ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
長い一週間だった。
これが、久しぶりの再会から今日までの感想で、カミガヤはため息を吐く。
まさか、こんなにも振り切れていないとは思わなかった。
名前を捨てても、弱さを捨てても、あの時とは比べ物にならない権力を手に入れても、過去は捨てられやしないのだろう。向こうから捨てた癖して、いつまでもしつこく纏わりついてくる。
今だってそうだ。カミガヤは目の前の人間たちを見やる。
「成る程、私に時間を提供すると」
感心と、多少の嘲り。そんな雰囲気を込めた言葉は相手に響いていないようだった。対策委員会とゲヘナの二人、そして先生は、黙ってカミガヤの答えを待っている。
この会談場所にはカミガヤ一人だけだ。ハイランダー組は線路の敷設に忙しくしているし、私募ファンドは抜き終わったシェマタのテクノロジーに夢中。アイン達はまたぞろ、黒服の頼みでも聞いて小遣いを稼いでいるのかもしれない。
「……砂漠横断鉄道を其方に渡せば、使って良いと」
対策委員会側の要求はこうだ。砂漠横断鉄道を渡せば使っていい。過去鉄道を通せると確定した経路を使っていい。
少しだけ感心した。一週間前なら、感情に訴え掛けてくるくらいが関の山だと思っていたが、少しは頭を使うことが出来るらしい。
確かに、時間はアビドスが唯一差し出せるものだ。カミガヤが欲しいものでもある。だが、このままでは落第だ。
「それだけですか?」
「自治区の自治権はこっちにある。相談してくれれば、直ぐに行動に移せる。時間は掛からないよ」
「何故、受ける前提で答えるんですかね」
ホシノに圧を飛ばすが、何処吹く風だ。どうにも様子が違う。ノノミもそうで、反応したのはシロコとセリカくらい。
「ちょっとは、事前の勉強をしてきたという事ですか」
カミガヤは舌打ちして、用意した空席に目をやる。
カミガヤと対策委員会、その間に現れる見覚えしかない影がある。
いつものように、カミガヤを止めようとでも言うのだろう。怒って勢いよく机に手をついた影は、手がすり抜けて机の下へと消えていった。
再びのため息と共に、カミガヤは視線を戻す。どうせ、すぐに戻ってくるし、切り捨てたはずのものが見えるようになるなど、自分の弱さに反吐がでる。
それに一週間前の醜態にもだ。イライラし過ぎて、必要以上に煽り過ぎた。レールガンが飛び込んで来なかったら、全員叩きのめしていたかもしれない。マトだろうがヒナだろうが何だろうが、地に伏せさせる自信はある。何回も、何千回も、あの夜にどうすれば良かったのかを考え続けている。結局は自分の弱さが悪いことにしかならない。それを自覚しなかった過去のカミガヤが悪い。
感情で判断したのが間違いだ。理屈と論理で判断すれば間違えない。事実が辛くて感情に逃げるのは弱さでしかありえない。だから、その弱さを自覚しないで
──アビドスの為に何かやっているのか。
よくもまぁ、あんな偉そうなことを言えたものだ。あの後輩達は、春先の醜態から何も変わってなどいない。アイツらは、ノノミ以外は、ホシノが見せた弱味を汲み取る。汲み取ろうとすることすらしなかった。
手荒く扱わないように手は回したが、なんたって身売りだ。ホシノとて、即決したわけでは無いが、そうさせるほどにアビドスや後輩達が大事だったのだ。後で黒服が見せてくれた手紙にも、その事がありありと書かれていた。
それなのに、何だろうか。借金が普通になって、それで終わりなのか。身売りをする程に、ホシノにとってアビドスは大事なのが、春先の事件で分かった筈ではないのか。どうしてそのまま笑っていられるのだ。
リゾートでの、ノノミのホシノを探ろうとする動きを見なかったら、ここまで待ちはしなかった。
後輩という立場なら出来たはずだ。カミガヤでは絶対に出来ない事が出来たはずだ。非常に腹立たしいが、あの後輩達は、少なからずホシノの心を救ったからだ。カミガヤには出来なかった事をしたからだ。ホシノは、助けに来た後輩達を追い出しはしなかった。
