ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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342話 二回目

 シェマタに巡航ミサイルが直撃した。

 

 それがマトの目の前で起きた出来事だった。砂地に伏せた状態から顔を上げれば、早期に気が付けたおかげで全員が無事だ。制服が砂まみれだが、そんな些末事は言っていられない。

 

 

「シェマタが……」

 

 

 隣のヒナの言葉の通りに、シェマタは全壊していた。シェマタのボディは装甲が内側からめくれ上がっていて大穴が開き、そこから黒煙と燃え盛る炎が見える。どう見ても、巡航ミサイルが突き刺さった後に内部で爆発したようにしか見えない。これでは再利用など不可能だろう。

 

 しかし、目下の問題はシェマタではなく、飛来してきた巡航ミサイルだ。巡航ミサイルの飛んできた方向を見て、少しマトは安心した。

 

 

「ゲヘナの方角じゃないね……」

 

 

 シェマタが突然の巡航ミサイルによって破壊された。この状況から言って、一番怪しいのはゲヘナだ。シェマタが消えて嬉しい陣営はそこだけであるし、それをやりそうな人間は一人だけ思い浮かぶ。

 

 悲しい事に、その人間は短絡的で、権力も持っている。後先考えずに巡航ミサイルを撃ち込んでも……

 

 

「……巡航ミサイル。ゲヘナにあんな数、配備してたかね……いや、でもねぇ……」

 

 

 砂漠横断鉄道の全域を爆撃できるほどの巡航ミサイルを配備している学園はそう多くない。保管に手間がかかる割に出番などほとんどないからだ。マトの記憶では、その数の巡航ミサイルはゲヘナにはない。だが、巡航ミサイルはここ最近派手に使われた実績がある。

 

 マトにとって、巡航ミサイルと言えばマコトだ。それはこの間のエデン条約調印式の爆撃が、巡航ミサイルで行われたからだ。それを裏から仕組んだのがマコトだった。ただ、ゲヘナから巡航ミサイルを撃ち込んだわけでは無い。あれは、アリウスが。正確にはアリウスのベアトリーチェが撃ち込んだものだ。

 

 

「ベアトリーチェ……? いや、確か黒服がもういないって……」

 

 

 そのことに思い至ったのか、先生もベアトリーチェについて言及する。だが、内容からしてベアトリーチェではないらしかった。それは、他の事からも分かる。

 

 

「ヒナ。あの時とは違うね?」

 

「違う。調印式の物とは違う。この距離だもの。あれと同じものだったなら、全員どうなっていたか分からない」

 

 

 調印式の巡航ミサイルを体感したヒナがそう言うのだ。なら、そうなのだろう。ヒナは選択肢からベアトリーチェとアリウスを除外した。除外して、スクラップと化したシェマタとその周囲を見やる。

 

 

「……マズイね。最悪だよ……」

 

 

 対策委員会は無事だ。ホシノが盾を構えて発生させた薄いシールド膜が先生含め全員を守っていた。けれど、対策委員会の全員が何も話さない。口を固く結んだままだ。

 

 そしてシェマタの前、カミガヤいや、カヤツリが無言で佇んでいる。こちらに背を向けて佇んでいるから顔は見えない。ただ、流れる雰囲気から碌な表情でない事は想像できた。

 

 マトが、何と言葉を掛けようか迷っているうちに、聞き覚えのある電子音が響いた。それは電話の着信音で、カヤツリは無言で電話を取った。

 

 

「もしもし……ああ、無事だ。そっちは?」

 

 

 声は変わらない。それが何よりもマトの背中を冷たくさせる。向こうの電話の声が聞こえないのは尚更恐ろしい。

 

 だって、相手はスオウのはずだから。あの性格なら、さっきみたいに聞こえる声量で話すだろう。なにせ突然の攻撃だ。とっくに驚きのステージは通り過ぎ、次は怒りのステージに入っている筈。ミサイルを撃ち込んだ下手人に怒り狂っているべきだ。それなのに。それなのにだ。電話の向こうからはか細い音しか分からない。

 

 

