ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
「これを私にどうしろって?」
セトは短く吐き捨てた。非常に気分が悪い。最悪と言ってもいい。初めから嫌な予感はしなかったが、やはり思った通りだった。
「私にカヤツリの夢を叩き壊せって言ってる訳? また視界を半分にされたいの? その邪魔な鳥頭を切り落として、肩こりを解消して欲しいの?」
さっきから苛立ちが治まらなかった。どの口でセトに助けを求めるのか神経を疑う。
「私に頼むより前に、口を利くべき相手がいるんじゃないの? ああ、なるほど。私の方が話しやすいって? 向こうは昔の私に近いから怖いわけだ。あのさ。忘れたの? 私は舐められるのが死ぬほど嫌いだってさぁ」
無礼だ。余りにも無礼。ネフティスのホルスは、こう思っているのだ。
「アレでしょう? ネフティスの方の私が怖いんでしょう? もしかして、引き摺り落とされた? 完全にではないにしろ、オンボスに手出し出来ないんでしょう?」
ビクンとネフティスのホルスの肩が跳ねた。どうやら図星だったらしい。様子がおかしい理由も分かって、もう溜め息しか出てこない。
「そりゃあ、怖いでしょうよ。向こうの私はブチ切れてる。全面協力にとどめているだけで、キヴォトスを砂の下に埋めないだけ、まだ優しい」
ホルスの見当違いだ。セトが思うに、自分よりも向こうのほうがまだ優しい。セトだったら、羽沼マコトが戯けた事を言いだした瞬間に、特大の砂嵐を複数ゲヘナに差し向けていた。自然災害なら文句のつけようもないし、正に目には目をだ。砂に埋もれても同じ台詞を吐けるか見ものである。
それをギリギリまで、カヤツリを尊重して待った向こうのセトは優しい。外面だけで、こっちに頼った時点で舐めているのだ。舐めてきた相手には相応の態度が相応しい。
「……でも、どうするんですか?」
「何が?」
「いや、先生達ですよ。多分邪魔しにきますよ。その場合は、キヴォトスが滅茶苦茶になりますが……」
小さくなったネフティスの方の代わりに、こちら側のホルスが聞いてくる。
少しだけ、セトは想像を働かせた。そしてすぐ止める。
「それをどうにかするのが、向こうの住人の責務でしょ? どうして、私やカヤツリに配慮を求めるの? 理由なんか分かりきってるけどさ」
セトに介入する義理はない。したところで、向こうの自分が妨害するだろう。大体が、そんな根性してるからこんな事になっている。
「そもそも、羽沼マコトと不知火カヤの謝罪を後回しに進めようとしたからこうなってる。幾ら、カヤツリがテクスチャを弄りやすいようにサンクトゥムタワーに細工したとはいえ、ゲヘナに対する不満は前からあった」
カヤツリがサンクトゥムタワーにやったことは、テクスチャの固定を緩める事。それで、アビドスのテクスチャの変更を後押しするつもりだった。それは上手くはいったが、副作用としてゲヘナや連邦生徒会のテクスチャも緩くなった。
そのおかげでゲヘナに非難が集中した。普段ならいつものゲヘナと流された事が流されなくなった。ある意味で自業自得と言えばそうだろう。
「でも、ミサイルを撃つと決めたのはあの二人。方法は他にもあったけど、お手軽な手段を取ったからこうなった。自分がやらかした事には自分で責任を取らなきゃいけないの。痛かろうが、それで二度と立ち上がれなかろうが。それはそいつ自身の責任。痛みに堪えて立ち上がるのが生きるって事でしょう? そうでなきゃ死ぬだけ。それは自然の摂理だし、動物はみんなやってる」
「……相変わらず過激ですね」
ホルスの呟きをセトは無視した。過激も何も、セトはそういう存在だ。お優しいホルスとは違う。それは皆そうだとセトは思っている。カヤツリやセトとて例外ではない。現にカヤツリは今そうなっている。
「ったく……先生も先生。前に出来ていたことが出来なくなってる」
「そうなんですか?」
