ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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346話 Good morning New World

 あの砂漠での問答から数週間が経っていた。

 

 先生は砂嵐に巻き込まれたものの。運が良かったのだろう。ヒナとマトの二人に回収してもらうことが出来た。すぐさまシャーレまで戻り、ようやく今日で一先ずの対応を終えたのである。

 

 まだ朝だと言うのに、先生はシャーレの椅子に座りつつも疲労困憊だった。目の前には、いつものように仕事が山積みになっている。

 

 

「うわぁ……すごい量だね。これは」

 

 

 山の一番上の書類をひらりとめくれば、書類のタイトルであろう大きな文字が飛び込んできて、先生は眩暈を覚えた。

 

 

 ──オンボス自治区、ゲヘナ学園間の紛争問題について。

 

 

 そのタイトルを見た瞬間。またかと、先生の口から大きなため息がこぼれた。いやな予感がして、書類の山の下の方まで確認すれば、殆ど全てが似たような内容だ。つまりはこれら全てが関連書類であることを示していた。

 

 書類をざっと流し読みする。予想通りに事件としては単純そのもので、ゲヘナとオンボス間の小競り合いであった。だがこれは、氷山の一角でしかない。

 

 この山積みになった書類からわかるように、あの日から同じような小競り合いが毎日のように複数件起きている。最初を除き、今の所はお互いに大きな被害は出てはいないが、こういった事は段々とエスカレートしていくものだ。先生として、早めの対処が必要だった。

 

 そう思いつつも先生は、オンボス自治区の事を誰かに聞こうと、声を上げようとして思いとどまった。何か妙な感じだ。

 

 

「いや、何で聞こうと……? 私は今誰に声を掛けようとしたんだっけ? 疲れてるのかな……」

 

 

 今のシャーレの執務室には先生以外誰の姿も無い。まだ朝も早いから、当番の生徒もいない。声を掛けたところで、誰も返事をするはずがない。それなのに、先生は今何をしようとしたのだろう。誰かに無意識に声を掛けようとした。それもあれだ。オンボス自治区の事を聞こうとするなんておかしい。目の前にパソコンがあるのだから、自分で調べればいいのだ。

 

 

「うーん。これはまた大きな自治区だね。でも、この空白地帯は? 砂漠だからかな……?」

 

 

 ()()()()()()で、パソコンの地図を開けば、オンボス自治区の広大な領地が表示された。しかし、ただそれだけである。どこに何があるとか、そういったものは一切が表示されない。仕方なく、他の検索結果を当たると、幾らか情報が出てきた。

 

 どうにも、何もない訳ではないらしい。砂漠であるから何も表示されないわけではなく、分からないから空白地帯になっていると。更に情報を漁れば、興味深い記事も幾つかあった。

 

 

「昔に大きな砂嵐があったんだね……そこから自力で復興したんだ……」

 

 

 過去。先生がキヴォトスに赴任するよりもずっと前。オンボス自治区をこれまでにない砂嵐が襲ったのだという。全てが砂に埋まりこのまま滅ぶかと思われたオンボスであったが、自治区の住人の尽力で何とかそれを乗り切ることが出来たと。

 

 そしてその時、オンボスを連邦生徒会は援助しなかったらしい。それは強大なオンボスを弱体化させたい勢力があったからとか、陰謀論じみたモノばかりではあるが、援助しなかったという事実は確からしかった。その時から、オンボスは鎖国状態なのだという。連邦生徒会の立ち入りを拒み続け、連邦生徒会に在籍していた在校生を全員引き上げさせた。

 

 オンボスからしたら当然かもしれない。肝心な時に助けてくれない組織の存在意義は無いし、そこに協力するだけ時間の無駄だろう。これを言うだけなら簡単だが、事はそう簡単ではない。独立するという事は、全てを自治区で賄うという事。何があっても自分で責任を取るという事。誰にも助けを求める事が出来ないというのは、リスクが高い。

 

 だから他の学園はそうしている。幾ら上手くいかなくても、互いが気に入らなくても、もしもの時のために、そうしている。

 

 つまり、連邦生徒会の助け無くしての運営は困難を極めるということ。確かに災害に対しての救援は無かったが、他にも連邦生徒会の役割はいろいろあるのだ。

 