「分かった。安心しろ。謝るな、大丈夫。大丈夫だ。金には余裕がある。外にはこちらが対処するから。何? そうか、そういう事か……ああ、そうだ。大丈夫だ。だから、安心して復旧作業に取り組んで欲しい。すまなかった。本当にすまなかった……」

 

 

 電話を切ったカヤツリは、携帯で何かを確認し、自然にマトたちの方へ振り向いた。一歩一歩、静かに近づいてくる。

 

 

「向こうは何があったの?」

 

 

 マトの前、マトを守るようにヒナが立ち塞がった。背中の機関銃、デストロイヤーにはまだ手が掛かっていないのは幸いだ。

 

 

「線路が破壊された。現在の工事現場と残存する砂漠横断鉄道の殆どの箇所へミサイルが降り注いだらしい。作業員の無事は確認したが線路はダメだ。地盤が大きく抉れている」

 

「……それじゃあ」

 

「ああ、使えない。使えるにしても、補強工事が必要だろう。もう、間に合わない」

 

 

 また一歩、カヤツリが近づいた。

 

 

「お前らの上を出せ。分かってるだろう?」

 

 

 マトの背中に冷や汗が伝う。想像通りの展開だ。もうカミガヤは勘付いている。

 

 

「ご丁寧に列車砲だけならまだしも、運送路まで潰しやがって。これは分かってるやつの犯行だ。列車砲を潰したい巡航ミサイルを持ってる陣営なんて一つだけだよな?」

 

「……違う。私達じゃない……」

 

「いいや、違わないね。天丼ネタとはな」

 

「違う……」

 

 

 違うと、そうヒナは繰り返すが。カミガヤは全くそう思ってはいないのが分かる。正直、マトもこれは苦しいとさえ思う。状況証拠はゲヘナだと暗に指し示している。いくつかの反論の糸口はあるが、あまりにも細いそれは蜘蛛の糸だ。扱いを間違えればそれこそ地獄の底へと真っ逆さま。地獄に叩き落されるというそれが冗談で済まないことは今のカミガヤを見れば明らかだった。

 

 

「違う? 何が違うんだ? あの時と何が違うっていうんだ? 今度は弁解したから違いますとでもいうつもりか? どれだけ舐め腐れば気が済むんだ? もしかしてあれか? ミサイルに巻き込んで俺を殺そうとでもしたのか? 凄いな。前と同じ手が通用すると思ったわけだ。その通りだよ。俺がバカだった」

 

 

 もうカミガヤの皮がはがれてしまっている。カミガヤでは知らないはずの過去。カヤツリとしての過去について問いただしてきている。もうカミガヤを取り繕う素振りが無い。

 

 怒り狂っているわけではない。口調は平坦で会話は論理的で、拳を振り上げても、銃を構えてもいない。ただただ、それが問題だった。

 

 一週間前のカミガヤとしての態度。あれはマトからすれば、とても辛い対応だった。何せ謝ることができない。カミガヤは過去のことを知らないのだから、謝っても意味不明だから。だがそれは、ある意味では気遣いなのだ。

 

 アビドスの債権や砂漠横断鉄道、シェマタの件を話す上で。マトとカヤツリの取引とその顛末、梔子ユメの死。それらは避けては通れない。カヤツリとして話すなら、それらについての補償や謝罪や、その他諸々を処理しなければならない。それからでないと本題であるアビドスの復興について話が出来ない。

 

 だが、カヤツリはカミガヤとして振舞った。過去にあったことを何も知らないカミガヤとして。そうすれば、過去にあったことを話さなくてもいい。それらの煩雑な手続きをなかったことにして、本題であるアビドスの復興について話すことが出来た。

 

 それは気遣いだった。お互いの間に横たわる変えられない過去。どうされても文句は言えない過去の所業。それをカヤツリは目をつむってくれていた。それはマトやヒナやゲヘナのためではなく、アビドスのいる生徒たちのためだった。できうる限り彼女らに普通を提供するための方法だった。

 

 それを、今のカヤツリは止めてしまっている。もう、そうする必要がないからだ。

 