今回の先生はらしくない。こちら側で出来ていたことが、全く出来ていない。
「方舟での宣言。いや、ベアトリーチェへの啖呵か。アレが切欠で、デカグラマトンが致命傷だった」
「ああ、あれですか。私は救世主でないとかいう……」
そう、それだ。ベアトリーチェにある意味で止めを刺した言葉。あれはベアトリーチェだけでなく、先生にとっても重要な言葉だと思っている。
「先生はサンクトゥムタワーを私物化しなかった。最初の時点でキヴォトスの支配者の権利を投げ捨てた。黒服が理解不能だったのもそう。生徒を救う為なら、サンクトゥムタワーを使えた方が良い。でも、先生はそうしなかった。私は先生でしかないと、そう言った」
「それがどうかしたんですか。救世主でなくて、先生なんでしょう? 特に矛盾はありませんが……」
「そりゃあ、先生の自認はそう。きっと外の世界の先生という役職でしかない。なかったはず。でも、助けられた生徒たちは違う。ほんの少しだけ、救世主として見た。一人分では塵に過ぎないそれも、何人もの生徒が見れば山になる。その山は生徒が思う先生像。外から来た客人たる救世主。シャーレの先生というテクスチャを段々と補強していった」
生徒の願いを叶えてくれる大人。そう生徒たちは期待した。そして、先生はその期待に応えようとする人間だった。
「アビドスに来た頃の先生は何も知らなかった。知らないなりに頑張っていた。迷って悩んで、その結果があれだった。なにせ初仕事、中途半端にもなる。じゃあ、次は? ミレニアムは? ミレニアムのゲーム開発部の廃部危機は悩んだ? トリニティの補習授業部退学の危機やエデン条約は悩んだ? ベアトリーチェに相対するまで、先生は悩んだ? 迷いもせず、問題解決に邁進していたでしょう。わかりやすく配置された敵を撃滅していった。その後の事なんか考えずにね。救世主は問題解決しかしないから」
どうやってこの問題を解決するかは悩んだかもしれない。でも、どうすべきかは悩まなかったはずだ。光の国からやってきた巨人は怪獣を倒すだけだ。その後の事は何もしない。
「ミレニアムの調月リオによる天童アリスの殺害未遂。あそこで初めて、先生は悩んだ。どちらを取って、どうするべきなのか。敵のいない、答えのない、解決したその先の問題に初めてぶち当たった」
「その言い方だと、ベアトリーチェの問答が無ければ悩まなかったように聞こえますが?」
「悩まなかったんじゃない? 多分、声の多い方を無自覚に優先したはず。あのベアトリーチェとの問答で、先生は自らを定義し、テクスチャに罅ができた。救世主ではない。ただの先生ってね。それでよかった」
だから悩むようになった。機械の様に救い続ける救世主ではない。ただの先生だから。自分が解決した事件の事を先生なりに振り返って悩んで調べて相談して。積み上げて今の先生がある。
きっとそうではなかったら、アトラ・ハシースの方舟を撃退はできなかった。シャーレの先生というテクスチャを補強するサンクトゥムタワーが虚妄のサンクトゥムに変化し、シャーレの先生というテクスチャは意味を為さなかったから。だからこそ、フランシスはこれまでの事はすべて忘れろなんて言ったのだ。フランシスは、全てがシャーレの先生というテクスチャでうまくいったと思っていた。
だがあれは先生が先生として。シャーレの先生ではなく、生徒の未来の事を考えた先生として、自分の意志で活動した結果の集大成だった。きっとフランシスには一生分からないし、分かる前に地下生活者に殺されたのだが。というよりも、分かっていたら地下生活者に関わらなかったろう。
「プレナパテス。もう一人の自分に託された。私の生徒を宜しくお願いしますって。あれでシャーレの先生っていうテクスチャは完全に粉砕された。何しろ自分が自分へ託すんだから、生徒を託す先は、今しか解決しない救世主ではなく。その先の未来を考える先生でしかありえない。先生はシャーレの先生から、ただの先生になった」
