ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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352話 遅すぎた奇跡

「今すぐ、説明して下さい」

 

 

 ユメとシロコが居なくなり、先生も明日の準備のために居ない。ここにはもう、テラノとケイ、二人だけだった。

 

 

「私は今、冷静さを欠こうとしています」

 

 

 部屋に剣呑さが増したケイの声が響く。でも、それを受けたテラノは至って平常だった。それは当然の反応だったからだ。

 

 

「いいよ。何から聞きたい?」

 

 

 そんな軽い調子で聞き返したので、ケイは少しカチンときたらしい。遠慮なく、本題から切り込んできた。

 

 

「……あれは、あのヘイローのない人間は誰なんですか。梔子ユメのはずがないでしょう……!」

 

 

 絶対にありえない。ケイが自信を持って、そう断定する。その理由は明らかだからだ。

 

 

「死者蘇生なんて、あり得ません! ここがアビドスで、幾らオシリスの神性とはいえ、絶対に不可能です!」

 

 

 ここキヴォトスでは、死者は蘇らない。ここは学園都市であって、神性と権能渦巻く世界ではないのだから。幾ら実績のある神性とはいえ、そのようなことはできようはずがない。唯一の例外として、名もなき神々の力を使えば可能ではある。だが、それはテクスチャを根本から張り直した場合の話だ。この場合は当てはまらなかった。

 

 

「そうだね。あれはユメ先輩じゃない」

 

 

 ポツリと、テラノは呟く。ケイの言うことは正しかった。

 

 

「あれは、未練だよ。それぞれの未練で形作られた、限りなく本物に近い偽物。ユメ先輩の記憶と人格を持った、ユメ先輩では無いモノ。遅すぎた奇跡って奴かな。ヘイローが無いのがその証拠。現象と言ってもいいかもしれない」

 

 

 あのユメは、文字通りの未練だ。誰かの記憶によって形作られた梔子ユメという記憶。形作られた記憶の通りに動き回る現象。それが、今回条件が偶々組み合わさったことで顕現したもの。 

 

 

「未練? この世界のあなたの未練ですか。小鳥遊ホシノの未練?」

 

「それだけじゃあ、ああはならないよ。そうだったなら、カヤツリの事なんか口に出さないはずだし、あそこまで完成度は高くない筈だからね」

 

 

 そうであるなら、あそこまでの出来ではない。ただただ、ホシノから見ただけの、優しいユメが出てくるはずだった。ああまで、厳しい事も言う生前のユメにそっくりなものが出てはこない。なら、それだけではないと言うことだ。

 

 

「カヤツリの未練だよ。カヤツリとこの世界の私の未練。それと、あともう一人の。それが、あのユメ先輩の正体」

 

 

 ユメを一番知っているだろう三人の認識から生まれた幻影だ。お互いに足りないところが補完された結果が、あのユメだった。

 

 

「……しかし、なぜ今になって? シャーケードの杖は起動していませんよ」

 

 

 シャーケードの杖が出てくるのは当然だった。そのような事態を引き起こせるのは、あのオーパーツくらいだろう。けれど、テラノは別の要因があるとみていた。

 

 

「それは、あんまり関係がないんじゃないかな。シャーケードの杖がしっかり起動したなら、あんな記憶が歯抜けの状態じゃないはずだよ」

 

 

 シャーケードの杖は、あんな雑な仕事はしない。起動したが最後、あんな問答も無く、あのユメは自らを梔子ユメだと認識しただろう。周りの人間もだ。でも、あのユメはそうではなかった。

 

 

「最初に覚えていたのは、カヤツリに会うこと。これは、誰の願いだと思う?」

 

「……兎馬カヤツリと小鳥遊ホシノでしょう? さっき、自分で言いましたよ」

 

「一部分は合ってるね。カヤツリはきっと、ユメ先輩に会いたいだろうから。この世界の私も、カヤツリと話して欲しいはず。そして先生も、そう願ったんじゃないかな」

 

 

 ケイが、片眉を訝しげに上げた。でも、まだ何も言わない。

 

 

「先生は困ってたよね。シャーケードの杖を開けた時に、どこかで思ってたんじゃない? カヤツリと話せる人が欲しいってね」

 

「……なるほど、先生によって願いは装填されはしたものの、発射はされなかった。だが多少の影響はあり、土壌が整えられたということですか。仮説としてはありですね」

 