 砂漠横断鉄道は破壊されてしまった。カヤツリの口ぶりからして、それ以外の、砂漠横断鉄道では無い箇所にもミサイルが降り注いだ。

 

 前進どころか大きなマイナス、現状復帰にどれだけの時間がかかるか目を覆いたくなる。つまりはもう間に合わない。どう足掻いても間に合わないのだ。だから、カヤツリはカミガヤである事を止めた。そうする意味は無いから。

 

 

「良いよ。マコトに繋ごう」

 

「マト先輩!」

 

「分かってる。分かってるさ!」

 

 

 ヒナの懸念は分かっている。今のカヤツリに、マコトと喋らせたらどうなるかくらい。

 

 この件に関わっているにしろ、いないにしろ、マコトがカヤツリの神経を逆撫ですることは間違いない。この間がそうだったからだ。

 

 一週間前の会談の結果を聞いたマコトは不機嫌そのものだった。気持ちは分かる。破壊しなければならない雷帝の遺産の前で足踏みしている状態だ。それも邪魔しているのが、口が達者なただの大人ときている。

 

 それに、連邦生徒会からの突き上げも機嫌が悪い原因の一端だろう。その全てがカミガヤの所為ともなれば、その態度はおかしくない。

 

 だが、マトはマコトを信じている。遺産は確実に破壊しなければならない。だから、今日も普通に送り出してくれたのだと。ヒナへの蟠りを遺産案件に持ち込むほどにマコトはバカでは無い。無い筈だ。

 

 このまま、ゴネてマコトに繋がない選択肢もある。そうするのは悪手でしかない。そうした場合、カミガヤは何をするか分からない。シェマタが無くとも、何かを仕出かせるだけの能力がある事をマトは知っている。それに、もうマトは、カミガヤを裏切りたくないのだ。

 

 

『キキキ、どうした?』

 

 

 スピーカーをオンにしたマトの携帯電話からは、マコトの声が飛びだしてくる。この時点で、マトはカヤツリに土下座したくなった。

 

 

「ネフティスの人間が話したいそうだよ。一週間前に言った件の話さ。分かっているだろう?」

 

『ネフティス……? ああ、遺産の話だろう。それはそっちに任せたはずだがな。私は別件で忙しいのだ。話は後に……』

 

「防衛室長から何か言われたろう。羽沼マコト」

 

 

 話を逸らそうとしたマコトに、カヤツリの言葉が叩きつけられた。言葉に詰まったのか黙る電話口に、二の矢が放たれる。

 

 

「防衛室。防衛室長の支持派に回れと、そう言われただろう? そのおかげで、クーデター成功という訳だ」

 

 

 いつの間にか取り出したのか、カヤツリの携帯にはクロノスニュースが映っていた。日付は一昨日。内容は新連邦生徒会長就任。名前は、不知火カヤ。防衛室長だ。

 

 

「アビドスに来るには車で丸一日がかり、二日前から出発する必要がある。それにこの間のインフラの復旧はまだ完全ではない。だから先生は気づけないし、気づいたとしても直ぐには戻ってこれない。ヘリなら早いが、ここ一週間は砂嵐の予報で使えない。よく考えたな」

 

「リンちゃんは……? 防衛室長も、なんで……?」

 

「ああ、先生。前々から防衛室は腐敗してるんですよ。ずうっと前からカイザーと癒着してます。知りませんでした?」

 

 

 先生は先生で、まさかの事態に混乱している。まさかのクーデターと癒着という発言だ。頭がついてこないのだろう。勿論、マトも完全には付いてこれない。

 

 

「その不知火カヤとやらの真意は知れませんが、この間のカイザー襲撃も身に沁みるほどに恐れたんでしょう。やけに列車砲を目の敵にしてましたしね。アレを破棄しろと五月蠅かったんですが、真の目的はこれだったわけだ。連邦生徒会長になりたかったんでしょう」

 

『キキキ……私には関係ない話だな。妄想を聞いているほど暇ではない』

 

「おお、新連邦生徒会長代行に尻尾を振ったくせして、恥ずかしげもないとは。そんなに犬の首輪が心地いいのか」

 

『貴様……このマコト様に向かって……』

 

