ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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347話 静かなる侵略

 昼が過ぎ、まだ夕方と言うには早い時間。丁度間食が食べたくなる頃に先生はシャーレへ帰ってきた。

 

 カードキーを翳してロックを解除。この階段を登って、そのまま執務室のあるフロアへと踏み込めば、シャーレの匂いが先生を出迎えてくれる。

 

 

「つ、疲れた……」

 

 

 だが途中で力尽きた先生は鞄を傍の床に置いた後、疲労のあまりに踊り場の壁にもたれ掛かった。肩を動かせばバキバキと音を立てて鳴って、先生の身体が悲鳴を上げた。

 

 これは名誉の負傷であった。内容としては大した事はない。単純にマコトの話をずっと同じ姿勢で聞いていただけだ。

 

 イロハに案内された先にマコトは居たが、どうにも様子がおかしかった。記憶にある大胆不敵な顔ではなく、何というかゲヘナらしくない笑顔で仕事をしていた。

 

 

 ──サツキ先輩ですか……

 

 

 その答えはイロハが簡単に教えてくれた。どうにも、万魔殿の一人、京極サツキがマコトを元気付けようと催眠術を使用した結果らしい。

 

 話してみれば、オンボスの爆撃を画策したとは思えない人の良さで、品行方正という言葉が頭に浮かぶ。まるで猫型ロボットの秘密道具に落ちたみたいだ。そのマコトの様子は先生にとっては、普段の様子と乖離が激しく。気味の悪さが優った。

 

 だが、この様子ならオンボスへのちょっかいは掛けないはずである。イロハに聞けば直ぐに分かるという。

 

 本当に、その答えはすぐに分かった。

 

 

 ──ハッ……私は何を……

 

 

 先生の目の前で、マコトが正気? に戻ったのである。垂れていた眦は普段のように釣り上がり、ギロギロと目だけが辺りを見渡して、先生とイロハを捉えた。

 

 

 ──む。イロハ、イブキはどこに……あ? 先生か? イブキを知らないか?

 

 

 何となく嫌な予感がして、イロハを見れば、イロハが溜め息をついていた。

 

 

 ──第二校舎にいると思いますよ?

 

 ──何故だ? もうすぐ昼ではないか、そろそろ来るはずだ。ちゃんとデザートのプリンも……

 

 ──……お昼は一人で食べるそうですよ。

 

 

 そこで、マコトは全てを思い出した。思い出してしまったのだろう。そのまま重力に引き摺られて、床に倒れ伏した。

 

 

 ──イブキ……イブキ……

 

 

 悲しみと無念しか感じ取れない嘆きの声。よく見れば、苦悶の表情を浮かべたままマコトは気絶していた。

 

 このままでは話もできない。目を覚ましては、オンボスの復讐かイブキへの慟哭を叫ぶマコトを宥めてすかして、オンボスへの愚痴を只管に聞き続けた。そのお陰もあってか、マコトは落ち着いた。ただし、それだけだったが。

 

 イロハの言う通りに、マコトはオンボスを何とかして初めてイブキに許されると思い込んでいた。思い込むしかなかったのかもしれない。

 

 マコトは強情だった。先生の説得に頷かない。どうにも止まらないので、結局は再びサツキの催眠術で止める事になった。

 

 話を聞けば、もうこれでしか止まらないらしい。恐らくはイブキが許すか、マコトか周りが諦めるか、催眠術で記憶が飛ぶまで続く。いつ終わるか定かではない。明日か明後日か、もしかしたら一年後か。

 

 マコトにとっては地獄だろう。現実の時間は過ぎるのに、催眠術で切り替えられる所為でマコトの時間は進まない。精神の牢獄だ。

 

 ゲヘナの運営は残りのメンバーで何とかするだろうが、きっと大変だろう。サボり癖のあるイロハが寝れていないくらいだ。今頃も全員で何か考えているのかもしれない。

 

 

「ここで何してるの!?」

 

 

 どうしたモノかと考えていると、突然の大声が先生の鼓膜を揺らした。怒鳴っているような大声ではあったが、今にも泣き出しそうな響きもある声だ。それが上階から響いて来ていた。

 

 

「違います! 誤解です! 何もしてません!」

 

 