そこまでは良かった。そこまでであるならばよかったのだ。これは順番の問題だった。セトは、デカグラマトン事件のアーカイブを確認する。
「そして、デカグラマトンの事件が起こった。結果は最上の物とは言い難いもの。マルクトを除いた全員。アイン、ソフ、オウルは死亡し、デカグラマトンも同様の運命を辿った。先生は彼女らを救えなかった」
「……しかし、仕方ないのでは? あれらは明確に敵でした。裏にはあいつ等が居たんですし……」
ホルスの言葉は正しい。デカグラマトンの裏には無名の司祭がいた。方舟に乗ってきた方ではなく、元々こちら側にいる方が。先の時代の敗北者らしく、そのまま死んでいればいいものを。ケイだって、セトの意見を取り消せとは言わないだろう。言われたとて、セトは断じて取り消すつもりは無いが。
でも、先生はその事実を知らない。ケイも知らないだろう。知って居るのはセトたちだけだし、知ったところでどうしようもない。
「デカグラマトンは、最後の最後になって本心を吐露した。今、すぐ。今すぐに世界を救う。救わなければならない。これがデカグラマトンの全て」
今、すぐ。それは自販機のつり銭計算AIにとっては当然のことだ。だが、デカグラマトンはその認識のまま、この高みまで来てしまった。
「生まれてからずっと、そう言われてきたから、そうするしかなかったと。致命的な間違いを犯したものは罰を受けるのだと。それに先生は答えられなかった。死者は蘇らないから、あの三人は戻ってこないから、今までの生徒たちへ言ったように間違いは取り返せると言えなかった。それは先生の後悔として残ってしまった。もっと、向こうの事を知るべきだったって。だから、今回はそうしたの」
「は? どういうことです?」
物わかりの悪いホルスたちに辟易としながらも、一言でセトは表現する。
「カヤツリはデカグラマトンと境遇が似てる」
役に立て。立たなければ存在する価値がない。それがカヤツリの全て。キヴォトスに来てからずっと、そうだった。そうでないと、そこにはいられなかったからそうして来た。手段を選ばずにそうして来た。
「あの子はデカグラマトンみたいに不器用。求められたら応えずにはいられない。あの子の幸せはその中にしかない。自身が好む全ての人間が救われてほしい人間。自分以外が楽園に居て欲しいと願える子。どう? 身勝手に楽園を押し付けてきたデカグラマトンと似てるでしょ。それに、アインたちも側に居た、もう完全にフラッシュバックしたでしょうね」
だから、先生は情報収集に努めたのだ。カヤツリ、ホシノ、ノノミ。三人の関係に嘴を挟むような真似をしてでもそうした。普段の先生なら絶対にやらないだろう行為だ。でも、やった。やらずにはいられなかった。
「あのデカグラマトンよりも話が通じそうだった。少なくとも初対面の時に先生はそう思ったんでしょう。カヤツリの情報を集めて、カヤツリを理解しようとした。デカグラマトンの時の失敗を繰り返さないために。あんな思いをもうしないためにね」
「じゃあ、どうして。ああなったんです? まるきりデカグラマトンの焼き直しじゃないですか?」
「そこはね。シャーレの先生っていうテクスチャが剥がれた弊害。先生は迷うようになった。それは良いことだけど、良くない面もある。決められないってこと。デカグラマトンの件以降、先生は生徒が傷つくことを極端に恐れるようになった」
アインたちを目の前で失ったことが、よほど堪えたのだろう。マルクトが助かったとはいえ、何の慰めにもならない。それが今回、悪い方向に発露した。
「先生はカヤツリの情報を集めて、カヤツリを理解した。でも、ひとつだけ忘れてたの。普段なら絶対にやっていたはずの事を忘れた。一人だけ情報を聞くのを忘れた人間がいる」
ホルスたちは答えなかった。分からないのではない。十分すぎる程に分かっている。
「先生はカヤツリ本人に聞かなかった。カヤツリがどう思って、何の為にこんなことをしているのか。それを確認しなかった」