 

 マコトは激怒していた。ここまで悪し様に侮辱されれば怒るのは当然だが、怒るという反応にマトは違和感を覚えた。ヒナもそうなのか、顔色が悪い。

 

 

『私は万魔殿議長だ。選挙で選出されたな。ネフティスの令嬢にすり寄ってそこに居る貴様とは違う。それにだ。私は誰の指図も受けん! 私はゲヘナのトップだからだ!』

 

「ああ、やっぱり。お前から持ち掛けたのか。相当アリウスに騙されたのが効いたのか? 良いように使われて、最後は飛行船ごと自爆だものな。それを反省したんだろう? だから、防衛室長に持ちかけたわけだ。ネフティスの所有する列車砲を破壊してほしいと」

 

 

 電話口から、反論は聞こえてこない。恐らくは何を言おうか考えている。それだけで、もうマトは、マコトにとってそれが図星だと分かってしまった。

 

 

「馬鹿正直にそう言ったわけじゃないだろう。そもそも防衛室長もいきなり何の理由もなしに連邦生徒会長代行に成れはしない。現代行の不信任案と連邦生徒会内部の賛成票が必要だ。そのために必要なのは、圧倒的な実績と現代行の失態。それは直近にあった。カイザーの連邦生徒会襲撃っていう事件が」

 

 

 それで、防衛室長は騒いでいたのだ。カイザーの襲撃に端を発して、企業の持つ武力の恐怖を煽った。一番は勢力拡大の為だろう。恐怖を煽れば、皆が安全の為に武力を求める。武力を管理しているのは防衛局だ。それに、襲撃に対応できなかった現代行にも批判が行く。中々にいい手だ。だが、問題がある。

 

 

『……ご高説は結構だが、私には何の関係もない。貴様の妄想には飽き飽きだ。防衛室長がそうだとして、何故私が出てくる』

 

 

 マトにとっては良い事かはもう分からないが、これはマコトの言う通りだ。ここまでは防衛室長の動機であって、マコトの動機ではない。マコトが他者に協力するなど、イブキの頼みでようやくだ。それか、トリニティが相手の時くらいか。

 

 だから、マコトは自信満々だ。バカにされたのが気に入らなかったのだろうか、電話を切る気配はない。

 

 

「こちらの列車砲が破壊されたんだ。爆発して使い物にならない。お前の所為だろう? お前でしかありえない」

 

『キキキ……随分苦しい言いがかりだなぁ?』

 

 

 マコトの声は嗜虐心に満ちていた。カヤツリの言葉を言いがかりとして処理することにしたようで、随分乗り気な様子が電話口から伺える。

 

 

『それはこちらの台詞だ。防衛室に攻撃を仕掛けるとはな。それを我々の所為にしようとしているのか?』

 

「何を言ってるんだい!」

 

 

 あり得ない事柄に、マトは怒鳴った。けれど、マコトは気にした様子もない。

 

 

『フン、マト。丁度ニュースでやっているぞ。D.U.地区の防衛室施設が砲撃されたとな。防衛室長、いや新代行はカンカンだろう。壊れたから砲撃できませんとは、その言い訳は苦しいだろうなぁ?』

 

「マコト!」

 

 

 とうとうマトは電話口に向かってがなり立てる。

 

 

「アンタ! そこまでやるのかい! そんなに私とヒナが信用できないとでも……!」

 

 

 もう、マコトの狙いが分かってしまった。そうやって、シェマタを破壊するつもりだ。

 

 シェマタをシェマタと証明できない以上、マトたちはそれを破壊できないと踏んだ。だから、大義名分を新たに用意したのだろう。

 

 恐らく砲撃は自作自演。適当な建築物を自爆させたに違いない。それをネフティスからの攻撃だとする腹積もりだ。防衛室長は目障りな兵器を潰せ、実績にもなる。マコトはシェマタを破壊する口実を手に入れる。

 

 だが、それは余りにも自分の事しか考えていない。

 

 

「アンタがヒナを気に入らないのは知ってるけどね! この案件ではそういう事を引っ込めると思ってたんだ!」

 