 インフラや学園間の仲裁、それにキヴォトスの方針を決めるのは連邦生徒会だ。各学園はそのために自身の在校生を連邦生徒会役員として送り込んでいる。他の学園もそうしているのは、それなりに効果があるからだ。それをオンボスはあっさりと捨てた。

 

 その決断から時が経った未来である今なら、その理由が分かる。

 

 オンボスは自立することにしたのだ。砂嵐の時には誰も助けてなどくれなかった。その教訓を胸に、オンボスの人間達は行動した。

 

 その結果出来上がったものは、未だにそこにある。それが、彼ら彼女らの判断が正しかった事を証明していた。

 

 その結果が現在のオンボス自治区。恐らくはキヴォトスで唯一と言っていい、連邦生徒会の手が届かない。企業と生徒が運営する学園である。

 

 

「セイント・ネフティス……」

 

 

 モニターにでかでかと表示された三角形。オンボスに展開する大企業、セイント・ネフティスのロゴに先生は渋い顔になった。

 

 協力していると、オンボスは表向きそう言っている。だが実際はどうなのだろう。先生はモニターから目を離した。

 

 何せ、至る所で目にするロゴだ。それほどの大企業であることが分かろうものだ。カイザーと肩を並べられると言えば分かりやすいか。カイザーは生徒を慮りはしなかった。あの時などは借金漬けにして……

 

 

「……いや、連邦生徒会に攻め込んだくらいだよね。くらいってのもおかしいけど」

 

 

 そして、腹立たしくも対抗馬になり得るカイザーは、先日の連邦生徒会襲撃で弱体化してしまっている。もう誰もネフティスを、オンボスを止められない。あの時の瀬戸カミガヤの怒りは尋常では無かった。あの報復も当然の結果だったろう。

 

 

「何でミサイルなんか……」

 

 

 カミガヤが激怒していた理由、それは言葉にすれば単純明解。ゲヘナと連邦生徒会の防衛室が裏で手を組んで、ミサイルをオンボスに打ち込んだのである。

 

 悲しい事に動機も単純だ。防衛室の不知火カヤは、連邦生徒会の言うことを聞かないオンボスが気に入らなかった。そして尚且つ、それを良しとする連邦生徒会にも。

 

 そしてゲヘナの万魔殿議長の羽沼マコトは、オンボスの持つ列車砲シェマタと、砂漠横断鉄道が気に入らなかった。

 

 二人の目的は部分的に一致していた。目指すところは違えど、破壊対象は一致していたのだ。二人が手を組むのは当然の帰結だったろう。そして、それは途中までは上手くいった。行ってしまったのだ。

 

 

「これは……」

 

 

 報告書を捲れば、瓦礫の山の写真がいくつも載っていた。周りの野次馬の制服や様子から、ゲヘナとD.U.地区であるのが分かる。

 

 これは、オンボスによる報復措置であった。奇襲を受けたオンボスは、その下手人に向かってシェマタの砲口を向けた。結果は写真の通りである。撃ち込まれたミサイルの数の分だけ律儀にお返ししたらしい。被害の無かったオンボスとは違い、撃った方の被害はとんでもないものだが。

 

 ぺらぺらと、先生は報告書の続きを捲る。今朝までに破壊された建物の概要が載っていた。

 

 

「ものの見事に防衛室と万魔殿の関連物件だけだね。それに今朝のも……」

 

 

 今朝破壊されたのは、万魔殿の物だ。それがドンドン、万魔殿の本部へと近づいている。どう考えても、これは警告だった。ヤクザとかが良くやる様なあれだ。今朝の報復を見るに、マコトは全く堪えていないようだが。

 

 まだ何かないかと、パソコンで情報を漁ってみるも。めぼしい情報は何もなかった。あるのは真偽の定かでない噂ばかりだ。この世界は間違っているとか、裏の支配者に支配されているとかなんとか。完全に陰謀論だ。

 

 

「……そろそろ、いかないと」

 

 

 先生はパソコンの電源を切った。そろそろ始業時間であるし、今朝のゲヘナへの砲撃について、此方でも情報を集めなければならない。オンボスへの対処をするにも情報は必要だ。最悪、先生が頭を下げなければならないだろう。それで許してくれるとは思えないが、流石にゲヘナを更地にするわけにはいかない。

 

 

「……あれ? 前にも……」

 

 