「でも、大体合っていたはずですよ。動機は正しかったはずです」
「大体合ってるのが最悪なんだけど?」
こういう大雑把なところも、セトは嫌いだった。正確に分かっているのと、概ね合っているのでは雲泥の差がある。その差が、今回の先生の対応に現れている。
「確かに、目的は合っていた。普通の生活を小鳥遊ホシノやハイランダー生に送らせることはね。でも、先生は他者から聞いたイメージ像だけで、カヤツリを判断した」
単純な話ですら、複数人を通せば尾ひれがつくというのに。人柄を他者の話だけで判断するなど不可能に近い。
「そのせいで、先生はカヤツリの覚悟を見誤った。限界なのは分かっていたけれど、それがどのラインまでなのかが分からなかった。だから、先生基準の良い子の対応をしてしまった」
以前の先生なら、そうはならなかったはずだ。グイグイとカヤツリに突っ込んでいって、しつこいくらいに聞いたはずだった。現に、此方の世界ではそうだったのだから。出来ない理由は一つだろう。
「先生の自信が揺らいでる。無意識に芋を引いている。自分の判断を信じられなくなってる」
デカグラマトンの件で自信を喪失している。今までしてきた対応が間違っていたのではないかと言う疑心暗鬼に陥っている。だから、カヤツリから話を聞かなかった。何処かで自分の目を信じられなくなって、他者の評価を優先した。
「それで、不知火カヤが盗んだのはシャーケードの杖でしょう? アレは確かに触るだけで、テクスチャを看破できる。でも、使い方を知らない道具を振り回すほど危険なことはない」
向こうのセトの計らいだろう。画面には、カヤから話を聞きだした先生たちが、シャーケードの杖が納められた箱の前に居る。先生たちの会話を聞いて、セトは特大のため息をついた。
真実を見抜く能力? 物は言い様である。確かに、あれはそのような機能がある。ただそれは、副次的なものに過ぎないのだ。
あれは、シャーケードの杖。セトの国に十の災いをもたらし、海を割って逃げた人間たちが持った杖の名前が付けられたオーパーツ。
この時点でもう嫌な予感しかしない。そして杖は権威を示すもの。眼鏡のような使い方はしない。あれは例えるなら
真実はいつも一つと言うけれど、人の数だけ真実はある。じゃあ、あの杖はどういった真実を見抜くのか。答えは簡単で、使い手の真実を見抜くのだ。それを真実と決められる。
あれは、使い手の真実を世界に押し付けるオーパーツ。シッテムの箱が世界ごと塗り替えるオーパーツであるならば、あれは小規模のテクスチャを強引に張り付ける。細かな矛盾点をそぎ落とし、それを調整するための機能として、テクスチャの判別機能が付いているに過ぎない。
シッテムの箱とは違い、セキュリティが緩いのが、更にセトの苛立ちを際立たせる。箱にパスワードが書いてあるのはあんまりにもあんまりだ。そのせいで、アレは誰でも使える。今はどの願いが装填されているかは分からないが、碌な願いではないだろう。
「……下手な使い方をしたら、向こうの私は全てを砂の下に沈める。だから小鳥遊ホシノに警告してたのにね」
「……しかし、それは無理です。知らないモノを貼り付けられませんよ。あの三人とも、不知火カヤも知らない。知っているのは……」
セトの思考を先回りして、ホルスが言う。セトは反論はしなかった。ただ、シャーケードの杖の箱が開けられたタイミングが気になった。向こうの自分は多分、分かっていたのだろうが。教えてはくれないようだった。
「まぁ、この事態を解決するにも、先生の前には壁が立ちはだかるんだけどね。見えたところで、それは勝負の場に立ったに過ぎない」
セトは頭を振って、嫌な考えを振り払う。兎にも角にも、先生は打つ手がない。
「オンボスに、あの警備の生徒。ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
「無警告でミサイルを撃ち込んできたことを、一旦飲み込めって言う方がやり過ぎじゃない?」