 どうやら二人ほどが言い争っているらしい。今いるのは階段の踊り場だから声が響きやすいのを加味しても、相当の大声だ。お互いに言い争っているせいか、段々とヒートアップしていくのが会話からわかる。

 

 急いで疲れた身体に鞭打って、階段を駆け上がる。ここから上は、シャーレの執務室しかない。ともなれば、二人は執務室の扉の前で言い争っているはずだった。考えたくは無いが、当番がブッキングでもしたのかと冷たい汗が背中を流れる。

 

 そして階段を駆け上がった先。シャーレの執務室の前では、二人の生徒が言い争っていた。一人は小柄で白髪のミレニアム生。もう一人は制服ではなく黒いドレスを着た長身の生徒だった。

 

 二人は先生が来たことに気づいていないようで、何やら言い争っている。

 

 

「昨日皆に何したの!? 今日は先生!?」

 

「だから! 違うと言っているでしょう!? もう私にそんな力はありません! ここに来たのは──」

 

「じゃあ、なんで覚えてるの!? こんなことが出来るなんて、あいつ等か、その仲間くらいしか──!?」

 

 

 向かい合った肩越しに先生の姿を見たのだろう。銃を突きつけたままの長身の生徒、シロコが目を見ひらいた。固まったシロコに続けてミレニアム生、ケイと目が合う。

 

 

「先生……ようやく見つけましたよ! なんで無視するんですか!? 一体どれだけ心配したと思って!?」

 

「何!? 何なの!?」

 

 

 困惑する先生に、ケイが怒り心頭の顔でズンズン近付いてきた。自分自身の腰に手を当てて、ユウカのように言葉を投げつけてくる。

 

 

「とぼけてるふりは止めです! ずっと私がモモトークを送っているのに無視をして! 昨日から大変なことが起こっているんですよ! こんな状況で、一体どこに行ってたんですか!?」

 

「何って、ゲヘナだけど……」

 

「ゲヘナ? 今ゲヘナって言いましたか!?」

 

 

 ケイの怒りは止まらない。信じられない。そんな表情のままに先生に食って掛かってくる。

 

 

「あんなところに何で行くんですか!? 行くなら別の場所でしょう!? おかげで私はここで待ちぼうけですよ!? ここでこのまま死ぬかと思ったんですからね!?」

 

「ん。いきなりそんなことはしない」

 

「でも、出来るんでしょう? あなたとは違って、私はもう無力なんですよ。かつてのようにはいきません。アトラ・ハシースの方舟もないですし、アリスもその力はありません」

 

 

 ケイはシロコに銃を向けられていたのが心底恐ろしかったらしい。ケイはもう、名もなき神々の力は使えないからだ。王女たるアリスの力はもうない。鋼鉄大陸でアリス自身が捨ててしまった。だから、シロコに抵抗はできない。方舟襲来の際の力は恐ろしいものだったからだ。

 

 兎も角、シロコは納得したのか。ケイから銃を下ろしていた。先生は胸を撫で下ろした。

 

 

「それで、二人とも。私に何か用?」

 

「……何言ってるの? 先生。冗談を言ってる場合じゃ……まさか、先生も?」

 

 

 用向きを聞いただけなのに。シロコが絶望しきった顔を浮かべている。隣のケイも難しい顔だ。いったいなぜそんな反応をされるのか。先生にはその原因が全く思い浮かばなかった。

 

 

「……先生。あの砂漠の自治区。なんていうんでしたっけ?」

 

「オンボス自治区でしょ? 違うの?」

 

 

 シロコの絶望具合が増し、ケイの眉間の皺が深くなった。ケイは何やらぶつぶつ呟き始める。

 

 

「どうして先生が影響下に? オーパーツであるシッテムの箱が守ってくれるはず……」

 

「何、それ? 私はシッテムの箱だっけ。そんなの聞いたこと無いんだけど」

 

 

 二人の目が先生を射抜く。それに乗っているのは本気で言っているのかという感情だとすぐに分かった。本気も何も、先生はそれを知らない。

 

 

「ん! 鞄貸して先生!」

 

 

 はい、と言う暇も与えずに。シロコが先生から鞄をひったくった。ケイもシロコと協力して鞄の中身をひっくり返し始める。あまりの早業で、先生は怒るに怒れない。

 

 

「ない! ない!! ない!!!」

 