 どこか既視感を感じた。同じような事を、先生は考えたことがあるかのような。そして、その考えが間違っていたのか、良い結果に終わらなかったのか。あまりいい後味ですらない。しかし、いくら考えても、それがいつの事だったのか思い出せない。

 

 

「……これで大丈夫だよね?」

 

 

 誰に投げたのか、また自分でも分からない呟きが零れる。忘れ物はないはずなのに、何かを忘れているような嫌な感覚が残っている。

 

 

「服は大丈夫。カバンも、書類も、財布も、カードも。それに携帯電話もあるね……」

 

 

 鞄を探って、持ち物を一つ一つ確認する。おかしい。何かがおかしい。何か大事な物を幾つも忘れている気がするのだ。それは、執務室を出ても、しつこく先生の中に残り続けていた。

 

 

 □

 

 

「待ってましたよ。先生」

 

 

 万魔殿本部に到着すると、イロハが気だるげな様子で先生を待っていた。

 

 

「どうしたの……凄い隈だけど……」

 

「ああ、これですか。理由は言わずとも分かるんじゃないですか? マコト先輩に話があるんでしょう?」

 

 

 イロハの目の下は隈が出来ている。化粧をしているのか、ファンデーションか。何かで隠してはいるようだが、無駄な抵抗にしかなっていない。

 

 その事に触れずに、先生は頷く。

 

 

「うん。マコトに話がね」

 

「それでまさか、一人で来たんですか? 危ないと思うんですが」

 

「あ……」

 

 

 今更の事態に先生は震える。ゲヘナは治安が悪いのは分かっていたのに。防弾ベストや護衛も無しに足を運んでいる。その自らの能天気さにだ。イロハは呆れた様に肩をすくめている。

 

 

「今のマコト先輩が先生を拉致する気とは流石に思えませんが……切羽詰まってますから。気をつけてくださいね。それで、オンボスの事でしょう? 前連邦生徒会代行からは何か言われましたか? こっちに全部押し付けて来たんじゃ?」

 

「ううん。まずはマコトから話を聞こうと思ってね」

 

 

 そう言うと、イロハは驚いた顔をした。マコトが居るだろう本部への先導をしながらも、何故と聞き返してくる。

 

 

「確かに、シャーレからはゲヘナより連邦生徒会が近いけどね。今カヤはそこに居ないんだ」

 

「おや? 流石に身内に甘い連邦生徒会とはいえ、降格だけとはいきませんでしたか」

 

 

 少し嬉しそうな顔になって、イロハの足取りが軽くなる。

 

 

「もしかして、矯正局行きですか? 身内が庇わないとは、よっぽど嫌われていたか。強引な手段を使ったんでしょうね」

 

「あー……ちょっと違うね」

 

「違うんですか? でも、先生はゲヘナを優先してくれたんですよね? どういうことですか?」

 

 

 先生は何とも微妙な顔になる。これを言うのは、あまりいい気分ではない。

 

 

「カヤはね。今は病院に居るんだ」

 

「……ああ、まさか。あの警告を無視したんですか?」

 

 

 イロハの言う警告とは、オンボスからの物である。オンボスは砲撃をする際に、その場所をしっかり宣言する。避難の時間を与えてから、砲撃を開始する。それは最初の報復の時ですらそうだった。

 

 イロハが言いたいのは、カヤがそれを無視して、砲撃に巻き込まれたのではないかと言う事だ。

 

 

「いいや。カヤは無事だよ。身体には傷一つないし、砲撃はカヤの居るところには撃たれていないからね。マコトもそうだったはずだよ」

 

「じゃあ、何なんです? 身体が無事なら病院には……」

 

「カヤは変になってしまったんだよ。だから病院に居る」

 

「もしかして、ここですか?」

 

 

 イロハは自分の頭を指差した。渋々先生はそれに頷く。

 

 別に正気を失ったとか。情緒を失って無軌道に暴れているとか。そういった事態は起きていない。むしろ、その方が良かったのかもしれない。

 

 

 ──オンボス? なんです? それは? オンボスなんて聞いたことありませんよ。アビドスでしょう。あそこは。

 

 

 それが捕まったカヤの第一声だった。それからの証言も似たようなモノばかり。オンボスなんて知らないとか。あそこは滅びかけの自治区だとか。私は超人だとか。そんな現実味の無いことばかりを並び立てるのだ。

 