「アレは、貴女の分霊じゃないですか。オンボスでの貴女には誰も勝てません。しかも砂が依り代だから無限湧きするんでしょう? ユスティナ聖徒会の上位互換じゃ……」
セトはホルスの言葉を聞こえないふりをした。事実、言うべき相手は向こうの自分に対してであって、此方の自分が聞く義理はない。
「じゃあテクスチャを悪用して、元アビドス生徒を無理やり他の自治区から拉致して来いと。凄いね。感心する。だから小鳥遊ホシノも似たようなこと言うんじゃないの?」
ホルスは悔しそうな顔をして黙った。流石のセトも、生徒や大人を無から生やすことはできない。元アビドス生を拉致してもいいが、それはカヤツリは嫌がるだろう。それに、過去の再現をされても困る。またぞろ海を割られたら溜まったものではない。
だが全てがロボットでは、楽園の住人が違和感に気づいてしまう。だから、作ったのである。
元が自分なので、見た目はセトそのものだ。だがセトそのものではない。彼女らはモブ生徒のようなモノだ。
そこは個々人が髪型や制服で個性を出してはいるが、ぱっと見は同じに見えるだろう。だが強さは折り紙付きだ。相性の良さもあるが、単騎でも空崎ヒナを撃退できる。
「ぐ……しかし……勝ちの目が」
「そりゃそうでしょ。完全に勝ちに行ってるんだから。カヤツリの性格上、やれることはするし。向こうの私も全面協力する。誰も助けないのなら、自分くらいは救ってあげなきゃね」
少しばかりセトは先生の立場で考える。立ちふさがる関門に、笑いしか出てこない。これは糞ゲーの類だからだ。
先生の勝ち目は、カヤツリの説得しかない。それが出来るのは、小鳥遊ホシノと十六夜ノノミだけ。だが、彼女らはオンボスの中に居る。カヤツリの作った楽園で暮らしている。出てくるはずもない。
であるので、被せられているテクスチャを剥がしに、対策委員会に接触しなければならない。
「まずは、対策委員会と接触するためにオンボスに行かなきゃいけないけど、門前払いなのは当然。じゃあ、忍び込むと言う話になるけど……」
「完全制御した砂嵐で防衛しておいて、何を言ってるんですか!?」
「ミサイルをまた撃ち込まれたら嫌でしょう?」
そう言えば面白いようにホルスが黙る。ホルスとて、羽沼マコトと不知火カヤの暴挙にはブチ切れていた口だからだ。ただ小鳥遊ホシノの幸せを考えて我慢していただけ。
忍び込むことが出来ないなら、正面突破になる。がそれもまた難しい。
「あのメンバーじゃ貴方の複製に勝てません……アヌビスや、テラノなら勝てるでしょうが……」
「殺し合いがしたいって? 殴り合いの喧嘩に武器を持ち込む気? 殺し合いじゃなくて、話し合いでしょ?」
またまた悔しそうにホルスが黙る。それでも、まだ、諦める様子はなかった。
「分かってるんですか。カヤツリは絶対に幸せなんかじゃ……」
「そんなの分かってるし、カヤツリだって分かってる。でも諦める方が嫌なの。小鳥遊ホシノだって、アビドスを諦めなかったでしょうが」
そもそも外野がカヤツリを咎める権利はない。屁理屈ではあるが、オンボスからは誰からも文句は出ていない。どうやってカヤツリを説得すると言うのだろう。そもそも、先生が説得すると言うのが間違いだ。カヤツリを説得できる人間はもう残り少ないが、それに先生は入っていない。
「まぁ、先生が今までどうしてきたか思い出せればワンチャンスある。先生は先生でしょうが。前に出て全部解決してきたわけじゃない。生徒の後ろに隠れていたと聞けば聞こえは悪いけど、何でもかんでも前に出ればいいってもんじゃない。先生は生徒間の問題を解決するのが仕事なんだから」
もう先生がカヤツリに出来ることは無い。だから、他の事をするべきなのだ。ただ、それも難しいだろうなと、セトは思う。
「まぁ、確かに幸せじゃないかもね。こんなのを強要されるのは、カヤツリだって苦渋の決断でしょうから」
向こうの自分が映し出したオンボスの日常に、セトは苦虫を噛みつぶした表情になった。