『私情を挟んだのはそっちだろう!』

 

 

 それを聞いて、最悪の考えが浮かんだ。マコトの言葉と防衛室長の戦力の話だ。何かお抱えの部隊があるのは想像できるが、それ程数はないだろう。それを埋めるのはカイザーだった。だが、カイザーは裏切った挙句にトップが失脚している。つまり、カイザーは使えない。だから、防衛室長はカイザーの代わりの、多数の戦力を求めている。

 

 マコトは、それを提供したのではないだろうか。エデン条約機構はまだ本格稼働していないが、それ用の人員は確保してある。それを防衛室長に提供した。もしかしたら、タイミングを計って裏切れるように。

 

 現代行である防衛室長を抑えれば、キヴォトスを支配したようなものだ。カヤツリが言った反省とはこう言った意味なのだろう。かつてのマコトはアリウスに騙された。助けると言っておきながら、裏切られた。マコトは騙す側に回ったのだろう。

 

 そして、過去の出来事から、マトたちが手加減しているとでも思ったのだ。カヤツリに配慮して、手加減してシェマタを破壊しないと。

 

 カヤツリはとっくにその考えに至っていたのか、酷く不機嫌だ。悔しそうな表情を隠しもしない。

 

 

「……お前……! よくもこんなことを!」

 

『キキキキ……随分と、そこの二人を。ゲヘナをバカにしてくれた。昔の約束か何か知らないが、随分と調子に乗ってくれたようだ。まぁ、約束の物がないと言うなら、金を払う義理もない』

 

 

 全員が騒めいた。それは余りにもやり過ぎだ。ここまでアビドスを滅茶苦茶にしておいて、何の補填もしないなど。幾ら、カヤツリの挑発と、シェマタを渡さなかったことが腹に据えかねたとしてもだ。

 

 

「マコト! 一体どういうつもりで!」

 

『列車砲の技術を手に入れたのだろう? それがあれば金には困らんではないか。まぁ、それを活用できる場所があるかは分からんが』

 

 

 それかと、マトは思った。マコトがここまで徹底的にやる理由だ。カヤツリはシェマタのテクノロジーを回収してしまったからだ。遺産の技術を回収してしまった。マコトにとって、それを破壊して初めて、遺産を破壊したことになる。

 

 マトやヒナは、カヤツリが遺産を悪用しないと信じているし、そうだと思っている。しかし、マコトはそうではない。だから、アビドスごと葬り去るつもりだ。

 

 

『キキキ……報いが当たったに違いないな! だから()()()()()()で爆発などするのだ』

 

「ああ、やっと言ってくれたな。やっぱりお前じゃないか」

 

 

 カヤツリはすっかり、いつもの調子に戻っている。マコトの失言を待っていたらしい。

 

 

「巡航ミサイルでなんて。俺は一言も言ってない。攻撃のタイミングも都合が良い。二人のどちらかの携帯に盗聴器か発信機でも仕込んでたか? 初めからグルだったか? まぁ、これで納得がいく」

 

『我々は巡航ミサイルなど保有していない。保有しているのはミレニアムだけだ。随分と見当違いの──』

 

「まだあるだろう? 学園以外にも、あの数の巡航ミサイルを保有している組織はある。カイザーとかな」

 

 

 マコトの言い訳をカミガヤが鼻で笑う。それだけでバカにされたのが分かったのか、マコトの舌打ちが聞こえる。

 

 

『それこそ、我々には関係が無い』

 

「関係あるさ。防衛室長は長年カイザーと癒着していた。カイザーはシラトリ地区の地下に幾つも地下サイロを建造している。その中には勿論巡航ミサイルもある。カイザーが弱体化している今、それを使用できて場所を把握しているのは、お友達の防衛室長だけ」

 

 

 さっきとは逆に、カヤツリはマコトを甚振っていた。心底バカにしたような口調なのは、それがマコトに特攻だと知っているからだろう。

 

 

「体の良い隠れ蓑だよなぁ。大義名分があるとはいえ、ゲヘナ以外の方角から飛ばせば疑われないもんなぁ? 二人で攻撃目標の動機と手段を互いに分担した訳だ。何を言われても知らないで押し通ると、ガキの浅知恵かなにかか?」