「私がユメ先輩と言って初めて。あのユメ先輩はユメ先輩になった。私に会ってから、記憶を取り戻し始めた。つまり、最初はユメ先輩というガワだけが用意されてたんだろうね。それもとっても薄くて儚いやつが」

 

 

 ああと、ケイが手を叩いた。

 

 

「だから、誰も認識できなかったと? 存在が薄く、物理法則の影響を受けない。だから飲まず食わずで砂漠を徒歩で超え、厳重なはずのオンボスの警備をすり抜けられた。シャーケードの杖の影響下にあり、テクスチャを看破できる先生と、それらの存在を知っている私とシロコさん。そして、その眼を持つあなただけが見えた」

 

「そう。それで私がお墨付きをあげた訳だよ。あなたは梔子ユメだって。そうじゃなくても、ここに来た時点でそうなっただろうけどね」

 

 

 そうすれば、あとはトントン拍子に世界の方が合わせてくれる。これが梔子ユメであるのなら、梔子ユメが知るべきことを知っていなければおかしい。だから、あの段階で知らなければならない知識があのユメに流し込まれた。

 

 

「けれど、分かってるんですか?」

 

「何が?」

 

 

 また平常の様子で返すが、ケイは今度は心配そうな顔だった。本当にテラノの事を心配しているらしい。

 

 

「これから、先生たちはテクスチャを剥がしに行くんでしょう? そうなったら……」

 

「そうだね。あのユメ先輩は消える。今はオンボスっていうテクスチャが掛かってるから、こうなってるんだもの。ある意味奇跡なんだよ」

 

 

 流石のシャーケードの杖とはいえ、待機状態でテクスチャの編集は不可能だ。せいぜい、テクスチャが変動しやすくなる程度の効果しか見込めない。なら、なぜ。ユメがここに出現できたのか。その理由は一つだけ。オンボスというテクスチャが掛かっているせいだった。ユメが死んだのは遭難したから。その原因はホシノとケンカしたから。だが、そもそもの原因はアビドスが衰退していたからだ。

 

 アビドスが衰退していた。それがそもそもの原因であるのなら、オンボスになった今はどうだろうか。その答えとしては、ユメが遭難したという原因がそっくり消失することになる。

 

 ユメの死という事実は変えられないが、その死という過程と結果を極限まで隠ぺいすることが出来ている。世界は今、騙されてくれているに過ぎない。その覆いを取ってしまえば、ユメの死は確定する。テクスチャをはがした瞬間。または、もう一つの条件を満たした瞬間に、あのユメの存在は消えてなくなるだろう。

 

 

「なのに、先生を手伝うんですか?」

 

 

 ケイはホシノの真意を探ろうとしている。それが目で分かった。

 

 

「分かってるんですか? それは」

 

「そうだね。もう一度ユメ先輩を殺すってことだよ。厳密には違うけど、それくらい分かってる」

 

「なら、どうして……!」

 

 

 ケイの目が理解できない物を見る目に変わった。それを承知で、テラノは小さく呟いた。

 

 

「私がやらなかったら、誰がやると思う? カヤツリだよ。カヤツリがやるんだよ。それだけは見過ごせないよ。そんなことになったら、カヤツリが本当に壊れちゃう。誰かさんの思惑通りにね?」

 

 

 カヤツリがユメを殺す。それを聞いた瞬間。ケイが狼狽えた。

 

 

「理解できません。だって、兎馬カヤツリの目的はテクスチャの維持でしょう!? それはあの梔子ユメを維持する行為に他なりません! それがどうして殺す殺さないの話になるんですか!? それじゃあ、まるで……!」

 

「セトみたいって? そうだよ。病室でも言ったけど、カヤツリは限界なの。あの警備員をシロコちゃんの手前コピーって言ったけどね。本当にコピーなわけないでしょう!? 無いものは無いんだよ! だから、ある所から持ってきたの! カヤツリは自分をバラバラにしてるんだよ!」

 

 

 当然だ。大人はともかくとしても、生徒は神性なのだから、新規の参加者が居ない以上。他から持ってくるしかない。だから、カヤツリはそうしたのだ。自分をバラバラにした。オンボスの維持に必要ないもの以外は切り捨てた。警備員と、オンボスの運営をするカミガヤと、対策委員会のケアをする梔子ユメの偽物を生成した。

 