 どう考えても、妄想に取りつかれていた。その妄想が正しくはあっても、矯正局行きは免れないだろうが、カヤは頑なにそれを認めようとしない。

 

 仕方なく、心神喪失と判断されて今は隔離病棟に居る。そう言われたカヤは、捕まった時よりも衝撃を受けていた。それに追い打ちをかけるような真似はしたくなかった。

 

 

「まあ、前代行のことはいいです。それでマコト先輩の事なんですけど……」

 

「まだ、諦めてないの?」

 

 

 一番あり得そうな想像に、イロハは、はいともいいえとも答えない。さっきの先生の様に、答えに困る顔をしている。

 

 

「一部分ではそうです。だから、こんな風になっているんですけどね」

 

 

 どこか草臥れた自身を指差して、振り返ったイロハは疲れた様に笑った。

 

 

「今のゲヘナの現状はあまり良くありません。いえ、悪くなってきていると言うのが正しいでしょう」

 

「悪くなってきている? それはマコトが何かしているから?」

 

「いいえ。そうだったらよかったんですけどね……」

 

 

 イロハは再び前を向いて、今度はゆっくりと歩き出した。

 

 

「……ゲヘナに展開している企業がですね。撤退を始めたんですよ。それとハイランダーも。お陰で、ゲヘナの経済基盤が滅茶苦茶になり始めています」

 

「それは、砲撃の所為?」

 

「直接の原因はそうですね。ハイランダーも無賃乗車が横行していて苦情が来てましたし、彼女らが管理する砂漠横断鉄道を攻撃したのも良くなかったです。オンボスは物流の中継地ですから、ハイランダーにとっては無くてはならない存在です。そして、それは他の企業もそうなんですよ。オンボスの砂漠横断鉄道のお陰で成り立っている所もあるでしょうから……」

 

 

 先生は顔を顰めた。マコトの事だから、またちょっかいを掛けているに違いない。そのせいで、砲撃が止まない。

 

 

「マコトを止めるよ。それで……」

 

「無理だと思いますよ? 絶対にマコト先輩はちょっかいを止めません。いえ、止められないと言いましょうか……」

 

 

 イロハはため息をついているが、先生には理解しがたい。流石のマコトも、そこまでではないはずだからだ。自身が行動すれば、ゲヘナが破壊される。もしかしたらイブキに被害が及ぶかもしれない。そんな状況下で軽率な行動をとるだろうか。

 

 

「イブキとか、ヒナとか、マトとか。マコトを止められる人はいるんじゃないかい?」

 

「……こんなことは言いたくないんですけど、ある意味ではイブキの所為なんですよ」

 

「イブキの? どうして? イブキがオンボスを何とかしてとか言ったの?」

 

「まさか! 逆ですよ逆。イブキはむしろマコト先輩に怒ったんです。がっかりしたとでも言いますか……イブキはいい娘ですが、今回はそれが良くなかったんです」

 

 

 イロハのため息はもっと深く、大きくなった。

 

 

「先生はゲヘナの校風と言うか。基本的な考えを分かってますか?」

 

「好きなことに一生懸命?」

 

 

 恐ろしくオブラートに包んだ表現に、イロハは苦笑いしていた。

 

 

「ある意味でそれは合っているんです。ですけど、何でもという訳にはいきません。自分の力で、堂々と。それが尊ばれるんですよ。それで、今回のマコト先輩の行動は、ゲヘナの校風から見ると、あまり良くはないんです」

 

「ああ、それは……」

 

 

 今回のマコトの行動は、ゲヘナの校風から見れば相反するものだ。自分の力ではない。カヤの持つカイザーの巡航ミサイルを使用した。堂々とではない。カヤを隠れ蓑に責任から逃げた。その上、失敗した挙句にこれだ。

 

 

「イブキはマコト先輩に言ったんですよ。恥ずかしいって。先輩として恥ずかしいって。イブキが知っているのは、自信満々でゲヘナの為に行動しているマコト先輩ですからね。イブキにとっては夢が壊れたみたいで、ショックだったんでしょう」

 

 

 また分からなくなった。もし、イブキにそうマコトが言われたのなら。暫くは立ち直れない筈。オンボスにちょっかいを掛けるような真似はできないはずだ。

 

 

「なのに、そんなに元気なの?」

 