それなのに、あれだ。たかが先輩でしかないホシノに求め過ぎだ。醜い。他者を食い物にして成立する青春など、醜いと言わずして何と言えば良いのか。かつてのカミガヤを見ているようで腹が立つ。
カミガヤも求め過ぎていた。たかが一先輩でしかないユメに求め過ぎていた。カミガヤは知っていた筈なのに、ユメはカミガヤにはその片鱗を零していた筈なのに。今が幸せだったカミガヤは、それを見逃した。いや、見ようともしなかったのだ。子供でいたかったカミガヤは、ユメに大人を押し付けた。
だから、ユメは勝手に一人で出て行った。これがネフティスに忍び込んで、ノノミのバイトに託けて、トリニティのブラックマーケットに入り浸った結果得た答え。
ネフティスも、ゲヘナも、トリニティもミレニアムも。何も。ユメには関与して居なかった。なら、これはカミガヤのせいだ。カミガヤがユメの苦しみに気づいていたのなら、ユメは待ってくれていたのかもしれない。結局、カミガヤが殺したようなものだ。
カミガヤが悪い。ユメが死んだのはカミガヤの所為だ。罪からは逃げられない。
その証拠に、胸ポケットで手帳が存在を知らしめるかのように重くなり、カミガヤの気分も同様に落ち込んだ。
多分、いやきっと、ユメがカミガヤを拾わなければ、あのオアシスで会わなければこうはならなかった。カミガヤがユメの人生を終わらせた挙句に台無しにした。もう子供でない癖に子供のままで居ようとして、そのツケをユメに払わせた。巻き添えにホシノとノノミの人生も滅茶苦茶にした。
なら、帳尻は合わせなければならない。ユメが生きていれば叶ったであろうことを叶えなければならない。ホシノとノノミが本来享受していたはずの青春を与えなければ。マイナスをプラスに、そうはいかずともゼロにまで戻さなければ。そうでもしなければ、先に進む資格などない。
だって、全てはカミガヤの所為だ。ゲヘナと関係を持たなければこうはならなかった。ユメかホシノに相談していたら、きっと違ったろう。
ユメがカヤツリに遺した物は、そう多くない。手帳と、伝言と、語っていた夢だけ。それでも分かる事はある。
──ホシノちゃんの事をよろしくね。
仕事部屋にあった伝言メモの内容はこうだ。なら、そうしよう。もうその資格はないし、その意図もユメにはないだろうが。近々破綻するのは目に見えていたから。そう思って行動を開始したモノの、全く上手くはいかなかった。
それは、名前を捨てたからだ。正確には兎馬カヤツリと言う身分を捨てた事に起因する。そうせざるを得なかったし、黒服の偽造に過ぎない身分だ。弱みは消すに限る。だが、見通しが甘かった。カミガヤは身分という物の価値を分かっているようでいて、まるで分かっていなかった。
運び屋の時はまだマシだったのだ。あの時はまだ、良いように使われていただけだった。けれど、ネフティスに就職してからは違う。相手は普通の大人として扱って来た。それもネフティスの平社員として。
その身分は余りに弱弱しい。ネフティスの外でも内でも大した違いはない。何が問題かと言えば、話すら聞いてくれない。アビドスやカイザーで使えていたモノが何一つ使えなかった。
今思えば簡単な話だ。昔は上にカイザー理事が居た。アビドスの時は生徒会役員という身分があった。それが、カミガヤの正当性を担保していた。人より仕事ができるからと言って、正論を吐いたからと言って、それを聞く義理などないのだ。相手は自分よりも下なのだから。
そして、それは大人相手だけでなく生徒相手でもそうだ。学園という物が彼女たちの立場を保証する。大して仕事もできない癖して、偉そうにしている。そして、それはアビドスにも言えた。滅びかけの学園だ。学園としては底辺も良いところだろう。だからゲヘナに足元を見られる。
結論、ユメの語っていたことは余りにも綺麗事だった。皆が話し合えば分かり合えるなど。それを叶えるためには抑止力が必要だった。かつてのアビドスのような絶対的な力。
最初からユメはそれを知っていたのだと思う。それでも足掻いていた。カヤツリが心のどこかで綺麗事と言い、何一つ分かっていないと思っていたその願いを、ユメはしっかりと分かっていた。ホシノとカミガヤが居たのだ。その手段を幾らでも取れたはずなのにそうしなかった。
