにもよってネフティスの令嬢に一ヵ月付き纏われたくらいで撤回するものでしかなかった。なら、カヤツリさんの価値もホシノ先輩の中ではそれくらいなんだと、そう思ったに違いないんです」

 

 

 だから、今日の剣幕だったのだ。例えるなら、遠距離恋愛中での連絡自粛期間に浮気されたようなものだ。

 

 カヤツリにとって二人は裏切り者なのだ。

 

 カヤツリが恨んだのはゲヘナではない。ノノミとホシノだ。きっとカヤツリはノノミ達が憎くてたまらないのだ。

 

 恨みのような、何かの感情をぶつけられるのを信じたくなくて、何も知らないから、何度も何度もノノミは噛み付いた。あの時のノノミは滑稽だったろう。

 

 グスグスと鼻をすすって涙を堪える音がした。誰が出しているかなんて見なくても分かる。ノノミもそうしたいくらいだ。自分で大事なものを叩き壊しておいて、誰が壊したなんて怒っていたのだから。余りにも無様だった。

 

 

「ああもう、じゃあ謝ればいいじゃない! そんなつもりはなかったんだって!」

 

「……それはやめた方が良いと思うよ? 事態がより悪化するからね」

 

「ちょっと先生!?」

 

 

 出した助け舟を叩き壊されたセリカが、先生に食って掛かる。でも、先生は首を横に振った。

 

 

「もう、遅すぎるんだよ。謝って済ませるには時間が経ちすぎてしまったんだ。謝るという行為自体が、カヤツリ君に対する侮辱だよ。謝ったから許せと言うようなモノなんだ。ノノミやホシノの都合を飲み込ませるようなものだよ」

 

「それは、向こうも同じじゃない! アビドス高校は潰れるなんて……!」

 

「だから、理詰めで来てるんだよ」

 

 

 また、先生は言葉を遮った。

 

 

「本当に感情論で決めるのが嫌なんだろうね。決断からは偏執的なまでに排除してる。きっとそうして、良い事が何もなかったんだよ。だから、冷徹なくらいに理屈だけを並べてきてる。それが一番正しいんだって、そう信じてるんだ」

 

 

 そして、その理屈も完璧だ。ノノミ達にはどうしようもできない。

 

 

「だから、こっちも理詰めで行こう」

 

「先生……?」

 

 

 今度の先生は否定しなかった。それどころか、何か策があるようだった。ノノミ達には何もないはずなのに。

 

 シェマタは置いておくとしても、時間も金も人も、何もかもが無い。あるのは砂漠横断鉄道の係争への参加権利……

 

 

「砂漠横断鉄道を使うんですか?」

 

「そうだね。それを使う」

 

 

 先生は勢いよく頷くが、周囲の反応は芳しくはない。ヒナが残念そうに呟く。

 

 

「先生。シェマタはもう……」

 

「シェマタは使わない。使うのは砂漠横断鉄道の権利だけだよ」

 

「何を言っているんだい……?」

 

 

 全員が困惑していた。先生が何を言おうとしているのかが分からない。そんなもので、カヤツリが頷くとは思えないのだ。だって、それにもうシェマタはない。シェマタあってこその砂漠横断鉄道だ。シェマタの無い今の砂漠横断鉄道は抜け殻に等しい。

 

 

「カヤツリ君に言うんだよ。手伝わせてほしいって、アビドスの為に協力したいって言うんだ。そうすれば、きっと考えてくれる」

 

「そんなの、絶対に受け入れてくれないよ。カヤツリはもう……」

 

「ううん。ホシノがそう言えば。ホシノがちゃんと考えて、どうしたいのかを言うことが出来れば、話は聞いてくれると思うよ」

 

 

 ホシノのかすれた声を、先生はハッキリ違うと言った。ホシノは不思議そうに目を瞬かせている。

 

 

「どうして、先生はそう思うの? これじゃ、まるでカヤツリが……」

 

 

 そう。まだ、ホシノを大切に思っているような言動だった。それを先生は分かっているのか、大きく頷いてこう言うのだ。

 

 

「そうだよ。カヤツリ君はまだ、ホシノのことをちゃんと考えているんだ。だから、ここまでの事をしているんだよ」

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