「先生はマコト先輩が風紀委員長に当たる理由。知ってますか?」

 

 

 イロハは先生の質問には答えずに、逆に聞き返してきた。悲しいが、幾つかの理由しか思い浮かばない。

 

 

「気に入らないから?」

 

「まぁ、纏めるとそうなんですけど」

 

 

 ちょっとだけ、イロハは立ち止まって先生を見た。

 

 

「マコト先輩は賢いです。自分の力量もちゃんと分かってます。だから羨ましいんですよ」

 

「ヒナが?」

 

「ええ、当然でしょう。あれだけ強ければなんだって出来ますからね。ゲヘナの頂点にだって立てるでしょう。風紀委員長はマコト先輩の求める物を持っている。いくら願っても手に入らないモノを。それを風紀委員長はぞんざいに扱うんです。あまりいい気はしないでしょう?」

 

「でも、マコトの頭の良さも強さなんじゃないの?」

 

 

 強さとは、それだけではないはずだ。先生はそのことを知っている。でも、イロハは声を小さくして言うのだ。

 

 

「そこで、さっき言ったゲヘナの校風が関わってくるんです。マコト先輩のそれが強さだと、私たちは分かっています。風紀委員長だってそうでしょう。でも、他のゲヘナ生はそうとは見ません。マコト先輩自身ですら、そう思っているんです」

 

 

 何となく、外の世界の刑務所の話を思い出した。刑務所の中の罪人たちは、自らが服役している刑でマウントを取るのだと言う。そして、刑にも貴賤がある。女子供への暴行など自らよりも弱い者に対する犯罪行為は下に見られがちなのだと。

 

 

「マコト先輩だって、今更風紀委員長のように強くはなれません。イブキが恥ずかしくない方法でオンボスには勝てません。でも、諦めるわけにも行かないんです。だから、まだ情報部を使ってオンボスを探ろうとしています」

 

「それは難しいんじゃ……」

 

「はい。あそこは周りが砂漠と砂嵐で囲まれた天然の要塞です。経路は整備された道路と砂漠横断鉄道のみ。今朝も一人見つかって郵送されてきましたよ……」

 

 

 イロハの郵送と言う言葉が場違いだった。そんなまるで、物みたいな言い方に嫌な悪寒が背中に走る。

 

 

「郵送って?」

 

「オンボスが送って来るんです。散々に痛めつけた情報部のスパイを、関節を外してまで、小さな段ボールに梱包してね。お陰で、もう二度と行きたくないと言うんですよ。マト先輩も無理でしたし……」

 

「マトが……?」

 

 

 先生は戦慄した。マトは変装の達人である。それが無理だと言うのが、どうにも信じられなかった。

 

 

「自治区内に入る前に見つかったらしいですよ。数十人の警備の生徒たちに袋叩きにされたそうです。皆同じような見た目で、全員が恐ろしく強かったそうで。しかも一人一人が、風紀委員長といい勝負をするかもしれないと言うんですよ」

 

 

 聞けば聞くほど、マコトの思うようには進まない気がしてきた。早く止めねばならないが、それが出来る人間を一人思い出す。

 

 

「ヒナは? ヒナは止めそうなものだけど……」

 

「風紀委員長。いえ、風紀委員会はそれどころじゃないんです。鬱憤が溜まってオンボスに突撃する生徒たちを止めないといけませんから。私なんかよりも眠れてないんじゃないですか。マコト先輩を止める余裕なんかありませんよ」

 

 

 なら、マコトを止める人間はもういない事になる。ここは先生の出番だろう。マコトの暴挙を止めなければならない。

 

 そこまで考えて、ヒナの事を先生は思いつく。そんなに眠れていないのなら、先生が手伝えば少しは効率化が図れるだろう。マコトの説得に失敗したなら、ヒナのケアが必要だ。

 

 

「そうだ。モモトークで……あれ?」

 

 

 携帯電話には、モモトークが入っていなかった。いつも執務室で仕事をしているせいだ。パソコンの方で応対していたから、携帯には入っていないのだ。

 

 

「……しょうがないな」

 

 

 仕方なく先生は携帯を仕舞って、イロハの後ろをついていく。

 

 どうして携帯にモモトークが入っていないのか、どうしてずっと違和感が付きまとうのか、どうして今更オンボスの事を調べ始めたのか。それらの理由を深く考えないままに。

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