 警備員や組織運営に人の情は要るだろうか? 答えは必要ないだ。カヤツリは最後までそうした結果、舐められて、裏切られたのだから。だから、外敵への容赦は期待できない。するつもりもないだろう。

 

 

「ユメ先輩は存在するだけで、オンボスの根幹を揺るがすんだよ。なんたって、今のユメ先輩のいるところがアビドスなんだからね! オンボスに意思を持って侵入した時点で被せたテクスチャはめちゃくちゃになる。そうなったら、カヤツリは動くよ。きっとまだ残ってるものを切り捨ててでも、ユメ先輩を殺す。だって本物じゃあないからね。本物は自分のせいで死んだと思ってるんだから! そんなカヤツリに、オンボスとユメ先輩を天秤に掛けさせるの? そんなの、酷いよ。ひどすぎるんだよ……!」

 

 

 それがテラノが全面協力することにした理由。あまりにもカヤツリに対して容赦がなさすぎるからだ。腹立たしいことに、テラノの計画上ネックだった部分は、ユメによって解決していた。

 

 

「ユメ先輩のおかげで、先生は本質を見つめなおせた。先生たれとして動くんじゃなくて、生徒のために動けるようになった。ユメ先輩がいるなら、そこはアビドス自治区。オンボス自治区を警備する警備員はそこを認識できない。だから、カヤツリに気づかれずに、対策委員会の所まで行ける」

 

「ですが、対策委員会を開放すれば、さすがに露見しますよ。そこからどうするんですか? オンボス内で、砂漠の、しかも守護者のセトを倒す? いくらあなたがホルスとはいえ、難しいです。梔子ユメの特性。存在する場所がアビドスという特性を利用しても、自力が違い過ぎます!」

 

「カヤツリとは、戦わないよ。出来るだけね」

 

「戦わない? 正気ですか!?」

 

 

 食って掛かるケイに、テラノは用意していた作戦を披露することにした。まずは前提からだろうと、テラノは重い口を開いた。

 

 

「カヤツリがここまでなったのは、あの救えない二人のせい。でも、そもそもの原因は何だと思う? アビドスを救わなくちゃいけないと。対策委員会を救わなくちゃいけないと。あそこまで一人で頑張り続ける理由は何だと思う? 答えはね。この世界の私のせいなんだよ」

 

 

 テラノの世界のカヤツリと、この世界のカヤツリはまるきり違う。この世界のカヤツリは、本当に人の話を聞こうとしない。聞いても無駄だと思っているし、人は損得でしか動かないと思っている。全部を一人でやろうとしている。その理由なんか、一つしかないのだ。

 

 

「この世界の私が、カヤツリを拒絶して追い出した。だからカヤツリは一人でやるの。カヤツリが頼るべき人間がカヤツリを拒絶して、それを今の今まで訂正もしないんだよ。ただ、俯いているだけ。あれが、ただの八つ当たりだったんだって言い訳しなかった。そんなんじゃ、カヤツリは分からないんだよ。この世界の私を信じられないから、こんなことになった」

 

 

 それが、カヤツリがここまで暴走した理由。ホシノの話を聞かないで強行した理由だ。だから、それを解いてやればいいのだ。それをあの羽沼マコトとかいうどうしようも無い奴が利用したせいで、その思い込みはもっと悪化したが、今ならどうにでもなる。

 

 

「この世界の私の言うことは聞かないと思う。拒絶されてると思ってるから。カヤツリを止めようと、嘘を言ってると思ってる。でも、ユメ先輩となら話を聞いてくれるはず。カヤツリからしても想定外の事態のはずだし、ユメ先輩が現れた以上、カヤツリもユメ先輩に会いたいんだからね。ユメ先輩の後に、この世界の私と話をさせる」

 

「先生はダメなんですか?」

 

「ユメ先輩が出て来なかったら、そうしたかもね。先生には先生の強みがあるから。先生にしか分からないカヤツリの苦しみについて話せる。でも、カヤツリの先生の心証は最悪だよ。話せるなら御の字かな」

 

「だから、梔子ユメを水族館に行かせたんですか?」

 

 

 うへぇと、テラノは舌を巻いた。本当はケイは全部分かって聞いているような気さえしてくる。

 

 

「そうだね。一つは、あのユメ先輩のために行かせたんだよ。自認は大事だからね」

 

「……十四。いえ、ここと、水族館で、あと十一箇所ですか? そこを回れば、記憶を徐々に取り戻すと。十四分割された記憶の欠片を拾う旅ですか」

 