カミガヤが思うよりもユメは強かった。ユメはカミガヤとホシノに、そうはさせたくなかったのだろう。そうしなくていいと言ってくれていた。学生らしく過ごさせてくれた。
なら、そうしよう。ユメが送りたかったはずの、居なくなってしまったアビドス生全員が送りたかった青春をアビドスに蘇らせる。
力があれば、言うことを聞く。金でも暴力でも何でもいい。そして、カミガヤはそのやり方を知っている。やられて嫌だったからこそ、その効力を知っている。そして実際にそうして、ここに居る。
黒服やカイザー理事のような、自分の力で立ち位置を確保した強者。自らの欲の為に本気になれる大人。そのために冷徹な判断ができる大人。与えられた立場で、感情のままに振舞う子供ではなく、カミガヤはそんな大人になりたかった。
──それに比べて……
カミガヤは先生を見る。今年の初めに、連邦生徒会長と入れ替わる様に現れた大人。カミガヤは、先生の活躍を、黒服を通して全部知っている。
アビドスの時は期待した。全てを賭けて、ホシノを救い出した時は期待した。暴れ狂う感情を押さえつけて、我慢して、期待した。
それなのに、先生はアビドスを放置した。そう言う大人かと思って、そこで見限れればよかった。けれど、違った。
ミレニアム、トリニティ、SRT。先生の関わった数多の事件で、著名な学園が関わったもの。それら全てを先生は解決した。
世界を滅ぼすかもしれない兵器を私情で救った。クーデターを起こした生徒の破滅を庇い、憎み合う学園同士を小康状態に持っていった。テロリストを庇って、あろうことか主張を認めた。
そこには、数多の違法行為があった。感情でしかないものの選択があった。それで上手くいっている事も腹立たしいが、どうしてアビドスにはそこまでやってくれなかったのか。
やったのは銀行強盗と、黒服への対峙。あとはカイザーへの攻撃位。他の学園の尽力と比べて手加減してやしないだろうか?
あれだろうか。アヤネの依頼が、アビドスのヘルメット団を何とかしてほしいだったからだろうか。全てを押し付ける敵がカイザーしかいなかったからだろうか? そして、借金自体は真っ当なものだったからだろうか?
ミレニアムには調月リオが居た。トリニティにはアリウスが、アリウスにはベアトリーチェが居た。そしてRABBIT小隊はどうだったのか。
SRTが廃校になり、ヴァルキューレへ編入を余儀なくされる。それは同情すべきだ。エリート部隊から、交番の駐在にさせられるようなもの。だが、彼女たちはどうしたか。学園の財産たる物資を横領し、公園を占拠した。そしてSRT学園の存続を叫ぶ。まごうかたなきテロリストではないか。感情のままに行動した子供そのものだ。
普通なら、そのまま片付けられて終わる。世界は個人の癇癪を聞いてくれるほどやさしくはない。少なくとも、カミガヤはそうだったのに。彼女たちはそうでは無かった。今も彼女たちは公園に居る。罪と罰が釣り合わない。全員が釣り合わない。やらかした間違いに対して救いが大きすぎる。
それはどうしてか。ここがキヴォトスで、カミガヤは生徒でなくて、彼女が生徒たちで、先生が介入したからだ。
用意された立場と力で好きなようにやっている。とても腹立たしいが、それはカミガヤの拘りに過ぎない。そんなものは捨て去って、上手い事利用してやればいい。
これまでに分かったことは幾つかある。先生は生徒を助ける者らしい。そして、酷い目に遭っていればいるほどいい。そして、敵が強く強大で悪辣であるほどに救済の結果は良いものとなる。だったら、そう出来なくする。
だから、用意してやった。
これはミレニアムと、RABBIT小隊の顛末で思いついたことだ。ミレニアムでは生徒が敵だった上に、主張は真っ当だ。だから、あの決着はただの偶然に助けられたにすぎない。RABBIT小隊らの敵は高々違法リベートの証拠入手の妨害者。それに比例した結果しか得られなかった。この情報を得られた、これだけは感謝してもいいかもしれない。
今のところは上手くいっている。感情でしゃしゃり出てこられては迷惑だ。論理的にいけば、成功するに決まっている。
──どうして、そこに居られる?