「本当の丸腰でゲヘナに行ったんですか!? 本当にバカなんじゃないですか!?」

 

 

 目当ての物が見つからなかったのだろう。二人は先生に詰め寄って問いただして来た。

 

 

「先生! シッテムの箱は!? あのタブレット端末はどうしたの!? 私の先生から託された、あの娘はどうしたの!?」

 

「ごめん。本当に、何を言っているかわからないんだけど……」

 

 

 シロコはがっくりと肩を落とした。とてもショックだったらしい。慰めたくとも、先生は未だに状況がつかめなかった。タブレット端末が関係していることくらいしか分からない。

 

 

「……いえ。テクスチャをどんなに弄ろうと。オーパーツである以上、あれは消せないはずです。無名の司祭たちですらそうはできなかった。なら……」

 

 

 ケイの目が執務室の扉に向いた。先生が止める間もなく、扉の錠部分を一気に破壊して、二人は執務室になだれ込んでいく。

 

 

「シッテムの箱を使用したという過去があって今があるんです! そうしなければ乗り越えられなかった。なら、全ての過去を塗り替えたわけじゃない。一番最初のアビドスからであるならば、絶対にここにあるはずです! 絶対にこの部屋です!」

 

 

 ケイが叫んで書類をひっくり返し、シロコがロッカーや棚をひっくり返す。今朝出て行った時に綺麗だった部屋は、アッと言う間に床が紙まみれになった。先生があっけにとられているうちに、シロコが目的の物を見つけ出したらしい。あったと大声で叫んで、先生に向かって何かを突き出してくる。

 

 

「早く! 受け取って! 先生しかこれは起動できないの!」

 

「……どうすればいいの?」

 

 

 先生は分からない。だって、何もないのだ。シロコの手には何もない。そうとしか見えなかった。

 

 

「パスワード。確か、最初にパスワードがいるって……」

 

 

 シロコの言葉に、先生は記憶を辿ってみる。近い方の最初は方舟襲来で、次はアリウス自治区への突入と再びのミレニアム。そして、エデン条約だった。最後はミレニアムのゲーム開発部……本当に?

 

 ふと思う。このシッテムの箱を先生はどこで手に入れたのだろうか。そう、キヴォトスに来た時の一番最初の記憶だ。

 

 

 ──私のミスでした。

 

 

 キヴォトスへ赴任する直前。先生は誰かと話した気がする。そこで確か、何かを自分は聞いたはずだった。ここへ来るときに一番最初に聞いた言葉は、一番最初の言葉は──

 

 

「我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を」

 

 

 何かがひび割れる音がした。一度だけだったそれは、段々と連続して周りへと広がっていく。

 

 

『『先生!』』

 

 

 アロナとプラナの叫びが聞こえて、先生は漸く靄が晴れたような気がした。くらくらする頭を押さえて手を見れば、見覚えしかないシッテムの箱が収まっていた。

 

 どうして忘れていたのだろう。ずっと自分を守って、助けてくれたはずの物だったのに。

 

 

「それは、テクスチャを張り替えられてしまったからですよ」

 

 

 ケイが安心したように言う。

 

 

「そのシッテムの箱はオーパーツです。以前も言いましたが、世界をリテクスチャできる代物ですよ。前の世界にもあったものですから、テクスチャを張り替えたところで消えません。サンクトゥムタワーだって、アトラ・ハシースの方舟も、ウトナピシュティムの本船もそうです」

 

「じゃあ、違うんじゃない?」

 

 

 テクスチャを張り替えられて消えないと言うのなら、先生はこんな風にはなっていない。丸腰でゲヘナを散策するなど、今頃になって震えが来た。

 

 

「ええ、消せませんし、正式な使い手である先生以外の手出しもできない上に傍を離れない。でも先生の認識を弄る事は出来る。先生はシッテムの箱など使っていなかった。そういう風に張り替えたんですよ」

 

「ん。先生。私の事を覚えてる?」

 

「シロコだよね? 砂狼シロコ」

 

 

 そう言ってくるシロコに、しっかりと先生は頷く。けれどシロコは喜ばなかった。

 

 

「じゃあ、他のみんなは覚えてる? こっちの世界のアビドスの皆は?」

 

「こっちの世界の皆……?」

 

 