 

『……そうやって吠えていればいい。貴様は全てを失ったのだからな。これから、どうするつもりだ?』

 

 

 マコトにとっては負け惜しみだろう言葉が放たれる。だが、これは致命打だった。

 

 

『もう金に余裕はないだろう? 確たる証拠もない。頭を下げて、無かったことにすれば、金を出してやらん事もない』

 

「マコト! いい加減黙りな! 言って良い事と悪い事の区別もつかないのかい!」

 

 

 マトは本気で怒鳴った。言って良い事と悪いことがある。マトの怒りで多少は加減しているつもりなのだろう。マコトは意見を変えようとしない。

 

 

『さっきも言ったが。我々が何故、アビドスに金を払う必要がある? 何もないだろう? 頭を下げて、このマコト様に謝罪するだけで──』

 

「しないが? バカだろう。お前。お前が認めようが認めまいが、証拠があろうがなかろうがどうでもいいんだ。どうせ、いつもみたいになあなあで終わる。俺が確証を得られただけで十分なんだよ。お前に謝ってほしいわけじゃないんだ。そもそも、お前の謝罪に価値はないし、金の問題でもない。その段階はとうに過ぎた」

 

 

 カヤツリは頭を下げなかった。それは当然の選択だと言うように。とてつもなく嫌な予感がする。だって、カヤツリはニコニコ笑っているからだ。

 

 嬉しいことがあったとか、そんな笑顔ではない。どこかタガが外れてしまったかのような満面の笑みだ。だが、マコトはそんなものを知るよしもない。挑発を止めない。

 

 

『ふざけた事を……! 一体何をすると……』

 

「お前には代償を払ってもらう。お前の大事な物で清算してもらう。お前はアビドス生の時間を奪った。だからお前の時間も貰う。ゲヘナを滅茶苦茶にしてやる」

 

 

 笑顔とは裏腹なドスの利いた声に、マコトは黙る。その間に、カヤツリは電話を取り出して、誰かに掛けているようだった。

 

 

『バカげたことを。ゲヘナを滅茶苦茶など、そんなこと出来るわけが……』

 

「出来るぞ。ほら」

 

 

 パチンと指を鳴らすと、黒い穴が中空に開いた。そこから見覚えのある三人が出てくる。

 

 

「急に呼んで何……うわ、ナニコレ、酷いね」

 

 

 アイン、ソフ、オウル。そう呼ばれていた三人だ。二人はレールガンを抱えていて、ソフと呼ばれていた方が、シェマタの残骸を見て目を丸くしている。

 

 

「状況は知っているな? お願いをしたい」

 

「何をすればいいんですか……? 直すんですか? 時間が掛かりますよ?」

 

 

 アインと呼ばれた方がとんでもないことを言い出した。今何と言った? シェマタを直す? そんなこと出来るはずがない。出来るとしても時間が掛かると言っている。

 

 でも、カヤツリは首を横に振った。

 

 

「あっちの、やるなと言った方法で直してほしい。あと増やせるか?」

 

「ふふん! 言った通りでしょう! あなたは嫌がりましたが、こっちの方が良いんですよ!」

 

 

 オウルとやらが、喜色満面で胸を張っている。他の二人もどことなく嬉しそうで、オウルは機嫌よく話し出す。

 

 

「そうです。そうです。私たちの性能はこんな物じゃありません。一からチマチマ作るよりも、こっちの方が、もっと効率的なんです。やっとあなたが頼ってくれたんです。景気良くやりますかビナちゃん!」

 

「ああ、周りの全部使って良いぞ。分解して更地にしていい」

 

 

 その言葉と共に、シェマタの残骸と今いる建物の外壁が輝き始めた。白い光る粒状になって、白い巨大なナニカを形作っていく。その形を、マトはよく知っていた。

 

 

「シェマタが……二台」

 

 

 壁が取り払われ、砂漠の真ん中に放り出されたマトたちの前で、二台のシェマタが唸りをあげて起動した。

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