カミガヤは、ホシノとノノミを見る。本当に理解できなかった。今でも理解できない。ホシノは何も悪くない。カミガヤの所為でユメは居なくなった。残る理由はない。身売りをしてまでアビドスを残す理由はない。それなのに、大した活動をやっているようには見えない。本当に意味が分からない。
邪魔だし、時間の無駄だ。全てが中途半端だ。アビドスに居るのは辛いはずだ。ホシノの所為ではないが、ユメの事を気に病んでいるのは明白だった。だったら、出て行くべきだ。アビドスで苦しむ必要はない。あれはカミガヤの感情的なモノの所為だから。
ノノミもそうだ。あれはカミガヤの所為でそう言ったに過ぎない。感情的なカミガヤの発言の所為だ。もっといい場所がある。二人はカミガヤの所為でここへ来た。だから、二人は幸せになるべきだ。
「それで? それで終わりですか?」
少し待ったので、取り敢えずの隙を突けば、セリカが慌てた顔をした。こう来るとは思って居なかったに違いない。表にそれを出すのは減点である。感情その物の行為だ。弱さでしかない。
「焦ってどうしたんですか? これからどうするのかと聞いているんですよ。砂漠横断鉄道を渡せというのなら、当然の質問ですよね?」
ここまでは、先生辺りの入れ知恵だろう。故にここまでの問答に意味は無い。カミガヤが聞きたいのはこの先だ。
これから、アビドス高校はどうしていくのか。一番大事なことを聞かなければならない。その答えいかんで、カミガヤは対応を決める。諦めるならそのまま行くだけだ。
「まさか、唯々腐らせておくんですか? それとも、そこに来ている二人に売り飛ばすから。先の事は考えていなかった。そんな事だったら拍子抜けですが」
チクチクと煽りつつ、カミガヤは答えを待つ。それとなく、ゲヘナの二人と先生を確認するが、三人は助け舟を出すつもりはないようだった。それは正解で、そうしたが最後、カミガヤは全員を追い出す算段だったからだ。
これは対策委員会の話だ。それを外野からやいのやいのと言うのは違う。それは、対策委員会の意思ではなく、ゲヘナへの忖度が入ったものになる。そんな答えはクソくらえだ。
「カヤ……いや、そっちはどう使いたいの?」
「そうですね。一週間前に言った事です。鉄道は通しますが、乗せるのは人ではないでしょう。メインの運送は貨物になります」
「それは、ネフティスのものですか?」
「そうなるでしょうね……それが何か?」
ホシノとノノミは交互に話し掛けてくる。どうにもおかしい。一週間前とは別人だ。何もなかったはずの芯がある。
「いえ、カミガヤさんは理事ですが。私の代理なんです。苦労もあったんじゃないですか?」
「……それがどうしたって言うんです」
確かにあった。結局カミガヤは他人の褌でしか相撲が取れない。必ず頭にネフティスのか、ノノミの、という言葉がつくからだ。執事を始め、他の理事からは心象が良くない。実力で叩きのめしていても、それは変わらない。
「私が協力します。そうすれば、ネフティスの他の方も協力してくれるはずです」
「それが嫌だったんでしょう?」
その場しのぎの言葉かと思って、語気が荒くなる。それでも、ノノミは隠れなかった。
「嫌ですが。それよりも黙ってアビドス高校が廃校になる方が嫌です。なら、私は私が出来ることをするんです。両親にだって頼ります」
「……逃げてきた割に言うじゃないですか」
「そうですね。私は逃げました。ある意味ではそうかもしれません。でも、今度は逃げません」
ノノミは本気だった。あの時の、喧嘩別れになった時と同じような頑固さが伝わってくる。違うのは、感情任せの答えでは無いことだ。恐らくちゃんと考えて、出した答えというのが、怯えの無い様子から分かる。
「で? 其方はどうなんですか? 対策委員長。お嬢に丸投げですか?」
「ううん。私たちもするべきことをするよ。そっちが言ったように新入生を探さなくちゃいけない。だから、まずはアビドスの学校としての機能を取り戻そうと思うんだ。新入生が来てくれるような学校にするんだよ」
真っ当だ。真っ当な答えだが、それでは足りない。
「それはどうするんですか? 貴方だけではできないでしょう?」
「授業とかは先生にお願いするし、私も頑張る。治安維持はお手の物だし、宣伝とかもね。悔しいけど、シャーレや皆に頼るよ。そして、君にも」
「私……ですか?」
「うん。そうだよ」
ホシノの顔に怯えや悲しみはない。かつての、ユメが居た時の雰囲気だ。
「だって、アビドスを復興するんだよね。私たちと目的は同じ。砂漠横断鉄道もそのためなんでしょ? やってほしいことがあれば言って欲しいし、必要ならこっちも同じようにする。私の力は知ってるでしょ。上手く使ってくれていいよ」
「ここが良いんですか? アビドス高校が良いんですか? ここには──」
「辛い思い出もある。でも、それだけじゃないんだよ。私もそうだし、ノノミちゃんもそう。私はここで頑張るよ。私はそうしたいんだよ。私が選んだんだから。君もそうなんじゃないの? 君も選んでそうしたんでしょ? だから、ここに居るんじゃないの?」
カミガヤの口から息が漏れた。昔の、まだ幸せだった時の思い出が蘇ってくる。あの時と同じだ。経緯はどうあれ、ホシノは覚悟を決めていた。何を言っても聞きやしないだろう。
カミガヤにホシノやノノミの意思を覆す権利はない。今日までそうしていたのは、二人が何も言わないし辛そうにしていたからだ。
──言わされてるだけでは? もう後に引けないだけでは?