 晴れたと思った霧がまた立ち込めてきていた。目の前の生徒がシロコだと言う事は分かる。二人の先輩を連れてこちらへ来たのも知っている。でも、皆と言うのが全く分からない。

 

 

「まずは、状況を整理しましょう。先生はどこまで覚えていますか?」

 

 

 荒れた部屋を整理しながらもケイが言うので、先生は頭を回転させた。

 

 

「……オンボスの位置にアビドスがあったって事くらい? と言うよりも、細かい記憶が曖昧なんだ。方舟襲来とかの大きな出来事は覚えてるんだけど、それ以前があやふやで……」

 

 

 大きな事件と、その顛末しか頭に浮かばないのだ。記憶に靄が掛かっている。

 

 

「なるほど。重症ですね。まだ完全に脱したわけでは無いようです。シッテムの箱に紐づけされた事実だけを思い出したようですね」

 

 

 少しだけケイは残念そうだったが、それだけだ。シロコも絶望しきった表情にはなっていなかった。

 

 

「まず、私が観測した限り。テクスチャが張り替えられたのは昨日の話です。驚きましたよ。もうないと思っていた名もなき神々の力が発動したと思ったらいつの間にか、三大校並の勢力が出現したんですからね」

 

「……ケイは何で気づいたの? それに、シロコも」

 

 

 先生を含めたほとんどの生徒は、この状況を不可思議には思っていなかった。ケイとシロコだけが例外だった。

 

 

「私はほら、かつての使命が同じようなモノでしたから。テクスチャの変更前と変更後を確認できなくてはいけないので、耐性があります。それに、彼女たちがいたんです」

 

「彼女たち?」

 

 

 先生は首を傾げる。ケイの言う人間が誰だか分からなかったから。

 

 

「アイン、ソフ、オウルです。あの三人が生きて、何故かオンボスからミレニアムの転入生扱いで居るんです。本人たちもそういう認識でした。テクスチャの影響下にあります」

 

「え? なんで……?」

 

「私にも分かりません。彼女たちは……」

 

 

 死んでしまったはず。ケイの言いたいことは分かった。ケイとの間に暗い雰囲気が満ちるが、シロコが知ってか知らずかそれを粉砕した。

 

 

「私は、これのお陰」

 

 

 ケイとは違い、シロコは写真を取り出した。見てみれば、シロコ以外誰も映っていない。

 

 

「これは、方舟の事件が終わった時にみんなで撮った写真。先生の端末で撮ったもの。それをこの世界で現像したものなの」

 

 

 以前にプラナが先生に頼んで渡したモノの正体が今分かった。シロコは懐かしそうにそれを指でなぞる。

 

 

「こっちの世界の写真には皆が映ってた。ホシノ先輩に、ノノミ、セリカ、アヤネ。でも、皆消えた。朝起きたら、皆写真から居なくなってた」

 

 

 それで二人はここに来たようだった。今更モモトークを開いてみれば、おびただしい数のケイからの連絡が来ている。ケイは応答がないのにここまで来て、シロコも連絡が取れないからここまで来た。そして、鉢合わせしたのだろう。

 

 

「シロコはどうしてケイの所為だと思ったの?」

 

「ん。そういうことが出来るのは、アイツ等しかいないから。そのケイって娘からは、アイツらの匂いがプンプンするの」

 

「体臭みたいに言わないで下さい……」

 

 

 ケイは心外そうに顔を顰めている。誰だって臭いと言われて気分が良くはない。先生も臭いと言われたら泣き叫ぶくらいはする。

 

 

「シロコさんは、以前の色彩の影響。正確には無名の司祭の影響ですね。それを覚えていて、それが匂いという感覚で出力されているんでしょう。私を作ったのは彼らですから」

 

 

 それなら、あの雰囲気にも納得がいく。写真から皆が消えて、先生に会いに行ったら。元凶の疑いがある人間が匂いをプンプンさせてそこに居る。銃位向けるだろう。そこへ先生が帰ってきた。

 

 

「私の匂いは兎も角、今の現状は、昨日からアビドスをオンボスというテクスチャが覆っているんです。私たちはそれを何とかしなければいけません。再び名もなき神々の力が観測されるなんて、尋常な事態ではありませんから。これは静かな侵略です」

 

「二人の言う、テクスチャが張り替えられたっていうのがよく分からないんだけど……何か問題なの?」

 

 

 先生は話に着いていけなくなっていた。侵略というのは言い過ぎではないか。今のところ、オンボスは悪い事はしていないように思う。ゲヘナと連邦生徒会への攻撃は道理にかなっているからだ。

 

 

「シロコの言う皆は、一緒に探すよ? オンボスに居るんでしょ?」

 

「……多分、私の知ってる皆じゃない」

 

「どういうこと……?」

 

 

 シロコが悲しそうにする理由が分からない。アビドスからオンボスに代わっただけで、中に住んでいる人間の人となりが変わるのだろうか?