「やっぱり分かってるじゃない。そうだよ。この世界の私とカヤツリとユメ先輩。三人それぞれの思い出の場所。そして、一つは絶対に見つからないから、十二じゃなくて十一なんだよ」

 

 

 だから、本物に近い偽物なのだ。あのユメ先輩は決して本物ではない。幾ら、本物に近づこうと、偽物は偽物のままだ。死者は決して蘇らない。ただ、本物に近づくことは出来る。

 

 テラノとてあのユメが嫌いな訳では無い。むしろ好ましく思っている。だから、あのユメの願いを叶えようとお膳立てしている。抱きつきに行かないのは、テラノにその資格がないが故だ。

 

 

「しかし、問題はありますよ」

 

 

 ケイが相変わらず言いにくそうに、口を開く。

 

 

「兎馬カヤツリをどうやって説得するんですか? 梔子ユメが先生に言ったことは正しいでしょう。彼は対策委員会やハイランダーに何も説明しなかった。だから、対策委員会とハイランダーがオンボスを否定すれば、考えを改めてくれるかもしれません。ですが、忘れていませんか?」

 

 

 どこか腹立たしそうに、けれど悲しそうに、顔を歪めてケイは言う。

 

 

「オンボスのテクスチャを剥がしたらどうなるか。あの考えなしの二人が流布したアビドスの悪評。それはどうにもできませんよ。それをどうにかするための強硬策がこれでしょう?」

 

「そこは心配しないで良いと思うけど?」

 

「頭がおかしくなったんですか!?」

 

 

 ケイは信じられないとばかりに大声を出した。

 

 

「起きた事実は変えられないんです! 悪評を流された事実も、反撃として列車砲を撃ち放った事実も変えられない! それをどうやって!」

 

「まずは、列車砲はどうにかなる。それはオンボスのテクスチャを展開した後だから、幾らでも調整が効く。オンボスのテクスチャが無くなれば、それ以降の事実の原因は有耶無耶になるの。主犯たるオンボスが無くなるんだからね。カヤツリには、カミガヤを捨てて貰って。全部カミガヤに押し付けちゃえばいいんじゃないかな」

 

 

 それでもケイは納得はしていなかった。そこは元プログラムのプライドと言う奴だろうか。細かい点を論ってくる。

 

 

「誰が列車砲を撃ったのかは些末事です! それは幾らでも誤魔化しが効きます! でも、悪い噂と言うのはどうしようもないんです! アビドスへの入学者など絶望的……」

 

「真面目ちゃんだね。本当にカヤツリみたいなことを言うよ」

 

「話を逸らさないで下さい!」

 

 

 ケイは怒り過ぎて、白い顔に赤が差していた。ちゃんと説明をしないと納得しないのが嫌でも分かる。仕方なく、テラノは説明をすることにした。

 

 説明と言っても、説明というのも烏滸がましい粗末な物だ。ただ説得力はあった。

 

 

「あのね。このキヴォトスの生徒の皆が皆、君やカヤツリみたいに真面目じゃないよ」

 

「はぁ!? 連邦生徒会が一自治区を危険だとして、攻撃を決行したんですよ!?」

 

「じゃあさ、想像してみてよ。今回はあの放送が流れた瞬間にオンボスのテクスチャが張られたけどさ。張られなかった場合、カヤツリが我慢したらどうなったか。君の場合はゲーム開発部だっけ? どんな反応をする?」

 

「大騒ぎするに決まってるでしょう! 誰だってそうです! そうに決まってます!」

 

 

 ケイは断言した。それは誰だって同じ答えを返すだろう。その点はテラノも同意見だ。だがその先は違う。

 

 

「そう。最初は大騒ぎする。クロノスは脚色して流すだろうから。そしてその次は、先生があの二人を捕まえるわけ。あの二人がどんな言い訳をしようと、あの二人が企んだことは周知するだろうね。そしたらどうなるか?」

 

「決まっているでしょう! 信じるわけがありません! 先生がもみ消したと思うでしょう! アビドスへの心象は悪化したまま──」

 

「そこが真面目ちゃんだって言ってるんだよ」

 

 

 テラノはため息をついた。

 

 