大人足るカミガヤの意見が上がる。でも、そうでない意見もある。
──終わりにしてもいいんじゃないか。二人が決めたことに口を挟むのは違う。
気づけば、黒い影が戻ってきていた。何も言わず、じっと、かつての様にカミガヤをみつめている。決めるのはカミガヤだ。カミガヤから始まった物語を今終わらせられる。
どうみても、二人はカミガヤの言うことを聞かない。それは二人が決めたことだからだ。無理やり言う事を聞かせれば、それは二人の否定になる。それはユメの宿題の意図したところではない。
だから、カミガヤは荷物の一つを下ろせるのだ。少し楽になれる。それどころか、一緒に頑張ろうとホシノが言っている。
色々と言いたいことはある。昔の言葉は嘘だったのかとか、どういうつもりであの言葉を言ったのかとか。でも、これは報いではないのか。ようやくカミガヤにやって来た報いなのでは? だったら、これは受け入れてもいいのではないのか? だって、誰も損をしないし、そう出来る。そのはずだ。論理的に考えて、そうするべきだ。ここで頷けば、それだけ早く復興が出来る。
「いいでしょう。その条件で、砂漠横断鉄道は差し上げましょう」
「いいの?」
「良いも何も、欲しいんでしょう? あの契約書からいって、貴女が受け取るべきものですしね」
そうだ。きっと正しい。少しだけ心が楽になって、カミガヤは立ち上がった。
「ちょっと渡す物がありますから。着いてきてください」
□
会談場所の建物から外に出て、車で数時間。全員で残された砂漠横断鉄道の廃線を辿った先の先。目的の場所はそこにある。
「邪魔なゴミの片づけをお願いしたいんですよ」
カミガヤの目の前には、巨大な砲。列車砲シェマタが鎮座していた。
「いいの? これ……」
「誰が作ったのか分かりませんが、こんなゴミはもう要りませんよ。片付けようにも、回路が焼け付いてるんですよね」
校章は消してあるし、技術も抜き終わった後の残骸である。もう本当にゴミでしかない。どうせ、これがある限りはゲヘナは退けやしないのだ。さっさと手放すに限る。
「本当に、良いのかい?」
「良いも何も、こんなもの、知りませんよ。ここにずっとあったゴミです。分かり切ったことを何度も聞かないで下さい。悪いと思うなら、今度はちゃんとやってください。先生は対策委員会の顧問なんでしょう?」
これは誠意であり、担保だ。このゴミをくれてやる代わりに、先生はアビドスに真剣に取り込んでもらう。幾ら気に入らなかろうが、先生は先生。その権力は本物であるから、媚びは売っておくに限る。
しっかりと先生が頷くのを見て、カミガヤは満足だった。後は帰ってから契約書を作れば肩の荷が降りる。そう安心したカミガヤの電話が鳴った。
「もしもし……」
『今何処に居る!?』
電話の相手はスオウだった。どうにも焦っているのか、語気が激しい。電話の奥の方からは工事中なのか、騒音が聞こえる。
「今は取り込み中だ。用なら後に……」
『砂漠横断鉄道が破壊されているんだ! 今も……』
スオウの言葉の上から、ひときわ大きい騒音が響く。騒音の正体がようやく分かった。これは爆発音だ。何かが爆発している。
「なんだ? またヘルメット団かなにかの襲撃か? 散らかった燃料か何かに引火でも……」
『分からん! 至る所で、空から何かが飛んできて……』
ひときわ大きい爆発音の後、電話は切れた。内容が聞こえていたのだろう。先生や対策委員会、ゲヘナの二人も寄って来る。
「何があったんだい?」
「いえ……ん?」
先生の声に応答しながらも、カミガヤはスオウの言う空を見た。何か黒い点がどんどん大きくなってくる。それは黒く長く、尻から白煙をたなびかせてこちらへ近づいてきていた。
「巡航ミサイル……!?」
全員が見守る中で、それはシェマタに直撃した。