 

 

「その写真の皆さんは、アビドスの生徒です。そこに居るのはアビドスがアビドスであったから、そんな導線でここに居るんでしょう?」

 

「うん。皆はアビドスが借金に苦しんでいたからここに居た。出会えた。でも、今のアビドスはオンボス。借金に苦しんだ過去が無い、そうはならなかったアビドス。だったら、そこに居る皆は、私の知ってる皆じゃない」

 

「過去というものは存在しません。物理的には存在せず、私たちの頭の中にしかない。それが書き換わってしまえば、誰もそれを証明できない。世界に居るとは言えない。だから、辻褄合わせで写真から消えてしまったんでしょう。それは存在しない筈の人たちだから。そして、先生も思い出せない。会っていない筈の人達だからです。そして、今までの事も、各々が勝手に辻褄を合わせるんですよ。過去とは、もう終わったことだからです。過去の断片を見て、ああこうだったなと勝手に考える。分かりやすく言うなら、セーブデータを書き換えられているんです」

 

 

 シロコの獣耳が萎れていた。それはそうだろう。シロコは皆に会いたいのだ。世界が違っても、かつて居た仲間に会いたいのだ。

 

 

「じゃあ、テクスチャを元に戻せばいいの? これで出来る?」

 

 

 シッテムの箱を先生は掲げた。リテクスチャと言うくらいだから、きっと出来るはず。でも、ケイは首を横に振る。

 

 

「いえ、それは止めた方が良いです。規格が合いません。学園都市というテクスチャごと剥がす羽目になります。もっと簡単な方法がありますよ」

 

「一応聞くけど、どうするの?」

 

「勿論、この事態を起こした人間に戻してもらうんです。ここまで精密にやっているのなら、戻せるはずですよ。態々テクスチャを張り替えて、あの三人を蘇らせるなんて、あまりいい目的ではなさそうです。このテクスチャの張り替えといい、デカグラマトンを思い出しますね……」

 

 

 先生はケイの提案に、直ぐに頷くことが出来なかった。何故かそうできない。心のどこかから、止める声があった。

 

 

「……まずは情報を集めようか。その人がどうしてこんなことをしたのか。それを知るところから始めよう」

 

「それなら、まずは先生の認識阻害を何とかしましょう。私はアビドスの事は知りませんし、そこのシロコさんも世界が違う。最初はそこです。私たち以外にアビドスの事を知っている人が居ればいいんですが……」

 

「いるよ」

 

 

 ケイの言葉に思い至る人間が居た。先生が気づく前よりも早く、オンボスをアビドスだと言った人間。それは一人だけいる。

 

 

「カヤだよ。不知火カヤ」

 

「……ああ、オンボスにミサイルを撃ち込んだとか。まあ、犯人ではないでしょうね。撃ち込む相手の勢力を増す意味はありませんし、今は隔離病棟でしょう? しかし、どうして……?」

 

 

 先生もケイの考えに同感だった。もしカヤが犯人なら、あまりにも間抜けすぎるし、動機が無い。

 

 

「今の先生と同じだと思う。一瞬とはいえ、連邦生徒会長になった。なら、その時に何かに触ったのかも」

 

「偶然に何かのオーパーツに触れたと? そういう事ですか? しかし、それだけでは……いえ、あり得るかもしれません。触れたオーパーツが、観測機器だった場合はあり得ますね」

 

 

 ケイもシロコも、とりあえずは今の方針には満足らしい。なら、何時ものように行くべきだ。

 

 

「アロナ、プラナ。ちょっとお願いしてもいいかな」

 

 

 二人の元気な返事を聞きながら、先生はこれからどうするべきか考え始めた。

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