「そうだね。あの時点ではテクスチャがカヤツリによって緩んでいた。だから、あの時点での悪評は、アビドスのテクスチャをアビドスのままに貼り換えようとするカヤツリにとっては、決して許せないモノだった。だけどね、それはカヤツリが諦めなかった場合だよ。私が言ったのは、カヤツリがテクスチャの貼り換えを諦めた場合の話。借金まみれの学園と言うアビドスのイメージを変える事を諦めた場合」

 

「変わりませんよ!」

 

「いいや。変わるよ。アビドスのイメージなんて大して変わりゃしないよ。大騒ぎするのは最初だけ。人はね? 大して他人に興味は無いんだよ。一旦は大騒ぎするかもね。でもすぐに飽きるんだよ。それが自分に被害が無いともなれば猶更ね?」

 

 

 テラノは断言した。それは、これまでのアビドスがずっと証明してきたことだ。だれもアビドスを助けはしなかった。何故なら関係ないからだ。助けのようなモノを伸ばしたのはゲヘナだけだ。それはどうしてか。自分に得があるからだ。そう、カヤツリの知識が教えてくれていた。

 

 

「納得できてないみたいだけど。じゃあ、逆に聞こうか? 君はアビドスに興味なんか無かったでしょう? サンクトゥムタワーの襲撃もさ。今回は名もなき神々の力が使われたから出張って来ただけ。終われば君はミレニアムに帰る。それで私たちとはお別れ。この経験は君の楽しい日々の中で埋没して、何時か忘れる。君がそうなのに、他がそうじゃないって。どうして断言できるの?」

 

「それは……」

 

「エデン条約のミサイル。アレは最初こそ大騒ぎだったけど、直ぐに皆が忘れた。アリウスから飛んできたのは明白だったのに。誰もアリウスを潰せだとか。そう言った話にはならなかった。ベアトリーチェの事も公表してないのにね」

 

 

 あれこそ騒ぎ立てなければいけない話だ。何しろ、トリニティとゲヘナ両校の生徒に甚大な被害が出た。

 

 

「後なんだっけ。聖園ミカへの誹謗中傷かつ苛め。あれだってそう。苛めに加担したのは聖園ミカのクーデターの煽りを受けたパテル派が主だった。後は、面白そうだとか、誘われた生徒だけ。他トリニティの他の生徒は知らんぷりしてた。だって、関係ないから」

 

 

 ケイは微妙な反応だった。勢い余って言ってしまったが、これはケイが知らない事実だった。仕方なく、知っていそうなものを論う。

 

 

「あの方舟の事件だってそう。あれは全員の危機だったから結束出来た。先生がいない対策会議なんか酷いものだったじゃない。それで終わったら皆がどうでもいいの。関係が無いからね。その日々の話題作りに消費されて終わり」

 

 

 テラノが事実を並び立てると、とうとうケイは黙りこくってしまった。

 

 

「君は真面目だよ。カヤツリと同じく、大人の論理が分かってる。きっと生徒会組織の人間はそうなんだろうね。だからこそ、その生徒には先生が話をすればいいの。きっと信じてくれるよ。何しろ、連邦生徒会とゲヘナの信用は元々ないしね。だからこその不知火カヤの強硬手段だったんだろうし……」

 

 

 それをカヤツリは飲み込めなかった。正確には飲み込もうとしたところを、羽沼マコトに逆鱗を踏みにじられた所為だが。

 

 不知火カヤと羽沼マコト。あの二人はそれらしい報いは受けている。超人足らんとして、恐怖で人を従わせようとした不知火カヤは、気が触れた病人扱いだ。何を言っても相手にされず、憐れまれるだけ。超人どころか病人だ。

 

 羽沼マコトは、強くあろうとして、逆に自身の弱さを露呈しただけだ。それを未だに理解はしていないようだが、そこは先生がいずれ突き付けるだろう。それでも変わらないのなら、後輩たちも本当に愛想を尽かし、追い出すだろう。まるで、かつての雷帝のように。

 

 このキヴォトスにおいては悪意の有無に重きが置かれる。その点では二人は極悪人に相応しい。テラノの心はまるで痛まないし、これ以上の思考を割きたくなかった。

 

 

「それよりも、私も君には聞きたいことがあるんだ」

 

 

 テクスチャを剥がせばどうなるか。それはこれからの努力次第だ。まだ結果が決まってもいないものをああだこうだと言うのはテラノは好きではない。話すべきことは、まだ他にもあった。

 

 

「君にはアイツら。無名の司祭について聞きたいんだよね」

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